説明

海上船舶への搭乗抑止

海上船舶搭載用のウォータジェット抑止装置(100)が描かれており、この装置は船舶上の水供給システムから被圧水を受け取る液体取入口と、液体排出口と、複数N個のウォータジェットノズル(120)を備えたノズルヘッド(110)とを有する液体分配室とを備える。このノズルヘッド(110)は前記液体分配室(170)に対して回転可能に搭載され、前記液体排出口を経由して前記被圧水を受け取り前記ウォータジェットノズル(120)を経由して前記水をウォータジェットとして排出するように配置され、前記複数のウォータジェットノズルはノズルヘッド(110)の回転軸の周りに分配され、前記液体分配室(170)に対して前記ノズルヘッド(110)の回転を駆動させる駆動機構とを備える。前記液体排出口は、前記ノズルヘッドがその回転軸周囲を回転する各回転の一部のみの間で前記被圧水を各前記ウォータジェットノズルに分配するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海上船舶への搭乗抑止に関する。特に、本発明はウォータジェット抑止装置の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年および2009年、国際水域の広域で商業船に対する海賊の襲撃が先例にないほど増加した。これは主に、無法状態での赤貧により引き起こされたものである。国際海事局は、2008年および2009年の間に、293隻の船が襲撃され、49隻の船で889名の乗員が人質として捕らえられ、11名の乗員が殺害され、21名の乗員が死亡推定の行方不明と記録した。結果的には、4000万米国ドル以上が船の所有者によって支払われたと報告された。
【0003】
最も優れた海賊の襲撃戦術は15分未満で遂行される。軍艦が襲撃の正に近辺内にいない限り、軍艦の任務は観察および報告のうち一つになる。なぜなら、応答し待機中のヘリコプターを甲板から起動させるのに通常10〜15分要するからである。一旦海賊に船を奪われてしまったら、国際連合にはその船を取り戻す義務がない。一旦搭乗すると、海賊は搭乗員に危害を加えさえすればよく、その搭乗員は通常武装しておらず、どのような場合であっても通常は、個人の安全のために抵抗してはならないという指示下にある。一旦海賊が船に乗船し搭乗員を制圧したら、その船は武装した人質のもと(例えば)ソマリア海域に向けて経路変更される。そして、そうするや否や、船と搭乗員の解放のために一連の高額で長期に亘る交渉が始まる。
【0004】
海賊の襲撃に対し船を「強化」するために様々な方策を適用することが可能である。それらの方策として、船の外周に有刺またはかみそり鉄線を備えること、および船の周りの手すりまたはガンネルに耐火性水ホースを取り付けることが挙げられる。このように備えられた水ホースは無人式である。なぜなら、水ホースに要員された人が海賊の標的になりうるからである。水ホースは、一定の低圧の円弧状放水を給するが、決然とした海賊を運ぶ小さくて速い船に対し強力な抑止力を殆ど与えない。具体的には、これらの消防ホースは霧状ウォータジェットを生成するが、そのウォータジェットは接近する海賊を殆ど抑止しない。石油会社国際海事評議会(OCIMF)が発行した報告書”Piracy−The East Africa/Somalia Situation”には、海賊の襲撃への対応に関する提案事項が記されており、同提案事項の一つは限られた抑止としての無人式消防水ホースの使用である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第一の態様として、海上船舶搭載用ウォータジェット抑止装置が挙げられる。ウォータジェット抑止装置は、
船舶上の水供給システムから被圧水を受け取る液体取入口と、液体排出口とを有する液体分配室と、
複数のウォータジェットノズルを備えるノズルヘッドであって、ここでは、ノズルヘッドは液体分配室に対して回転可能に搭載され、液体排出口を経由して被圧水を受け取りウォータジェットノズルを経由してウォータジェットとして水を排出するように配置されており、複数のウォータジェットノズルはノズルヘッドの回転軸の周りに分配されているものと、
液体分配室に対してノズルヘッドの回転を駆動させる駆動機構とを備え、
液体排出口は、ノズルヘッドがその回転軸の周りを回転する各回転の一部のみの間で被圧水を各ウォータジェットノズルに分配するように配置されることを特徴とする。
【0006】
一定の円弧状放水を生成する固定式ホースと異なり、回転式ノズルヘッドを設置することで、ウォータジェットの分布が時間とともに変化する。これは、海賊にとって予期し回避することが非常に困難である。このようにして、効果的で非致死の抑止力が提供される。回転式ノズルヘッドはタンク洗浄機の分野で知られている。ユニットが内部に装備されたタンクの全ての内側表面を洗浄するべく、ウォータジェットを全方向に噴射するために、回転式ノズルヘッドはタンク洗浄機内に配置されている。この種類の回転式ノズルヘッドは効果的な抑止として使用するには適さない場合がある。なぜなら、(一定時間に亘り)全方向に水を噴射する場合があるからである。つまり、海賊に対して抑止効果を与えるのに有益でない方向に水が噴射されうる。更に、海上船舶の水供給システムには生成できる水圧に限界があり、無益なウォータジェットを形成することにより、抑止機能を奏するに十分に高圧な水を用いた有益なジェットを形成するために使用可能な圧力量を下げる可能性がある。これらの問題を克服するため、本件の技術ではノズルヘッドの回転周囲の一部だけの間で、ウォータジェットノズルに被圧水を供給する。該各回転の一部とは、連続する部分であっても連続しない部分であってもよい。いずれの場合も、ノズルヘッドが被圧水を噴射する該各回転の一部は全回転よりも小さい。これは、ノズルヘッドの回転軸周囲の一つまたは一つ以上の所定の円弧をウォータジェットノズルが通るときのみ、ウォータジェットに被圧水を供給することで達成される。ノズルヘッドの各回転の一部のみで被圧水をウォータジェットノズルに供給するこの技術は、被圧水が供給されて使用可能な水圧をより活用させる各ジェットの水圧を高めるように働く。
【0007】
該装置が船舶に搭載される場合、通常、所定の円弧は調整される。それにより、ウォータジェットは大まかには下側、水平、および/または外側方向に噴射される。その結果、衝撃を与える水の大部分は海賊が襲撃してくる領域を攻撃する。通常、ウォータジェットを水平線より上向きに噴射することは有益ではない。ノズルが実質的に連続する所定の円弧を通るにつれて、液体分配室からノズルに水が供給されると、液体排出口は同時に最大でX個の隣接したウォータジェットノズルに被圧水を分配するように配置されることができる。ここで、X<Nとなり、Nはノズルヘッドに備えられるウォータジェットノズルの数である。すなわち、ノズルの(全体よりもむしろ)一部のみが適宜、液体分配室から水を受け取る。
【0008】
液体分配室は略円筒部を備えることができ、その周囲を回転するようにノズルヘッドが配置される。この場合、液体排出口は分配室の円筒部の開口部として備えられる。また、ノズルヘッドの回転中に被圧水が開口部を通過するにつれて、各々の複数のウォータジェットノズルは液体分配室から被圧水を受け取る。この配置は機械的に強い構造を提供し、これにより、ノズルヘッドは分配室を囲み、分配室からノズル内に放射状に水圧が印加される。
【0009】
分配室の円筒部の開口部の円周角度範囲は、一般的には約90度と約180度の間であろう。角度が180度の場合、各々の装置は、船舶から離れて180度の円弧を射程範囲とする回転する一列の高衝撃多重ジェットを提供することができる。実際に選択される値は、装置の必要射程範囲と船舶の水供給システムの水圧にかかる性能に依存する。開口部の円周範囲がより大きいほど、装置から高圧ジェットを提供するために必要な装置からの全水圧が大きくなることがわかる。
【0010】
複数のウォータジェットノズルの各々は、ノズルヘッドが回転する平面から離れる方向に所定の角度で向く。これにより、装置自体が船舶に対して略水平方向に、ウォータジェットを船舶から離れる方向に噴射させながらノズルが回転する平面に対するノズルの所定の角度で搭載されることが可能になる。上記の所定の角度そのものは、船舶の大きさおよび種類、および装置が船舶上で設けられる場所および/または方向に応じて選ぶことができる。
【0011】
駆動機構にはいくつかの方法で動力供給することができる。複雑性を緩和するために、駆動機構には船舶上水供給システムからの被圧水によって動力供給されることが好ましい。代替的には、駆動機構には例えば電気モータまたは水圧配置によって動力供給されることができる。水に基づく装置を電気駆動装置と融合させることは、数々の工学的な困難につながるであろうことが理解される。この場合、水を動力源にした駆動機構が備えられる。その水を動力源にした駆動機構は、
ノズルヘッドが固定され、ノズルヘッドが駆動シャフトの回転によって駆動シャフトの軸の周りを回転する、駆動シャフトと、
例えばペルトン水車である水駆動タービンと、
タービンが回転軸周囲を回転するように被圧水をタービンに向けて配向させる液体配向素子と、
タービンの回転から駆動シャフトの回転を駆動させる駆動組立部とを備える。
【0012】
一実施形態では、タービンの回転軸は駆動シャフトの回転軸と平行でなく、駆動組立部はタービンの回転軸周囲から駆動シャフトの回転軸周囲に回転力を再配向するための角度駆動配置を備える直線状でない駆動組立部である。駆動組立部は、回転速度をノズルの適切な回転率まで下げ、駆動シャフトを駆動させるためのトルクを増やす減速ギアボックスを備えることが可能である。
【0013】
本実施形態はさらに、ウォータジェット抑止装置を水供給システムに接続する液体接続部と、水供給システムから液体接続部を経由して被圧水を受け取り、被圧水を液体分配室と駆動機構の液体配向素子とに供給する取入室とを備える。駆動組立部が動力をタービンから(典型的には分配室内に軸方向に設けられる)駆動シャフトに送るように、駆動組立部は取入室を仕切るように配置されている。
【0014】
他の実施形態では、タービンの回転軸は駆動シャフトの回転軸に実質的に平行で、タービンは駆動シャフトの回転軸を仕切るように位置している。この場合、駆動組立部は直線状の駆動組立部であり、減速ギアボックスを備えることが可能である。
【0015】
この実施形態では、ウォータジェット抑止装置を水供給システムに接続する液体接続部と、水供給システムから液体接続部を経由して被圧水を受け取り、液体分配室と駆動機構の液体配向素子とに被圧水を供給する取入室とを備える。また、タービン周囲の取入室から液体分配室に被圧水を供給する一つまたはそれ以上の液体移送路も備えられる。
【0016】
上述の実施形態のいずれかにおいて、液体配向素子は被圧水を取入室からタービンに供給する液体移送路を備える。
【0017】
高速ジェットを提供するために、複数のウォータジェットノズルの各々は、(層流を生成するための)整流器と、被圧水を細くて十分にまとまった水流に形成するための先細筒とを備える。
【0018】
一実施例において、5個のノズルが備えられ、被圧水が同時に供給される隣接するウォータジェットノズルの数はノズルヘッドの回転中に2個から3個の間で変化する。5個ノズル構造は、求められた領域で適切に噴射する能力を供することがわかる。特に、2個および3個のノズルが同時に用いられるとき、水圧を適正水準に保ったまま、比較的隙間のないパターンが装置の襲撃範囲内に提供される。
【0019】
全周抑止を提供するためには、海上船舶上に搭載されたウォータジェット抑止システムは、所定の最大範囲を有するパターンで複数の移動するウォータジェットを噴射させるように各々が操作可能な複数のウォータジェット抑止装置を含むことが想定される。各装置の最大範囲はノズルヘッドに対するノズルの角度に依存する。この場合、ウォータジェット抑止装置は海上船舶上のある位置にある方向で搭載される。それにより、海上船舶の少なくとも一部の周囲に実質的に連続する抑止外周を形成するために、隣接するウォータジェット装置のジェットパターンの最大範囲が重なり合う。従って、複数のウォータジェット抑止装置を備えることで、船舶周囲にウォータジェットの高衝撃幕を備えることが可能である。
【0020】
通常ウォータジェット抑止装置にとって手動制御は適切ではない。よって、個々もしくはグループ単位のウォータジェット装置の起動および停止を独立制御するユーザの操作に応答する制御ユニットは船舶上の安全部に設けられる。制御ユニットは、空気圧式制御ユニットであってもよい。その場合、複数の空気駆動バルブと複数の空気供給線とが設けられる。空気駆動バルブは個々もしくはグループ単位のウォータジェット抑止装置を駆動させるため、空気供給線を解する圧縮空気の印加に応答する。複数の空気供給線は空気圧式制御ユニットから空気駆動バルブに制御ユニットでのユーザの操作に応答して圧縮空気を印加する。
【0021】
当然ながら、ここで記載されているシステムおよび装置は既存の船舶に適用可能である。そのため、本発明の更なる態様によると、海上船舶に複数のウォータジェット装置を搭載するステップを備える、ウォータジェット抑止を伴う海上船舶を提供する方法が提供される。各々のウォータジェット装置とは、所定の最大範囲を有するパターン内に複数の移動するウォータジェットを噴射させるように操作可能なものである。そこでは、ウォータジェット抑止装置は海上船舶上のある位置にある方向で搭載され、海上船舶の少なくとも一部の周囲に実質的に連続する抑止外周を形成するために重なるように隣接するウォータジェット装置のジェットパターンの最大範囲が提供される。
【0022】
ここに記載の技術は、いかなる種類の海上走行船舶、技術もしくは構造、VLCC(巨大タンカー)から巨大クルーザー、固定されたプラットフォームから補給船にも最適化もしくは適応化させることが可能である。このシステムは、海賊が容易に船舶を妨害し搭乗できる限られた操作性または低乾舷を有する船舶に特に適応する。
【0023】
本発明の様々な更なる要素および特徴は添付の請求項により定義される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】第1の実施形態に係るウォータジェット抑止装置の端面図概略的に示す。
【図1B】第1の実施形態に係るウォータジェット抑止装置の平面図を概略的に示す。
【図2】第1の実施形態のウォータジェット抑止装置の断面側面図を概略的に示す。
【図3A】第1の実施形態および第2の実施形態に共通のウォータジェット抑止装置の側面図および断面を概略的に示す。
【図3B】第1の実施形態および第2の実施形態に共通のウォータジェット抑止装置の側面図および断面を概略的に示す。
【図4】第2の実施形態のウォータジェット抑止装置の断面側面図を概略的に示す。
【図5】海上船舶上のウォータジェット抑止システムの一部としての複数のウォータジェット抑止装置の構成例を概略的に示す。
【図6A】図5に示すウォータジェット抑止システムのグループ毎の制御を概略的に示す。
【図6B】図5に示すウォータジェット抑止システムのグループ毎の制御を概略的に示す。
【図7】空気圧式制御配置を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態を添付の図面を参照しながら一例として説明する。同様の箇所には共通の参照番号が付与されている。
【0026】
図1Aを参照すると、第1の実施形態に係るウォータジェット抑止装置100の端面図が概略的に示されている。図1Aから見てとられるように、ウォータジェット抑止装置100は本体部105を備え、本体部105は適切な固定方法を用いて海上船舶に物理的に搭載されることが可能である。例えば、ウォータジェット抑止装置100は柵に固定するための搭載アームまたは甲板にボルトで留めるための搭載台を備えることができる。あるいは、ウォータジェット抑止装置(またはこの装置のための適切な搭載具)は、船舶を組み立てる際に船体に一体化させることができる。装置100は本体部105に対して回転するノズルヘッド110を備え、ノズルヘッド110はノズルヘッド110の回転軸から離れる方向にウォータジェットを噴射するための複数のノズル120(本実施例ではノズルは5つ)を備える。本実施例では、ノズル120はノズルヘッド110とは別に製造され、ノズルヘッド110にボルトでまたはリベットで留められる。このような構成のメリットは、一種類のノズルヘッドが様々な適用可能なノズルの構成(例えば、回転軸に対して異なる角度でノズルヘッドから突出するように形成された構成)のいずれかを備えることが可能になる点である。しかし当然のことながら、ノズル120はノズルヘッド110と一体的に形成することも可能である。いずれの場合も、ノズル120を介してノズルヘッド110の内部から外部に水が通ることを可能にするために、開口部は各ノズル120の基板直下のノズルヘッド110内に設けられる。
【0027】
ノズルヘッド110のケーシング105に対する回転は駆動機構によって駆動される。本実施形態では、ノズルヘッド110の回転を駆動させるために水駆動タービンが用いられる。より詳細には、本実施形態ではペルトン水車装置を用い、それは駆動筺体130内に収められる。ペルトン水車等のウォータタービンを用いる利点は、ウォータジェットの生成とノズルヘッドの回転との両方が同じ駆動源、つまり装置から受け取られる水圧によって駆動されうるということである。しかし当然のことながら、例えば電気モータまたは水圧配置を用いてノズルヘッドの回転を駆動することも可能であろう。曲線矢印108はノズルヘッド110の回転方向を示し、この場合では反時計回りである。図1Bから見てとれるように、このウォータジェット抑止装置100は、船舶の水供給システムに(より詳細には消火用水本体部に)直接的に接続できる水取入接続部(フランジ)140を備える。ノズル120は回転軸から外向きにかつ装置から離れるように突出していることがわかる。この装置を船舶に搭載することで、回転しているウォータジェットを船舶から外向きに、接近する海賊に向けて噴射させる。
【0028】
図2を参照すると、ウォータジェット抑止装置100の断面概略図が示されており、この装置を通過する被圧水の流れが矢印で描かれている。図2に示す断面図は、図1AのA−A線に沿っている。図2より、装置100の本体部105は船上の水供給システムから取入接続部140を経由して被圧水を受け取るための取入室160を備えることが見てとられる。取入室160に受け取られた水の大半は装置を通過してノズルヘッド110内の液体分配室170に到達する。円筒形状の内面を有するノズルヘッド110が液体分配室170の周りに密接した状態で液体分配室170の周りを回転できるように液体分配室170は円筒形状の外面を有している。液体分配室170はその外周部の周囲が切断された開口部(スロット)175を有し、水は開口部175を介しノズルヘッド110内のそれぞれの排出口を経由してノズル120に圧入される。
【0029】
取入室160に圧入される水の残りは、ペルトン水車135にある水圧で噴射させるために、パイプ138(ホースや他の形状の液体移送路でもよい)を経由して駆動筺体130に迂回される。ペルトン水車135に噴射される水の流れにより、ペルトン水車135は筺体130内にあるその軸の周りを回転する。ペルトン水車は駆動トレーン150に接続され、駆動トレーン150は減速ギアボックスを介してペルトン水車によって生成される回転力を伝達する。減速ギアボックスはノズルヘッド110の所望の回転速度に適合させるためにペルトン水車によって生成される回転速度を減速させ、ノズルヘッド110の回転を駆動させるためのトルクを増やす。また、駆動トレーン150は、ノズルヘッドと機械的に結合している駆動シャフト180を回転させるために、ペルトン水車135によって生成された回転力をノズルヘッド110の回転軸に垂直な回転軸方向からノズルヘッド110の回転軸に平行な回転軸方向(および、回転軸に一致する方向)に方向変換する90°ベベルギア配置155を介して、回転力を伝達する。
【0030】
図3Aはノズルヘッド110および液体分配室170の拡大図を示す。図2と同様に、このウォータジェット抑止装置内を通過する被圧水の水流の方向を矢印を用いて示す。特に、この方向矢印は、被圧水がこの装置の本体部から液体分配室170に入り、液体分配室内の開口部175を通過し、ノズルヘッド110の排出口117を通過し、ノズル120に入ることを示す。ノズル120は水流を乱流から層流に変えるための整流器125を備え、それによりノズル120から噴射するウォータジェットの干渉性が増加する。また、ノズル120は水を集束した細いウォータジェットにするための先細筒127を備え、それにより標的への衝撃におけるジェットの有効水圧が増加する。
【0031】
図3Bは、ノズルヘッド110、液体分配室170、駆動シャフト180の図3AのA−A線に沿った断面図を示す。ノズルヘッド110は5つの側面を有する五角形の外形を有するように見られ、各々の側面はノズル120の一つを有するように意図されている。液体分配室170の円形の外形に適合するように、ノズルヘッド110の内部の形状は円形である。ノズルヘッド110は五角形の各側面に排出口117a、117b、117c、117d、117eを有し、これらの排出口を介して水が各々のノズル120に流れることができる。この場合、液体分配室170は開口部(スロット)175を有するように見え、開口部は分配室の円形形状の周りを180°回る。液体分配室の固定ハブ内のスロットを中央線の下の完全180度分切ることで、中央線の下にある排出口117a、117b、117cには水流が発生する。中央線の上にある二つの排出口117dおよび117eは水流に対し遮断されているので、中央線より上にあるノズルはウォータジェットを噴射しない。ヘッドが液体分配室170に対して反時計回り(図3Bで曲線矢印で示されているように)に回転するので、中央線に向かって上がる排出口117cへの(および対応するノズルへの)水流が堰き止められる。しかし、排出口117eが中央線を越えて下向きに回転するにつれて、開口部175に届くと同時に水は排出口117eを介して(および対応するノズルに)流れ始める。この装置が作動している限りこの過程は継続する。当然ながら、同構成において、どの時点においても、回転周期の到達段階に応じて二つまたは三つのノズルが十分に稼働することができる。
【0032】
図4を参照すると、第2の実施形態のウォータジェット抑止装置が概略的に示されている。図4に示される装置内を通過する水流の方向が矢印で示される。図3に示される、ノズルヘッド110と液体分配室170との構造および機能は、上述の第1の実施形態および第2の実施形態の両方に共通することに留意されたい。図4には、ウォータジェット抑止装置200が示されている。ウォータジェット抑止装置200にはより簡易な駆動機構が用いられており、この駆動機構を使用可能にするために(第1の実施形態と比べると)いくつかの構造的な修正が加えられる。特に、ウォータジェット抑止装置200はペルトン水車235を備え、ペルトン水車235はノズルヘッド210の回転軸に平行な(本実施例では一致する)回転軸を有する。ノズルヘッド220上には複数のノズル210が搭載されている。このように、90°ベベルギアを必要としない線形駆動トレーンを設けることが可能なため、駆動トレーンの複雑性が減らされる。
【0033】
図4からわかるように、ノズルヘッド210の回転軸上に駆動トレーン250の減速ギアボックスを伴ってペルトン水車235を備えることにより、第1の実施形態で取入室160が備えられた位置にこれらの部品を備えることになる。これに応えるため、第2の実施形態の取入室260は接続部240を経由して受け取られる被圧水を液体分配室270に直接供給せず、代わりに被圧水を移送路265を経由して液体分配室270に供給する。移送路265は、ペルトン水車235と関連減速ギアボックスとを含むケーシング230一式の周りを走るように設けられる。第1の実施形態と同様に、ペルトン水車は取入室240からパイプまたはホース(図示せず)を経由して取り入れられる水流によって駆動され、減速ギアボックスを経由して駆動シャフト280の回転を駆動させるために方向付ける。駆動シャフトは、ノズルヘッド210の回転を発生させるためにノズルヘッド210と物理的に接続されている。第1の実施形態に関連して記述されるように、液体分配室に受け入れられた被圧水は、液体分配室270の壁に設けられた開口部275を介してノズル220に圧入される。
【0034】
当然ながら、大型船舶に搭載する場合、一つのウォータジェット抑止装置では十分な抑止力をもたらさない。従って、突破されない防御を備えるために、複数の同装置を船舶の周囲に搭載することができる。図5には、船舶上のウォータジェット抑止システム300の例が概略的に示される。ウォータジェット抑止システム300は、船舶の周囲に搭載された18個のウォータジェット抑止装置310a〜310sを備える。各装置のウォータジェットの射程範囲(海上での最大有効平面範囲)は装置310a〜310sから延びる直線で描かれている。各装置のウォータジェットの射程範囲は、機動性のある船舶が通り抜けうる隙間を残さないように隣接する装置各々のウォータジェットの射程範囲と重なっていることがわかる。当然のことながら、各々の装置はウォータジェットの移動パターンを形成するので、瞬間的にみると射程範囲は連続的ではない。しかし、一秒オーダの短い時間周期を通して計測した場合、パターンは完結しており、射程範囲は事実上連続的であろう。
【0035】
これらのウォータジェット抑止装置は複数のグループに分けられる。一つのグループは船舶の左舷側面の保護のために割り当てられ、一つのグループは船舶の右舷側面の保護のために割り当てられ、一つのグループは船舶の船首部分の保護のために割り当てられ、一つのグループは船舶の船尾部分の保護に割り当てられる。特に、右舷グループ320aは4個の抑止装置310a、310b、310c、310dを備え、船首グループ320bは5個の抑止装置310e、310f、310g、310h、310iを備え、左舷グループ320cは4個の抑止装置310j、310k、310l、310mを備え、船尾グループ320dは5個の抑止装置310n、310p、310q、310r、310sを備える。
【0036】
安全な中央部、例えば上部構造330内に備えられる安全な制御中枢部340から、各々のグループは他のグループとは独立して制御されうる。どこから海賊が接近してきているか、そしてどのグループの抑止装置を起動させるべきかを決定するため、外向きの視界を得るために船舶用の監視カメラが、抑止システムの操作者によって用いられ得る。図6Aおよび6Bは抑止装置のグループ毎の起動状態を示す。図6Aにおいて、海賊が船舶の左舷側に接近しようと決定した場合を想定し、海賊が左舷側に搭乗するのを抑止するために抑止装置の左舷グループ320cのみが起動中である、図5に示される船舶および抑止システムが示されている。海賊が、右舷側から船舶を襲撃するために船首周囲の左舷側からの周回を試みた場合、システムは図6Bに示される状態に切り替えられることが可能であり、それによりこの場合は船首グループ320bと右舷グループ320aとが同時に起動される。全装置を起動状態に常時保つことがより簡易になる一方で、実際には、水供給システムによって供給される水圧は、十分に高圧なウォータジェットを全装置から同時に生成するには不十分である。
【0037】
図7を参照すると、図5および図6で示される抑止システムに対する制御概略の一例が示される。図7に示される構成要素は、制御室/安全操作域402、甲板域404、船外406の間に分かれて配置される。図7の船外406には、便宜的に4個の抑止装置490a、490b、490c、490dのみが示されており、各々は船舶から外側に向いている。抑止装置490a、490b、490c、490dの各々は(甲板域上の)柔軟なホースと各Y接続部480a、480b、480c、480dを経由して甲板域404上の船舶消火本体部450に接続されている。これは、抑止装置を消火本体部に接続させながら消火本体部への消火アクセスを確保する。抑止装置490a、490b、490c、490dは各々、対応する空気圧バルブ470a、470b、470c、470dによって駆動される。空気圧バルブ470a、470b、470c、470dには、甲板域404を通って制御室/安全操作域402に到達するそれぞれの空気供給線440a、440b、440c、440dから供給される。制御室/安全操作域には押ボタン式空気圧制御板420が備えられており、船舶空気供給システムから抑止装置490a、490b、490c、490dの選択された一つ(またはそれ以上)への被圧縮空気の経路を選択的に定める。
【0038】
図7からわかる通り、船舶に「強化」処理が施される場合、各々の抑止装置は(例えば)固定補助アーム配置状態の船の側面に戦略的に位置される。このシステムは、一連のY接合および柔軟なホースを介して、火災本体部に結合されている。水圧と水流を最も効果的に使用するため、空気圧バルブ装置が用いられる。空気圧バルブ装置は船への搭乗を決定するために安全域から制御される。そして、各々の装置は、脅威にさらされた時点で最も効果的に衝撃を与え使用可能な水圧の使用をするために、一機、二機、三機、またはいかなる他のグループ毎でも稼働させるように制御されうる。
【0039】
上述の例では、5個のノズル式携帯型ウォータジェット装置が船の側面に搭載されており、既存の消火用水システムに接続されている。数個の装置は、好ましくは船の左舷および右舷両方の全長に渡り、間隔をもって平行に消火用水システムに接続されている。消火用水システムからの使用可能な水圧と適切な構造のノズルを用ることで、各々の装置は、時速55マイルで移動する10キログラムの塊が5メートル地点から衝突するのと同じ衝撃を有する、22メートルを超えるジェットの長さを達成する。ユニットが一つである場合は射程範囲が限定されるが、一連のユニットがジェットの軌道が重なるように船の周りに搭載されると、極めて船に搭乗し難くさせる高圧の壁が生成される。
【0040】
利用可能な水圧の最適使用に関する本技術の優位性は(海賊への抑止効果を与えるよりもむしろ)本装置を他の出願に適応させうることは理解されるであろう。ここでの他の出願においては、ジェット圧力を最大化させ、および/または被圧水を供給する給水の負担を最小化させるために、ウォータジェットを特定の領域に有利に集中させてもよい。
【0041】
ウォータジェット抑止装置の本体部、筐体、および内部構成要素は、いかなる適切な材料でも形成することができる。例えば、ステンレススチールは強く硬い構造を提供するために用いられ、または、適当な抗塩水プラスチック材料はより軽くて運搬の容易なユニットを提供するために用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上船舶搭載用のウォータジェット抑止装置であって、
船舶上の水供給システムから被圧水を受け取る液体取入口と、液体排出口とを有する液体分配室と、
複数のウォータジェットノズルを備え、前記液体分配室に対して回転可能に搭載され、前記液体排出口を経由して前記被圧水を受け取り前記ウォータジェットノズルを経由して前記水をウォータジェットとして排出するように配置されており、前記複数のウォータジェットノズルが回転軸の周りに分配されているノズルヘッドと、
前記液体分配室に対して前記ノズルヘッドの回転を駆動させる駆動機構とを備え、
前記液体排出口は、前記ノズルヘッドがその回転軸周囲を回転する各回転の一部のみの間で前記被圧水を各前記ウォータジェットノズルに分配するように配置される、
ウォータジェット抑止装置。
【請求項2】
前記ノズルヘッドはN個のノズルを備え、前記液体排出口は最大でX個の隣接するウォータジェットノズルに同時に前記被圧水を分配するように配置され、X<Yである、
請求項1に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項3】
前記複数のノズルの個数Nは5(N=5)であり、前記被圧水が同時に供給される隣接するウォータジェットノズルの数が前記ノズルヘッドの回転中に2から3の間で変わる、
請求項1または2に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項4】
前記液体分配室は、前記ノズルヘッドが周りを回転するように配置された略円筒部と、前記分配室の前記円筒部の開口部として設けられた前記液体排出口と、前記ノズルヘッドの回転中に前記被圧水が前記開口部を通過するにつれて前記液体分配室から前記被圧水を受け取る各々の前記複数のウォータジェットノズルとを備える、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項5】
前記分配室の前記円筒部の前記開口部の円周角度範囲は約90度と約180度との間である、
請求項4に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項6】
前記複数のウォータジェットノズルの各々は前記ノズルヘッドが回転する平面から離れる方向に所定の角度で向いており、前記所定の角度は前記海上船舶の寸法に依存して選択される、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項7】
前記駆動機構は前記船舶上の水供給システムからの被圧水によって動力供給される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項8】
前記駆動機構は、
前記ノズルヘッドが固定された駆動シャフトであって、その回転によって前記ノズルヘッドが前記駆動シャフトの軸の周りを回転するものと、
水駆動タービンと、
前記タービンがその回転軸周囲を回転するように前記被圧水を前記タービンに向けて配向させる液体配向素子と、
前記タービンの回転から前記駆動シャフトの回転を駆動させる駆動組立部と、
を備える請求項7に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項9】
前記タービンの回転軸は前記駆動シャフトの回転軸と平行でなく、前記駆動組立部は前記タービンの前記回転軸周囲から前記駆動シャフトの前記回転軸周囲に回転力を再配向するための角度駆動配置を備える直線状でない駆動組立部である、
請求項8に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項10】
前記ウォータジェット抑止装置を前記水供給システムに接続する液体接続部と、
前記水供給システムから前記液体接続部を経由して前記被圧水を受け取り、前記液体分配室と前記駆動機構の前記液体配向素子とに前記被圧水を供給する取入室とを備え、
前記駆動組立部は前記取入室を仕切る、
請求項9に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項11】
前記タービンの回転軸は前記駆動シャフトの回転軸に実質的に平行で、前記タービンは前記駆動シャフトの回転軸を仕切るように位置し、前記駆動組立部は直線状の駆動組立部である、
請求項8に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項12】
前記ウォータジェット抑止装置を前記水供給システムに接続する液体接続部と、
前記水供給システムから前記液体接続部を経由して前記被圧水を受け取り、前記液体分配室と前記駆動機構の前記液体配向素子とに前記被圧水を供給する取入室と、
前記タービン周囲の前記取入室から前記液体分配室に前記被圧水を供給する一つまたはそれ以上の液体移送路とを備える、
請求項11に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項13】
前記液体配向素子は前記被圧水を前記取入室から前記タービンに供給する液体移送路を備える、
請求項10または12に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項14】
前記複数のウォータジェットノズルの各々が、整流器と、前記被圧水を細くて十分にまとまった水流に形成するための先細筒とを備える、
請求項1〜13のいずれか一項に記載のウォータジェット抑止装置。
【請求項15】
海上船舶に搭載されるウォータジェット抑止システムであって、
請求項1〜14のいずれか一項に記載されたウォータジェット抑止装置を備え、該ウォータジェット抑止装置の各々は所定の最大範囲を有するパターン内で動く複数のウォータジェットを噴射させるように操作可能であり、
ウォータジェット抑止装置は、海上船舶の少なくとも一部の周囲に実質的に連続する抑止外周を形成するために、隣接するウォータジェット装置のジェットパターンの前記最大範囲が重なり合うような海上船舶上の位置と方向に搭載されている、
ウォータジェット抑止システム。
【請求項16】
ユーザの操作に応答して、前記ウォータジェット装置の起動および停止を個々にまたはグループ単位で独立に制御する制御ユニットを備える、
請求項15に記載のウォータジェット抑止システム。
【請求項17】
前記駆動ユニットが空気圧式制御ユニットであり、
圧縮空気の印加に応答して個々のまたはグループ単位のウォータジェット抑止装置を起動させる複数の空気駆動バルブと、
前記制御ユニットのユーザの操作に応答して前記空気圧式制御ユニットから前記空気駆動バルブに圧縮空気を印加するための複数の空気供給線とを備える、
請求項16に記載のウォータジェット抑止システム。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか一項に記載のウォータジェット装置であって、前記ウォータジェット装置の各々は所定の最大範囲を有するパターン内で動く複数のウォータジェットを噴射させるように操作可能であるものの複数を、海上船舶に搭載するステップを有し、
前記ウォータジェット抑止装置は、海上船舶の少なくとも一部の周囲に実質的に連続する抑止外周を形成するために、隣接するウォータジェット装置のジェットパターンの前記最大範囲が重なり合うような海上船舶上の位置と方向に搭載される、海上船舶にウォータジェット抑止を与える方法。
【請求項19】
添付の図面を基準に実質的に明細書に記載されたウォータジェット抑止装置。
【請求項20】
添付の図面を基準に実質的に明細書に記載されたように、ウォータジェット抑止を有する海上船舶を提供する方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−526699(P2012−526699A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510352(P2012−510352)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002913
【国際公開番号】WO2010/130966
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(511270767)デイシックマリーンリミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Dasic Marine Limited
【住所又は居所原語表記】Eagle Close, Chandlers Ford, Eastleigh, Hampshire Great Britain
【Fターム(参考)】