説明

海中では木材が数年で腐朽する性質を逆利用した間伐材活用魚礁

【課題】 海中に設置した間伐材の耐久年数は最大5年程度と短く、公共事業で間伐材魚礁を設置する際の大きなネックとなっている。この発明の最も重要な課題は、間伐材活用魚礁の魚礁としての機能持続年数及び耐用年数をコンクリート製魚礁と同等まで増大することにあり、かつ型枠や特殊なパネル等を使用せずに製作でき、規格未満の端材も有効活用でき、間伐材と硬化体の使用比率が調整可能な魚礁の考案にある。
【解決手段】 間伐材を井桁状に組み上げ、さらに間伐材を挿入した枠構造物の内部に硬化体を打設し、海底に設置する。数年後には間伐材が腐朽・消失し、内部にトンネル状空間が自然形成される。この空間は水産生物にとって好適な生息場となり、増殖機能が長期間保持され、課題の耐用年数が確保できる。頑強で安定性に優れ、材料を安価に調達でき、製作も容易であり、規格末満の端材も有効活用でき、井桁の段数、挿入本数などを変更することで材料の使用比率を増減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海中では木材が数年で腐朽する性質を逆利用した間伐材活用魚礁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くより我国では資源の有効活用の観点から、森林伐採に伴い産出される間伐材の有効利用が実践されてきており、近年は国においても、循環型社会形成の一環として、間伐材活用魚礁の事業を推進している。一方、間伐材を利用した魚礁の多くは、間伐材をどのような形状に組み立て魚礁機能を発揮させるか、労力とコスト削減を如何に実現するか、間伐材の流出を如何に防止するか、間伐材の耐久性を如何に向上させるかなどの点に、目が向けられたものであり、これらの例として、特許文献1〜7や、非特許文献1に関連技術が開示されている。
【特許文献1】 特開2002−262703号
【特許文献2】 特開2002−306018号
【特許文献3】 特開2004−344021号
【特許文献4】 特開2005−137267号
【特許文献5】 特開2007−185103号
【特許文献6】 特開2007−282604号
【特許文献7】 特開2008−29267号
【非特許文献1】 水産庁漁港漁場整備部著、「魚礁への間伐材利用の手引き」、平成18年3月発行、P1〜18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
海底に設置した間伐材の耐久年数は短く、わずか数年であることが知られている。上記の非特許文献1のP8には「海中に設置した木材は、早いものは2〜3年で崩壊に至り、長いものでは5年以上残存している。適切な取り付け方法や設置時期、設置場所を考慮することにより、木材の寿命を5年程度確保することが可能である。」と記載されている。つまり間伐材活用魚礁の耐用年数は、一般的認識として最大5年ということであり、このことが公共事業として間伐材活用魚礁を採択・設置する際、費用対効果の面で大きなネックとなっている。よって、この発明の最も重要な第1の課題は、魚礁としての機能持続年数及び耐用年数をコンクリート製魚礁と同等の30年まで増大することにある。
【0004】
上記の非特許文献1のP5には「公共事業においては、施設の利用・管理を円滑に行うための耐久性が求められるうえ、事業の経済合理性に関する評価が必要である。これらの条件に合致させるため、間伐材は耐久性のある鋼製やコンクリート製の魚礁と組み合わせて使用する。」と記載されている。つまり、魚礁の基質・材料として、間伐材、鋼材、コンクリートは、その有効性が認知されているところであるが、鋼材やコンクリートなどを用いて魚礁として成形し製品化する過程において、型枠や特殊なパネルなどを使用したのでは、制作費が過大となり経済合理性の確保がきわめて困難と考えられるので、この発明の第2の課題は、型枠や特殊なパネルなどを使用せずに、経済的かつ容易に製作できる間伐材活用魚礁の考案にある。
【0005】
間伐材は通常、直径15〜20cmの規格品が普及しているが、森林伐採の過程においては、この規格に満たない端材が大量に産出される。この発明では、第3の課題として、こうした端材も有効活用可能な間伐材活用魚礁の考案にある。
【0006】
また、様々な海域条件の漁場に設置するには、安定性確保の観点から、海域条件に応じて、大きさ、重量を柔軟に調整できる必要性がある。よって、この発明の第4の課題は、間伐材と、コンクリートや石炭灰硬化体などの硬化体の使用比率が調整可能な構造の間伐材活用魚礁の考案にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の請求項1に記載した間伐材活用魚礁は、上記の課題1を解決するため、海中では木材が最長5年程度で腐朽する性質を逆利用している。同じ長さに切り揃えた間伐材を、対辺どうしが平行、水平かつ同じ高さになるよう各段交互に井桁状に組み上げた枠構造物に、さらにこの井桁の枠の隔段毎に形成された隙間に、両端の一部が枠から突き出るよう複数本の間伐材を水平に挿入し、この状態の枠構造物の内部空間にコンクリートや石炭灰硬化体など硬化体を打設し、これを海底に魚礁として設置する。海底に設置してから数年後には、間伐材がバクテリアによる自然分解やフナクイムシ類の穿孔などにより腐朽・消失するが、硬化体打設部の内部の間伐材が存在していた部位には、トンネル状空間が自然形成される。トンネル状空間は複雑に入り込み、縦方向に連結し、かつ数カ所で側面に開口しているため潮通しもあるので、水産生物の好適な生息場となる。また間伐材が腐朽する間はその分解物や付着生物の死骸などが、施設周辺の底質に栄養分として堆積し、それを餌とする微小餌料生物が蝟集する。こうした好条件が組み合わさることにより、水産生物の増殖機能が長期間保持され、結果的に一般的なコンクリート製魚礁と同等の耐用年数が確保できる。
【0008】
また、上記の課題2を解決するため、この発明では、長さを揃えた間伐材を井桁状に組み上げ、隔段毎に形成される段と段の隙間には、それぞれ複数本の間伐材を水平に挿入し、間伐材の両端の一部は枠から突き出た枠構造物とし、その枠構造物の内部は注入する硬化体が漏れないよう、下面および側面に存在する隙間を、合板や端材、モルタルなどで目張りし、その後から井桁の内部空間に硬化体を打設する製作方法を請求項2に記載している。この間伐材活用魚礁の海底面への設置は、硬化体の強度を確認した後に実施する。井桁状に積み上げる方式は、間伐材処理の際に一般的に用いられている方法であり、この井桁に内部空間の形成と沈設時の強度確保のために複数本の間伐材を挿入し、内部空間がすべて埋まるように硬化体を打設する。間伐材の面の多くは硬化体と接着し一体型構造物となり、挿入した間伐材は交互に重なっているため頑強で安定性に優れ、さらに硬化体打設空間は内部・外部ともに間伐材からなるため材料を安価に調達でき、型枠や特殊なパネルを用いないので製作も容易である。
【0009】
また、上記の課題3を解決するため、水平方向に挿入する間伐材は、直径15cmに満たない端材も、複数本を番線で束ねて目的の大きさとして使用できる。このことにより、これまで活用困難であった端材も魚礁材料として有効活用できる。
【0010】
また、上記の課題4の解決については、この発明による間伐材活用魚礁が、静穏な内湾域から波の高い外海域まで、様々な幅広い海域条件の漁場に設置されることを想定しているため、安定性確保の観点から、海域条件に応じて、大きさ、重量を柔軟に調整できる必要性がある。この発明では井桁の段数、間伐材の直径、挿入本数を変更することで、硬化体の量を増減できるのでこの課題を容易に解決できる。
【発明の効果】
【0011】
これまでの間伐材を利用した魚礁は、木材の耐久年数が極端に短いことがネックとなり費用対効果が得られなかったが、この発明により、間伐材活用魚礁の公共事業としての普及が円滑に図れることになる。この発明においても、海中では間伐材が最長5年程度で腐朽し消失することは、これまでと同様であるが、消失空間を有効利用し、水産生物の生息空間とする技術思想により、一般的なコンクリート製魚礁と同等の増殖効果が長期間得られることになり、今後は、間伐材を魚礁として大量、容易かつ安価に活用できることになる。この様に、この発明は、循環型社会形成に寄与する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、同じ長さに切り揃えた間伐材(1a)を井桁状に組み上げて、さらに隙間に間伐材(1b)を追加挿入した後の枠構造物の斜視図である。同図に示すように、間伐材を井桁状に組み上げ、隔段毎に形成される段と段の隙間には、ほぼ同径の大きさの複数本の間伐材を挿入し、番線で束ね強度を補強している(1d)。井桁は構造上対辺どうしが対称形であるため、間伐材を水平に渡し易く、挿入も容易である。
【0013】
図2に図1の枠構造物の平面図を示すが、隙間に挿入した間伐材は交互に直交し中央部で接触し、重なっているため、上からみると挿入した間伐材が十文字状になり、4隅の内側には間伐材がない縦に貫通した部分が4箇所(2e)認められる。なお、井桁の組み立てに用いる間伐材は、全体的なバランスを保持するために、直径15〜20cmのほぼ同径の規格品の間伐材を用いる必要性があるが、隙間に挿入する間伐材は、規格に満たない端材数本を番線等により束ねたものを使用してもよい。また、井桁が交差する4箇所には強度を確保のために下部から上部まで鉄筋を通している(2c)。
【0014】
図3は、図1の枠構造物の内部にコンクリートを打設した後の間伐材活用魚礁の斜視図であり、図4はその平面図である。コンクリート打設の際は、注入コンクリートが外に漏れないよう、下面および側面に存在する隙間に合板や端材、モルタルなどを用いて事前に目張りする。また、海域への沈設の際に必要な吊鉄筋(3f)を埋設する。3fの埋設位置は前出の図2の2eの部位にあたる。さらに、この段階で間伐材及びコンクリートの使用量が予測できるので、使用木材の浮力、コンクリート重量、設置水深、波浪条件などに基づき安定計算を行い、井桁段数、挿入本数、間伐材の直径などの点について検討し、間伐材の使用量を調整する。
【0015】
図5は、海域に設置してから5年以上を経過し、間伐材が腐朽・消失した後の斜視図である。付着生物の状況等は海域により大小様々なので省略し、間伐材が完全に腐朽・消失した後のコンクリート部の外観を示している。同図に示されるように、コンクリート部の側面は間伐材の食い込みにより湾入している段と、挿入した間伐材が消失して形成された穴が存在する段が交互にみられる。この穴(5c、5d)の個々の直径は間伐材の規格よりみて15〜20cm程度となるが、内部で連結し潮通しも確保されているので、アワビ、サザエ、イセエビ、磯魚などの生息に適した空間となる。
【0016】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、この技術的思想に基づく各種の変形が可能である。井桁状の枠構造物の形状は、対象生物の習性に応じて、高さを自由に設定でき、コンクリートや石炭灰硬化体などの硬化体の打設を井桁の一定の高さまでにとどめることも可能である。例えば、アワビ、サザエ、海藻などのように、礁体の高さをあまり必要としない水産生物の場合は段数を少なくし、イセエビ、カサゴ、メバルなどのように、高さがあった方が有利な水産生物の場合は段数を多くすればより効果的である。またコンクリートに、石炭灰、貝殻、鉄分など水産動植物の生育に有効な素材や成分を混入することも可能である。さらに、海底面に設置する際に、上面から側面にかけてイカ産卵施設や魚篭などを装着することもできる。
【0017】
さらに、この発明の別の実施形態として、大型海藻が消失した磯焼け地帯の機能回復にも適用できる。この場合、本願発明の間伐材活用魚礁では、側面に間伐材の突出部が数多くあるので、これに母藻や海藻の種糸を装着すれば良い。この方式で漁場機能回復効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】 間伐材を井桁状に組み上げて隙間に間伐材を挿入した後の枠構造物の斜視図である。
【図2】 間伐材を井桁状に組み上げて隙間に間伐材を挿入した後の枠構造物の平面図である。
【図3】 枠構造物の内部にコンクリートを打設した後の間伐材活用魚礁の斜視図である。
【図4】 枠構造物の内部にコンクリートを打設した後の間伐材活用魚礁の平面図である。
【図5】 設置から数年後に間伐材が腐朽・消失した後の魚礁の斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1a 井桁状の枠構造物の骨格となる間伐材
1b 隙間に挿入した間伐材
1c 強度補強用の鉄筋
1d 挿入した間伐材を束ねた番線
2a 井桁状の枠構造物の骨格となる間伐材
2b 隙間に挿入した間伐材
2c 強度補強用の鉄筋
2d 挿入した間伐材を束ねた番線
2e 間伐材がなく縦に貫通した部分
3a 井桁状の枠構造物の骨格となる間伐材
3b 隙間に挿入した間伐材
3c 強度補強用の鉄筋
3d 挿入した間伐材を束ねた番線
3e 内部に打設されたコンクリート部
3f 吊鉄筋
4a 井桁状の枠構造物の骨格となる間伐材
4b 隙間に挿入した間伐材
4c 強度補強用の鉄筋
4d 挿入した間伐材を束ねた番線
4f 吊鉄筋
5a 間伐材が腐朽・消失した後のコンクリート部
5b 吊鉄筋
5c 間伐材が消失して自然形成されたトンネル状の内部空間
5d 間伐材が消失して自然形成されたトンネル状の内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
森林の伐採で発生した間伐材を有効利用した魚礁であって、
一定の長さの間伐材を対辺どうしが平行、水平かつ同じ高さになるよう各段交互に井桁状に組み上げた枠構造物と、
この井桁の枠の隔段毎に形成された隙間に、両端の一部が枠から突き出るよう水平に挿入された複数本の間伐材と、
井桁の内部空間に打設されたコンクリートや石炭灰硬化体などの硬化体とからなり、
かつこれらすべてが接着し一体型構造物となっている間伐材活用魚礁。
【請求項2】
請求項1に記載した間伐材活用魚礁を製作する方法であって、
森林の伐採で発生した間伐材を一定の長さに切り揃え、対辺どうしが平行、水平かつ同じ高さになるよう井桁状に組み上げ、
この井桁の枠の隔段毎に形成された隙間に、複数本の間伐材を両端の一部が枠から突き出るよう水平に挿入し、
井桁の内部空間の下面および側面に存在する隙間を目張りし、
その後から井桁の内部空間にコンクリートや石炭灰硬化体などの硬化体を打設して製作する方法。
【請求項3】
請求項1に記載した間伐材活用魚礁は、海中では木材が数年で腐朽・消失する性質を利用した魚礁であって、海底に設置してから数年後に間伐材がバクテリアによる自然分解やフナクイムシ類の穿孔などにより腐朽・消失した後においては、コンクリートや石炭灰硬化体などの硬化体打設部の内部の間伐材が存在していた部位に、トンネル状空間が自然形成され、そのトンネル状空間は縦に連結し、側面は数カ所で外部に開口しているため潮通しも確保されるので、水産生物の好適な生息空間となり、間伐材が消失した後でも、一般的なコンクリート製人工魚礁と同等の耐用年数と増殖効果が期待できる間伐材活用魚礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−75435(P2012−75435A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237973(P2010−237973)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(510282446)社団法人水産土木建設技術センター (2)
【Fターム(参考)】