説明

海島型複合繊維の製造方法

【課題】繊維径が均一な極細繊維が得られる海島型複合繊維を生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】易溶解性ポリマーを海成分、難溶解性ポリマーを島成分として海島型に複合した溶融ポリマーを紡糸口金から溶融吐出し、海島型複合繊維を製造する方法において、海:島の面積比率が40:60〜10:90、易溶解性ポリマーを5−ナトリウムスルホイソフタル酸を6〜12モル%および分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合したポリエチレンテレフタレート系ポリエステルとし、該複合繊維の繊維直径(R)、島成分の平均直径(r)、該複合繊維横断面の中心を通り互いに45度の角度毎に4本の直線を引いたときこの直線上にある島成分の間隔の平均値(S)、繊維外周に最も近い島成分と繊維外周との間隔(So)について特定の関係式を満足させ、引取り速度を2000〜5000m/minとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易溶解性ポリマーを海成分、難溶解性ポリマーを島成分とする海島型複合繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極細繊維の実用化においては、極細繊維の繊維径の均一性と生産性の向上が課題となっている。かかる超極細繊維の製造方法としては、海島型複合紡糸法、直接紡糸法、さらに最近注目を集めているエレクトロスピニングなどがある。このうち、直接紡糸法は細繊度化が難しいという問題があり、エレクトロスピニングは数十nmレベルの繊維径を持つ不織布を製造可能であるが、特許文献1に記載されているように繊維径のばらつきが大きく、強度が弱いために応用面で限界があり、製造方法も溶剤や高電圧を使用するなど、設備面の安全性や環境負荷の観点から問題がある。
【0003】
これに対して、海島型複合紡糸法では、例えば、海成分と島成分となるポリマーをチップ状態でブレンドして紡糸した繊維から海成分を抽出除去して超極細繊維を得る方法(例えば、特許文献2、3など)が知られており、かかる方法は従来ある装置で容易に製造できることから広く利用されている。しかし、この方法により得られた極細繊維は繊維径のばらつきが大きいという問題点がある。
【0004】
一方、繊維径の均一な超極細繊維を作成するためには、断面形状が海島型である複合繊維から1成分を溶解除去する方法が知られている。ここで重要なのは海ポリマーの溶解速度が速いことである。海成分ポリマーの溶解速度が遅いと繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した最外層にあった島成分が溶解されて、島成分の太さ斑などによる強度劣化が発生し、毛羽や染め斑が起こる。
【0005】
かかる問題に対して海成分ポリマーの溶解速度を早くするために、特許文献4では、8〜15mol%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸やテレフタル酸を特定の範囲で共重合したポリエチレンテレフタレートを1成分に用いた複合繊維が提案されている。しかしながら、上記従来技術に具体的に例示されている紡糸速度は1000〜1200m/min程度である。また、現実的に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を多く共重合したポリエチレンテレフタレートでは、高速紡糸性が悪くなり、生産性の向上につながらないといった問題点がある。
【0006】
【特許文献1】特開2004−68161号公報
【特許文献2】特開平3−113082号公報
【特許文献3】特開平4−126815号公報
【特許文献4】特公昭61−296120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を克服し、繊維径が均一な極細繊維が得られる海島型複合繊維を生産性よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の問題点を解決するために鋭意検討した結果、本発明に達した。すなわち、本発明によれば、易溶解性ポリマーを海成分、難溶解性ポリマーを島成分として海島型に複合した溶融ポリマーを紡糸口金から溶融吐出し、これを巻き取って海島型複合繊維を製造する方法において、海成分と島成分の重量比率が40:60〜10:90、海成分を構成する易溶解ポリマーが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を6〜12モル%および分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合したポリエチレンテレフタレートであり、かつ、該複合繊維の繊維直径(R)、該複合繊維横断面における島成分の平均直径(r)、および、該複合繊維横断面の中心を通り互いに45度の角度毎に4本の直線を引いたときこの直線上にある島成分の間隔の平均値(S)、および、繊維外周に最も近い島成分と繊維外周との間隔(So)が下記の関係式(I)〜(III)を満足しており、さらに引取り速度を2000〜5000m/minとすることを特徴とする海島型複合繊維の製造方法が提供される。
r/R≦0.05 (I)
S/R≦0.15 (II)
0.1≦So/S≦1.5 (III)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、海成分の溶解速度が速く、繊維径が均一な極細繊維が得られる海島型複合繊維を高紡糸速度で安定して生産性よく製造することができる。このため、生産性の向上のみならず省エネルギー化につながり、コストパフォーマンスや環境の面でも優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、易溶解性ポリマーを海成分、難溶解性ポリマーを島成分として海島型に複合した溶融ポリマーを複合紡糸口金から溶融吐出し、これを巻き取って海島型複合繊維を製造する方法である。
本発明において、易溶解性ポリマー、難溶解性ポリマーとは、アルカリ水溶液に対して溶解性の異なる2種類のポリマーにおいて、溶解性の高い方を難溶解性ポリマー、他方を溶解し易いほうを易溶解性ポリマーという。
【0011】
本発明においては、海島型複合繊維の海成分:島成分の重量比率を40:60〜10:90の範囲、好ましくは30:70〜15:85の範囲とする必要がある。海成分の割合が40%を超える場合は、海成分の溶解に必要な溶剤の量が多くなり、生産性が低下するだけでなく、安全性や環境負荷の点でも好ましくない。一方、海成分の割合が10%未満の場合には島同士が膠着する可能性が高くなり、均一な繊維径の極細繊維が得られにくくなる。
【0012】
本発明においては、海成分を構成する易溶解性ポリマーが、次に述べる特定の共重合ポリエステルであること、上記海島型複合繊維において、該複合繊維の繊維直径(R)、該複合繊維横断面における島成分の平均直径(r)、該複合繊維横断面の中心を通り互いに45度の角度毎に4本の直線を引いたときこの直線上にある島成分の間隔の平均値(S)、および、および、繊維外周に最も近い島成分と繊維外周との間隔(So)が下記の関係式(I)〜(III)を満足していることが肝要である。これにより、繊維径が均一な極細繊維が得られる海島型複合繊維を、後述する速い引取り速度で、生産性よく製造することができる。
r/R≦0.08 (I)
S/R≦0.02 (II)
0.1≦So/S≦1.5 (III)
【0013】
すなわち、海島型複合繊維の海成分を構成する易溶解性ポリマーは、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を6〜12モル%および分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルである必要がある。なお、5−ナトリウムスルホイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性の向上に寄与している。
【0014】
この際、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が6モル%未満であると海成分を構成する易溶解性ポリマーの溶解速度が低くなり、繊維断面中央部の海成分が完全に溶解除去されていないにもかかわらず、既に分離した繊維断面表層部の島成分がさらに侵食されるため、島成分の太さ斑が発生するだけでなく、強度劣化が発生して、毛羽や染め斑が起こるなどの問題が生じる。一方、12モル%を超えると、固有粘度が低下し、高速紡糸性が悪くなる。
【0015】
また、PEGの共重合量が3重量%を超えると海成分の溶解速度が低下し、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が6モル%未満の場合と同様の問題が発生する。一方、PEGの共重合量が10重量%を超えると、溶融粘度が低下し高速紡糸性が悪くなる。また、PEGの分子量は大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加作用があるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、紡糸における耐熱性や高速紡糸安定性の面で問題が生じるため、分子量は4000〜12000の範囲とする必要がある。
【0016】
本発明の海島型複合繊維を構成するポリマーの組み合わせは、以下の2点を満たしていることが好ましい。2点とは、(1)溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分の溶融粘度よりも大きい、(2)島成分を構成するポリマーに対する海成分を構成するポリマーの溶解速度比が500倍以上であることである。
【0017】
溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分の溶融粘度よりも大きいことにより、海島断面形成性が良好となる。この条件を満たしていれば、海成分の複合重量比率が50%以下になっても、島同士が大部分膠着した繊維となりにくい。島同士が膠着すると、海成分を溶解除去した際に極細繊維だけではなく異形繊維まで作成されることとなり、染め斑やピリングなど品位に問題が生じやすくなる。特に好ましい溶融粘度比(海/島)は1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1未満の場合には溶融紡糸時に島成分が膠着しやすくなり、一方2.0を超える場合には粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。なお、溶融紡糸時の温度としては、海成分または島成分を構成するポリマーのうち融点または軟化点の高い方の融点または軟化点の10〜40℃高い温度で紡糸することが想定される。
【0018】
島成分を構成するポリマーに対する海成分を構成するポリマーの溶解速度比が500倍以上であることにより、島分離性が良好となる。溶解速度比が500倍未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解する間に、分離した繊維断面表層部の島成分が、繊維径が小さいために溶解されるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維断面中央部の海成分を完全に溶解除去できず、島成分の太さ斑や溶剤侵食による強度劣化が発生して、毛羽や染め斑が起こるなどの問題が生じる。なお、ここで溶解速度比は、それぞれのポリマーの溶解速度定数であり、溶解速度定数は、4%NaOH水溶液で95℃にて、減量時間に対する減量率(不溶解重量分率=1−減量率)と処理時間、繊維半径から下記式より算出した。
【0019】
【数1】

kは溶解速度定数、Rwは不溶解重量分率、tは処理時間、r0は繊維半径である。
【0020】
島成分を構成するポリマーは上記の2点を満たしているものが好ましく、特に繊維形成性の良い、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリエチレン系ポリマーなどいずれのポリマーなどが例示できる。なかでも、衣料用途ではポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66が好ましい。一方、産業資材や医療用途では、水や酸、アルカリに強いポリスチレンやポリエチレンなどが耐久性の点で好ましい。さらに島成分は丸断面に限らず、異形断面であってもよい。
【0021】
本発明においては、前述したように、海島型複合繊維が、該複合繊維横断面の中心を通り互いに45度の角度毎に4本の直線を引いたときこの直線上にある島成分の間隔の平均値(S)が下記の関係式(I)〜(II)を満足している必要がある。
r/R≦0.08 (I)
S/R≦0.02 (II)
0.1≦So/S≦1.5 (III)
【0022】
ここで、r/Rの値が0.08を超えるか、S/Rの値が0.02を超えるか、または、So/Sが、1.5を超える場合は、高速紡糸性が悪なる。より好ましくは、下記範囲である。また、So/Sが、0.1未満の場合は島成分同士が膠着し易くなり、均一な繊維径の極細繊維が得られない。
0.01≦r/R≦0.06
0.001≦S/R≦0.015
0.5≦So/S≦1.5
【0023】
上記複合繊維において、島数は400以上であることが特に好ましい。島数が多いことにより海成分が断面上に微細に分散するため高速紡糸性が良くなり、生産性が向上する。ここで重要なのは海成分が海島断面において均一に微分散していることである。海成分に偏りがあってはならない。これにより、高速紡糸性の悪さを克服することができる。また、島数を増やすことにより、海成分を溶解除去して得られる極細繊維の細さも顕著となって極細繊維特有の柔らかさ、光沢感などを表現することができる。ここで、島数400未満の場合には、それほど分散されないために高速紡糸性が悪くなり、コストパフォーマンスが悪くなる。また、海成分を溶解除去しても繊維径の小さい極細繊維が得られない。島数が多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけではなく、加工性自体も低下しやすくなるので1000以下とするのが好ましい。
【0024】
次に、島成分の径は10〜1500nm、好ましくは100〜1000nmの範囲とする必要がある。径が50nm未満の場合には繊維構造の不安定さから物性や繊維形態が不安定で好ましくなく、一方1500nmを超える場合には極細繊維特有の柔らかさ、光沢感などが得られず好ましくない。
【0025】
この極細繊維用海島型複合未延伸糸の、室温下での荷伸曲線において、海成分の部分破断に相当する降伏点が発現するものもある。これは海部が島部よりも早く固化することにより配向が進む、一方島部は海部の影響により配向が下がるために観察される現象である。第1次降伏点は海成分の部分破断点を意味し、降伏点以降は配向が低い島部が伸びる。そして荷重−伸長曲線の破断点では海島部がともに破断する。紡糸速度が高くなるほど第1次降伏点が初期段階へ移行することからもこれらの現象を説明できる。もちろん、室温下での荷伸曲線は上記したものに限らず通常の荷伸曲線を示してもよい。
【0026】
本発明において溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面が形成されるといった紡糸口金でもよい。好ましく用いられる紡糸口金例を図1および2に示すが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお図1は中空ピンを海成分樹脂貯め部分に吐出してそれを合流圧縮する方式であり、図2は微細孔方式で島を形成する方法である。
【0027】
さらに具体的に各図について説明する。図1に示されている紡糸口金1においては、分配前の島成分用ポリマー溜め部2内の溶融された島成分ポリマーは、複数の中空ピンにより形成された島成分用ポリマー導入通路3中に分配され、一方、海成分用ポリマー導入通路4を通って、溶融された海成分ポリマーが、分配前海成分用ポリマー溜め部5に導入される。島成分用ポリマー導入通路3を形成している中空ピンは、それぞれ海成分用ポリマー溜め部5を貫通して、その下に形成された複数の芯鞘型複合流用通路6の各々の入り口の中央部分において下向きに開口している。島成分用ポリマー導入通路3の下端から、島成分ポリマー流が、芯鞘型複合流用通路6の中心部分に導入され、海成分用ポリマー溜め部の5中の海成分用ポリマー流は、芯鞘型複合流用通路6中に、島成分ポリマーをかこむように導入され、島成分ポリマー流を芯とし、海成分ポリマー流を鞘とする芯鞘型複合流が形成され、複数の芯鞘型複合流がロート状の合流通路7中に導入され、この合流通路7中において、複数の芯鞘型複合流は、それぞれの鞘部が互いに近接して、海島型複合流が形成される。この海島型複合流は、ロート状合流通路7中を流下する間に、次第にその水平方向の断面積を減少し、合流通路7の下端の吐出口8から吐出される。
【0028】
また、図2に示されている紡糸口金11においては、島成分ポリマー用溜め部2と、海成分ポリマー用溜め部5とが、複数の透孔からなる島成分ポリマー用導入通路13に連結されていて、島成分用ポリマー溜め部2中の溶融された島成分ポリマーは、複数の島成分ポリマー用導入通路13に分配され、それを通って、海成分用ポリマー溜め部5に収容されている溶融された海成分ポリマー中を貫いて、芯鞘型複合流通路6中に流入し、その中心部を流下する。一方、海成分ポリマー用溜め部5中の海成分ポリマーは、芯鞘型複合流用通路6中に、その中心部を流下する島成分ポリマーの周りをかこむように流下する。これによって、複数の芯鞘型複合流通路6中において、複数の芯鞘型複合流が形成され、ロート状合流通路6中において、複数の芯鞘型複合流が形成され、ロート状合流通路7中に流下し、図1と同様にして海島型複合流を形成しつつ流下し、さらにその水平方向の断面積を減少し、吐出口8から吐出される。
【0029】
吐出された海島型複合繊維は冷却風により固化され、巻き取る。この巻取り速度は、2000〜5000m/minであることが望ましい。特に好ましくは2500〜4000m/minである。2000m/min未満では生産性が十分でない。また、5000m/minを超えると紡糸安定性が悪い。
【0030】
本発明で得られた海島型複合繊維の伸度は100%以上であることが好ましい。これ以上であれば、高延伸倍率のため高強度極細繊維を作成することができ、繊維製品に限らず幅広い分野で応用展開が可能となる。
得られた未延伸糸は希望する強度・伸度・熱収縮特性に合わせることができる。延伸工程は一旦巻取り後別途延伸工程を行うかもしくは紡糸同時延伸を行い、延伸工程後に巻き取る方法などいずれでもかまわない。
得られた未延伸糸は仮撚り加工が可能であり、得られた加工糸は優れた加工物性を有している。
【0031】
図3は、本発明の海島型複合繊維の一態様(21)の横断面説明図であって、海成分22とその中に互いに隔離して配置された多数の島成分23とによって構成されている。この図により、島成分の間隔を測定する方法について説明する。図3においては、横断面21に、その中心24を通り、互いに45度の角度をおいて、4本の直線25−1、25−2、25−3、25−4を引いたとき、この4本の直線上にある島成分の間隔を測定し、その中から最大値Sm、および繊維外周に最も近い島成分と繊維外周との間隔Soを定め、かつ、島成分間の間隔の平均値Sを算出する。図3においては、4本の直線状の島成分を出して記載したもので、その島成分の記載が省略されている。
【0032】
本発明により製造された海島型複合繊維、または該複合繊維からから海成分を除去して得られる極細繊維束は、これらを少なくとも一部に用いた、糸、組み紐状糸、紡績糸、織物、フェルト、不織布、人工皮革などの中間製品として用いることができる。
【0033】
また、上記の極細繊維束は高タフネスであるため、上記中間製品は、ジャケット、スカート、パンツ、下着などの衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア、カーシートなどの車両内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用品や、研磨布、フィルター、有害物質除去製品、電池用セパレーターなどの環境・産業資材、縫合糸、スキャフォールド、人工血管、血液フィルターなどの医療用途などに幅広く用途展開が可能である。
【0034】
さらに、上記極細繊維側は比面積が大きいため、吸着・吸収特性に優れているため、例えばたんぱく質、ビタミン類など健康・美容促進のための薬剤、抗炎症剤、消毒剤などの医薬品を吸着させて用いることができる。一方で除放性を有するためドラッグデリバリーシステムなど医薬・衛生用途にも用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。各評価項目は下記の方法で測定した。
(1)溶融粘度測定
乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
(2)海島断面形成性
光学顕微鏡を用いて海島状態を観察し、2段階評価した。
○:島膠着部分なし
×:島膠着部分あり
(3)溶解速度測定
海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて2000m/minの紡糸速度で糸を巻取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、75de/24filのマルチフィラメントを作成する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
(4)繊維直径(R)、島成分の平均直径(r)、該繊維横断面の中心を通り互いに45度の角度毎に4本の直線を引いたとき、この直線上にある島成分の間隔の平均値(S)及び繊維外周に最も近い島成分と外周との間隔(So)
透過型電子顕微鏡TEMで、倍率30000倍で繊維断面写真を撮影し、前述した方法により測定および算出した。
(5)荷重−伸長曲線
海島型複合繊維9000mの重量を3回測定して平均値から繊度を求めた。そして、室温で初期試料長100mm、引っ張り速度200m/分として荷重−伸長曲線を求めた。荷重−伸長曲線に海成分の部分破断に相当する降伏点が発現した場合には、中間降伏点と破断伸度の差はチャート紙から求めた。
(6)高速紡糸性
実施例における半延伸糸を製造し、30分間巻き取りできたものに○、巻取りできなかったものを×とする。
(7)極細繊維の繊維径と繊維径の均一性
海成分溶解除去後の極細繊維の30000倍TEM観察により、1本の複合繊維内の極細繊維について、平均繊維直径を算出し、その最大−最小幅が平均繊維直径の50%よりも小さいものを○、大きいものを×とした。
(8)生産性
生産性の指標として、延伸倍率×紡糸速度が5000以上を○、5000以下を×とした。この指標は同じ伸度を持つFOYを製造する場合の、単位時間あたりの巻き量を意味する。
(9)極細繊維の風合い
モニター7人に対して官能試験を実施し、2段階評価した。
○:極細繊維特有のぬめり感があると評価した人が5人以上
×:極細繊維特有のぬめり感があると評価した人が5人以下
【0036】
[実施例1]
島成分に285℃での溶融粘度が1200poiseのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が1600poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコール(PEG)を4wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)を8mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを海成分:島成分を40:60の重量比率で、島数500の図1に示す紡糸口金を用いて紡糸温度285℃で溶融吐出させた。溶融吐出糸条は巻取り速度3000m/minで安定して巻き取ること可能であった。結果を表1に示す。これにより、室温下での荷重−伸度曲線(以下、荷伸曲線と称することがある)において海成分の部分破断に相当する降伏点が発現している、伸度が330%の高延伸倍率可能な高伸度未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率2.4倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、20dtex/10filの延伸糸を得た。筒編みを作成し4%NaOH水溶液で95℃にて40%減量した。ここで、島成分ポリマーに対する海成分ポリマーの溶解速度比は1200倍であった。繊維断面を観察したところ、均一な極細繊維群を形成していた。極細繊維直径の平均値は470nmであった。また、生産性の指標は7200であり、繊維径が均一な超極細繊維を高速紡糸により効率よく生産することが可能であった。表1にさらに結果を示すが、該表において海、島成分のポリマーの下の括弧内に記載されている数字はそれぞれ溶融粘度(poise)を示す。
【0037】
[実施例2]
実施例1と同じ海島ポリマーを同じ海島比率で使用し、島数980の口金を用いて紡糸し、巻取り速度5000m/minで巻き取った。これにより、室温下での荷伸曲線において、海成分の部分破断に相当する降伏点が発現している、伸度が200%の高延伸倍率可能な高伸度未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率2.0倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、20dtex/10filの延伸糸を得た。筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて40%減量した。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
島成分に285℃での溶融粘度が1200poiseのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が1700poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコールを3wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を10mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島を10:90の比率とし、島数800の口金を用いて紡糸し、巻取り速度4000m/minで巻き取った。これにより、室温下での荷伸曲線においては、海成分の部分破断に相当する降伏点が発現しておらず、伸度は250%であり高延伸倍率可能な高伸度未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率2.2倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、20dtex/10filの延伸糸を得た。筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて10%減量した。ここで、島成分ポリマーに対する海成分ポリマーの溶解速度比は1500倍であった。結果を表1に示す。
【0039】
[実施例4]
島成分に285℃での溶融粘度が1300poiseのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が1800poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコールを8wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を7mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを使用し、海:島を30:70の重量比率とし、島数500の口金を用いて紡糸し、巻取り速度2000m/minで巻き取った。これにより、室温下での荷伸曲線においては、海成分の部分破断に相当する降伏点が発現している、伸度が350%である未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率2.7倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、20dtex/10filの仮撚り糸を得た。筒編みを作成し、4%NaOH水溶液で95℃にて10%減量した。ここで、島成分ポリマーに対する海成分ポリマーの溶解速度比は1200倍であった。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
実施例1と同じ海島ポリマーを使用し、島数は同じであるが異なる口金を用いて同じ海島比率で紡糸した。So/Sは3であり巻取り開始後、5分程度で単糸が紡糸筒から落ちてきたために巻き取りできず、高速紡糸性が悪く超極細繊維は作成できなかった。
【0041】
[比較例2]
実施例1と同じ海島ポリマーを使用し、島数が100島である口金を用いて海:島を30:70として紡糸した。海島断面形成性は良好であったが、r/Rが0.08、S/Rが0.015であり、巻取り開始後、1分程度で単糸が紡糸筒から落ちてきたために巻き取りできず、高速紡糸性が悪く超極細繊維は作成できなかった。
【0042】
[比較例3]
島成分に285℃での溶融粘度が1200poiseのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が1650poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコールを2wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を3mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを実施例3と同じ海島比率で、同じ島数の口金を用いて紡糸し、巻取り速度3000m/minで巻き取った、得られた未延伸糸を筒編し、4%NaOH水溶液で95℃にて10%減量した。島成分ポリマーに対する海成分ポリマーの溶解速度比は100倍であり不十分であるため、海相当分が減量されているにもかかわらず、繊維表面の島も減量され、繊維断面中央の大部分の海が減量されないため、極細繊維は均一な繊維径とならず、特有の柔らかさが得られなかった。
【0043】
[比較例4]
島成分に285℃での溶融粘度が1200poiseのポリエチレンテレフタレート、海成分に285℃での溶融粘度が900poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコールを20wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を8mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを海:島を40:60の重量比率として、島数400の口金を用いて紡糸し、巻取り速度4000m/minで巻き取ったが、海島断面形成性は不良であった。具体的には繊維表面部には島が独立して存在しているが、繊維中心部には接合した島の周囲を海成分が取り囲むような断面を形成していた。したがって、減量しても極細繊維は形成できなかった。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、海成分の溶解速度が速く、繊維径が均一な極細繊維が得られる海島型複合繊維を高紡糸速度で安定して生産性よく製造することができる。このため、生産性の向上のみならず省エネルギー化につながり、コストパフォーマンスや環境の面でも優れた効果を発揮する。このため産業的価値が極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の海島型複合繊維を紡糸するために用いられる紡糸口金の一例の一部の断面説明図である。
【図2】本発明の海島型複合繊維を紡糸するために用いられる紡糸口金の他の一例の一部の断面説明図である。
【図3】本発明の海島型複合繊維の一実施態様の断面説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易溶解性ポリマーを海成分、難溶解性ポリマーを島成分として海島型に複合した溶融ポリマーを紡糸口金から溶融吐出し、これを巻き取って海島型複合繊維を製造する方法において、海成分と島成分の重量比率が40:60〜10:90、海成分を構成する易溶解性ポリマーが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を6〜12モル%および分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを3〜10重量%共重合したポリエチレンテレフタレートであり、かつ、該複合繊維の繊維直径(R)、該複合繊維横断面における島成分の平均直径(r)、該複合繊維横断面の中心を通り互いに45度の角度毎に4本の直線を引いたときこの直線上にある島成分の間隔の平均値(S)、および、繊維外周に最も近い島成分と繊維外周との間隔(So)が下記の関係式(I)〜(III)を満足しており、さらに引取り速度を2000〜5000m/minとすることを特徴とする海島型複合繊維の製造方法。
r/R≦0.08 (I)
S/R≦0.02 (II)
0.1≦So/S≦1.5 (III)
【請求項2】
海島型複合繊維横断面において、島数が400以上であり、島成分の平均直径(r)が10〜1500nmである請求項1記載の海島型複合繊維の製造方法。
【請求項3】
海島型複合繊維の伸度が100%以上である請求項1記載の海島型複合繊維の製造方法。
【請求項4】
難溶解性ポリマーに対する易溶解性ポリマーの溶解速度比が500倍以上である請求項1記載の海島型複合繊維の製造方法。
なお、上記の溶解速度比は、それぞれのポリマーの溶解速度定数であり、溶解速度定数は、4%NaOH水溶液で95℃にて、減量時間に対する減量率(不溶解重量分率=1−減量率)と処理時間、繊維半径から下記式より算出した。
【数1】

kは溶解速度定数、Rwは不溶解重量分率、tは処理時間、r0は繊維半径である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−100253(P2007−100253A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292830(P2005−292830)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】