説明

海底浚渫土の処理方法

【課題】海底浚渫土より分離された微粒土を洗浄、脱水処理する処理工程を、安定に実施することが可能な海底浚渫土の処理方法を提供する。
【解決手段】海底浚渫土5を分級設備2により分級して得られた微粒土6を、水面を形成し得る量の水を存在せしめた貯留槽3に供給して貯留する湿式貯留工程、及び、上記湿式貯留工程の貯留槽3より微粒土を取り出して該微粒土を脱水設備4により脱水処理する微粒土処理工程を実施することによって、セメント原料として使用可能な処理済微粒土7を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底浚渫土(以下、単に「浚渫土」という場合もある。)の新規な処理方法に関する。詳しくは、海底浚渫土より分離された微粒土を洗浄、脱水処理する処理工程を、安定に実施することが可能な海底浚渫土の処理方法である。
【背景技術】
【0002】
新しい港を建設や、航路の形成、拡大、深度化のための浚渫工事や、航路や泊地の深度維持のための浚渫工事(維持浚渫工事)がなされている。
【0003】
これらの浚渫工事により排出される海底浚渫土は、過去においては、臨海部の埋め立てに使用したり、海洋投棄する等の方法により処理されたりしていた。
【0004】
近年、産業構造の転換や、環境問題への関心が高まるなかで、過去の処分方法の見直しが求められている。
【0005】
このような海底浚渫土を資源として有効利用する処理方法として、海底浚渫土を洗浄し、得られた洗浄物をセメント原料として使用する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は、海底浚渫土を砂、砂利等の粗粒土と、シルト等の微粒土とに分離し、該微粒土を洗浄して塩分を低減し、得られた洗浄物をセメント原料に使用するものである。
【0006】
しかしながら、浚渫工事による浚渫土は、年間を通じて平均的に発生するものではなく、しかも、浚渫工事の実施に際しては、短期間で大量、例えば、その量は1時間当たり数100mにも達することもある。そして、前記したセメント原料としての使用にメリットが大きい微粒土の処理設備は、処理する粒子が小さいことにより、洗浄と脱水に多大の時間を要するため、一度に処理し切れず、微粒土が貯留場に長期にわたって未処理のまま野積みされるという状態が生じる。
【0007】
ところが、上記微粒土は、汚泥を含む場合が多く、臭気等による環境汚染が懸念されるばかりでなく、微粒土は乾燥により風によって飛散したり、固化して塩分を洗浄する工程において、洗浄効率が著しく低下するという問題を生じる。
【0008】
上記問題に対して、短期間で大量に発生する浚渫土の量に合わせて上記処理装置を大型化する手段も考えられるが、前記したように、浚渫土は、年間を通じて平均的に発生するものではないため、浚渫工事が途切れる次期において、設備の稼働率が低下したり、メインテナンスに多大の費用を要したりするという問題が懸念される。
【0009】
【特許文献1】特開平11−35350号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、海底浚渫土より分離された微粒土を洗浄、脱水処理する処理工程を、大量、安定に、且つ、確実に実施することが可能な海底浚渫土の処理方法を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、研究を重ねた結果、海底浚渫土を分級して得られた微粒土を貯留する手段として、該微粒土が外気と触れない状態で貯留することにより、臭気の問題が大幅に解消できるという知見を得た。そして、かかる知見に基づき、該微粒土を貯留する貯留槽として、微粒土を貯留した状態で水面を形成し得る、即ち、微粒土が水に没する量の水を存在せしめた貯留槽を使用することにより、微粒土による臭気の問題が解消されると共に、続く脱水処理工程において、微粒土を長期にわたって貯留した場合でも洗浄、脱水が容易であり、前記問題を全て解消し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、海底浚渫土を分級して得られた微粒土を、水面を形成し得る量の水を存在せしめた貯留槽に供給して貯留する湿式貯留工程、及び、上記湿式貯留工程の貯留槽より微粒土を取り出して該微粒土を脱水処理する微粒土処理工程を含んでなる海底浚渫土の処理方法である。
【0013】
また、本発明は、前記微粒土処理工程より得られた処理済微粒土をセメント原料として使用する海底浚渫土の処理方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記湿式貯留工程における貯留槽における塩分濃度(NaCl換算)を5g/L以下に調整する海底浚渫土の処理方法を提供する。
【0015】
更に、本発明は、前記湿式貯留工程における貯留槽が、工業用沈殿池である海底浚渫土の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、海底浚渫土より分離して得られた微粒土の貯留槽を設けることにより、該微粒土の処理に大型の処理設備を必要とせず、年間の処理量を平均した処理量に見合う程度の処理設備で済み、しかも、該処理設備の安定した運転を行うことができる。
【0017】
また、かかる貯留槽に、微粒土を貯留した状態で水面を形成し得る量の水を存在せしめた、「湿式貯留」を実施することにより、未処理の微粒土を長期間貯留した場合においても、臭気の発生が抑えられると共に、微粒土が貯留中に固化(乾固)すること無く、これを洗浄する場合においても、効率よく洗浄することができる。
【0018】
更に、貯留槽の水中の塩分を低く調整することによって、実質的に脱水のみを行うことで、セメント原料として利用可能な処理済微粒土を得ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に説明するため、添付図面に従って説明するが、本発明は、かかる添付図面に限定されるものでは無い。
【0020】
図1は、本発明の海底浚渫土の処理方法の一態様を示す概略図である。
【0021】
本発明において、浚渫土を分級して得られる微粒土は、その大きさにおいて厳密な範囲を有するものではなく、これと分級される粗粒土との相対的な大きさを示すものである。
【0022】
しかし、本発明の効果を十分発揮し得るのは微粒が比較的多いものであり、本発明が有効な微粒土は、粒径75μm以上の粗粒土が、30重量%以下、好ましくは、20重量%以下となるように分級をされたものである。
【0023】
尚、浚渫土中に占める上記微粒土の割合は、浚渫の種類、場所によって大きく異なるが、30〜99重量%程度である。
【0024】
図1において、微粒土6は、運搬船1によって搬入された浚渫土5を、荷役設備8によってホッパー9に揚げられ、分級設備2によって、粗粒土(取出位置は図示せず)と微粒土とに分級される。分級された微粒土は、配管10より、湿式貯留工程の貯留槽3に送られる。
【0025】
上記図1では、浚渫土を陸揚げして分級する態様を例示したが、分級は、必要に応じて、別の場所、例えば、浚渫時に海洋上で行ったり、別の陸地で行ったりしてもよく、微粒土のみを搬入することもできる。また、搬入は、運搬船によっても良いし、トラック等の陸送によっても良い。
【0026】
また、前記分級設備は、公知のものが特に制限無く使用される。例えば、必要に応じて、トロンメル、バイブロスクリーン、振動コンベアなどの振動篩を前処理装置とし、微粒土を分級するための分級器として、遠心力を利用した分級器、例えば、液体サイクロンなど、また、粒子の沈降性の差を利用した分級器、例えば、デカンター式分級器などが挙げられる。
【0027】
本発明の海底浚渫土の処理方法は、浚渫土を分級して得られた前記微粒土を、水面を形成し得る量の水を存在せしめた貯留槽3に供給して貯留する湿式貯留工程を有する。
【0028】
また、分級後の微粒分の貯留槽への送入は、一旦、脱水処理をした後に送入したり、あるいは分級と脱水を同時におこなうことも、貯留槽に持ち込まれる塩分を減少させ、後に、必要に応じて実施される微粒土の洗浄効率を向上する上で有効である。
【0029】
かかる貯留槽3は、未処理の微粒土3を貯留するための器であり、そのため、その容量は、浚渫により一時的に発生する微粒土を貯留することのできることが必要である。具体的な容量は、実施する浚渫事業の規模、浚渫土中における微粒土の存在割合に応じて適宜決定される。
【0030】
また、貯留槽3は、水を存在せしめるため、水を蓄える機能を有する。例えば、非透水性の構造材によって構成されたタンク、地盤を掘削し、その壁面を止水加工して構成されたプール、既存の工業用沈殿池等が挙げられる。そのうち、大容量であって且つ設備投資の不要な既存の工業用沈殿池を利用することが好ましい。
【0031】
本発明の湿式貯留工程において、貯留槽3には、微粒土6を供給後、水面を形成し得る量の水を存在せしめることが、本発明の目的を達成するために重要である。即ち、かかる水の量が不足した場合、長期間の貯留において、水面より露出した微粒土からの臭気の発生が激しく、また、乾燥によって飛散したり、表面が固化したりすることにより、洗浄効率も低下する。
また、貯留槽3には必要に応じて攪拌機能や静定機能を備えさせることも有効である。
【0032】
上記水の存在量は、微粒土を水に没して、水面を確実に形成するため、微粒土に対して、重量比で2倍以上、好ましくは、3倍以上とすることが好ましい。
【0033】
また、上記水は、工業用水、雨水等の真水、工業排水、海水など特に制限されない。しかし、微粒土をセメント原料として使用する場合、後述の脱水工程における洗浄の負荷を軽減或いは無くするため、塩分濃度が低い水を使用することが好ましい。また、更に好ましくは、かかる塩分濃度の低い水によって、貯留槽3の水相における塩分濃度を5g/L以下、好ましくは、1g/L以下に調整することが好ましい。
【0034】
本発明の海底浚渫土の処理方法は、上記湿式貯留工程に続いて、微粒土処理工程を有する。かかる微粒土処理工程は、湿式貯留工程の貯留槽3より微粒土6の一部を取り出して該微粒土を脱水処理する工程である。
図1においては、ポンプ13により、貯留槽3から微粒土6をスラリー状態で汲み上げ、配管11を経て脱水設備4に供給する態様を示す。勿論、貯留槽から微粒土を取り出す方法は、上記方法に限定されるものではなく、一般的なサンドポンプ等による公知の方法が特に制限なく採用される。
【0035】
また、脱水設備4は、必要に応じて水による洗浄機能を有していてもよく、又、脱水設備の前に別途洗浄設備を併設してもよい。脱水設備としては、フィルタープレス、遠心分離機、ベルトプレス、スクリュープレス等が挙げられる。中でも、フィルタープレス、遠心分離機等の装置は、洗浄機能を付加することができ好適である。
【0036】
本発明において、微粒土処理工程で処理された処理済の微粒土7は、セメント原料として好適に使用することができる。
【0037】
尚、前記脱水設備における脱水、或いは洗浄によって発生した排水は、図1に示すように、配管12を設けて、貯留槽3に循環して使用することも可能である。また、図示されてないが、上記排水を分級機2の分級用の水として使用することも可能である。
【0038】
本発明において、前記分級によって得られる粗粒土は、別途の設備で洗浄して建築用資材として、また、洗浄すること無く、海岸再生用の資材として利用することができる。
【実施例】
【0039】
本発明の湿式貯留工程の効果を確認するために、下記の実験を行った。
【0040】
実施例1
2Lのビーカーに、1Lの工業用水を存在せしめ、これに、徳山港の海底浚渫土より分級された粒径75μm以上の粗粒土が、10重量%以下の湿潤状態の微粒土100gを投入後、攪拌して静定した。上記ビーカー中には水面が形成されており、微粒土の露出は見られなかった。
【0041】
上記ビーカーの周辺では、臭気が殆ど感じられなかった。また、上記の貯留を2週間行った後、ビーカー水相の塩分濃度を測定したところ、0.6g/Lであった。
【0042】
次いで、上記ビーカーの底部から、微粒土を含むスラリーを汲み上げ、ロートにセットしたろ紙上で、水洗、ろ過を行った結果、塩分濃度が0.17重量%の処理済微粒土が得られた。
【0043】
比較のため、前記分級した微粒土を湿潤状態のまま、空のビーカーに投入した。その結果、ビーカー周辺で臭気が感じられた。また、上記の状態での貯留を2週間行ったところ、ほぼ全体が乾燥により固化していた。これをロートにセットしたろ紙上で、水洗、ろ過を行った結果、固化したものをリパルプする作業が発生し、また、洗浄が困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の方法の代表的な一態様を示す概略図
【符号の説明】
【0045】
1 運搬船
2 分級設備
3 貯留槽
4 脱水設備
5 浚渫土
6 微粒土
7 処理済微粒土
8 荷役設備
9 ホッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底浚渫土を分級して得られた微粒土を、水面を形成し得る量の水を存在せしめた貯留槽に供給して貯留する湿式貯留工程、及び、上記湿式貯留工程の貯留槽より微粒土を取り出して該微粒土を脱水処理する微粒土処理工程を含んでなる海底浚渫土の処理方法。
【請求項2】
微粒土が、粒径75μm以上の粗粒土が、30重量%以下である請求項1に記載の海底浚渫土の処理方法。
【請求項3】
前記微粒土処理工程より得られた処理済微粒土をセメント原料として使用する請求項1又は2記載の海底浚渫土の処理方法。
【請求項4】
前記湿式貯留工程における貯留槽における水中の塩分濃度(NaCl換算)を5g/L以下に調整する請求項1〜3の何れかに記載の海底浚渫土の処理方法。
【請求項5】
前記湿式貯留工程における貯留槽が、工業用沈殿池である請求項1〜4の何れかに記載の海底浚渫土の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−289866(P2007−289866A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121025(P2006−121025)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】