海水の浸透ろ過方法及び浸透取水ユニット
【課題】砂ろ過層の表層のみならず、中間層に取り込まれた懸濁物質等を洗浄する。
【解決手段】砂ろ過層の深層を形成するための砂利層13に取水配管12を埋め込み、砂ろ過層の中間層及び表層を形成するための砂層15に逆洗浄管14を埋め込み、砂層15の上方に吸水管16を設置した浸透取水ユニット11をあらかじめ形成しておく海水の浸透ろ過方法である。海底の設置場所で所要の数の浸透取水ユニット11を組み合わせて砂ろ過層を形成し、海中から砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を取水配管12内に導入して海水を取水する。海水浸透速度を400m/日以下の速度とする。砂ろ過層の中間層に取り込まれた懸濁物質等を、逆洗浄管14から水又はエアーを噴出して撹拌し、砂ろ過層の表層の上部に巻き上げ、吸水管16から撹拌水を吸入して回収する。
【効果】海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度に維持できる。
【解決手段】砂ろ過層の深層を形成するための砂利層13に取水配管12を埋め込み、砂ろ過層の中間層及び表層を形成するための砂層15に逆洗浄管14を埋め込み、砂層15の上方に吸水管16を設置した浸透取水ユニット11をあらかじめ形成しておく海水の浸透ろ過方法である。海底の設置場所で所要の数の浸透取水ユニット11を組み合わせて砂ろ過層を形成し、海中から砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を取水配管12内に導入して海水を取水する。海水浸透速度を400m/日以下の速度とする。砂ろ過層の中間層に取り込まれた懸濁物質等を、逆洗浄管14から水又はエアーを噴出して撹拌し、砂ろ過層の表層の上部に巻き上げ、吸水管16から撹拌水を吸入して回収する。
【効果】海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度に維持できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の砂層内を浸透してくる海水を取水する際のろ過方法、及びこのろ過方法を実施するために、砂層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除いて目詰まりを防止する逆洗浄管などを有した浸透取水ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水を取水する方法として、現在は、図14に示すように、例えば海底に設けた取水口1から導水管2を介して海水を取水する直接取水法が多く採用されている。なお、図14中の3は海水を取水するためのポンプ、4は逆浸透膜装置である。
【0003】
しかしながら、直接取水法は、海水と同時にごみ、懸濁物、生物等を全て取水するので、クラゲや赤潮の異常発生時、油の流出事故時、高波による濁度の増大時には、取水を停止しなければならない場合がある。また、取水口や導水管へのフジツボ、イガイ等の海洋生物の付着が激しいので、定期的な清掃、付着防止の薬品(例えば塩素等)の添加、全管路における生物付着代を考慮した管径の増大等が必要である。さらに、取水した海水を逆浸透膜で処理する場合には、凝集剤を添加した海水をろ過する砂ろ過施設が必要となるので、砂ろ過施設に溜まった汚泥を処理する施設が必要になる。
【0004】
そこで、近年、取水する海水の前処理として、凝集剤等の薬品を使用しないで、図15に示すように、海底の砂層(以下、砂ろ過層という。)5内を浸透してくる海水を取水する間接取水法が注目されている。
【0005】
この間接取水法は、汀線より数百m、水深十数mの沖合にて海底を掘削し、当該掘削部に、図16に示すように、支持砂利層5a及び5b、ろ過砂5cで構成された砂ろ過層5を形成しながら、再び同じ海底面まで埋め戻すことで、支持砂利層5a中に設置した取水配管6から、ろ過浸透して浄化された海水を取水する方法である。この間接取水法の場合、直接取水法の問題は一切発生しないが、イニシャルコストが高いことと、浸透面での目詰まりによる取水量の低下の問題により、普及拡大が遅れている。
【0006】
そこで、このような浸透取水法において、海水を取水する海底の砂ろ過層の目詰まりを可及的に低減でき、また砂ろ過層の表面に堆積した懸濁物等を、手間をかけずに取り除くことができ、安定した取水を確保し得る方法が特許文献1で提案されている。
【0007】
この特許文献1で提案された浸透取水法は、海底の砂ろ過層内に発現される海水浸透流速を1〜8m/日とし、前記砂ろ過層の水深は、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くすることを特徴としている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1で提案された浸透取水法は、海水の浸透取水速度が1〜8m/日という、非常に緩速なろ過速度であるため、短期間で大量の海水を取水するには広大な面積を必要とし、工事規模が大きくなる(課題1)。
【0009】
加えて、特許文献1で提案された浸透取水法は、表面に堆積したシルト(泥分)による砂ろ過層の目詰まりを防止するために、最適な海水流動が促進される海域への設置が必要であり、波浪による海水流動がある場所に限定される(課題2)。
【0010】
そこで、出願人は、上記課題1を解決するために、海水浸透速度を高速化することにより必要浸透面積を大幅に削減し、工事規模を格段に減少させることが可能な海水の浸透ろ過方法を提案した。但し、現実的な採用可能な速度としては上限を400m/日以下としている。
【0011】
また、出願人は、上記課題2を解決するために、砂ろ過層の表層に取り込まれた生物又は懸濁物質を人為的に取り除いて目詰まりを防止する海水の浸透ろ過方法を提案した。さらに、砂ろ過層の表層に取り込まれた前記懸濁物質等を取り除くために、例えば機械式、エアー式、噴流水式の何れかの装置を砂ろ過層の表面に設置する目詰まり防止装置を提案した。これにより、砂ろ過層を例えば潮流や波浪の水粒子速度がない静穏海域に設置することも可能にした。
【0012】
すなわち、この出願人が提案した海水の浸透ろ過方法によれば、海水浸透速度が400m/日以下のできるだけ大きい速度とすることで、短期間での取水量が大量になり、従来に比べて取水面積を小さくすることができる。また、砂ろ過層の表面に目詰まり防止装置を設置する場合は、最適な海水流動が促進される海域への設置が不要になり、海水淡水化プラントの近くで取水できる。従って、工事規模や取水施設規模を格段に小規模化することができ、これに伴い、周囲環境への工事時の影響も各段に緩和できる。
【0013】
しかしながら、海水流動を利用する方法や、砂ろ過層の表面に設置した目詰まり防止装置から水等を噴出させる方法では、砂ろ過層の表層に堆積した懸濁物質等を取り除くことができるのみで、砂ろ過層の表層よりも深い中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことはできない。特に、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度とする場合は、砂ろ過層の中間層にも目詰まりが進行しやすく、目詰まりの頻度も高くなる。そのため、砂ろ過層の表層に堆積した懸濁物質等を取り除くのみでは、海水浸透速度が低下するおそれがある。
【0014】
また、例えば特許文献1の浸透取水法は、海底を掘削した掘削部に支持砂利層5aを形成して取水配管6を埋設し、この支持砂利層5aの上部に支持砂利層5b、ろ過砂5cを形成しながら再び同じ海底面まで埋め戻す工事をすべて海底の現場で行うため、設置工事が大規模となる。また、運転開始後に取水配管6の一部に不具合が発生したときは、海底面を再び掘削して取水配管6の故障部位を補修する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3899788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の浸透取水法は、海水流動や砂ろ過層の表面に設置した目詰まり防止装置による洗浄であるため、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことができず、海水浸透速度が低下するおそれがある点である。加えて、従来の浸透取水法は、設置時の工事が大規模となる上、運転開始後に取水配管の一部に不具合が発生すると海底面を掘削して故障部位を補修する必要があり、メンテナンス性が悪い点である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記問題を解決し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質のみならず、中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質についても取り除くことが可能で、海底に設置する際の工事規模を小さくし、メンテナンスが容易に行える海水の浸透ろ過方法及び浸透取水ユニットを提供することを目的としてなされたものである。
【0018】
本発明の海水の浸透ろ過方法は、
砂ろ過層の深層を形成するための砂利層に取水配管を埋め込み、砂ろ過層の中間層及び表層を形成するための砂層に逆洗浄管を埋め込んだ浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成し、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを最も主要な特徴としている。
【0019】
上記の本発明によれば、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質は、逆洗浄管から噴出される水又はエアーによって撹拌され、表層に存在する懸濁物質等と共に砂ろ過層の上方に巻き上げられる。そして、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げられた懸濁物質等は、潮流や波浪による海水流動によって砂ろ過層の外部に拡散される。
【0020】
また、上記の本発明では、あらかじめ形成しておいた浸透取水ユニットを海底の設置場所で組み合わせることにより、砂ろ過層を容易に形成することができる。また、運転開始後に取水配管の一部に不具合が発生した場合は、海底を掘削して故障部位を補修する必要はなく、配管等の故障部位を含む浸透取水ユニットをユニットの単位で切り離して交換できる。
【0021】
上記本発明において、砂ろ過層を潮流や波浪による海水流動が少ない静穏海域に設置する場合は、
前記砂層の上方に吸水管をさらに設置した浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成すると共に、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止すれば良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、砂ろ過層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことで目詰まりを防止し、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度で維持し、高速ろ過を継続的に実施できる。また、本発明の浸透取水ユニットを組み合わせて砂ろ過層を形成する場合は、設置時の工事規模が格段に小さくなる上、運転開始後は故障部位を含む浸透取水ユニットをユニットの単位で切り離して交換できるので、メンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の海水の浸透ろ過方法に用いる浸透取水ユニットをトラックに積載可能なサイズとした場合の一例を示した図で、(a)は平面図のA−A’線における断面を示した図、(b)は平面図のB−B’線における断面を示した図、(c)は平面の方向から見た図である。
【図2】本発明の浸透取水ユニットの各配管を平面の方向から見た図で、(a)は吸水管の平面図、(b)は逆洗浄管の平面図、(c)は取水配管の平面図である。
【図3】本発明の浸透取水ユニットの取水配管の配置例を示した図で、(a)は5ブロックの取水配管をバス型に接続する場合の配置例を示した図、(b)は5ブロックの取水配管をそれぞれ集水ポンプピットに接続する場合の配置例を示した図である。
【図4】本発明の浸透取水ユニットの逆洗浄管の接続例を示した図で、(a)は水を噴出する構成を用いる場合のポンプとの接続例を示した図、(b)はエアーを噴出する構成を用いる場合のエアコンプレッサーとの接続例を示した図である。
【図5】本発明の浸透取水ユニットの寸法及び配置の例を示した図で、(a)は取水量を10万t/日とする場合の一例を示した図、(b)と(c)は取水量を40万t/日とする場合の一例と、他の一例を示した図である。
【図6】排水管を用いた本発明の浸透取水ユニットの実施例を示した図で、(a)は平面図のA−A’線における断面を示した図、(b)は平面図のB−B’線における断面を示した図、(c)は平面の方向から見た図である。
【図7】排水管を用いた本発明の浸透取水ユニットの他の実施例を示した図で、(a)は逆洗浄管を平面の方向から見た図、(b)は排水管の枝管を横断面の方向から見た概略図で、排水管から噴出する水の噴出角度を説明する図である。
【図8】本発明の浸透取水ユニットのユニット内における取水配管と逆洗浄管の高さ方向の配置の一例を示した図である。
【図9】吸水管や排水管を設けない本発明の浸透取水ユニットの実施例を示した図で、(a)は平面図のA−A’線における断面を示した図、(b)は平面図のB−B’線における断面を示した図、(c)は平面の方向から見た図である。
【図10】海水の浸透ろ過方法の実験フロー図である。
【図11】実験結果の一例を示した図で、(a)は濁度のデータを示した図、(b)はシルト濃度指数(SDI)のデータを示した図である。
【図12】完全閉塞と標準閉塞の経過時間と圧力損失の関係を示した図である。
【図13】本発明の海水の浸透ろ過方法のイメージ図である。
【図14】従来の直接海水取水法の概略説明図である。
【図15】海底浸透海水取水法の概略説明図である。
【図16】海底浸透部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度に維持した高速ろ過を継続的に実施するために、砂ろ過層の目詰まりを防止するという目的を、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、逆洗浄管から噴出される水又はエアーによって撹拌し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げることで実現した。
【0025】
砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質中に含まれる目詰まりの原因となる物質は、砂ろ過層の周囲の環境に悪影響を及ぼすことがないように、砂層の上方に設けた吸水管により回収することが望ましい。
【0026】
もっとも、環境保全の必要性が比較的低い海域では、砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質中に含まれる目詰まりの原因となる物質を、砂ろ過層の周囲に排出することが許される場合もある。かかる海域に砂ろ過層を設置する場合は、海水の流速に応じて、以下の何れかの構成を選択すれば良い。
【0027】
すなわち、海水の流速が遅い海域に設置する場合は、砂層の上方に設けた排水管により人為的に目詰まりの原因となる物質を排出する構成を採用する。他方、海水の流速が速い海域に設置する場合は、潮流や波浪による海水流動によって目詰まりの原因となる物質を拡散できるので、吸水管や排水管を設けない構成を採用しても良い。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図13を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の海水の浸透ろ過方法に用いる浸透取水ユニット11の一例を示した図である。
【0029】
図1(a)及び(b)において、12は、主管12aと、主管12aと交差する方向に分岐させた複数の枝管12bからなり、海底の砂ろ過層の深層を形成するための砂利層13に埋め込まれた取水配管を示している。砂ろ過層の中間層15b,15c及び表層15aを形成するための砂層15には、主管14aと、主管14aと交差する方向に分岐させた複数の枝管14bからなる逆洗浄管14が埋め込まれている。
【0030】
図1(c)において、16は、主管16aと、複数の枝管16bからなる吸水管を示している。主管16aは、図1(a)に示すように、筐体17の対向する側面17a,17cの間に架設されている。また、主管16aと交差する方向に分岐させた複数の枝管16bの端部は、図1(b)に示すように、筐体17の側面17b,17dに支持されている。このようにすることで、吸水管16は、砂層15の表面との間に一定の間隔を空けた状態で砂層15の上方に設置されている。
【0031】
本実施例の浸透取水ユニット11は、例えば縦10m×横2.5m×高さ2.5mのサイズの筐体17の内部に、高さ0.5mの砂利層13の高さ方向の中間位置に埋め込まれた取水配管12と、高さ2.0mの砂層15の高さ方向の上部に埋め込まれた逆洗浄管14と、砂層15の表面との間に一定の間隔を空けた状態で砂層15の上方に設置された吸水管16を収容したものである。よって、この浸透取水ユニット11は、上記サイズの荷物を積載可能な荷台を有したトラックで輸送することができ、陸上における輸送が容易となる。なお、筐体17は、砂ろ過層を設置する海域の水質や海水中に含まれる物質の成分等に応じて、例えばFRP、コンクリート、金属などの中から最適な素材を選定することができる。
【0032】
図2は、浸透取水ユニット11の各配管の一例を示したもので、各配管を平面の方向から見た図である。紙面下側は海水淡水化プラントが設けられる陸側を、紙面上側は海洋側を示している。
【0033】
吸水管16の枝管16bには、図2(a)に示すように、陸側と海洋側に多数の噴出孔16ba,16bbが列設されている。本実施例においては、陸側の吸入孔16baについても海洋側の吸入孔16bbについても、主管16aの長手方向と平行に開口し、現地での設置時、噴出孔の噴出角度が水平面に対し平行の向きとなるようにしている。主管16aの陸側は海水淡水化プラントの集水ポンプと接続されている。吸入孔16ba,16bbから吸入された懸濁水は、各枝管16bから主管16に集められ、海水淡水化プラントに回収される。
【0034】
逆洗浄管14の枝管14bには、図2(b)に示すように、現地での設置時に天側となる位置に多数の噴出孔14baが列設されている。本実施例においては、噴出孔14baの噴出角度は、水平面に対し90度の向きとなるようにしている。主管14aの陸側は海水淡水化プラントの給水ポンプ又はエアコンプレッサーと接続されている。主管14aから各枝管14bに供給された水又はエアーは、噴出孔14baから、天側に垂直方向に噴出される。なお、本実施例では、一例として、現地での設置時に天側となる向きに噴出孔14baを設けているが、逆洗浄管14の噴出孔14baは、現地での設置時に例えば下向きとなるように構成しても良い。
【0035】
取水配管12の枝管12bには、表面全域に多数の取水孔が設けられている(図2(c)では図示せず)。主管12aの陸側は海水淡水化プラントの集水ポンプと接続されている。砂ろ過層内を自然浸透してきた海水は、取水孔から枝管12bに導入され、主管12aを通って海水淡水化プラントに取水される。
【0036】
本発明の海水の浸透ろ過方法は、上記のような浸透取水ユニット11をあらかじめ陸上で形成しておき、海底の設置場所で所要の数の浸透取水ユニット11を組み合わせて砂ろ過層を形成し、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を取水配管12内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、海水浸透速度を400m/日以下の速度とするものである。そして、砂ろ過層の中間層15b,15cのうち、逆洗浄管14よりも上部の中間層15bに取り込まれた生物又は懸濁物質は、逆洗浄管14の噴出孔14baから水又はエアーを水平面に対し例えば+90度の角度で上向きに又は−90度の角度で下向きに噴出することにより撹拌し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げた後、砂ろ過層の表層の上方に設置した吸水管16により、生物又は懸濁物質を含んだ撹拌水を吸水する。このようにすることで、砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質は、再び砂ろ過層の表面に堆積することなく回収されるので、砂ろ過層の目詰まりを確実に防止できる。
【0037】
なお、砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質の中には、目詰まりの原因となるシルト等の成分が含まれているほか、目詰まりの原因とはならず、むしろ、砂ろ過層における海水のろ過効果を維持するのに適した粒径の物質も含まれている。
【0038】
そこで、本実施例では、逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって砂ろ過層の上方の海中に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、吸入すべき目詰まりの原因となる物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで、吸水管16から撹拌水を吸入するように構成した。よって、本実施例では、目詰まりの原因となる物質のみを吸引し、ろ過効果を維持するのに役立つ物質は砂ろ過層に残すことができる。
【0039】
次に、本発明の浸透取水ユニット11の配置や接続の方法、浸透取水ブロック110を組み合わせて構成される取水エリアのサイズについて、具体例を示して説明する。
【0040】
図3は、浸透取水ユニット11の取水配管12の配置例を示した図である。この例では、取水配管12を7個横並びに配置して取水配管ブロック120を構成している。このような構成とする場合、取水配管ブロック120は、例えば図3(a)に示すように、共通配管18を使用して5つの取水配管ブロック120を1つにまとめて集水ポンプに接続しても良いし、あるいは図3(b)に示すように、取水配管ブロック120をそれぞれ集水ポンプピット19に個別に接続しても良い。
【0041】
図4は、浸透取水ユニット11の逆洗浄管14の接続例を示した図である。この例では、逆洗浄管14を7個横並びに配置して逆洗浄管ブロック140を構成している。本発明では、砂ろ過層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を撹拌し、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げるために、逆洗浄管14から水を噴出させても良いし、エアーを噴出させても良い。水を噴出する構成を用いる場合は、図4(a)に示すように、逆洗浄管ブロック140を給水ポンプ20と接続する。他方、エアーを噴出する構成を用いる場合は、図4(b)に示すように、逆洗浄管ブロック140をエアコンプレッサー21と接続する。
【0042】
図5は、浸透取水ユニット11の寸法及び配置の例を示した図である。図5(a)の例では、主管12a,14a,16aの長手方向の長さが10mの浸透取水ユニット11を8又は9個横並びに配置して浸透取水ブロック110を構成し、この浸透取水ブロック110をさらに4個横並びに配置して、10m×105m(筐体の板厚を含まず)のサイズの取水エリア1100を形成している。
【0043】
本発明では、海水浸透速度を400m/日以下の速度とするが、仮に、海水浸透速度を100m/日とし、浸透取水ユニット11の1ユニットあたりの浸透面積30m2とした場合、浸透取水ユニット11の1ユニットあたりの集水量は3000m3/日となる。図5(a)の例のように、約35個の浸透取水ユニット11で構成された取水エリア1100の場合、全体での集水量は約10万t/日となる。これは現在、福岡県に設置されている「まみずピア」と同程度の取水規模である。
【0044】
また、さらに1日の取水量を例えば40万t/日に増加する必要がある場合は、図5(a)の取水エリア1100を、例えば図5(b)又は(c)のように配置して4エリア分設ければ良い。この場合、図5(b)の例では25m×約270m、図5(c)の例では210m×約25mの、従来の浸透取水方法と比較すると格段に小さい取水エリアで、1日あたり40万tの取水量が得られる。
【0045】
また、本発明では、砂ろ過層を形成する取水配管12、砂利層13、逆洗浄管14、砂層15、吸水管16をユニット化したので、設置海域の地形に応じて最適な配置を選択することができる。また、上記のように組み合わせるユニット数を変更することで、必要とされる1日あたりの取水量に対応できる。
【0046】
また、本発明によれば、一部の浸透取水ユニット11に故障が発生しても、故障した浸透取水ユニット11のみ交換すればよいため、システム全体に与える影響を小さくできる。また、浸透取水ユニット11の交換に際して海底面を掘削する必要がないため、メンテナンス工事が小規模となり、保守のコストを低減できる。
【0047】
図6は、海中に巻き上げた生物又は懸濁物質を取り除く手段として排水管を用いた場合の本発明の浸透取水ユニットの一例を示した図である。以下の説明では、吸水管16を用いた図1の実施例の構成と異なる点のみを説明する。
【0048】
図6において、22は、主管22aと複数の枝管22bからなる排水管を示している。主管22aは、図6(a)に示すように、筐体17の対向する側面17a,17cの間に架設されている。また、主管22aと交差する方向に分岐させた複数の枝管22bの端部は、図6(b)に示すように、筐体17の側面17b,17dに支持されている。このようにすることで、排水管22は、砂層15の表面との間に一定の間隔を空けた状態で砂層15の上方に設置されている。
【0049】
枝管22bには、海洋側に多数の噴出孔が列設されている(図2(b)は陸側から見た図のため不図示)。噴出孔は、主管22aの長手方向と平行に開口しており、現地での設置時、噴出孔の噴出角度が水平面に対し平行の向きとなるようにしている。主管22aの陸側は、海水淡水化プラントの給水ポンプと接続されており、主管22aから各枝管22bに供給された水は、噴出孔から海洋側に水平方向に噴出される。
【0050】
このように、本実施例は、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって撹拌し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に、前記表層の上方に巻き上げた後、排水管22から噴出する水によって砂ろ過層の外部に排出するものである。
【0051】
図7(a)は、排水管を用いた本発明の浸透取水ユニットの他の実施例の説明図で、排水管23を平面の方向から見た状態を示している。紙面に向かって右側は海水淡水化プラントが設けられる陸側を、紙面に向かって左側(矢印の方向)は海洋側を示している。なお、この実施例では、海洋側に他の浸透取水ユニットが隣接していないものとする。
【0052】
排水管23の枝管23bには、図7(a)に示すように、海洋側にのみ多数の噴出孔23bbが列設されている。図7(b)は排水管23の枝管23bを横断面の方向から見た概略図で、噴出孔23bbから噴出する水の噴出角度θを説明する図である。本実施例においては、噴出孔23bbにノズルを装着することで、噴出角度θは、水平面に対し30〜60度の範囲に設定している。主管23aの陸側は海水淡水化プラントの給水ポンプと接続されている。例えば、噴出孔23bbの噴出角度を45度とした場合、主管23aから各枝管23bに供給された水は、噴出孔23bbから海洋側に、水平面に対して上向き45度の角度で噴出される。
【0053】
このように、本実施例では、排水管23は、他の浸透取水ユニットが隣接していない方向に水を噴出すると共に、前記水の噴出角度は水平面に対して30〜60度の範囲となるように構成した。
【0054】
よって、本実施例では、排水管23によって排出した目詰まりの原因となる懸濁物質等が他の浸透取水ユニットの砂ろ過層の上部に沈降することはない。また、本実施例では、噴出孔23bbから噴出される水が放物線状になって、目詰まりの原因となる懸濁物質等をより遠方に排出することができる。
【0055】
ところで、海底に堆積した生物又は懸濁物質を不必要に周囲に排出すると、周辺の自然環境に何らかの影響を及ぼすおそれがある。
【0056】
そこで、本実施例では、逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって砂ろ過層の上方の海中に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、外部に排出すべき目詰まりの原因となる物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで排水管23から水を噴出するように構成した。よって、本実施例では、目詰まりの原因となる物質のみを外部に排出することで、周辺の自然環境への影響を極力小さくすることができる。
【0057】
図8は、本発明の浸透取水ユニット11のユニット内における取水配管12と逆洗浄管14の高さ方向の配置の一例を示した図である。本発明では、取水配管12は、ろ過能力が低下しないように、浸透取水ユニット11の筐体17の底面17eからあまり離れ過ぎない方が良い。具体的には、取水配管12の管外径をDとするとき、取水配管12のCOP(パイプ中心)高さは、底面17eから上方に0.75D〜1,25Dの範囲とすれば良い。
【0058】
また、逆洗浄管14は、砂ろ過層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた懸濁物質等を広範囲に逆洗浄するためには、できるだけ深い位置に設置する方が有利であるが、設置位置が深すぎると水圧を高くする必要があるので、両者のバランスを考慮する必要がある。具体的には、逆洗浄管14の管外径をdとするとき、逆洗浄管14のCOP(パイプ中心)高さは、砂ろ過層の砂層15の表面15dから下方に1.0d〜5.0dの範囲とすれば良い。
【0059】
図9は、海中に巻き上げた生物又は懸濁物質を取り除く手段として、海水流動を利用する場合の本発明の浸透取水ユニットの一例を示した図である。図9の構成は、吸水管16または排水管22が存在しない点を除き、図1の実施例と同じである。この実施例では、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質は、逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げられ、潮流又は波浪による海水流動によって砂ろ過層の外部に拡散される。
【0060】
次に、本発明の海水の浸透ろ過方法において、海水浸透速度を400m/日以下の速度とする理由について説明する。
【0061】
図10は本発明の海水の浸透ろ過方法の実験フローを示した図である。図10において、31は海底から50cm、水面から3.3mの位置に沈めた取水ポンプ、32はこの取水ポンプ31によって汲み上げた海水を溜める原水タンクである。原水タンク32に溜められた海水は、原水ポンプ33によって汲み上げられ、カラム装置34に供給される。カラム装置34には砂層34aと砂利層34bからなるろ過層が設けられており、このろ過層を通ったろ過水は、処理水タンク35に導かれる。
【0062】
図10に示した実験フローでは、処理水タンク35のろ過水をカラム装置34に逆送する逆送ポンプ36を介設した逆送配管37と、カラム装置34に供給された海水がオーバーフローしないように処理水タンク35に案内するオーバーフロー管38を設けている。
【0063】
図10に示したフローの実験装置の取水ポンプで取水した海水を、カラム装置のろ過層を通過させたろ過水の濁度及びシルト濃度指数SDIを測定した。この測定に使用したろ過層は上方から、φ0.45mmの砂層(厚さ900mm)、φ2〜4mmの砂利層(厚さ75mm)、φ4〜8mmの砂利(厚さ75mm)、φ6〜12mmの砂利(厚さ150mm)である。
【0064】
測定結果を図11に示す。ここで、濁度のデータを得た原水には、図11(a)の浸透取水速度が0m/日で示した濁度となるような量のシルトを予め添加している。図11の結果より、浸透取水速度を50〜400m/日としても、濁度やシルト濃度指数SDIは浸透取水速度を従来の1〜8m/日とした場合と変わらず、同等の処理性能を示すことが確認された。
【0065】
ところで、前記特許文献1の発明では、海底の砂ろ過層内に発現される海水浸透流速を1〜8m/日とし、砂ろ過層の水深は、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くすることとしている。
【0066】
この特許文献1の発明において、海水の前記浸透取水速度を実現する条件として、砂ろ過層の水深を、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くする理由は、以下の通りである。
【0067】
波によって海底面にある砂粒子がある程度移動することが確認される最大水深である表層移動限界水深における砂ろ過層の表層の砂が1cm以上移動することは海底の砂が洗われる程度であって、この水深よりも深ければ、砂ろ過層表層の砂粒子の移動は殆どないからである。
【0068】
一方、波の作用によって海底の砂ろ過層が侵食されることが確認される最大水深である完全移動限界水深における砂ろ過層の表層の砂が50cm以上移動することは海底の砂ろ過層の侵食が認められることになるからである。
【0069】
また、特許文献1では、シルト粒子の粒径は、一般におおよそ0.005mm〜0.074mmとし、シルトが動き出さない海水の流速、すなわち移動限界流速を求めている。この移動限界流速は、シルト粒子の限界実流速に対して面積空隙率(=0.35)を乗じた値となる。粒径と限界実流速の関係を表すグラフを使って求めたシルト粒子の限界実流速は、粒径が0.08mmのシルト粒子の場合、0.026cm/sとしている。
【0070】
従って、シルトの移動限界流速の上限は、0.026×0.35×24×3600=786.24cm/日で、約8m/日となる。この結果から、砂ろ過層内に巻き込んだシルトによる目詰まりを生じさせないためには、最大でも海水浸透流速は、8m/日以下に設定すべきであるとしている。
【0071】
また、砂ろ過層に十分な酸素を供給して生物膜を死滅に至らせないようにするためには、少なくとも1m/日の海水浸透流速が必要であるとしている。
【0072】
これらより、特許文献1の発明では、前記の条件において海水の浸透取水速度を1〜8m/日とすることで、砂ろ過層の表層は海中に発現する波や流れなどにより適度に攪拌され、砂ろ過層表面に堆積したごみ、シルト等の懸濁物を除去することができ、安定した取水を確保できるとしている。
【0073】
このように特許文献1の発明で規定された海水の浸透取水速度の上限は、海底の表層の砂ろ過層にシルトが進入または混入しないための条件である。この特許文献1におけるシルト吸収抑制の限界となる8m/日の求め方を踏襲すれば、発明者らが1〜8m/日の浸透取水速度の場合と同等の処理性能を示すことを確認した、例えば400m/日の浸透取水速度とした場合は、シルトを吸収する傾向となる。
【0074】
つまり、シルトを攪拌もしくは運ぼうとする流れ場がないものとすれば、浸透取水速度を400m/日とした場合のシルトの砂ろ過層への吸収速度は、(海水の浸透取水速度cm/s)×(砂粒径による空隙率)になると推察できる。従って、400m/日の浸透取水速度の場合、シルトの砂ろ過層への吸収速度は、{40000cm/(24×3600)}×0.35=0.16cm/sとなる。また、酸素を供給するための限界流速1.0m/日以上を実現するためには、{100cm/(24×3600)}×0.35=0.0004cm/sとなる。
【0075】
計算上では、海水の浸透取水速度を400m/日とした場合は、目詰まりの要因となるシルト粒子が1時間当り約6m(≒0.16×3600/100)も砂ろ過層に浸入することになって、実現性のある洗浄は困難である。
【0076】
しかしながら、シルト粒子はろ過砂の空隙に比べて非常に小さいことから、いわゆる標準閉塞の形式をとり、シルトが水と共に移動する際に、ろ過砂との分子間力(物理吸着、静電気)によって捕捉されて堆積するため、表層付近にて付着滞留していく。
【0077】
先に説明した図11(a)に示す、シルト成分を添加した実験においては、400m/日の条件下では、2時間後にシルトはほぼ表層に堆積し、砂ろ過層の内部には1cm程度しか侵入しないことを確認した。
【0078】
また、標準閉塞は空隙よりも大きな粒子に対しても起こる完全閉塞と異なり、粒子が空隙孔を完全に密閉するために、図12に示すように、シルト粒子の吸着によって空隙孔が時間をかけて狭くなる。これは、空隙の保持閾値まで緩やかに圧力損失が生じるために、シルトを除去し続けた場合でも長時間の浸透が可能であることを意味する。この経過時間は、ろ過材の条件や海水条件(シルト濃度)によっても異なり、この時間が強制洗浄の間隔となる重要な要素となる。
【0079】
本発明は、発明者らの実験結果と上記の知見に基づき、従来の常識であり、タブーであったろ過材の海水浸透速度の高速化を実現することで、工事規模や取水施設規模の格段の小規模化を実現したものである。
【0080】
海水よりも浸透性が高い地下水を使用した試験を発明者らが行った結果によれば、600m/日の浸透速度までは正常に連続運転することができた。但し、浸透速度を700m/日とした場合は、必要な浄化水量が取水量よりも多くなって、砂ろ過層で連続的に水が流れない状態となり、正常な取水ができなかった。従って、海水の浸透取水する際のろ過方法を対象とする本発明では、安全率を約1.5として、400m/日の海水浸透速度を上限とした。
【0081】
以上の理由により、本発明の海水の浸透ろ過方法では、海中から砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を取水配管内に導入して海水を浸透取水する際、海水浸透速度を400m/日以下の速度としている。
【0082】
本発明において、海水浸透速度を400m/日とした場合は、例えば海水浸透速度が8m/日の従来に比べて取水量が50倍となるので、取水エリアの面積を1/50にすることができる。また、最適な海水流動が促進される海域への設置が不要になり、図13に示すように、海水淡水化プラント41の近くに浸透取水施設42を設置できて、工事規模や取水施設規模の格段の小規模化が可能になって、周囲環境への工事時の影響も各段に緩和できる。
【0083】
そして、本発明の海水の浸透ろ過方法では、砂ろ過層の表層のみならず、中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことで目詰まりをより確実に防止するので、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度で維持し、高速ろ過を継続的に実施できる。
【0084】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0085】
例えば、上記の実施例では、浸透取水ユニット11をあらかじめ形成しておく場合の例を開示したが、本発明の海水の浸透ろ過方法は、浸透取水ユニット11を使用せずに、海底の設置場所で取水配管12や逆洗浄管14を埋め込んで砂ろ過層を形成する方法でも良い。
【0086】
具体的には、海底の砂ろ過層内の深層に取水配管を埋め込み、前記砂ろ過層の中間層に水又はエアーを噴出する逆洗浄管を埋め込み、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止する海水の浸透ろ過方法である。
【0087】
また、上記のように浸透取水ユニットを使用しない場合についても、砂ろ過層の表層の上方に、吸水管をさらに設置し、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することで、周辺環境に悪影響を及ぼすことなく砂ろ過層の目詰まりを防止できる。
【0088】
あるいは、砂ろ過層の表層の上方に、排水管をさらに設置し、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記排水管から水を噴出することで、海水流動の少ない静穏な海域においても砂ろ過層の目詰まりを防止できる。
【0089】
また、上記の実施例では、逆洗浄管14から水又はエアーを噴出させて砂ろ過層の中間層を洗浄する構成を開示したが、逆洗浄管14による中間層(砂層)の洗浄に加え、取水配管12に対し所要のタイミングで水を逆流させて枝管12bの取水孔から水を噴出させることにより、砂ろ過層の深層(砂利層)を洗浄するように構成しても良い。
【0090】
また、上記の実施例では、吸水管16を用いる実施例と、排水管22,23を用いる実施例を別々に説明したが、例えば海水淡水化プラントに設置するポンプの集水と給水を切り換えることにより、1つの装置で吸水管の機能と排水管の機能を兼ね備えるように構成しても良い。
【0091】
また、本発明の浸透取水ユニットの砂利層及び砂層に用いるろ過材は、自然の砂利や砂に限らず、材質は問わない。例えば、環境に影響の少ない人工粒体セラミックや人工ガラスを砂利層又は砂層のろ過材として用いても良い。このような人工のろ過材を用いると、一般にはコストが高くなるという問題があるが、本発明の海水の浸透ろ過方法は、従来の方法とは異なり、取水エリアの面積を格段に小さくできるので、上記のような人工のろ過材も採用が容易となる。
【符号の説明】
【0092】
11 浸透取水ユニット
12 取水配管
13 砂利層
14 逆洗浄管
15 砂層
16 吸水管
22 排水管
23 排水管
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底の砂層内を浸透してくる海水を取水する際のろ過方法、及びこのろ過方法を実施するために、砂層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除いて目詰まりを防止する逆洗浄管などを有した浸透取水ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水を取水する方法として、現在は、図14に示すように、例えば海底に設けた取水口1から導水管2を介して海水を取水する直接取水法が多く採用されている。なお、図14中の3は海水を取水するためのポンプ、4は逆浸透膜装置である。
【0003】
しかしながら、直接取水法は、海水と同時にごみ、懸濁物、生物等を全て取水するので、クラゲや赤潮の異常発生時、油の流出事故時、高波による濁度の増大時には、取水を停止しなければならない場合がある。また、取水口や導水管へのフジツボ、イガイ等の海洋生物の付着が激しいので、定期的な清掃、付着防止の薬品(例えば塩素等)の添加、全管路における生物付着代を考慮した管径の増大等が必要である。さらに、取水した海水を逆浸透膜で処理する場合には、凝集剤を添加した海水をろ過する砂ろ過施設が必要となるので、砂ろ過施設に溜まった汚泥を処理する施設が必要になる。
【0004】
そこで、近年、取水する海水の前処理として、凝集剤等の薬品を使用しないで、図15に示すように、海底の砂層(以下、砂ろ過層という。)5内を浸透してくる海水を取水する間接取水法が注目されている。
【0005】
この間接取水法は、汀線より数百m、水深十数mの沖合にて海底を掘削し、当該掘削部に、図16に示すように、支持砂利層5a及び5b、ろ過砂5cで構成された砂ろ過層5を形成しながら、再び同じ海底面まで埋め戻すことで、支持砂利層5a中に設置した取水配管6から、ろ過浸透して浄化された海水を取水する方法である。この間接取水法の場合、直接取水法の問題は一切発生しないが、イニシャルコストが高いことと、浸透面での目詰まりによる取水量の低下の問題により、普及拡大が遅れている。
【0006】
そこで、このような浸透取水法において、海水を取水する海底の砂ろ過層の目詰まりを可及的に低減でき、また砂ろ過層の表面に堆積した懸濁物等を、手間をかけずに取り除くことができ、安定した取水を確保し得る方法が特許文献1で提案されている。
【0007】
この特許文献1で提案された浸透取水法は、海底の砂ろ過層内に発現される海水浸透流速を1〜8m/日とし、前記砂ろ過層の水深は、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くすることを特徴としている。
【0008】
しかしながら、この特許文献1で提案された浸透取水法は、海水の浸透取水速度が1〜8m/日という、非常に緩速なろ過速度であるため、短期間で大量の海水を取水するには広大な面積を必要とし、工事規模が大きくなる(課題1)。
【0009】
加えて、特許文献1で提案された浸透取水法は、表面に堆積したシルト(泥分)による砂ろ過層の目詰まりを防止するために、最適な海水流動が促進される海域への設置が必要であり、波浪による海水流動がある場所に限定される(課題2)。
【0010】
そこで、出願人は、上記課題1を解決するために、海水浸透速度を高速化することにより必要浸透面積を大幅に削減し、工事規模を格段に減少させることが可能な海水の浸透ろ過方法を提案した。但し、現実的な採用可能な速度としては上限を400m/日以下としている。
【0011】
また、出願人は、上記課題2を解決するために、砂ろ過層の表層に取り込まれた生物又は懸濁物質を人為的に取り除いて目詰まりを防止する海水の浸透ろ過方法を提案した。さらに、砂ろ過層の表層に取り込まれた前記懸濁物質等を取り除くために、例えば機械式、エアー式、噴流水式の何れかの装置を砂ろ過層の表面に設置する目詰まり防止装置を提案した。これにより、砂ろ過層を例えば潮流や波浪の水粒子速度がない静穏海域に設置することも可能にした。
【0012】
すなわち、この出願人が提案した海水の浸透ろ過方法によれば、海水浸透速度が400m/日以下のできるだけ大きい速度とすることで、短期間での取水量が大量になり、従来に比べて取水面積を小さくすることができる。また、砂ろ過層の表面に目詰まり防止装置を設置する場合は、最適な海水流動が促進される海域への設置が不要になり、海水淡水化プラントの近くで取水できる。従って、工事規模や取水施設規模を格段に小規模化することができ、これに伴い、周囲環境への工事時の影響も各段に緩和できる。
【0013】
しかしながら、海水流動を利用する方法や、砂ろ過層の表面に設置した目詰まり防止装置から水等を噴出させる方法では、砂ろ過層の表層に堆積した懸濁物質等を取り除くことができるのみで、砂ろ過層の表層よりも深い中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことはできない。特に、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度とする場合は、砂ろ過層の中間層にも目詰まりが進行しやすく、目詰まりの頻度も高くなる。そのため、砂ろ過層の表層に堆積した懸濁物質等を取り除くのみでは、海水浸透速度が低下するおそれがある。
【0014】
また、例えば特許文献1の浸透取水法は、海底を掘削した掘削部に支持砂利層5aを形成して取水配管6を埋設し、この支持砂利層5aの上部に支持砂利層5b、ろ過砂5cを形成しながら再び同じ海底面まで埋め戻す工事をすべて海底の現場で行うため、設置工事が大規模となる。また、運転開始後に取水配管6の一部に不具合が発生したときは、海底面を再び掘削して取水配管6の故障部位を補修する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第3899788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の浸透取水法は、海水流動や砂ろ過層の表面に設置した目詰まり防止装置による洗浄であるため、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことができず、海水浸透速度が低下するおそれがある点である。加えて、従来の浸透取水法は、設置時の工事が大規模となる上、運転開始後に取水配管の一部に不具合が発生すると海底面を掘削して故障部位を補修する必要があり、メンテナンス性が悪い点である。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記問題を解決し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質のみならず、中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質についても取り除くことが可能で、海底に設置する際の工事規模を小さくし、メンテナンスが容易に行える海水の浸透ろ過方法及び浸透取水ユニットを提供することを目的としてなされたものである。
【0018】
本発明の海水の浸透ろ過方法は、
砂ろ過層の深層を形成するための砂利層に取水配管を埋め込み、砂ろ過層の中間層及び表層を形成するための砂層に逆洗浄管を埋め込んだ浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成し、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを最も主要な特徴としている。
【0019】
上記の本発明によれば、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質は、逆洗浄管から噴出される水又はエアーによって撹拌され、表層に存在する懸濁物質等と共に砂ろ過層の上方に巻き上げられる。そして、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げられた懸濁物質等は、潮流や波浪による海水流動によって砂ろ過層の外部に拡散される。
【0020】
また、上記の本発明では、あらかじめ形成しておいた浸透取水ユニットを海底の設置場所で組み合わせることにより、砂ろ過層を容易に形成することができる。また、運転開始後に取水配管の一部に不具合が発生した場合は、海底を掘削して故障部位を補修する必要はなく、配管等の故障部位を含む浸透取水ユニットをユニットの単位で切り離して交換できる。
【0021】
上記本発明において、砂ろ過層を潮流や波浪による海水流動が少ない静穏海域に設置する場合は、
前記砂層の上方に吸水管をさらに設置した浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成すると共に、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止すれば良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、砂ろ過層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことで目詰まりを防止し、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度で維持し、高速ろ過を継続的に実施できる。また、本発明の浸透取水ユニットを組み合わせて砂ろ過層を形成する場合は、設置時の工事規模が格段に小さくなる上、運転開始後は故障部位を含む浸透取水ユニットをユニットの単位で切り離して交換できるので、メンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の海水の浸透ろ過方法に用いる浸透取水ユニットをトラックに積載可能なサイズとした場合の一例を示した図で、(a)は平面図のA−A’線における断面を示した図、(b)は平面図のB−B’線における断面を示した図、(c)は平面の方向から見た図である。
【図2】本発明の浸透取水ユニットの各配管を平面の方向から見た図で、(a)は吸水管の平面図、(b)は逆洗浄管の平面図、(c)は取水配管の平面図である。
【図3】本発明の浸透取水ユニットの取水配管の配置例を示した図で、(a)は5ブロックの取水配管をバス型に接続する場合の配置例を示した図、(b)は5ブロックの取水配管をそれぞれ集水ポンプピットに接続する場合の配置例を示した図である。
【図4】本発明の浸透取水ユニットの逆洗浄管の接続例を示した図で、(a)は水を噴出する構成を用いる場合のポンプとの接続例を示した図、(b)はエアーを噴出する構成を用いる場合のエアコンプレッサーとの接続例を示した図である。
【図5】本発明の浸透取水ユニットの寸法及び配置の例を示した図で、(a)は取水量を10万t/日とする場合の一例を示した図、(b)と(c)は取水量を40万t/日とする場合の一例と、他の一例を示した図である。
【図6】排水管を用いた本発明の浸透取水ユニットの実施例を示した図で、(a)は平面図のA−A’線における断面を示した図、(b)は平面図のB−B’線における断面を示した図、(c)は平面の方向から見た図である。
【図7】排水管を用いた本発明の浸透取水ユニットの他の実施例を示した図で、(a)は逆洗浄管を平面の方向から見た図、(b)は排水管の枝管を横断面の方向から見た概略図で、排水管から噴出する水の噴出角度を説明する図である。
【図8】本発明の浸透取水ユニットのユニット内における取水配管と逆洗浄管の高さ方向の配置の一例を示した図である。
【図9】吸水管や排水管を設けない本発明の浸透取水ユニットの実施例を示した図で、(a)は平面図のA−A’線における断面を示した図、(b)は平面図のB−B’線における断面を示した図、(c)は平面の方向から見た図である。
【図10】海水の浸透ろ過方法の実験フロー図である。
【図11】実験結果の一例を示した図で、(a)は濁度のデータを示した図、(b)はシルト濃度指数(SDI)のデータを示した図である。
【図12】完全閉塞と標準閉塞の経過時間と圧力損失の関係を示した図である。
【図13】本発明の海水の浸透ろ過方法のイメージ図である。
【図14】従来の直接海水取水法の概略説明図である。
【図15】海底浸透海水取水法の概略説明図である。
【図16】海底浸透部の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度に維持した高速ろ過を継続的に実施するために、砂ろ過層の目詰まりを防止するという目的を、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、逆洗浄管から噴出される水又はエアーによって撹拌し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げることで実現した。
【0025】
砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質中に含まれる目詰まりの原因となる物質は、砂ろ過層の周囲の環境に悪影響を及ぼすことがないように、砂層の上方に設けた吸水管により回収することが望ましい。
【0026】
もっとも、環境保全の必要性が比較的低い海域では、砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質中に含まれる目詰まりの原因となる物質を、砂ろ過層の周囲に排出することが許される場合もある。かかる海域に砂ろ過層を設置する場合は、海水の流速に応じて、以下の何れかの構成を選択すれば良い。
【0027】
すなわち、海水の流速が遅い海域に設置する場合は、砂層の上方に設けた排水管により人為的に目詰まりの原因となる物質を排出する構成を採用する。他方、海水の流速が速い海域に設置する場合は、潮流や波浪による海水流動によって目詰まりの原因となる物質を拡散できるので、吸水管や排水管を設けない構成を採用しても良い。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図13を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の海水の浸透ろ過方法に用いる浸透取水ユニット11の一例を示した図である。
【0029】
図1(a)及び(b)において、12は、主管12aと、主管12aと交差する方向に分岐させた複数の枝管12bからなり、海底の砂ろ過層の深層を形成するための砂利層13に埋め込まれた取水配管を示している。砂ろ過層の中間層15b,15c及び表層15aを形成するための砂層15には、主管14aと、主管14aと交差する方向に分岐させた複数の枝管14bからなる逆洗浄管14が埋め込まれている。
【0030】
図1(c)において、16は、主管16aと、複数の枝管16bからなる吸水管を示している。主管16aは、図1(a)に示すように、筐体17の対向する側面17a,17cの間に架設されている。また、主管16aと交差する方向に分岐させた複数の枝管16bの端部は、図1(b)に示すように、筐体17の側面17b,17dに支持されている。このようにすることで、吸水管16は、砂層15の表面との間に一定の間隔を空けた状態で砂層15の上方に設置されている。
【0031】
本実施例の浸透取水ユニット11は、例えば縦10m×横2.5m×高さ2.5mのサイズの筐体17の内部に、高さ0.5mの砂利層13の高さ方向の中間位置に埋め込まれた取水配管12と、高さ2.0mの砂層15の高さ方向の上部に埋め込まれた逆洗浄管14と、砂層15の表面との間に一定の間隔を空けた状態で砂層15の上方に設置された吸水管16を収容したものである。よって、この浸透取水ユニット11は、上記サイズの荷物を積載可能な荷台を有したトラックで輸送することができ、陸上における輸送が容易となる。なお、筐体17は、砂ろ過層を設置する海域の水質や海水中に含まれる物質の成分等に応じて、例えばFRP、コンクリート、金属などの中から最適な素材を選定することができる。
【0032】
図2は、浸透取水ユニット11の各配管の一例を示したもので、各配管を平面の方向から見た図である。紙面下側は海水淡水化プラントが設けられる陸側を、紙面上側は海洋側を示している。
【0033】
吸水管16の枝管16bには、図2(a)に示すように、陸側と海洋側に多数の噴出孔16ba,16bbが列設されている。本実施例においては、陸側の吸入孔16baについても海洋側の吸入孔16bbについても、主管16aの長手方向と平行に開口し、現地での設置時、噴出孔の噴出角度が水平面に対し平行の向きとなるようにしている。主管16aの陸側は海水淡水化プラントの集水ポンプと接続されている。吸入孔16ba,16bbから吸入された懸濁水は、各枝管16bから主管16に集められ、海水淡水化プラントに回収される。
【0034】
逆洗浄管14の枝管14bには、図2(b)に示すように、現地での設置時に天側となる位置に多数の噴出孔14baが列設されている。本実施例においては、噴出孔14baの噴出角度は、水平面に対し90度の向きとなるようにしている。主管14aの陸側は海水淡水化プラントの給水ポンプ又はエアコンプレッサーと接続されている。主管14aから各枝管14bに供給された水又はエアーは、噴出孔14baから、天側に垂直方向に噴出される。なお、本実施例では、一例として、現地での設置時に天側となる向きに噴出孔14baを設けているが、逆洗浄管14の噴出孔14baは、現地での設置時に例えば下向きとなるように構成しても良い。
【0035】
取水配管12の枝管12bには、表面全域に多数の取水孔が設けられている(図2(c)では図示せず)。主管12aの陸側は海水淡水化プラントの集水ポンプと接続されている。砂ろ過層内を自然浸透してきた海水は、取水孔から枝管12bに導入され、主管12aを通って海水淡水化プラントに取水される。
【0036】
本発明の海水の浸透ろ過方法は、上記のような浸透取水ユニット11をあらかじめ陸上で形成しておき、海底の設置場所で所要の数の浸透取水ユニット11を組み合わせて砂ろ過層を形成し、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を取水配管12内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、海水浸透速度を400m/日以下の速度とするものである。そして、砂ろ過層の中間層15b,15cのうち、逆洗浄管14よりも上部の中間層15bに取り込まれた生物又は懸濁物質は、逆洗浄管14の噴出孔14baから水又はエアーを水平面に対し例えば+90度の角度で上向きに又は−90度の角度で下向きに噴出することにより撹拌し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げた後、砂ろ過層の表層の上方に設置した吸水管16により、生物又は懸濁物質を含んだ撹拌水を吸水する。このようにすることで、砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質は、再び砂ろ過層の表面に堆積することなく回収されるので、砂ろ過層の目詰まりを確実に防止できる。
【0037】
なお、砂ろ過層の上方に巻き上げた生物又は懸濁物質の中には、目詰まりの原因となるシルト等の成分が含まれているほか、目詰まりの原因とはならず、むしろ、砂ろ過層における海水のろ過効果を維持するのに適した粒径の物質も含まれている。
【0038】
そこで、本実施例では、逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって砂ろ過層の上方の海中に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、吸入すべき目詰まりの原因となる物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで、吸水管16から撹拌水を吸入するように構成した。よって、本実施例では、目詰まりの原因となる物質のみを吸引し、ろ過効果を維持するのに役立つ物質は砂ろ過層に残すことができる。
【0039】
次に、本発明の浸透取水ユニット11の配置や接続の方法、浸透取水ブロック110を組み合わせて構成される取水エリアのサイズについて、具体例を示して説明する。
【0040】
図3は、浸透取水ユニット11の取水配管12の配置例を示した図である。この例では、取水配管12を7個横並びに配置して取水配管ブロック120を構成している。このような構成とする場合、取水配管ブロック120は、例えば図3(a)に示すように、共通配管18を使用して5つの取水配管ブロック120を1つにまとめて集水ポンプに接続しても良いし、あるいは図3(b)に示すように、取水配管ブロック120をそれぞれ集水ポンプピット19に個別に接続しても良い。
【0041】
図4は、浸透取水ユニット11の逆洗浄管14の接続例を示した図である。この例では、逆洗浄管14を7個横並びに配置して逆洗浄管ブロック140を構成している。本発明では、砂ろ過層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を撹拌し、砂ろ過層の上方の海中に巻き上げるために、逆洗浄管14から水を噴出させても良いし、エアーを噴出させても良い。水を噴出する構成を用いる場合は、図4(a)に示すように、逆洗浄管ブロック140を給水ポンプ20と接続する。他方、エアーを噴出する構成を用いる場合は、図4(b)に示すように、逆洗浄管ブロック140をエアコンプレッサー21と接続する。
【0042】
図5は、浸透取水ユニット11の寸法及び配置の例を示した図である。図5(a)の例では、主管12a,14a,16aの長手方向の長さが10mの浸透取水ユニット11を8又は9個横並びに配置して浸透取水ブロック110を構成し、この浸透取水ブロック110をさらに4個横並びに配置して、10m×105m(筐体の板厚を含まず)のサイズの取水エリア1100を形成している。
【0043】
本発明では、海水浸透速度を400m/日以下の速度とするが、仮に、海水浸透速度を100m/日とし、浸透取水ユニット11の1ユニットあたりの浸透面積30m2とした場合、浸透取水ユニット11の1ユニットあたりの集水量は3000m3/日となる。図5(a)の例のように、約35個の浸透取水ユニット11で構成された取水エリア1100の場合、全体での集水量は約10万t/日となる。これは現在、福岡県に設置されている「まみずピア」と同程度の取水規模である。
【0044】
また、さらに1日の取水量を例えば40万t/日に増加する必要がある場合は、図5(a)の取水エリア1100を、例えば図5(b)又は(c)のように配置して4エリア分設ければ良い。この場合、図5(b)の例では25m×約270m、図5(c)の例では210m×約25mの、従来の浸透取水方法と比較すると格段に小さい取水エリアで、1日あたり40万tの取水量が得られる。
【0045】
また、本発明では、砂ろ過層を形成する取水配管12、砂利層13、逆洗浄管14、砂層15、吸水管16をユニット化したので、設置海域の地形に応じて最適な配置を選択することができる。また、上記のように組み合わせるユニット数を変更することで、必要とされる1日あたりの取水量に対応できる。
【0046】
また、本発明によれば、一部の浸透取水ユニット11に故障が発生しても、故障した浸透取水ユニット11のみ交換すればよいため、システム全体に与える影響を小さくできる。また、浸透取水ユニット11の交換に際して海底面を掘削する必要がないため、メンテナンス工事が小規模となり、保守のコストを低減できる。
【0047】
図6は、海中に巻き上げた生物又は懸濁物質を取り除く手段として排水管を用いた場合の本発明の浸透取水ユニットの一例を示した図である。以下の説明では、吸水管16を用いた図1の実施例の構成と異なる点のみを説明する。
【0048】
図6において、22は、主管22aと複数の枝管22bからなる排水管を示している。主管22aは、図6(a)に示すように、筐体17の対向する側面17a,17cの間に架設されている。また、主管22aと交差する方向に分岐させた複数の枝管22bの端部は、図6(b)に示すように、筐体17の側面17b,17dに支持されている。このようにすることで、排水管22は、砂層15の表面との間に一定の間隔を空けた状態で砂層15の上方に設置されている。
【0049】
枝管22bには、海洋側に多数の噴出孔が列設されている(図2(b)は陸側から見た図のため不図示)。噴出孔は、主管22aの長手方向と平行に開口しており、現地での設置時、噴出孔の噴出角度が水平面に対し平行の向きとなるようにしている。主管22aの陸側は、海水淡水化プラントの給水ポンプと接続されており、主管22aから各枝管22bに供給された水は、噴出孔から海洋側に水平方向に噴出される。
【0050】
このように、本実施例は、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって撹拌し、砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に、前記表層の上方に巻き上げた後、排水管22から噴出する水によって砂ろ過層の外部に排出するものである。
【0051】
図7(a)は、排水管を用いた本発明の浸透取水ユニットの他の実施例の説明図で、排水管23を平面の方向から見た状態を示している。紙面に向かって右側は海水淡水化プラントが設けられる陸側を、紙面に向かって左側(矢印の方向)は海洋側を示している。なお、この実施例では、海洋側に他の浸透取水ユニットが隣接していないものとする。
【0052】
排水管23の枝管23bには、図7(a)に示すように、海洋側にのみ多数の噴出孔23bbが列設されている。図7(b)は排水管23の枝管23bを横断面の方向から見た概略図で、噴出孔23bbから噴出する水の噴出角度θを説明する図である。本実施例においては、噴出孔23bbにノズルを装着することで、噴出角度θは、水平面に対し30〜60度の範囲に設定している。主管23aの陸側は海水淡水化プラントの給水ポンプと接続されている。例えば、噴出孔23bbの噴出角度を45度とした場合、主管23aから各枝管23bに供給された水は、噴出孔23bbから海洋側に、水平面に対して上向き45度の角度で噴出される。
【0053】
このように、本実施例では、排水管23は、他の浸透取水ユニットが隣接していない方向に水を噴出すると共に、前記水の噴出角度は水平面に対して30〜60度の範囲となるように構成した。
【0054】
よって、本実施例では、排水管23によって排出した目詰まりの原因となる懸濁物質等が他の浸透取水ユニットの砂ろ過層の上部に沈降することはない。また、本実施例では、噴出孔23bbから噴出される水が放物線状になって、目詰まりの原因となる懸濁物質等をより遠方に排出することができる。
【0055】
ところで、海底に堆積した生物又は懸濁物質を不必要に周囲に排出すると、周辺の自然環境に何らかの影響を及ぼすおそれがある。
【0056】
そこで、本実施例では、逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって砂ろ過層の上方の海中に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、外部に排出すべき目詰まりの原因となる物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで排水管23から水を噴出するように構成した。よって、本実施例では、目詰まりの原因となる物質のみを外部に排出することで、周辺の自然環境への影響を極力小さくすることができる。
【0057】
図8は、本発明の浸透取水ユニット11のユニット内における取水配管12と逆洗浄管14の高さ方向の配置の一例を示した図である。本発明では、取水配管12は、ろ過能力が低下しないように、浸透取水ユニット11の筐体17の底面17eからあまり離れ過ぎない方が良い。具体的には、取水配管12の管外径をDとするとき、取水配管12のCOP(パイプ中心)高さは、底面17eから上方に0.75D〜1,25Dの範囲とすれば良い。
【0058】
また、逆洗浄管14は、砂ろ過層の表層に堆積し、かつ中間層に取り込まれた懸濁物質等を広範囲に逆洗浄するためには、できるだけ深い位置に設置する方が有利であるが、設置位置が深すぎると水圧を高くする必要があるので、両者のバランスを考慮する必要がある。具体的には、逆洗浄管14の管外径をdとするとき、逆洗浄管14のCOP(パイプ中心)高さは、砂ろ過層の砂層15の表面15dから下方に1.0d〜5.0dの範囲とすれば良い。
【0059】
図9は、海中に巻き上げた生物又は懸濁物質を取り除く手段として、海水流動を利用する場合の本発明の浸透取水ユニットの一例を示した図である。図9の構成は、吸水管16または排水管22が存在しない点を除き、図1の実施例と同じである。この実施例では、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質は、逆洗浄管14から噴出される水又はエアーによって砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げられ、潮流又は波浪による海水流動によって砂ろ過層の外部に拡散される。
【0060】
次に、本発明の海水の浸透ろ過方法において、海水浸透速度を400m/日以下の速度とする理由について説明する。
【0061】
図10は本発明の海水の浸透ろ過方法の実験フローを示した図である。図10において、31は海底から50cm、水面から3.3mの位置に沈めた取水ポンプ、32はこの取水ポンプ31によって汲み上げた海水を溜める原水タンクである。原水タンク32に溜められた海水は、原水ポンプ33によって汲み上げられ、カラム装置34に供給される。カラム装置34には砂層34aと砂利層34bからなるろ過層が設けられており、このろ過層を通ったろ過水は、処理水タンク35に導かれる。
【0062】
図10に示した実験フローでは、処理水タンク35のろ過水をカラム装置34に逆送する逆送ポンプ36を介設した逆送配管37と、カラム装置34に供給された海水がオーバーフローしないように処理水タンク35に案内するオーバーフロー管38を設けている。
【0063】
図10に示したフローの実験装置の取水ポンプで取水した海水を、カラム装置のろ過層を通過させたろ過水の濁度及びシルト濃度指数SDIを測定した。この測定に使用したろ過層は上方から、φ0.45mmの砂層(厚さ900mm)、φ2〜4mmの砂利層(厚さ75mm)、φ4〜8mmの砂利(厚さ75mm)、φ6〜12mmの砂利(厚さ150mm)である。
【0064】
測定結果を図11に示す。ここで、濁度のデータを得た原水には、図11(a)の浸透取水速度が0m/日で示した濁度となるような量のシルトを予め添加している。図11の結果より、浸透取水速度を50〜400m/日としても、濁度やシルト濃度指数SDIは浸透取水速度を従来の1〜8m/日とした場合と変わらず、同等の処理性能を示すことが確認された。
【0065】
ところで、前記特許文献1の発明では、海底の砂ろ過層内に発現される海水浸透流速を1〜8m/日とし、砂ろ過層の水深は、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くすることとしている。
【0066】
この特許文献1の発明において、海水の前記浸透取水速度を実現する条件として、砂ろ過層の水深を、当該砂ろ過層の表層部分の砂が50cm以上移動する完全移動限界水深よりも深く、かつ1cm以上移動する表層移動限界水深よりも浅くする理由は、以下の通りである。
【0067】
波によって海底面にある砂粒子がある程度移動することが確認される最大水深である表層移動限界水深における砂ろ過層の表層の砂が1cm以上移動することは海底の砂が洗われる程度であって、この水深よりも深ければ、砂ろ過層表層の砂粒子の移動は殆どないからである。
【0068】
一方、波の作用によって海底の砂ろ過層が侵食されることが確認される最大水深である完全移動限界水深における砂ろ過層の表層の砂が50cm以上移動することは海底の砂ろ過層の侵食が認められることになるからである。
【0069】
また、特許文献1では、シルト粒子の粒径は、一般におおよそ0.005mm〜0.074mmとし、シルトが動き出さない海水の流速、すなわち移動限界流速を求めている。この移動限界流速は、シルト粒子の限界実流速に対して面積空隙率(=0.35)を乗じた値となる。粒径と限界実流速の関係を表すグラフを使って求めたシルト粒子の限界実流速は、粒径が0.08mmのシルト粒子の場合、0.026cm/sとしている。
【0070】
従って、シルトの移動限界流速の上限は、0.026×0.35×24×3600=786.24cm/日で、約8m/日となる。この結果から、砂ろ過層内に巻き込んだシルトによる目詰まりを生じさせないためには、最大でも海水浸透流速は、8m/日以下に設定すべきであるとしている。
【0071】
また、砂ろ過層に十分な酸素を供給して生物膜を死滅に至らせないようにするためには、少なくとも1m/日の海水浸透流速が必要であるとしている。
【0072】
これらより、特許文献1の発明では、前記の条件において海水の浸透取水速度を1〜8m/日とすることで、砂ろ過層の表層は海中に発現する波や流れなどにより適度に攪拌され、砂ろ過層表面に堆積したごみ、シルト等の懸濁物を除去することができ、安定した取水を確保できるとしている。
【0073】
このように特許文献1の発明で規定された海水の浸透取水速度の上限は、海底の表層の砂ろ過層にシルトが進入または混入しないための条件である。この特許文献1におけるシルト吸収抑制の限界となる8m/日の求め方を踏襲すれば、発明者らが1〜8m/日の浸透取水速度の場合と同等の処理性能を示すことを確認した、例えば400m/日の浸透取水速度とした場合は、シルトを吸収する傾向となる。
【0074】
つまり、シルトを攪拌もしくは運ぼうとする流れ場がないものとすれば、浸透取水速度を400m/日とした場合のシルトの砂ろ過層への吸収速度は、(海水の浸透取水速度cm/s)×(砂粒径による空隙率)になると推察できる。従って、400m/日の浸透取水速度の場合、シルトの砂ろ過層への吸収速度は、{40000cm/(24×3600)}×0.35=0.16cm/sとなる。また、酸素を供給するための限界流速1.0m/日以上を実現するためには、{100cm/(24×3600)}×0.35=0.0004cm/sとなる。
【0075】
計算上では、海水の浸透取水速度を400m/日とした場合は、目詰まりの要因となるシルト粒子が1時間当り約6m(≒0.16×3600/100)も砂ろ過層に浸入することになって、実現性のある洗浄は困難である。
【0076】
しかしながら、シルト粒子はろ過砂の空隙に比べて非常に小さいことから、いわゆる標準閉塞の形式をとり、シルトが水と共に移動する際に、ろ過砂との分子間力(物理吸着、静電気)によって捕捉されて堆積するため、表層付近にて付着滞留していく。
【0077】
先に説明した図11(a)に示す、シルト成分を添加した実験においては、400m/日の条件下では、2時間後にシルトはほぼ表層に堆積し、砂ろ過層の内部には1cm程度しか侵入しないことを確認した。
【0078】
また、標準閉塞は空隙よりも大きな粒子に対しても起こる完全閉塞と異なり、粒子が空隙孔を完全に密閉するために、図12に示すように、シルト粒子の吸着によって空隙孔が時間をかけて狭くなる。これは、空隙の保持閾値まで緩やかに圧力損失が生じるために、シルトを除去し続けた場合でも長時間の浸透が可能であることを意味する。この経過時間は、ろ過材の条件や海水条件(シルト濃度)によっても異なり、この時間が強制洗浄の間隔となる重要な要素となる。
【0079】
本発明は、発明者らの実験結果と上記の知見に基づき、従来の常識であり、タブーであったろ過材の海水浸透速度の高速化を実現することで、工事規模や取水施設規模の格段の小規模化を実現したものである。
【0080】
海水よりも浸透性が高い地下水を使用した試験を発明者らが行った結果によれば、600m/日の浸透速度までは正常に連続運転することができた。但し、浸透速度を700m/日とした場合は、必要な浄化水量が取水量よりも多くなって、砂ろ過層で連続的に水が流れない状態となり、正常な取水ができなかった。従って、海水の浸透取水する際のろ過方法を対象とする本発明では、安全率を約1.5として、400m/日の海水浸透速度を上限とした。
【0081】
以上の理由により、本発明の海水の浸透ろ過方法では、海中から砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を取水配管内に導入して海水を浸透取水する際、海水浸透速度を400m/日以下の速度としている。
【0082】
本発明において、海水浸透速度を400m/日とした場合は、例えば海水浸透速度が8m/日の従来に比べて取水量が50倍となるので、取水エリアの面積を1/50にすることができる。また、最適な海水流動が促進される海域への設置が不要になり、図13に示すように、海水淡水化プラント41の近くに浸透取水施設42を設置できて、工事規模や取水施設規模の格段の小規模化が可能になって、周囲環境への工事時の影響も各段に緩和できる。
【0083】
そして、本発明の海水の浸透ろ過方法では、砂ろ過層の表層のみならず、中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を取り除くことで目詰まりをより確実に防止するので、海水浸透速度を400m/日以下のできるだけ大きい速度で維持し、高速ろ過を継続的に実施できる。
【0084】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0085】
例えば、上記の実施例では、浸透取水ユニット11をあらかじめ形成しておく場合の例を開示したが、本発明の海水の浸透ろ過方法は、浸透取水ユニット11を使用せずに、海底の設置場所で取水配管12や逆洗浄管14を埋め込んで砂ろ過層を形成する方法でも良い。
【0086】
具体的には、海底の砂ろ過層内の深層に取水配管を埋め込み、前記砂ろ過層の中間層に水又はエアーを噴出する逆洗浄管を埋め込み、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止する海水の浸透ろ過方法である。
【0087】
また、上記のように浸透取水ユニットを使用しない場合についても、砂ろ過層の表層の上方に、吸水管をさらに設置し、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することで、周辺環境に悪影響を及ぼすことなく砂ろ過層の目詰まりを防止できる。
【0088】
あるいは、砂ろ過層の表層の上方に、排水管をさらに設置し、砂ろ過層の中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記排水管から水を噴出することで、海水流動の少ない静穏な海域においても砂ろ過層の目詰まりを防止できる。
【0089】
また、上記の実施例では、逆洗浄管14から水又はエアーを噴出させて砂ろ過層の中間層を洗浄する構成を開示したが、逆洗浄管14による中間層(砂層)の洗浄に加え、取水配管12に対し所要のタイミングで水を逆流させて枝管12bの取水孔から水を噴出させることにより、砂ろ過層の深層(砂利層)を洗浄するように構成しても良い。
【0090】
また、上記の実施例では、吸水管16を用いる実施例と、排水管22,23を用いる実施例を別々に説明したが、例えば海水淡水化プラントに設置するポンプの集水と給水を切り換えることにより、1つの装置で吸水管の機能と排水管の機能を兼ね備えるように構成しても良い。
【0091】
また、本発明の浸透取水ユニットの砂利層及び砂層に用いるろ過材は、自然の砂利や砂に限らず、材質は問わない。例えば、環境に影響の少ない人工粒体セラミックや人工ガラスを砂利層又は砂層のろ過材として用いても良い。このような人工のろ過材を用いると、一般にはコストが高くなるという問題があるが、本発明の海水の浸透ろ過方法は、従来の方法とは異なり、取水エリアの面積を格段に小さくできるので、上記のような人工のろ過材も採用が容易となる。
【符号の説明】
【0092】
11 浸透取水ユニット
12 取水配管
13 砂利層
14 逆洗浄管
15 砂層
16 吸水管
22 排水管
23 排水管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂ろ過層の深層を形成するための砂利層に取水配管を埋め込み、砂ろ過層の中間層及び表層を形成するための砂層に逆洗浄管を埋め込んだ浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成し、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする海水の浸透ろ過方法。
【請求項2】
前記砂層の上方に吸水管をさらに設置した浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項1に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項3】
前記砂ろ過層の上方に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、吸入すべき物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで前記吸水管から前記攪拌水を吸入することを特徴とする請求項2に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項4】
前記砂層の上方に排水管をさらに設置した浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記排水管から水を噴出して前記砂ろ過層の外部に排出することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項1に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項5】
前記砂ろ過層の上方に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、外部に排出すべき物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで前記排水管から水を噴出することを特徴とする請求項4に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の海水の浸透ろ過方法に用いる浸透取水ユニットであって、前記排水管は、他の浸透取水ユニットが隣接していない方向に水を噴出すると共に、前記水の噴出角度は水平面に対して30〜60度の範囲としたことを特徴とする浸透取水ユニット。
【請求項7】
海底の砂ろ過層内の深層に取水配管を埋め込み、前記砂ろ過層の中間層に水又はエアーを噴出する逆洗浄管を埋め込み、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする海水の浸透ろ過方法。
【請求項8】
前記砂ろ過層の表層の上方に、吸水管をさらに設置する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項7に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項9】
前記砂ろ過層の表層の上方に、排水管をさらに設置する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記排水管から水を噴出して前記砂ろ過層の外部に排出することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項7に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項1】
砂ろ過層の深層を形成するための砂利層に取水配管を埋め込み、砂ろ過層の中間層及び表層を形成するための砂層に逆洗浄管を埋め込んだ浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成し、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする海水の浸透ろ過方法。
【請求項2】
前記砂層の上方に吸水管をさらに設置した浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項1に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項3】
前記砂ろ過層の上方に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、吸入すべき物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで前記吸水管から前記攪拌水を吸入することを特徴とする請求項2に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項4】
前記砂層の上方に排水管をさらに設置した浸透取水ユニットをあらかじめ形成しておき、海底の設置場所で所要の数の前記浸透取水ユニットを組み合わせて前記砂ろ過層を形成する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記排水管から水を噴出して前記砂ろ過層の外部に排出することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項1に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項5】
前記砂ろ過層の上方に巻き上げられた生物又は懸濁物質の沈降速度差を利用して、外部に排出すべき物質が前記砂ろ過層に沈降するタイミングで前記排水管から水を噴出することを特徴とする請求項4に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の海水の浸透ろ過方法に用いる浸透取水ユニットであって、前記排水管は、他の浸透取水ユニットが隣接していない方向に水を噴出すると共に、前記水の噴出角度は水平面に対して30〜60度の範囲としたことを特徴とする浸透取水ユニット。
【請求項7】
海底の砂ろ過層内の深層に取水配管を埋め込み、前記砂ろ過層の中間層に水又はエアーを噴出する逆洗浄管を埋め込み、海中から前記砂ろ過層内を自然浸透してきた海水を前記取水配管内に導入して海水を取水する海水の浸透ろ過方法であって、
海水浸透速度を400m/日以下の速度とし、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げることにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする海水の浸透ろ過方法。
【請求項8】
前記砂ろ過層の表層の上方に、吸水管をさらに設置する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記吸水管から生物又は懸濁物質を含んだ攪拌水を吸入することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項7に記載の海水の浸透ろ過方法。
【請求項9】
前記砂ろ過層の表層の上方に、排水管をさらに設置する海水の浸透ろ過方法であって、
前記中間層に取り込まれた生物又は懸濁物質を、前記逆洗浄管から水又はエアーを噴出して撹拌し、前記砂ろ過層の表層に堆積した生物又は懸濁物質と共に前記表層の上方に巻き上げた後、前記排水管から水を噴出して前記砂ろ過層の外部に排出することにより、前記砂ろ過層の目詰まりを防止することを特徴とする請求項7に記載の海水の浸透ろ過方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−75268(P2013−75268A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217388(P2011−217388)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(305011053)株式会社ナガオカ (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【出願人】(305011053)株式会社ナガオカ (8)
【Fターム(参考)】
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