海洋性発光バクテリアの発光制御方法及び海洋性発光バクテリアを用いた環境計測センサー
【課題】含まれる成分の調整を行って、海洋性発光バクテリア菌体自体の発光度を高める海洋性発光バクテリアの発光制御方法及び海洋性発光バクテリアを用いた環境計測センサーを提供する。
【解決手段】海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、2)[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源、又は[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源を用い、場合によっては、培地に更に、4)[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性のマグネシウム化合物からなるマグネシウム源を含む。
【解決手段】海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、2)[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源、又は[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源を用い、場合によっては、培地に更に、4)[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性のマグネシウム化合物からなるマグネシウム源を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌体数を増加させないで、増加させる発光度の制御方法及び海洋性発光バクテリアを用いた環境計測センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
発光バクテリアは生物発光を伴う細菌類のことをいい、バイオアッセイやバイオセンサー等の種々の分野に用途が広がっている。発光バクテリアは海水由来のものが多く、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio Fischeri)を使用する場合が圧倒的に多い。このビブリオ・フィシェリは活性が維持されていれば、490nm付近に極大を示す青緑色の光を発する性質があり、重金属等の有害物質と一定時間接触することによって、その活性が失われ、同時に発光強度が減衰する。この発光阻害率を測定し、毒性を評価することが一般的に行われている。このビブリオ・フィシェリの培養方法としては、Nutrient Broth(3%NaClを含む)、Marine Broth等の栄養の富んだ液体培地が使用されている。これは、生物発光に、培地の栄養が富んだ状態で、菌数が高密度に増殖した場合に発光が得られるクオラムセンシング(quorum sensing)が関与しているためである。
【0003】
一方、特許文献1には、被検物質の毒性を海洋性発光バクテリアを用いて評価するに際して、海洋性発光バクテリアと被検物質を接触させた際に生じる海洋性発光バクテリアの生物活性(発光作用)の異常な高まりを抑制する物質を見い出して、毒性の正しい評価を得ることができる毒性評価方法が開示されている。
また、特許文献2には、生き餌としての海産動物に共生又は付着させる発光細菌を、アスパラギン酸、システイン、シスチン、又はキサトンを添加した培地で培養して発光強度を高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−85929号公報
【特許文献2】特開2004−113203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、海洋性発光バクテリアと被検物質とを接触させた際に、海洋性発光バクテリアの異常な発光を抑制するためのもので、海洋性発光バクテリアの生物活性を、カリウム、マグネシウム、リン及び糖からなる群より選ばれる一種以上を加えて、抑制して測定するものであって、海洋性発光バクテリア自体の発光度を高めて、被検物質との反応を高めるものではない。
また、特許文献2には、発光細菌を、栄養を付加した培地で培養し、菌体の数を増加させて発光強度を増加させるもので、本願発明のように、菌体の数を増加させないで、菌体自体の発光度を高めるものではない。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、含まれる成分の調整を行って、海洋性発光バクテリア菌体自体の発光度を高める海洋性発光バクテリアの発光制御方法及び海洋性発光バクテリアを用いた環境計測センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、2)[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源(例えば、カリウム塩)を用いる。
【0008】
また、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、3)[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源(炭酸塩又は炭酸水素塩)を用いる。
【0009】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、硫黄源が[S]換算で、0.0046g/L未満では、海洋性発光バクテリアの発光誘導が起こらず、硫黄源が[S]換算で、4.6g/Lを超えると、海洋性発光バクテリアの発光の誘導が阻害される。この理由は、硫黄源の濃度が高くなると過剰の硫黄がバクテリアに対して毒性を発揮するものと思われる。
【0010】
また、実験によると、カリウム源(第1の発明)、炭酸源(第2の発明)についても、上記範囲未満では発光の誘導が起こらず、上記範囲を超えると溶液自体が海洋性発光バクテリアに対して毒性を発揮する。なお、炭酸源[CO3]については、カリウム源[K]に比較して有効濃度の範囲が狭くなっている。
また、第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、塩化ナトリウムについては、海洋性発光バクテリアが死滅しない範囲であればよく、実験においては、28.1g/Lを使用したが、例えば、20〜50g/L程度であっても、本発明は適用される。
【0011】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩及びチオ硫酸塩のいずれか1又は2以上からなるのが好ましい。ここで、硫酸塩、亜硫酸塩及びチオ硫酸塩には、一価、二価の金属塩(但し、毒性を有する重金属は除く)、アンモニウム塩等がある。なお、実験によると硫黄単体であっても適用可能である。場合によっては、前記硫黄源は、システイン又はシスチンのいずれかを含む。
【0012】
また、前記カリウム化合物は、硫酸、塩酸、酢酸あるいはその他の有機酸とのカリウム塩(但し、毒性を有する物質は除く)があるが、特にKCl(塩化カリウム)が最も好ましい。
前記炭酸源は、炭酸塩又は炭酸水素塩と、一価、二価の金属塩(重金属等毒性を有する物質を除く)からなるのが好ましい。
【0013】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記培地に、更に、4)[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性のマグネシウム化合物からなるマグネシウム源を含むことができ、これによって、発光性が増す。なお、ここで、マグネシウム化合物が[Mg]換算で0.092g/L未満では発光増加の効果がなく、9.2g/Lを超えると毒性を発揮するので好ましくない。
【0014】
第3の発明に係る環境計測センサーは、海洋性発光バクテリアを用いた試験器であって、透明の試験管の底部にフィブロインを配置し、その上に前記海洋性発光バクテリアを固定している。ここで、前記フィブロインは膜状となって、前記試験管の底に貼着されているのが好ましい。また、前記フィブロインにはシステイン又はシスチンが含まれているのがより好ましい。
【0015】
なお、第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法及び第3の発明に係る環境計測センサーにおいて、前記海洋性発光バクテリアは、例えば、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、又はフォトバクテリウム・フォスフォレム(Photobacterium phosphoreum)があるが、ビブリオ・フィシェリを使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高い状態で維持する方法であって、海洋性発光バクテリアの培地に、適正範囲の塩化ナトリウムと、硫黄源と、カリウム源又は炭酸源を含むので、他の成分がなくても、海洋性発光バクテリアの発光強度を高めることができる。
特に、従来は海洋性発光バクテリアの培地として、海水又は人工海水を使用する傾向があったが、海水中のCaCl2等は必要でなくなった。
更に、従来は、海洋性発光バクテリアの発光強度を上昇させようとする場合、菌体数を増加させる方法が一般的であったが、菌体数を増加させないでも、海洋性発光バクテリアの発光強度を向上させることができるので菌体を用いて毒性評価試験等の精度が高まることになった。
【0017】
更に、第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、培地が[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性マグネシウム化合物(例えば、MgCl、MgSO4)を含むことによって、更にビブリオ・フィシェリの発光性が増し、試験精度が向上する。
【0018】
また、第3の発明に係る環境計測センサーは、海洋性発光バクテリアを用いた試験器であって、透明の試験管の底部に海洋性発光バクテリアが添加(固定)されたフィブロインを配置している。海洋性発光バクテリアが担持されたフィブロインの保存は凍結によって行われ、使用にあっては解氷して常温に戻す。この状態で発光するので、被試験液を試験管に入れて発光度の変化を検査する。
【0019】
なお、解氷したフィブロインに更に、1)人工海水、2)塩化ナトリウムを含む培地に[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源を用いる溶液、又は3)塩化ナトリウムを含む培地に、[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源を含む溶液を入れて、海洋性発光バクテリアを活動させ、この後、試験しようとする被試験液を入れることもできる。この場合更に、海洋性発光バクテリアの栄養源を加えてもよい。
【0020】
この被試験液が毒性を有すれば、発光度が下がり、被試験液に毒性がなければ発光度は変化しない。従って、この環境計測センサーの持ち運びが容易となり、簡便な手法で海洋性発光バクテリアを再生させて、被試験液の検査ができる。
特に、フィブロインが膜状となって、試験管の底に貼着されている場合には、試験内に液状物がないので、取り扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】人工海水中の栄養源の濃度を変えた場合の海洋性発光バクテリアの増殖性と発光性を示すグラフである。
【図2】人工海水(NaClは当然含む)中の一成分を欠如させた場合のビブリオ・フィシェリの発光性とpHを調べたグラフである。
【図3】人工海水(NaClは当然含む)中の一成分のみを使用した場合のビブリオ・フィシェリの発光性とpHを調べたグラフである。
【図4】人工海水(NaClは当然含む)中の2成分を欠如させた場合のビブリオ・フィシェリの発光性を調べたグラフである。
【図5】人工海水(NaClは当然含む)中の3成分を欠如させた場合のビブリオ・フィシェリの発光性を調べたグラフである。
【図6】(A)〜(E)は無機質の硫黄源とビブリオ・フィシェリの発光性及びCFU/mLとの関係を調べたグラフである。
【図7】(A)〜(F)は有機質の硫黄源とビブリオ・フィシェリの発光性及びCFU/mLとの関係を調べたグラフである。
【図8】疎水性アミノ酸とビブリオ・フィシェリの発光性の関係を示すグラフである。
【図9】親水性アミノ酸とビブリオ・フィシェリの発光性を関係を示すグラフである。
【図10】親水性アミノ酸の種類とビブリオ・フィシェリの発光性との関係を示すグラフである。
【図11】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄依存性発光に影響を及ぼす因子との関係を示すグラフである。
【図12】カリウムのハロゲン化合物とビブリオ・フィシェリの発光度との関係を示すグラフである。
【図13】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄依存性発光に影響を及ぼす因子との関係を示すグラフである。
【図14】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄(SO42−)依存性発光に影響を及ぼす因子の説明図である。
【図15】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄(SO32−)依存性発光に影響を及ぼす因子の説明図である。
【図16】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄(S2O32−)依存性発光に影響を及ぼす因子の説明図である。
【図17】システイン及びシスチン依存型発光を促進する因子の説明図である。
【図18】(A)、(B)、(C)は本発明の一実施の形態に係る環境計測センサーの説明図である。
【図19】フィブロインに固定されたビブリオ・フィシェリの発光性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施の形態に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法について説明する。海洋性発光バクテリアの一例として、ビブリオ・フィシェリを用いた場合、培地として、塩化ナトリウム2〜4g/Lの水溶液に、硫黄源となる、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムを[S(硫黄)]換算で、0.0046〜4.6g/L(好ましくは、0.008〜3g/L、より好ましくは、0.01〜1g/L)混入する。なお、塩化ナトリウムは、ビブリオ・フィシェリが生存可能な条件で上下することはできる。
【0023】
次に、この培地に更に、カリウム源又は炭酸源を加える。カリウム源として、KClを用いる場合は、[カリウム(K)]換算で0.00403〜4.03g/L(好ましくは、0.01〜2g/L、より好ましくは、0.1〜1g/L)混入する。
炭酸源の場合は、[炭酸(CO3)]換算で、0.079〜3.93g/L(好ましくは、0.08〜2.5g/L、更に好ましくは、1〜2g/L)入れる。なお、硫黄源、塩化ナトリウム、炭酸源、カリウム源の投入順番は任意である。
【0024】
これによって、ビブリオ・フィシェリの菌体が発光できる培地ができるので、ビブリオ・フィシェリの種菌を入れ、必要に応じて栄養源となる糖や蛋白を入れて、菌数を増やすことができる。
このようにしてできたビブリオ・フィシェリ液を、毒性物質を有する水(被試験液)等の試薬として使用する。被試験塩が毒性を有すると、ビブリオ・フィシェリの発光誘導性に支障が生じるので、その発光度を測定することによって、被検物質の毒性を判定する。
【0025】
また、前記した培地(溶液)に、[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性マグネシウム化合物(例えば、MgCl、MgSO4)からなるマグネシウム源を含むようにしてもよい。これによって、更にビブリオ・フィシェリの発光性が増し、試験時の輝度変化が大きくなり、試験精度が向上する。
【0026】
前記実施の形態においては、海洋性発光バクテリアとしてビブリオ・フィシェリを用いたが、他の海洋性発光バクテリア(例えば、ビブリオ・ハーベイ、フォトバクテリウム・フォスフォレム等)であっても本発明は適用できる。
【0027】
続いて、本発明の一実施の形態に係る環境計測センサー10について説明する。図18(A)に示すように、透明の試験管11を用意し、底部に1)増殖初期(増殖を開始した時期)、2)増殖中期(盛んに増殖している時期)、3)増殖後期(増殖状態が飽和した時期)、4)定常期(増殖が完了して一定状態となった時期)のビブリオ・フィシェリ(海洋性発光バクテリアの一例)を固定したフィブロイン12を配置する。フィブロインにビブリオ・フィシェリを固定する方法は、フィブロインにビブリオ・フィシェリを含む液を染み込ませて徐々に乾燥して行う。これによって、環境計測センサー10は完成するが、保存する場合には、そのまま冷凍保存してビブリオ・フィシェリを休眠状態とする。この場合、システイン又はシスチンをフィブロインに含ませると、強度を有する膜が形成されて試験管11の底に貼着すると共に、ビブリオ・フィシェリの硫黄源及び栄養源となって発光性も増加する。
【0028】
この環境計測センサー10を使用する場合は、試験管11に入れたフィブロイン12を解凍し、図18(B)に示すように、被試験液14をいれる。ここで、被試験液14が毒性を有する場合、図18(C)に示すように、試験管11からの発光が無くなるか減少する。被試験液14が毒性を有さない場合は、発光度に変化はない。なお、試験管11の発光度は発光度計(ルミノメーター)で計測する。
【0029】
なお、被試験液14を入れる前に、人工海水(ASW)又は、本発明の一実施の形態に係る、1)人工海水、2)塩化ナトリウムを含む培地に、[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源(例えば、硫酸塩、亜硫酸塩、及びチオ硫酸塩のいずれか1又は2以上)と、[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源(例えば、カリウム塩)を用いる溶液、3)塩化ナトリウムを含む培地に、[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源(例えば、炭酸塩又は炭酸水素塩)を含む溶液を少量(例えば3〜10cc)入れてもよい。
【実施例】
【0030】
続いて本発明の作用、効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、海洋性発光バクテリアの発光に寄与する物質について、種々の実験をして確認した結果について説明する。また、以下の実験においては、海洋性発光バクテリアとしてビブリオ・フィシェリを使用したが、他の海洋性発光バクテリアであってもよい。
【0031】
図1はそれぞれ、人工海水(ASW)に栄養源となるビーフイクストラクト(beef
extract)と、バクトペプトン(Bacto peptone)を、それぞれ10g/L(SWM(10))、5g/L(SWM(5))、3g/L(SWM(3))、0g/L(SWM(0))加えた場合の、ビブリオ・フィシェリの増殖性と発光性の関係を示すグラフである。ビーフイクストラクト及びバクトペプトンを除くと、菌体数の増加は抑えられるが、ビブリオ・フィシェリの発光性については、完全に低下するものではない。従って、図1からビブリオ・フィシェリの発光性に影響するのは、栄養源だけではないことが判る。
【0032】
図2は人工海水中の1成分(MgSO4、NaHCO3、MgCl2、CaCl2、KCl)を除いた他の4成分(NaClは当然含む、以下同じ)でのビブリオ・フィシェリの発光性と、その時の培地(水溶液)のpHの関係を示すグラフである。なお、図中括弧付きの成分が欠如している(以下同じ)。
図2のA)からMgSO4の欠乏条件では、ビブリオ・フィシェリの十分な発光性は得られないことが判る。
【0033】
図3には、人工海水中の各成分とビブリオ・フィシェリの発光性との関係を示すが、MgSO4のみでは、十分な発光性は得られないことが判る。
【0034】
図4は、人工海水中の2成分を欠如した(即ち、残り3成分を用いた)ビブリオ・フィシェリの発光性を調べたグラフであるが、MgSO4が存在しても、KCl及びNaHCO3の欠乏条件下では、ビブリオ・フィシェリの十分な発光性は得られないことが判る。
【0035】
次に、人工海水中の3成分を除いた2成分とビブリオ・フィシェリの発光性との関係を、図5に示すが、ビブリオ・フィシェリの発光に及ぼすMgSO4の効果は、KCl又はNaHCO3の存在下で誘導される(即ち、増加する)ことが判る。
【0036】
図6(A)〜(E)は、人工海水中のKCl、CaCl2、MgCl2、NaHCO3をそのまま使用し、更に硫黄源として、種々の化合物を用いた場合のビブリオ・フィシェリの発光性と菌数(CFU/mL、即ち、菌の増加又は減少を表す)について調べた結果を示すが、硫黄化合物であれば、ナトリウム、カリウム等の硫酸化合物、又は亜硫酸化合物、場合によってはチオ硫酸化合物であっても、ビブリオ・フィシェリの発光性に寄与すると考えられる。なお、図示していないが、鉄の硫酸化合物の場合は、硫酸第一鉄の濃度が高くなると、ビブリオ・フィシェリの発光強度が減少する。これは、鉄イオンの濃度が上昇すると、ビブリオ・フィシェリに対して毒性を生じ、生菌数が減少するからである。なお、このことから、重金属の場合は菌体に対して有毒性を有する場合があり、このような塩は使用できないことになる。
【0037】
図7(A)〜(F)は、硫黄源として有機物(例えば、アミノ酸)、具体的には、システイン(Cysteine)、シスチン(Cystine)、メチオニン(Methionine)、セリン(Serine)、ホモシステイン(Homocysteine)、タウリン(Taurine)を用いた場合の発光性と菌数(CFU/mL)について調べた。この結果、システイン(Cysteine)、シスチン(Cystine)についは強い発光性が認められるが、その他のメチオニン(Methionine)、セリン(Serine)、ホモシステイン(Homocysteine)、タウリン(Taurine)については発光性に大きく寄与しないことが判る。
【0038】
図8は疎水性(非極性)アミノ酸と人工海水(MgSO4無し)を用いた場合のビブリオ・フィシェリの発光度との関係を示すグラフである。ここで、Alaはアラニン、Valはバリン、Leuはロイシン、Ileはイソロイシン、Pheはフェニルアラニン、Trpはトリプトファン、Metはメチオニン、Proはプロリンを示し、それぞれ1mg/L、10mg/L、100mg/Lで実験を行った。この結果、疎水性アミノ酸には発光誘導効果はないことになる。
【0039】
図9には、親水性アミノ酸と人工海水(MgSO4無し)を用いた場合のビブリオ・フィシェリの発光度との関係を示すグラフである。ここで、Glyはグリシン、Tyrはチロシン、Serはセリン、Thrはトレオニン、Cysはシステイン、Asnはアスパラギン、Glnはグルタミンを示す。図9からも明らかなように、システインの場合、ビブリオ・フィシェリの光度が増すことが確認されている。これは、前述のように、システインが分子式C3H7NO2Sで示されるように、硫黄源を含んでいるからと解される。なお、L−AsnやL−Glnでも発光性は見られるが、24時間後は減少している。
【0040】
次に、親水性(電荷あり)アミノ酸と人工海水(MgSO4無し)を用いた場合の、ビブリオ・フィシェリの発光度を図10に示す。ここで、Lysはリシン、Argはアルギニン、Hisはヒスチジン、Aspはアスパラギン酸、Gluはグルタミン酸を示す。塩基性電荷を持つアミノ酸では14時間後にやや発光が見られるが、24時間後では低下している。従って、ビブリオ・フィシェリの発光度とアミノ酸の親水性とは重要な関係はないものと思慮される。
【0041】
図11には、NaClが2.81g/L、MgSO4・7H2Oが3.5g/Lの存在を前提にして、硫黄依存型発光を誘導するファクターをカチオン(Na+、K+、NH4+)とアニオン(Cl−、HCO3−、CO32−、NO3−)とのについて調べた結果を示す。アニオンがNO3−の場合は、いずれのカチオンでも減少傾向を示し、HCO3−、CO32−
については一部(NaHCO3、NH4HCO3、Na2CO3、(NH4)2CO3)の化合物については発光量が増加する。
【0042】
図11に示すように、カチオン(K+ )について、Cl−の場合増加するが他のカチオンの場合は減少傾向となる。そこで、硫黄依存型発光を有するファクターであるカリウムイオン(K+)について塩素イオン(Cl−)以外のハロゲンイオン(F、Br、I)であっても、発光性に寄与すると考えられる。また、アンモニウムイオンは、ビブリオ・フィシェリの発光度に寄与しないことが判る。
【0043】
図12には、KBr、KI、NaBr、NaIの濃度を変えて混合した場合の例を示すが、カリウムのハロゲン化合物については、発光性を得ることができることが判る。一方、カリウムの代わりにナトリウムを用いた場合は、発光誘導は起こらないので、ハロゲン化合物が大きく発光性に影響しているのではなく、カリウムが発光誘導に寄与することが判る。
【0044】
図13には、NaClが2.81g/L、L−システインが10mg/Lを前提にして、
カチオン(Na+、K+、NH4+)とアニオン(Cl−、HCO3−、CO32−、NO3−)の組合せと発光性との関係を示す。L−システインの場合は(K+)が存在すると、発光性が妨げられる。NaHCO3、NH4HCO3、Na2CO3、(NH4)2CO3の場合は発光性を有することが判る。これによると、Na、NH4のHCO3化合物には、発光誘導効果が見られるが、KHCO3では24時間後の発光が減じてしまうことが判った。
【0045】
図14は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源として硫酸イオン(SO42−)を用いた場合の実験例を示すが、14時間後及び24時間後の発光性には、K+又はHCO3− が必要で、更にK+ を選択した場合は、Mg2+又はCa2+を添加することが好ましい。また、HCO3− を選択した場合には、Mg2+ を加えるのが好ましいが、HCO3− のみでも発光性を有することが判る。なお、13番目はASW(人口海水)となる。K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。
【0046】
図15は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源として亜硫酸イオン(SO32−)を用いた場合の実験例を示すが、14時間後及び24時間後の発光性には、K+又はHCO3− が必要である。また、K+単独では発光性に寄与しないので、K+ を選択した場合は、Mg2+を添加する必要がある。HCO3− を選択した場合には単独でも発光性に寄与するが、Mg2+ 又はCa2+を加えるのが好ましい。従って、K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。
【0047】
図16は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源としてチオ硫酸イオン(S2O32−)を用いた場合の実験例を示すが、以上の実験例と同様に、K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。
【0048】
図17は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源としてシステイン(L−cysteine)、シスチン(L−cystine)を用いた場合の実験例を示すが、K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。但し、シスチンには、K+ の添加は発光性に寄与しない。
【0049】
以上の実験から、以下のことが判る。
(1)ビブリオ・フィシェリは栄養欠乏下では、硫黄源に依存する発光性を示す。ここで、硫黄源は、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、アミノ酸の形(イオン)で供給可能である。
(2)システイン(L−Cysteine)、シスチン(L−cystine)はビブリオ・フィシェリの発光増大に関与する。全20種類のアミノ酸のうち、システイン、シスチン以外のアミノ酸には発光増大の効果はない。なお、メチオニン(Methionine)は硫黄は含むが発光誘導効果はなかった。理由は、メチオニンはビブリオ・フィシェリに取り込めないものと判断される。
【0050】
(3)硫黄源がビブリオ・フィシェリの発光性に寄与するためには、NaHCO3又はKClが必要である。即ち、硫黄源単独では発光しない。また、K+ の場合、ハロゲン化合物に発光誘導効果がある。
(4)NaHCO3 、KClによって駆動される硫黄源に従属する発光は、Mg2+ の添加によって大きく誘導される。特に、NaHCO3(HCO3−)存在下で Mg2+を添加することによって、更に発光誘導される。
【0051】
次に、本発明の環境計測センサーの作用、効果を確認するために行った実験について説明する。
図19には、1)増殖初期(増殖を開始した時期)、2)増殖中期(盛んに増殖している時期)、3)増殖後期(増殖状態が飽和した時期)、4)定常期(増殖が完了して一定状態となった時期)のビブリオ・フィシェリの発光度について、単にガラスに付着させた場合(A)、フィブロイン膜に付着させた場合(B)、システイン(又はシスチン)を含んだフィブロイン膜に付着させた場合(C)を示すが、いずれの場合であっても、システインを含んだフィブロイン膜にビブリオ・フィシェリを付着させた場合が圧倒的に輝度が高いことが判る。
【0052】
なお、ビブリオ・フィシェリは水溶液の状態でなく、ある程度乾燥した状態でも発光するので、環境計測センサーとしては、システインを含んだフィブロイン膜を試験管の底に付着させることによって形成される。この環境計測センサーを保存する場合は、冷蔵庫に入れて凍結することになる。
被試験液の検査にあっては、フィブロイン膜を解凍して、ビブリオ・フィシェリを発光させ、その中に被試験液をいれることになる。更に、フィブロインはガラスに対して付着性が高いので、例えば、試験管の底等に固着できる。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で数値を変更することもできる。
【符号の説明】
【0054】
10:環境計測センサー、11:試験管、12:フィブロイン、14:被試験液
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌体数を増加させないで、増加させる発光度の制御方法及び海洋性発光バクテリアを用いた環境計測センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
発光バクテリアは生物発光を伴う細菌類のことをいい、バイオアッセイやバイオセンサー等の種々の分野に用途が広がっている。発光バクテリアは海水由来のものが多く、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio Fischeri)を使用する場合が圧倒的に多い。このビブリオ・フィシェリは活性が維持されていれば、490nm付近に極大を示す青緑色の光を発する性質があり、重金属等の有害物質と一定時間接触することによって、その活性が失われ、同時に発光強度が減衰する。この発光阻害率を測定し、毒性を評価することが一般的に行われている。このビブリオ・フィシェリの培養方法としては、Nutrient Broth(3%NaClを含む)、Marine Broth等の栄養の富んだ液体培地が使用されている。これは、生物発光に、培地の栄養が富んだ状態で、菌数が高密度に増殖した場合に発光が得られるクオラムセンシング(quorum sensing)が関与しているためである。
【0003】
一方、特許文献1には、被検物質の毒性を海洋性発光バクテリアを用いて評価するに際して、海洋性発光バクテリアと被検物質を接触させた際に生じる海洋性発光バクテリアの生物活性(発光作用)の異常な高まりを抑制する物質を見い出して、毒性の正しい評価を得ることができる毒性評価方法が開示されている。
また、特許文献2には、生き餌としての海産動物に共生又は付着させる発光細菌を、アスパラギン酸、システイン、シスチン、又はキサトンを添加した培地で培養して発光強度を高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−85929号公報
【特許文献2】特開2004−113203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の技術は、海洋性発光バクテリアと被検物質とを接触させた際に、海洋性発光バクテリアの異常な発光を抑制するためのもので、海洋性発光バクテリアの生物活性を、カリウム、マグネシウム、リン及び糖からなる群より選ばれる一種以上を加えて、抑制して測定するものであって、海洋性発光バクテリア自体の発光度を高めて、被検物質との反応を高めるものではない。
また、特許文献2には、発光細菌を、栄養を付加した培地で培養し、菌体の数を増加させて発光強度を増加させるもので、本願発明のように、菌体の数を増加させないで、菌体自体の発光度を高めるものではない。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、含まれる成分の調整を行って、海洋性発光バクテリア菌体自体の発光度を高める海洋性発光バクテリアの発光制御方法及び海洋性発光バクテリアを用いた環境計測センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う第1の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、2)[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源(例えば、カリウム塩)を用いる。
【0008】
また、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、3)[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源(炭酸塩又は炭酸水素塩)を用いる。
【0009】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、硫黄源が[S]換算で、0.0046g/L未満では、海洋性発光バクテリアの発光誘導が起こらず、硫黄源が[S]換算で、4.6g/Lを超えると、海洋性発光バクテリアの発光の誘導が阻害される。この理由は、硫黄源の濃度が高くなると過剰の硫黄がバクテリアに対して毒性を発揮するものと思われる。
【0010】
また、実験によると、カリウム源(第1の発明)、炭酸源(第2の発明)についても、上記範囲未満では発光の誘導が起こらず、上記範囲を超えると溶液自体が海洋性発光バクテリアに対して毒性を発揮する。なお、炭酸源[CO3]については、カリウム源[K]に比較して有効濃度の範囲が狭くなっている。
また、第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、塩化ナトリウムについては、海洋性発光バクテリアが死滅しない範囲であればよく、実験においては、28.1g/Lを使用したが、例えば、20〜50g/L程度であっても、本発明は適用される。
【0011】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩及びチオ硫酸塩のいずれか1又は2以上からなるのが好ましい。ここで、硫酸塩、亜硫酸塩及びチオ硫酸塩には、一価、二価の金属塩(但し、毒性を有する重金属は除く)、アンモニウム塩等がある。なお、実験によると硫黄単体であっても適用可能である。場合によっては、前記硫黄源は、システイン又はシスチンのいずれかを含む。
【0012】
また、前記カリウム化合物は、硫酸、塩酸、酢酸あるいはその他の有機酸とのカリウム塩(但し、毒性を有する物質は除く)があるが、特にKCl(塩化カリウム)が最も好ましい。
前記炭酸源は、炭酸塩又は炭酸水素塩と、一価、二価の金属塩(重金属等毒性を有する物質を除く)からなるのが好ましい。
【0013】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記培地に、更に、4)[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性のマグネシウム化合物からなるマグネシウム源を含むことができ、これによって、発光性が増す。なお、ここで、マグネシウム化合物が[Mg]換算で0.092g/L未満では発光増加の効果がなく、9.2g/Lを超えると毒性を発揮するので好ましくない。
【0014】
第3の発明に係る環境計測センサーは、海洋性発光バクテリアを用いた試験器であって、透明の試験管の底部にフィブロインを配置し、その上に前記海洋性発光バクテリアを固定している。ここで、前記フィブロインは膜状となって、前記試験管の底に貼着されているのが好ましい。また、前記フィブロインにはシステイン又はシスチンが含まれているのがより好ましい。
【0015】
なお、第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法及び第3の発明に係る環境計測センサーにおいて、前記海洋性発光バクテリアは、例えば、ビブリオ・フィシェリ(Vibrio fischeri)、ビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveyi)、又はフォトバクテリウム・フォスフォレム(Photobacterium phosphoreum)があるが、ビブリオ・フィシェリを使用するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法は、海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高い状態で維持する方法であって、海洋性発光バクテリアの培地に、適正範囲の塩化ナトリウムと、硫黄源と、カリウム源又は炭酸源を含むので、他の成分がなくても、海洋性発光バクテリアの発光強度を高めることができる。
特に、従来は海洋性発光バクテリアの培地として、海水又は人工海水を使用する傾向があったが、海水中のCaCl2等は必要でなくなった。
更に、従来は、海洋性発光バクテリアの発光強度を上昇させようとする場合、菌体数を増加させる方法が一般的であったが、菌体数を増加させないでも、海洋性発光バクテリアの発光強度を向上させることができるので菌体を用いて毒性評価試験等の精度が高まることになった。
【0017】
更に、第1、第2の発明に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、培地が[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性マグネシウム化合物(例えば、MgCl、MgSO4)を含むことによって、更にビブリオ・フィシェリの発光性が増し、試験精度が向上する。
【0018】
また、第3の発明に係る環境計測センサーは、海洋性発光バクテリアを用いた試験器であって、透明の試験管の底部に海洋性発光バクテリアが添加(固定)されたフィブロインを配置している。海洋性発光バクテリアが担持されたフィブロインの保存は凍結によって行われ、使用にあっては解氷して常温に戻す。この状態で発光するので、被試験液を試験管に入れて発光度の変化を検査する。
【0019】
なお、解氷したフィブロインに更に、1)人工海水、2)塩化ナトリウムを含む培地に[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源を用いる溶液、又は3)塩化ナトリウムを含む培地に、[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源を含む溶液を入れて、海洋性発光バクテリアを活動させ、この後、試験しようとする被試験液を入れることもできる。この場合更に、海洋性発光バクテリアの栄養源を加えてもよい。
【0020】
この被試験液が毒性を有すれば、発光度が下がり、被試験液に毒性がなければ発光度は変化しない。従って、この環境計測センサーの持ち運びが容易となり、簡便な手法で海洋性発光バクテリアを再生させて、被試験液の検査ができる。
特に、フィブロインが膜状となって、試験管の底に貼着されている場合には、試験内に液状物がないので、取り扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】人工海水中の栄養源の濃度を変えた場合の海洋性発光バクテリアの増殖性と発光性を示すグラフである。
【図2】人工海水(NaClは当然含む)中の一成分を欠如させた場合のビブリオ・フィシェリの発光性とpHを調べたグラフである。
【図3】人工海水(NaClは当然含む)中の一成分のみを使用した場合のビブリオ・フィシェリの発光性とpHを調べたグラフである。
【図4】人工海水(NaClは当然含む)中の2成分を欠如させた場合のビブリオ・フィシェリの発光性を調べたグラフである。
【図5】人工海水(NaClは当然含む)中の3成分を欠如させた場合のビブリオ・フィシェリの発光性を調べたグラフである。
【図6】(A)〜(E)は無機質の硫黄源とビブリオ・フィシェリの発光性及びCFU/mLとの関係を調べたグラフである。
【図7】(A)〜(F)は有機質の硫黄源とビブリオ・フィシェリの発光性及びCFU/mLとの関係を調べたグラフである。
【図8】疎水性アミノ酸とビブリオ・フィシェリの発光性の関係を示すグラフである。
【図9】親水性アミノ酸とビブリオ・フィシェリの発光性を関係を示すグラフである。
【図10】親水性アミノ酸の種類とビブリオ・フィシェリの発光性との関係を示すグラフである。
【図11】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄依存性発光に影響を及ぼす因子との関係を示すグラフである。
【図12】カリウムのハロゲン化合物とビブリオ・フィシェリの発光度との関係を示すグラフである。
【図13】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄依存性発光に影響を及ぼす因子との関係を示すグラフである。
【図14】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄(SO42−)依存性発光に影響を及ぼす因子の説明図である。
【図15】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄(SO32−)依存性発光に影響を及ぼす因子の説明図である。
【図16】ビブリオ・フィシェリの発光度と硫黄(S2O32−)依存性発光に影響を及ぼす因子の説明図である。
【図17】システイン及びシスチン依存型発光を促進する因子の説明図である。
【図18】(A)、(B)、(C)は本発明の一実施の形態に係る環境計測センサーの説明図である。
【図19】フィブロインに固定されたビブリオ・フィシェリの発光性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施の形態に係る海洋性発光バクテリアの発光制御方法について説明する。海洋性発光バクテリアの一例として、ビブリオ・フィシェリを用いた場合、培地として、塩化ナトリウム2〜4g/Lの水溶液に、硫黄源となる、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウムを[S(硫黄)]換算で、0.0046〜4.6g/L(好ましくは、0.008〜3g/L、より好ましくは、0.01〜1g/L)混入する。なお、塩化ナトリウムは、ビブリオ・フィシェリが生存可能な条件で上下することはできる。
【0023】
次に、この培地に更に、カリウム源又は炭酸源を加える。カリウム源として、KClを用いる場合は、[カリウム(K)]換算で0.00403〜4.03g/L(好ましくは、0.01〜2g/L、より好ましくは、0.1〜1g/L)混入する。
炭酸源の場合は、[炭酸(CO3)]換算で、0.079〜3.93g/L(好ましくは、0.08〜2.5g/L、更に好ましくは、1〜2g/L)入れる。なお、硫黄源、塩化ナトリウム、炭酸源、カリウム源の投入順番は任意である。
【0024】
これによって、ビブリオ・フィシェリの菌体が発光できる培地ができるので、ビブリオ・フィシェリの種菌を入れ、必要に応じて栄養源となる糖や蛋白を入れて、菌数を増やすことができる。
このようにしてできたビブリオ・フィシェリ液を、毒性物質を有する水(被試験液)等の試薬として使用する。被試験塩が毒性を有すると、ビブリオ・フィシェリの発光誘導性に支障が生じるので、その発光度を測定することによって、被検物質の毒性を判定する。
【0025】
また、前記した培地(溶液)に、[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性マグネシウム化合物(例えば、MgCl、MgSO4)からなるマグネシウム源を含むようにしてもよい。これによって、更にビブリオ・フィシェリの発光性が増し、試験時の輝度変化が大きくなり、試験精度が向上する。
【0026】
前記実施の形態においては、海洋性発光バクテリアとしてビブリオ・フィシェリを用いたが、他の海洋性発光バクテリア(例えば、ビブリオ・ハーベイ、フォトバクテリウム・フォスフォレム等)であっても本発明は適用できる。
【0027】
続いて、本発明の一実施の形態に係る環境計測センサー10について説明する。図18(A)に示すように、透明の試験管11を用意し、底部に1)増殖初期(増殖を開始した時期)、2)増殖中期(盛んに増殖している時期)、3)増殖後期(増殖状態が飽和した時期)、4)定常期(増殖が完了して一定状態となった時期)のビブリオ・フィシェリ(海洋性発光バクテリアの一例)を固定したフィブロイン12を配置する。フィブロインにビブリオ・フィシェリを固定する方法は、フィブロインにビブリオ・フィシェリを含む液を染み込ませて徐々に乾燥して行う。これによって、環境計測センサー10は完成するが、保存する場合には、そのまま冷凍保存してビブリオ・フィシェリを休眠状態とする。この場合、システイン又はシスチンをフィブロインに含ませると、強度を有する膜が形成されて試験管11の底に貼着すると共に、ビブリオ・フィシェリの硫黄源及び栄養源となって発光性も増加する。
【0028】
この環境計測センサー10を使用する場合は、試験管11に入れたフィブロイン12を解凍し、図18(B)に示すように、被試験液14をいれる。ここで、被試験液14が毒性を有する場合、図18(C)に示すように、試験管11からの発光が無くなるか減少する。被試験液14が毒性を有さない場合は、発光度に変化はない。なお、試験管11の発光度は発光度計(ルミノメーター)で計測する。
【0029】
なお、被試験液14を入れる前に、人工海水(ASW)又は、本発明の一実施の形態に係る、1)人工海水、2)塩化ナトリウムを含む培地に、[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源(例えば、硫酸塩、亜硫酸塩、及びチオ硫酸塩のいずれか1又は2以上)と、[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源(例えば、カリウム塩)を用いる溶液、3)塩化ナトリウムを含む培地に、[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源(例えば、炭酸塩又は炭酸水素塩)を含む溶液を少量(例えば3〜10cc)入れてもよい。
【実施例】
【0030】
続いて本発明の作用、効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、海洋性発光バクテリアの発光に寄与する物質について、種々の実験をして確認した結果について説明する。また、以下の実験においては、海洋性発光バクテリアとしてビブリオ・フィシェリを使用したが、他の海洋性発光バクテリアであってもよい。
【0031】
図1はそれぞれ、人工海水(ASW)に栄養源となるビーフイクストラクト(beef
extract)と、バクトペプトン(Bacto peptone)を、それぞれ10g/L(SWM(10))、5g/L(SWM(5))、3g/L(SWM(3))、0g/L(SWM(0))加えた場合の、ビブリオ・フィシェリの増殖性と発光性の関係を示すグラフである。ビーフイクストラクト及びバクトペプトンを除くと、菌体数の増加は抑えられるが、ビブリオ・フィシェリの発光性については、完全に低下するものではない。従って、図1からビブリオ・フィシェリの発光性に影響するのは、栄養源だけではないことが判る。
【0032】
図2は人工海水中の1成分(MgSO4、NaHCO3、MgCl2、CaCl2、KCl)を除いた他の4成分(NaClは当然含む、以下同じ)でのビブリオ・フィシェリの発光性と、その時の培地(水溶液)のpHの関係を示すグラフである。なお、図中括弧付きの成分が欠如している(以下同じ)。
図2のA)からMgSO4の欠乏条件では、ビブリオ・フィシェリの十分な発光性は得られないことが判る。
【0033】
図3には、人工海水中の各成分とビブリオ・フィシェリの発光性との関係を示すが、MgSO4のみでは、十分な発光性は得られないことが判る。
【0034】
図4は、人工海水中の2成分を欠如した(即ち、残り3成分を用いた)ビブリオ・フィシェリの発光性を調べたグラフであるが、MgSO4が存在しても、KCl及びNaHCO3の欠乏条件下では、ビブリオ・フィシェリの十分な発光性は得られないことが判る。
【0035】
次に、人工海水中の3成分を除いた2成分とビブリオ・フィシェリの発光性との関係を、図5に示すが、ビブリオ・フィシェリの発光に及ぼすMgSO4の効果は、KCl又はNaHCO3の存在下で誘導される(即ち、増加する)ことが判る。
【0036】
図6(A)〜(E)は、人工海水中のKCl、CaCl2、MgCl2、NaHCO3をそのまま使用し、更に硫黄源として、種々の化合物を用いた場合のビブリオ・フィシェリの発光性と菌数(CFU/mL、即ち、菌の増加又は減少を表す)について調べた結果を示すが、硫黄化合物であれば、ナトリウム、カリウム等の硫酸化合物、又は亜硫酸化合物、場合によってはチオ硫酸化合物であっても、ビブリオ・フィシェリの発光性に寄与すると考えられる。なお、図示していないが、鉄の硫酸化合物の場合は、硫酸第一鉄の濃度が高くなると、ビブリオ・フィシェリの発光強度が減少する。これは、鉄イオンの濃度が上昇すると、ビブリオ・フィシェリに対して毒性を生じ、生菌数が減少するからである。なお、このことから、重金属の場合は菌体に対して有毒性を有する場合があり、このような塩は使用できないことになる。
【0037】
図7(A)〜(F)は、硫黄源として有機物(例えば、アミノ酸)、具体的には、システイン(Cysteine)、シスチン(Cystine)、メチオニン(Methionine)、セリン(Serine)、ホモシステイン(Homocysteine)、タウリン(Taurine)を用いた場合の発光性と菌数(CFU/mL)について調べた。この結果、システイン(Cysteine)、シスチン(Cystine)についは強い発光性が認められるが、その他のメチオニン(Methionine)、セリン(Serine)、ホモシステイン(Homocysteine)、タウリン(Taurine)については発光性に大きく寄与しないことが判る。
【0038】
図8は疎水性(非極性)アミノ酸と人工海水(MgSO4無し)を用いた場合のビブリオ・フィシェリの発光度との関係を示すグラフである。ここで、Alaはアラニン、Valはバリン、Leuはロイシン、Ileはイソロイシン、Pheはフェニルアラニン、Trpはトリプトファン、Metはメチオニン、Proはプロリンを示し、それぞれ1mg/L、10mg/L、100mg/Lで実験を行った。この結果、疎水性アミノ酸には発光誘導効果はないことになる。
【0039】
図9には、親水性アミノ酸と人工海水(MgSO4無し)を用いた場合のビブリオ・フィシェリの発光度との関係を示すグラフである。ここで、Glyはグリシン、Tyrはチロシン、Serはセリン、Thrはトレオニン、Cysはシステイン、Asnはアスパラギン、Glnはグルタミンを示す。図9からも明らかなように、システインの場合、ビブリオ・フィシェリの光度が増すことが確認されている。これは、前述のように、システインが分子式C3H7NO2Sで示されるように、硫黄源を含んでいるからと解される。なお、L−AsnやL−Glnでも発光性は見られるが、24時間後は減少している。
【0040】
次に、親水性(電荷あり)アミノ酸と人工海水(MgSO4無し)を用いた場合の、ビブリオ・フィシェリの発光度を図10に示す。ここで、Lysはリシン、Argはアルギニン、Hisはヒスチジン、Aspはアスパラギン酸、Gluはグルタミン酸を示す。塩基性電荷を持つアミノ酸では14時間後にやや発光が見られるが、24時間後では低下している。従って、ビブリオ・フィシェリの発光度とアミノ酸の親水性とは重要な関係はないものと思慮される。
【0041】
図11には、NaClが2.81g/L、MgSO4・7H2Oが3.5g/Lの存在を前提にして、硫黄依存型発光を誘導するファクターをカチオン(Na+、K+、NH4+)とアニオン(Cl−、HCO3−、CO32−、NO3−)とのについて調べた結果を示す。アニオンがNO3−の場合は、いずれのカチオンでも減少傾向を示し、HCO3−、CO32−
については一部(NaHCO3、NH4HCO3、Na2CO3、(NH4)2CO3)の化合物については発光量が増加する。
【0042】
図11に示すように、カチオン(K+ )について、Cl−の場合増加するが他のカチオンの場合は減少傾向となる。そこで、硫黄依存型発光を有するファクターであるカリウムイオン(K+)について塩素イオン(Cl−)以外のハロゲンイオン(F、Br、I)であっても、発光性に寄与すると考えられる。また、アンモニウムイオンは、ビブリオ・フィシェリの発光度に寄与しないことが判る。
【0043】
図12には、KBr、KI、NaBr、NaIの濃度を変えて混合した場合の例を示すが、カリウムのハロゲン化合物については、発光性を得ることができることが判る。一方、カリウムの代わりにナトリウムを用いた場合は、発光誘導は起こらないので、ハロゲン化合物が大きく発光性に影響しているのではなく、カリウムが発光誘導に寄与することが判る。
【0044】
図13には、NaClが2.81g/L、L−システインが10mg/Lを前提にして、
カチオン(Na+、K+、NH4+)とアニオン(Cl−、HCO3−、CO32−、NO3−)の組合せと発光性との関係を示す。L−システインの場合は(K+)が存在すると、発光性が妨げられる。NaHCO3、NH4HCO3、Na2CO3、(NH4)2CO3の場合は発光性を有することが判る。これによると、Na、NH4のHCO3化合物には、発光誘導効果が見られるが、KHCO3では24時間後の発光が減じてしまうことが判った。
【0045】
図14は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源として硫酸イオン(SO42−)を用いた場合の実験例を示すが、14時間後及び24時間後の発光性には、K+又はHCO3− が必要で、更にK+ を選択した場合は、Mg2+又はCa2+を添加することが好ましい。また、HCO3− を選択した場合には、Mg2+ を加えるのが好ましいが、HCO3− のみでも発光性を有することが判る。なお、13番目はASW(人口海水)となる。K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。
【0046】
図15は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源として亜硫酸イオン(SO32−)を用いた場合の実験例を示すが、14時間後及び24時間後の発光性には、K+又はHCO3− が必要である。また、K+単独では発光性に寄与しないので、K+ を選択した場合は、Mg2+を添加する必要がある。HCO3− を選択した場合には単独でも発光性に寄与するが、Mg2+ 又はCa2+を加えるのが好ましい。従って、K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。
【0047】
図16は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源としてチオ硫酸イオン(S2O32−)を用いた場合の実験例を示すが、以上の実験例と同様に、K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。
【0048】
図17は、各成分の濃度をASWと同一として、硫黄源としてシステイン(L−cysteine)、シスチン(L−cystine)を用いた場合の実験例を示すが、K+又はHCO3− が関与した反応においては、Mg2+ の添加によって更に発光性が大きく誘導される。但し、シスチンには、K+ の添加は発光性に寄与しない。
【0049】
以上の実験から、以下のことが判る。
(1)ビブリオ・フィシェリは栄養欠乏下では、硫黄源に依存する発光性を示す。ここで、硫黄源は、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、アミノ酸の形(イオン)で供給可能である。
(2)システイン(L−Cysteine)、シスチン(L−cystine)はビブリオ・フィシェリの発光増大に関与する。全20種類のアミノ酸のうち、システイン、シスチン以外のアミノ酸には発光増大の効果はない。なお、メチオニン(Methionine)は硫黄は含むが発光誘導効果はなかった。理由は、メチオニンはビブリオ・フィシェリに取り込めないものと判断される。
【0050】
(3)硫黄源がビブリオ・フィシェリの発光性に寄与するためには、NaHCO3又はKClが必要である。即ち、硫黄源単独では発光しない。また、K+ の場合、ハロゲン化合物に発光誘導効果がある。
(4)NaHCO3 、KClによって駆動される硫黄源に従属する発光は、Mg2+ の添加によって大きく誘導される。特に、NaHCO3(HCO3−)存在下で Mg2+を添加することによって、更に発光誘導される。
【0051】
次に、本発明の環境計測センサーの作用、効果を確認するために行った実験について説明する。
図19には、1)増殖初期(増殖を開始した時期)、2)増殖中期(盛んに増殖している時期)、3)増殖後期(増殖状態が飽和した時期)、4)定常期(増殖が完了して一定状態となった時期)のビブリオ・フィシェリの発光度について、単にガラスに付着させた場合(A)、フィブロイン膜に付着させた場合(B)、システイン(又はシスチン)を含んだフィブロイン膜に付着させた場合(C)を示すが、いずれの場合であっても、システインを含んだフィブロイン膜にビブリオ・フィシェリを付着させた場合が圧倒的に輝度が高いことが判る。
【0052】
なお、ビブリオ・フィシェリは水溶液の状態でなく、ある程度乾燥した状態でも発光するので、環境計測センサーとしては、システインを含んだフィブロイン膜を試験管の底に付着させることによって形成される。この環境計測センサーを保存する場合は、冷蔵庫に入れて凍結することになる。
被試験液の検査にあっては、フィブロイン膜を解凍して、ビブリオ・フィシェリを発光させ、その中に被試験液をいれることになる。更に、フィブロインはガラスに対して付着性が高いので、例えば、試験管の底等に固着できる。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で数値を変更することもできる。
【符号の説明】
【0054】
10:環境計測センサー、11:試験管、12:フィブロイン、14:被試験液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、2)[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源を用いることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記カリウム源は、カリウム塩からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項3】
海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、3)[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源を用いることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記炭酸源は、炭酸塩又は炭酸水素塩からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩及びチオ硫酸塩のいずれか1又は2以上からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項6】
請求項3又は4記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記硫黄源は、システイン又はシスチンを含むことを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記培地には、更に、4)[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性のマグネシウム化合物からなるマグネシウム源を含むことを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記海洋性発光バクテリアは、ビブリオ・フィシェリ、ビブリオ・ハーベイ、及びフォトバクテリウム・フォスフォレムのいずれか1からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項9】
海洋性発光バクテリアを用いた試験器であって、透明の試験管の底部にフィブロインを配置し、その上に前記海洋性発光バクテリアを固定したことを特徴とする環境計測センサー。
【請求項10】
請求項9記載の環境計測センサーにおいて、前記フィブロインは膜状となって、前記試験管の底に貼着されていることを特徴とする環境計測センサー。
【請求項11】
請求項10記載の環境計測センサーにおいて、前記フィブロインにはシステイン又はシスチンが含まれていることを特徴とする環境計測センサー。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の環境計測センサーにおいて、前記海洋性発光バクテリアは、ビブリオ・フィシェリ、ビブリオ・ハーベイ、及びフォトバクテリウム・フォスフォレムのいずれか1からなることを特徴とする環境計測センサー。
【請求項1】
海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、2)[K]換算で0.00403〜4.03g/Lの水溶性のカリウム化合物からなるカリウム源を用いることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記カリウム源は、カリウム塩からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項3】
海洋性発光バクテリアの発光度を菌濃度に関わらず高光度で維持する方法であって、塩化ナトリウムを含む培地に、1)[S]換算で、0.0046〜4.6g/Lの硫黄又は水溶性の硫黄化合物からなる硫黄源と、3)[CO3]換算で0.079〜3.93g/Lの水溶性の炭酸化合物を含む炭酸源を用いることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記炭酸源は、炭酸塩又は炭酸水素塩からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記硫黄源は、硫酸塩、亜硫酸塩及びチオ硫酸塩のいずれか1又は2以上からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項6】
請求項3又は4記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記硫黄源は、システイン又はシスチンを含むことを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記培地には、更に、4)[Mg]換算で、0.092〜9.2g/Lの水溶性のマグネシウム化合物からなるマグネシウム源を含むことを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の海洋性発光バクテリアの発光制御方法において、前記海洋性発光バクテリアは、ビブリオ・フィシェリ、ビブリオ・ハーベイ、及びフォトバクテリウム・フォスフォレムのいずれか1からなることを特徴とする海洋性発光バクテリアの発光制御方法。
【請求項9】
海洋性発光バクテリアを用いた試験器であって、透明の試験管の底部にフィブロインを配置し、その上に前記海洋性発光バクテリアを固定したことを特徴とする環境計測センサー。
【請求項10】
請求項9記載の環境計測センサーにおいて、前記フィブロインは膜状となって、前記試験管の底に貼着されていることを特徴とする環境計測センサー。
【請求項11】
請求項10記載の環境計測センサーにおいて、前記フィブロインにはシステイン又はシスチンが含まれていることを特徴とする環境計測センサー。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載の環境計測センサーにおいて、前記海洋性発光バクテリアは、ビブリオ・フィシェリ、ビブリオ・ハーベイ、及びフォトバクテリウム・フォスフォレムのいずれか1からなることを特徴とする環境計測センサー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2012−130335(P2012−130335A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253033(P2011−253033)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(802000031)公益財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(802000031)公益財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】
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