海洋性腐植土の水溶性抽出液およびフルボ酸とその用途
【課題】本発明は、新規な血栓溶解用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 有効成分が、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液またはフルボ酸であることを特徴とする血栓溶解用組成物により課題を解決する。
【解決手段】 有効成分が、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液またはフルボ酸であることを特徴とする血栓溶解用組成物により課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋性腐植土の水溶性抽出液の新規用途に関する。
具体的には、本発明は、海洋性腐植土の水溶性抽出液を有効成分とする血栓溶解用組成物に関する。
より具体的には、本発明は、海洋性腐植土の水溶性抽出液またはフルボ酸を有効成分とする血栓溶解用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋性腐植土は、推定500万年〜数千万年の古代に、海草、藻類、植物、魚介類および他の生物などが海底深く埋没し、長い年月をかけて重なり合い堆積し作り上げられたものであり、その地層が地殻変動により隆起して現れたものと考えられている。
【0003】
海洋性腐植土には、海洋性腐植物質として、上記の海草、藻類、植物、魚介類および他の生物などが、土壌中で微生物などによる分解された分解物;土壌中で発酵した発酵物;土壌生物により消化された消化物;さらに上記の分解物、発酵物、消化物から微生物などにより合成された合成物などの種々の有機物およびミネラルが含まれることが知られている。
【0004】
また、海洋性腐植土に含まれる有機物の大部分が、上記の海洋性腐植物質である。
海洋性腐植土を、水酸化ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムなどのアルカリを加え処理すると、海洋性腐植土に含まれる海洋性腐植物質の60〜80%を含む濃赤褐色の懸濁液が得られる。
【0005】
この懸濁液を常法により水性溶液と不溶成分に分離した不溶成分をフミン(humin)という。このフミンは、アルカリだけでなく酸にも不溶性の高分子有機物の混合物であり、土壌の無機成分と強く結合する性質を有している。
また、アルカリを加えて得られた溶液にpH1〜2程度の酸を加えて酸性にすると黒褐色の綿状の沈殿物を生じる。この酸に不溶な物質を腐植酸(humic acid)という。
腐植酸は分子量300,000程度までの物質であり、腐植物質としての性質はこの腐植酸によるものとされている。
【0006】
また黄色の上澄み液であるアルカリにも酸にも可溶の部分をフルボ酸(fulvic acid)という。このフルボ酸は、分子量2,000〜50,000程度の比較的分子量が小さい物質の混合物である。この画分は分画操作上の画分であって、該画分が含む有機物の混合物の本質的な違いを表したものではない。このフルボ酸については古くから研究されてきているが、その本質についてはあまり分かっていない(非特許文献1および2)。
【0007】
これまで、海洋性腐植物質の生理活性については、抗菌・殺菌作用、抗腫瘍効果などが報告されているが他の生理作用については何ら報告されていない(非特許文献3〜5)。
【0008】
一方、生体内を循環している血液は、常に流動性を保ちながら生理機能を営んでいる。しかしながら、いったん出血が起こると、血液は流動性を失ってゲル化する。この現象は血液凝固とよばれ、生体内のもつ防御機構の一環である。
損傷を受けた血管壁では内皮下組織のコラーゲン繊維が露出し、そこに血液中の血小板が粘着、凝集して血小板血栓を形成する。この初期反応を一次止血とよぶ。
血小板血栓は一時的なものであり、安定した血栓になるためにはフィブリン網でしっかりと血小板血栓を包み込む必要がある。このフィブリン血栓を完成させるのが二次止血である。
【0009】
しかし、このフィブリン血栓が止血の後も長期間血管内に留まると、血液の循環障害を引き起こす。特に血栓が、動脈を完全あるいは不完全に閉塞した場合には血流障害から末梢組織や臓器に壊死をきたす。心筋梗塞や脳梗塞はその一例であり、我が国において、全死因の約30%を占めている。
【0010】
このため不要になったフィブリン血栓は除去されなければならず、そのために存在するのが線維素溶解系(線溶系)である。線溶系は、血管内に生じた血栓を溶解する生理反応のことであり、線溶系因子は血管内皮細胞から分泌される。線溶系の反応を開始させる物質には組織性プラスミノーゲンアクチベーター(tissue-type plasminogen activator:t-PA)とウロキナーゼタイププラスミノーゲンアクチベーター(urokinase-type plasminogen activator:u-PA)が存在する(非特許文献6)。
【0011】
いずれもプラスミノーゲンをプラスミンに活性化させるセリン酵素であり、活性化されたプラスミンが酵素活性を発現し、血栓の主要成分であるフィブリンを分解して血栓を溶解する。
この反応は、プラスミノーゲンの血中濃度がほぼ一定で劇的に変化することがないので、主にt-PAやu-PAの発現量や活性量の変化で調節される。ただし、t-PAやu-PAの活性はこれらのインヒビターであるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1))とのバランスによって決定されることが知られている(非特許文献7および8)(図1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】松中照夫:土壌学の基礎−生成・機能・肥沃土・環境−、農山漁村文化協会、47〜49(2003)
【非特許文献2】久馬一剛、庄子貞雄ら:新土壌学、朝倉書店、40〜49(1989)
【非特許文献3】Kodama H.、 DensoおよびNakagawa T.:Protection against atypical Aeromonas salmonicida infection in carp (Cyprinus carpio L.) by oral administration of humus extract、J. Vet. Med. Sci.、69(4)、405-408 (2007)
【非特許文献4】Kodama H.およびDENSO:Antitumor Effect of Humus Extract on Murine Transplantable L1210 Leukemia, J. Vet. Med. Sci.、69(10)、1069-1071 (2007)
【0013】
【非特許文献5】Kodama H.、Denso、Okazaki F.およびIshida S.:Protective effect of humus extract against Trypanosoma brucei infection in mice.、J. Vet. Med. Sci.、70(11):1185-90 (2008)
【非特許文献6】上嶋繁および松尾理:血栓溶解薬開発の現状と展望、最新医学63(7)、15-21(2008)
【非特許文献7】松尾理:線溶系と血栓 オーバービュー、In 一瀬白亭 編、血栓・止血・血管学−血栓症制圧のために−、中外医学社、532-533 (2005)
【非特許文献8】松尾理:よく分かる病態生理5 血液疾患、日本医事新報社、103-106 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、新規な血栓溶解用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、新規な血栓溶解用組成物の開発を目的として鋭意研究努力を重ねた結果、驚くべきことに海洋性腐植土の水性溶媒抽出液が、血栓溶解作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
しかるに、本発明によれば、有効成分が、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液またはフルボ酸であることを特徴とする血栓溶解用組成物が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、前記フルボ酸が、段戸フルボ酸または筑後川フルボ酸である前記組成物が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、前記水性溶媒が、0〜50%の低級アルコール水溶液である前記組成物が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、前記水性溶媒が、0〜20%の低級アルコール水溶液である前記組成物が提供される。
【0020】
さらに、本発明によれば、前記水性溶媒が、水である前記組成物が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液を血栓溶解用組成物として安全に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】線溶系を示す模式図であり、点線は抑制反応を示す。
【図2】培養血管内皮細胞の培養および細胞の回収を示す模式図である。
【図3】海洋性腐植土抽出液が培養血管内皮細胞における線溶系因子のmRNA発現に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】海洋性腐植土水抽出物質が血管内皮細胞の培養液中u-PA活性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の細胞増殖能への影響を検討する方法を示す模式図である。
【図6】フルボ酸の線溶系因子分泌への影響を検討する方法を示す模式図である。
【図7】段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の細胞増殖能におよぼす影響を示すグラフである。
【図8】培養液中u-PA活性に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響を示すグラフである。
【図9】培養液中PAI-1抗原量に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響を示すグラフである。
【図10】ラットの飼育条件を示す模式図である。
【図11】実験中のラットの体重の変化を示すグラフである。
【図12】実験中のラットの摂食量の変化を示すグラフである。
【図13】実験中のラットの飲水量の変化を示すグラフである。
【図14】ユーグロブリン分画中のu-PA活性を比較するグラフである。
【図15】ユーグロブリン分画中のt-PA活性を比較するグラフである。
【図16】血小板凝集率(最大凝集率)の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液が用いられる。
上記の水性溶媒としては、水;希塩酸のような酸性水溶液;水性エタノールのような50%以下の低級アルコールの水溶液を用いることができる。水は、塩素を除去したものが好ましい。塩素を除去する方法としては特に限定されないが、常温で数日間放置する方法、アスコルビン酸などの還元剤を用いる方法、活性炭またはイオン交換樹脂などの吸着剤を用いる方法などが挙げられるが、蒸留水、イオン交換蒸留水またはミリポア水がさらに好ましい。
【0024】
本発明において、用いられる用語「低級アルコール」とは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールおよびヘキサノールまたはこれらアルコールの異性体もしくはこれらアルコールの混合物を意味する。
水性溶媒のpHは特に限定されないが、pH6.0〜8.0の範囲のものが好ましく、より好ましくはpH6.3〜7.5の範囲である。
【0025】
本発明において用いられる海洋性腐植土としては、特に限定されないが、海底から0.5〜250mの深さに存在する海洋性腐植土層、またはこの海洋性腐植土層が地殻変動により隆起した波打ち際または湿地帯の深さ5〜30mに存在する海洋性腐植土層から採取した腐植土を使用できる。
【0026】
このような海洋性腐植土としては、例えば、マリネックス社製の有明海産の粉末状海洋性腐植土(Lot. No. 08−02)などが挙げられる。
また、本発明で用いられるフルボ酸としては、例えば、日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸が挙げられる。
【0027】
本発明で用いられる海洋性腐植土の水性溶媒抽出液を得る方法は特に限定されないが、以下の工程(1)〜(3)を含む方法が好ましい。
(1) 腐植土と水性溶媒との混合物(1:5〜1:10(重量比))を、攪拌および静置を繰り返し工程;
(2)固形物を除去工程;
(3)得られた懸濁液を周囲温度で長期間静置し、上清を得る工程。
【0028】
上記の工程(1)では、まず、水槽などの容器中で、腐植土に対して5〜10倍量(重量比)の水性溶媒を攪拌しながら腐植土に加えて、懸濁物を得る。
次いで、得られた懸濁物を室温で処理する。
本明細書において用いられる「室温」とは、20〜45℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは28〜35℃の室内温度を意味する。
上記の処理は、攪拌および静置を繰り返すことにより行われる。攪拌は、容器の底部に沈殿した腐植土が水性溶媒中に拡散される程度に行えばよく、連続的または断続的のいずれであってもよい。この処理は、1週間以上続けることができる。
【0029】
工程(2)において固形物を分離する方法としては、腐植土と液体とを分離して腐植土を分離することができる方法であれば特に限定されないが、静置後に沈殿物をデカントにより分離するか、または遠心分離などにより分離できる。
デカントにより沈殿物を分離する方法は、懸濁物を25〜35℃で150〜240時間程度静置して腐植土を沈殿させた後に、デカントにより上清だけを取得する。より確実に固形物を除去するために、さらに布などを用いて浮遊物をろ去してもよい。このようにして得られる上清は、pH2.5〜3.0程度である。
【0030】
工程(3)は、得られた上清を周囲温度で長期間静置することにより行われる。長期間とは、180〜500日間程度であればよく、好ましくは300〜400日間程度である。この放置の間、温度は一定であってもよいし、変動してもよい。通常、25〜35℃の温度で30〜60日保持し、5〜15℃の温度で30〜60日保持すると、本発明で用いるのにより好ましい腐植土の水性溶媒抽出液を得ることができる。
【0031】
上記の静置により得られた液を、さらにろ過してもよい。ろ過は、液中の浮遊物を除去できる程度であればよく、例えば孔径40〜100μm、及び10〜40μmの2種類のメンブレンフィルターを用いて行うことができる。
上記の方法により得られる腐植土の水性溶媒抽出液は、pH2.0〜3.5、及び電気伝導度が350〜500mVの薄茶色の実質的に無臭の液体である。
【0032】
また、この腐植土の水性溶媒抽出液は、凍結乾燥後の重量が、腐植土の水性溶媒抽出液100mlあたり0.5〜1gであり、DAX−8樹脂カラムを通して吸着される成分(フルボ酸)の凍結乾燥後の重量が、腐植土の水性溶媒抽出液100mlあたり0.001g以下である。
【0033】
また、上記の海洋性腐植土の水性溶媒抽出は、超音波ホモジナイザーなどを用いて積極的に分散抽出を短時間で行うこともできる。
すなわち、上記の海洋性腐植土の水性溶媒抽出液を、海洋性腐植土1重量部に対して蒸留水3〜12重量部、好ましくは、4〜8重量部、さらに好ましくは、6重量部を用いて混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX−130(SONICS & MATERIALS Inc,;130Watt、20Khz、30%振幅)にて10分間超音波処理した。この超音波処理液を、1000rpmで5分間遠心分離して、得られた上清を、ステラディスク(0.2μm)を用いてろ過し、得られたろ液(pH2.83)を海洋性腐植土水性溶媒抽出液として用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明に係る実施例を図面に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
海洋性腐植土は、マリネックス社製有明海産粉末状海洋性腐植土(Lot. No. 08−02)を用いた。また、フミン酸は、日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸を用いた。
【0035】
製造例1
海洋性腐植土の水性溶媒抽出液
海洋性腐植土の水性溶媒抽出液は、株式会社マリネックス社製粉末状海洋性腐植土3.0gに対して蒸留水18.0gを用いて混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX−130(SONICS & MATERIALS Inc,;130Watt、20Khz、30%振幅)にて10分間超音波処理した。この超音波処理液を、1000rpmで5分間遠心分離して、得られた上清11.0gを、ステラディスク(倉敷紡績株式会社製;Lot. No. 180925;0.2μm)を用いてろ過し、得られたpH2.83のろ液10.6gを海洋性腐植土水性溶媒抽出液の試料とした。
【0036】
実施例1
海洋性腐植土抽出液が培養血管内皮細胞における線溶系因子のmRNA発現に及ぼす影響
血管内皮細胞
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞由来の樹立化細胞(TKM-33)を使用した。
【0037】
リアルタイムPCR
培養血管内皮細胞におけるt-PA、u-PA、PAI-1およびGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) mRNAsの発現はStepOnePlus(商標) Real-Time PCR System (Applied Biosystems、CA、USA)を用いて行った。培養血管内皮細胞からのmRNAの抽出にはRNeasy(登録商標) Mini Kit (50) (QIAGEN, Tokyo, Japan) を使用した。抽出したmRNAからcDNAへの逆転写は、High Capacity RNA-to-cDNA kit (Applied Biosystems, CA, USA, Lot.No. 0901013)を用いて行った。以下のprimer probeはいずれもApplied Biosysytems(CA, USA)より購入した。GAPDHに対するprimer probeは、GAPDH (Hs 999999_m1, Lot. No. 715871) を用いた。u-PAに対するprimer probeは、PLAU (Hs 00170182_m1, Lot. No. 674275) を用いた。t-PAに対するprimer probeは、PLAT (Hs 00263492_m1, Lot. No. 674699) を用いた。PAI-1に対するprimer probeは、SERPINE (Hs 00167155_m1,Lot. No. 684880) を用いた。
【0038】
方法
0.8×105 細胞/dishの密度になるように10% ウシ胎仔血清(FBS)を含む(+)RPMI-1640培地で細胞懸濁液を調整し、直径100mmのペトリディッシュ(IWAKI, Chiba, Japan)に播種した。翌日、細胞が定着しているのを確認し、2〜3日後に細胞がサブコンフルエントになった時点で実験を開始した。
培養液中に海洋性腐植土抽出液が1容量%含まれるように培養液を調整した。コントロールとして海洋性腐植土抽出液の代わりに滅菌蒸留水を使用した。
【0039】
細胞がサブコンフルエントになった時点で培養液を除去し,細胞をPBS(−)で洗浄した後、海洋性腐植土抽出液を含む培養液を10 ml/dishずつ加えて37℃、5% CO2下でインキュベーター内に静置した。24時間経過後、培養液を除去し、細胞をPBS(−)で洗浄した後、トリプシン/EDTA溶液1 mlで細胞をペトリディッシュから遊離させて回収した。回収した細胞懸濁液を、4℃、1000rpmで1分間遠心分離後、上清を除去し、1 mlの10% FBS(−)RPMI-1640を加えた。そして、細胞懸濁液を1.5 mlエッペンドルフチューブに移した後、4℃、2000 rpmで1分間遠心分離し、上清を除去して細胞を得た(図2参照)。
細胞は-80℃にて保存した。
【0040】
得られた細胞からmRNAを、RNeasy(登録商標) Mini Kit (50) (QIAGEN, Tokyo, Japan) を用いて精製した。
u-PA、t-PA、PAI-1 mRNA発現量はGAPDH mRNA発現量で補正した。蒸留水(コントロール)と海洋性腐植土抽出液を培養液に加えたときのt-PA mRNA発現量は、それぞれ0.863±0.226と1.277±0.339であった。u-PA mRNA発現量はそれぞれ、0.932±0.327と1.059±0.125であった。PAI-1 mRNA発現量はそれぞれ、3.990±0.691と2.536±0.553であった。培養液に海洋性腐植土抽出液を加えた場合、t-PA mRNAの発現量はコントロールに比べて有意に増加していた。u-PA mRNAの発現量にも増加傾向が認められたが、有意差は認められなかった。一方、培養液に海洋性腐植土抽出液を加えた場合、PAI-1 mRNAの発現量はコントロールに比べて有意に減少していた(図3参照)。
以上の結果から海洋性腐植土抽出液は、血栓溶解に係わるt-PAおよびu-PA mRNAを増加し、血栓溶解を抑制するPAI-1を減少させることから血栓溶解促進作用を有することが判った。
【0041】
実施例2
海洋性腐植土水抽出物の血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす影響
TKM-33を0.3×104 細胞/wellの密度になるように10% FBS(+) RPMI-1640培地で調整し、24 well プレートの各wellに500μlずつ播種した。2〜3日間培養して細胞がサブコンフルエントになったのを確認してから実験を開始した。
海洋性腐植土水抽出物は、原液か、蒸留水で1/2、1/4および1/8希釈した各希釈液を試料とした。これを、培養液中にそれぞれ1容量%ずつ添加した。コントロールとして蒸留水を使用した。培養液を除去後、細胞をPBSで洗浄した。その後、各試料を含む培養液に培地換えを行い、37℃、5% CO2下のインキュベーター内に静置した。24時間後、培養液を回収し、−20℃にて保存した。この培養液を試料としてフィブリンエンザイモグラフィーでu-PA活性を測定した。
【0042】
なお、フィブリンエンザイモグラフィーとは、SDS-PAGEとフィブリン平板法の原理を組み合わせた方法であり、PA様物質の検出とその分子量を同時に測定することができる。ゲル中にフィブリンとプラスミノーゲンが存在しており、電気泳動を行うことによって試料中のPAが分子量毎に分離されて、分離された部位でプラスミノーゲンを活性化する。活性化されたプラスミノーゲンは酵素活性を有するプラスミンになり、フィブリンを溶解する。溶解バンドの面積とその濃淡をデンシトメーターで解析することによって、フィブリン分解活性を評価することができる。このとき分子量マーカーを同時に泳動すると、そのタンパク質の分子量も推定することができる。
【0043】
先ず、血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす海洋性腐植土水抽出物質の影響を検討した。腐植土抽出液を加えていないコントロールに比べ、原液、1/2、1/4、1//8希釈した腐植土水抽出物を培養液に1容量%添加した場合では、有意にu-PA分泌量が増加した(図4参照)。コントロール(蒸留水)の94.045±5.136U/mlに対し、原液の腐植土水抽出物を加えることにより、113.288±11.695U/mlと約20%のu-PA活性の増加が観察された。
すなわち、海洋性腐植土水抽出液は、培養血管内皮細胞に作用して、培養血管内皮細胞からのu-PA分泌量を増加することが判った。
【0044】
実施例3
フルボ酸の培養血管内皮細胞への影響
フルボ酸試料
日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸、および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸の二種類のフルボ酸を使用した。
【0045】
蒸留水で調整した10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/mlのフルボ酸溶液(pH 2)を、培養液中に1容量%ずつ添加した(終濃度は100μg/ml、10μg/ml 、1μg/ml)。筑後川フルボ酸については蒸留水に溶解しにくかったため、超音波ホモジナイザーアイラVCX-130にて1分間溶解し、遠心分離(1000 rpm, 5分)して得られた上清を蒸留水で希釈した。
【0046】
血管内皮細胞
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞由来の樹立化細胞(TKM-33)を使用した。
【0047】
細胞増殖能の検討
培養液中に前記蒸留水で調整した10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/mlのフルボ酸溶液(pH 2)を、培養液中に1容量%ずつそれぞれ添加し、10%FBSを含むRPMI-1640培地を調整し培養液として用いた。コントロールには滅菌蒸留水を使用した。TKM-33を96wellプレートに0.6×103細胞/wellの細胞密度で播種し、調整した培養液で24時間培養した。その後、Premix WST-1(タカラバイオ株式会社, Lot. No. 4401)を各wellに10μl添加し、30分後にMicro Plate Reader (ABI, CA, USA) を用い、波長450nmで吸光度を測定した(図5参照)。
【0048】
u-PA活性およびPAI-1抗原量の測定
TKM-33を0.3×104 細胞/wellの密度になるように10% FBS(+) RPMI-1640培地で調整し、24 well プレートの各wellに500μlずつ播種した。2〜3日間培養して細胞がサブコンフルエントになったのを確認してから実験を開始した。
【0049】
フルボ酸は蒸留水で希釈したものを試料とした。これを、培養液中にフルボ酸が1容量%となるように添加した(フルボ酸の終濃度は100μg/ml、10μg/ml 、1μg/ml)。コントロールとして蒸留水を使用した。培養液を除去後、細胞をPBSで洗浄した。その後、フルボ酸を含む培養液に培地換えを行い、37℃、5% CO2下のインキュベーター内に静置した。24時間後、培養液を回収し、−20℃にて保存した。この培養液を試料としてフィブリンエンザイモグラフィーでu-PA活性を、ELISA法でPAI-1抗原量を測定した(図6参照)。
【0050】
フィブリンエンザイモグラフィーとは、SDS-PAGEとフィブリン平板法の原理を組み合わせた方法であり、PA用物質の検出とその分子量を同時に測定することができる。ゲル中にフィブリンとプラスミノーゲンが存在しており、電気泳動を行うことによって試料中のPAが分子量毎に分離されて、分離された部位でプラスミノーゲンを活性化する。活性化されたプラスミノーゲンは酵素活性を有するプラスミンになり、フィブリンを溶解する。溶解バンドの面積とその濃淡をデンシトメーターで解析することによって、フィブリン分解活性を評価することができる。このとき分子量マーカーを同時に泳動すると、そのタンパク質の分子量も推定することができる。
【0051】
培養液中のPAI-1抗原量はZYMUTEST PAI-1 Antigen kit(HYPHEN BioMed, Neuville-sur-Oise, France, Lot. No. 070420B-PK:3)を用いて測定した。
【0052】
段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の培養血管内皮細胞増殖能への影響
段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸を培養液に添加した場合と蒸留水を培養液に添加した場合との間で、細胞増殖能に有意差は認められなかった(図7参照)。
このことより、段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸のいずれにも細胞毒性がないことが確認された。
【0053】
実施例4
血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響
培養液に滅菌蒸留水を添加した時のu-PA活性量を100%として、培養液にフルボ酸を添加した時の培養液中u-PA活性量を百分率で求めた。段戸フルボ酸を100μg/ml、10μg/ml、1μg/ml添加した場合の相対的u-PA活性量(%)はそれぞれ、93.1±11.8%、105.4±18.1%、121.1±20.0%であった。筑後川フルボ酸を100μg/ml、10μg/ml、1μg/ml添加した場合の相対的u-PA活性量(%)はそれぞれ、96.3±6.1%、99.5±14.4%、114.3±26.4%であった。終濃度1μg/mlのフルボ酸を培養液に添加した場合、相対的u-PA活性量はコントロールに比べて増加傾向であった。特に、培養液に段戸フルボ酸を終濃度1μg/ml添加した場合、相対的u-PA活性量はコントロールに比べて有意に高値であった(図8参照)。
【0054】
実施例5
血管内皮細胞培養液中PAI-1抗原量に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響
培養液に滅菌蒸留水を添加した時、培養液中PAI-1抗原量は25.075±4.665 ng/mlであった。フルボ酸を最終濃度が100μg/mlとなるように培養液に添加した場合、培養液中PAI-1抗原量は段戸フルボ酸で10.836±1.955 ng/mlであった。また、筑後川フルボ酸では13.462±4.038 ng/mlであった。いずれの場合もPAI-1抗原量は有意に減少していた(図9参照)。
【0055】
なお、段戸フルボ酸と筑後川フルボ酸との間にはPAI-1抗原量に有意な差は認められなかった。
このことから、段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸はともに、t-PA活性およびu-PA活性のインヒビターであるPAI-1を減少させ、血栓溶解活性を有すると考えられる。
【0056】
実施例6
海洋性腐植土抽出液の生体への効果(ラットを用いた実験)
株式会社マリネックスより提供された海洋性腐植土を使用した。腐植土(有明海産、Lot.No. 08-02)と蒸留水が重量比で1:6の割合で溶解になるように混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX-130 (SONICS & MATERIALS) (130Watt, 20Khz, 30%振幅) にて10分間処理した。その後、1000 rpm、5分間遠心分離を行い、得られた上清をフィルター濾過 (ステラディスク0.2μm) し、海洋性腐植土抽出液の試料(pH 2.83) とした。この海洋性腐植土抽出液試料を蒸留水で希釈して3%(容量%)の海洋性腐植土抽出液溶液(pH 3.99)を作製した。
【0057】
実験動物および飼育環境
ラットは雄性 Wistar 系 6 週齢ラットを日本クレア(株)より購入して用いた。
飼料としてオリエンタル酵母のMFを用いた。温度は24±1℃、明暗サイクルは12時間の明暗サイクル(午前7時〜午後7時の明期と午後7時〜午前7時の暗期)の環境下で飼育した。
【0058】
1週間の予備飼育後、3週間の実験飼育を行った。予備飼育中は全ラットに蒸留水を与え、実験飼育では実験群(n=8)に3%海洋性腐植土抽出液を、対照群(n=9)には蒸留水を与えた。各群とも飲水および飼料は自由摂取とした(図10参照)。
なお、ラットを用いた動物実験は近畿大学動物実験委員会の承認を得て、近畿大学動物実験規定に従って実施した。
【0059】
ラットの体重、飲水量、飼料摂取量、臓器重量の測定および採血
ラットの体重、飲水量および飼料摂食量を1日おきに測定した。3週間の実験飼育が終了後、10%のネンブタール(1ml/100g)を腹腔内投与して麻酔し、腹部大動脈よりクエン酸採血(全血:3.8%クエン酸ナトリウム=9:1となるように採血)を行った。脳、腎臓、肝臓は摘出後、直ちに重量を測定した。
【0060】
血液中の線溶活性の測定(ユーグロブリン分画の調整とその線溶活性の測定)
クエン酸採血した血液を4℃、4,000rpm、15分間遠心分離して血漿を調整した。血漿 0.5mlに0.01%酢酸を9.5ml加えて数回転倒混和し、15分間氷中で静置して白色沈殿を析出させた。その後、4℃、3,000rpm、5分間遠心分離して管底に沈査を得た。管底の沈査をガラス棒でかき混ぜてペースト状とし400μlのバルビタールbufferで溶解したものを、ユーグロブリン分画とした。ユーグロブリン分画中の線溶活性はフィブリンエンザイモグラフィーにて評価した。
【0061】
血小板凝集能の測定
クエン酸採血した血液を4℃、1,000rpm、10分間遠心分離し、採取した上清を多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)とした。その後、4℃、4,000rpm、15分間遠心分離した上清を乏血小板血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)として採取し、血小板凝集能の測定に用いた。
【0062】
血小板惹起物質として0.1、0.5、1μMのADP(分子量427、和光純薬工業(株)、lot No.105603)をベロナール緩衝液で調整した。
血小板凝集は東京光電社製アグリゴメーター(TPA-4C)を用いて観察した。200μlのPRPに、終濃度が0.01、0.05、0.1μMになるように0.1、0.5、1μM のADPを22μlずつ添加して、血小板凝集を惹起した。測定温度は37℃、測定時間は10分間とした。
【0063】
実験飼育中のラットの体重、飼料摂取量および飲水量の変化
実験の開始から1日おきに体重および飼料摂取量を測定したが、蒸留水を摂取した対照群の体重および飼料摂取量と、海洋性腐植土抽出液を摂取した腐植土群の体重および飼料摂取量との間に有意差は認められなかった(図11および12参照)。
【0064】
実験の開始から1日おきに飲水量を測定したところ、21、23、27日目において海洋性腐植土抽出液の摂取量が蒸留水の摂取量より有意に少なかった(図13参照)。しかし、実験期間中の総飲水量は対照群で427.2±10.2ml、腐植土群で397.3±0.1mlとなり、有意な差は認められなかった。
また、実験飼育後の肝臓、脳および腎臓の重量にも有意差は認められなかった。
したがって、海洋性腐植土抽出液を摂取してもラットの体重、臓器に対する影響は何ら認められなかった。
【0065】
実施例7
血液中の線溶活性(ユーグロブリン分画中の線溶活性)
3週間の実験飼育終了後に調整したユーグロブリン分画中のu-PA活性は対照群に比べて腐植土群において有意に増強していた(図14参照)。
【0066】
一方、ユーグロブリン分画中のt-PA活性は対照群に比べて腐植土群において増加傾向を示した。しかしながら2群間に有意な差は認められなかった(図15参照)。
【0067】
実施例8
血小板凝集能
ADPをPRPに添加し、10分間の測定時間内に最も強く凝集した時の凝集率を最大凝集率(%)とした。終濃度0.01μMのADPをPRPに添加して血小板の最大凝集率を比較した場合、腐植土群の最大凝集率は対照群の最大凝集率よりも有意に低下していた(図16参照)。
【0068】
しかし、終濃度0.05μMおよび0.1μMのADPをPRPに添加して血小板の最大凝集率を測定した場合、対照群と腐植土群の間で有意差は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、細胞毒性がない海洋性腐植土の水性溶媒抽出物およびフルボ酸を、血栓溶解用組成物として安全に利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋性腐植土の水溶性抽出液の新規用途に関する。
具体的には、本発明は、海洋性腐植土の水溶性抽出液を有効成分とする血栓溶解用組成物に関する。
より具体的には、本発明は、海洋性腐植土の水溶性抽出液またはフルボ酸を有効成分とする血栓溶解用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋性腐植土は、推定500万年〜数千万年の古代に、海草、藻類、植物、魚介類および他の生物などが海底深く埋没し、長い年月をかけて重なり合い堆積し作り上げられたものであり、その地層が地殻変動により隆起して現れたものと考えられている。
【0003】
海洋性腐植土には、海洋性腐植物質として、上記の海草、藻類、植物、魚介類および他の生物などが、土壌中で微生物などによる分解された分解物;土壌中で発酵した発酵物;土壌生物により消化された消化物;さらに上記の分解物、発酵物、消化物から微生物などにより合成された合成物などの種々の有機物およびミネラルが含まれることが知られている。
【0004】
また、海洋性腐植土に含まれる有機物の大部分が、上記の海洋性腐植物質である。
海洋性腐植土を、水酸化ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムなどのアルカリを加え処理すると、海洋性腐植土に含まれる海洋性腐植物質の60〜80%を含む濃赤褐色の懸濁液が得られる。
【0005】
この懸濁液を常法により水性溶液と不溶成分に分離した不溶成分をフミン(humin)という。このフミンは、アルカリだけでなく酸にも不溶性の高分子有機物の混合物であり、土壌の無機成分と強く結合する性質を有している。
また、アルカリを加えて得られた溶液にpH1〜2程度の酸を加えて酸性にすると黒褐色の綿状の沈殿物を生じる。この酸に不溶な物質を腐植酸(humic acid)という。
腐植酸は分子量300,000程度までの物質であり、腐植物質としての性質はこの腐植酸によるものとされている。
【0006】
また黄色の上澄み液であるアルカリにも酸にも可溶の部分をフルボ酸(fulvic acid)という。このフルボ酸は、分子量2,000〜50,000程度の比較的分子量が小さい物質の混合物である。この画分は分画操作上の画分であって、該画分が含む有機物の混合物の本質的な違いを表したものではない。このフルボ酸については古くから研究されてきているが、その本質についてはあまり分かっていない(非特許文献1および2)。
【0007】
これまで、海洋性腐植物質の生理活性については、抗菌・殺菌作用、抗腫瘍効果などが報告されているが他の生理作用については何ら報告されていない(非特許文献3〜5)。
【0008】
一方、生体内を循環している血液は、常に流動性を保ちながら生理機能を営んでいる。しかしながら、いったん出血が起こると、血液は流動性を失ってゲル化する。この現象は血液凝固とよばれ、生体内のもつ防御機構の一環である。
損傷を受けた血管壁では内皮下組織のコラーゲン繊維が露出し、そこに血液中の血小板が粘着、凝集して血小板血栓を形成する。この初期反応を一次止血とよぶ。
血小板血栓は一時的なものであり、安定した血栓になるためにはフィブリン網でしっかりと血小板血栓を包み込む必要がある。このフィブリン血栓を完成させるのが二次止血である。
【0009】
しかし、このフィブリン血栓が止血の後も長期間血管内に留まると、血液の循環障害を引き起こす。特に血栓が、動脈を完全あるいは不完全に閉塞した場合には血流障害から末梢組織や臓器に壊死をきたす。心筋梗塞や脳梗塞はその一例であり、我が国において、全死因の約30%を占めている。
【0010】
このため不要になったフィブリン血栓は除去されなければならず、そのために存在するのが線維素溶解系(線溶系)である。線溶系は、血管内に生じた血栓を溶解する生理反応のことであり、線溶系因子は血管内皮細胞から分泌される。線溶系の反応を開始させる物質には組織性プラスミノーゲンアクチベーター(tissue-type plasminogen activator:t-PA)とウロキナーゼタイププラスミノーゲンアクチベーター(urokinase-type plasminogen activator:u-PA)が存在する(非特許文献6)。
【0011】
いずれもプラスミノーゲンをプラスミンに活性化させるセリン酵素であり、活性化されたプラスミンが酵素活性を発現し、血栓の主要成分であるフィブリンを分解して血栓を溶解する。
この反応は、プラスミノーゲンの血中濃度がほぼ一定で劇的に変化することがないので、主にt-PAやu-PAの発現量や活性量の変化で調節される。ただし、t-PAやu-PAの活性はこれらのインヒビターであるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1))とのバランスによって決定されることが知られている(非特許文献7および8)(図1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】松中照夫:土壌学の基礎−生成・機能・肥沃土・環境−、農山漁村文化協会、47〜49(2003)
【非特許文献2】久馬一剛、庄子貞雄ら:新土壌学、朝倉書店、40〜49(1989)
【非特許文献3】Kodama H.、 DensoおよびNakagawa T.:Protection against atypical Aeromonas salmonicida infection in carp (Cyprinus carpio L.) by oral administration of humus extract、J. Vet. Med. Sci.、69(4)、405-408 (2007)
【非特許文献4】Kodama H.およびDENSO:Antitumor Effect of Humus Extract on Murine Transplantable L1210 Leukemia, J. Vet. Med. Sci.、69(10)、1069-1071 (2007)
【0013】
【非特許文献5】Kodama H.、Denso、Okazaki F.およびIshida S.:Protective effect of humus extract against Trypanosoma brucei infection in mice.、J. Vet. Med. Sci.、70(11):1185-90 (2008)
【非特許文献6】上嶋繁および松尾理:血栓溶解薬開発の現状と展望、最新医学63(7)、15-21(2008)
【非特許文献7】松尾理:線溶系と血栓 オーバービュー、In 一瀬白亭 編、血栓・止血・血管学−血栓症制圧のために−、中外医学社、532-533 (2005)
【非特許文献8】松尾理:よく分かる病態生理5 血液疾患、日本医事新報社、103-106 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、新規な血栓溶解用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、新規な血栓溶解用組成物の開発を目的として鋭意研究努力を重ねた結果、驚くべきことに海洋性腐植土の水性溶媒抽出液が、血栓溶解作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
しかるに、本発明によれば、有効成分が、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液またはフルボ酸であることを特徴とする血栓溶解用組成物が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、前記フルボ酸が、段戸フルボ酸または筑後川フルボ酸である前記組成物が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、前記水性溶媒が、0〜50%の低級アルコール水溶液である前記組成物が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、前記水性溶媒が、0〜20%の低級アルコール水溶液である前記組成物が提供される。
【0020】
さらに、本発明によれば、前記水性溶媒が、水である前記組成物が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液を血栓溶解用組成物として安全に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】線溶系を示す模式図であり、点線は抑制反応を示す。
【図2】培養血管内皮細胞の培養および細胞の回収を示す模式図である。
【図3】海洋性腐植土抽出液が培養血管内皮細胞における線溶系因子のmRNA発現に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】海洋性腐植土水抽出物質が血管内皮細胞の培養液中u-PA活性に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の細胞増殖能への影響を検討する方法を示す模式図である。
【図6】フルボ酸の線溶系因子分泌への影響を検討する方法を示す模式図である。
【図7】段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の細胞増殖能におよぼす影響を示すグラフである。
【図8】培養液中u-PA活性に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響を示すグラフである。
【図9】培養液中PAI-1抗原量に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響を示すグラフである。
【図10】ラットの飼育条件を示す模式図である。
【図11】実験中のラットの体重の変化を示すグラフである。
【図12】実験中のラットの摂食量の変化を示すグラフである。
【図13】実験中のラットの飲水量の変化を示すグラフである。
【図14】ユーグロブリン分画中のu-PA活性を比較するグラフである。
【図15】ユーグロブリン分画中のt-PA活性を比較するグラフである。
【図16】血小板凝集率(最大凝集率)の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明では、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液が用いられる。
上記の水性溶媒としては、水;希塩酸のような酸性水溶液;水性エタノールのような50%以下の低級アルコールの水溶液を用いることができる。水は、塩素を除去したものが好ましい。塩素を除去する方法としては特に限定されないが、常温で数日間放置する方法、アスコルビン酸などの還元剤を用いる方法、活性炭またはイオン交換樹脂などの吸着剤を用いる方法などが挙げられるが、蒸留水、イオン交換蒸留水またはミリポア水がさらに好ましい。
【0024】
本発明において、用いられる用語「低級アルコール」とは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールおよびヘキサノールまたはこれらアルコールの異性体もしくはこれらアルコールの混合物を意味する。
水性溶媒のpHは特に限定されないが、pH6.0〜8.0の範囲のものが好ましく、より好ましくはpH6.3〜7.5の範囲である。
【0025】
本発明において用いられる海洋性腐植土としては、特に限定されないが、海底から0.5〜250mの深さに存在する海洋性腐植土層、またはこの海洋性腐植土層が地殻変動により隆起した波打ち際または湿地帯の深さ5〜30mに存在する海洋性腐植土層から採取した腐植土を使用できる。
【0026】
このような海洋性腐植土としては、例えば、マリネックス社製の有明海産の粉末状海洋性腐植土(Lot. No. 08−02)などが挙げられる。
また、本発明で用いられるフルボ酸としては、例えば、日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸が挙げられる。
【0027】
本発明で用いられる海洋性腐植土の水性溶媒抽出液を得る方法は特に限定されないが、以下の工程(1)〜(3)を含む方法が好ましい。
(1) 腐植土と水性溶媒との混合物(1:5〜1:10(重量比))を、攪拌および静置を繰り返し工程;
(2)固形物を除去工程;
(3)得られた懸濁液を周囲温度で長期間静置し、上清を得る工程。
【0028】
上記の工程(1)では、まず、水槽などの容器中で、腐植土に対して5〜10倍量(重量比)の水性溶媒を攪拌しながら腐植土に加えて、懸濁物を得る。
次いで、得られた懸濁物を室温で処理する。
本明細書において用いられる「室温」とは、20〜45℃、好ましくは25〜40℃、より好ましくは28〜35℃の室内温度を意味する。
上記の処理は、攪拌および静置を繰り返すことにより行われる。攪拌は、容器の底部に沈殿した腐植土が水性溶媒中に拡散される程度に行えばよく、連続的または断続的のいずれであってもよい。この処理は、1週間以上続けることができる。
【0029】
工程(2)において固形物を分離する方法としては、腐植土と液体とを分離して腐植土を分離することができる方法であれば特に限定されないが、静置後に沈殿物をデカントにより分離するか、または遠心分離などにより分離できる。
デカントにより沈殿物を分離する方法は、懸濁物を25〜35℃で150〜240時間程度静置して腐植土を沈殿させた後に、デカントにより上清だけを取得する。より確実に固形物を除去するために、さらに布などを用いて浮遊物をろ去してもよい。このようにして得られる上清は、pH2.5〜3.0程度である。
【0030】
工程(3)は、得られた上清を周囲温度で長期間静置することにより行われる。長期間とは、180〜500日間程度であればよく、好ましくは300〜400日間程度である。この放置の間、温度は一定であってもよいし、変動してもよい。通常、25〜35℃の温度で30〜60日保持し、5〜15℃の温度で30〜60日保持すると、本発明で用いるのにより好ましい腐植土の水性溶媒抽出液を得ることができる。
【0031】
上記の静置により得られた液を、さらにろ過してもよい。ろ過は、液中の浮遊物を除去できる程度であればよく、例えば孔径40〜100μm、及び10〜40μmの2種類のメンブレンフィルターを用いて行うことができる。
上記の方法により得られる腐植土の水性溶媒抽出液は、pH2.0〜3.5、及び電気伝導度が350〜500mVの薄茶色の実質的に無臭の液体である。
【0032】
また、この腐植土の水性溶媒抽出液は、凍結乾燥後の重量が、腐植土の水性溶媒抽出液100mlあたり0.5〜1gであり、DAX−8樹脂カラムを通して吸着される成分(フルボ酸)の凍結乾燥後の重量が、腐植土の水性溶媒抽出液100mlあたり0.001g以下である。
【0033】
また、上記の海洋性腐植土の水性溶媒抽出は、超音波ホモジナイザーなどを用いて積極的に分散抽出を短時間で行うこともできる。
すなわち、上記の海洋性腐植土の水性溶媒抽出液を、海洋性腐植土1重量部に対して蒸留水3〜12重量部、好ましくは、4〜8重量部、さらに好ましくは、6重量部を用いて混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX−130(SONICS & MATERIALS Inc,;130Watt、20Khz、30%振幅)にて10分間超音波処理した。この超音波処理液を、1000rpmで5分間遠心分離して、得られた上清を、ステラディスク(0.2μm)を用いてろ過し、得られたろ液(pH2.83)を海洋性腐植土水性溶媒抽出液として用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明に係る実施例を図面に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
海洋性腐植土は、マリネックス社製有明海産粉末状海洋性腐植土(Lot. No. 08−02)を用いた。また、フミン酸は、日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸を用いた。
【0035】
製造例1
海洋性腐植土の水性溶媒抽出液
海洋性腐植土の水性溶媒抽出液は、株式会社マリネックス社製粉末状海洋性腐植土3.0gに対して蒸留水18.0gを用いて混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX−130(SONICS & MATERIALS Inc,;130Watt、20Khz、30%振幅)にて10分間超音波処理した。この超音波処理液を、1000rpmで5分間遠心分離して、得られた上清11.0gを、ステラディスク(倉敷紡績株式会社製;Lot. No. 180925;0.2μm)を用いてろ過し、得られたpH2.83のろ液10.6gを海洋性腐植土水性溶媒抽出液の試料とした。
【0036】
実施例1
海洋性腐植土抽出液が培養血管内皮細胞における線溶系因子のmRNA発現に及ぼす影響
血管内皮細胞
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞由来の樹立化細胞(TKM-33)を使用した。
【0037】
リアルタイムPCR
培養血管内皮細胞におけるt-PA、u-PA、PAI-1およびGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) mRNAsの発現はStepOnePlus(商標) Real-Time PCR System (Applied Biosystems、CA、USA)を用いて行った。培養血管内皮細胞からのmRNAの抽出にはRNeasy(登録商標) Mini Kit (50) (QIAGEN, Tokyo, Japan) を使用した。抽出したmRNAからcDNAへの逆転写は、High Capacity RNA-to-cDNA kit (Applied Biosystems, CA, USA, Lot.No. 0901013)を用いて行った。以下のprimer probeはいずれもApplied Biosysytems(CA, USA)より購入した。GAPDHに対するprimer probeは、GAPDH (Hs 999999_m1, Lot. No. 715871) を用いた。u-PAに対するprimer probeは、PLAU (Hs 00170182_m1, Lot. No. 674275) を用いた。t-PAに対するprimer probeは、PLAT (Hs 00263492_m1, Lot. No. 674699) を用いた。PAI-1に対するprimer probeは、SERPINE (Hs 00167155_m1,Lot. No. 684880) を用いた。
【0038】
方法
0.8×105 細胞/dishの密度になるように10% ウシ胎仔血清(FBS)を含む(+)RPMI-1640培地で細胞懸濁液を調整し、直径100mmのペトリディッシュ(IWAKI, Chiba, Japan)に播種した。翌日、細胞が定着しているのを確認し、2〜3日後に細胞がサブコンフルエントになった時点で実験を開始した。
培養液中に海洋性腐植土抽出液が1容量%含まれるように培養液を調整した。コントロールとして海洋性腐植土抽出液の代わりに滅菌蒸留水を使用した。
【0039】
細胞がサブコンフルエントになった時点で培養液を除去し,細胞をPBS(−)で洗浄した後、海洋性腐植土抽出液を含む培養液を10 ml/dishずつ加えて37℃、5% CO2下でインキュベーター内に静置した。24時間経過後、培養液を除去し、細胞をPBS(−)で洗浄した後、トリプシン/EDTA溶液1 mlで細胞をペトリディッシュから遊離させて回収した。回収した細胞懸濁液を、4℃、1000rpmで1分間遠心分離後、上清を除去し、1 mlの10% FBS(−)RPMI-1640を加えた。そして、細胞懸濁液を1.5 mlエッペンドルフチューブに移した後、4℃、2000 rpmで1分間遠心分離し、上清を除去して細胞を得た(図2参照)。
細胞は-80℃にて保存した。
【0040】
得られた細胞からmRNAを、RNeasy(登録商標) Mini Kit (50) (QIAGEN, Tokyo, Japan) を用いて精製した。
u-PA、t-PA、PAI-1 mRNA発現量はGAPDH mRNA発現量で補正した。蒸留水(コントロール)と海洋性腐植土抽出液を培養液に加えたときのt-PA mRNA発現量は、それぞれ0.863±0.226と1.277±0.339であった。u-PA mRNA発現量はそれぞれ、0.932±0.327と1.059±0.125であった。PAI-1 mRNA発現量はそれぞれ、3.990±0.691と2.536±0.553であった。培養液に海洋性腐植土抽出液を加えた場合、t-PA mRNAの発現量はコントロールに比べて有意に増加していた。u-PA mRNAの発現量にも増加傾向が認められたが、有意差は認められなかった。一方、培養液に海洋性腐植土抽出液を加えた場合、PAI-1 mRNAの発現量はコントロールに比べて有意に減少していた(図3参照)。
以上の結果から海洋性腐植土抽出液は、血栓溶解に係わるt-PAおよびu-PA mRNAを増加し、血栓溶解を抑制するPAI-1を減少させることから血栓溶解促進作用を有することが判った。
【0041】
実施例2
海洋性腐植土水抽出物の血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす影響
TKM-33を0.3×104 細胞/wellの密度になるように10% FBS(+) RPMI-1640培地で調整し、24 well プレートの各wellに500μlずつ播種した。2〜3日間培養して細胞がサブコンフルエントになったのを確認してから実験を開始した。
海洋性腐植土水抽出物は、原液か、蒸留水で1/2、1/4および1/8希釈した各希釈液を試料とした。これを、培養液中にそれぞれ1容量%ずつ添加した。コントロールとして蒸留水を使用した。培養液を除去後、細胞をPBSで洗浄した。その後、各試料を含む培養液に培地換えを行い、37℃、5% CO2下のインキュベーター内に静置した。24時間後、培養液を回収し、−20℃にて保存した。この培養液を試料としてフィブリンエンザイモグラフィーでu-PA活性を測定した。
【0042】
なお、フィブリンエンザイモグラフィーとは、SDS-PAGEとフィブリン平板法の原理を組み合わせた方法であり、PA様物質の検出とその分子量を同時に測定することができる。ゲル中にフィブリンとプラスミノーゲンが存在しており、電気泳動を行うことによって試料中のPAが分子量毎に分離されて、分離された部位でプラスミノーゲンを活性化する。活性化されたプラスミノーゲンは酵素活性を有するプラスミンになり、フィブリンを溶解する。溶解バンドの面積とその濃淡をデンシトメーターで解析することによって、フィブリン分解活性を評価することができる。このとき分子量マーカーを同時に泳動すると、そのタンパク質の分子量も推定することができる。
【0043】
先ず、血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす海洋性腐植土水抽出物質の影響を検討した。腐植土抽出液を加えていないコントロールに比べ、原液、1/2、1/4、1//8希釈した腐植土水抽出物を培養液に1容量%添加した場合では、有意にu-PA分泌量が増加した(図4参照)。コントロール(蒸留水)の94.045±5.136U/mlに対し、原液の腐植土水抽出物を加えることにより、113.288±11.695U/mlと約20%のu-PA活性の増加が観察された。
すなわち、海洋性腐植土水抽出液は、培養血管内皮細胞に作用して、培養血管内皮細胞からのu-PA分泌量を増加することが判った。
【0044】
実施例3
フルボ酸の培養血管内皮細胞への影響
フルボ酸試料
日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸、および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸の二種類のフルボ酸を使用した。
【0045】
蒸留水で調整した10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/mlのフルボ酸溶液(pH 2)を、培養液中に1容量%ずつ添加した(終濃度は100μg/ml、10μg/ml 、1μg/ml)。筑後川フルボ酸については蒸留水に溶解しにくかったため、超音波ホモジナイザーアイラVCX-130にて1分間溶解し、遠心分離(1000 rpm, 5分)して得られた上清を蒸留水で希釈した。
【0046】
血管内皮細胞
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞由来の樹立化細胞(TKM-33)を使用した。
【0047】
細胞増殖能の検討
培養液中に前記蒸留水で調整した10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/mlのフルボ酸溶液(pH 2)を、培養液中に1容量%ずつそれぞれ添加し、10%FBSを含むRPMI-1640培地を調整し培養液として用いた。コントロールには滅菌蒸留水を使用した。TKM-33を96wellプレートに0.6×103細胞/wellの細胞密度で播種し、調整した培養液で24時間培養した。その後、Premix WST-1(タカラバイオ株式会社, Lot. No. 4401)を各wellに10μl添加し、30分後にMicro Plate Reader (ABI, CA, USA) を用い、波長450nmで吸光度を測定した(図5参照)。
【0048】
u-PA活性およびPAI-1抗原量の測定
TKM-33を0.3×104 細胞/wellの密度になるように10% FBS(+) RPMI-1640培地で調整し、24 well プレートの各wellに500μlずつ播種した。2〜3日間培養して細胞がサブコンフルエントになったのを確認してから実験を開始した。
【0049】
フルボ酸は蒸留水で希釈したものを試料とした。これを、培養液中にフルボ酸が1容量%となるように添加した(フルボ酸の終濃度は100μg/ml、10μg/ml 、1μg/ml)。コントロールとして蒸留水を使用した。培養液を除去後、細胞をPBSで洗浄した。その後、フルボ酸を含む培養液に培地換えを行い、37℃、5% CO2下のインキュベーター内に静置した。24時間後、培養液を回収し、−20℃にて保存した。この培養液を試料としてフィブリンエンザイモグラフィーでu-PA活性を、ELISA法でPAI-1抗原量を測定した(図6参照)。
【0050】
フィブリンエンザイモグラフィーとは、SDS-PAGEとフィブリン平板法の原理を組み合わせた方法であり、PA用物質の検出とその分子量を同時に測定することができる。ゲル中にフィブリンとプラスミノーゲンが存在しており、電気泳動を行うことによって試料中のPAが分子量毎に分離されて、分離された部位でプラスミノーゲンを活性化する。活性化されたプラスミノーゲンは酵素活性を有するプラスミンになり、フィブリンを溶解する。溶解バンドの面積とその濃淡をデンシトメーターで解析することによって、フィブリン分解活性を評価することができる。このとき分子量マーカーを同時に泳動すると、そのタンパク質の分子量も推定することができる。
【0051】
培養液中のPAI-1抗原量はZYMUTEST PAI-1 Antigen kit(HYPHEN BioMed, Neuville-sur-Oise, France, Lot. No. 070420B-PK:3)を用いて測定した。
【0052】
段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の培養血管内皮細胞増殖能への影響
段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸を培養液に添加した場合と蒸留水を培養液に添加した場合との間で、細胞増殖能に有意差は認められなかった(図7参照)。
このことより、段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸のいずれにも細胞毒性がないことが確認された。
【0053】
実施例4
血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響
培養液に滅菌蒸留水を添加した時のu-PA活性量を100%として、培養液にフルボ酸を添加した時の培養液中u-PA活性量を百分率で求めた。段戸フルボ酸を100μg/ml、10μg/ml、1μg/ml添加した場合の相対的u-PA活性量(%)はそれぞれ、93.1±11.8%、105.4±18.1%、121.1±20.0%であった。筑後川フルボ酸を100μg/ml、10μg/ml、1μg/ml添加した場合の相対的u-PA活性量(%)はそれぞれ、96.3±6.1%、99.5±14.4%、114.3±26.4%であった。終濃度1μg/mlのフルボ酸を培養液に添加した場合、相対的u-PA活性量はコントロールに比べて増加傾向であった。特に、培養液に段戸フルボ酸を終濃度1μg/ml添加した場合、相対的u-PA活性量はコントロールに比べて有意に高値であった(図8参照)。
【0054】
実施例5
血管内皮細胞培養液中PAI-1抗原量に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響
培養液に滅菌蒸留水を添加した時、培養液中PAI-1抗原量は25.075±4.665 ng/mlであった。フルボ酸を最終濃度が100μg/mlとなるように培養液に添加した場合、培養液中PAI-1抗原量は段戸フルボ酸で10.836±1.955 ng/mlであった。また、筑後川フルボ酸では13.462±4.038 ng/mlであった。いずれの場合もPAI-1抗原量は有意に減少していた(図9参照)。
【0055】
なお、段戸フルボ酸と筑後川フルボ酸との間にはPAI-1抗原量に有意な差は認められなかった。
このことから、段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸はともに、t-PA活性およびu-PA活性のインヒビターであるPAI-1を減少させ、血栓溶解活性を有すると考えられる。
【0056】
実施例6
海洋性腐植土抽出液の生体への効果(ラットを用いた実験)
株式会社マリネックスより提供された海洋性腐植土を使用した。腐植土(有明海産、Lot.No. 08-02)と蒸留水が重量比で1:6の割合で溶解になるように混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX-130 (SONICS & MATERIALS) (130Watt, 20Khz, 30%振幅) にて10分間処理した。その後、1000 rpm、5分間遠心分離を行い、得られた上清をフィルター濾過 (ステラディスク0.2μm) し、海洋性腐植土抽出液の試料(pH 2.83) とした。この海洋性腐植土抽出液試料を蒸留水で希釈して3%(容量%)の海洋性腐植土抽出液溶液(pH 3.99)を作製した。
【0057】
実験動物および飼育環境
ラットは雄性 Wistar 系 6 週齢ラットを日本クレア(株)より購入して用いた。
飼料としてオリエンタル酵母のMFを用いた。温度は24±1℃、明暗サイクルは12時間の明暗サイクル(午前7時〜午後7時の明期と午後7時〜午前7時の暗期)の環境下で飼育した。
【0058】
1週間の予備飼育後、3週間の実験飼育を行った。予備飼育中は全ラットに蒸留水を与え、実験飼育では実験群(n=8)に3%海洋性腐植土抽出液を、対照群(n=9)には蒸留水を与えた。各群とも飲水および飼料は自由摂取とした(図10参照)。
なお、ラットを用いた動物実験は近畿大学動物実験委員会の承認を得て、近畿大学動物実験規定に従って実施した。
【0059】
ラットの体重、飲水量、飼料摂取量、臓器重量の測定および採血
ラットの体重、飲水量および飼料摂食量を1日おきに測定した。3週間の実験飼育が終了後、10%のネンブタール(1ml/100g)を腹腔内投与して麻酔し、腹部大動脈よりクエン酸採血(全血:3.8%クエン酸ナトリウム=9:1となるように採血)を行った。脳、腎臓、肝臓は摘出後、直ちに重量を測定した。
【0060】
血液中の線溶活性の測定(ユーグロブリン分画の調整とその線溶活性の測定)
クエン酸採血した血液を4℃、4,000rpm、15分間遠心分離して血漿を調整した。血漿 0.5mlに0.01%酢酸を9.5ml加えて数回転倒混和し、15分間氷中で静置して白色沈殿を析出させた。その後、4℃、3,000rpm、5分間遠心分離して管底に沈査を得た。管底の沈査をガラス棒でかき混ぜてペースト状とし400μlのバルビタールbufferで溶解したものを、ユーグロブリン分画とした。ユーグロブリン分画中の線溶活性はフィブリンエンザイモグラフィーにて評価した。
【0061】
血小板凝集能の測定
クエン酸採血した血液を4℃、1,000rpm、10分間遠心分離し、採取した上清を多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)とした。その後、4℃、4,000rpm、15分間遠心分離した上清を乏血小板血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)として採取し、血小板凝集能の測定に用いた。
【0062】
血小板惹起物質として0.1、0.5、1μMのADP(分子量427、和光純薬工業(株)、lot No.105603)をベロナール緩衝液で調整した。
血小板凝集は東京光電社製アグリゴメーター(TPA-4C)を用いて観察した。200μlのPRPに、終濃度が0.01、0.05、0.1μMになるように0.1、0.5、1μM のADPを22μlずつ添加して、血小板凝集を惹起した。測定温度は37℃、測定時間は10分間とした。
【0063】
実験飼育中のラットの体重、飼料摂取量および飲水量の変化
実験の開始から1日おきに体重および飼料摂取量を測定したが、蒸留水を摂取した対照群の体重および飼料摂取量と、海洋性腐植土抽出液を摂取した腐植土群の体重および飼料摂取量との間に有意差は認められなかった(図11および12参照)。
【0064】
実験の開始から1日おきに飲水量を測定したところ、21、23、27日目において海洋性腐植土抽出液の摂取量が蒸留水の摂取量より有意に少なかった(図13参照)。しかし、実験期間中の総飲水量は対照群で427.2±10.2ml、腐植土群で397.3±0.1mlとなり、有意な差は認められなかった。
また、実験飼育後の肝臓、脳および腎臓の重量にも有意差は認められなかった。
したがって、海洋性腐植土抽出液を摂取してもラットの体重、臓器に対する影響は何ら認められなかった。
【0065】
実施例7
血液中の線溶活性(ユーグロブリン分画中の線溶活性)
3週間の実験飼育終了後に調整したユーグロブリン分画中のu-PA活性は対照群に比べて腐植土群において有意に増強していた(図14参照)。
【0066】
一方、ユーグロブリン分画中のt-PA活性は対照群に比べて腐植土群において増加傾向を示した。しかしながら2群間に有意な差は認められなかった(図15参照)。
【0067】
実施例8
血小板凝集能
ADPをPRPに添加し、10分間の測定時間内に最も強く凝集した時の凝集率を最大凝集率(%)とした。終濃度0.01μMのADPをPRPに添加して血小板の最大凝集率を比較した場合、腐植土群の最大凝集率は対照群の最大凝集率よりも有意に低下していた(図16参照)。
【0068】
しかし、終濃度0.05μMおよび0.1μMのADPをPRPに添加して血小板の最大凝集率を測定した場合、対照群と腐植土群の間で有意差は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、細胞毒性がない海洋性腐植土の水性溶媒抽出物およびフルボ酸を、血栓溶解用組成物として安全に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分が、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液またはフルボ酸であることを特徴とする血栓溶解用組成物。
【請求項2】
前記海洋性腐植土が、有明海産の海洋性腐植土である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フルボ酸が、段戸フルボ酸または筑後川フルボ酸である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記水性溶媒が、0〜50%の低級アルコール水溶液である請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
前記水性溶媒が、0〜20%の低級アルコール水溶液である請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
前記水性溶媒が、水である請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項1】
有効成分が、海洋性腐植土の水性溶媒抽出液またはフルボ酸であることを特徴とする血栓溶解用組成物。
【請求項2】
前記海洋性腐植土が、有明海産の海洋性腐植土である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フルボ酸が、段戸フルボ酸または筑後川フルボ酸である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記水性溶媒が、0〜50%の低級アルコール水溶液である請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
前記水性溶媒が、0〜20%の低級アルコール水溶液である請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
前記水性溶媒が、水である請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−82171(P2012−82171A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230795(P2010−230795)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(502333895)株式会社マリネックス (6)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(510272713)コーベビオケミア株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(502333895)株式会社マリネックス (6)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(510272713)コーベビオケミア株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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