説明

海洋深層水を利用した有機ぜんまい水煮の製造方法

【課題】海洋深層水を有機ぜんまい水煮の製造工程に利用することにより、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの食品添加物を使用することなしに、加熱殺菌後のぜんまいの軟化を抑制する製法を提供する。
【解決手段】有機ぜんまい水煮の充填液に海洋深層水を使用することにより、加熱殺菌後のぜんまいの軟化を抑制する有機ぜんまい水煮の製造方法を確立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ぜんまい水煮の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機ぜんまい水煮は、例えば、図1に示す工程に沿って製造されている。すなわち、まず原料となる乾燥ぜんまいを温水で復元し(湯戻し工程)、流水で洗浄する(洗浄工程)。ついで、規格外の原料を選別除去(選別工程)した後、ぜんまいの一定量と充填液を計量し、自動包装機で包装(包装・充填工程)した後、加熱殺菌(加熱殺菌工程)を行い、有機ぜんまい水煮商品が製造される。
【0003】
上記の工程で製造された有機ぜんまい水煮は、煮物などの具材として使用されているが、製造後室温で長期間保存・流通させるには、充填液に塩化カルシウムなどの食品添加物を使用して加熱殺菌後の軟化を抑制し、約4ヶ月間の賞味期間におけるぜんまいの軟化やほぐれを抑制している。
【0004】
野菜類を加熱殺菌する場合の野菜の軟化を抑制する方法として、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなど二価の金属イオンを添加することにより、野菜に含まれるペクチン分子を架橋して硬さを保持することが報告されている。さらに、野菜を50〜60℃で予備加熱することにより、組織中のペクチンエステラーゼによってペクチン質が脱メチル化し、カルシウムやマグネシウムを結合させやすくして、不溶性のペクチン質を形成することにより軟化を抑制する方法が報告されている。しかし、本発明のように、海洋深層水中に含まれるマグネシウムやカルシウムを利用して加熱による野菜の軟化を抑制する方法は報告されていない。
【非特許文献1】日本食品工業学会誌第39巻733-737(1992)
【非特許文献2】日本家政学会誌第40巻995-1002(1989)
【非特許文献3】Journal of Food Science 52,1317-1320 (1987)
【非特許文献4】家政学雑誌第37巻1029-1038(1986)
【非特許文献5】日本食品工業学会誌第28巻653-659(1981)
【非特許文献6】日本食品工業学会誌第27巻183-187(1980)
【非特許文献7】日本食品工業学会誌第27巻234-239(1980)
【非特許文献8】家政学雑誌第20巻235-238(1969)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ぜんまい水煮商品は加熱殺菌後のぜんまいの軟化抑制および、常温保存期間中(約4ヶ月間)の軟化やほぐれの抑制を行うために、充填液に乳酸カルシウム等を使用している。一方、有機ぜんまい水煮など、有機農産物加工食品の製造においては、乳酸カルシウムは使用することができないため、替わりに塩化カルシウムを使用して軟化を抑制している。しかしながら、塩化カルシウムを使用した場合、ぜんまいの軟化抑制効果は乳酸カルシウムとは異なり、また、味に苦味が生じることが問題である。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、ぜんまいの味に影響を及ぼすことなく、加熱殺菌後の軟化抑制が可能である有機ぜんまい水煮の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の有機ぜんまい水煮の製造方法は、海洋深層水に含まれるマグネシウムやカルシウムなど二価の金属イオンを利用してぜんまいのペクチン分子を架橋することにより、ぜんまいが本来有する味、食感を損なうことなく、適度な硬さを有する有機ぜんまい水煮を製造する。
【0008】
すなわち、本発明は有機ぜんまい水煮の製造においてマグネシウムやカルシウムを含む海洋深層水、海洋深層水の濃縮水、海洋深層水のミネラル濃縮水、海洋深層水の脱塩ミネラル水、海洋深層水塩の水溶液を有機ぜんまい水煮商品の充填液に使用することにより、加熱殺菌による軟化を抑制する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は有機ぜんまい水煮の製造工程において海洋深層水を利用することにより、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの食品添加物を使用することなく加熱殺菌によるぜんまいの軟化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の有機ぜんまい水煮の製造方法は、例えば、図1に示す工程に沿って行なわれる。すなわち、まず原料となる乾燥ぜんまいを温水で復元し(湯戻し工程)、流水で洗浄する(洗浄工程)。ついで、規格外の原料を選別除去(選別工程)した後、ぜんまいの一定量と充填液を計量し、自動包装機で包装(包装・充填工程)する。上記包装・充填工程における充填液に使用する海洋深層水の量は、ぜんまい100gに対して50〜150gの範囲に設定されていることが好ましい。また、海洋深層水の濃度は20%〜100%の範囲に設定されていることが好ましい。最後に、海洋深層水を含む充填液を充填し包装した有機ぜんまいを80〜100℃で40〜60分間加熱殺菌(加熱殺菌工程)を行うことにより、有機ぜんまい水煮商品が得られる。
【0011】
なお、上記の浸漬液として使用する海洋深層水は、海洋深層水の原水およびその希釈水、また、海洋深層水を濃縮した濃縮海洋深層水、海洋深層水のミネラル成分を濃縮したミネラル濃縮海洋深層水、海洋深層水から塩分を脱塩した脱塩ミネラル海洋深層水、海洋深層水から製塩された海洋深層水塩の水溶液などが使用できる。
【0012】
このようにして得られた有機ぜんまい水煮商品は、塩化カルシウムなどの食品添加物を使用することなく、加熱殺菌後のぜんまいの軟化を抑制することができる。
【実施例1】
【0013】
1000Lタンクに乾燥ぜんまい原料20kgを投入し、70〜80℃の温水500Lを加え、1時間乾燥ぜんまいの湯戻しを行った。同じ工程を2回繰り返し、乾燥重量に対して5〜6倍の重量になるまで湯戻しをして復元した。復元したぜんまいを洗浄・選別後、250g計量し、海洋深層水50%を含む充填液250gといっしょに包装材(180mm×230mm)に入れ真空包装後、90℃、50分間の加熱殺菌を行なった。同様に海洋深層水の脱塩ミネラル水を充填液に使用した有機ぜんまい水煮も調製した。海洋深層水は富山県滑川市の取水施設において富山湾の水深約300mから汲み上げた海洋深層水を使用した。また、海洋深層水の脱塩ミネラル水は、海洋深層水を富山県滑川市の取水施設において電気透析して製造したものを使用した。使用した海洋深層水に含まれる主なミネラルの含有量を表1に示した。加熱殺菌後のぜんまいの硬さは、12人による官能試験により評価し、結果を表2に示した。充填液に海洋深層水を使用した水煮ぜんまいは、使用しなかった水煮ぜんまいと比べ軟化が抑制されていた。また、35℃のふ卵器で1ヶ月間ぜんまい水煮商品を保管した後、ぜんまいのほぐれを調べた。充填液に海洋深層水を使用した水煮ぜんまいは、ほぐれが認められなかったが、海洋深層水を使用しなかった水煮ぜんまいは、約2割にほぐれが認められた。海洋深層水を含む充填液を使用することにより水煮ぜんまいは少し塩味が感じられたが、煮物等の味付調理した場合、味への影響はなく適度な硬さになった。海洋深層水の脱塩ミネラル水を充填液に使用した水煮ぜんまいも同様に軟化が抑制された。
【実施例2】
【0014】
温水で復元した乾燥有機ぜんまい250gに海洋深層水の原水、脱塩ミネラル水を含む充填液250gを加え包装後、90℃で1時間加熱殺菌を行った。比較として、乳酸カルシウムを添加した充填液と無添加の充填液を調整して同様の処理を行った。加熱殺菌後のぜんまい水煮の硬さは、クリープメーター(RHEONER RE−3305、(株)山電)を使用し、各サンプル20個を円柱プランジャー(直径3mm)で押しつぶし、破断荷重を測定した。破断荷重の平均値を図2に示した。有機ぜんまい水煮の充填液に海洋深層水の原水や脱塩ミネラル水を使用した場合、無添加の場合と比べ破断荷重の値が大きく、有意に(t検定、危険率5%)軟化抑制効果が認められた。また、日本食品工業学会編纂「食品分析法」に記載されているペクチンの分析方法に準じ、不溶性ペクチン(ヘキサメタリン酸可溶性ペクチン)、水溶性ペクチン、遊離ペクチンを測定した。海洋深層水原水、ミネラル脱塩水、乳酸カルシウムを充填液に使用したぜんまいは、不溶性ペクチン(ヘキサメタリン酸可溶性ペクチン)の含量が水を充填液にしたぜんまいに比べ多くなり、硬さとの正の相関が認められた(図3)。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0017】
有機ぜんまい水煮を製造するにあたり、軟化抑制を目的に塩化カルシウムなどの食品添加物を使用するかわりに海洋深層水を使用するため、従来の製造設備をそのまま使用して製造することが可能である。また、原料コストも従来とほとんど変わらないため適切な価格で提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】有機ぜんまい水煮製造の手順を示すフローシートである。
【図2】海洋深層水で処理した有機ぜんまい水煮の破断荷重を示すグラフである。
【図3】海洋深層水で処理した有機ぜんまい水煮の不溶性ペクチン量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋深層水を有機ぜんまい水煮の製造工程に利用することを特徴とする有機ぜんまい水煮の製造方法。
【請求項2】
海洋深層水を有機ぜんまい水煮の充填液に使用することにより、加熱殺菌後のぜんまいの軟化を抑制することを特徴とする有機ぜんまい水煮の製造方法。
【請求項3】
海洋深層水を有機ぜんまい水煮の充填液に使用することにより、製造後のぜんまいの軟化やほぐれを抑制することを特徴とする有機ぜんまい水煮の製造方法。
【請求項4】
海洋深層水に代え、海洋深層水の濃縮水、海洋深層水のミネラル濃縮水、海洋深層水の脱塩ミネラル水、海洋深層水塩のいずれか一種類または、複数を用いることを特徴とする、請求項1又は2又は3に記載の有機ぜんまい水煮の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−278756(P2008−278756A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123128(P2007−123128)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(500426353)ヤマサン食品工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】