説明

海藻の養殖に使用する施肥装置、養殖装置およびその装置を使用した養殖方法

【課題】昆布等の比較的大型の海藻類を大量に生産して燃料として活用するために、人工的に養分を供給して海藻の生長の促進と植生可能地域を拡大することが考えられているが、肥料の利用効率の低さと肥料の補充等施肥に関わる作業性の改善が課題となっている。
【解決手段】海藻の近傍に養分を放出する放出部材26と、放出部材を海底または養殖装置の植生部材1よりも海面に近い位置に吊下げる海面部材21から構成し放出部材と海面部材とを分離することで、海水中の海藻に養分を効率よく供給することと肥料の補充を海面上で容易にできるという異なる要求を両立させた。放出部材26の位置を養分の拡散状況に応じて設定することで海藻に対して養分を的確に供給できるようにすることに加えて、拡散防止壁3と揚水装置4により供給された養分が海藻の植生域外に拡散流出することを低減することで肥料の利用効率を向上している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昆布、アマモ等の海藻の養殖に使用する施肥装置、養殖装置およびその装置を使用した養殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年CO2問題対策の1つとして植物資源を燃料として活用する動きがあり、その中で植物資源の1つとして昆布やアマモ等の海底または海水中に係留された植生部材に生育する比較的大型の海藻類を大量に生産して活用することも検討されている。
【0003】
海藻類は周知のように海水中の養分を葉や根から吸収して生長する。海水中の養分は天然の条件下では地形や海流等の影響を強く受け、目的とする海藻の生育に適した場所が制約されている。そのため養分を人工的に効率よく供給することで地理的な条件の制約を排除して海藻類を大量に生産する技術の確立が期待されている。
【0004】
養分を人工的に供給する方法の1つとして図7に示すように肥料の溶出孔110を持つ中空容器100に肥料を収容するとともに海藻の植生部材である種糸200を前記容器に巻きつけ海中に係留する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、肥料を用いないで養分を供給する方法として、養分を多く含む海底近傍の海水(深層水)を水面近くに汲み上げ栽培漁業や海洋牧場に利用する揚水ポンプに関する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−316891
【特許文献2】特開2000−120523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術によって前記溶出孔110から海中に肥料を溶出した場合、肥料から溶出した養分は海流や波や養分の重い比重により平均的には斜め下方向に拡散し、多くの養分は海藻に吸収されずに短時間の間に海藻の生育外の海水中に拡散されてしまう懸念がある。特に昆布等の葉から養分を吸収する海藻の場合肥料が溶出する位置が葉より低いため養分の利用率が低いことが予想される。また、広い植生範囲に均等に養分を供給するためには収容器等の数を多くする必要があり設備コスト的にも懸念がある。また、肥料の収容器が海水中にあるため肥料の補充が必要な場合、海苔等の海水面近傍に生育する海藻の場合と比べ格段に作業性が悪いことも懸念される。植物資源として海藻を大量に生産する場合コストが低いことが重要であり、肥料の利用効率、設備コスト、作業コストのさらなる改良が望まれる。
【0006】
特許文献2に開示されている技術により深層水を海面近傍に汲み上げ利用する場合においても養分の拡散に対する配慮が必要であるが、その点に関しては記載がない。
【0007】
本願の目的は、これらの従来技術の懸念点である養分の拡散に起因する肥料の利用効率の低さと肥料の補充等施肥に関わる作業性を改善し、海中に生育する海藻の生長の促進と植生可能地域の拡大を可能ならしめる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、施肥装置は海底又は海水中に係留された植生部材に生育する海藻に養分を供給する施肥装置であり、海面に位置する海面部材と、海面部材から吊下げられて海藻の近傍に養分を放出する放出部材とを有し、放出部材は海底又は植生部材よりも海面に近い位置に吊下げられていることを特徴としている。このため、本発明では放出部材と海面部材とを分離することで海水中の海藻に養分を効率よく供給することと、肥料の補充を海面上で容易にできるという異なる要求を両立させることができる。
【0009】
肥料の利用効率が低い原因として、海中に溶け出した養分が海流による横方向と養分の比重が大きいことによる下方向の拡散が合成され平均的には斜め下方向に拡散して、短時間のうちに海藻が生育している場所の外に流出してしまうことがある。このように養分は斜め下方向に拡散するため、所定の範囲の海藻に養分を的確に供給するためには、養分を海中に放出する位置は海藻が養分を吸収する葉や根より少なくとも上側であることが必要である。このため、養分を海中に放出する部材(以下放出部材という)を海面に係留した浮力体から吊下げ、放出部材と海藻との高さ方向の距離を任意に設定可能とした。
【0010】
放出部材の位置を養分の拡散状況に応じて設定することで、拡散作用を利用し広い範囲の海藻に比較的均等に養分を供給することができるとともに、昆布のように葉から養分を吸収する海藻に対して葉部分に養分を的確に供給することができる。このため、請求項1の発明は肥料の利用効率を向上するとともに、肥料の補充を容易にする効果がある。特に昆布のように葉から養分を吸収する海藻の葉部分に的確に養分を供給することができることは、従来にない重要な効果と考えている。
【0011】
請求項2の発明は、施肥装置は請求項1の発明に加え、海面部材は施肥装置の浮力体と肥料を収容する収容器とを有し、養分は収容器から導管を経て放出部材に供給されることを特徴としている。請求項2の発明により、肥料は収容器のなかで海水に溶け導管を通って放出部材から海中に放出される。このため、放出部材を孔の開いた中空パイプで作ることが可能となり、必要な箇所に放出部材と放出孔を容易に数多く配設できるため、請求項2の発明は、請求項1の発明と相まって海藻の養分を均等に低コストで供給できるという効果がある。
【0012】
請求項3の発明は、施肥装置は請求項1から2の発明に加え、植生部材は植生部材の浮力体により海中に吊下げられ、施肥装置の浮力体と植生部材の浮力体が一体化されていることを特徴としている。請求項3の発明では、浮力体の数を減少できるため設備コストが低減できる効果がある。
【0013】
請求項4の発明は、施肥装置は以上の発明に加え、肥料を収容する収容器は海面上に開閉可能な肥料の投入開口有していることを特徴としている。海水中に吊下げた放出部材の中に肥料を収容した場合、肥料を補充する為には放出部材を海面上に引き揚げる必要があり作業性はよくない。このため、請求項4の発明により、肥料の収容器を海面にある浮力体に係止しかつ収容器の蓋を海面上に設けるとともに、収容器と放出部材を導管で接続することで、収容器を海中から引き揚げる作業無しで肥料の補充をすることができるようにした。このため請求項4の発明は肥料の補充を容易にする効果がある。
【0014】
請求項5の発明は、施肥装置は以上の発明に加え、肥料を収容する収容器は海面上に設けられた海水の取水孔又はポンプ等により取水することを特徴としている。肥料は請求項2の発明により収容器のなかで放出孔から出入りする海水に溶解するが、請求項5の発明はより多くの海水を外部から収容器に取り込むことで肥料の溶解を促進する効果がある。
【0015】
請求項6の発明は、請求項2の発明とは別タイプの施肥装置であって、請求項1の発明に加え、放出部材は肥料を収容し、海中に吊下げられた収容放出部材であることを特徴としている。請求項6の発明の施肥装置は既に市販されている部材で容易に作ることができるので設備費が少なくてすむという効果がある。
【0016】
請求項7の発明は、養殖装置は、海水中に係留された植生部材に生育する海藻の養殖装置であり、海面に位置する海面部材と、海面部材から吊下げられて海藻の近傍に養分を放出する放出部材と、海水中に係留された海藻の植生部材を有し、放出部材は海底又は植生部材よりも海面に近い位置に吊下げられており、少なくとも植生部材の下面を含む植生部材の周囲を通水性のない又は乏しいシート又は板で作られた拡散防止壁で覆ったことを特徴としている。海藻の養殖装置は一般に横方向に広く設置される。一方、養分は前述したように平均的には斜め下方向に拡散する。このことは、養殖装置の下方に拡散した養分は海藻に吸収される機会がなくなったことを意味している。海中に係留された養殖装置の少なくとも下面を覆う拡散防止壁を設置し、さらに海流の状況や海藻の養殖範囲の広さ等によって必要により養殖装置の側面にも拡散防止壁を設置することで海藻の植生域外への養分の拡散流出量を減少できる。請求項7の発明は肥料の利用効率をさらに高める効果がある。
【0017】
請求項8の発明は、養殖装置は請求項7の発明に加えて、拡散防止壁が植生部材と一体化されていることを特徴としている。請求項8の発明では、拡散防止壁と植生部材が一体化されているため養殖装置への設置が簡単にすむと同時に、拡散防止壁の強度が増す効果がある。
【0018】
請求項9の発明は、養殖装置は請求項7と8の発明に加えて、揚水ポンプを有し、揚水ポンプの吸入口を拡散防止壁の底部に設置し、揚水ポンプの吐出口を植生部材よりも高い位置に設置したことを特徴としている。養殖対象が葉から養分を吸収する海藻の場合、拡散防止壁の底面に滞留する養分濃度の高い海水を揚水ポンプで汲み上げ海藻の葉部分に養分を再供給することで肥料の利用効率をさらに上げることができるため、請求項9の発明は肥料の利用効率をさらに高める効果がある。また、根から養分を吸収する海藻の場合は底面近くの養分密度を均等化する効果がある。また、この揚水ポンプは請求項5の発明に記載された収容器の取水用ポンプとして用いることもできる。
【0019】
請求項10の発明は、養殖装置は請求7から8の発明に加えて、拡散防止壁の底部に、拡散防止壁を挟み植生部材とは反対側の海水を取り入れるための取水部材を設置したことを特徴としている。請求項10の発明は、請求項9の発明と同様に底面近くの養分密度を均等化することで肥料の利用効率をさらに上げることができる効果がある。養殖対象が根から養分を吸収する海藻の場合は、揚水ポンプを使用するかわりに請求項10の発明の取水部材を使用し設備費を低減できる。
【0020】
請求項11の発明は、養殖装置は、海底又は海水中に係留された植生部材に生育する海藻に養分を供給する養殖装置であり、養殖装置は海底又は海水中に係留された植生部材に設置された揚水ポンプを有し、揚水ポンプは吸入口を海底近くの養分を多く含む位置に設置し、吐出口を海底又は植生部材よりも海面に近い位置に設置したことを特徴としている。海底の養分濃度の高い海水(深層水)を揚水ポンプで汲み揚げ海藻に供給することも肥料にかかるコストを下げるには有効である。この場合においても養分の拡散に配慮して、深層水を吐出する位置は海藻が養分を吸収する葉や根より少なくとも上側で、かつ広い範囲の海藻に養分を供給するには複数位置に分散して設置することが望ましい。請求項11の発明では、養分の拡散に配慮して深層水を吐出する位置を設置することで養分の利用効率を向上できるため、設備の数の低減又は規模の縮小が可能となり設備費を低減できる効果がある。
【0021】
請求項12の発明は、養殖装置は請求項11の発明に加えて、分配部材を有し、吸入口と吐出口の間に分配部材を設置し、1つの吸入口から吸入した海水を複数の吐出口に供給することを特徴としている。深層水の吸入口までは距離が長い場合が多いため、吐出する位置の数だけ吸入口と導管を設けるのは設備費面で不利である。このため、吐出口と取水口の中間に分配部材を設け、取水口ひとつあたりの吐出口の数を増やしている。請求項12の発明は設備コストを低減する効果がある。
【0022】
請求項13の発明は、海藻の養殖方法は請求項1から12に記載された発明の施肥装置、又は養殖装置を使用していることを特徴としている。請求項13の発明の主要な効果としては、供給された養分の利用効率の低さや肥料の補充作業等施肥に関わる作業性を改善し、海中に生育する海藻の生長の促進と植生可能地域の拡大を低コストで可能ならしめる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は養殖装置の全体構成の概要説明図であり、図1Aは横から見た図で、図1Bは上から見た図である。図2以降は養殖装置の一部分であり、図2は施肥装置の一部詳細断面図、図3は別タイプの施肥装置の詳細図、図4は養殖装置の拡散防止壁を含む容部の一部詳細断面図、図5は揚水装置の詳細図、図6は深層水の取水方法の概念図、図7は従来技術の実施例を示す概念図である。
【0024】
図1は養殖装置の1ユニットの全体概要説明図で、図1Aは横(水平方向)から見た図で、図1Bは上から見た図でありこのユニット同士を水平方向に接合することによって養殖面積を拡大できる。図1に示す1は海藻の植生装置である。海藻はロープ等の植生部材11に根を張っている。植生部材11を支持するための支持体12は浮力体13とロープ等の吊下げ部材14により海中に吊下げられている。植生部材11の浮力体13は係留部材15により海底に係留されている。浮力体と係留部材は公知のものである。支持体12の詳細については後述する。
【0025】
2は施肥装置であり、海面に浮力体21と肥料23の収容器22がある。施肥装置2のうちの海面に設置された部材を以後海面部材とも呼び、この実施例では海面部材の浮力体21と収容器22が海面部材を構成しているが、詳細は別タイプの事例も含み後述する。肥料23は固体で各種薬剤も必要により合わせて用いられる。肥料23が収容器の中で海水に溶け、溶け出した肥料23の養分は中空の導管24と接続部材25を経由し放出孔27から放出される。
接続部材25は適度な重さを有し、吊下げ部材28により浮力体21から吊下げられている。海面部材の浮力体21は、この実施例では植生装置1の浮力体13に係留されているが、浮力体13と一体であっても、浮力体13と離れた位置に係留されてもよい。
【0026】
放出部材26は接続部材25に接続された中空の部材(パイプ)であり、1つ又は複数の放出孔27を有し、放出孔27から養分が海中に放出される。放出部材26は植生部材11よりも上方に吊下げ部材28により吊下げられている。養分の拡散状況に応じて吊下げ部材28の長さを変えることで上下方向の位置を変えることが可能であり、また、必要な箇所に放出部材26と放出孔27を配設することで養分を適度な広さの海藻の植生領域に供給することができる。図1に示した事例では、放出部材26は植生装置1の横と縦の二辺に配設されており、一点鎖線で示された隣接ユニットの放出部材を合わせると植生部材11の四辺を取り巻く形で配設されている。
【0027】
3は拡散防止壁であり、底面壁31と側面壁32より構成され、放出孔27から放出された養分が海藻の植生領域の外に短時間のうちに流出することを防止するものである。拡散防止壁3は通水性のない布や樹脂のシート又は金属や樹脂の板で作られ、底面壁31により植生装置1の底面の全体又は大部分を覆っている。側面壁32は必要により設けられ、高さは海流の状況、植生部材11の広さ等により適宜設定される。さらに必要により取水部材33を底面壁31に設置し、底面に沈積した養分を再度上方向に拡散させることができる。拡散防止壁3の詳細については後述される。
【0028】
4は揚水装置であり、拡散防止壁の底面に沈積した養分を揚水ポンプ41で上方に還流させるものである。植生装置1の支持体12の上に揚水ポンプ41を設置し、揚水ポンプ41のピストン41bと浮力体42とを連結部材43で連結することで、波動により揚水ポンプ41のピストン41bを上下に移動させ海水を汲み上げる。揚水ポンプ41の吸入口41gは底面壁31の上で養分が最も沈積しやすい場所に置かれる。
【0029】
拡散防止壁3と揚水装置4により養分を一定の高さ幅のなかで上下に循環させることができ、昆布等の葉から養分を吸収する海藻に対しても長い時間養分を必要な場所に滞留させることができるため肥料の利用効率をあげることができる。揚水装置4の詳細については後述される。
【0030】
揚水ポンプ41は波動を利用したもの以外に電動モータを利用した公知のものであってもよい。また、前述した取水部材33とは目的が一部類似しており、揚水装置4と取水部材33は海藻の種類や海流や波の状況で両方とも用いないことも含み必要に応じて使用される。
【0031】
以上、養殖装置の概要を植生部材11が海水中に係留されたものについて説明したが、海水中に係留された植生部材11以外に生育する海藻、例えば植生部材11が海底に設置されたものや、海底に自生している海藻の生長促進のためにも、施肥装置2や揚水装置4を用いることができる。この場合は、施肥装置2は係留部材により海底から係留され、揚水装置4の揚水ポンプ41は海底に設置される。
【0032】
図2は浮力体21と肥料の収容器22で構成される海面部材の一例である。
浮力体21の本体21aは金属、樹脂、ゴム等の中空体又は発泡体であり、中央部21bは上面21cに開口21dを有し、底面21eは金属又は樹脂の板で閉じられた空間となっている。肥料の収容器22が浮力体21の開口21dから中央部21bに挿入され、浮力体21の上面21cに設けられた周知の係止具21fにより浮力体21に係止される。底面21eに導管24が周知の接合部材21gで接合され、中央部21bに海面と同じ高さまで海水が導管24を経由して出入りできるようになっている。
【0033】
収容器22は鉄又は樹脂の容器であり、本体22aの内部22cに溶解の遅い粒状固体の肥料23が収容される。本体22aには複数の小さな孔22bが開けられ内部22cに海水が出入できるようになっている。流入した海水により肥料23が溶解され、養分が波や養分の比重により導管24内に拡散され放出孔27より徐々に放出される。
【0034】
開口部22dは蓋22fを固定するためのねじ部22eを有している。蓋22fの一部に肥料23の補充用蓋22hで開閉される開口部22gがある。補充用蓋22hはばね22iで蓋に押されて開口部22gを閉じているが、回転させることで投入開口22jと開口部22gの位置を合わせ肥料23の補充が可能になる。補充用蓋22hは海面より高い位置にあるため船上から肥料23の補充が容易にできる。
【0035】
肥料23は前述したように収容器22中に流出入する海水により放出孔27から放出されるが、収容器22に導管24とは異なる経路によって海水を取り入れる方法を併用することで肥料の溶解速度を速めることができる。蓋22fの上面には貯水部22mが設けられ、波やしぶきの海水がフィルタ22nを通したのち貯えられる。貯水部22mの底に逆止弁22lがついた取水孔22kがあり、貯水部22mに貯まった海水は収容器22に流入はするが流出はしないようになっている。この貯水部22mから流入した海水の流量により肥料を溶解した海水の平均的な放出流量を変えることが出来るため、取水孔22kの孔径や貯水部22mの深さの設定で変えることで養分の時間当たりの放出量を変えることができる。
なお、収容器22に海水を流入する方法としては、後述する揚水ポンプ41によって汲み上げた海水を収容器に流入させる方法もある。
【0036】
本施肥装置の変型として図示は省略するが、収容器22の孔22bをなくし、収容器22の本体22aの底面22oに導管24を接合部材21gにより直接接合してもよい。この場合、肥料23は収容器の内部22cと導管24の両方に収容され導管24の内部でも溶解される。導管24の太さを太くすることにより肥料の収容量を増やすことができる。
【0037】
図3は施肥装置の簡素化を計った事例である。浮力体21の底面から吊下げ部材28により内部に肥料を収容した収容放出部材29が吊下げられる。収容放出部材29は放出部材26に相当するものである。収容放出部材29は金属又は樹脂で作られた容器又は布で作られた袋である。図3は布袋の場合を示している。適度な通水性と強度を持つ布袋の中に肥料と重り29bを詰め上部を紐で閉じ吊下げ部材28に固定してある。この実施例においては浮力体21が海面部材に相当し、布袋が放出部材26に相当する。
【0038】
この事例においても、収容放出部材29が浮力体21に吊下げられているため収容放出部材29の上下方向の適当な位置に設定でき、養分を適度な範囲に拡散して供給することができる。この結果、養分の利用効率を高めることができる。また、既に市販されている部材で容易に作ることができるので設備費は少なくてすむ。ただし、肥料23の補充は収容放出部材29を海面上に引き揚げて行う必要があり作業性は悪化する。
【0039】
図4は拡散防止壁3と支持体12の一例の要部断面図である。支持体12は底面12aと縦面12bを持つL字型鉄板の両端面に側面板12cを溶接等で固定したものである。縦面12b、側面板12cに他の植生装置ユニットの同部分を連結することで植生面積を拡大することが可能である。
【0040】
側面押え板12eと底面押え板12fは後述する拡散防止壁3を固定するための板である。側面押え板12eには浮力体13からの吊下げ部材14の係止部材12dが設けられ、底面押え板12fには海藻が根を張るためのロープ等周知の植生部材11用の係止部材12gが設けられている。
【0041】
拡散防止壁3は通水性のない布や樹脂のシート又は金属や樹脂の板で作られ、本実施例では必要により端部等が補強されたシートで作られている。前記シートを支持体12の底面12aと側面板12cの間に底面押え板12fと側面押え板12eで挟んで、適当な複数箇所をボルトとナット12hで固定することにより底面壁31と側面壁32が作られている。この場合4つの側面のうち2面は支持体でもあるL字型鉄板で他の2面はシートで作られているが、他の2面も長いL字型鉄板で作り側面壁32全体を強固な矩形の支持体としてもよい。
【0042】
なお、本実施例では拡散防止壁3と植生部材11は別なもので構成したが、海藻が根を張ることが出来る網又は厚手の布に防水シートを張り合わせた複合シートにより拡散防止壁3と植生部材11を一体化することも考えられる。このような複合シートは設備コストと拡散防止壁3の強度面でさらに好適である。
【0043】
さらに必要により逆止弁をもった開口を持つ取水部材33を底面壁31に設置し、拡散防止壁3の外側の海水を取入れ、底面近くの養分密度を均等化するとともに、その流れに周囲の底面に沈積した養分を巻き込み再度上方向に拡散させることができる。特に、揚水装置4を使用しない場合に好適である。揚水装置4を用いない場合、底面壁31上部の養分濃度に場所による偏りができ、特に高さの低い位置の養分濃度が不要に濃くなることが懸念される。この場合、底面壁31の高さの低い場所に取水部材33を設置して、底面壁31を挟み植生部材11とは反対側の海水を波や海流による海水の動きにより取り入れることで養分濃度の均一化をはかることができる。
【0044】
図5は比重が大きいため下方向に拡散して底面壁31の上部に沈積した養分を上方に還流するための揚水装置4の一例である。揚水装置4として波動や海流を利用したポンプや電気モータによるポンプ等考えられるが本事例では波動を利用するものを示す。
【0045】
揚水装置4は揚水ポンプ41、浮力体42と揚水ポンプ41のピストン41bと浮力体42を連結する連結部材43から構成される。揚水ポンプ41は周知のピストン型ポンプで、ハウジング41aにピストン41bとピストン41bを下方向に付勢するスプリング41cと吸入側と吐出側に逆止弁41d、41eを有し、ハウジング41aは支持体12に固定されている。吸入側には吸入導管41fと吸入口41gがあり、吸入口41gは底面壁31の低い場所に設置される。又は吸入導管41fなしで吸入口41gをハウジング41aに設置する。吐出側は吐出導管41hを経由し底面壁31より高い適当な位置又は肥料23の収容器22に吐出口41iを設置する。
【0046】
浮力体42は浮力体42aと支柱42bより構成され、浮力体42aが植生部材11の浮力体13に設けられた支柱42bに上下に摺動が可能な状態で係留される。支柱42bは海流による浮力体42aの横方向の移動を制限するためのもので、揚水ポンプ41の作動に支障がなければ廃止できる。浮力体42aとピストン41bは連結部材43で連結されている。波による浮力体42aの上下動と揚水ポンプ41が設置された支持体12の上下動の大きさが異なるためピストン41bが往復動をして吸入口41gより海水を吸入し吐出口41iより吐出する。この結果、底面壁31の上部に沈積した養分が適度な位置に還流され、昆布等の葉から養分を吸収する海藻の場合、再度葉から吸収される機会が得られるため養分の利用効率が高くなる。根から養分を吸収する海藻の場合においても養分の供給を均等化する効果がある。なお、揚水装置4のごみ詰まり対策が必要な場合、吸入側にフィルタや吸入側の逆止弁41dをバイパスする少流量の逆洗用流路を設ける等により対策をすることができる。
【0047】
植生装置1の近くの海底に養分を多く含む海水例えば深層水を取水できる場所がある場合、植生装置1に揚水ポンプ41を設置し吸入口41gを前記場所に設けることで養分を多く含む海水を利用することができる。この場合においても揚水ポンプ41から養分を供給する場所は養分の拡散を考慮する必要があるため、養分の吐出口41iは海藻の植生面積に応じて増やす必要がある。一方、揚水ポンプ41と吸入口41gとの距離は多くの場合長くなるため,長く太い吸入導管41fを用いることが必要となるが、長く太い吸入導管41fは設備費を高くするため多数の揚水ポンプ41を用いる場合長く太い吸入導管41fの数はなるべく少なくしたい。
【0048】
図6は複数の揚水ポンプを使用し、海底から養分を多く含む海水例えば深層水を取水する場合の取水方法の一例を示している。揚水ポンプ41は図5に示した事例と同じ型式のものであるが、吸入側の構成が図5の事例と異なっている。揚水ポンプ41の吸入側に分配部材44を設置し、分配部材44から分配部材44の吸入口45bの間は長く太い取水導管45aを用いることで一本の取水導管45aにより複数の揚水ポンプ41に海水を吸入できるようにしている。分配部材44は、中空の容器である本体44aと複数の吸入導管41fとの接続部44bと、長く太い取水導管45aとの接続部44cで構成されている。なお、接続部44bには揚水ポンプ側の孔開き等の故障を考慮して逆止弁44dを設けることが望ましい。また、取水導管45aの先端には重り29b等により海底近くの適当な位置に係留される吸入口45bが設けてある。分配部材44を適当な場所に設置し、ひとつの分配部材44から複数の揚水ポンプ41に海水を分配して供給することで取水導管45aと吸入口45bで構成された取水管45の数を減らすことができる。
【0049】
本実施例と別の実施例としては、揚水ポンプ41の吐出口41iと揚水ポンプ41との間に分配部材44を設置することで揚水ポンプ41の数を減らすことも可能である。
【0050】
揚水ポンプ41を使用して海底に生育している海藻に別の場所にある養分を多く含む海水を供給することも可能である。この場合においても、吐出口41iを海藻の植生位置よりも高い位置に設置することと、分配部材44を使用して取水管45の数を減らすことは有用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1A】本発明に係る養殖装置の全体概要を横から見た図である。
【図1B】本発明に係る養殖装置の全体概要を上から見た図である。
【図2】施肥装置の詳細を示した図である。
【図3】別タイプの施肥装置の詳細を示した図である。
【図4】養殖装置の拡散防止壁を含む容部の詳細を示した図である。
【図5】揚水装置の詳細を示した図である。
【図6】深層水の取水方法の概念を示した図である。
【図7】従来技術の一実施例を示した図である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・・植生装置
2・・・・施肥装置
3・・・・拡散防止壁
4・・・・揚水装置
11・・・植生部材
12・・・支持体
21・・・浮力体(海面部材)
22・・・収容器(海面部材)
23・・・肥料
24・・・導管
26・・・放出部材
29・・・収容放出部材
31・・・底面壁
32・・・側面壁
33・・・取水部材
41・・・揚水ポンプ
44・・・分配部材
45・・・取水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底又は海水中に係留された植生部材に生育する海藻に養分を供給する施肥装置であり、海面に位置する海面部材と、前記海面部材から吊下げられて海藻の近傍に養分を放出する放出部材とを有し、前記放出部材は海底又は前記植生部材よりも海面に近い位置に吊下げられていることを特徴とする海藻の施肥装置。
【請求項2】
前記海面部材は施肥装置の浮力体と肥料を収容する収容器とを有し、養分は前記収容器から導管を経て前記放出部材に供給されることを特徴とする請求項1に記載の施肥装置。
【請求項3】
前記植生部材は植生部材の浮力体により海中に吊下げられ、前記施肥装置の前記浮力体と前記植生部材の前記浮力体が一体化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の施肥装置。
【請求項4】
肥料を収容する前記収容器は海面上に開閉可能な肥料の投入開口を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の施肥装置。
【請求項5】
肥料を収容する前記収容器は海面上に設けられた海水の取水孔又はポンプ等により取水することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の施肥装置。
【請求項6】
前記放出部材は肥料を収容し、海中に吊下げられた収容放出部材であることを特徴とする請求項1に記載の施肥装置。
【請求項7】
海水中に係留された植生部材に生育する海藻の養殖装置であり、海面に位置する海面部材と、前記海面部材から吊下げられて海藻の近傍に養分を放出する放出部材と、海水中に係留された海藻の前記植生部材を有し、前記放出部材は海底又は前記植生部材よりも海面に近い位置に吊下げられおり、少なくとも前記植生部材の下面を含む前記植生部材の周囲を通水性のない又は乏しいシート又は板で作られた拡散防止壁で覆ったことを特徴とする海藻の養殖装置。
【請求項8】
前記拡散防止壁が前記植生部材と一体化されていることを特徴とする請求項7に記載の海藻の養殖装置。
【請求項9】
前記養殖装置は揚水ポンプを有し、揚水ポンプの吸入口を前記拡散防止壁の底部に設置し、揚水ポンプの吐出口を前記植生部材よりも高い位置に設置したことを特徴とする請求項7又は8のいずれか1項に記載の海藻の養殖装置。
【請求項10】
前記養殖装置は前記拡散防止壁の底部に、前記拡散防止壁を挟み前記植生部材とは反対側の海水を取り入れるための取水部材を設置したことを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の養殖装置。
【請求項11】
海底又は海水中に係留された植生部材に生育する海藻に養分を供給する施肥装置であり、施肥装置は海底又は海水中に係留された植生部材に設置された揚水ポンプを有し、前記揚水ポンプは吸入口を海底近くの養分を多く含む位置に設置し、吐出口を海底又は前記植生部材よりも海面に近い位置に設置したことを特徴とする海藻の請求項7に記載の養殖装置。
【請求項12】
前記施肥装置は分配部材を有し、前記吸入口と前記吐出口の間に前記分配部材を設置し、1つの前記吸入口から吸入した海水を複数の前記吐出口に供給することを特徴とする請求項11に記載の海藻の養殖装置。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された海藻の前記施肥装置、又は請求項7乃至12のいずれか1項に記載された前記養殖装置を使用した海藻の養殖方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−278910(P2009−278910A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133955(P2008−133955)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(508152939)
【Fターム(参考)】