説明

浸漬管

【課題】耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管を利用して浸漬管を効率的に冷却して浸漬管を構成する下部耐火物の欠落を防止し、浸漬管の寿命を向上する。
【解決手段】浸漬管10は、円筒状の芯金11と、芯金11の内周面側を被覆する内面煉瓦13と、芯金11の外周面側を被覆すると共に浸漬管10の下端部を形成するキャスタブル16とから概略構成され、芯金11の外周面には、耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管19が配設されている。パージ用配管19は、芯金11の下端部外周面に沿って周回する周方向配管20と、周方向配管20に不活性ガスを送給する送り配管21と、周方向配管20を通過した不活性ガスを上方に送給する戻り配管22と、戻り配管22の後半部を形成する吹出し配管23とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空脱ガス設備用の浸漬管に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉において一次精錬が終了した溶鋼は、脱炭のため、又は水素や窒素などの溶存ガスの除去を目的として、真空脱ガス設備を用いた脱ガス処理が行われる。RH真空脱ガス設備では、真空脱ガス槽の底部に上昇用と下降用の2本の浸漬管を設け、真空脱ガス槽と取鍋との間で溶鋼を環流させることで反応面積を増やして脱ガス処理が行われる。具体的には、一方の浸漬管(上昇管)からアルゴン等の環流ガスを吹き込むことにより、環流ガスの浮上力を利用して、取鍋内の溶鋼を真空脱ガス槽内に流入させて脱ガスし、脱ガスされた溶鋼を他方の浸漬管(下降管)から取鍋へ流出させる処理を繰り返すことにより、溶鋼の脱ガス処理が行われる。
【0003】
一般に、浸漬管は、円筒状の鉄製芯金と、芯金の内外両面を被覆する耐火物とから形成されている。浸漬管が繰り返し使用された場合、芯金は受熱により膨張する際、芯金下部の直径が拡大するように変形し、下端部の耐火物支持力が低下する。下端部耐火物が欠落すると、芯金の溶損を引き起こすと共に、それが引き金となって真空シール性が損なわれるため、浸漬管の寿命低下の原因となる。
【0004】
そこで、特許文献1では、内側部に配設された耐火物と、耐火物の外側に配置された芯金と、芯金の外周表面に配設された環流ガス配管と、芯金および環流ガス配管を覆う不定形耐火物とを備えたRH脱ガス設備の浸漬管において、少なくとも環流ガス吹込み口より下側の芯金部分に環流ガス配管を配設し、配管内を流れる環流ガスによって、芯金の冷却を行うことを特徴とする発明が開示されている。当該発明では、浸漬管の環流ガス配管を、芯金の下部、即ち、吹込み口より下側の部分の芯金の表面に沿って配設することにより、芯金冷却専用の冷却装置を付帯させることなく、芯金の熱変形を抑制することが可能となる。
【0005】
ところで、浸漬管を溶鋼に浸漬し脱ガス槽内を減圧状態にすると、溶鋼と接触しない外面側の耐火物表面及び耐火物とフランジとの界面などから浸漬管の内部を通って脱ガス槽内へ空気が侵入しやすくなる。この空気は、浸漬管の内部では芯金と耐火物との隙間あるいは耐火物中の空孔や亀裂を通って浸漬管の内側から溶鋼中や脱ガス槽内に侵入すると考えられる。
【0006】
そこで、特許文献2では、円筒状芯金の外側面かつ浸漬管を溶鋼に浸漬したときの界面を含む部域に、円筒状芯金を周回するガス溜を設け、不活性ガスを送り込む吹込み管(以下では、パージ用配管と呼ぶ。)をガス溜に連結すると共に、ガス溜の外側面にガス吹出し口を穿設した真空脱ガス処理用浸漬管の考案が開示されている。当該考案では、不活性ガスが、真空脱ガス槽内の負圧によって誘導され、真空脱ガス槽内に優先的に進入することにより空気の侵入を抑止することができる。特に、溶鋼又はスラグと大気との界面は、耐火物の溶損を促進させる部位であり、当該考案では、この部位に重点的に不活性ガスを吹出すことで浸漬管を保護している。さらに、芯金を冷却する機能により浸漬管を保護する効果も記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−264263号公報
【特許文献2】実開昭62−136556号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発明の場合、環流ガス配管が配設されない下降管には適用できないという問題がある。また、多数の環流ガス配管を配設しなければならないので、施工に手間が掛かるという問題がある。
また、特許文献1の環流ガス配管では、芯金の冷却効果が不十分で芯金の変形に伴う浸漬管を構成する下部耐火物の損傷を抑制することができない。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管を利用して浸漬管を効率的に冷却して浸漬管を構成する下部耐火物の欠落を防止し、浸漬管の寿命を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管が筒状の芯金の外周面に配設された浸漬管において、前記パージ用配管の一部が、前記芯金の下部外周面に沿って円周方向に配設される周方向配管とされていることを特徴としている。
【0011】
浸漬管からの空気の侵入経路としては、溶鋼に浸漬されていない耐火物の表面及び耐火物とフランジとの接触面から耐火物内部あるいは耐火物と芯金との界面を通って浸漬管の内側に侵入する経路が考えられており、浸漬管の内側に侵入した空気は、溶鋼中あるいは脱ガス槽内へ吹き出すことになる。このため、パージ用配管は、芯金の外周面を覆う耐火物の溶鋼浸漬レベル付近に配置されている。一方、芯金の熱変形は下方にいくほど大きくなるので、芯金を冷却する場合、芯金の下部を冷却することが好ましい。
そこで、本発明では、一端、パージ用配管を芯金の下部まで配設して、芯金の下部外周面に沿って芯金を周回させた後、パージ用配管を浸漬管の溶鋼浸漬レベル付近に配設する。当該構成では、芯金の下部外周面に沿って不活性ガスを周回させることで、不活性ガスによる冷却効果を利用して芯金の下部を冷却することができる。
【0012】
また、本発明に係る浸漬管では、前記送給路が複数系統あり、該各送給路の前記周方向配管が前記芯金の下部外周面を円周方向に部分的に囲繞し、複数の前記周方向配管によって前記芯金の下部外周面が円周方向に不連続に囲繞されるようにしてもよい。
当該構成では、周方向配管を、芯金を部分的に囲繞する周方向配管群として、不活性ガスの送給と芯金の冷却を複数の系統に分割することにより、いずれかのパージ配管系統が損傷した場合でも、残りのパージ配管系統を利用して不活性ガスを浸漬管に送給することができる。
【0013】
また、本発明に係る浸漬管では、前記周方向配管が前記芯金の下端部に配設されていることを好適とする。
上記構成として芯金の下端部を効率的に冷却することにより、芯金の下端部直径の拡大変形を抑制し、下端部耐火物の欠落を防止することができる。
【0014】
また、本発明に係る浸漬管では、前記周方向配管が角形断面とされていることが好ましい。これにより、芯金との接触面積を大きくして冷却効果の増大を図り、芯金下部の変形を抑制する。
【0015】
また、本発明は、耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管が筒状の芯金の外周面に配設された浸漬管において、前記パージ用配管は、芯金の下端部外周面に沿って周回する周方向配管と、前記周方向配管に不活性ガスを送給する送り配管と、前記周方向配管を通過した不活性ガスを上方に送給する戻り配管と、前記戻り配管の後半部を形成し、前記周方向配管より上位置において前記芯金を周回する吹出し配管とから構成され、しかも前記吹出し配管の吹出し口は、該吹出し配管と前記芯金と該芯金を被覆する耐火物によって画成された空間からなるガス溜りに面していることを特徴としている。
当該構成として、不活性ガスをガス溜りに一旦吹き込むことで、不活性ガスが耐火物内に均一に浸透し、ガス溜りに通じる耐火物中の空隙のガス圧を高くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る浸漬管では、パージ用配管の一部が、芯金の下部外周面に沿って円周方向に配設される周方向配管とされているので、不活性ガスによる冷却効果を利用して芯金下部を冷却することができる。加えて、周方向配管を角形断面とすることにより、芯金及び周囲の耐火物との接触面積が拡大して不活性ガスによる冷却効果が増大し、芯金下部の変形を抑制することができる。その結果、浸漬管の下部の耐火物の欠落を防止でき浸漬管の寿命が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0018】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る浸漬管10の軸方向断面図を図1に示す。
浸漬管10は、円筒状の芯金11と、芯金11の内周面側を被覆する内面煉瓦13と、芯金11の外周面側を被覆すると共に浸漬管10の下端部を形成するキャスタブル16とから概略構成されている。また、芯金11の外周面には、耐火物(キャスタブル16)内への空気の侵入を抑止するために使用されるアルゴン等の不活性ガスの送給路となるパージ用配管19が配設されている(図3参照)。
【0019】
芯金11は鉄製とされ、上縁部には、平板リング状のフランジ12が真空脱ガス槽(図示省略)と接合するために設けられている。一方、芯金11の下端部には、内面煉瓦13を支持するための支持金物17が固着されている。
【0020】
内面煉瓦13は、浸漬管10の内周面となる側のほうが幅の狭くなったテーパ状の六面体からなり、芯金11の内周面に沿って平面視して花弁状に配置される。内面煉瓦13の下端部は芯金11に固着された支持金物17で支持されている。また、内面煉瓦13と芯金11との間にはキャスタブル16が充填されている。
一方、芯金11の外周面及び内周煉瓦13の下部はキャスタブル16で被覆されている。
【0021】
パージ用配管19は、図3に示すように、芯金11の下端部外周面に沿って周回する周方向配管20と、周方向配管20に不活性ガスを送給する送り配管21と、周方向配管20を通過した不活性ガスを上方に送給する戻り配管22と、戻り配管22の後半部を形成し、芯金11の周方向配管20より上位置において芯金11を周回する吹出し配管23とから構成されている。
【0022】
周方向配管20は、図1及び図2に示すように、25mm×25mmの角形断面とされ、周方向配管20の一端に送り配管21が接続され、他端に戻り配管22が接続されている(図3参照)。周方向配管20は、その下端面を芯金11の下端面から上方へ200mm以下の位置に配置することがより好ましい。芯金11は下端ほど高温になるため、熱膨張によって下端部が大きく変形するからである。一方、芯金11の上部は、溶鋼に浸漬されていないので、浸漬部に比べるとかなり温度は低い。なお、周方向配管20は、溶接によって芯金11に固定されている。
【0023】
吹出し配管23には、吹出し配管23と芯金11と耐火物によって画成された空間からなるガス溜り25に向かって開口する直径2mmの吹出し口24が円周方向に100mmピッチで形成されている。なお、送り配管21、戻り配管22、及び吹出し配管23は、円形断面、角形断面のいずれでもよい。
【0024】
不活性ガスは、送り配管21から周方向配管20に送給され、周方向配管20内を通過することにより芯金11の下端部を冷却した後、戻り配管22から吹出し配管23に送給される。そして、吹出し配管23に形成された吹出し口24からガス溜り25内へ不活性ガスが吹出される。本実施の形態においては、このガス溜り25は、芯金11の外周面を周回して形成されている。このように一旦ガス溜り25に不活性ガスを吹き込むことで、不活性ガスが耐火物内に均一に浸透し、ガス溜り25に通じる耐火物中の空隙のガス圧を高くすることができる。
【0025】
浸漬管10へ侵入する空気の経路は、耐火物中の亀裂等を通る経路と、耐火物と芯金11との隙間を通る経路の2つが考えられるが、本実施の形態のように、ガス溜り25を芯金11の表面に形成することで、芯金11に沿った空気の侵入を防止することができる。
また、このガス溜り25を設ける位置は、浸漬管10が溶鋼中に浸漬された時の溶鋼表面レベルを中心として上方へ100mm、下方へ200mmの範囲内に設けることが好ましい。上方へ100mmを超えると、溶鋼と接触しない耐火物表面からの空気の侵入阻止が不十分になり、下方へ200mmを超えると、耐火物の損傷が大きくなる位置であるため、亀裂等によって大量のガスがリークしやすくなり、ガス溜り25や耐火物内を大気圧よりも高く保つことが難しくなる。
【0026】
このガス溜り25は、浸漬管10の製造時に、紙、パラフィン、プラスチックなど加熱によって熱分解して減量する有機材料を、ガス溜り25を設ける位置に配置しておけばよい。これにより、使用前の予熱時に有機材料が熱分解して減量し、ガス溜り25となる空間が形成される。
【0027】
本実施の形態に係る浸漬管10では、パージ用配管19の一部が、芯金11の下端部外周面に沿って周回する周方向配管20とされているので、不活性ガスによる冷却効果を利用して芯金11下部を冷却することができる。加えて、周方向配管20を角形断面とすることにより、耐火物及び芯金11との接触面積が拡大して不活性ガスによる冷却効果が増大し、芯金11下部の熱膨張に起因する直径の拡大を抑制することができる。その結果、耐火物への亀裂の発生を抑制できるので耐火物が欠落することなく、浸漬管10の耐用性が飛躍的に向上する。また、吹出し配管23からガス溜り25に不活性ガスを吹き込むことで、浸漬管10から溶鋼内への空気の侵入を確実に防止することができる。
【0028】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係る浸漬管30を構成する芯金外周面の展開図を図4に示す。
本実施の形態に係る浸漬管30では、パージ用配管19が2系統からなり、各周方向配管20は、芯金11を半周ずつラップしないように部分的に囲繞している。各周方向配管20にはそれぞれ送り配管21と戻り配管22が設けられており、2系統のパージ用配管19を介して浸漬管30に不活性ガスが送給される。
【0029】
本実施の形態に係る浸漬管30では、周方向配管20を、芯金11を部分的に囲繞する周方向配管群として、不活性ガスの送給と芯金の冷却を2系統で行うことにより、いずれかのパージ配管系統が損傷した場合でも、残りのパージ配管系統を利用して不活性ガスを浸漬管30に送給することができる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、芯金の内周面は煉瓦で被覆しているが、キャスタブルでもよいし、外周部にれんがを配置してもよい。また、送給路(パージ用配管)は3系統以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る浸漬管の軸方向断面図である。
【図2】同浸漬管の部分拡大図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る浸漬管を構成する芯金外周面の展開図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る浸漬管を構成する芯金外周面の展開図である。
【符号の説明】
【0032】
10:浸漬管、11:芯金、12:フランジ、13:内面煉瓦、16:キャスタブル、17:支持金物、19:パージ用配管、20:周方向配管、21:送り配管、22:戻り配管、23:吹出し配管、24:吹出し口、25:ガス溜り、30:浸漬管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管が筒状の芯金の外周面に配設された浸漬管において、
前記パージ用配管の一部が、前記芯金の下部外周面に沿って円周方向に配設される周方向配管とされていることを特徴とする浸漬管。
【請求項2】
請求項1記載の浸漬管において、前記送給路が複数系統あり、該各送給路の前記周方向配管が前記芯金の下部外周面を円周方向に部分的に囲繞し、複数の前記周方向配管によって前記芯金の下部外周面が円周方向に不連続に囲繞される浸漬管。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の浸漬管において、前記周方向配管が前記芯金の下端部に配設されている浸漬管。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の浸漬管において、前記周方向配管が角形断面とされている浸漬管。
【請求項5】
耐火物内への空気の侵入を抑止するために使用される不活性ガスの送給路となるパージ用配管が筒状の芯金の外周面に配設された浸漬管において、
前記パージ用配管は、前記芯金の下端部外周面に沿って周回する周方向配管と、前記周方向配管に不活性ガスを送給する送り配管と、前記周方向配管を通過した不活性ガスを上方に送給する戻り配管と、前記戻り配管の後半部を形成し、前記周方向配管より上位置において前記芯金を周回する吹出し配管とから構成され、しかも前記吹出し配管の吹出し口は、該吹出し配管と前記芯金と該芯金を被覆する耐火物によって画成された空間からなるガス溜りに面していることを特徴とする浸漬管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106294(P2010−106294A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277095(P2008−277095)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】