説明

浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液及び該浸透液を用いる浸透探傷試験方法

【課題】
浸透探傷試験にて、余剰浸透液を温水で洗浄・除去するに当り、分離温度と洗浄に用いる温水の温度との温度差によって探傷精度を変化させ得る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液及び該浸透液を用いる浸透探傷試験方法を提供する。
【解決手段】
曇点を有する界面活性剤と該界面活性剤が水に溶解して単一相になっている状態と該界面活性剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態間を温度変化によって可逆的に変化するように混合してなる主溶剤及び該主溶剤に溶解する油溶性赤色染料又は油溶性蛍光染料からなり、前記単一相になっている状態から前記二相になっている状態の変化が当該水ベース浸透液の曇点の温度以上の温度において生じる浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液と該浸透液を用いる浸透探傷試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部材などの各種部材の表面に存在する微細な開口欠陥部の探傷に適用される浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液及び該浸透液を用いる浸透探傷試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、非破壊検査方法の一種である「JIS Z 2343-1〜4:2001」に規格化されている浸透探傷試験は、自動車部材(例えば、ピストンロッド)などの各種部材の表面に存在する微細な開口欠陥部(例えば、微細なクラックやピンホール)の探傷に汎用されており、その基本的態様は、当該JIS規格に示されているように、染色浸透液(通常、油溶性赤色染料を溶剤に溶解させた浸透性の強い液体が用いられる)又は蛍光浸透液(通常、紫外線灯:ブラックライト:照射下で黄緑色蛍光を発する油溶性蛍光染料を溶剤に溶解させた浸透性の強い液体が用いられる)を被検査物表面に付着させて開口欠陥部に浸透させた後、当該欠陥部内に浸透せずに被検査物表面に残留している余剰浸透液を除去し、次いで、染色浸透液を用いた場合には、当該被検査物表面に炭酸マグネシウム粉末や炭酸カルシウム粉末などの無機質白色粉末(当業者間では「現像剤」と呼ばれている)の薄層を形成し該薄層によって開口欠陥部内に浸透している染色浸透液を薄層表面に吸い出させることによって欠陥指示ニジミ模様を現出させ、自然光又は白色光の下で観察して当該ニジミ模様によって開口欠陥部の存在・位置を探傷し、蛍光浸透液を用いた場合には、前記現像剤を用いることなく、暗室における紫外線灯(当業者間では「ブラックライト」と呼ばれている)の照射下で当該被検査物表面を観察して黄緑色に発光している欠陥指示蛍光模様によって開口欠陥部の存在・位置を探傷するというものである(以下、この基本的態様を採る探傷試験を「周知浸透探傷試験」という)。
【0003】
周知浸透探傷試験に用いられている染色浸透液及び蛍光浸透液(以下、両液を指称して「浸透液」ということもある)には、種々様々な処方の製品が市販・汎用されており、当業者において汎用されている市販品を油溶性赤色染料(例えば、オイルレッド5B:商品名:オリエント株式会社やSudan Red 462:商品名:BASF社)又は油溶性蛍光染料(例えば、Fluorol 7GA:商品名:GAF社:やフロレッセントブライトニスエージェント68:商品名:日本化薬株式会社)を溶解するために用いられている主溶剤によって大別すれば、水及び水と相溶する水溶性有機溶剤を主溶剤とする水ベース浸透液と可燃性の非水溶性有機溶剤(通常、高沸点有機溶剤)を主溶剤とする油ベース浸透液に分類できる。なお、油ベース浸透液には希釈溶剤(通常、揮発性低・中沸点有機溶剤)が配合されている。
【0004】
そして、当業者間では、周知浸透探傷試験における余剰浸透液の除去に当たり、水ベース浸透液を用いた場合には水洗によって除去するので、水ベース浸透液は「水洗性水ベース浸透液」と呼ばれており、油ベース浸透液を用いた場合には、油ベース浸透液がその処方中に界面活性剤を含んでいないものであるときは有機溶剤を染み込ませたウエスなどで拭き取って除去しているので、この油ベース浸透液は「溶剤除去性油ベース浸透液」と呼ばれており、また、油ベース浸透液がその処方中に界面活性剤(通常、ノニオン系界面活性剤)を含んでいるものであるときには水洗によって除去するので、この油ベース浸透液は「水洗性油ベース浸透液」と呼ばれている。
【0005】
水洗性水ベース浸透液の代表的な市販品には、スーパーチェックP−LK(商品名:水及び水と相溶する水溶性有機溶剤を主溶剤とし、油溶性赤色染料、界面活性剤などが配合されている液体:マークテック株式会社)やスーパーグローOD−18S(商品名:水及び水と相溶する水溶性有機溶剤を主溶剤とし、油溶性蛍光染料、界面活性剤などが配合されている液体:マークテック株式会社)が挙げられ、溶剤除去性油ベース浸透液の代表的な市販品には、スーパーチェックUP−ST(商品名:可燃性の非水溶性有機溶剤を主溶剤とし、油溶性赤色染料、希釈溶剤などが配合されている液体:マークテック株式会社)が挙げられ、水洗性油ベース浸透液の代表的な市販品には、スーパーチェックUP−G3(商品名:可燃性の非水溶性有機溶剤を主溶剤とし、油溶性赤色染料、界面活性剤、希釈溶剤などが配合されている液体:マークテック株式会社)やエコグローEG−2000(商品名:可燃性の非水溶性有機溶剤を主溶剤とし、油溶性蛍光染料、界面活性剤、希釈溶剤などが配合されている液体:マークテック株式会社)が挙げられる。
【0006】
水洗性水ベース浸透液は、主溶剤が水と水溶性有機溶剤とを引火点を有しない割合にて混合されており、消防法の規格を満たしているため、取り扱いや貯蔵量の問題がなく、浸透液が大量使用されている自動車工場などにおいて汎用されている。
【0007】
溶剤除去性油ベース浸透液や、水洗性油ベース浸透液は水洗性水ベース浸透液と比べて、開口欠陥部に浸透した浸透液を過剰に除去することがないので、一般的には水洗性水ベース浸透液よりも探傷精度が高く、微細な開口欠陥部を検出するために用いられている。
【0008】
本発明者らは、有機溶剤と水が溶解して単一相になっている状態と有機溶剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態を温度変化によって可逆的に変化する水洗性水ベース浸透液を作成し、引火点を有さず、消防法の規格を満たしているため取り扱いや貯蔵の問題がなく、かつ、開口欠陥部に浸透した浸透液を過剰に除去することがないので、前記水洗性油ベース浸透液と同等の高い探傷精度を有する水洗性水ベース浸透液の開発に成功している(特許文献1)。
【0009】
また、周知浸透探傷試験においては、前記種々の浸透液や洗浄方法を使い分けることによって探傷精度を変更して検出対象とする深さの開口欠陥部を選別的に検出する手法が試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−275335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
周知浸透探傷試験における余剰浸透液の除去にあたり、水洗性水ベース浸透液は、主溶剤が水溶性有機溶剤であるため、水洗によって、余剰浸透液のみならず、開口欠陥部内に浸透している浸透液まで洗い流されてしまうこと(以下「過洗浄」という)があり、この場合には探傷精度が低下するため、微細な開口欠陥部が検出されない虞がある。
【0012】
前記溶剤除去性油ベース浸透液や前記水洗性油ベース浸透液は、主溶剤が非水溶性有機溶剤であるため、前記過洗浄は生じないが、消防法の危険物に該当し、取り扱いや貯蔵量、貯蔵設備の安全性に関する問題がある。
【0013】
また、いずれの油ベース浸透液も過洗浄が生じないため、探傷精度が高く、微細な開口欠陥部まで検出できるので、検出対象とする開口欠陥部の深さがある程度深い場合には、検出対象外の深さの微細な開口欠陥部を示す欠陥指示ニジミ模様や欠陥指示蛍光模様(以下欠陥指示ニジミ模様と欠陥指示蛍光模様を併せて「欠陥指示模様」という)が多くなるという問題がある。
【0014】
特許文献1に記載の水洗性水ベース浸透液は、引火点を有さず取り扱いや貯蔵量の問題がなく、かつ前記水洗性油ベース浸透液と同等の検出精度を有するが、水洗性油ベース浸透液と同様に検出対象とする開口欠陥部がある程度深い場合には、検出対象外の欠陥指示模様が多くなるという問題がある。
【0015】
さらに、有機溶剤と水が溶解して単一相になっている状態と有機溶剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態を温度変化によって可逆的に変化する水洗性水ベース浸透液であるため、二相に分離する温度以上の温水で洗浄すれば、当該温度に関わらず、即座に二相に変化して高い探傷精度を保持するため、温水の温度を変化させることで探傷精度を変化させることができない。
【0016】
従って、検出精度を変更する際には、検出対象とする開口欠陥部の深さよって浸透液を変更する必要があるが、浸透探傷試験現場では使用中の浸透液を浸透液タンクから取り除き、浸透液タンクを洗浄した後、所要の検出精度の浸透液を投入しなければならず、非常に手間がかかる。
【0017】
また、洗浄方法によって検出対象とする深さの開口欠陥部を選択的に検出するためには、検出対象とする開口欠陥部の深さに満たない深さの微細な開口欠陥内部に浸透している浸透液を洗い流す必要があり、それには洗浄する際の水の噴射圧を上げるか若しくは、洗浄時間を長くするという手段がある。しかし、噴射圧を上げたり、洗浄時間を長くすると使用する洗浄水の量が増えるので、排水の量も増えることになる。当該排水中には余剰浸透液が含まれるため、当該排水は産業廃棄物となる。従って排水の量はできるだけ少ない方がよい。
【0018】
本発明者は、前記諸問題点を解決することを技術的課題とし、試行錯誤的な数多くの試作・実験を重ねた結果、水溶性水ベース浸透液における界面活性剤を、曇点を有する界面活性剤とすることで、当該界面活性剤が水に溶解して単一相になっている状態と該界面活性剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態間が温度変化によって可逆的に変化する割合にて混合して主溶剤とし、当該主溶剤に油溶性赤色染料又は油溶性蛍光染料を配合して水洗性水ベース浸透液を調製し、当該浸透液を用い周知浸透探傷試験における余剰浸透液を温水で洗浄・除去するに当り、当該浸透液が二相に分離する温度(以下「分離温度」という)以上の温度の温水を用い、分離温度と用いる温水の温度との温度差が小さい場合には深い開口欠陥部を選択的に検出することができ、当該温度差が大きい場合には微細な開口欠陥部まで検出することができるという分離温度と洗浄に用いる温水との温度の温度差によって探傷精度を変化させ得るという刮目すべき知見を得て、前記技術的課題を達成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記技術的課題は、次のとおり本発明によって解決できる。
【0020】
即ち、本発明は曇点を有する界面活性剤と水とを該界面活性剤が水に溶解して単一相になっている状態と該界面活性剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態間を温度変化によって可逆的に変化するように混合してなる主溶剤及び該主溶剤に溶解する油溶性赤色染料又は油溶性蛍光染料からなり、前記界面活性剤が10〜30重量%、前記水が40〜80重量%、前記油溶性染料が0.2〜2重量%の割合で配合されていて引火点を有さない水ベース浸透液であって、かつ、前記単一相になっている状態から前記二相になっている状態の変化が当該水ベース浸透液の曇点の温度以上の温度において生じることを特徴とする浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液である(請求項1)。
【0021】
また、本発明は、前記曇点を有する界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアミンから選択される1種又は2種以上である浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液である(請求項2)。
【0022】
また、本発明は、前記本発明に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液にジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルグリコール及びメチルジプロピレングリコールから選択される1種又は2種以上が5重量%〜35重量%の割合で配合されている浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液である(請求項3)。
【0023】
さらに、本発明は、前記本発明に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液を、その相状態が前記単一相になっている状態で被検査物表面に付着させて該浸透液を該被検査物表面の開口欠陥部に浸透させた後に前記浸透液の曇点の温度以上の温度の温水によって該被検査物表面を洗浄して開口欠陥部内に浸透せずに残留している余剰浸透液を除去すると共に開口欠陥部内に浸透している浸透液の相状態を前記二相になっている状態へ変化させ、次いで当該開口欠陥部内に浸透している当該浸透液によって開口欠陥部の存在を検出する浸透探傷試験方法であって、検出対象とする開口欠陥部の深さに応じて前記浸透液の曇点の温度と前記洗浄に用いる温水の温度との温度差を調整して検出対象とする深さの開口欠陥部の存在を検出することを特徴とする浸透探傷試験方法である(請求項4)。
【0024】
また、本発明は、前記浸透探傷試験における浸透液の曇点の温度が40℃〜70℃の範囲内から選択される温度である浸透探傷試験方法である(請求項5)。
【0025】
なお、本明細書中の「分離温度」とは、本発明に係る水洗性水ベース浸透液の相状態が単一相から二相に分離する温度をいう。
また、本明細書中の「曇点」とは、界面活性剤については界面活性剤が低温では透明又は半透明であるが加温することによって不透明になる時の温度をいい、本発明に係る水洗性水ベース浸透液については前記「分離温度」をいう。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液及び該浸透液を用いる浸透探傷試験方法によれば、浸透液が、界面活性剤が水に溶解して単一相になっている状態と界面活性剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態間を温度変化によって可逆的に変化するという特性を備えているので、余剰浸透液の除去に当たり、浸透液の分離温度以上で該分離温度との温度差が大きい温水を用いて洗浄すれば、開口欠陥部内に浸透している浸透液が速やかに二相に分離し、分離した上相部が少量の水を含んだ界面活性剤成分なので、温水に溶け出すことが殆どないから前記過洗浄の発生を可及的に抑制でき、微細な開口欠陥部まで検出できる。
【0027】
また、浸透液の分離温度以上で該分離温度との温度差が小さい温水を用いて洗浄すれば、開口欠陥部内に浸透している浸透液が二相に分離するのに時間を要し、その間に余剰浸透液と共に、微細な開口欠陥部に浸透した浸透液も洗い流されるが、深い開口欠陥部に浸透している浸透液は洗い流されるのに時間がかかり、洗い流されないまま分離温度に達してそれ以上洗浄されることがないから深い開口欠陥部を選択的に検出できる。
【0028】
また、浸透液の分離温度と洗浄水の温度との温度差を変化させることによって探傷精度を変化させることができるから、同一浸透液及び同一探傷装置にて検出対象とする深さの開口欠陥部を選択的に検出することができるため作業効率が非常に良くなる。
【0029】
さらに、洗浄に用いる温水の温度のみを変更することによって、浸透液の分離温度と洗浄に用いる温水の温度とに温度差を設けることができるから、浸透液と洗浄方法は変更せずに洗浄に用いる温水の温度のみ変更して、余剰浸透液を洗浄・除去し検出対象とする深さの開口欠陥部に浸透している浸透液を選択的に残留させて、検出対象とする深さの開口欠陥部を選択的に検出することが可能となる。これにより、噴射圧を上げたり、洗浄時間を長くするといった洗浄方法の変更の必要もなくなるので、洗浄水の量は一定となり、排水量の増加を防ぐことができる。
【0030】
また、様々な曇点の界面活性剤が市販されているので、所要の界面活性剤を選択・配合することによって浸透液の曇点(分離温度)を選定することができるから、洗浄水(温水)の温度との組み合わせによって検出精度が異なる浸透液を容易・安価に調製することができる。
【0031】
つまり、浸透探傷試験用の浸透液を変更する手間をかけたり、洗浄方法を変更して排水量を増やしたりすることなく、検出精度を変更することができるので、被検査物の用途や要求される強度等に応じた検査対象とする深さの開口欠陥部を、同一浸透液及び同一探傷装置にて選択的に検出することができるのである。
【0032】
また、分離した下相部が少量の界面活性剤を含んだ水なので、溶解している油溶性(赤色又は蛍光)染料成分は上相部に移行して上相部の染料濃度が高くなって鮮明な欠陥指示模様が形成されるから、従来の油ベース浸透液と同等の検出精度が得られる。
【0033】
しかも、浸透液は引火点を有しないので、消防法の危険物に該当しないから、取り扱いや貯蔵量・貯蔵設備の安全に関する問題が発生しない。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の形態は次の通りである。
【0035】
本実施の形態に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンから選択される1又は2種以上の曇点を有する界面活性剤と水とを該界面活性剤が該水に溶解して単一相になっている状態と該界面活性剤が該水から分離して二相になっている状態との二つの相状態間を温度変化によって可逆的に変化するように混合してなる主溶剤に、当該主溶剤に溶解する油溶性赤色染料又は油溶性蛍光染料が配合されている液状物である。
【0036】
(浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液の製造)
前記界面活性剤は曇点を有するノニオン系界面活性剤で、HLB値は9〜14である。
【0037】
また、配合割合は10重量%〜30重量%である。これは、10重量%未満では、二相に分離した時に、上相部の界面活性剤の相が薄くなり、過洗浄を防げず探傷精度が低下する虞があり、30重量%以上配合してすれば粘度が高くなり、開口欠陥部への浸透性が低下し、探傷精度が低下する虞があるからである。
【0038】
前記界面活性剤は市販品から所要の曇点のものを選択・配合すればよく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルとしては例えばノイゲンNL−Dash410(HLB:12.5,曇点測定・曇点:66℃(1%水溶液),第一工業製薬株式会社製)、ノイゲンSD−70 (HLB:13.2,曇点測定・曇点:64℃(1%水溶液),第一工業製薬株式会社製)、ノイゲンXL−70 (HLB:13.2,曇点測定・曇点:40℃(1%水溶液),第一工業製薬株式会社製)、ノイゲンXL−80 (HLB:13.8,曇点測定・曇点:55℃(1%水溶液),第一工業製薬株式会社製)、ノイゲンXL−40 (HLB:10.5,曇点測定・曇点:53℃(10%水溶液、なお、10%水溶液中にBDG25%を含む),第一工業製薬株式会社製)、ノイゲンLF−30X (HLB:9.4,曇点測定・曇点:42℃(10%水溶液、なお、10%水溶液中にBDG25%を含む),第一工業製薬株式会社製)、ノイゲンTDX-80D (HLB:13.1,曇点測定・曇点:56℃(1%水溶液),第一工業製薬株式会社製)を、ポリオキシエチレンアルキルエーテルはノイゲンDKS NL−60 (HLB:11.5,曇点測定・曇点:43℃(1%水溶液),第一工業製薬株式会社製)を、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしてはブラウノンN−509(HLB:12.8,曇点測定・曇点:48℃(1%水溶液),青木油脂工業株式会社製)、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしてはブラウノンL−205(HLB:10.4,曇点測定・曇点:59℃(1%水溶液),青木油脂工業株式会社製)をそれぞれ用いることができる。
【0039】
前記油溶性赤色染料と油溶性蛍光染料及びその配合割合は、周知浸透探傷試験用浸透液に常用されているものを適用すればよく、前者にはオイルレッド5B(商品名:オリエント株式会社)やSudan Red 462(商品名:BASF社)が、後者にはFluorol 7GA(商品名:GAF社)やフロレッセントブライトニスエージェント68(商品名:日本化薬株式会社)が好適であり、その配合割合はいずれの染料を用いる場合にも0.2〜2重量%である。これは、0.2重量%未満では、前記観察時において鮮明な欠陥指示模様を得られないので探傷精度が著しく低下し、一方、2重量%を超えてもそれ以上鮮明な欠陥指示模様が得られないため、探傷精度はさほど向上しないからである。
【0040】
前記水の量は40重量%〜80重量%である。この配合割合の範囲内であれば、前記界面活性剤と前記各油溶性赤色染料又は前記各油溶性蛍光染料とをそれぞれ所要割合量で配合・溶解させた浸透液が、室温(約20℃)においては前記単一相になっている状態を維持しており、当該浸透液をその曇点の温度以上の温度に加温すると前記二相になっている状態に変化することを保証できる。
【0041】
必要に応じて、前記主溶剤に水溶性有機溶剤であるジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)、ブチルグリコール(BG)、メチルジプロピレングリコール(DPGM)から選択される1種もしくは2種以上を5重量%〜35重量%加えることにより、浸透液の分離温度を調整することができる。
【0042】
(水洗性水ベース浸透液の調製)
本実施の形態に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液の調製は容易であり、前記界面活性剤を10重量%〜30重量%、前記水を40重量%〜80重量%、前記各油溶性赤色染料又は前記各油溶性蛍光染料0.2〜2重量%を各配合割合範囲内において全体量100重量%となるように各材料を秤取し、秤取した各材料をステンレス製タンクに投入し、室温(約20℃)において電動ミキサーなどを使用し、各材料が混和・溶解して単一相の状態となるまで攪拌すればよい。
【0043】
なお、浸透液が単一相の状態から二相の状態へ変化する温度の微調整のために、必要に応じて前記水溶性有機溶剤を5重量%〜35重量%の範囲内で添加してもよいが、その場合にはその添加量に応じて前記水の量を減らす必要がある。
【0044】
浸透液の曇点(分離温度)を40℃〜70℃の範囲内から選択すれば所要の探傷精度を有する当該浸透液が調製し易い。
【0045】
(浸透探傷試験方法)
本実施の形態に係る浸透探傷試験方法は、先ず、室温(約20℃)の検査作業雰囲気において、同室温で貯蔵されていた本発明に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液を被検査物表面に塗布して付着させて開口欠陥部に浸透させ(浸透処理)、次いで、当該被検査物表面を約50℃〜80℃の温水を使用し、水圧:約0.3〜0.5Mpa・流量:1〜3L/minにて当該欠陥部内に浸透せずに被検査物表面に残っている余剰浸透液を洗浄・除去する(洗浄処理)。
【0046】
前記洗浄処理において、前記温水が前記水圧・流量をもって被検査物表面に吹き付けられると、洗浄開始当初は被検査物表面に接触した温水が該被検査物の温度(通常、被検査物は鋼鉄などの金属製部材であるため、その温度は室温:約20℃:よりも遙かに低い)まで冷やされ、冷やされた水とその水圧によって当該被検査物表面に残留している余剰浸透液が除去され始め、洗浄が進むにつれて当該被検査物表面の温度は吹き付けられている温水によって上昇して温水の温度に近づき、開口欠陥部内に浸透している浸透液が二相に分離し、分離した上相部は少量の水を含んだ界面活性剤で当該界面活性剤は水で飽和状態であるため、吹き付けられた温水に溶け出すことが殆ど無いから、前記過洗浄の発生が可及的に抑制することができ、かつ、分離した下相部は少量の界面活性剤を含んだ水であるため、浸透液に溶解している油溶性(赤色又は蛍光)染料成分が上相部に移行して上相部に染料濃度が高くなっているため、油溶性赤色染料を用いた浸透液の場合には前記現像剤薄層表面に鮮明な欠陥指示赤色ニジミ模様が現出し、油溶性蛍光染料を用いた浸透液の場合には暗室における紫外線灯の照射下で発光する黄緑色の欠陥指示蛍光模様の輝度が高く、いずれの場合にも、前記観察時において欠陥指示模様の判別が容易であるから、高精度をもって探傷できる。
【0047】
このとき、洗浄のための温水の温度が本発明の水洗性水ベース浸透液の分離温度以上で該分離温度と温水との温度差が大きい場合には、速やかに二相状態に分離して、温水に触れる上相が水で飽和した界面活性剤であるので、過洗浄を防ぎ、検出精度が高くなるため、開口欠陥部の深さが100μm程度の微細な開口欠陥部であっても検出することができる。
【0048】
これに対して、温水の温度が本発明の水洗性水ベース浸透液の分離温度以上で該分離温度と温水との温度差が小さい場合には、二相状態に分離するまでに時間がかかり、その間に余剰浸透液と共に、微細な開口欠陥部に浸透した浸透液も洗い流されるが、深い開口欠陥部に浸透している浸透液は洗い流されないまま分離温度に達し、それ以上洗浄されることがなくなるため、当該浸透液が深い開口欠陥部に残留し、当該開口欠陥部を検出することができる。
【0049】
本発明に係る水洗性水ベース浸透液の分離温度と洗浄に用いる温水との温度差が10℃に満たない場合は、開口欠陥部の深さが200μm以上の大きな開口欠陥部を検出することができる。
前記温度差が10℃〜20℃の時は開口欠陥部の深さが150μm以上の開口欠陥部を検出することができる。
前記温度差が20℃以上の時は開口欠陥部の深さが100μm程度の微細な開口欠陥部を検出することができる。
【実施例】
【0050】
本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳しく説明する。なお、以下に挙げる各実施例及び比較例における浸透液の分離温度並びに引火点の各測定並びに浸透探傷性能評価は、それぞれ次の方法によって行ったものである。
【0051】
分離温度の測定:測定検出対象浸透液をガラスビーカーに入れ、室温(約20℃)より徐々に加温しながら、目視にて観察し、当該浸透液が明確に二相分離し始めた時点の温度を測定した。
【0052】
引火点の測定:測定検出対象浸透液の引火点と引火点の有無をJIS K 2265−4に準拠して測定した。
【0053】
性能評価:表面に長さ6mm、幅20μmで深さが夫々100μm、150μm、200μmの人工キズ(開口欠陥部)が設けられているステンレス製試験片を使用し、室温(約20℃)において、測定検出対象浸透液を試験片表面に塗布して付着させ、5分間静置させた後、各温度での洗浄水を水圧0.3MPa・流量1L/minにて試験片表面に吹き付けて洗浄し、次いで、エアブローによって試験片表面の水滴を除いた後、熱風循環式乾燥機を使用して約70℃の熱風によって当該試験片を5分間乾燥し、評価検出対象浸透液が油溶性赤色染料を用いたものである場合には、当該各試験片表面に市販の染色浸透探傷用現像剤(スーパーチェック現像剤:商品名:主成分は無機質白色微粉末:マークテック株式会社)を用いて無機質白色微粉末の薄層を形成し、白色光の下で目視にて当該薄層表面を観察して評価し、評価検出対象浸透液が油溶性蛍光染料を用いたものである場合には、現像剤を使用することなく、暗室において紫外線照射灯の照射下で目視により当該各試験片表面を観察にて評価した。
【0054】
評価基準は、人工キズの深さに対応した明瞭な欠陥指示模様が視認できた場合を「○」とし(注:浸透液が油溶性赤色染料を用いたものである場合には、キズが深いほど欠陥指示模様の色彩が濃く、かつ、大きくなり、浸透液が油溶性蛍光染料を用いたものである場合には、キズが深いほど欠陥指示模様の輝度が高くなる)、視認できた欠陥指示模様が、一部途切れていたり、色彩が薄いか、或いは輝度が低く、明瞭さを欠く場合を「△」とし、欠陥指示模様を視認できない(注:欠陥指示模様が出ない)場合を「×」とした。
【0055】
また、洗浄処理に用いた洗浄水量(排水量)は0.58Lであった。
【0056】
(実施例1)
ノニオン系界面活性剤(商品名:ノイゲンNL−Dash410(HLB:12.5,曇点測定・曇点:66℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)25重量%、油溶性蛍光染料(商品名:Fluoro17GA,GAF社)1.0重量%、水74重量%の処方となるように各材料を秤取し、秤取した各材料をステンレス製タンクに投入し、室温(約20℃)において電動ミキサーを使用して、30分間攪拌することにより、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース蛍光浸透液を調製した。
【0057】
ここに得られた水洗性水ベース蛍光浸透液の曇点(分離温度)は66℃であり、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「△」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0058】
(実施例2)
ノニオン系界面活性剤1(商品名:ノイゲンTDX-80D (HLB:13.1,曇点測定・曇点:56℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)10重量%、ノニオン系界面活性剤2(商品名:ノイゲンXL−80(HLB:13.8,曇点測定・曇点:55℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)15重量%、油溶性蛍光染料(商品名:Fluoro17GA,GAF社)1.0重量%、水74重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース蛍光浸透液を調製した。
【0059】
ここに得られた水洗性水ベース蛍光浸透液の曇点(分離温度)は55℃であり、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「△」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0060】
(実施例3)
ノニオン系界面活性剤(商品名:ノイゲンDKS NL−60 (HLB:11.5,曇点測定・曇点:43℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)25重量%、油溶性蛍光染料(商品名:Fluoro17GA,GAF社)1.0重量%、水74重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース蛍光浸透液を調製した。
【0061】
ここに得られた水洗性水ベース蛍光浸透液の曇点(分離温度)は43℃であり引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「○」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0062】
(実施例4)
ノニオン系界面活性剤(商品名:ノイゲンXL−70 (HLB:13.2,曇点測定・曇点:40℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)20重量%、油溶性赤色染料(商品名:オイルレッド5B オリエント株式会社製)2.0重量%、DPGM10重量%、水68重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース赤色浸透液を調製した。
【0063】
ここに得られた水洗性水ベース赤色浸透液の曇点(分離温度)は65℃であり、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「△」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0064】
(実施例5)
ノニオン系界面活性剤(商品名:ノイゲンXL−40 (HLB:10.5,曇点測定・曇点:53℃(10%水溶液、なお、10%水溶液中にBDG25%を含む)),第一工業製薬株式会社製)10重量%、油溶性赤色染料(商品名:オイルレッド5B オリエント株式会社製)2.0重量%、BDG25重量%、水63重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース赤色浸透液を調製した。
【0065】
ここに得られた水洗性水ベース赤色浸透液の曇点(分離温度)は53℃であり、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「△」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0066】
(実施例6)
ノニオン系界面活性剤(商品名:ノイゲンXL−70 (HLB:13.2,曇点測定・曇点:40℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)15重量%、油溶性赤色染料(商品名:オイルレッド5B オリエント株式会社製)2.0重量%、BG15重量%、水68重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース赤色浸透液を調製した。
【0067】
ここに得られた水洗性水ベース赤色浸透液の曇点(分離温度)は46℃であり、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「○」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0068】
(実施例7)
ノニオン系界面活性剤(商品名:ノイゲンLF−30X (HLB:9.4,曇点測定・曇点:42℃(10%水溶液、なお、10%水溶液中にBDG25%を含む)),第一工業製薬株式会社製)10重量%、油溶性蛍光染料(商品名:Fluoro17GA,GAF社)1.0重量%、BDG25重量%、水64重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース蛍光浸透液を調製した。
【0069】
ここに得られた水洗性水ベース蛍光浸透液の曇点(分離温度)は42℃であり引火点はなかった。
洗浄水温度20℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「×」、キズ深さ200μmで「△」であった(参考例)。
洗浄水温度50℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「△」、キズ深さ200μmで「○」であった。
洗浄水温度60℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「△」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「○」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であった。
【0070】
(比較例1)
ポリオキシエチレントリデシルエーテル(商品名:ノイゲンTDS−200D (HLB:16.3,曇点測定・曇点:80℃以上(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)25重量%、油溶性赤色染料(商品名:オイルレッド5B オリエント株式会社製)1.0重量%、水74重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース赤色浸透液を調製した。
【0071】
ここに得られた水洗性水ベース赤色浸透液の曇点(分離温度)は80℃以上であり、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「×」、キズ深さ200μmで「×」であった。
【0072】
(比較例2)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン分岐デシルエーテル(商品名:ノイゲンXL−60 (HLB:12.5,曇点測定・曇点:28℃(1%水溶液)),第一工業製薬株式会社製)25重量%、油溶性蛍光染料(商品名:Fluoro17GA,GAF社)1.0重量%、水74重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース蛍光浸透液を調製した。
【0073】
ここに得られた水洗性水ベース蛍光浸透液の曇点(分離温度)は28℃であり引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「○」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」であったが、洗浄性が悪く余剰浸透液の除去が困難であったため、バックグラウンドの残光が多く、欠陥指示模様との識別性が悪くなってしまった。
【0074】
(比較例3)
陰イオン系界面活性剤(商品名:アントックスEHD−PNA (HLB:なし),日本乳化剤株式会社製)10重量%、油溶性赤色染料(商品名:オイルレッド5B オリエント株式会社製)1.0重量%、BDG15重量%、水74重量%の処方となるように各材料を秤取し、実施例1と同一条件にて、当該各材料が混和・溶解して単一相の状態となっている水洗性水ベース赤色浸透液を調製した。
【0075】
ここに得られた水洗性水ベース赤色浸透液の曇点(分離温度)は確認されず、引火点はなかった。
洗浄水温度70℃での探傷性能評価は、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「×」、キズ深さ200μmで「×」であった。
【0076】
(比較例4:洗浄水量)
水洗性水ベース浸透液スーパーチェックP−LK(商品名)を用い、水温20℃において洗浄を行い、探傷性評価が下記(1)〜(3)のとおりになるように洗浄した時に要した洗浄水の量は夫々、(1)0.58L、(2)0.97L、(3)1.50Lであった。
(1)探傷性評価が、キズ深さ100μmで「○」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」
(2)探傷性評価が、キズ深さ100μmで「△」、キズ深さ150μmで「○」、キズ深さ200μmで「○」
(3)探傷性評価が、キズ深さ100μmで「×」、キズ深さ150μmで「△」、キズ深さ200μmで「○」
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液は、当該浸透液の曇点(分離温度)以上の温度の温水でかつ当該浸透液の分離温度と温水との温度差が小さい場合には、深い開口欠陥部を選択的に検出することができ、当該温度差が大きい場合には、従来の油ベース浸透液と同等の微細な開口欠陥部まで検出することができるため、容易に検出精度を変更することができ、検出対象欠陥が様々な深さである浸透探傷試験現場の要求を満たすことができ、また引火点がなく消防法の規格を満たしているので取り扱いや貯蔵量の問題はないため、本発明の産業利用可能性は大きいといえる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
曇点を有する界面活性剤と水とを該界面活性剤が水に溶解して単一相になっている状態と該界面活性剤が水から分離して二相になっている状態との二つの相状態間を温度変化によって可逆的に変化するように混合してなる主溶剤及び該主溶剤に溶解する油溶性赤色染料又は油溶性蛍光染料からなり、前記界面活性剤が10〜30重量%、前記水が40〜80重量%、前記油溶性染料が0.2〜2重量%の割合で配合されていて引火点を有さない水ベース浸透液であって、かつ、前記単一相になっている状態から前記二相になっている状態の変化が当該水ベース浸透液の曇点の温度以上の温度において生じることを特徴とする浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液。
【請求項2】
前記曇点を有する界面活性剤が、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルアミンから選択される1種又は2種以上である請求項1に記載の浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液。
【請求項3】
ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ブチルグリコール及びメチルジプロピレングリコールから選択される1種又は2種以上が5重量%〜35重量%の割合で配合されている請求項1又は2に記載の浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の浸透探傷試験用水洗性水ベース浸透液を、その相状態が前記単一相になっている状態で被検査物表面に付着させて該浸透液を該被検査物表面の開口欠陥部に浸透させた後に前記浸透液の曇点の温度以上の温度の温水によって該被検査物表面を洗浄して開口欠陥部内に浸透せずに残留している余剰浸透液を除去すると共に開口欠陥部内に浸透している浸透液の相状態を前記二相になっている状態へ変化させ、次いで当該開口欠陥部内に浸透している当該浸透液によって開口欠陥部の存在を検出する浸透探傷試験方法であって、検出対象とする開口欠陥部の深さに応じて前記浸透液の曇点の温度と前記洗浄に用いる温水の温度との温度差を調整して検出対象とする深さの開口欠陥部の存在を検出することを特徴とする浸透探傷試験方法。
【請求項5】
前記浸透液の曇点の温度が40℃〜70℃の範囲内から選択される温度である請求項4に記載の浸透探傷試験方法。


【公開番号】特開2012−247249(P2012−247249A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117988(P2011−117988)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(390002808)マークテック株式会社 (42)
【Fターム(参考)】