説明

消化管の重炭酸分泌を促進するための方法および組成物

式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体を含む、哺乳類対象の消化管における重炭酸分泌を促進するための医薬組成物を提供する。式(I)の化合物はまた、哺乳類対象の消化管を粘膜損傷から保護するのに有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類対象における消化管の重炭酸分泌を促進するための方法および医薬組成物に関する。
【0002】
本発明はさらに、哺乳類対象において消化管を粘膜の損傷から保護するための方法および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
消化管の上皮表面の粘膜は重炭酸の分泌により保護されている。粘膜は、高濃度のエタノールや薬物、例えばアスピリンおよび他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)等の有害物質に曝されている。各器官において、酸、ペプシン、NSAID等の特定薬物および細菌感染により誘発される潜在的な粘膜損傷が重炭酸分泌により保護されている(News Physiol. Sci. 16, 23-28, 2001)。
【0004】
プロスタグランジン類(以後PG(類)と示す)は、ヒトまたは他の哺乳類の組織または器官に含まれ広範な生理学的活性を示す、有機カルボン酸分類群のメンバーである。天然に存在するPG類(天然PG類)は、一般に、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する:
【化1】


【0005】
一方、天然PG類の幾つかの合成類似体は修飾された骨格を持っている。天然PG類は5員環部分の構造によって、PGA類、PGB類、PGC類、PGD類、PGE類、PGF類、PGG類、PGH類、PGI類およびPGJ類に分類され、さらに炭素鎖部分の不飽和結合の数と位置によって、以下の3つのタイプに分類される。
下付1:13,14−不飽和−15−OH
下付2:5,6−および13,14−ジ不飽和−15−OH
下付3:5,6−、13,14−および17,18−トリ不飽和−15−OH。
【0006】
さらに、PGF類は9位のヒドロキシ基の配置によってαタイプ(ヒドロキシ基がα配置である)およびβタイプ(ヒドロキシ基がβ配置である)に分類される。
【0007】
PGE、PGEおよびPGEは、血管拡張、血圧低下、胃液分泌減少、腸管運動促進、子宮収縮、利尿、気管支拡張および抗潰瘍作用を有することが知られている。PGF1α、PGF2αおよびPGF3αは高血圧、血管収縮、腸管運動促進、子宮収縮、黄体退縮および気管支収縮作用を有することが知られている。
【0008】
また、幾つかの15−ケト−PG類(すなわちヒドロキシ基の代わりに15位にオキソ基を持つPG類)および13,14−ジヒドロ−15−ケト−PG類(すなわち13、14位間は単結合である)は、天然PG類の代謝中に酵素の作用によって自然に生成する物質として知られている。
【0009】
上野らの米国特許第7,064,148号明細書には、15−ケト−プロスタグランジン化合物の二環式互変異性体を含む特定のプロスタグランジン化合物は、クロライドチャネル、特にClCチャネル、殊にClC−2チャネルを開いて活性化することが記載されている。
【0010】
最近の発見により、PG類が胃および十二指腸においてPG受容体に作用することにより重炭酸分泌を刺激することが示唆されている(J Physiol. Pharmacol. 50(2), 155-167, 1999)。
【0011】
一方、15−ケト−プロスタグランジン化合物の1つであるイソプロピルウノプロストンは、EPおよびFP受容体等のPG受容体に対して親和性を持たないことが報告されている(Journal of Ocular Pharmacology and Therapeutics 17(5), 433-441, 2001)。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは集中的に研究を行い、特定のプロスタグランジン化合物が消化管の重炭酸分泌を促進し、従って消化管を粘膜の損傷から保護するのに有用であることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、有効量の式(I)で表される化合物および/またはその互変異性体:
【化2】

[式中、WおよびWは、
【化3】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]
を、それを必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象の消化管における重炭酸分泌を促進するための方法に関する。
【0014】
本発明は、また、有効量の式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体を、それを必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象において消化管を粘膜損傷から保護するための方法に関する。
【0015】
本発明は、さらに、有効量の式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む、哺乳類対象において消化管の重炭酸分泌を促進するための医薬組成物;および有効量の式(I)の化合物および/またはその互変異性体を含む、消化管を粘膜損傷から保護するための医薬組成物に関する。
【0016】
本発明は、さらに、哺乳類対象において消化管の重炭酸分泌を促進するための医薬組成物を製造するための、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の使用;および哺乳類対象において消化管を粘膜損傷から保護するための医薬組成物を製造するための、式(I)の化合物および/またはその互変異性体の使用に関する。
【0017】
発明の詳細な説明
本出願において用いられる化合物は式(I)により表される:
【化4】

[式中、WおよびWは、
【化5】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。
【0018】
上記式において、用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子を含むために使用される。とりわけ好ましい、XおよびXのためのハロゲン原子は、フッ素原子である。
【0019】
およびYの定義における用語「不飽和」は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間に孤立して、分離してまたは連続して存在する、少なくとも1つまたはそれ以上の二重結合および/または三重結合を含むことを意図している。通常の命名法に従って、2つの連続した位置の間の不飽和結合は、2つの位置の低い数を表示することによって表され、2つの遠位の間の不飽和結合は、その両方の位置を表示することによって表される。
【0020】
明細書および特許請求の範囲を通して、用語「低級」は、他に明記されていない限り、1乃至6個の炭素原子を有する基を含むことを意図する。
【0021】
用語「環」は、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリールまたはアリールオキシを言う。
【0022】
用語「低級アルキル」は、1乃至6個の炭素原子を含む、直鎖または分岐鎖の飽和炭化水素基を言い、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
【0023】
用語「低級アルコキシ」は、低級アルキルが上記で定義される、低級アルキル−O−の基を言う。
【0024】
用語「低級アルカノイルオキシ」は、RCO−が、上記で定義される低級アルキル基の酸化により形成されるアシル基である、アセチル等の、式RCO−O−により表される基を言う。
【0025】
用語「低級シクロアルキル」は、上記で定義されるが、3またはそれ以上の炭素原子を含む低級アルキル基の環化により形成される環状基を言い、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルを含む。
【0026】
用語「低級シクロアルキルオキシ」は、低級シクロアルキルが上記で定義される、低級シクロアルキル−O−の基を言う。
【0027】
用語「アリール」は、非置換または置換された芳香族炭素環式またはヘテロ環式の基、好ましくは、単環式の基を言い、例えば、フェニル、ナフチル、トリル、キシリル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フラザニル、ピラニル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジル、ピラジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、ピペリジノ、ピペラジニル、モルホリノ、インドリル、ベンゾチエニル、キノリル、イソキノリル、プリニル、キナゾリニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナントリジニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイミダゾリニル、ベンゾチアゾリルおよびフェノチアジニルである。置換基の例は、ハロゲン原子および低級アルキルが上記で定義される、ハロゲン原子およびハロ(低級)アルキルである。
【0028】
用語「アリールオキシ」は、Arが上記で定義されるアリールである、式ArO−により表される基を言う。
【0029】
用語Aの「機能性誘導体」は、塩、好ましくは、医薬的に許容され得る塩、エーテル、エステルおよびアミド類を含む。
【0030】
好適な「医薬的に許容され得る塩」は、慣用される非毒性塩、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩等、の無機塩基との塩;または、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等、の有機塩基との塩を含む。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によってまたは塩交換によって製造し得る。
【0031】
エーテルの例は、アルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテル、1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル;およびオクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテル、セチルエーテル等の中級または高級アルキルエーテル;オレイルエーテル、リノレニルエーテル等の不飽和エーテル;ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル;エチニルエーテル、プロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル;ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシイソプロピルエーテル等のヒドロキシ(低級)アルキルエーテル;メトキシメチルエーテル、1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル;フェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテル、ベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル;およびベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルを含む。
【0032】
エステルの例は、脂肪族エステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル;ビニルエステル、アリルエステル等の低級アルケニルエステル;エチニルエステル、プロピニルエステル等の低級アルキニルエステル;ヒドロキシエチルエステル等のヒドロキシ(低級)アルキルエステル;メトキシメチルエステル、1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステル;および、例えばフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステル、ベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル;およびベンジルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルを含む。
【0033】
Aのアミドは、式−CONR’R’’で表される基を意味する。ここで、R’およびR’’はそれぞれ水素、低級アルキル、アリール、アルキルあるいはアリールスルホニル、低級アルケニルおよび低級アルキニルであり、例えば、メチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミド、ジエチルアミド等の低級アルキルアミド、アニリドおよびトルイジド等のアリールアミド、メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキルもしくはアリールスルホニルアミド等を含む。
【0034】
Yの例としては、例えば、以下の基:
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−O−CH−、
−CH−CH=CH−CH−O−CH−、
−CH−C≡C−CH−O−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−CH−、および
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH
を含む。
【0035】
さらに、Yの脂肪族炭化水素中の少なくとも1つの炭素原子は、場合により酸素、窒素または硫黄により置換される。
【0036】
好ましいAは、−COOH、その医薬的に許容され得る塩、またはエステルである。
【0037】
好ましいXおよびXは、共にハロゲン原子であり、より好ましくは、フッ素原子である。
【0038】
好ましいWは=Oである。
【0039】
好ましいWは、
【化6】

(式中RおよびRは共に水素原子である)である。
【0040】
好ましいYは、6−8個の炭素原子を有する非置換の、飽和または不飽和炭化水素鎖である。
【0041】
好ましいRは、1−6個の炭素原子、より好ましくは、1−4の炭素原子を含む炭化水素である。Rは、1個の炭素原子を有する1または2の側鎖を有し得る。
【0042】
は、好ましくは水素である。
【0043】
最も好ましい実施態様は、Aが−COOHであり;Yが(CHであり;Wが=Oであり;W
【化7】

(式中、RおよびRは、共に水素原子である)であり;Rは水素原子であり;XおよびXはフッ素であり;そして、Rは(CHCHまたはCHCH(CH)CHCHである、式(I)のプロスタグランジン化合物である。
【0044】
本発明において用いられる式(I)の化合物は、固体状態で二環式化合物として存在するが、溶媒中において、該化合物の一部は、単環式互変異性体を形成し得る。水非存在下では、式(I)で表される化合物は、主に二環構造の形態で存在する。水性媒体中では、該化合物のいくつかの部分は単環式互変異性体の形態となり得る。水素結合は、例えば、C−15位に位置するケトンとの間に形成され、それにより二環式の環形成が妨げられると信じられている。さらに、C−16位のハロゲン原子は、二環式の環形成を促進すると信じられている。C−11位のヒドロキシとC−15位のケト部分間の互変異性は、以下に示すように、13,14単結合およびC−16位で2個のフッ素原子を有する化合物の場合とりわけ重要である。
【0045】
従って、本明細書および特許請求の範囲において、二環式形態として表された式(I)の化合物はその単環式互変異性体をも包含する。例えば、C−15位にケト基を有し、C−16位にハロゲン原子を有する化合物の二環式および単環式形態は、以下の通りであり得る。
【化8】

【0046】
さらに、本発明において用いられる化合物は異性体が存在するまたはしないにかかわらず、単環式互変異性体に基づいた名称により表される場合があるが、そのような構造または名称は二環式タイプの化合物を除外することを意図するものではないことに注意されたい。
【0047】
本発明の好ましい単環式形態の化合物は、従来のプロスタグランジンの命名法に従い、13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−PGEまたは13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18(S)−メチル−PGEと命名することができる。
【0048】
本発明に用いられる化合物は、米国特許第5,284,858号および第5,739,161号明細書(これらの引用文献は参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている方法によって調製され得る。
【0049】
本発明によると、処置すべき対象は、ヒトを含めいずれの哺乳類対象であってもよい。式(I)の化合物は全身的または局所的に適用することができる。通常、本化合物は経口投与、鼻腔内投与、吸入投与、静脈内注射(点滴を含む)、皮下注射、直腸内投与、経皮投与等により投与し得る。
【0050】
投与量は、動物の系統、年齢、体重、処置すべき症状、望む治療効果、投与経路、処置期間等に応じて変化し得る。1日に0.00001-500μg/kg、好ましくは0.0001-100μg/kg、より好ましくは0.001-10μg/kg量を、1日に1-4回全身または局所投与または連続投与することにより、十分な効果が得られうる。
【0051】
式(I)の化合物は、従来法により投与に適した医薬組成物として製剤化するのが好ましい。その組成物は、経口投与、鼻腔内投与、吸入投与、注射または灌流に適したもの、ならびに外部薬、坐薬または腟坐薬であり得る。
【0052】
本発明の組成物は生理学的に許容し得る添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤には本発明の化合物とともに用いる成分、例えば、賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、潤滑剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基剤、坐薬用基剤、エアゾール剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤、機能性物質(例えばシクロデキストリン、生体内分解高分子等)、安定剤等があり得る。これらの添加剤は当業者によく知られており、一般的な製剤学の参考書に記載されているものから選択すればよい。
【0053】
本発明の組成物における上記に規定の化合物の量は、組成物の処方に応じて変化させてよく、一般に0.000001-10.0%、より好ましくは0.00001-5.0%、最も好ましくは0.0001-1%であり得る。
【0054】
経口投与のための固体組成物の例には、錠剤、トローチ剤、舌下錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤等がある。固体組成物は1以上の活性成分と少なくとも1つの不活性希釈剤を混合して調製してもよい。その組成物に、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば、潤滑剤、崩壊剤および安定剤をさらに含ませてもよい。錠剤および丸剤は、必要に応じて、腸溶性または胃腸溶性フィルムによって被覆してもよい。それらは2以上の層によって被覆してもよい。それらは徐放性物質に吸収させても、またはマイクロカプセル化してもよい。さらに、本組成物は、ゼラチン等の易分解性物質を用いてカプセル化してもよい。それらは、脂肪酸またはそのモノ、ジもしくはトリグリセリド等の適切な溶媒にさらに溶解させて軟カプセルとしてもよい。即効性が必要な場合は舌下錠を用いてもよい。
【0055】
経口投与、鼻腔内投与または吸入投与のための液体組成物の例には、乳剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤等がある。そのような組成物は、慣用される不活性希釈剤、例えば精製水またはエチルアルコールをさらに含んでもよい。この組成物は、不活性希釈剤以外の添加剤、例えば湿潤剤や懸濁剤といったアジュバント、甘味剤、香味剤、芳香剤および保存剤等を含んでもよい。
【0056】
本発明の組成物は、1以上の活性成分を含有する噴霧用組成物の形態であってもよく、これは既知の方法によって調製することができる。
【0057】
鼻腔内用製剤は、水性もしくは油性溶液剤、懸濁剤または乳剤として投与され得る。活性成分の吸入による投与において、鼻腔内用製剤は、乾燥粉末またはエアロゾルとして存在する懸濁液、溶液または乳液の形態で投与することができ、いずれの慣用される噴射剤も用いることが可能である。
【0058】
非経口投与のための本発明の注射用組成物の例には、滅菌した水性もしくは非水性溶液剤、懸濁剤および乳剤等がある。水性溶液剤または懸濁剤のための希釈剤には、例えば、注射用蒸留水、生理食塩水およびリンゲル液等があり得る。
【0059】
溶液剤および懸濁剤のための非水性希釈剤には、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(オリーブ油等)、アルコール(エタノール等)およびポリソルベート等があり得る。この組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の添加剤をさらに含んでもよい。それらは、例えば細菌保留フィルターを通して濾過することによって、滅菌剤を配合することによって、またはガスもしくは放射性同位体照射滅菌によって滅菌してもよい。注射用組成物は、滅菌粉末組成物として提供し、使用前に注射用の滅菌溶媒に溶解させることもできる。
【0060】
本発明の別の形態は坐剤または腟坐剤であり、これらは通常用いられる基剤、例えば体温で軟化するカカオバターに活性成分を混合することによって調製することができ、吸収性を向上させるために適切な軟化温度を有する非イオン性界面活性剤を用いてもよい。
【0061】
上述のように、式(I)の化合物は消化管の重炭酸分泌を促進し、従って酸、ペプシン、NSAID等の特定薬物および細菌感染により誘発される粘膜の損傷から消化管を保護するのに有用である。
【0062】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる用語「消化管」には、上部消化管、例えば食道、胃、十二指腸、ならびに下部消化管、例えば空腸および回腸を含む小腸、および結腸および直腸を含む大腸が含まれる。特に式(I)の化合物は上部消化管において重炭酸分泌を促進する。
【0063】
本発明の医薬組成物は、本発明の目的に反しないならば他の薬理成分をさらに含有してもよい。
【0064】
本発明のさらなる詳細を実施例を参照して以下に示すが、これは本発明を限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0065】
消化管の重炭酸分泌に対する化合物A(13,14−ジヒドロ−15−ケト−16,16−ジフルオロ−18(S)−メチル−PGE)の効果を調べた。
【0066】
7週齢のオスのウィスターラットを本研究に用いた。100μg/kg用量の化合物Aを毎日3回7日間これらの動物に経口投与した。対照動物には同量の媒体(0.01%ポリソルベート80および0.5%エタノールを含有する蒸留水)を投与した。最後の投与の翌朝(最後の投与から約17時間後)に、エーテル麻酔下の動物の総胆管へポリエチレンカテーテル(PE10、Becton Dickinson and Company)を挿入した。動物を個々にボールマンケージへ移し、1時間かけて麻酔から回復させた。カテーテル挿入後1から2時間の1時間の間に胆汁を収集した。胆汁中の重炭酸(HCO)の量を全自動pH/血液ガス分析装置(モデル170、Ciba Corning Diagnostics Corp.)により測定した。
【0067】
化合物A群において、胆汁に分泌された重炭酸の量は、対照群と比較して有意に増加していた。
【表1】

【0068】
結果は、式(I)の化合物が消化管における重炭酸の分泌を促進し、従って消化管を粘膜損傷から保護する作用を有することを示している。
【0069】
本発明を詳細に、また具体的な実施態様を参照して説明したが、本発明の精神および範囲を逸脱せずに様々な改変および修飾を行うことが可能であることは当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類対象の消化管における重炭酸分泌を促進するための医薬組成物を製造するための、式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体の使用:
【化1】

[式中、WおよびWは、
【化2】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。
【請求項2】
およびXがフッ素原子である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
Aが−COOHである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
消化管が食道、胃および/または十二指腸である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
哺乳類対象において消化管を粘膜損傷から保護するための医薬組成物を製造するための、式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体の使用:
【化3】

[式中、WおよびWは、
【化4】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。
【請求項6】
粘膜の損傷が酸によって誘発される、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
粘膜の損傷がペプシンによって誘発される、請求項5に記載の使用。
【請求項8】
粘膜の損傷が非ステロイド性抗炎症薬によって誘発される、請求項5に記載の使用。
【請求項9】
粘膜の損傷が細菌感染によって誘発される、請求項5に記載の使用。
【請求項10】
式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体を含む、哺乳類対象の消化管における重炭酸分泌を促進するための医薬組成物:
【化5】

[式中、WおよびWは、
【化6】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。
【請求項11】
式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体を含む、哺乳類対象において消化管を粘膜損傷から保護するための医薬組成物:
【化7】

[式中、WおよびWは、
【化8】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。
【請求項12】
有効量の式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体を、それを必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象の消化管における重炭酸分泌を促進するための方法:
【化9】

[式中、WおよびWは、
【化10】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。
【請求項13】
有効量の式(I)により表される化合物および/またはその互変異性体を、それを必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象において消化管を粘膜損傷から保護するための方法:
【化11】

[式中、WおよびWは、
【化12】

であり;
およびRは水素であり;または、それらのうちの一方がOH、他方が水素であり;
およびXは、水素、低級アルキルまたはハロゲン、ただし、それらのうちの少なくとも1つがハロゲンであり;
は水素または低級アルキルであり;
Yは、非置換またはオキソ、ハロゲン、アルキル、ヒドロキシまたはアリールにより置換された、飽和または不飽和C2−10炭化水素鎖であり;
Aは、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその機能性誘導体であり;
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、低級シクロアルキル、低級シクロアルキルオキシ、アリール、またはアリールオキシによって置換された、飽和または不飽和の、直鎖−、分岐鎖−または環−形成低級炭化水素;低級シクロアルキル;低級シクロアルキルオキシ;アリールまたはアリールオキシであり;
C−13およびC−14位間の結合が二重結合または単結合であり、そしてC−15位の立体配置がR、Sまたはそれらの混合物である]。

【公表番号】特表2010−502568(P2010−502568A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511004(P2009−511004)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【国際出願番号】PCT/JP2007/067693
【国際公開番号】WO2008/029949
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【Fターム(参考)】