説明

消化管造影剤用懸濁安定剤および消化管造影製剤

【課題】粘度変化が小さく、かつ分散安定性が良好である消化管造影剤用懸濁安定剤を提供する。
【解決手段】エーテル化度が0.7〜1.5、および無水物の10%水溶液粘度が5〜20mPa・sであるCMI金属塩を含む消化管造影剤用懸濁安定剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルイヌリン(以下、CMIという)金属塩を含む消化管造影剤用懸濁安定剤およびその懸濁安定剤を用いた消化管造影製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸バリウムやオキシ炭酸ビスマスは、X線吸収力が強く、かつ実質的に無害であるため、胃、腸など消化管の造影検査における造影剤として繁用されている。しかし造影剤は、一般に比重が大きく(最も広く使われている硫酸バリウムでは約4.5)、そのままでは水に分散しないため、例えばトラガントガム、アラビアガム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC−Naという)、またはアルギン酸ナトリウムなどの懸濁安定剤を併用する必要がある。
【0003】
しかしながら、従来の懸濁安定剤は、胃液に対する安定性が充分とは言えず、凝固したり、または粘度上昇を起こしたりすることがある。このため、造影剤の粒子が消化管の皺壁内部まで浸達しなかったり、不均一に付着したりしてX線透視像または陰画が消化管壁の細部を正確に反映せず、その結果、X線検査による正確な診断が不可能となる場合があった。また、造影作用は硫酸バリウム濃度が高いほど向上するので、服用量および被曝線量を減らすためにもできるだけ高濃度であることが望ましいが、それには懸濁安定剤の濃度を高める必要があり、造影製剤が飲み難くなるのみならず、胃、十二指腸などの微細皺壁内へ侵入し難くなるなどの問題があった。
【0004】
そのため、従来、造影製剤用の懸濁安定剤として、粘度の異なる2種のCMC−Naの混合物などが使用されている(特許文献1参照)。しかしながら、懸濁安定剤としてCMC−Naを用いた場合、粘度安定性や分散安定性が充分ではない、また、低粘度懸濁液を得ることが難しいなどの問題があった。
【0005】
【特許文献1】特許第3221737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粘度変化が小さく、かつ分散安定性が良好である消化管造影剤用懸濁安定剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エーテル化度が0.7〜1.5、および無水物の10%水溶液粘度が5〜20mPa・sであるCMI金属塩を含む消化管造影剤用懸濁安定剤に関する。
【0008】
また、本発明は、前記の懸濁安定剤を含む消化管造影製剤にも関する。
【0009】
懸濁安定剤の配合量が、消化管造影製剤中に0.2〜10重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の懸濁安定剤を用いた消化管造影製剤は、硫酸バリウム粒子を懸濁させる性能に優れ、かつ酸性条件下においても粘度変化が小さく、消化管造影剤としてX線診断技術の向上および造影剤服用時の違和感を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、エーテル化度が0.7〜1.5、および無水物の10%水溶液粘度が5〜20mPa・sであるCMI金属塩を含む消化管造影剤用懸濁安定剤に関する。
【0012】
CMI金属塩のエーテル化度は、0.7〜1.5であり、0.8〜1.0が好ましく、0.85〜0.90がより好ましい。エーテル化度が0.7より小さいと、溶液に濁りが生じる傾向がある。一方、エーテル化度が1.5より大きいと、特に問題はないが、高価なエーテル化剤を多く使用する傾向がある。
【0013】
CMI金属塩の無水物の10%水溶液粘度は、5〜20mPa・sであり、10〜15mPa・sが好ましい。10%水溶液の粘度が、5mPa・sより小さいと、粘度不足により本発明の効果が得られにくい傾向がある。一方、20mPa・sより大きいと、造影剤スラリーの粘度が高くなり、服用時の違和感が強くなる傾向がある。
【0014】
CMI金属塩の具体例としては、CMIナトリウム(以下、CMI−Naという)、カCMIカリウム、CMIアンモニウム、CMIリチウムなどが挙げられる。これらの中で、CMI−Naが、水溶液性が好ましく、原料である苛性ソーダが一般に用いられている点から好ましい。
【0015】
本発明で用いられるCMI金属塩の原料であるイヌリンは、キクイモ、ダリアなどキク科植物の根茎に15〜60重量%含まれ、次の一般式で表わされる主としてD−フルクトースからなる、分子量が通常5000〜6300程度(nは20〜35程度)の多糖類であり、スクロースを受容体として20〜30残基のフルクトース(フラノース型)がβ−2,1結合で重合し、還元末端にグルコースが存在する多糖類であって、特に限定されるものではない。
【0016】
【化1】

【0017】
CMI金属塩の製造方法としては、含水有機溶媒中で原料イヌリンをアルカリ金属化合物でアルカリ処理し、次いで該アルカリ処理されたイヌリンにカルボキシメチルエーテル化剤を添加してエーテル化する工程からなるものである。
【0018】
原料イヌリンをアルカリ処理するときのアルカリ金属化合物の添加量は、イヌリンのD−フルクトース単位1モル当たり、0.5〜10モルが好ましく、0.5〜3.0モルがより好ましい。アルカリ金属化合物の添加量が、0.5モルより小さいと、アルカリ量が不足し、エーテル化反応が行いにくい傾向がある。一方、アルカリ金属化合物の添加量が、10モルより大きいと、エーテル化剤の副分解を促進する傾向がある。カルボキシメチルエーテル化剤の添加量は、イヌリンのD−フルクトース単位1モル当たり、0.8〜2.0が好ましい。カルボキシメチルエーテル化剤の添加量が、0.8モルより小さいと、エーテル化度が0.7以上のCMIを得ることができない傾向がある。一方、カルボキシメチルエーテル化剤の添加量が、2.0モルより大きいと、エーテル化度が1.5以下のCMIを得ることができない傾向がある。
【0019】
また、本発明は、前記懸濁安定剤を含む消化管造影製剤にも関する。消化管造影製剤は、前記懸濁安定剤および造影剤を水などの溶媒中に分散させてなるものである。
【0020】
懸濁安定剤の配合量は、消化管造影製剤中に0.2〜10重量%が好ましく、1.0〜5.0重量%がより好ましい。懸濁安定剤の配合量が、0.2重量%より小さいと、分散効果が得にくい傾向がある。一方、懸濁安定剤の配合量が、10重量%より大きいと、特に支障はないが、いたずらに多く使用することになる傾向がある。
【0021】
造影剤は、とくに限定されないが、具体的には、硫酸バリウム、オキシ炭酸ビスマスなどが挙げられる。造影剤の配合量は、消化管造影製剤中に5〜70重量%が好ましい。造影剤の配合量が5重量%より小さいと、造影が充分にできない傾向がある。一方、造影剤の配合量が70重量%より大きいと、消化管細部への浸透が充分にできない傾向がある。
【0022】
本発明の造影製剤には、前記成分のほかに、さらに矯味矯臭剤、色素、甘味料、発泡剤、薬効成分などを添加することができる。
【0023】
本発明の造影製剤は懸濁安定剤としてCMI金属塩を含むが、さらに、CMI金属塩以外の懸濁安定剤を併用してもよい。具体的には、CMC−Na、キサンタンガム、ポリビニルピロリドン(PVP)などが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
製造例1および2
<CMI−Naの製造>
水:イソプロピルアルコール(以下、IPAという)を20:80の重量比で混合した含水有機溶媒1500gに、水酸化ナトリウムを表1に記載の量を添加して溶解させ、得られたアルカリ溶液を5リットル二軸ニーダー型反応機に仕込んだ。ニーダーを撹拌しながら、イヌリン(センサス(SENSUS)製、Frutafit HD)500g(重量平均分子量:5400、重合度:30)を添加し、30℃で60分間撹拌しアルカリ反応を行った。
【0026】
さらに、モノクロロ酢酸を表1に記載の量の含水有機溶媒(水:IPA=20:80)に溶解し、25℃に温度調整したのち10分間かけて添加した。続いて78℃にて150分間エーテル化反応を行った。反応終了後、50℃まで冷却し、50重量%酢酸水溶液で中和した。
【0027】
得られたCMI−Naを80℃〜105℃で60〜120分加熱し、固形分濃度を40〜70%とした。さらに、このペースト状反応物を20倍のメタノール中に流しこみ、30分間600rpmで撹拌させた後、静置させ上澄みのメタノールを取り除いて200rpm/10分間遠心分離にかけた。この粗CMI−Naに20倍のメタノールを加えて同様の操作を実施2回繰り返した後、粗CMI−Naを減圧乾燥し粉砕して180μmパスのCMI−Naの粉末を得た。
【0028】
得られたCMI−Naの水分値、10%水溶液粘度およびエーテル化度は、以下のように測定した。
【0029】
<CMC−Naの分析方法>
(1)水分値
試料1〜2gを秤量瓶に精秤し、105±0.2℃の乾燥機中において2時間乾燥し、乾燥による減量から水分値を次式により求めた。
【0030】
【数1】

【0031】
(2)10%水溶液粘度
300mlトールビーカーに約28gの試料を精秤し、次式により求めた10%水溶液を得るために必要な溶解水量の水を加えてガラス棒にて分散した。なお、水分は前記(1)の水分値を利用した。
【0032】
【数2】

【0033】
前記水溶液を一昼夜放置後、マグネチックスターラーで約5分間撹拌させ完全な溶液としたのち、30分間25℃恒温水槽に入れ、溶液を25℃にした。その後、ガラス棒で穏やかにかき混ぜ、BM型粘度計の適当なローターおよびガードを取り付け、回転数60rpmで3分後の目盛りを読み取った。
粘度(mPa・s)=読み取り目盛り×係数
【0034】
(3)エーテル化度
CMI−Na約1gを精秤し、ろ紙に包んで磁性ルツボの中に入れ、60℃で灰化した。生成した水酸化ナトリウムを0.1Nの硫酸によりフェノールフタレインを指示薬として滴定し、中和滴定に要した硫酸量A(ml)と0.1Nの硫酸の力価f3を用いてエーテル化度を計算した。
【0035】
【数3】

【0036】
各物性の測定結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1
水144mlに前記製造例1で調製したCMI−Na4.8gを溶解した後、硫酸バリウム240gを加え、ホモミキサーで8000rpm、2分間攪拌、分散させ、消化管造影製剤(以下、原ゾルという)を得た。
【0039】
実施例2
製造例2で得られたCMI−Naを代えた以外は、実施例1と同様の調製により、消化管造影製剤を得た。
【0040】
実施例3
製造例1で得られたCMI−Naの配合量を9.6gに代えた以外は、実施例1と同様の方法により、消化管造影製剤を得た。
【0041】
実施例4
製造例2で得られたCMI−Naの配合量を9.6gに代えた以外は、実施例2と同様の方法により、消化管造影製剤を得た。
【0042】
比較例1
懸濁安定剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様の方法により消化管造影製剤を得た。
【0043】
比較例2〜4
表2に示すエーテル化度および10%粘度を示すCMCとして、CMC(A)(セロゲン5A、第一工業製薬株式会社製、(比較例2))、CMC(B)(ファインガムHE−Li、第一工業製薬株式会社製、(比較例3))およびCMC(C)(セロゲンF−8A、第一工業製薬株式会社製、(比較例4))を懸濁安定剤として用いた以外は、実施例1と同様の方法により消化管造影製剤を得た。
【0044】
実施例1〜4および比較例1〜4の消化管造影製剤について、以下の方法により各物性を測定した。
【0045】
(1)水中および人工胃液中における消化管造影製剤の粘度変化
以下の調製方法により水中および人工胃液中に消化管造影製剤を分散させ、懸濁液を調製した。
a:原ゾル100mlに対して水13m1を加えてよく撹拌した。
b:原ゾル100mlに対して人工胃液(塩酸15m1を蒸留水で1000mlに希釈)13mlを加えてよく撹拌した。
c:原ゾル100mlに対して人工胃液(塩酸25m1を蒸留水で1000m1に希釈)13mlを加えてよく撹拌した。
【0046】
各懸濁液200mlをトールビーカーに採り、25℃の恒温槽中に30分放置後、B型粘度計(東京計器製)ローターは2号および3号、回転数60rpmで3分間回転させて測定した。
【0047】
(2)安定性
液粘度測定後の試料を100mlメスシリンダーに入れて静置し、10日後の上澄み液の容量を測定した。
【0048】
各物性の測定結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例1〜4より、製造例1および2で得られたCMI−Naを懸濁安定剤として用いた場合、水中における造影剤の粘度(a)および人工胃液を用いた酸性条件下での場合の粘度(b)を比較すると粘度があまり変化することなく安定であった。また、10日後の上澄み液の容量が少ないことから、硫酸バリウムが溶媒中に安定に分散され、経時的に変化しないことが分かる。これらのCMI−Naの粘度および分散安定性は、低粘度スラリーが保持できていることによるものと考えられる。
【0051】
一方、比較例1は、懸濁安定剤を配合していないため、造影剤は溶媒中で固化し、また、10日間静置すると溶媒と硫酸バリウムが分離することが分かった。
【0052】
また、比較例2〜4より、懸濁安定剤としてCMI−Naの代わりにCMC(A)〜(C)を用いた場合、水中における造影剤の粘度(a)および人工胃液を用いた場合の粘度(b)を比較すると、実施例1〜4よりも粘度が大きく変化した。特に、塩酸の濃度の高い条件(c)においては、より顕著に粘度が増加した。また、10日後の上澄み液の量もいずれにおいても実施例1〜4と比較すると多いものとなり、分散安定性が劣るという結果となった。さらに、比較例4のように10%水溶液粘度が780mPa・sという高い粘度のCMCを用いた場合、10日間懸濁液を静置すると懸濁液がゼリー状となることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル化度が0.7〜1.5、および無水物の10%水溶液粘度が5〜20mPa・sであるカルボキシメチルイヌリン金属塩を含む消化管造影剤用懸濁安定剤。
【請求項2】
請求項1記載の懸濁安定剤を含む消化管造影製剤。
【請求項3】
懸濁安定剤の配合量が、消化管造影製剤中に0.2〜10重量%である請求項2記載の消化管造影製剤。

【公開番号】特開2007−320928(P2007−320928A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154603(P2006−154603)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】