説明

消泡剤、及び消泡剤の製造方法

【課題】油相の凝集が抑制されて消泡効果に優れる消泡剤、及びそのような消泡剤を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る消泡剤は、高級アルコールと、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムと、多価アルコールとが配合され、O/Wエマルション構造を有する。また、本発明に係る消泡剤の製造方法は、高級アルコールとマイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムとを含む液状の油剤を、多価アルコールの存在下で、水へと乳化させてO/Wエマルションを生成する乳化工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級アルコールを含む消泡剤、及び消泡剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワックス系消泡剤は、高級アルコール、炭化水素、脂肪酸エステル等の常温で固体又は液体の有効成分を含むO/Wエマルション型である(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、ワックス系消泡剤に対する性能向上の要請は更に高まっており、従来のワックス系消泡剤の改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−276805号公報
【特許文献2】特開2000−288308号公報
【特許文献3】特開2000−300909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、消泡剤による消泡効果は、有効成分自体の性能と、分散した油相の粒子径とによって主に決定される。このため、消泡剤による消泡効果の改善には、有効成分の性能を向上させつつ、分散した油相の粒子径を最適化する必要があるが、油相は容易に凝集しやすく、これらを両立することは困難であった。
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、油相の凝集が抑制されて消泡効果に優れる消泡剤、及びそのような消泡剤を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムを配合することで有効成分による消泡能力が向上し、それに伴う油相の凝集は、多価アルコールを併用することで抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 高級アルコールと、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムと、多価アルコールとが配合され、O/Wエマルション構造を有する消泡剤。
【0008】
(2) 高級アルコールとマイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムとを含む液状の油剤を、多価アルコールの存在下で、水へと乳化させてO/Wエマルションを生成する乳化工程を有する消泡剤の製造方法。
【0009】
(3) 前記乳化工程の後に、
前記乳化工程より穏やかな撹拌を行い、又は撹拌を行わず、前記O/Wエマルションを常温よりも高い所定温度まで冷却する第1冷却工程と、
その後、第1冷却工程より激しい撹拌を行いながら、前記O/Wエマルションを常温へと冷却する第2冷却工程と、を更に有する(2)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムを配合することで有効成分による消泡能力が向上し、それに伴う油相の凝集は、多価アルコールを併用することで抑制される。これにより、油相の凝集が抑制されて消泡効果に優れる消泡剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明するが、これらが本発明を限定するものではない。
【0012】
本発明に係る消泡剤は、高級アルコールと、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムと、多価アルコールとが配合され、O/Wエマルション構造を有する。マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムが有効成分による消泡能力を向上し、それに伴う油相の凝集は多価アルコールが抑制する。これにより、油相の凝集が抑制されて消泡効果に優れる消泡剤を製造することができる。
【0013】
高級アルコールは、従来、消泡剤において使用されている高級アルコールであってよく、例えば12〜30個、好ましくは18〜30の炭素原子を有する天然アルコールおよび/または合成アルコールの1種以上であってよい。天然アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、エイコサノール、ドコサノール、テトラコサノール、ヘキサコサノール、オクタコサノール、ミリシルアルコール等の飽和アルコール、オレイルアルコール等の不飽和アルコールが挙げられる。合成アルコールとしては、チーグラー法で合成された直鎖で非分岐状の飽和アルコール、オキソ法で合成された直鎖第1級アルコールあるいは分岐第1級アルコール、またはこれらの炭素数の異なるアルコール混合物、パラフィンを空気酸化して得られる直鎖第2級アルコール等が挙げられる。高級アルコールの配合量も特に限定されず、消泡剤中の固形成分に対し30〜90質量%程度であってよい。
【0014】
マイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムは、その一方のみ、あるいは組み合わせて配合されてよい。マイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムは、パラフィンワックスとともに石油ワックスに属し、本発明ではJISに準拠して石油ワックスを次のように分類する。
パラフィンワックスは、減圧蒸留流出油から分離精製され、常温において固形(融点約50〜70℃)のワックスであり、直鎖状炭化水素を主体とする飽和炭化水素で構成され、油分の含有量が少ない(1%以下)。
マイクロクリスタリンワックスは、減圧蒸留残渣油または重質流出油より分離精製され、常温において固形のワックスであり、パラフィンワックスより高沸点(融点は約60〜90℃)であり、油分含有量が2〜5%である。
ペトロラタムは、減圧蒸留残渣より分離精製され、常温において半固形のワックスであり、マイクロクリスタリンワックスよりも油分が10%程度多い。
【0015】
マイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムは、いずれも、微結晶性のワックスで、かつ多価不飽和を有する炭化水素であるため、パラフィンワックス等の一般的なワックスより親水性が高く、消泡剤粒子の泡膜への侵入を容易にするという作用を呈する。このため、有効成分による消泡能力を向上することができる。マイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムの配合量は、特に限定されないが、合量で消泡剤中の固形成分に対し5〜50質量%であってよい。なお、パラフィンワックスは、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムが含まれる限りにおいて、含まれても、含まれていなくてもよい。
【0016】
多価アルコールは、1分子中に2つ以上の水酸基(−OH)を有する化合物である。特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の低分子量ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の低分子量ポリプロピレングリコール、その他グリコール類、グリセリン及びその多量体、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等のアルキレンポリオール等が挙げられる。多価アルコールの分子量も特に限定されず、例えば500以下であってよい。
【0017】
多価アルコールの配合量は、特に限定されないが、消泡剤に対し0.5質量%以上10質量%以下であってよい。また、多価アルコールはマイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムによる油相の凝集を抑制する作用を有することから、多価アルコールの配合量はマイクロクリスタリンワックス及びペトロラタムとの相対量で規定されてもよい。つまり、多価アルコールの配合量がマイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムの合量に対し過小であると、油相の凝集抑制が十分に得られにくく、過大であっても、油相の凝集抑制が飽和し、経済的でない。そこで、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムの合量100質量部に対する多価アルコールの配合量の下限は10質量部であることが好ましく、より好ましくは50質量部であり、上限は200質量部であることが好ましく、より好ましくは100質量部である。
【0018】
本発明に係る消泡剤は、必要に応じて、炭化水素、脂肪酸エステル、脂肪族ケトン、脂肪族エーテル等の常温で固体又は液体の有効成分を更に含んでもよい。
【0019】
炭化水素は、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、パラフィンワックス等であってよく、例えば白油(Weissoel)と呼ばれる市販のパラフィン混合物であってよい。
【0020】
脂肪酸エステルは、炭素数1〜30の1〜6価アルコールと炭素数12〜30のカルボン酸との脂肪酸エステルであってよい。エステルに用いられる脂肪酸は、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸及びベヘニン酸等であってよく、好ましくはパルミチン酸、オレイン酸又はステアリン酸である。カルボン酸をエステル化するための炭素数1〜30の1価のアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール等、及び高級アルコールが挙げられる。2価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、トリメチレングリコール、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン等が挙げられる。3価アルコールとしては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ブタントリオール、ペンタントリオール等が挙げられる。4価アルコールとしては、例えばペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、マンニタン等が挙げられる。5価アルコールとしてはアラビット等が挙げられ、6価アルコールとしてはテトラグリセリン、ソルビット、マンニット等が挙げられる。また、脂肪酸エステルは、牛脂、豚油、イワシ油、鯨油などの動物油脂、大豆油、トウモロコシ油、ヤシ油、アマニ油、ナタネ油、綿実油、ヒマシ油、キリ油などの植物油脂等の天然油脂、これらに水素添加して硬化処理を施した硬化油であってもよい。
【0021】
脂肪族ケトンは、16−ヘントリアコンタノン(パルミトン)、18−ペンタトリアコンタノン(ステアロン)、20−ノナトリアコンタノン(アラキノン)、及び22−トリアテトラコンタノン(ベヘノン)等の高級脂肪酸ケトンであってよい。
【0022】
脂肪族エーテルは、チーグラー合成する際に副生する炭素数20〜40のアルキルエーテルであってよい。
【0023】
本発明に係る消泡剤は、貯蔵時の製品分離および増粘を防止するために、水溶性高分子を更に含んでもよい。水溶性高分子としては、セルロース、プルラン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム、グアーガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ウェランガム、ラムザンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、アガロース、グリコーゲン、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリルアミドおよびアクリル酸の共重合物、アクリルアミド及びメタクリル酸の共重合物、メタクリルアミドおよびアクリルアミドの共重合物、メタクリルアミド及びメタクリル酸の共重合物等が挙げられる。
【0024】
その他、本発明に係る消泡剤は、更に、防腐剤、防かび剤、殺菌剤、防錆剤、皮張り防止剤等を含んでもよい。これらはいずれも従来周知である(例えば特開2000−300909号公報参照)ため、その詳細は省略する。
【0025】
本発明に係る消泡剤は、以上の成分を含む油相が、水相中に乳化されて分散されたものである。油相と水相との混合比率は、O/Wエマルション構造が得られる限りにおいて特に限定されず、一般的には油相の量が消泡剤に対し50質量%以下であればよい。
【0026】
本発明に係る消泡剤は、高級アルコールとマイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムとを含む液状の油剤を、多価アルコールの存在下で、水へと乳化させてO/Wエマルションを生成する乳化工程を有する。これにより、乳化後の冷却過程における油相の凝集が抑制され、消泡効果に優れる消泡剤を得ることができる。
【0027】
乳化工程において、多価アルコールは、油相の凝集をより十分に抑制する観点で、高級アルコールとマイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタム等の油剤と混合した後に水へ添加することが好ましいが、油剤とは別に水へと添加されてもよい。
【0028】
前述のように、多価アルコールの配合量は、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムの合量100質量部に対し、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、油剤には他の成分を任意に含めてよい。
【0029】
乳化工程では、油剤を水へと分散させるため、油剤が流動性を有するよう、油剤に含まれる成分の融点以上の温度(特に限定されないが、90℃以上)へと加熱し、油剤及び水を撹拌する。その操作や設備自体は従来周知である(特開平11−276805号公報参照)ため、詳細は省略する。
【0030】
乳化工程の後には、O/Wエマルションを常温へと冷却する工程を伴う。この工程は、乳化工程より穏やかな撹拌を行い、又は撹拌を行わず、O/Wエマルションを常温よりも高い所定温度まで冷却する第1冷却工程と、その後、第1冷却工程より激しい撹拌を行いながら、O/Wエマルションを常温へと冷却する第2冷却工程と、有することが好ましい。これにより、冷却過程における油相の凝集をより十分に抑制することができる。
【0031】
所定温度は、油剤の組成、水との混合比率等に応じて、消泡剤の粒子表面が固化する温度となるよう適宜決定されてよく、一般的には30℃以上60℃以下であってよい。なお、撹拌が穏やか又は激しいとは、せん断力の大小(例えば、乳化工程、第1冷却工程、第2冷却工程が同じ設備で行われる場合、撹拌部材の回転速度の大小)によって決定される。
【0032】
ただし、冷却工程では、従来周知のように、O/Wエマルションの撹拌を続けながら常温へと冷却してもよい。
【0033】
このようにして得られる消泡剤は、例えば、紙パルプ工業、食品工業、繊維工業、建材用ボード製造、塗料工業、化学工業等での加工工程及び排水処理工程において幅広く使用でき、特に抄紙工程や活性汚泥等の排水処理工程において有用である。
【実施例】
【0034】
<実施例1〜4、比較例1〜4>
表1に示す成分をジャケット式ビーカー内に供給し、循環式恒温水s槽「Ecoline」(LAUDA社製)に90℃の温水を通水することで加熱し、溶融させた。撹拌機「トオルネード(スタンダードタイプ)」(アズワン社製)を2000rpmで回転させ、溶融した油剤へと温水を撹拌しながら添加することで、油剤を水へと乳化させてO/Wエマルションを生成した。その後、撹拌を続けながら、O/Wエマルションに対し、アクリル酸系ポリマー「アクアリックDL40S」(日本触媒社製)を0.1質量%添加した。
【0035】
撹拌を停止し、循環式恒温水槽へと通水する水を冷水に切換え、O/Wエマルションを60℃程度にまで冷却させた。その後、再び撹拌を開始し(回転速度500rpm)、撹拌しながらO/Wエマルションを常温(30℃以下)へと冷却することで、消泡剤を得た。
【0036】
[評価]
得られた各々の消泡剤を4mg/Lの量で添加した新聞用紙の抄紙白水500mLを、内径70mm、容量1Lの目盛付きガラス製円筒容器に供給し、循環ポンプにより1000mL/分の流量で循環させ、円筒容器内の抄紙白水の水面上50cmの高さから、水面へと落下させた。温度を45℃に維持し、循環開始5分後において、円筒容器内の抄紙白水の水面上に生じた泡の厚みを、目盛りに基づき読み取った。この結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

表中の成分:
マイクロクリスタリンワックス Hi−mic−1090(日本精蝋社製)
高級アルコール NAFOL20+(サソールジャパン社製)
炭化水素 パラフィンワックス155(日本精蝋社製)
脂肪酸エステル ヒマシ硬化油(伊藤製油社製)
多価アルコール プロピレングリコール試薬1級(キシダ化学社製)
【0038】
表1に示されるように、実施例1〜4は、比較例1〜4に比べ発泡量が小さく、消泡効果に優れることが分かった。また、実施例1及び2より、優れる消泡効果を得るためには、マイクロクリスタリンワックス、高級アルコール及び多価アルコールが必須である一方、炭化水素及び脂肪酸エステルは必ずしも必要でないことも確認された。
【0039】
<実施例5〜13、比較例5〜13>
多価アルコールの種類を表2に示すものにした点を除き、実施例1と同様の手順で消泡剤を得た。得た消泡剤について、100メッシュの金網でろ過し、ろ過残渣の量を測定することで、油相の凝集の有無を確認した。この結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2において、実施例5〜13における凝集無しは残渣の量が油剤の配合量に対し0.1%未満であり、比較例5〜13における凝集有りは残渣の量が油剤の配合量に対し5%以上であった。これにより、マイクロクリスタリンワックス及び高級アルコールとともに、あらゆる多価アルコールを併用して、油相の凝集を抑制できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高級アルコールと、マイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムと、多価アルコールとが配合され、O/Wエマルション構造を有する消泡剤。
【請求項2】
高級アルコールとマイクロクリスタリンワックス及び/又はペトロラタムとを含む液状の油剤を、多価アルコールの存在下で、水へと乳化させてO/Wエマルションを生成する乳化工程を有する消泡剤の製造方法。
【請求項3】
前記乳化工程の後に、
前記乳化工程より穏やかな撹拌を行い、又は撹拌を行わず、前記O/Wエマルションを常温よりも高い所定温度まで冷却する第1冷却工程と、
その後、第1冷却工程より激しい撹拌を行いながら、前記O/Wエマルションを常温へと冷却する第2冷却工程と、を更に有する請求項2記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−143700(P2012−143700A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3431(P2011−3431)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】