説明

消泡剤組成物及びその製造方法と、その消泡剤組成物の適用方法

【課題】製品安定性が良好であり、かつ、特に懸濁物質が多く存在する発泡性の水系水に対して、十分な破泡性能と抑泡性能を共に発揮することができる消泡剤組成物及びその製造方法と、その消泡剤組成物の適用方法を提供する。
【解決手段】水素化精製された石油留分、疎水性シリカ、及び炭化水素系ワックスを含有する消泡剤組成物であって、炭化水素系ワックスによって被覆された疎水性シリカ粒子が水素化精製された石油留分中に分散していることを特徴とする消泡剤組成物及びその製造方法と、その消泡剤組成物の適用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品安定性が良好であり、かつ、懸濁物質が多く存在する発泡性の水系水に適用する消泡剤組成物及びその製造方法と、その消泡剤組成物の適用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、消泡剤の性能は発泡を抑制する抑泡性能と発生した泡を速やかに消す破泡性能に区別されるが、紙パルプ製造工場のクラフトパルプ製造工程水や脱墨パルプ製造工程水、金属塗装工程循環水、プラスチック塗装工程循環水、及び排水処理工程水などの懸濁物質が多く存在する水系水では泡が発生し易く、一旦発生した泡は消え難い場合が多く、そのため、当該工程の操業が不安定になり、その生産性や生産品品質の低下を招いている。
【0003】
そのため、従来から、これらの工程の水系水の破泡あるいは抑泡を目的として鉱物油系消泡剤、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤などの種々の消泡剤が用いられており、鉱物油系消泡剤の有効成分としては、炭化水素油、アミド化合物、疎水性シリカ、脂肪酸エステル、植物油、シリコーンオイルなどの他、特許文献1にはポリオキシアルキレン化合物が開示されている。この他、消泡効果を高める助剤として、脂肪酸アミドの有効性を高めることを目的とした、酢酸ビニル−脂肪酸エステル共重合体、酢酸ビニル−オレフィン共重合体、シリコーン界面活性剤(特許文献2)や、α−オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分エステル化物を脂肪酸アミド溶液調製時に適用する(特許文献3)ことや、各種有効成分の凝集防止や拡張性効果付与を目的とした脂肪酸グリセライド、フッ素系界面活性剤の消泡剤への添加(特許文献4)が提案されている。しかしながら、これら従来の消泡剤では、上記工程の操業安定性および生産品品質の点で十分満足できるまでには至っていなかった。
【0004】
その原因は、炭化水素油、アミド化合物、疎水性シリカ、脂肪酸エステルなど消泡成分が疎水性化合物であるため懸濁物質に吸着し易く、消泡成分が有効な形で発泡水系内に存在し得なくなるためであると考えられている。特に消泡成分として効果の高い疎水性シリカは、この現象が顕著であり、破泡性能は高いものの抑泡性能は低いといった不具合が生じている。また、疎水性シリカ粒子は自己凝集しやすく、その為、組成物中での凝集による製品安定性などの問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−276806号公報
【特許文献2】特開昭55−70308号公報
【特許文献3】特開平10−216407号公報
【特許文献4】特開昭51−80692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、組成物中の疎水性シリカの自己凝集を防止し、適用時には、特に懸濁物質が多く存在する発泡性の水系水に疎水性シリカを有効な形で存在させ、十分な破泡性能と抑泡性能を共に発揮することができる消泡剤組成物及びその製造方法と、その消泡剤組成物の適用方法を見出すことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、疎水性シリカの外側に形成されているアルキルポリシロキサンの皮膜に着目し、極性があるアルキルポリシロキサン皮膜が凝集や懸濁物質への吸着を促進しているのではないかと考えた。そこで、疎水性シリカを非極性の炭化水素系ワックスにて被覆し、自己凝集を防止すると共に、懸濁物質への吸着を防止することを企てた。
【0008】
その方法として、溶媒として水素化精製された石油留分を用い、疎水性シリカ及び非極性の炭化水素系ワックスを混合し加熱溶解後、冷却することによって結晶化させ、炭化水素系ワックスによって被覆された疎水性シリカ粒子が水素化精製された石油留分中に分散する状態の組成物を調製したところ、その組成物は、製品としての安定性が増し、かつ、懸濁物質が多く存在し、泡が発生し易く一旦発生した泡は消え難い水系水に対しても、破泡性能のみならず、抑泡性能においても十分な効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る発明は、水素化精製された石油留分、疎水性シリカ、及び炭化水素系ワックスを含有する消泡剤組成物であって、炭化水素系ワックスによって被覆された疎水性シリカ粒子が水素化精製された石油留分中に分散していることを特徴とする、懸濁物質が存在する水系に適用する消泡剤組成物である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記水素化精製された石油留分が、ナフテン油、及び/又はパラフィン油である請求項1記載の消泡剤組成物である。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記水素化精製された石油留分の割合が、全溶剤中25〜100重量%である請求項1又は請求項2に記載の消泡剤組成物である。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記炭化水素系ワックスが、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、及びポリエチレンワックスから選ばれる1種以上である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の消泡剤組成物である。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記炭化水素系ワックスの融点が45〜120℃である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の消泡剤組成物である。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記炭化水素系ワックスを、消泡剤組成物全量に対して0.5〜15重量%含有する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の消泡剤組成物である。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記消泡剤組成物の製造において、前記水素化精製された石油留分、前記疎水性シリカ及び前記炭化水素系ワックスを混合加熱溶解後、冷却する段階で疎水性シリカが析出し、次いで炭化水素系ワックスが消泡剤組成物中に析出することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の消泡剤組成物の製造方法である。
【0016】
請求項8に係る発明は、懸濁物質の含有量が100mg/L以上である水系水に、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の消泡剤組成物を適用する、消泡剤組成物の適用方法である。
【0017】
請求項9に係る発明は、前記懸濁物質の含有量が100mg/L以上である水系が、紙パルプ製造工程水系、金属塗装工程循環水系、プラスチック塗装工程循環水系、及び排水処理工程における活性汚泥水系から選ばれる1種である、請求項8記載の消泡剤組成物の適用方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明による消泡剤組成物を用いることにより、懸濁物質が多く存在する水系水を工程水とする各種製造工程において、操業安定性の向上や製品品質の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の消泡剤組成物の、消泡効果の評価を行う装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、水素化精製された石油留分、疎水性シリカ、及び炭化水素系ワックスを含有する消泡剤組成物であって、その消泡剤組成物の製造方法の特徴は、水素化精製された石油留分中で、疎水性シリカ及び炭化水素系ワックスを混合加熱溶解後、冷却により結晶化する際に疎水性シリカの周りを非極性の炭化水素系ワックスで被覆することにより、組成物中での疎水性シリカの凝集を抑制して製品としての安定性を増すと共に、懸濁物質が多く存在する発泡水系内へ添加した際に、疎水性シリカが懸濁物質に吸着することを防止できる形態の粒子を形成できることである。このようにして製造された消泡剤組成物は、特に懸濁物質の含有量が100mg/L以上である発泡性の水系水に対して用いることによって、従来技術からは予想もできない驚くべき破泡効果と抑泡効果を得ることができる。
【0021】
本発明の消泡剤組成物に用いる水素化精製された石油留分は、同時に配合される疎水性シリカを溶解する溶媒として作用し、例えば、芳香族含有量が1%以下の留分である水素化精製されたナフテン油や流動パラフィンなどが挙げられる。
【0022】
この水素化精製された石油留分は、単独で使用してもよいが、疎水性シリカおよび石油ワックスの析出温度をコントロールすることを目的として、任意の割合で、2種類以上の水素化石油留分を混合することや、水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材を混合することができる。ただし、水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材を混合すると、疎水性シリカの溶解度が低下するため、水素化精製された石油留分は、全溶剤重量の25%以上であることが好ましい。ここで、全溶剤重量とは、水素化精製された石油留分と水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材の合計重量を指す。
【0023】
本発明の消泡剤組成物に用いる疎水性シリカとは、親水性シリカを疎水化剤にて処理した酸化ケイ素微粒子のことである。
【0024】
前記の親水性シリカは、疎水化処理されていない酸化ケイ素微粒子のことであり、湿式法(たとえば沈降法、ゲル法)シリカ、乾式法(たとえば燃焼法、アーク法)シリカなど、いずれの方法で製造されたものでもかまわない。
【0025】
また、疎水化剤としては、ポリシロキサン、ジメチルジクロロシランがあり、ポリシロキサンの例としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルといったストレートシリコーンオイル、ジメチルシリコーンオイルの側鎖、末端に有機基(たとえばカルビノール基、ヒドロキシル基、ポリエーテル基など)を導入した変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0026】
親水性シリカを疎水化剤で処理する疎水化の方法としては、公知の方法(たとえば、特公昭42−26179号公報)によって達成でき、親水性シリカ懸濁液に疎水化剤を加えて乾燥する湿式処理、乾燥親水性シリカに疎水化剤を加えて加熱する乾式処理のいずれの方法でもかまわない。
【0027】
本発明の消泡剤組成物に用いる疎水性シリカが具備すべき要件は、消泡剤組成物の製造過程の加熱溶解後の冷却段階において、少なくとも液温が40℃を下回った場合に液中に結晶化し析出することである。この析出温度は、疎水性シリカの、溶媒である水素化精製された石油留分に対する溶解度に依存し、石油留分の種類と組み合わせによって、40℃以上の任意の温度に設定できるが、同時に配合される炭化水素系ワックスの融点よりも高く設定する必要がある。
【0028】
このように、本発明の消泡剤組成物中の疎水性シリカの含有量は、同時に配合される溶媒に対する溶解度に依存するが、その含有量が多い場合は常温での粘度が上昇し取り扱いが不便であること、また、含有量が少ない場合は単位容量あたりの効果が低くなることから、該消泡剤組成物中の疎水性シリカの含有量は、一般的に1〜20重量%であることが好ましい。
【0029】
本発明の消泡剤組成物に用いる炭化水素系ワックスとは、飽和炭化水素を主成分とした常温で固体の物質であり、天然ワックス、合成ワックスのいずれでもよく、たとえば天然ワックスであればパラフィンワックス、マイクロスタリンワックス、合成ワックスであればフィッシャートロプッシュワックス、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
【0030】
本発明の消泡剤組成物に用いる炭化水素系ワックスの融点は、同時に配合される疎水性シリカの析出温度よりも低いことが必要である。一方、その融点は、本発明の消泡剤組成物を適用する発泡性の水系水の水温よりも高いことが好ましい。炭化水素系ワックスの融点をこの範囲に設定することにより、適用する水系水中において炭化水素系ワックスは固体であり、そのため、炭化水素系ワックスで被覆された疎水性シリカが、適用する発泡性の水系水中に存在する懸濁物質に吸着されないため、十分な消泡効果が発揮される。ただし、消泡剤組成物の製造時の熱源を考慮するとあまり高融点のワックスは生産効率の点から不利であり、融点40〜300℃のワックスが好ましく、45〜120℃のワックスが更に好ましい。
【0031】
また、疎水性シリカに対する炭化水素系ワックスの配合量比は、対象となる水系水への効果に応じ、必要量を任意に設定することができるが、炭化水素系ワックスの配合量が多くなると本発明の消泡剤組成物の粘度が上がる傾向にあることから、本発明により得られる消泡剤組成物全量に対して0.5〜15重量%の含有量であることが好ましい。
【0032】
本発明の消泡剤組成物の製造方法は、複数の方法から選択できるが、水素化精製された石油留分中に、疎水性シリカ及び炭化水素系ワックスを混合し加熱溶解後、冷却する手順が共通している。この手順によれば、溶解した疎水性シリカと炭化水素系ワックスを除々に析出せしめ、先に析出する疎水性シリカを後から析出する炭化水素系ワックスで被覆することにより、自己凝集しにくく、かつ、特に懸濁物質が多く存在する水系水に対して、優れた破泡効果と抑泡効果を有する粒子を形成することができる。
【0033】
本発明の消泡剤組成物の製造方法の例としては、水素化精製された石油留分中に疎水性シリカおよび炭化水素系ワックスを投入し、撹拌しながら疎水性シリカおよび炭化水素系ワックスの溶解する温度まで昇温して各成分を十分に混合した後、除々に冷却する方法が挙げられる。また、本発明で使用する水素化精製された石油留分中で親水性シリカを疎水化剤で疎水化(湿式処理)した後、炭化水素系ワックスを投入し、前記と同様の操作を行って消泡剤組成物を調製することもできる。更には、水素化精製された石油留分、炭化水素系ワックス、親水性シリカ、疎水化剤の混合液を調製後、親水性シリカを疎水化(湿式処理)し、その後、前記と同様の操作を行って消泡剤組成物を調製することもできる。
【0034】
本発明の消泡剤組成物の製造方法において、投入された各成分を均一に混合する装置としては、均一混合できる装置であれば制限無く、プロペラ型撹拌機、ラインミキサー、ホモミキサー、ニーダー、超音波分散機などが使用でき、これらの装置は任意に組み合わせることができる。また、前記の炭化水素系ワックスで被覆された疎水性シリカの粒径をコントロールするため、被覆後に、ホモミキサーなどを用い機械的に微細化することが更に好ましい。
【0035】
本発明の消泡剤組成物の製造において得られる、炭化水素系ワックスで被覆された疎水性シリカの粒径が大きすぎると、被覆された疎水性シリカ粒子の沈降速度が速いため、製造された消泡剤組成物において相分離が起こり、逆に小さすぎるとエネルギーコストが掛かる上、同じく消泡剤組成物の長期安定性が悪くなる。このため、微細化した粒子の粒径は1〜100μmにすることが好ましい。
【0036】
本発明の消泡剤組成物には、本発明の効果を減じない範囲で、必要に応じ、炭化水素油、アミド化合物、疎水性シリカ、親水性シリカ、脂肪酸エステル、植物油、シリコーンオイル、ポリオキシアルキレン化合物、フッ素系界面活性剤等、公知の消泡成分、及びその他の助剤成分を加えることができる。
【0037】
本発明の消泡剤組成物は、懸濁物質が存在する、あらゆる発泡性の水系水に適用できるが、特に懸濁物質の含有量が100mg/L以上の懸濁物質が多く存在する水系水に用いることによって、従来技術からは予想もできない驚くべき破泡効果と抑泡効果を得ることができる。このような水系水は、紙パルプ製造工場のクラフトパルプ製造工程水系や脱墨パルプ製造工程水系、金属塗装工程循環水系、プラスチック塗装工程循環水系、排水処理工程水系などの水系に多く存在する。
【0038】
本発明における懸濁物質は、対象水系水の中に分散している、固形物で粒経が2mm以下のものやコロイド粒子を指し、水に不溶な液状有機物が微細粒子となって存在しているものも含む。
【0039】
本発明における消泡剤組成物は、懸濁物質が存在する、あらゆる発泡性の水系水に適用できるが、特に懸濁物質の含有量が100mg/L以上の懸濁物質が多く存在する水系水適用する場合に従来技術に対して明確で大きな効果差が示される。一方、懸濁物質が存在しない、あるいは懸濁物質の含有量が1mg/L未満の水系水に適用する場合は、疎水性シリカを吸着する物質がない、もしくは非常に少ないため、従来技術と本発明の消泡剤組成物の効果差はわずかである。
【0040】
本発明の消泡剤組成物の添加方法や添加量は、対象とする発泡性の水系水の種類、及び工程の条件、泡の発生状況に応じて適宜選択すればよいが、たとえば、発泡した工程水に添加する方法、発泡前の工程水に添加する方法、消泡用のシャワー水に添加する方法などがある。
【0041】
また、連続添加、断続添加、または泡測定器と連動した添加のいずれでもよく、一箇所または多点添加のいずれでもよい。添加に際しては、適当な溶剤または水などで希釈してもよく、他のタイプの消泡剤と併用することもできる。希釈する場合は、濃厚液に溶剤または水を加えても、溶剤または水に濃厚液を加えてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0043】
(実施例1〜5)
プロペラ型撹拌機を取り付けたステンレス容器に、ナフテン油(商品名:エクソールD−80 エクソンモービル社製)15部、流動パラフィン(商品名:流動パラフィン350 JX日鉱日石エネルギー社製)85部、疎水性シリカ(商品名:Nipsil SS−10、東ソー・シリカ社製)10部、パラフィンワックス(商品名:Paraffin Wax−140、日本精鑞社製、融点61℃)5部を投入した後、撹拌下で150℃まで昇温し、疎水性シリカとパラフィンワックスを溶解後、15分間同温を維持した。その後、2℃/分の速度で冷却を開始し、40℃まで冷却後、15分間同温を維持した。次に冷却後の試料溶液を、ホモジナイザー(TKホモミキサー プライミクス社製)を用い、40℃、6,000rpmで5分間処理し、実施例1として消泡剤1を得た。
【0044】
同様の方法で、表1に示す配合組成の消泡剤2〜5を、それぞれ実施例2〜5として調製した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1において、溶剤は以下の市販品を用いた。
ナフテン油(商品名:エクソールD−80、エクソンモービル社製)
パラフィン油A(商品名:モレスコホワイトP−40、MORESCO社製)
パラフィン油B(商品名:流動パラフィン350、JX日鉱日石エネルギー社製)
潤滑油基材(商品名:ダフニーオイルKP−68、出光興産社製)(水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材)
【0047】
(実施例6〜10)
プロペラ型撹拌機を取り付けたステンレス容器に、ナフテン油(商品名:エクソールD−80、エクソンモービル社製)50部、水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材(商品名:ダイアナプロセスオイルNR−68、出光興産社製)50部、親水性シリカ(商品名:Nipgel AY−200、東ソー・シリカ社製)8部、疎水化剤であるジメチルシリコーンオイル(商品名:KF−96、信越シリコーン社製)5部、パラフィンワックス(商品名:Paraffin Wax−115、日本精鑞社製、融点48℃)20部を投入した後、撹拌下で200℃まで昇温し、3時間その温度を維持した。その後、2℃/分の速度で冷却を開始し、40℃まで冷却後、15分間同温を維持した。次に冷却後の試料溶液を、ホモジナイザー(TKホモミキサー プライミクス社製)を用い、40℃、6,000rpmで5分間処理し、実施例6として消泡剤6を得た。
【0048】
同様の方法で、表2に示す配合組成の消泡剤7〜10を、それぞれ実施例7〜10として調製した。
【0049】
【表2】

【0050】
表2において、ワックスには以下の市販品を用いた。
・パラフィンワックス(融点48℃)(商品名:Paraffin Wax−115、日本精鑞社製)
・パラフィンワックス(融点61℃)(商品名:Paraffin Wax−140、日本精鑞社製)
・マイクロスタリンワックス(融点88℃)(商品名:Hi−Mic−1090、日本精鑞社製)
・ポリエチレンワックス(融点106℃)(商品名:A−C6、ハネウェル社製)
・フィッシャートロプッシュワックス(融点113℃)(商品名:FNP−0115、日本精鑞社製)
【0051】
(実施例11〜15)
プロペラ型撹拌機を取り付けたステンレス容器に、ナフテン油(商品名:エクソールD−110、エクソンモービル社製)50部、水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材(商品名:ダフニーオイルKP−68、出光興産社製)50部、親水性シリカ(商品名:Nipsil SS−10、東ソー・シリカ社製)5部、疎水化剤であるジメチルシリコーンオイル(SH200−50CS 東レ・ダウコーニング社製)3部を投入した後、撹拌下で200℃まで昇温し、3時間その温度を維持して疎水性シリカ分散液を調製した。この疎水性シリカ分散液108部に、ポリエチレンワックス(商品名:A−C6、ハネウェル社製、融点106℃)5部を投入、撹拌下で150℃まで昇温し、疎水性シリカとパラフィンワックスを溶解後、15分間同温を維持した。その後、2℃/分の速度で冷却を開始し、60℃まで冷却後、15分間同温を維持した。次に冷却後の試料溶液を、ホモジナイザー(TKホモミキサー プライミクス社製)を用い、60℃、6,000rpmで5分間処理し、実施例11として消泡剤11を得た。
【0052】
同様の方法で、表3に示す配合組成の消泡剤12〜15を、それぞれ実施例12〜15として調製した。
【0053】
【表3】

【0054】
表3において、疎水化剤には以下の市販品を用いた。
・ジメチルシリコーン(商品名:KF−96、信越シリコーン社製)
・メチルハイドロジェンシリコーン(商品名:KF−99、信越シリコーン社製
・カルビノール変性ジメチルシリコーン(商品名:KF−6002、信越シリコーン社製)
・ヒドロキシル変性ジメチルシリコーン(商品名:KF−9701、信越シリコーン社製)
・エポキシ変性ジメチルシリコーン(商品名:X−22−9002、信越シリコーン社製)
【0055】
(比較例1〜5)
プロペラ型撹拌機を取り付けたステンレス容器に、水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材(商品名:ダフニーオイルKP−68、出光興産社製)100部、疎水性シリカ(商品名:Nipsil SS−10、東ソー・シリカ社製)10部、パラフィンワックス(商品名:Paraffin Wax−140、日本精鑞社製、融点61℃)5部を投入した後、撹拌下で150℃まで昇温し、15分間同温を維持した。その後、2℃/分の速度で冷却を開始し、40℃まで冷却後、15分間同温を維持した。次に冷却後の試料溶液をホモジナイザー(TKホモミキサー プライミクス社製)を用い、40℃、6,000rpmで5分間処理し、比較例1として消泡剤16を得た。
【0056】
同様の方法で、表4に示す配合組成の消泡剤17〜20を、それぞれ比較例2〜5として調製した。
【0057】
【表4】

【0058】
表4において、各成分は以下の市販品を用いた。
・ナフテン油(商品名:エクソールD−80、エクソンモービル社製)
・潤滑油基材(商品名:ダフニーオイルKP−68、出光興産社製)(水素化精製度の低いパラフィン系潤滑油基材)
・疎水性シリカ(商品名:Nipsil SS−10、東ソー・シリカ社製)
・ワックス(商品名:Paraffin Wax−140、日本精鑞社製)
【0059】
(安定性試験)
(1)試験方法
ワックス配合の有無以外は消泡剤組成が全て同じである実施例2(消泡剤2)と比較例3(消泡剤18)の試料をそれぞれ400ml調製し、500mlガラス瓶に入れ、密栓し室温に静置した。静置1週間後、2週間後、3週間後に目視にて試料の油層分離状況を確認した。配合された疎水性シリカの自己凝集が進行すると、試料の上層に透明な油層が現れる。分離状況確認結果を表5に示した。
【0060】
【表5】

【0061】
評価の基準
○:分離が認められない。
△:わずかな分離が認められる。
×:明確な分離が認められる。
【0062】
(2)結果
疎水性シリカ粒子がワックスで被覆されていない比較例3の試料では、静置3週間後には透明な油層が試料上層に分離していたが、疎水性シリカ粒子がワックスで被覆されている本発明の消泡剤組成物である実施例2の試料では、静置3週間後においても分離は認められず、本発明の消泡剤組成物では、配合された疎水性シリカ粒子の自己凝集の進行が抑制されていることが示された。
【0063】
(消泡効果試験)
(1)試験溶液
消泡効果試験に用いる試験溶液は、水道水にアニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、商品名:ビューライトNA−25S、三洋化成工業製)を500mg/L、軽質炭酸カルシウム粒状粉末(キシダ化学社製 特級試薬 平均粒径10〜20μm)および灯油を表6に示す配合量で混合し、試験溶液1〜5を調製した。ここで、試験溶液1は、懸濁物質の存在しない系である。
【0064】
【表6】

【0065】
また、各種工場の工程水を採取し、2mmの篩を通した後、0.22μmのミリポアフィルターを用いて濾過を行い、固形の懸濁物質濃度を測定後、水道水にて固形懸濁物質濃度を調整し、試験溶液6〜8を調製した。各試験溶液の採取場所および性状は以下の通りである。
試験溶液6 紙パルプ工場クラフトパルプ製造工程のパルプ蒸解後の黒液(固形懸濁物質 500mg/L)
試験溶液7 プラスチック塗装工場の塗装工程循環水(固形懸濁物質 3,000mg/L)
試験溶液8 食品工場排水処理工程の活性汚泥水(固形懸濁物質 30,000mg/L)
【0066】
(2)評価方法
図1に示す評価装置を用い、各試験溶液に対する消泡効果を評価した。図1において、1はシリンダー(内径16.5cm)、2は試験溶液(1,400ml)、3は試験溶液の発泡により発生した泡、4は循環ポンプ、5は流量計、6はストップバルブである。試験溶液をシリンダー1に入れ、循環ポンプ4でシリンダー底部から流量計5を経由して試験溶液2を10L/分で循環させ、シリンダー上部液面上30cmの所から落下させた。この循環液がシリンダー内の液面に落ち混合された時に発泡が起こる。循環を開始し、15秒間発泡させた後、消泡剤を疎水性シリカ換算で試験溶液中に2ppm添加し、添加30秒後、150秒後、300秒後の泡の高さを測定し、消泡効果の比較を行った。
【0067】
(3)結果
消泡効果の比較結果を表7に示す。表7において、消泡剤添加直前の発泡量は経過時間0秒の泡高さで示されるが、消泡剤添加直後の泡高さは、添加された消泡剤の破泡効果によって、経過時間0秒時の泡高さから大きく低下する。従って、経過時間0秒と添加30秒後の泡高さの差が、主に添加された消泡剤の破泡性能を示している。その後の添加150秒後、及び添加300秒後の泡の高さは、主に添加された消泡剤による発泡の抑制、即ち抑泡効果を示しており、泡高さが低く保たれているほど、抑泡性能が高いことを示している。
【0068】
表7の結果から、懸濁物質が存在しない試験溶液1では、実施例と比較例の泡高さに有意な差が認められないが、炭酸カルシウムのような固形物の微粒子、あるいは灯油のような水に不溶の液状有機物の微粒子が懸濁物質して100mg/L存在する試験溶液2〜4では、破泡性能、抑泡性能ともに実施例は比較例に比べて優れており、本発明の消泡剤組成物の優れた消泡効果が明確に示された。更に、試験溶液5は試験溶液3の10倍の懸濁物質を含有し、発泡性も高くなっているが、試験溶液5と試験溶液3における実施例の消泡効果には大きな差が無く、本発明の消泡剤組成物が、対象とする発泡性の水系水の懸濁物質の含有量に係わらず安定した消泡効果を示すことが明らかになった。このことは、本発明の消泡剤組成物の消泡成分が水系水中の懸濁物質に吸着されにくく、従って、その消泡効果が懸濁物質の多少にほとんど影響されないことを示している。その他、試験溶液6〜8における実施例の結果は、本発明の消泡剤組成物が、多様な工程に存在する多様な水質の工程水に対しても安定した消泡効果を示すことを明らかにした。
【0069】
以上の結果から、本発明の消泡剤組成物が、懸濁物質が存在する発泡性の水系水に対して、従来技術では到底得られない、卓越した消泡効果を有することは明白である。
【0070】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の消泡剤は、懸濁物質が多く存在し、発泡が起こりうる全ての水系に適用することができる。具体的には、紙パルプ製造工場のクラフトパルプ製造工程水系や脱墨パルプ製造工程水系、金属塗装工程循環水系、プラスチック塗装工程循環水系、排水処理工程水系などが挙げられる。
【符号の説明】
【0072】
1:シリンダー
2:試験溶液
3:泡
4:循環ポンプ
5:流量計
6:ストップバルブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化精製された石油留分、疎水性シリカ、及び炭化水素系ワックスを含有する消泡剤組成物であって、炭化水素系ワックスによって被覆された疎水性シリカ粒子が水素化精製された石油留分中に分散していることを特徴とする、懸濁物質が存在する水系に適用する消泡剤組成物。
【請求項2】
前記水素化精製された石油留分が、ナフテン油、及び/又はパラフィン油である請求項1記載の消泡剤組成物。
【請求項3】
前記水素化精製された石油留分の割合が、全溶剤中25〜100重量%である請求項1又は請求項2に記載の消泡剤組成物。
【請求項4】
前記炭化水素系ワックスが、パラフィンワックス、マイクロスタリンワックス、フィッシャートロプッシュワックス、及びポリエチレンワックスから選ばれる1種以上であるである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の消泡剤組成物。
【請求項5】
前記炭化水素系ワックスの融点が45〜120℃である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の消泡剤組成物。
【請求項6】
前記炭化水素系ワックスを、消泡剤組成物全量に対して0.5〜15重量%含有する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の消泡剤組成物。
【請求項7】
前記消泡剤組成物の製造において、前記水素化精製された石油留分、前記疎水性シリカ及び前記炭化水素系ワックスを混合加熱溶解後、冷却する段階で疎水性シリカが析出し、次いで炭化水素系ワックスが消泡剤組成物中に析出することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の消泡剤組成物の製造方法。
【請求項8】
懸濁物質の含有量が100mg/L以上である水系水に、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の消泡剤組成物を適用する、消泡剤組成物の適用方法。
【請求項9】
前記懸濁物質の含有量が100mg/L以上である水系が、紙パルプ製造工程水系、金属塗装工程循環水系、プラスチック塗装工程循環水系、及び排水処理工程における活性汚泥水系から選ばれる1種である、請求項8記載の消泡剤組成物の適用方法




【図1】
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【公開番号】特開2013−649(P2013−649A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133730(P2011−133730)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】