説明

消火剤組成物

【課題】 一般火災(A級火災)はもちろん油火災(B級火災)電気火災(C級火災)、更には天ぷら油火災、タイヤ火災に対応でき、人や環境保全に対してもきわめて優れた消火剤を提供できるし、また必要に応じ今まで不可能だった水系タイプのリサイクルも取り込める多目的な消火剤組成物を得る。
【解決手段】 有機カルボン酸のアルカリ金属塩と糖アルコールが主剤として溶媒に溶解せしめられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に天ぷら油火災及びタイヤ火災の消火に優れ、更に環境や人に対して安全な水系の消火剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に天ぷら油火災は燃焼時の油の温度が400℃を超えている。市場占有率で消火器全体の約90%を占めているABC粉末消火器を使用すると、放射中や放射終了後は炎が消えて消火したかに見えるが、しばらくすると再着火する。これはABC粉末消火剤に冷却作用が少ないため、天ぷら油の温度を発火点(約360℃)以下まで下げることが出来ないためである。一方残りの約10%を占める液体消火器のうち、機械泡や界面活性剤を含む中性強化液は、天ぷら油を鹸化する物質を含んでいないため、放射すると薬剤組成中の水分が急激に気化膨張し、炎が天井に達したり油が飛散するなど危険である。炭酸カリウムを主成分とする強化液は、天ぷら油を鹸化する作用を有し、冷却作用もあり有効とされる。この外、カルボン酸アルカリ金属塩とホウ酸又はホウ酸塩を水に加えた特許文献1のものや、炭酸カリウムにホウ素あるいはホウ素含有化合物を加え、並びに有機酸のカリウム塩を加えた特許文献2のものは天ぷら油火災に有効として公開されている。
【0003】
次に、タイヤ火災は高温でのゴム火災で内部に金属ワイヤーが含まれるため、非常に高温となり消火が困難である。ゴムが加熱されると表面が溶け可燃性の熱分解ガスが発生し、燃焼を継続する。タイヤ自体が高温となるためタイヤ火災を消火するには高温のゴム本体を冷却して可燃性ガスの発生を抑制する必要がある。従って一般には水系消火剤が有効とされるがタイヤ表面では水をはじく性質があり、水の浸透力を高めるため弗素系界面活性剤や炭化水素系界面活性剤を加え、表面張力を低下させタイヤ表面の濡れ性を改良させるなど検討されているが、有効な消火剤はまだ開発されていない。一方実用化されているこれら水系タイプの消火剤は、市場に出回っているが組成の特定や物性値の基準値の幅が狭いなどの難があり、リサイクルは困難だった。
【特許文献1】特開平1−66777号公報
【特許文献2】特開平3−500252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題は次のような点である。
天ぷら油火災に対して有効とされる炭酸カリウムを35〜40%溶かした強化液はPHが12〜13と強アルカリで、衣類を変質したり各種の金属を腐食するため消火器の材質が制限され高価になる。又水質に対しても水で数千倍に薄めるか酸で中和して処理しなければならず、多くの労力とコストがかかっている。
カルボン酸アルカリ金属塩とホウ酸及び又はホウ酸塩を含む消火剤組成物はホウ酸、ホウ酸塩、ホウ素がPRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握及び環境の改善の促進に関する法律)で第一種指定物質とされ、環境保全には好ましくない。
水系消火剤は冷却作用があるためタイヤ火災には有効と考えられるが、タイヤの表面で水をはじく性質があるため浸透性を高めたり工夫されているが、今ひとつ決め手に欠く。 これら水系の消火剤は組成の特定や基準値の幅が狭いなどの難があり、リサイクルは困難だった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有機カルボン酸のアルカリ金属塩と糖アルコールが主剤として溶媒に溶解せしめられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、一般火災(A級火災)はもちろん油火災(B級火災)電気火災(C級火災)、更には天ぷら油火災、タイヤ火災に対応でき、人や環境保全に対してもきわめて優れた消火剤を提供できるし、また必要に応じ今まで不可能だった水系タイプのリサイクルも取り込める多目的消火剤が得られるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
有機カルボン酸のアルカリ金属塩と糖アルコールとで、実現した。
【実施例】
【0008】
有機カルボン酸としては低級飽和1価カルボン酸、低級飽和2価カルボン酸(ジカルボン酸)、ヒドロキン酸等のナトリウム塩、カリウム塩をいい、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、乳酸カリウム、酒石酸カリウム、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム等が好適である。これらを一種又は二種以上組み合わせて使用する。
【0009】
糖アルコールは原料として澱粉糖、更に詳しくはぶどう糖、麦芽糖、分岐オリゴ糖、直鎖オリゴ糖、デキストリン、乳糖などのアルデビド基を持つ糖を水素添加により還元し、末端をアルコール基に変化させたもので、ソルビトール、マルチトール、分岐オリゴ糖アルコール、ソルビトールオリゴ糖アルコール、オリゴ糖アルコール、デキストリンアルコール、還元デキストリンもしくは還元水飴等が含まれる。なお、糖アルコールは食品の糖成分として多量に使用されている。
【0010】
また、有機カルボン酸アルカリ金属塩の濃度は20〜50%、望ましくは25〜45%、糖アルコールは1〜20%、望ましくは3〜15%である。
有機カルボン酸金属塩の濃度が20%以下では消炎作用が劣り、木材等の一般火災やガソリン等の油火災で効果がない。50%以上では過剰になり経済的なメリットがなくなる。
糖アルコールは1%以下では耐熱性のある被膜の形成が不足し、20%以上では過剰になりムダである。
【0011】
天ぷら油火災に本発明消火剤組成物を放射すると、まずアルカリ金属塩により鹸化された油の表面に粘性のある糖アルコールが分解して耐熱性のある被膜を形成し、更にアルカリ金属の消炎作用とあいまって瞬時に炎が消滅する。このため炎の高さも上昇しない。温度も急激に下がり耐熱性の膜で覆われているため、再着火は全然みられない。
【0012】
一方、タイヤ火災に対しては、従来品の液体消火剤はタイヤの表面が水をはじく性質を有しているため、表面張力を下げるなど工夫してもいまひとつ冷却効果が発揮されず確実性がなかった。本発明消火剤組成物は糖アルコールが適度の粘性を有しているため、接着剤の役目を果たしタイヤの表面にノリ状に付着すると同時に熱をうばい炭化・発泡し、耐熱性のある被膜を表面に形成し、温度を急速に下げ可燃性ガスの発生を抑え、消火するものと推定される。
【0013】
さらに、本発明の特徴としては、有機カルボン酸アルカリ金属塩を構成している有機カルボン酸とアルカリ金属の水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩とをそれぞれ反応させ、必要とする有機カルボン酸塩を製造することも出来る。例えば、酢酸カリウムは酢酸と水酸化カリウムを反応させ、クエン酸カリウムはクエン酸と炭酸カリウムを反応させる等である。
【0014】
市販の酢酸カリウムは、水に溶かした酢酸にカセイカリを添加し、反応後水分を除去するなどの精製工程があるためコスト高になる。本発明ではあらかじめ所定量の水を使用するためこの所定量の水に酢酸を溶かし、例えばカセイカリで中和し酢酸カリウムをつくることが出来るためあらためて水を乾燥、除去する必要がない。このため低コストで簡単に製造することが出来る。このように反応させても消火性能、長期安定性、その他の性能の低下は全然見られない。
【0015】
有機カルボン酸としては低級飽和1価カルボン酸、低級飽和2価カルボン酸(ジカルボン酸)、ヒドロキシ酸等があり、酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸等である。一方、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等があげられる。
【0016】
これらの有機カルボン酸とアルカリ金属を所定量反応させることにより、水素イオン濃度(PH)も簡単に中性に調整できる。特に炭酸カリウムを使用する場合、アルカリ強化液消火剤を使用することが出来る。アルカリ強化液消火剤は炭酸カリウムを35〜40%水に溶かした高濃度の水溶液で、強化液消火剤として我が国では製品化され、おおよそ半世紀経過している。このアルカリ強化液消火剤は水素イオン濃度(PH)が12〜13と非常に高い強アルカリ液である。この消火器を回収し、充てんされた強化液を処理するには数千倍の水で薄めるか、酸で中和しなければならず膨大な費用がかかっていた。本発明では有機カルボン酸の中和剤として使用することにより、リサイクルが可能になり環境保全のためにも大きく貢献するものである。
【0017】
本発明の消火剤組成物はカルボン酸アルカリ金属塩と糖アルコールからなるものであるが、消火薬剤の技術上の規格を定める省令(自治省令第28号)に定める浸潤剤等は必要に応じて添加してもかまわない。例えば、不凍性を高めるため尿素やジエチレングリコールを加えたり、消火能力をアップするリン酸アンモニウムやリン酸カリウム、スルファミン酸グアニジン、各種界面活性剤等である。消火薬剤の性能、性状が改良され、また性能、性状に悪影響は与えない。
【実験例】
【0018】
次に、実施例の効果を以下の実験例により説明する。
実施例1〜13の組成(成分)を表1,表2に示す。
【0019】
【表1】















































【0020】
【表2】


























【0021】
次に、比較例1〜10の組成(成分)を表3に示す。
【0022】
【表3】






































【0023】
以上の実施例1〜13及び比較例1〜10の組成物をつくり、天ぷら油火災,タイヤ火災の消火試験を行った。天ぷら油火災の消火試験結果を表4に,そしてタイヤ火災の消火試験結果を表5にそれぞれ示す。
【0024】
【表4】




























【0025】
【表5】






























【0026】
実施例の組成を製造するにあたり、PHはアルカリ性にあっては構成・成分の酸や他の少量の酸性物質で、酸性にあってはアルカリ金属塩や他の少量のアルカリ物質で中性に調整した。いずれも性能の変化はない。なお天ぷら油火災の実験は消防法に定める住宅用消火器の天ぷら油火災の消火性能を定める規格である消火器の検定細則(平成11年10月28日)の第28に定める(2)天ぷら油火災、ア〜カに沿って行った。
【0027】
また、消火の判定は、同じく2.消火の判定の項に(2)として次のようになっている。
(2)天ぷら油火災において、次のいずれかに該当した場合は消火出来ないものとする。
ア.消火者に火傷等の危険を及ぼすような油の飛散がある場合
イ.消火剤放射時の火炎高さが1.8m以上となった場合
ウ.消火剤放射時の火災高さが1.2m以上なる状態が3秒以上続いた場合
以上のア,イ,ウを観察した。
【0028】
なお、消火試験は1L住宅用消火器に薬剤1L充填したものを使用した。タイヤ火災の実験規格等は消防法に定められていないため下記の方法により試験した。
1.消火器の技術上の規格を定め省令(自治省令 第27号 昭和39年9月17日)の第3条に定める消火用第2模型に用いる燃焼なべにタイヤ2本を横向けにのせ、着火用ヘプタン3Lを燃焼なべに入れ、着火して3分後に消火を開始した。消火器は3L強化液消火器に薬剤3L充填したものを使用した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、特に天ぷら油火災及びタイヤ火災の消火用組成物、更に環境や人に対して安全な水系の消火用組成物として、広く活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機カルボン酸のアルカリ金属塩と糖アルコールが主剤として溶媒に溶解せしめられていることを特徴とする消火剤組成物。
【請求項2】
主剤として浸潤剤等を付加したことを特徴とする請求項1記載の消火剤組成物。
【請求項3】
有機カルボン酸のアルカリ金属塩が、有機カルボン酸と、及び/又はアルカリ金属の水酸化物、及び/又はアルカリ炭酸塩、及び/又はアルカリ重炭酸塩を反応させてなることを特徴とする請求項1記載の消火剤組成物。
【請求項4】
アルカリ炭酸塩が、アルカリ強化液(主成分炭酸カリウム)消火剤であることを特徴とする請求項3記載の消火剤組成物。

【公開番号】特開2006−130210(P2006−130210A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324972(P2004−324972)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(391008320)株式会社初田製作所 (78)
【Fターム(参考)】