説明

消火用組成物および該組成物の調製物

本発明の目的は、少なくとも、植物由来粉末の形態であって、冷水に可溶性で増粘性を示す第1の化合物と;植物由来粉末の形態であって、冷水に不溶性であるが、熱水中または蒸気の存在下で増粘性と保水性を示す第2の化合物と;第1および/または第2の化合物のマイラード反応を促進する少なくとも1種の薬剤を含む第3の化合物と;水とを含むことを特徴とする消火用組成物である。本発明はまた、前記組成物の調製物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火用組成物およびその調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
炎は、水で消火することが困難であることが知られており、その結果は、多くの理由により納得のいくものではない。
水だけであると、大量に用いたとしても、直接炎に接触したときだけしか効果がなく、その効率は低い。
【0003】
実際に、水の流動性と非常に高い揮発性が原因の水の流失のため75〜85%のオーダーの莫大なロスが知られている。
特に、地面の水密性が高くない森林の火災の場合には、低い湿潤係数に関連する流失により、水が地面上を流れ、迅速に地面に入る。
【0004】
蒸発に関しては、以下の3段階によりロスが生じる:
- 第1段階は、使用する機械的手段(高速ホースノズル、航空機、ヘリコプター等)による噴霧である。
- 第2段階は、依然湿っており炎の攻撃を受けていない土台からの蒸発である。この場合、一般的に非常に近い位置の炎、太陽光、風により生じた熱が大量の蒸発を生じさせ、この蒸発により炎の拡大は殆ど制限されなくなる。
- 第3段階は、火源への噴霧作業中の蒸発である。噴霧が、液体/水蒸気の相転移により多くのエネルギーを吸収することで直接的に効果を発揮するが、灼熱蒸気と更に有毒な煙の非常に強力な放出を伴うのは、この段階である。
【0005】
これらの不利点を克服するため、通常は、添加剤、特に、いわゆる耐火性添加剤が、既に処理を行った領域を判断するための着色剤と共に水に添加されている。
【0006】
しかしながら、これら添加剤の使用は、以下に示す複数の理由により、満足のいくものではない。
【0007】
その理由の一つは、化学物質が求められる点であり、これらの化学物質は、ある種の毒性を示し、特に自然環境においては、少なくとも有毒な特性を示す。これらの化学物質には、ポリリン酸アンモニウム、フェロシアン化ナトリウムまたはエステル油が含まれる。
【0008】
このような添加剤は、表面張力を変化させることによる湿潤性の向上、蒸発の抑制、粘性の増加を目的とするものである。
【0009】
これらの添加剤は、脱酸素剤、発泡剤と共に添加できる。これらの添加剤は、殆ど流失によるロスと蒸発に変化をきたさないが、最初の時点から遅れて、突然の熱放出と共に急速に発達することが見出される。
【0010】
また、発泡剤についても、泡の中のガスが、熱により膨張した際に、泡を破壊するので、発泡剤の保護層は時間に対する耐久性が低いので、少量で用いるべきである。破壊の後に残存する水の量については、泡の場合には、必然的に非常に限られたものである。
【0011】
発泡性溶液に関する別の不利点は、特に風のある場合の噴霧の困難性であり、短い噴霧距離と、低い方向制御性である。従って、森林火災の場合、木の頂に届かず、これにより炎が空気中に飛び出すことになる。
【0012】
非常に低い固体含有率、即ち、0.01重量%の固形分を有するゲル化剤を添加して粘性を増加させたところ、流失に対して効果を示すが、蒸発率に変化は認められない。更に、現在用いられているゲル化剤は、炎と接触すると薄くなり、その固形分含有量は、あまりに低くて効果を奏しない。
【0013】
ゲル化剤は、海水等の食塩水とあまり適合性が良くなく、これも不利な点である。
【0014】
最後に、試験では、2分30秒以内に主炎内の土台が再燃を示したので、効果は依然として非常に限られている。更に、燃焼の間、フラッシュと呼ばれる白熱した炭素粒子が風に運ばれて流れ、炎を拡大することが知られている:これらの粒子を残存する固体に安定させることが望ましいが、現在用いられている添加剤では、これは行われていない。
【0015】
この低い耐火性と時間の短さのため、これらの添加剤は、火源に近い場所で効果的に干渉力を発揮するが、前記の全てのリスクと危険を伴う。
【0016】
適用方法も重要であり、使用する添加剤が添加された水には、中圧スプレー、即ち、30〜200 barの範囲のスプレーは、収量が不十分と考えられるため、これを用いることができない。実際に、少量のスプレーは、頭上の蒸発を増加させる。しかしながら、火源から遠い位置にとどまることが可能であれば、中圧スプレーにより、適用の正確さが向上し、使用する水の量が制限され、被覆および被膜能が増加するが、これは、上述した理由により、困難である。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、これらの不利点を克服することであり、特に、本発明は、自然環境へのあらゆる影響を回避し、蒸発の後でも消火能を増加させ、火源の再燃能を抑制し、燃焼後の白熱粒子を安定させ、着色剤の添加無しで処理した領域上に視覚的コントラストを提示し、垂直方向の接着を可能にし、適用能を向上させる。
【0018】
本発明による組成物は、噴霧、特に、中圧噴霧のため、またはバリアーの提供のためのいずれかの用途に応じて、異なる方法で調製することが可能である。
【0019】
本発明に係る組成物は、少なくとも以下のものを含む:
- 冷水に可溶性であって、粉末の形態である、第1の植物由来増粘成分、
- 冷水に不溶性であって、粉末の形態であるが、熱水中または蒸気の存在下で増粘性と保水性を示す、第2の植物由来化合物、
- 少なくとも第1および/または第2の化合物のマイラード反応を促進する、少なくとも1種の薬剤を含む、第3の化合物、および
- 水。
【発明の具体的な説明】
【0020】
粉末の形態にある前記第1の化合物は、より詳細には、グアー粉、イナゴマメ粉(carob flour)、加工デンプン、アルギン酸塩から選択される。
この第1の化合物には、油分および/またはエッセンスが含まれていてはならない。
【0021】
第1の増粘性化合物の目的は、前記組成物内で粒子を懸濁液中に維持して、均一な媒体を提供することにある。第1の化合物の量は、懸濁液中に維持される粒子の大きさによって調節され、従って、デカンテーションを回避するのに適している。
このような第1の化合物は、非発泡性であり、食塩水を含む溶媒に可溶性であることに留意すべきである。
【0022】
粉末の形態の前記第2の化合物は、より詳細には、天然のデンプンから選択され、より詳細には、リン酸を多く含む天然デンプンから選択され、更により詳細には、ジャガイモデンプンである天然デンプンから選択される。
【0023】
天然デンプンは、少なくとも2種類のポリマー:アミラーゼとアミロペクチンからなり、その構造は、数ミクロンから数十ミクロンの範囲の粒径を有する粒子の形態にある。結晶形態中のネットワーク組織により、天然デンプンは不溶性のものとなる。
【0024】
ジャガイモデンプンと呼ばれるイモ由来の天然デンプンの場合、大きな粒径を有する天然デンプンを保持するという利点がある。前記範囲の上限の大きさを有する場合には、同一量での表面積を減少させることにより種々の段階で蒸発を制限することを助け、運動エネルギーを増大させることで噴霧距離も増加させる。
【0025】
多くの場合、天然デンプンは、65℃以上の加熱流体、例えば、水または蒸気等に溶解する性質を有する。更に、これらの条件下において、上記デンプンは同時に増粘作用と膨張作用を生じる。
【0026】
前記第3の化合物は、少なくとも第1および第2の化合物のマイラード反応を促進する少なくとも1種の薬剤を含んでなる。この第3の化合物は、塩化ナトリウムである。
塩化ナトリウムは、糖の変換と炭化を促進する。
塩化ナトリウムは、添加されるか、または海水を用いる場合には、少なくとも本来のものとして部分的に存在する。
【0027】
前記組成物が水を含んでいる場合であっても、少なくとも表面部分における迅速な炭化は、以下を含む数多くの結果を生じる:
- 非常に吸収性の高い黒色の着色が熱放射を制限する、
- 熱波の拡散の抑制、
- エネルギー吸収により第2の化合物の熱水膨張が促進される、
- 炭化層により水の蒸発速度が制限される、そして
- 土台は、燃焼用酸素が非常に欠乏した状態になる。
【0028】
更にまた、塩化ナトリウムは、その本質として消火作用を示すという利点を有しているので、この利点も利用される。この第3の化合物は、相乗効果を通じて、少なくとも第1および第2の化合物の保水容量の増加も助ける。
【0029】
本発明による組成物は、更なる化合物を添加することによって改良できる。
第1の代替物によれば、前記組成物には、水溶性で皮膜形成性の第4の化合物が添加される。この第4の化合物は、天然の皮膜形成剤である。
この第4の化合物は、約65℃の熱ゲル形成範囲を有する、例えば、卵白粉末またはアルギン酸塩等のタンパク質粉末からなる。従って、この第4の化合物は、熱による膨張時に第2の化合物の粒子の封入および結合に寄与し、その結果、熱への曝露の開始時に蒸気により泡を形成させる。
この第4の化合物もマイラード反応による炭化に付して、上記の作用を更に向上させることができる。
【0030】
第2の代替物によれば、前記組成物は、不溶性で、薄く延ばすことが可能な、安定(ballast)化合物である第5の化合物を含む。
この第5の化合物は、鉱物粉末から選択され、より詳細には、粘土粉末、特に、白色粘土粉末から選択される。この第5の化合物は、任意のものであり、例えば、森林火災等、炎がフラッシュを生じる場合に限って利点を有する。好都合なことに、粘度粉末は、最も機械的攻撃性が少ない。これらの粉末が白色粘度粉末の場合、本発明の組成物で処理した領域は、視認することができる。
安定化によって、土台の一部の燃焼中に生じるフラッシュの拡散が防がれる。
【0031】
組成物は、特定の態様について個別の量を特定できるように得られ、その量は、1リットルの中圧噴霧、即ち1リットルの30〜120barsの噴霧に基づく。発泡剤が存在しないので、ポンプの空洞化または作動不良が防止されることから、上記噴霧が可能となることに留意すべきである。
【0032】
これらの値は、炎の種類および保護すべき貴重品に応じて調整される。藁の炎か、森林火災か、または家が存在するのか若しくはしないのかによって変化する。
【0033】
前記組成物は、直接的な消火作業若しくは防火の両方、またはその他に耐火剤として用いることができる。
【0034】
第1の同定される化合物は、3〜14グラムの量のグアー粉である。
第2の同定される化合物は、20〜30グラムの量のジャガイモデンプンである。
第3の同定される化合物は、10〜14グラムの量の塩化ナトリウムである。
第4の同定される化合物は、0.2〜2グラムの量の卵白粉末である。
第5の同定される化合物は、5〜40グラムの量の粘土粉末である。
【0035】
本発明の組成物を噴霧して、1ミリメートルの厚さの層を施した木製の土台に対して試験を行った。この土台を、直接炎に数分間曝する。本発明の組成物は炭化し、数ミリメートル、より具体的には、最大で8〜9ミリメートルの厚さにまで膨張する。
【0036】
土台から炎による加熱を取り除いた後にこの組成物をかき取ると、木製の土台に変化はなく、炭化の痕跡も見られない。
【0037】
前記組成物は、炎を鎮火するために火源の炎を直接攻撃するために用いることができるが、防火剤または耐火剤としても用いることができる。
【0038】
この組成物は、示すように液体の形態で調製して、既知の消火技術を用いた噴霧により適用することができる。
【0039】
この組成物は、固体の形態、より詳細には、ゲルの形態に調製することもできる。
従って、本発明の組成物にゲル化剤を添加することで、ゲルテープ、ゲルボールまたはゲルブロックを作製できる。
【0040】
ゲルテープに関しては、裏張りを付けて機械的性能を向上させ、より詳細には、テープロールを作製して、取り扱いを容易にすることが可能である。
一方の側面を反射物質、より詳細には、明るい色彩を有する成分であって、一方で蒸発を抑制し、他方で熱を反射する成分でコーティングすることが可能である。このようなテープをほどいて、耐火剤として配置することで、炎の拡散を抑制できる。炎が近づいて温度が上昇すると、前記組成物は、液体組成物の場合と同様の反応を起こし、炎の拡散に対して完全なバリアーを提供する。
【0041】
ゲルボールは、任意の適切な手段により、高い正確性を以て、機械的に遠距離で投じることができる。
ブロックについては、これらも特定の場所に配置することができる。
【0042】
別の調製物は、このゲルの顆粒であり、路上塩分散車(road salting vehicles)等の手段により分散可能であり、従って、畝(ridges)を形成する。
【0043】
この調製物は、このような材料を用いて炎の拡大を防ぐ消防士にとって多くの利点をもたらすことに留意すべきである。従って、円形の炎の場合であっても、保護領域を隔離することが可能であり、そして前記組成物は、有毒生成物を放出しないことから、消防士達は、自らを最善の条件で保護でき、または彼らの命を守ることも可能になる。
【0044】
組成物の特性を維持したまま十分にコンパクトなゲルを得るため、動物由来のゼラチン等の、熱により液化する特性を有するゲル化剤を添加してもよい。
前記ゼラチンは、必要な粘性と必要な融点を達成するため、200〜300ブルームのブルーム強度(bloom degree)を有するものであることが好ましい。
本発明の組成物は、その調製物とは関係なく、非常に高い性能を発揮する。本発明の組成物には、組成物1リットル当たり44〜150グラムの固形分が含まれる。故に、比較すると、1150kgの本発明の水性組成物は、20mの水、即ち、20000kgの水を必要とする。
従って、輸送すべき積載量は、その体積と共に著しく減少する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 冷水に可溶性であって、粉末の形態である、第1の植物由来増粘成分と;
- 冷水に不溶性であって、粉末の形態であるが、熱水中または蒸気の存在下では増粘性と保水性を示す、第2の植物由来化合物と;
- 少なくとも第1および/または第2の化合物のマイラード反応を促進する、少なくとも1種の薬剤を含有する、第3の化合物と;
- 水と
を少なくとも含んでなることを特徴とする、消火用組成物。
【請求項2】
前記第1の化合物が、グアー粉、イナゴマメ粉、加工デンプン、アルギン酸塩から選択される、請求項1に記載の消火用組成物。
【請求項3】
前記第2の化合物が、天然デンプンから選択される、請求項1または2に記載の消火用組成物。
【請求項4】
天然デンプンがリン酸を多く含む、請求項3に記載の消火用組成物。
【請求項5】
天然デンプンがジャガイモデンプンである、請求項3または4に記載の消火用組成物。
【請求項6】
前記第3の化合物が、塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の消火用組成物。
【請求項7】
第4の水溶性の皮膜形成化合物を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の消火用組成物。
【請求項8】
前記第4の化合物が、タンパク質粉末である、請求項7に記載の消火用組成物。
【請求項9】
鉱物粉末からなる第5の安定化合物を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の消火用組成物。
【請求項10】
鉱物粉末が、白色粘土である、請求項9に記載の消火用組成物。
【請求項11】
前記第1の化合物が、3〜14グラムの量のグアー粉であり、
前記第2の化合物が、20〜30グラムの量のジャガイモデンプンであり、
前記第3の化合物が、10〜14グラムの量の塩化ナトリウムであり、
前記第4の化合物が、0.2〜2グラムの量の卵白粉末であり、
前記第5の化合物が、5〜40グラムの量の粘土粉末である、請求項9に記載の消火用組成物。
【請求項12】
前記消火用組成物のテープ、投じるためのボール、ブロックまたは顆粒の作製を可能にする、少なくとも1種類のゲル化剤を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の消火用組成物の調製物。
【請求項13】
前記ゲル化剤が、200〜300ブルームのブルーム強度を有するものから選択される、請求項12に記載の調製物。

【公表番号】特表2009−533118(P2009−533118A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504797(P2009−504797)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051113
【国際公開番号】WO2007/122342
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(508308031)
【氏名又は名称原語表記】BIO CREATION
【Fターム(参考)】