説明

消火用組成物及び消火方法

【課題】 林野火災に適した消火剤組成物及び消火方法を提供する。
【解決手段】 屋外火災における消火対象物の消火用組成物であって、重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを主成分として含み、水で1から5質量%に希釈して、消火対象物に散布した際に発生する二酸化炭素とアンモニアからなる消火ガスと水との作用により前記対象物の消火を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火用組成物及び消火方法に関する。より詳しく述べると林野火災などの屋外の火災の消火に有効な消火用組成物及び消火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
林野火災は、市街地での火災とは異なり、いったん発生すると、消防水利の不足や道路状況が良くないなどの地理的、地形的条件から消防活動が非常に困難で、焼損面積が広範囲に及ぶ危険性が高くなる可能性がある。
貴重な環境資源である森林は、一度焼失すると再生するまでに数十年の歳月を要し、なおかつ森林の喪失は、保水能力の低下を招き、台風や集中豪雨などの大雨により土砂崩れなどの自然災害を誘発し、大きな被害が出やすくなるおそれを有している。
【0003】
現在、わが国では、林野火災が発生した場合は発生市町村において対応しているが、一市町村だけでは十分に対処できない場合があるため、火災発生初期より、近隣市町村の消防職員・消防団員に応援出動を求め、広域的な対応を行っている。
【0004】
また、近年は初期の段階から都道府県、消防機関にヘリコプタ−を要請し、空中消火を積極的に実施するように心掛けているといわれている。これは、従来の消火が多人数による長時間の困難かつ危険な作業によって行われたのに比べて、非常に効果的な消火戦術である。また、火災の延焼状況をいち早く把握するためにも、ヘリコプターからの偵察は有効である。
【0005】
この消防防災ヘリコプターは、平成12年4月1日現在、消防機関27機、都道府県40機の計67機が配備されている(非特許文献1)。
林野火災に対して、空中消火用水のう型散布装置、泡消火剤等の消火資材の整備を行っているのが現状である。
【非特許文献1】http://www.fdma.go.jp/html/life/question.htm(平成17年7月14日検索)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来使用されている泡消火器では、林野火災の程度によっては有効な消火手段となりえず、また短に空中から水を散布するだけでは林野火災の消火は十分であるとは言えない。
【0007】
さらには、林野火災に泡消火器などにより消火を行った後には、環境に対する影響も考慮する必要がある。
さらにまた、地震などの災害により木材家屋が密集した地域に対する消火方法に対する要求もある。
従って、本発明の課題は、林野火災に適した消火剤組成物及び消火方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明は、屋外火災における消火対象物の消火用組成物であって、重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを主成分として含み、水で1から5質量%に希釈して、消火対象物に散布した際に発生する二酸化炭素とアンモニアからなる消火ガスと水との作用により前記対象物の消火を行うことを特徴とする消火用組成物である(請求項1)。
【0009】
本発明の消火用組成物において、水1リットルに対して、重炭酸アンモニウムを20から40グラム、第二リン酸アンモニウムを350から400グラム、硫酸アンモニウムを70から90グラムを含むことが好ましい(請求項2)。
本発明の消火用組成物において、さらに所定量の水成皮膜形成用の界面活性剤を含んでもよい(請求項3)。
【0010】
前記課題を解決する本発明は、重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを含む消火用組成物を用いた屋外火災における消火対象物の消火方法であって、前記組成物と1〜5質量%濃度となるような水とを接触させて水性混合物を形成させる工程と、前記水性混合物を前記消火対象物に適用して消火対象物を消火するのと同時に
100〜2000ppmのCOを発生させて発生したCOにより消火対象物を消火する工程を含むことを特徴とする消火対象物の消火方法である(請求項4)。
【0011】
本発明の消火方法において、前記消火用組成物と水との水性混合物を消火対象物に空中から散布することができる(請求項5)
本発明の消火方法において、消火対象物の燃焼の程度によって組成物の希釈濃度を変えることができる(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
請求項1から請求項3によると、林野火災をはじめとする屋外火災の消火に有効な消火剤組成物を提供することが可能である。しかも、主成分が重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムであるので、鎮火後の後処理も容易に行うことが可能である。
請求項4から請求項6によると、林野火災をはじめとする屋外火災を有効に消火することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(組成物)
本発明の消火用組成物は、例えば木造家屋密集地により発生した火災及び特に林野火災を消火するための消火液を調製するための組成物である。具体的には、本発明の消火用組成物は、重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを主成分として含み、水で1から5質量%に希釈して使用する屋外消火用の消火液とするための組成物である。
【0014】
本発明の消火用組成物の主成分は、重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムとから構成されているが、これらの成分は、火災消火後も例えば肥料構成成分として残存するので、例えば林野火災の消火後に後処理する必要が軽減又はなくなる成分を選択した。
【0015】
これらの主成分のうち、重炭酸アンモニウムと第二リン酸アンモニウムは、消火の際、燃焼により炭酸ガスCOとアンモニアガスNHに熱分解される。炭酸ガスは燃焼物への酸素を遮断し、燃焼物の酸化を中和して抑える作用がある。アンモニアガスは中和、冷却作用で燃焼物の再着火を防止して、周囲への延焼を防ぐことができる。
この際の反応を下記の化学式1に示す。
【0016】
化学式1
(NH)HPO+NHHCO→PO+HO+4NH+CO
PO+HO+4NH+CO+CO(NH)→(2NH)PO+2CO+H
(2NH)PO+(NH)SO+2CO+H
【0017】
化学式から明らかな通り、所定温度、例えば50℃以上の温度で同量の重炭酸アンモニウムと重炭酸アンモニウムとが反応してまず、4倍量のアンモニアと同量の炭酸ガスが発生して反応が開始する。
なお、重炭酸アンモニウムは、他の炭酸塩化合物と比較して炭酸ガスの発生量が多くなおかつ発生速度が速いことを繰り返しの実験により見出したものである。
【0018】
一方、肥料成分としても使用されている硫酸アンモニウムは、本発明の消火用組成物において、アンモニアガスの発生源として使用する。
【0019】
本発明において、主成分である重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムは、消火用のガスである二酸化炭素及びアンモニアの発生量を考慮して適宜選択することが可能でありこれらの割合は特に限定されるものではなく幅広く適用可能である。
【0020】
具体的には、例えば林野火災などの火災の性質からアンモニアガスを多量に発生させたい場合には重炭酸アンモニウム1質量部に対して、第二リン酸アンモニウム8から25質量部、好ましくは9から20質量部、硫酸アンモニウム1.2〜5質量部、好ましくは2〜4質量部配合する。より具体的には、希釈しようとする水1リットルに対して、重炭酸アンモニウムを20から40グラム、第二リン酸アンモニウムを350から400グラム
硫酸アンモニウムを70から90グラムを配合すると、林野火災をはじめとする屋外火災に好適な消火用組成物が得られる。
【0021】
本発明の消火剤組成物において、本発明の目的及び効果を損なわない限り前述した主成分以外の他の成分を添加することが可能である。
例えば、ある程度の後処理を行うことを条件に従来公知の水成膜形成用の界面活性剤を少量添加することも可能である。具体的には他の界面活性剤に比較して耐熱性が著しく高いフッ素系の界面活性剤をマイナー成分として添加して、消火ガスによる消火に加えて水との反応により得られた泡による消火効果を付与することも可能である。
【0022】
重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを主成分として含む本発明の消火用組成物は、火災の程度に応じて水で1〜5質量%程度の水性媒体となるように希釈して、対象物に噴霧される。
この際の希釈倍率は、火災の程度に応じて適宜決定することが可能である。すなわち、延焼が危惧されるような大規模の林野火災においては、本発明の消火用組成物の濃度を高くして消火ガスの発生量を多くすることが好ましく、逆に火災の程度がそれほど高くない場合には濃度を低くすることが可能である。
【0023】
このように屋外火災を対象とする本発明の消火用組成物は、水で所定の倍率に希釈することによって容易に消火液を調製することが可能であり、消火対象に噴霧することによって、二酸化炭素及びアンモニアにより消火を行うとともに、水による消火を行うことができる。
【0024】
次に、本発明の消火用組成物を用いた消火方法について図1及び図2に基づいて説明する。
図1は、発明の消火剤を用いて消火対象物を消火する方法を模式的に表した図面であり、図2は、本発明の消火方法のフローチャートである。なお、図1及び図2に示す実施形態は、林野火災における消火を空中から本発明の消火用組成物から調製された消火剤を散布する例を挙げて説明する。
【0025】
本発明の消火方法において、まず、本発明の消火用組成物を火災の程度に応じて水で希釈して第1の濃度の消火液(第1の消火液)を調製する(S1)。
例えば、従来技術で説明した通り、林野火災をヘリコプターなどから消火剤を空中散布する場合には、ヘリコプターに、備えられている貯水タンクに水を補給し、貯水タンク中に所定濃度となるように消火液を調製する。この際の濃度は、消火初期であるので比較的に高い濃度、例えば3〜5質量%の本発明の消火用組成物を含む消火液とすることが好ましい。
【0026】
次いで、第1の消火液を空中から消火対象の林野に向けて噴霧する(S2)。このようにして比較的高い濃度の本発明の消火用組成物を含む第1の消火液を噴霧すると、消火対象物からの熱により式1で示す反応により二酸化炭素及びアンモニアが発生し、また硫酸アンモニウムからのアンモニアが発生する。
【0027】
図1に示す通りに、発生した二酸化炭素(炭酸ガス)により燃焼物への酸素を遮断し、燃焼物の酸化を中和して抑え、アンモニアガスによる中和、冷却作用で燃焼物の再着火を防止して、周囲への延焼を防ぐ。更に、消火液の主成分による水による消火を行うことによって、消火が行われる。
【0028】
調製した消火液が空になった際(空になる前に完全に消火が終わる場合も含む)、消火が十分か否かを判断し(S3)、消火が十分である場合(YES)、消火活動を終了する(END)。消火が不十分の場合、更に火災状況に応じて第2の消火液中の本発明の消火用組成物の濃度を決定して、第2の消火液を調製する(S4)、次いで、S2に戻り、第2(第n)の消火液を噴霧し、同様にして消火が終了するまで、S4→S2→S3を繰り返す。
【0029】
なお、この際の消火液中の本発明の消火用組成物の濃度は一般には前回の消火液によるものと同等または低いことが一般的であるが、火災状況に応じて(消火状況に応じて)、適宜濃度を増減することが可能である。
【0030】
なお、前記の実施形態では空中からの散布を例示して説明したが、放水車による消火液の散布など適宜変更することが可能である。
例えば、ヘリコプターなどで本発明の消火用組成物と水とを混合して林野火災の消火に当たる際に、所定濃度の本発明の消火用組成物を含む消火液をまず散布し、その際の消火状況に応じて本発明の消火用組成物の濃度を増減することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発明の消火剤を用いて消火対象物を消火する方法を模式的に表した図面。
【図2】本発明の消火方法のフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外火災における消火対象物の消火用組成物であって、
重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを主成分として含み、水で1から5質量%に希釈して、消火対象物に散布した際に発生する二酸化炭素とアンモニアからなる消火ガスと水との作用により前記対象物の消火を行うことを特徴とする消火用組成物。
【請求項2】
水1リットルに対して、
重炭酸アンモニウムを20から40グラム
第二リン酸アンモニウムを350から400グラム
硫酸アンモニウムを70から90グラム
を含むことを特徴とする請求項1に記載の消火用組成物。
【請求項3】
さらに所定量の水成皮膜形成用の界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の消火用組成物。
【請求項4】
重炭酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウムを含む消火用組成物を用いた屋外火災における消火対象物の消火方法であって、
前記組成物と1〜5質量%濃度となるような水とを接触させて水性混合物を形成させる工程と、
前記水性混合物を前記消火対象物に適用して消火対象物を消火するのと同時に
100〜2000ppmのCOを発生させて発生したCOにより消火対象物を消火する工程
を含むことを特徴とする消火対象物の消火方法。
【請求項5】
前記消火用組成物と水との水性混合物を消火対象物に空中から散布することを特徴とする請求項4に記載の消火方法。
【請求項6】
消火対象物の燃焼の程度によって組成物の希釈濃度を変えることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−20965(P2007−20965A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209310(P2005−209310)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(504036372)株式会社ボネックス (5)
【Fターム(参考)】