説明

消炎鎮痛クリーム製剤及びその製造方法

【課題】 消炎鎮痛効果に優れる4−ビフェニル酢酸を有効成分として含有する消炎鎮痛クリーム製剤として、比較的少量の水溶性高分子の配合であっても使用上十分な粘度を得ることができ、使用感に優れており、しかも保存時における4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に抑制されて安定性に優れた消炎鎮痛クリーム製剤を提供すること。
【解決手段】 4−ビフェニル酢酸、N−メチル−2−ピロリドン、水溶性高分子、界面活性剤、pH調整剤及び水を含有し、pHが5.5〜6.5であることを特徴とする消炎鎮痛クリーム製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ビフェニル酢酸を有効成分として含有する消炎鎮痛クリーム製剤、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ビフェニル酢酸(4−ビフェニリル酢酸と同じ)はいわゆる難溶解性の薬物であり、製剤中で結晶が成長した場合は方形のフレーク状となって「ざらつき」等による使用感悪化の原因となるという課題を有している。
【0003】
また、特開昭59−222409号公報(特許文献1)には、4−ビフェニル酢酸、カルボキシビニルポリマー、水溶性有機アミン、低級アルコール及び水を含有する消炎鎮痛ゲル軟膏剤において、製剤のpHを7.0〜9.0に調整することにより4−ビフェニル酢酸を溶解せしめた発明が開示されている。
【0004】
しかしながら、4−ビフェニル酢酸を含有するクリーム製剤を得ようとする場合は、同様に弱アルカリ性にすると、水溶性高分子による増粘作用が低下してしまい、使用上十分な粘度を得るためには高濃度の水溶性高分子を製剤中に含有させる必要があるため、「べたつき」や「よれ」が発生して使用感が悪化するという問題があった。
【0005】
一方、4−ビフェニル酢酸を含有するクリーム製剤を得ようとする場合に逆に製剤のpHを弱酸性にすると、水溶性高分子による増粘作用は低下しないものの、4−ビフェニル酢酸の析出が起こりやすく、保存時における4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に抑制されて安定性に優れたクリーム製剤が得られないという点で未だ十分なものではなかった。
【特許文献1】特開昭59−222409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、消炎鎮痛効果に優れる4−ビフェニル酢酸を有効成分として含有する消炎鎮痛クリーム製剤として、比較的少量の水溶性高分子の配合であっても使用上十分な粘度を得ることができ、使用感に優れており、しかも保存時における4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に抑制されて安定性に優れた消炎鎮痛クリーム製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、溶解剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用い、且つ、製剤のpHを5.5〜6.5に調整することにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤は、4−ビフェニル酢酸、N−メチル−2−ピロリドン、水溶性高分子、界面活性剤、pH調整剤及び水を含有し、pHが5.5〜6.5であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤の製造方法は、N−メチル−2−ピロリドン及び界面活性剤を含有する油相成分と水を含有する水相成分とを混合し、得られた乳化液に水溶性高分子と微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸と水とを添加及び混合し、更にpH調整剤を添加して得られる製剤のpHを5.5〜6.5に調整することを特徴とする方法である。
【0010】
上記本発明の消炎鎮痛クリーム製剤においては、前記製剤の全量を基準として、前記4−ビフェニル酢酸の含有量が0.5〜5質量%、前記N−メチル−2−ピロリドンの含有量が0.5〜10質量%、前記水溶性高分子の含有量が0.1〜5質量%、前記界面活性剤の含有量が0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤においては、前記製剤の全量を基準として2〜20質量%の油性物質を更に含有することが好ましく、このような油性物質としてはスクワラン及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセリドが特に好ましい。
【0012】
また、このような本発明の消炎鎮痛クリーム製剤においては、前記4−ビフェニル酢酸の少なくとも一部が前記製剤中に微結晶状態で分散し、
(i)前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸の平均粒子径が5〜100μmの状態、及び/又は、
(ii)前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸が200μm以下の粒子径を有するもののみである状態、
で経時的に安定して維持されるようになる。
【0013】
そのため、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤においては、密封状態で40℃の条件下で1ヶ月保存した後においても、前記4−ビフェニル酢酸の少なくとも一部が前記製剤中に微結晶状態で分散し、前記(i)及び(ii)の状態が維持されるようになる。
【0014】
なお、前記(i)にかかる4−ビフェニル酢酸の平均粒子径は動的光散乱法により求めた値であり、また、前記(ii)にかかる4−ビフェニル酢酸の粒子径は偏光顕微鏡写真等により製剤中の4−ビフェニル酢酸粒子の外接球(外接円)の直径を求めた値である。
【0015】
また、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤によって優れた使用感と4−ビフェニル酢酸の結晶成長防止とが両立して達成されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、消炎鎮痛効果に優れる4−ビフェニル酢酸を有効成分として含有するクリーム製剤のpHを5.5〜6.5に調整することにより、水素結合により増粘作用を示す水溶性高分子による増粘作用の低下が防止されるため、比較的少量の水溶性高分子の配合であっても使用上十分な粘度を得ることができ、「べたつき」や「よれ」の発生による使用感の悪化が十分に防止されるようになる。さらに、乳化系の水/油両相に分配できる両親媒性であり、しかも4−ビフェニル酢酸に対して適度に溶解性を促進するN−メチル−2−ピロリドンを上記pHを有するクリーム製剤の溶解剤として用いることにより、4−ビフェニル酢酸が部分溶解状態で製剤中に存在するようになり、しかも乳化系の水相における4−ビフェニル酢酸の溶解度が比較的低い状態に維持されるため4−ビフェニル酢酸が上述の微結晶状態で経時的に安定して維持されるようになるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、消炎鎮痛効果に優れる4−ビフェニル酢酸を有効成分として含有する消炎鎮痛クリーム製剤として、比較的少量の水溶性高分子の配合であっても使用上十分な粘度を得ることができ、使用感に優れており、しかも保存時における4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に抑制されて安定性に優れた消炎鎮痛クリーム製剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
本発明の消炎鎮痛クリーム製剤は、有効成分としての4−ビフェニル酢酸、溶解剤としてのN−メチル−2−ピロリドン、水溶性高分子、界面活性剤、pH調整剤及び水を含有するものであり、いわゆるO/W型のクリーム製剤である。
【0019】
本発明において有効成分(薬物)として用いる4−ビフェニル酢酸は、製剤中に0.5〜5質量%配合させることが好ましく、1〜4質量%配合させることがより好ましい。4−ビフェニル酢酸の含有量が0.5質量%未満では十分な薬効が得られない傾向にあり、他方、5質量%を超えると必要以上に薬物が析出し易くなり、非効率的で且つ使用感が悪化する傾向にある。
【0020】
なお、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤における有効成分としては、4−ビフェニル酢酸を単独で用いても、他の有効成分と組み合わせて用いても良い。このような他の有効成分としては、主に消炎鎮痛剤に配合される薬物であれば特に限定されず、例えば、ノニル酸バニリルアミド、ニコチン酸ベンジル、ハッカ油、l−メントール、メントール誘導体、トウガラシエキス、マレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。また、このような他の有効成分は単独でも2種以上組み合わせて使用しても良い。このような他の有効成分を用いる場合、製剤中における他の有効成分の含有量は、0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜6質量%がより好ましく、0.002〜3質量%が特に好ましい。
【0021】
本発明においては、溶解剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いる必要がある。かかるN−メチル−2−ピロリドンは、乳化系の水/油両相への分配性を有する両親媒性であり、しかも4−ビフェニル酢酸に対して適度に溶解性を促進するものであるため、前述のように優れた使用感と4−ビフェニル酢酸の結晶成長防止とが両立して達成されるようになる。
【0022】
製剤中におけるN−メチル−2−ピロリドンの含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましく、2〜6質量%が特に好ましい。N−メチル−2−ピロリドンの含有量が0.5質量%未満では4−ビフェニル酢酸の溶解量が少な過ぎて十分な薬効が得られない傾向にあり、他方、10質量%を超えると4−ビフェニル酢酸が溶解し過ぎて部分溶解状態とならず、4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に防止されなくなる傾向にある。
【0023】
なお、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤における溶解剤としては、N−メチル−2−ピロリドンを単独で用いても、他の溶解剤と組み合わせて用いても良い。このような他の溶解剤としては、特に限定されず、例えば、他のアルキル鎖長のN−アルキルピロリドン、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール、エタノール、イソプピルアルコール等の低級アルコール、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル等のエステル類が挙げられる。
【0024】
本発明において用いる水溶性高分子としては、特に限定されないが、少量の配合で強い増粘作用が得られるものが好ましく、水素結合で増粘作用を示す水溶性高分子が好適であり、天然高分子、半合成高分子、合成高分子が好適に用いられる。天然の水溶性高分子としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、デンプン、ローカストビーガム、マンナン、ガラクトマンナン、カードラン、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等が挙げられる。また、半合成の水溶性高分子として、例えば、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。さらに、合成の水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの中で、少量の添加で優れた増粘作用が得られる傾向にあるという観点から、カルボキシル基を有する水溶性高分子が好ましく用いられ、中でもカルボキシビニルポリマーが最も好ましく用いられる。このような水溶性高分子は、単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
【0025】
製剤中における水溶性高分子の含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜4質量%がより好ましく、0.5〜3質量%が特に好ましい。なお、カルボキシル基を有する水溶性高分子の場合は、製剤中におけるその含有量は0.5〜1.8質量%であることが好ましい。水溶性高分子の含有量が前記下限未満では増粘性が不十分となり塗布面に有効成分が保持されにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると「べたつき」や「よれ」が多く使用感が好ましくなくなる傾向にある。
【0026】
本発明において用いる界面活性剤としては、特に限定されないが、非イオン性界面活性剤が好ましく、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート)、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、グリセリルモノステアレート、イソオクタン酸グリセリン、グリセリルモノミリステアレート)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ジグリセリルモノオレエート、テトラグリセリルモノステアレート)、プロピレングリコール脂肪酸エステル(例えば、プロピレングリコールモノステアレート)、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル(例えば、ペンタエリスリトールステアレート)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(6)モノパルミテート)、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレン(6)ソルビットヘキサステアレート、ポリオキシエチレン(6)ソルビットテトラオレエート)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレン(5)グリセリルモノステアレート、ポリオキシエチレン(5)グリセリルモノステアレート)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレングリコール(2)モノステアレート、ポリオキシエチレングリコール(2)モノオレエート)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(7)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル)、ポリオキシエチレンフィトステロール(例えば、ポリオキシエチレン(5)フィトステロール、ポリオキシエチレン(10)フィトステロール)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレン(1)ポリオキシプロピレン(4)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(8)セチルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレン(2)ノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(5)ノニルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン(3)ヒマシ油、ポリオキシエチレン(10)ヒマシ油)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えば、ポリオキシエチレン(5)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体(例えば、ポリオキシエチレン(6)ソルビットミツロウ、ポリオキシエチレン(20)ソルビットミツロウ)、ポリオキシエチレンラノリン誘導体(例えば、ポリオキシエチレン(5)ラノリンアルコール、ポリオキシエチレン(10)ラノリンアルコール)、ポリオキシエチレンアルキルアミン(例えば、ポリオキシエチレン(10)ステアリルアミン、ポリオキシエチレン(15)オレイルアミン)、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド(例えば、ポリオキシエチレン(4)ステアリン酸アミド、ポリオキシエチレン(5)オレイン酸アミド)、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル等が例として挙げられる。これらの中で、皮膚安全性や使用感がより良好となる傾向にあるという観点から、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステルが好ましく用いられる。このような界面活性剤は、単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
【0027】
製剤中における界面活性剤の含有量は、0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が前記下限未満では乳化作用が不十分となり、分離や性状安定性の悪化が発生し易くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗擦時の白残りやべたつき等が発生して使用感が悪化する傾向にある。
【0028】
本発明において用いるpH調整剤としては、特に限定されないが、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリエタノールアミン等の水溶性有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適なものとして挙げられる。これらの中で、イオンへの解離度が少なく、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子に対する増粘作用が良好であるという観点から、ジエタノールアミンやジイソプロパノールアミンが好ましく用いられる。このようなpH調整剤は、単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
【0029】
本発明の消炎鎮痛クリーム製剤においては、前記水溶性高分子の中和に必要な量の前記pH調整剤を配合し、最終製剤としてのクリーム製剤のpHが5.5〜6.5の範囲となるようにする必要があり、6.0〜6.5の範囲となるようにすることが特に好ましい。クリーム製剤のpHが6.5を超えた場合は、水溶性高分子の増粘効果が十分に得られず、また、O/W型乳化系の水相における4−ビフェニル酢酸の溶解度が増大するため、水相に分散した4−ビフェニル酢酸の粒子を核として経時的に結晶の成長(拡大)が発生し、品質の劣化や使用感の悪化の原因となる。他方、クリーム製剤のpHが5.5未満の場合は、水溶性高分子の増粘効果が十分に得られなくなると共に皮膚刺激性が強くなる。
【0030】
本発明の消炎鎮痛クリーム製剤は、前述の4−ビフェニル酢酸、N−メチル−2−ピロリドン、水溶性高分子、界面活性剤及びpH調整剤に加えて水を含有するO/W型のクリーム製剤であり、油相成分として更に油性物質を含有していてもよい。このような油性物質としては、特に限定されないが、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、中鎖脂肪酸トリグリセリド(トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリド等)、中鎖脂肪酸プロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル類、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸類、セタノ−ル、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール類、白色ワセリン、流動パラフィン、スクワラン等の炭化水素類、オリーブ油、ホホバ油、ヒマシ油等の植物性油脂類、クロタミトン、ベンジルアルコール等が挙げられる。これらの中で、皮膚安全性や使用感がより良好となる傾向にあるという観点から、スクワランが好ましい。また、油相への4−ビフェニル酢酸の可溶化を適度に促進するという観点から、中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましく、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリドが特に好ましい。このような油性物質は、単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
【0031】
このような油性物質を用いる場合、製剤中における油性物質の含有量は、クリーム製剤の伸び、べたつき、てかつき、液分離等の製剤上の不安定性を考慮すると、2〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
【0032】
さらに、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤は、クリーム製剤に配合されることが公知の防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、保存剤、香料等の製剤上許容され得る添加剤を含有していてもよい。このような防腐剤としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤の粘度は、3000〜30000cps程度であることが好ましい。粘度が3000cps未満では乳液状となり患部への付着性が不足する傾向にあり、他方、30000cpsを超えるとのびやべたつきが不十分となる傾向にある。
【0034】
次に、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤の製造方法について説明する。本発明の消炎鎮痛クリーム製剤の製造方法は、N−メチル−2−ピロリドン及び界面活性剤を含有する油相成分と水を含有する水相成分とを混合し、得られた乳化液に水溶性高分子と微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸と水とを添加及び混合し、更にpH調整剤を添加して得られる製剤のpHを5.5〜6.5に調整することを特徴とする方法である。
【0035】
油相成分と水相成分とを混合して乳化液を得る工程における温度は、特に限定されないが、70〜80℃程度が好ましい。また、得られた乳化液に水溶性高分子、4−ビフェニル酢酸及び水を添加及び混合する工程や、pH調整剤を添加する工程における温度は、特に限定されないが、20〜50℃程度が好ましい。
【0036】
なお、乳化液に水溶性高分子、4−ビフェニル酢酸及び水を添加する工程において、膨潤化した水溶性高分子と微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸とが分散している水分散液を乳化液に加えてもよいし、膨潤化した水溶性高分子が分散している水分散液と微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸が分散している水分散液とを別個に乳化液に加えてもよい。また、油相成分と混合される水相成分は、水のみであっても良く、他の水溶性成分を含有していてもよい。
【0037】
また、微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸としては、特に限定されないが、平均粒子径が50〜100μm程度となるように微粉砕されていることが好ましく、篩い等によって200μm以下の粒子径を有するもののみとなっていることが特に好ましい。
【0038】
このような本発明の製造方法により、「べたつき」や「よれ」の発生がなく、少量の水溶性高分子で良好な粘度が得られて使用感に優れており、しかも保存時における4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に抑制されて安定性に優れた前記本発明の消炎鎮痛クリーム製剤が得られるようになる。通常、4−ビフェニル酢酸のような固形成分は油相又は水相に溶解せしめた状態で乳化させてクリーム製剤を得ることが一般的であるが、本発明においては、4−ビフェニル酢酸を微粉砕状態で水に分散させ、さらにそれを乳化液に混合することにより、4−ビフェニル酢酸の一部が微結晶状態で分散している部分溶解状態(部分溶解型)のクリーム製剤が得られる。これにより、4−ビフェニル酢酸の結晶拡大が防止されて微結晶状態の4−ビフェニル酢酸が経時的に安定して維持されるようになるため、塗布面の「ザラツキ」や使用感の悪化が十分に防止されるようになる。
【0039】
なお、このような本発明の消炎鎮痛クリーム製剤において達成される微結晶状態としては、
(i)前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸の平均粒子径が5〜100μmの状態、及び/又は、
(ii)前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸が200μm以下の粒子径を有するもののみである状態、
であることが好ましい。そして、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤においては、密封状態で40℃の条件下で1ヶ月保存した後においても、前記4−ビフェニル酢酸の一部が微結晶状態で分散しており、前記(i)及び(ii)の状態が維持されるようになる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
スクワラン3.0質量部、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリド3.0質量部、l−メントール3.0質量部、N−メチル−2−ピロリドン5.0質量部、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル3.0質量部及びメチルパラベン0.2質量部を70℃に加温して溶解せしめ、得られた油相成分を67.8質量部の精製水に投入して攪拌し、乳化液を得た。次に、得られた乳化液に、カルボキシビニルポリマー1.0質量部と微粉砕状態(平均粒子径:約70μm)の4−ビフェニル酢酸3.0質量部とを10質量部の精製水に分散せしめた水分散液を添加して混合し、更にジエタノールアミン1.0質量部を加えて混合して、本発明の消炎鎮痛クリーム製剤を得た。
【0042】
(実施例2)
ジエタノールアミンの配合量を1.1質量部に、油相成分を投入する精製水の量を67.7質量部にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして本発明の消炎鎮痛クリーム製剤を得た。
【0043】
(実施例3)
ジエタノールアミンの配合量を1.2質量部に、油相成分を投入する精製水の量を67.6質量部にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして本発明の消炎鎮痛クリーム製剤を得た。
【0044】
(比較例1)
ジエタノールアミンの配合量を1.3質量部に、油相成分を投入する精製水の量を67.5質量部にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして比較のための消炎鎮痛クリーム製剤を得た。
【0045】
(比較例2)
ジエタノールアミンの配合量を1.4質量部に、油相成分を投入する精製水の量を67.4質量部にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして比較のための消炎鎮痛クリーム製剤を得た。
【0046】
(比較例3)
ジエタノールアミンの配合量を1.6質量部に、油相成分を投入する精製水の量を66.2質量部にそれぞれ変更すると共にカルボキシビニルポリマーの配合量を2.0質量部に変更した以外は実施例1と同様にして比較のための消炎鎮痛クリーム製剤を得た。
【0047】
各実施例及び各比較例で得られた消炎鎮痛クリーム製剤の粘度及びpHを測定し、それらの結果を処方と共に表1に示す。なお、表1中の、粘度及びpH以外の数値は「質量部」を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
<官能試験>
各実施例及び各比較例で得られた消炎鎮痛クリーム製剤を用いて、以下の方法及び基準により使用感(製剤の扱いやすさ、べたつき、よれの発生)を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0050】
すなわち、20人の被験者それぞれに、樹脂製チューブ(容量20g)に充填した各クリーム製剤を適量指に取ってから手の甲に塗擦してもらった。そして、(1)「製剤の扱いやすさ」に関しては、クリーム製剤を指に取ってから手の甲に塗擦する際にタレ等がなく(i)扱いやすかったか(ii)扱いにくかったかを評価してもらった。また、(2)「べたつき」に関しては、クリーム製剤を手の甲に塗擦して乾いた後に(i)べたつかないか(ii)べたつくかを評価してもらった。さらに、(3)「よれの発生」に関しては、クリーム製剤を手の甲に塗擦した時に(i)よれの発生がなかったか(ii)よれの発生があったかを評価してもらった。
【0051】
(1)製剤の扱いやすさの評価基準
○:「(i)扱いやすかった」が65%以上
△:「(i)扱いやすかった」が35%超65%未満
×:「(i)扱いやすかった」が35%以下。
【0052】
(2)べたつきの評価基準
○:「(i)べたつかない」が65%以上
△:「(i)べたつかない」が35%超65%未満
×:「(i)べたつかない」が35%以下。
【0053】
(3)よれの発生の評価基準
○:「(i)よれの発生がなかった」が65%以上
△:「(i)よれの発生がなかった」が35%超65%未満
×:「(i)よれの発生がなかった」が35%以下。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示した結果から明らかなとおり、実施例1〜3で得られたクリーム製剤は粘度が良好であり、患部に塗布する際の扱いやすさに優れていた。一方、製剤のpHを6.5超にした比較例1〜2で得られたクリーム製剤は粘度が不十分であり、患部に塗布する際にたれ落ちて扱い難いものであった。また、比較例3で得られたクリーム製剤においては、はpH8.2において良好な粘度を得るためにカルボキシビニルポリマーを増量したが、べたつきが多く、使用時によれが発生するため使用感が不良のものであった。
【0056】
<経時安定性試験>
各実施例及び各比較例で得られた消炎鎮痛クリーム製剤を樹脂製チューブ(容量20g)に入れて密封した状態で40℃の条件下で1ヶ月保存し、製造直後の初期における4−ビフェニル酢酸の結晶状態、1週間保存後における4−ビフェニル酢酸の結晶状態、1ヶ月保存後における4−ビフェニル酢酸の結晶状態をそれぞれ偏光顕微鏡を用いて観察した。実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた消炎鎮痛クリーム製剤についての偏光顕微鏡写真をそれぞれ図1〜6に示す。なお、図1〜6中、(a)は製造直後の初期、(b)は1週間保存後、(c)は1ヶ月保存後における結果である。
【0057】
図1〜6に示した結果から明らかなとおり、初期においては、pHが7.0以下(実施例1〜3及び比較例1〜2)のクリーム製剤では4−ビフェニル酢酸は部分溶解状態で分散しているのに対して、pHが8超(比較例3)のクリーム製剤では4−ビフェニル酢酸は完全に溶解していた。
【0058】
また、pHが6.5以下(実施例1〜3)のクリーム製剤では、40℃で1ヶ月保存しても経時的な4−ビフェニル酢酸結晶の成長は見られず、1ヶ月保存後においても4−ビフェニル酢酸は微結晶状態で製剤中に分散しており、5〜100μmの平均粒子径が維持されており、しかも200μmを超える粒子径を有する結晶は発生していないことが確認された。一方、pHが6.5超(比較例1〜2)のクリーム製剤では、40℃で1週間保存後に再結晶型の結晶が確認されるようになり、1ヶ月保存後には4−ビフェニル酢酸の結晶が更に成長して微結晶状態ではなくなっており、200μmを超える粒子径を有する結晶が発生し、塗布時にざらつき感が発生することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、消炎鎮痛効果に優れる4−ビフェニル酢酸を有効成分として含有する消炎鎮痛クリーム製剤として、比較的少量の水溶性高分子の配合であっても使用上十分な粘度を得ることができ、使用感に優れており、しかも保存時における4−ビフェニル酢酸の結晶成長が十分に抑制されて安定性に優れた消炎鎮痛クリーム製剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1で得られた消炎鎮痛クリーム製剤における、初期(a)、1週間保存後(b)、1ヶ月保存後(c)の4−ビフェニル酢酸の結晶状態を示す偏光顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得られた消炎鎮痛クリーム製剤における、初期(a)、1週間保存後(b)、1ヶ月保存後(c)の4−ビフェニル酢酸の結晶状態を示す偏光顕微鏡写真である。
【図3】実施例3で得られた消炎鎮痛クリーム製剤における、初期(a)、1週間保存後(b)、1ヶ月保存後(c)の4−ビフェニル酢酸の結晶状態を示す偏光顕微鏡写真である。
【図4】比較例1で得られた消炎鎮痛クリーム製剤における、初期(a)、1週間保存後(b)、1ヶ月保存後(c)の4−ビフェニル酢酸の結晶状態を示す偏光顕微鏡写真である。
【図5】比較例2で得られた消炎鎮痛クリーム製剤における、初期(a)、1週間保存後(b)、1ヶ月保存後(c)の4−ビフェニル酢酸の結晶状態を示す偏光顕微鏡写真である。
【図6】比較例3で得られた消炎鎮痛クリーム製剤における、初期(a)、1週間保存後(b)、1ヶ月保存後(c)の4−ビフェニル酢酸の結晶状態を示す偏光顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ビフェニル酢酸、N−メチル−2−ピロリドン、水溶性高分子、界面活性剤、pH調整剤及び水を含有し、pHが5.5〜6.5であることを特徴とする消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項2】
前記製剤の全量を基準として、前記4−ビフェニル酢酸の含有量が0.5〜5質量%、前記N−メチル−2−ピロリドンの含有量が0.5〜10質量%、前記水溶性高分子の含有量が0.1〜5質量%、前記界面活性剤の含有量が0.5〜10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項3】
前記製剤の全量を基準として2〜20質量%の油性物質を更に含有することを特徴とする請求項2に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項4】
前記油性物質として、スクワラン及び/又は中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有することを特徴とする請求項3に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項5】
前記4−ビフェニル酢酸の少なくとも一部が前記製剤中に微結晶状態で分散しており、前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸の平均粒子径が5〜100μmであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項6】
前記4−ビフェニル酢酸の少なくとも一部が前記製剤中に微結晶状態で分散しており、前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸が200μm以下の粒子径を有するもののみであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項7】
密封状態で40℃の条件下で1ヶ月保存した後において、前記4−ビフェニル酢酸の少なくとも一部が前記製剤中に微結晶状態で分散しており、前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸の平均粒子径が5〜100μmであり、且つ、前記微結晶状態の4−ビフェニル酢酸が200μm以下の粒子径を有するもののみであることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項8】
N−メチル−2−ピロリドン及び界面活性剤を含有する油相成分と水を含有する水相成分とを混合し、得られた乳化液に水溶性高分子と微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸と水とを添加及び混合し、更にpH調整剤を添加して得られる製剤のpHを5.5〜6.5に調整してなるものであることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の消炎鎮痛クリーム製剤。
【請求項9】
N−メチル−2−ピロリドン及び界面活性剤を含有する油相成分と水を含有する水相成分とを混合し、得られた乳化液に水溶性高分子と微粉砕状態の4−ビフェニル酢酸と水とを添加及び混合し、更にpH調整剤を添加して得られる製剤のpHを5.5〜6.5に調整することを特徴とする消炎鎮痛クリーム製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−69127(P2008−69127A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250949(P2006−250949)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(391031247)東光薬品工業株式会社 (9)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】