説明

消臭・抗菌・防かびのための樹脂シートおよびその内装方法

【課題】 掃除・清掃が困難な保冷車のダクト内や空調用ダクト内においての細菌やかびの繁殖を防止するとともに、その効果が持続できる抗菌性・防かび性の内装材の提供をその目的とする。
【解決手段】 本発明は、金属イオンを導入した多孔質結晶を被覆または担持した樹脂シートであって、多孔質結晶が樹脂シート面に露出しており、冷気が接触することにより結露するダクト面にこの樹脂シートを貼り付けることにより、細菌やかびの発生を抑制できること、またその効果が持続するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保冷車の冷気送風ダクト内や空調機器の送風ダクト内に貼着する消臭性・抗菌性・防かび性を有するシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、保冷車の冷気送風ダクト内や空調用ダクト内は、送風される低温の空気が接触する面に結露する。この結露に細菌やかびの菌が取り付き繁殖することがある。ダクト内は、スペースが狭く掃除することが困難なために、細菌の繁殖やかびの繁殖を防止する様々な対処方法が検討されてきた。
【0003】
特許文献1(特開2007−22884号)では、高い抗菌、抗カビ、消臭性能と調湿性を兼ね備える優れた無機成形体として、抗菌抗カビ消臭性金属のイオンを担持したゼオライトを開示している。
【0004】
特許文献2(特開2007−291203号)では、揮発性有機化合物や臭気の分解、消臭と調湿性及び抗菌性を得るために、ゼオライトを混合した塗料を用いて、建物の塗装を行っている。
【0005】
特許文献3(特開平9−26256号)では、冷蔵庫内の臭気や細菌及びかび胞子を除去するために、冷蔵庫内の冷気を循環させる通路にイオン交換多孔質物質のフィルターを用いている。
【0006】
例えば、特許文献1では、抗菌、抗かび、消臭性能の高いゼオライトを開示しているが、粉末状では使用し難いという課題がある。
また、特許文献2のように、粉末状のゼオライトを塗料に混合した場合、ゼオライトの特徴である多孔質を塗料で塞いでしまうために、ゼオライトの効果を半減してしまうという問題がある。
他の方法としては、バインダーを用いて例えば不織布や織物に付着する方法があるが、塗料と同様にバインダーによりゼオライトの細孔を塞ぐために、ゼオライトの効果を減少させてしまう。
また、特許文献3では、空気中の細菌やかび胞子はフィルターで捕集することができるが、ダクト内に取り付いた細菌やかびまでは捕集できないとう課題がある。
【0007】
【特許文献1】特開2007−22884号
【特許文献2】特開2007−291203号
【特許文献3】特開平9−26256号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、掃除・清掃が困難な保冷車の冷気送風ダクト内や空調用ダクト内においての細菌やかびの繁殖を防止するとともに、その効果が持続できる抗菌性・防かび性の内装材の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、金属イオンを導入した多孔質結晶を被覆または担持した樹脂シートを、結露するダクトの内側に貼り付けることにより、細菌やかびの発生を抑制できること、またその効果が持続することを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
本発明は、
<1>冷気の接触する面に貼り付ける、少なくとも表面に多孔質結晶の一部が露出したことを特徴とする消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート、
<2>前記多孔質結晶はゼオライトであることを特徴とする<1>記載の消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート、
<3>前記ゼオライトは金属イオン交換ゼオライトであることを特徴とする<1>乃至<2>記載の消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート、
<4>前記金属イオンが、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオンであることを特徴とする<3>記載の消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート、
<5>少なくとも表面に多孔質結晶の一部が露出した樹脂シートを、冷気の接触する面に貼り付けたことを特徴とする抗菌・防かびの内装方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、次の効果が得られる。
<1>本発明のゼオライトを担持した樹脂シートは、抗菌性、防かび性、消臭性の劣化が少なく、長期間その効果を発揮できる。
<2>本発明のゼオライトを担持した樹脂シートは、結露などの湿気による腐食が起こらないので、効果を持続することができる。
<3>本発明のゼオライトを担持した樹脂シートは、ゼオライトの存在する範囲を片側にすることができので、効果の発揮できない貼り付け面にはゼオライトがなく、ゼオライトを有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の樹脂シートとその製造方法について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0013】
本発明の樹脂シートは、結露の水分により腐食しない材質であること、樹脂シート表面にゼオライトが露出しているものであれば、ゼオライトの効果を発揮することができる。
本発明の樹脂シートを、例えば、冷凍コンテナのダクトや空調ダクトに利用する場合、ゼオライトが表面にでていない側を、ダクト面に接着剤などで貼り付ける。なお、樹脂シートは温度により収縮、膨張するため、貼り付けは一部のみを貼り付けるようにするのが好ましい。
【0014】
次に、本発明の樹脂シートの製造方法を説明する。
第一の製造方法は、まず樹脂と、ゼオライト結晶を固定できるベース粉末と、を準備する。そして、これら樹脂とベース粉末とを原料の少なくとも一部として、樹脂表面と、少なくとも当該樹脂表面の一部に固定されたベース粉末と、を有する前駆成形体を形成する。
【0015】
続いてゼオライト結晶化工程においては、前駆成形体に固定されたベース粉末にゼオライト原料液を接触させる。そして、ゼオライト原料液と接触した前駆成形体の樹脂表面において、ベース粉末に固定されたゼオライト結晶を形成させる。
この結果、その樹脂表面に、ベース粉末を介してゼオライト結晶が固定された本成形体を得ることができる。
【0016】
まず原料樹脂としては、例えば、熱可塑性汎用プラスチック、熱可塑性エンジニアリングプラスチック、熱硬化性樹脂等の合成樹脂を好ましく使用することができる。
具体的に、熱可塑性汎用プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂等を使用することができる。また、熱可塑性エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、熱可塑性ポリイミド等を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等を使用することができる。
【0017】
ベース粉末は、例えば、無機化合物の粉末を使用することができる。無機化合物としては、例えば、金属単体、非金属単体、金属錯体、酸化物、ハロゲン化物、炭化物、窒化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ゼオライトを挙げることができる。なお、これらの無機化合物うち1種類を単独で使用することができ、又は2種類以上の無機化合物を含む混合物を使用することもできる。
【0018】
具体的に、金属単体としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン等を使用することができる。また、非金属単体としては、例えば、ホウ素、ケイ素、カーボン等を使用することができる。また、酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛等を使用することができる。また、炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等を使用することができる。また、2種類以上の無機化合物を含む混合物としては、例えば、ガラス等を使用することができる。これらのうち、例えば、二酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の酸化物又は当該酸化物を含む混合物を好ましく使用することができる。
【0019】
樹脂を溶解する場合の溶媒は、少なくとも前駆成形体の形成後に表面付近から除去可能なものであれば特に限られず、任意のものを使用することができ、例えば、揮発性の有機系溶剤を好ましく使用することができる。また、水との相溶性がある溶剤を好ましく使用することができる。具体的に、例えば、アルコール類、アセトニトリル、グリコール類、アミン類等を好ましく使用することができる。
【0020】
ゼオライト結晶化のための溶液は、具体的に、例えば、前駆成形体の樹脂表面に炭酸カルシウムの粉末がベース粉末として固定されている場合には、当該炭酸カルシウム粉末に、ケイ酸ソーダとアルミン酸ソーダと水酸化ナトリウムとを溶解したゼオライト原料液を、ゼオライトの合成に適した所定の温度で所定の時間、接触させる。
【0021】
第二の製造方法は、樹脂フィルムにゼオライト粉末を混合した樹脂を主成分とした液をコーティングするものである。
まず、樹脂フィルム、ゼオライト粉末、樹脂、架橋剤及び溶剤を準備する。常温で液状の樹脂と溶剤と架橋剤を撹拌しながら混合し、さらにこの液にゼオライト粉末を投入しながら均一に混ざるように撹拌する。樹脂、溶剤、架橋剤とゼオライト粉末がほぼ均一に混合した混合液を、樹脂フィルムに滴下し、ほぼ同じ厚みでコーティングする。
【0022】
次に、混合液がコーティングされた樹脂フィルムを、常温(約10℃〜20℃)の水に数秒間浸漬し、その後、温水に数秒〜10秒間浸漬する。浸漬後、樹脂フィルムの水分をふきとり、乾燥させる。
この工程により、樹脂フィルムにコーティングされた混合液が、樹脂フィルムの表面で固化するとともに、余分な溶剤が揮発する。
【0023】
樹脂フィルムは、材質がポリプロピレンなどが用いられ、厚みは、特に限定されないが、折り曲げなどの加工性から50μm程度が好ましい。
【0024】
混合する樹脂は、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)等が用いられる。架橋剤は、エーテルエステル系可塑剤が用いられる。溶剤は、ジメチルホルムアミド(DMF)が好適に用いられる。これらの樹脂、架橋剤、溶剤により、ゼオライトの細孔を樹脂が塞ぐこともなく、また、コーティング面にゼオライト粉末の粒の大きさよりも小さな穴を多数開けることができる。
【0025】
溶剤が揮発した後のコーティング膜は、内部にゼオライトが集まり、表面には樹脂が膜となっており、樹脂フィルムと表面の膜の間を繋ぐ細い樹脂の柱状のものが無数存在する。
従って、樹脂フィルムとコーティングの間には、ゼオライトが存在するとともに、コーティング膜の面には、無数の微小な孔が存在する。
【0026】
次に、ゼオライトの金属イオン交換について説明する。
ゼオライトには、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオンを導入(イオン変換)することができる。例えば、銅イオンを含有する水溶液にゼオライトを担持した樹脂フィルムを浸漬することにより、銅イオン交換ゼオライトが得られる。
【0027】
[実施例1]
第一の製造方法により、フィルム状の本成形体を製造した。原料樹脂としては、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)の粉末(スタイラック−AS、旭化成株式会社製)を使用した。ベース粉末としては、炭酸カルシウムの粉末(特級試薬、関東化学株式会社製)を使用した。炭酸カルシウム粒子の径は0.1〜2.0μmの範囲であった。溶剤として、ジメチルホルムアミド(DMF)(特級試薬、関東化学株式会社製)を使用した。
ガラス製のビーカーに90gのDMFを入れて、マグネチックスターラーで撹拌した。次いで、このビーカーに5gのAS樹脂粉末を投入して、DMFに溶解させた。DMFにAS樹脂粉末が溶解したことを確認した後、当該AS樹脂の溶解液に5gの炭酸カルシウム粉末を投入し、撹拌することにより、DMFに溶解したAS樹脂中に炭酸カルシウムの粒子が分散されてなる複合樹脂の溶液を調製した。この複合樹脂溶液をポリスチレン製の平板上に滴下してフィルム状に延ばし、風乾させた。この結果、厚さが400μmのフィルム(以下、「フィルム状前駆成形体」という)を得た。
【0028】
次に、このフィルム状前駆成形体に対して、ゼオライト担持処理を施した。すなわち、8gのアルミン酸ソーダ溶液(NA−170、朝日化学工業株式会社製)、6gのケイ酸ソーダ(1号珪酸ソーダL2、東曹産業株式会社製)、8gの水酸化ナトリウム(特級試薬、関東化学株式会社製)、78gの水を混合して撹拌し、ゼオライト原料液としてゼオライト前駆体溶液を調製した。このゼオライト前駆体溶液とフィルム状前駆成形体とをステンレス製の密閉可能なボトルに投入し、80℃で加熱した。加熱を開始してから90分後に、フィルム状前駆成形体を取出して水洗し、乾燥させた。この結果、AS樹脂表面にゼオライト結晶が固定された、厚さが400μmのフィルム(以下、「フィルム状本成形体」という)を得た。
【0029】
また、さらに、このフィルム状本成形体に対して、銅イオン担持処理を施した。すなわち、このフィルム状本成形体を硫酸銅五水和物(特級試薬、関東化学株式会社製)の水溶液(1質量%、50℃)に15分間浸漬した。その後、フィルム状本成形体を溶液から取り出して水洗し、乾燥させた。この結果、AS樹脂表面に銅イオンを担持したゼオライトが固定された、厚さが400μmのフィルムを得た。
図1は、本フィルム表面の電子顕微鏡写真であり、フィルム表面に多数の孔があり、この孔からゼオライト粒子が見える。
【0030】
[実施例2]
第二の製造方法により、ゼオライトをコーティングしたフィルムを製造した。原料樹脂としては、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)の粉末(スタイラック−AS、旭化成株式会社製)を使用した。溶剤として、ジメチルホルムアミド(DMF)(特級試薬、関東化学株式会社製)を使用した。また、架橋剤として、エーテルエステル系可塑剤(アデカサイザーRS700:株式会社ADEKA製)を使用した。AS樹脂粉末、溶剤と架橋剤を、質量比35:60:5の割合で混合し、マグネチックスターラーで約5分間撹拌した。この混合液に、ゼオライト粉末(13X:ユニオン昭和株式会社製)を溶剤との質量比が4:5の量を投入しながら、マグネチックスターラーで約10分間撹拌し、ゼオライトを分散させた。ゼオライト粉末の混合液を、厚み50μmのポリプロピレンフィルム(以後「PPフィルム」という)に滴下した。0.003inchアプリケータを用いて、ゼオライト混合液の厚みが均一になるようにした。コーティングしたPPフィルムを室温(約20℃)の水中に60秒間浸漬し、更に、80℃の温水に5〜10秒間浸漬した。浸漬したPPフィルムを、80℃の高温室にて吊り干し乾燥させた。
更に、このPPフィルムに、銅イオン担持処理をした。銅イオン担持処理は、第一の製造方法と同様に行った。
図2は、コーティング表面の電子顕微鏡写真であり、ゼオライト粒子が表面に露出していることがわかる。このようにゼオライト粒子が樹脂に被覆されずに、露出していることにより、その吸着性等が阻害されないことがわかる。
【0031】
上記の第一および第二の製造方法で製作された2種類のゼオライトを担持した樹脂フィルムを、入り口が縦横30cm、長さ5mのダクトのほぼ中間位置に貼り付け、室温より低い約15℃の空気をエアコンを用いて送風した。ダクト内側の冷気が接触する面に、10cm×10cmの樹脂シートをそれぞれ並列に貼り付けた。ダクト内側に貼り付けた樹脂シートの表面と何も貼り付けなかったダクト表面のかびの繁殖の有無を確認した。
結果を表1にまとめた。
[表1]

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第一の製造方法で作られたゼオライト混合樹脂シートの表面拡大写真。
【図2】第二の製造方法で作られたゼオライトをコーティングした樹脂シートの表面拡大写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷気の接触する面に貼り付ける、少なくとも表面に多孔質結晶の一部が露出したことを特徴とする消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート。
【請求項2】
前記多孔質結晶はゼオライトであることを特徴とする請求項1記載の消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート。
【請求項3】
前記ゼオライトは金属イオン交換ゼオライトであることを特徴とする請求項1乃至2記載の消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート。
【請求項4】
前記金属イオンが、銅イオン、銀イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項3記載の消臭・抗菌・防かびのための樹脂シート。
【請求項5】
少なくとも表面に多孔質結晶の一部が露出した樹脂シートを、冷気の接触する面に貼り付けたことを特徴とする抗菌・防かびの内装方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−172272(P2009−172272A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15953(P2008−15953)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】