説明

液中金属の還元回収方法および還元回収装置

【課題】液中に含まれる銅やビスマス等の金属イオンを還元して効率よく回収する還元回収方法および装置を提供する。
【解決手段】金属イオン含有処理液を還元剤に接触させて該金属イオンを還元して回収する方法において、上記処理液と還元剤の接触部分を処理液の液面上方に設置することによって接触還元域を処理液の液中から分離し、還元剤に接触した処理液を下方の処理液槽に流下させ、該処理液槽に堆積する析出金属を回収することを特徴とする液中金属の還元回収方法、および、固液分離機能を有する処理液槽、該処理液槽の液面上方に設置された還元剤収納部、処理液を抜き出して還元剤収納部に送液する手段、槽底に堆積した析出金属を抜き出す手段を有することを特徴とする金属イオンの還元回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中に含まれる銅やビスマス等の金属イオンを還元して効率よく回収する還元回収方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場排水などに含まれている金属イオンを回収する方法として、これらの金属イオンよりも酸化還元電位が卑な金属を用いて金属イオン還元して析出させ、固液分離して回収する方法および装置は従来から知られている。例えば、銅イオンの鉄による回収は、次式に示すように、液中の銅イオンを鉄によって還元し、析出した銅沈殿を固液分離して回収する方法が知られている。Cu+2+Fe=Fe+2+Cu↓
【0003】
具体的には、例えば、銅製錬の溶融スラグから銅を還元回収する装置として、溶融スラグを溜める貯槽、該貯槽中の溶融スラグに接触するように吊下げられた金属鉄接触部、該接触部を上下動する手段を有し、溶融スラグに金属鉄を接触させてスラグ中の銅イオンを還元して析出させ、槽底に堆積する金属銅を回収する装置が知られている(特開平8−193229号)。
【0004】
また、排液などに含まれる銅イオンやビスマスイオンを鉄スクラップや鉄粉を用いて還元し回収する装置として以下の装置が知られている。従来の還元回収装置の概略を図9に示す。
(イ)ドラム型の還元槽に鉄スクラップと元液を供給して反応させ、鉄イオンを含む還元後液と金属銅粉ないし金属ビスマス粉を固液分離して回収する装置。
(ロ)振動する還元槽に鉄スクラップと元液を供給して反応させ、鉄イオンを含む還元後液と金属銅粉ないし金属ビスマス粉を固液分離して回収する装置(米国特許第4201573号公報記載)。
(ハ)還元槽内にコーン型の網状収納部が設けられており、該収納部に鉄スクラップを入れ、槽底から元液を鉄スクラップが浸るように供給し、鉄イオンを含む還元後液を槽上部から溢流させ、金属銅粉ないし金属ビスマス粉を槽底から回収する装置。
(ニ) コーン型の還元槽内に、槽底から供給される元液と槽内に上部から投入される鉄粉とを反応させ、鉄イオンを含む還元後液と金属銅粉ないし金属ビスマス粉を固液分離して回収する装置(米国特許第3154411号公報記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−193229号公報
【特許文献2】米国特許第4201573号公報
【特許文献3】米国特許第3154411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の還元回収装置は、本出願人によって提案されたものであり、金属鉄接触部を上下動することによって還元反応を制御し、溶融スラグから銅を効率よく簡単に還元回収することができる利点を有している。ただし金属鉄接触部の上下動手段を必要とする。
【0007】
上記(イ)〜上記(ニ)の装置は何れも接触還元域が処理液の液中であるため還元反応を制御するのが難しいと云う問題がある。さらに、上記(イ)の装置は鉄スクラップが液中に混在するので固液分離に手間がかかる。また、上記(ロ)の装置は装置全体を振動させるエネルギー消費が多いため経済的に不利である。さらに、上記(ニ)の装置は、鉄粉を用いるので還元反応は早いが、反応のコントロールが難しい。このため還元反応が過剰に進行し、水素ガスなどが発生する問題がある。また鉄スクラップに比べて鉄粉末は価格が高いので経済的に不利である。さらに、鉄粉が回収金属粉中に混入しやすく、また通液量に等しい大量の金属粉含有スラリーを固液分離する必要がある。
【0008】
このため、上記(ハ)の装置が広く使われているが、液中での還元反応であるので、反応を直ぐに止められず、温度コントロールやガス発生時の対策を施し難い問題がある。
【0009】
本発明は従来の回収方法ないし回収装置における上記問題を解決したものであり、金属イオンを含有する処理液と還元剤の接触部分を処理液の液面上方に設置することによって接触還元域を該処理液の液中から分離し、還元反応を制御しやすくし、また還元剤が処理液に混入するのを抑制して析出金属の回収を容易にし、処理液槽内で析出金属と上澄み処理液とを分離させることによって、析出金属の回収を容易にすると共に、上澄み処理液を再利用する液中金属の還元回収方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって従来の問題を解決した、液中金属の還元回収方法および装置に関する。
〔1〕 金属イオン含有処理液を還元剤に接触させて該金属イオンを還元して回収する方法において、上記処理液と還元剤の接触部分を処理液の液面上方に設置することによって接触還元域を処理液の液中から分離し、還元剤に接触した処理液を下方の処理液槽に流下させ、該処理液槽に堆積する析出金属を回収することを特徴とする液中金属の還元回収方法。
〔2〕 処理液の一部を抜き出し、該処理液槽の液面上方に設置された還元剤に注ぎ入れて処理液と還元剤を接触させ、析出した金属と共に処理液を処理液槽に流下させ、処理液槽は固液分離機能を有しており、析出金属を槽底に沈下させ、一方、槽上部の上澄み処理液を抜き出して還元剤に接触させ、槽底に堆積した析出金属を回収する上記[1]に記載する還元回収方法。
〔3〕 処理液が銅、ビスマス、ヒ素、アンチモンの少なくとも一種を含有し、還元剤として鉄スクラップを用い、処理液に含まれる上記金属イオンを還元して回収する上記[2]に記載する還元回収方法。
〔4〕 固液分離機能を有する処理液槽、該処理液槽の液面上方に設置された還元剤収納部、処理液を抜き出して還元剤収納部に送液する手段、槽底に堆積した析出金属を抜き出す手段を有することを特徴とする金属イオンの還元回収装置。
〔5〕 還元剤収納部が網材または多孔材料によって形成されており、該還元剤収納部に鉄スクラップが収納されている上記[4]に記載する還元回収装置。
〔6〕 処理液槽と共に貯槽が設けられており、処理液が貯槽に供給されると共に、処理液槽の上澄み処理液が貯槽に導入され、処理液を抜き出して還元剤収納部に送液する手段が貯槽に接続している上記[4]または上記[5]に記載する還元回収装置。
〔7〕 処理液の一部を抜き出して還元剤収納部に送る手段として、メカニカルポンプまたはエアリフトが設けられている上記[4]〜上記[6]の何れかに記載する還元回収装置。
〔8〕 処理液を還元剤収納部に送る管路に加熱手段が設けられており、該処理液の温度調節ができる上記[4]〜上記[7]の何れかに記載する還元回収装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の還元回収方法および装置は、処理液と還元剤の接触還元域が液中から分離されており、還元剤を処理液に浸す方法ではなく、鉄スクラップなどの還元剤の表面を処理液が流下する構成であるので、還元剤表面が処理液によって洗われる状態になり、還元剤表面の処理液の流速が大きく、還元剤表面に析出する金属粒子を引き剥がす力が増し、還元反応が促進する。
【0012】
本発明の還元回収方法および装置では、処理液と共に処理液槽に流下した析出金属は処理液槽の底部に溜まり、一方、処理液上部は析出金属が除かれた上澄みの処理液になり、析出金属と上澄み処理液が槽内で分離する。この上澄み処理液を抜き出し、再び還元剤収納部に戻して還元剤に流し込み、還元反応に利用することができるので、効率よく還元反応を進めることができ、また処理液を繰り返し循環して使用するので低コストで液中金属を回収することができる。
【0013】
さらに、処理液を槽内から抜き出して還元反応に使用するので、処理液の液温および液量の制御が容易であり、還元反応を制御しやすい。また、処理液を還元剤収納部に送液する手段として、この送液管路に圧縮した空気または不活性ガスまたは還元性ガスまたは圧縮水蒸気を導入して処理液を揚水するエアリフトを用いれば処理液に金属粉が混入しても支障なく装置を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の還元回収装置の概略断面図。
【図2】エアリフトを用いた本発明還元回収装置の概略断面図。
【図3】他のエアリフトを用いた本発明還元回収装置の概略断面図。
【図4】貯槽を設けた本発明の還元回収装置の概略断面図。
【図5】貯槽の内部に他の加熱手段を設けた本発明の還元回収装置の概略断面図。
【図6】貯槽にエアリフトを設けた本発明の還元回収装置の概略断面図。
【図7】貯槽に他のエアリフトを設けた本発明の還元回収装置の概略断面図。
【図8】(イ)〜(ト)、実施例2の結果を示すグラフ。
【図9】従来の装置構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の還元回収方法および装置について、以下、実施形態に基づいて具体的に説明する。
〔還元回収方法〕
本発明の還元回収方法は、金属イオン含有処理液を還元剤に接触させて該金属イオンを還元して回収する方法において、上記処理液と還元剤の接触部分を処理液の液面上方に設置することによって接触還元域を処理液の液中から分離し、還元剤に接触した処理液を下方の処理液槽に流下させ、該処理液槽に堆積する析出金属を回収することを特徴とする液中金属の還元回収方法である。
【0016】
本発明の還元回収方法は、処理液と還元剤の接触還元を処理液の液面上方で行い、還元剤と接触した処理液を、還元反応によって析出した金属と共に下方の処理液槽に流下させる。処理液と還元剤の接触部分を処理液の液面上方に設置することによって接触還元域が処理液の液中から分離されている。一方、従来の上記(イ)〜上記(ニ)の装置は何れも鉄スクラップや鉄粉を処理液に投入しあるいは処理液に浸漬する構成であり、接触還元域は液中である。このため従来の還元回収方法および装置は還元反応を制御し難く、また還元剤の鉄スクラップ表面に析出金属が付着して還元反応が遅くなるなどの問題がある。
【0017】
本発明の還元回収方法および装置は、接触還元域が処理液の液中から分離されており、処理液の液面上方で接触還元を行うので、処理液の液量や液温を容易に制御することができ、また、鉄スクラップなどの還元剤の表面を処理液が流下するので、還元剤表面が処理液によって洗われる状態になり、還元剤表面の処理液の流速が大きいため、還元剤表面に析出する金属粒子を引き剥がす力が増し、還元反応を促進する。
【0018】
処理液は処理液槽から抜き出して接触還元部に送り、還元剤収納部に流し入れて還元剤と接触させ、処理液中の金属イオンを還元する。処理液の液量は還元剤の使用量に応じて調整すればよい。処理液として、例えば、銅製錬工程で生じる液などを用いることができる。
【0019】
還元剤は処理液に含まれる金属よりも卑な金属スクラップが用いられる。具体的には、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)などを含む処理液について、還元剤としては鉄が好ましい。還元剤の鉄は鉄粉よりも鉄スクラップが好ましい。鉄粉は板状または塊状の鉄スクラップに比べて表面積が大きく、還元反応も早いが処理液と共に流下して処理液槽の底部に溜まり、ガス発生の原因になり、または析出金属に混入することもしばしば見られるので好ましくない。処理液に含まれる銅、ビスマス、ヒ素、アンチモンは接触還元時間および液温に比例して析出量が増加する。
【0020】
鉄スクラップを用いた場合、処理液に含まれるスズ、ニッケルは殆ど還元されずに液中に残る。従って、銅やビスマスと共にスズ、ニッケルを含む処理液について、鉄還元によって、銅およびビスマスのグループと、スズおよびニッケルのグループとを分離することができる。また、処理液に鉛が含まれている場合、鉛は還元反応の液温が50℃以下ではある程度析出するが、液温が60℃以上では殆ど析出しないので、液温を調整することによって、鉛を液中に残し、または一部を析出させて液中から除去することができる。
【0021】
本発明の還元回収方法および装置は、鉄スクラップなどの還元剤の表面を流れた処理液を析出金属と共に処理液槽に流下させる。この処理液槽は固液分離機能を有しており、処理液槽に流下したスラリー状の析出金属は槽底に沈下し、槽上部は析出金属が除かれた上澄み処理液になる。この上澄み処理液を抜き出し、再び還元剤収納部に戻して還元剤に流し込み、還元反応に利用することができる。槽低に堆積した析出金属は槽底の排出口から抜き出して回収する。
【0022】
本発明の還元回収方法および装置によれば、スラリー状の析出金属は処理液槽の底部に沈下し、槽上部は上澄み処理液になり、この処理液を抜き出して繰り返し循環して使用することができるので還元反応を効率よく進めることができ、かつ低コストで液中金属を回収することができる。
【0023】
〔還元回収装置〕
本発明の還元回収装置の構成例を図1〜図7に示す。
図1の装置は、処理液槽10、処理液槽10の液面上方に設置された還元剤収納部11、処理液槽10から処理液を抜き出して還元剤収納部11に送液する循環路12と循環ポンプ13が設けられている。処理液槽10の槽底中央部には堆積したスラリー状の析出金属を抜き出す排出路15が接続しており、排出路15にはバルブ16が設けられている。排出路15の下方には受槽17が設置されている。
【0024】
還元剤収納部11は、網材または多孔質の材料によって形成されており、鉄スクラップ18を保持しつつ注入した処理液が下方に流下するように形成されている。循環路12は還元剤収納部11の上方に延びており、循環路12を通じて導入された処理液が鉄スクラップ18に流入される。
【0025】
処理液槽10の槽内は仕切板14によって区切られており、一方の槽壁側に還元剤収納部11が設けられており、他方の槽壁側に処理液の供給手段20、水蒸気供給手段21が接続している。また、これら供給手段20、21の管路が設けられている区画部分(供給管路側区画と云う)に循環ポンプ(メカニカルポンプ)13が接続している。還元剤収納部11から流れ落ちるスラリー状の析出金属は槽底に堆積し、仕切板14によって阻まれて供給管路側区画に流入しないように形成されている。循環ポンプ13によって供給管路側区画から処理液が抜き出され、循環路12を通じて還元剤収納部11に送られる。
【0026】
還元剤収納部11に送られた処理液は鉄スクラップ18に散布され、処理液に含まれる銅、ビスマスなど鉄より貴な金属イオンが鉄スクラップに接触して還元される。この還元処理によって生じたスラリー状の析出金属は処理液と共に槽内に流下して槽底に溜まり、排出路15を通じて抜き出される。このように、析出金属が槽底に沈下することによって処理液槽内で固液分離が行われ、液面付近の処理液から析出金属が除かれて上澄み処理液になる。
【0027】
析出金属が除かれた液面付近の処理液は仕切板14をオーバーフローして供給管路側区画に流入する。この部分には水蒸気供給手段21の管路が設けられており、その管端は槽底付近に延びており、該管路を通じて水蒸気が処理液に導入され、処理液が加熱される。加熱された処理液は循環ポンプ13によって抜き出され、還元剤収納部11に送られて再び還元処理に用いられる。
【0028】
還元剤収納部側の槽底には排液ポンプ19が接続しており、該ポンプ19によって還元処理を経た処理液の大部分が槽外に排出される。また、槽底に堆積したスラリー状の析出金属は排出路15を通じて受槽17に抜き出される。
【0029】
図2の装置は、処理液の循環手段として、エアリフトが用いられている。エアリフトを用いれば処理液に金属粉等が混入しても支障なく送液することができる。具体的には、図2の装置は、処理液槽10の槽内が仕切板14によって仕切られており、その供給管路側区画に、循環路12、処理液の供給手段20が設けられている。さらに、水蒸気導入手段21およびエアリフトのための圧縮ガス導入手段22が設けられている。その他の構成は図1の装置と同様である。
【0030】
循環路12は槽底から還元剤収納部11に延びており、槽底付近に圧縮ガス導入手段22の管路が接続している。該管路を通じて圧縮ガスが循環路12に導入され、これによって処理液が循環路12内で揚水され、還元剤収納部11に送液される。圧縮ガスとして空気、不活性ガス、還元作用を有する気体を用いても良い。
【0031】
水蒸気導入手段21の管路は循環路12の管内に延びており、該管路を通じて水蒸気が循環路内の処理液に導入されて処理液が加熱される。加熱された処理液は循環路12を通じて還元剤収納部11に送られ、鉄スクラップ18に散布される。処理液に含まれる銅、ビスマスなどの金属イオンは鉄スクラップに接触して還元され、この還元処理によって生じたスラリー状の析出金属は処理液と共に槽内に流下して槽底に溜まる。
【0032】
析出金属が槽底に沈下した液面付近の処理液は仕切板14をオーバーフローして供給管路側区画に流入し、再びエアリフトによって循環路12を通じて還元剤収納部11に送られ、管路を流れる間に水蒸気によって加熱され、加熱された処理液が鉄スクラップに散布され、図1の装置と同様の還元処理が行われる。スラリー状の析出金属は排出路15を通じて取り出される。
【0033】
図3の装置は、水蒸気導入手段21と圧縮ガス導入手段22の共用管路23が循環路12の内部に形成されている。処理液槽10の槽内は仕切板14によって仕切られており、その供給管路側区画部分に、循環路12と処理液供給手段20の管路が設けられている。循環路12は槽底から還元剤収納部11に延びており、その管内に水蒸気導入手段21と圧縮ガス導入手段22の共用管路23が設けられている。該管路23の上端には水蒸気導入手段21と圧縮ガス導入手段22が接続している。その他の構成は図2の装置と同様である。
【0034】
共用管路23を通じて圧縮空気などのガスと水蒸気が槽内に導入され、この圧縮ガスによって処理液が循環路12に揚水され、同時に水蒸気によって加熱される。加熱された処理液は循環路12を通じて還元剤収納部11に送液され、図1〜図2の装置と同様の還元処理が行われ、スラリー状の析出金属は排出路15を通じて取り出される。図3に示す装置構成によれば装置を小型に形成することができる。
【0035】
図4〜図7の装置は、処理液槽10に貯槽30が付設されている。処理液は貯槽30に供給され、貯槽30から還元剤収納部11に送られる。貯槽30を設けることによって、液量の調整が容易になり、また、処理液槽を小型に形成することができる。
【0036】
図4の装置は、処理液槽10には仕切板が設けられておらず、還元剤収納部11は処理液槽10の中央上部に設けられている。処理液槽10の槽底は中央に向かって傾斜しており、排出路15が接続している。還元剤収納部11は網材や多孔質材料によって形成されており、鉄スクラップ18が収納されている。還元剤収納部11に処理液が散布され、処理液に含まれる銅、ビスマスなどの金属イオンが鉄スクラップに接触して還元される。この還元処理によって生じたスラリー状の析出金属は処理液と共に槽内に流下して槽底に溜まり、排出路15を通じて受槽17に抜き出される。また、析出金属が槽底に沈下することによって処理液槽内で固液分離が行われ、液面付近の処理液から析出金属が除かれる。
【0037】
貯槽30は管路31および管路32を通じて処理液槽10に接続している。管路31は処理液槽10の液面のやや下側に設けられており、管路32は貯槽30の下部に設けられている。管路32にはバルブ33が設けられている。さらに、貯槽30には処理液の供給手段20および水蒸気導入手段21が設けられている。また貯槽30の底部から還元剤収納部11に至る循環路12が接続している。循環路12には循環ポンプ13が設けられており、排液路34が分岐して接続している。
【0038】
処理液が供給手段20を通じて貯槽30に供給されると共に、管路31を通じて処理液槽10の上澄み処理液が貯槽30に導入される。貯槽30の処理液には導入手段21を通じて水蒸気が導入され、液温が調整される。貯槽30の処理液は循環路12を通じて還元剤収納部11に送られ、鉄スクラップに散布されて還元処理が行われる。連続処理を必要としない場合には、処理液供給手段20のバルブ、または循環路12のバルブを閉め、排液路34のバルブを開けて、貯槽30内の液を循環ポンプ13によって排出する。次に、処理液槽10のバルブ33を開けて処理液槽中の液の大部分を管路32を通じて貯槽30へ流し込み、排出する。
【0039】
図5の装置は、加熱手段として、貯槽30に熱交換コイル35が設けられている。貯槽30の処理液は熱交換コイル35によって液温が調整される。その他の構成は図4の装置と同様である。
【0040】
図6の装置は、処理液の循環手段として、エアリフトが貯槽30に設けられている。具体的には、貯槽30の槽内に循環路12、処理液の供給手段20が設けられている。循環路12は槽底から還元剤収納部11に延びており、槽底付近に圧縮ガス導入手段22の管路が接続している。該管路を通じて圧縮ガスが循環路12に導入されることによって処理液が循環路12に揚水され、還元剤収納部11に送液される。圧縮ガスとして空気に代えて、窒素などの不活性ガス、または二酸化硫黄のような還元性ガスを用いても良い。
【0041】
水蒸気導入手段21の管路は循環路12の管内に延びており、該管路を通じて水蒸気が循環路内の処理液に導入されて処理液が加熱される。加熱された処理液は循環路12を通じて還元剤収納部11に送られ、鉄スクラップ18に散布される。処理液に含まれる銅、ビスマスなどの金属イオンは鉄スクラップに接触して還元され、この還元処理によって生じたスラリー状の析出金属は処理液と共に槽内に流下して槽底に溜まる。その他の構成は図4〜図5の装置と同様である。
【0042】
処理液槽10の液面付近の上澄み処理液は管路31を通じて貯槽30に導かれ、再びエアリフトによって循環路12を通じて還元剤収納部11に送られ、管路を流れる間に水蒸気によって加熱され、加熱された処理液が鉄スクラップに散布され、図4〜図5の装置と同様の還元処理が行われる。
【0043】
図7の装置は、水蒸気導入手段21と圧縮ガス導入手段22の管路が循環路12の内部に形成されている。貯槽30の槽内に循環路12と処理液供給手段20の管路が設けられている。循環路12は槽底から還元剤収納部11に延びており、その管内に水蒸気導入手段21と圧縮ガス導入手段22の共用管路23が設けられている。該管路23の上端には水蒸気導入手段21と圧縮ガス導入手段22が接続している。その他の構成は図6の装置と同様である。
【0044】
共用管路23を通じて圧縮空気と水蒸気が貯槽30の槽内に導入され、この圧縮空気によって処理液が循環路12に揚水され、同時に水蒸気によって加熱される。加熱された処理液は循環路12を通じて還元剤収納部11に送液され、図4〜図6の装置と同様の還元処理が行われる。図7に示す装置構成によれば装置を小型に形成することができる。
【実施例】
【0045】
〔実施例1〕
図1に示す装置を用い、銅製錬工程の排液(1L)について本発明の還元回収方法を実施した。還元剤として鉄スクラップ20gを用いた。処理液の組成は表1(処理前)に示す金属イオンの他に塩酸50g/Lおよび硫酸100g/Lを含む酸性溶液である。この液温を60℃に保ち、60ml/分の流量で処理液槽から抜き出して鉄スクラップに散布し、処理液を循環して還元反応を行った。反応前の処理液の成分と20〜100分間処理したときの処理液の成分を表1に示した。
表1に示すように、ビスマス、ヒ素、銅、アンチモンの液中濃度は処理時間に比例して大幅に低下しており、回収率が高い。一方、ニッケル、錫、鉛の液中濃度は殆ど変わらず、液中に残留している。従って、ビスマス、ヒ素、銅、アンチモンの金属群と、ニッケル、錫、鉛の金属群の分離性が良い。
【0046】
【表1】

【0047】
〔実施例2〕
実施例1と同様の装置で、処理液(銅製錬排液)400mlを液温22℃〜70℃(鉛は30℃〜95℃)に調整し、循環流量500ml/分で処理液槽から抜き出して鉄スクラップに散布し、本発明の還元回収方法を実施した。この結果を図8に示した。図8(イ)はビスマスの濃度変化、(ロ)はヒ素の濃度変化、(ハ)は銅の濃度変化、(ニ)はアンチモンの濃度変化、(ホ)は鉛の濃度変化、(ヘ)はスズの濃度変化、(ト)はニッケルの濃度変化を示すグラフである。
【0048】
図5(イ)〜(ニ)に示すように、本発明の還元回収方法によれば、銅、ビスマス、ヒ素、アンチモンは液温が高いほど濃度低下が大きく、回収率が高い。一方、図5(ホ)に示すように、鉛の濃度変化は液温が低いほど大きく、液温が70℃〜95℃では濃度が殆ど変化しないが、液温20℃〜50℃では鉛の濃度が低下する。また、図5(ヘ)(ト)に示すように、スズとニッケルは液温にかかわらず濃度は殆ど変化しない。
【符号の説明】
【0049】
10−処理液槽、11−還元剤収納部、12−循環路、13−循環ポンプ、14−仕切板、15−排出路、16−バルブ、17−受槽、18−鉄スクラップ、19−排液ポンプ、20−処理液供給手段、21−水蒸気導入手段、22−圧縮ガス導入手段、23−共用管路、30−貯槽、31−管路、32−管路、33−バルブ、34−排液路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン含有処理液を還元剤に接触させて該金属イオンを還元して回収する方法において、上記処理液と還元剤の接触部分を処理液の液面上方に設置することによって接触還元域を処理液の液中から分離し、還元剤に接触した処理液を下方の処理液槽に流下させ、該処理液槽に堆積する析出金属を回収することを特徴とする液中金属の還元回収方法。
【請求項2】
処理液の一部を抜き出し、該処理液槽の液面上方に設置された還元剤に注ぎ入れて処理液と還元剤を接触させ、析出した金属と共に処理液を処理液槽に流下させ、処理液槽は固液分離機能を有しており、析出金属を槽底に沈下させ、一方、槽上部の上澄み処理液を抜き出して還元剤に接触させ、槽底に堆積した析出金属を回収する請求項1に記載する還元回収方法。
【請求項3】
処理液が銅、ビスマス、ヒ素、アンチモンの少なくとも一種を含有し、還元剤として鉄スクラップを用い、処理液に含まれる上記金属イオンを還元して回収する請求項1または請求項2に記載する還元回収方法。
【請求項4】
固液分離機能を有する処理液槽、該処理液槽の液面上方に設置された還元剤収納部、処理液を抜き出して還元剤収納部に送液する手段、槽底に堆積した析出金属を抜き出す手段を有することを特徴とする金属イオンの還元回収装置。
【請求項5】
還元剤収納部が網材または多孔材料によって形成されており、該還元剤収納部に鉄スクラップが収納されている請求項4に記載する還元回収装置。
【請求項6】
処理液槽と共に貯槽が設けられており、処理液が貯槽に供給されると共に、処理液槽の上澄み処理液が貯槽に導入され、処理液を抜き出して還元剤収納部に送液する手段が貯槽に接続している請求項4または請求項5に記載する還元回収装置。
【請求項7】
処理液の一部を抜き出して還元剤収納部に送る手段として、メカニカルポンプまたはエアリフトが設けられている請求項4〜請求項6の何れかに記載する還元回収装置。
【請求項8】
処理液を還元剤収納部に送る管路に加熱手段が設けられており、該処理液の温度調節ができる請求項4〜請求項7の何れかに記載する還元回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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