説明

液体カルコゲナイド組成物ならびにそれを製造および使用する方法

本発明は、カルコゲナイドまたはその塩を含む新規かつ安定な液体組成物を提供する。これらの組成物については、虚血または低酸素傷害の処置および防止ばかりでなく、生物物質の保存など、種々の目的で使用することができる。一実施形態では、本発明は、薬学的に許容されるキャリア内に安定な液体医薬カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体を含む組成物であって、該カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物または塩の濃度、pHおよび酸化生成物が前記液体医薬組成物の保存後も許容基準の範囲内にとどまる、組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2007年3月23日に出願された米国仮出願第60/897,727号および2006年10月5日に出願された米国仮出願第60/894,900号(これらの全体の内容は、参考として本明細書に援用される)の出願日の利益を主張する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、全般的には液体カルコゲナイド組成物に関し、より詳細にはカルコゲナイドを含む安定な液体医薬組成物に関する。本発明はさらに、傷害、疾患および早期の死亡から細胞および動物を保護するそうした組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
関連分野の説明
カルコゲン元素、すなわち、周期表第6族(ただし、オキシドを除く)の元素を含む化合物は一般に、「カルコゲナイド」または「カルコゲナイド化合物」と呼ばれる。カルコゲン元素には、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)およびポロニウム(Po)がある。普通のカルコゲナイドは、S、SeおよびTeの1種または複数種に加えて他の元素を含む。
【0004】
最近、カルコゲナイドで処置すると、生物物質のステイシスが誘導され、生物物質が低酸素および虚血傷害から保護されることが明らかにされている。こうした研究では、酸素消費の強力な阻害剤である硫化水素(HS)ガスにより代謝が抑えられ、低酸素傷害からマウスおよびラットが保護され得ることが証明された(特許文献1)。硫化水素ガスは一般に医療ガスと考えられておらず、こうした結果は予想外であるが、多くの動物およびヒト疾患、特に低酸素および虚血に関係する疾患および傷害を処置または防止できる大きな可能性を示している。
【0005】
ある種のカルコゲナイド化合物(硫化水素およびセレン化水素など)は、酸素と化学反応する能力があるため酸素の存在下で安定ではなく、酸化されて化学変化を起こす。たとえば、スルフィドは、化学変化を起こすと安定性が低下し、有効期間が短くなり、さらに製造、保存または使用の過程で酸化生成物が混入する恐れがあることから、医薬品としての使用が制限される。スルフィドの酸化剤としては、酸素、二酸化炭素および酸化生成物(スルフィット、スルファート、チオスルファート、ポリスルフィド、ジチオナート、ポリチオナートおよび硫黄元素など)の混合物を生成し得る固有の金属不純物が考えられる。このように、スルフィドは保存中に急速に酸化されるため、医薬剤としての使用が制限される。
【0006】
カルコゲナイドによる処置が必要な細胞または患者に薬理効果を与えるため、安定していて、簡便かつ再現性よく製造でき、標準的な投与経路を対象とする最終剤形が求められている。当該技術分野においてスルフィドを含む医薬組成物など、カルコゲナイドの安定な液体医薬組成物が望まれているのは明らかである。スルフィドは、HSあるいはその塩(たとえば、NaHS、NaSなど)のように−2価の原子価状態にある硫黄と定義され、たとえば、緊急時の当該分野における処置剤として疾患の処置のための管理された医療環境において、あるいは重篤な傷害または生命を脅かす医学的事象に伴う救命救急医療において手軽に患者に投与できる。本発明は、新規かつ安定なカルコゲナイドの液体医薬組成物を提供することでこうしたニーズに応える。本明細書では、この組成物が低酸素および/または虚血状態のほか、他の傷害および疾患状態に起因する傷害および死から動物を保護することが証明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第05/041655号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カルコゲナイドの液体組成物と同組成物の調製方法および使用方法とを提供する。
【0009】
一実施形態では、本発明は、薬学的に許容されるキャリア内に安定な液体医薬カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体を含む組成物であって、該カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物または塩の濃度、pHおよび酸化生成物が前記液体医薬組成物の保存後も許容基準の範囲内にとどまる、組成物を提供する。
【0010】
種々の実施形態では、カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩は、HS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrSおよびBaSからなる群より選択される。
【0011】
他の実施形態では、カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩は、HSe、NaSe、NaHSe、KSe、KHSe、RbSe、CSSe、(NHSe、(NH)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSe、PoSeおよびBaSeからなる群より選択される。
【0012】
特定の実施形態では、カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩はスルフィドであり、濃度が95mM〜150mMである。
【0013】
該カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩がスルフィドである特定の実施形態では、該スルフィドは、w/vで、約80%〜約100%、約90%〜100%または約95%〜100%の範囲の量で存在する。
【0014】
特定の実施形態では、この液体は水酸化ナトリウムである。
【0015】
ある実施形態では、この組成物のpHは6.5〜8.5の範囲にある。
【0016】
一実施形態では、この組成物の酸素含有量は5μM以下である。
【0017】
一実施形態では、この組成物は、ポリスルフィド、スルフィット、スルファートおよびチオスルファートから選択される1種または複数種の酸化生成物をさらに含む。酸化生成物は、(0%〜1.0%)の範囲のスルファートまたは(0%〜1.0%)の範囲のスルフィットまたは(0%〜1%)の範囲のポリスルフィドまたは(0%〜1.0%)の範囲のチオスルファートであってもよい。
【0018】
保存期間は、(23°〜27°)の範囲で約3ヶ月であってもよいし、(23°〜27°)の範囲で6ヶ月であってもよい。
【0019】
一実施形態では、組成物の浸透圧モル濃度は、250〜330mOsmol/Lの範囲にある。組成物は、等張でもほぼ等張でもよい。
【0020】
ある実施形態では、組成物を不透過性の容器に保存する。
【0021】
他の実施形態では、組成物はキレート剤をさらに含む。キレート剤は、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA:diethylenetriaminepentaacetic acid)でもデフェロキサミンでもよい。DTPAは、0.1mM〜1.0mMの範囲で存在してもよい。デフェロキサミンは、0.1mM〜1mMの範囲で存在してもよい。
【0022】
一実施形態では、この組成物はpH改変剤(pH modifying agent)をさらに含む。pH改変剤については、二酸化炭素、水酸化ナトリウム、塩酸または硫化水素からなる群より選択してもよい。
【0023】
別の実施形態では、この組成物は還元剤をさらに含む。還元剤については、ジチオスレイトール(DTT:dithiothreitol)またはグルタチオンからなる群より選択してもよい。ジチオスレイトール(DTT)の量は、0.1mM〜1Mの範囲でもよい。グルタチオンの量は、0.1mM〜1Mの範囲でもよい。
【0024】
さらなる実施形態では、この組成物はフリーラジカルスカベンジャーをさらに含む。フリーラジカルスカベンジャーは、(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸)(Trolox)またはトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)からなる群より選択してもよい。フリーラジカルスカベンジャーは、スピントラップ剤(spin−trap agent)であってもよい。フリーラジカルスカベンジャーは、N−t−ブチル−フェニルニトロン(PBN)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)からなる群より選択してもよい。
【0025】
別の実施形態では、この組成物は防腐剤をさらに含む。防腐剤は、ベンジルアルコール、フェノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンまたは塩化ベンザルコニウムからなる群より選択してもよい。防腐剤は、ベンジルアルコール(0%〜2.0%)(w/v)、フェノール(0%〜0.5%)(w/v)、メチルパラベン(0%〜0.25%)(w/v)、エチルパラベン(0%〜0.25%)(w/v)、プロピルパラベン(0%〜0.25%)(w/v)、ブチルパラベン(0%〜0.4%)(w/v)、塩化ベンザルコニウム、(0%〜0.02%)(w/v)の範囲で存在してもよい。
【0026】
一実施形態では、1当量の硫化水素ガスを1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解し、その結果得られた組成物は、pHが6.5〜8.5の範囲、浸透圧モル濃度が250〜330mOsmol/Lの範囲、酸素含有量が5μM以下であり、3ヶ月間の保存後に0%〜3.0%(w/v)の範囲の酸化生成物を含む。
【0027】
関連する実施形態では、1当量の硫化水素ガスを1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解し、その結果得られた組成物は、pHが6.5〜8.5の範囲、浸透圧モル濃度が250〜330mOsmol/Lの範囲、酸素含有量が5μM以下であり、5ヶ月間の保存後に0%〜2.0%(w/v)の範囲の酸化生成物を含む。
【0028】
関連するさらなる実施形態では、1当量の硫化水素ガスを1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解し、その結果得られた組成物(omposition)のpHが7.5〜8.5の範囲、浸透圧モル濃度が250〜330mOsmol/Lの範囲、酸素含有量が5μM以下であり、5ヶ月間の保存後に1%〜2.0%(w/v)の範囲の酸化生成物を含む。
【0029】
本発明はさらに、動物への投与に好適なスルフィドの液体組成物を調製する方法であって、
(a)1当量の硫化水素ガスを1当量の液体に溶解し、それによりスルフィド組成物を製造すること;および
(b)ステップ(a)で得られた組成物のpHを6.5〜8.5の範囲のpHに調整すること
を含み、それにより該組成物から動物への投与に好適なスルフィドの液体組成物を生成する、方法も提供する。
【0030】
ある実施形態では、pHを、1つまたは複数または塩化水素、二酸化炭素、水酸化ナトリウムおよび硫化水素を加えて調整する。他の実施形態では、pHを、窒素、二酸化炭素および/または硫化水素をステップ(a)で得られた組成物に溶解して調整する。また、pHを、窒素と二酸化炭素の組み合わせまたは窒素と硫化水素の組み合わせをステップ(a)で得られた組成物に溶解して調整してもよい。さらに、硫化水素をステップ(a)で得られた組成物に溶解してpHを調整しても構わない。
【0031】
この方法は、ステップ(b)で得られた組成物の浸透圧モル濃度を250〜350mOsmol/Lの範囲の浸透圧モル濃度に調整することをさらに含んでもよい。
【0032】
この方法は、ステップ(b)で得られた組成物を不活性雰囲気または希ガス下で遮光バイアルに分注することをさらに含んでもよい。
【0033】
この方法は、ステップ(b)で得られた組成物に賦形剤を加えることをさらに含んでもよい。
【0034】
この方法の特定の実施形態では、約6ヶ月間の酸素含有量は5μM以下である。
【0035】
別の実施形態では、本発明は、カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩の組成物を含む1つまたは複数の容器を含むキットを含み、該組成物のpHの範囲は6.5〜8.5である。
【0036】
一実施形態では、容器は、琥珀色バイアルのように遮光性がある。別の実施形態では、容器はガス不透過性である。
【0037】
ある種のキットでは、組成物を不活性雰囲気または希ガス下で該容器に保存する。
【0038】
特定の実施形態では、不活性ガスまたは希ガスは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)またはラドン(Rn)であってもよい。
【0039】
関連するさらに別の実施形態では、本発明は、虚血または低酸素状態にさらされた生物学的物質のヒト疾患または傷害を処置する方法であって、生物学的物質を有効量のカルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩の組成物と接触させることを含む、方法を提供する。
【0040】
種々の実施形態では、その接触を、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所(topically)、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、眼内、皮下、結膜下(subconjunctival)、小胞体内(intravesicularlly)、粘膜、心膜内、臍帯内、イントラオクララリー(intraocularally)、経口、局所(locally)においてか、注射、注入、持続注入、吸収、吸着、浸漬、局所灌流、カテーテルまたは洗浄により行う。
【0041】
特定の実施形態では、該カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩は、HS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrSおよびBaSからなる群より選択される。
【0042】
特定の実施形態では、該カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩は、HSe、NaSe、NaHSe、KSe、KHSe、RbSe、CSSe、(NHSe、(NH)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSeおよびBaSeからなる群より選択される。
【0043】
一実施形態では、虚血または低酸素状態は、生物学的物質の傷害、生物学的物質に悪影響を及ぼす疾患の発症もしくは進行または生物学的物質の大量出血(hemorrhaging)に起因する。
【0044】
別の実施形態では、生物学的物質を、傷害の前、疾患の発症もしくは進行の前または生物学的物質の大量出血の前に組成物と接触させる。
【0045】
異なる実施形態では、生物学的物質を、傷害の後、疾患の発症もしくは進行の後または生物学的物質の大量出血の後に組成物と接触させる。
【0046】
一実施形態では、傷害は外部の物理的原因に起因する。
【0047】
特定の実施形態では、傷害は手術である。
【0048】
ある実施形態では、生物学的物質における傷害、疾患の発症もしくは進行または大量出血に起因する損傷または死から生物学的物質を保護する一定の量および期間で生物学的物質を組成物と接触させる。
【0049】
関連する実施形態では、生物学的物質は、細胞、組織、器官、生命体および動物からなる群より選択される。具体的な実施形態では、生物学的物質は動物であり、さらに具体的な実施形態では、その動物は、哺乳動物またはヒトである。
【0050】
一実施形態では、生物学的物質は、血小板を含む。
【0051】
別の実施形態では、生物学的物質を移植する。
【0052】
なお別の実施形態では、生物学的物質は、再灌流障害の危険がある。
【0053】
特定の一実施形態では、生物学的物質は、出血性ショックの危険がある。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】スルフィドの濃度が酸素分子の濃度よりも高いとき([スルフィド]>[O])、pH7.0〜9.0の範囲で検出されるスルフィドの酸化種を示す図である。
【図2】pH7.0〜9.0の範囲のスルフィド水溶液中で検出される酸化生成物を示す図である。
【図3】HSの液体組成物(液体医薬組成物IV)の3種類の調製物におけるスルフィドのレベルを経時的に示すグラフである。
【図4】HSの組成物(液体医薬組成物IV)におけるスルフィドの安定性を、合成キレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)を使用して製造した組成物と、使用せずに製造した組成物で129日間にわたり比較したグラフである。
【図5A】無酸素環境においてDTPAの非存在下で調製した硫化水素(HS)の液体組成物(液体医薬組成物IV)中の、129日間にわたり測定した酸化生成物(すなわち、スルフィット、ポリスルフィド、チオスルファート、スルファートおよび37分に同定された未知の酸化生成物)のレベルを示すグラフである。
【図5B】無酸素環境においてDTPAの存在下で調製した硫化水素(HS)の液体組成物(液体医薬組成物IV)中の、129日間にわたり測定した酸化生成物(すなわち、スルフィット、ポリスルフィド、チオスルファート、スルファートおよび37分に同定された未知の酸化生成物)のレベルを示すグラフである。
【図6】129日間にわたって所定の間隔で測定したスルフィドの液体組成物、97mMのHS(液体医薬組成物IV)のpHレベルを示すグラフである。
【図7A】液体医薬組成物IVのボーラス注射後の尿中におけるチオスルファート排出量を示すグラフである。グラフは、表示した投与後の時点でラット尿中において測定されたチオスルファートの量を示す。
【図7B】液体医薬組成物IVのボーラス注射後の尿中におけるスルファート排出量を示すグラフである。グラフは、表示した投与後の時点でラット尿中において測定されたスルファートの量を示す。
【図8A】液体医薬組成物IVのボーラス注射(1mg/kg)後にラットにおいて240分間にわたり測定したチオスルファートの血中レベルを示すグラフである。この研究では、血液を頸動脈から採取し、サンプルをPFBBrで誘導体化し、GC−MSにより解析した。
【図8B】液体医薬組成物IVのボーラス注射(1mg/kg)後にラットにおいて240分間にわたり測定したスルフィドの血中レベルを示すグラフである。この研究では、血液を頸動脈から採取し、サンプルをPFBBrで誘導体化し、GC−MSにより解析した。
【図9】NaS(液体医薬組成物I)を注入し、低酸素状態(4%O)にさらしたマウス(MJVC07)の中核体温を経時的に示すグラフである。注入の開始時間および中止時間と低酸素状態への曝露開始時間および中止時間とを表示してある。
【図10】低酸素(4%O)にさらしたC57BL/6マウスの、経時的に測定した生存率を、ビヒクルを注入したマウスとNaS(液体医薬組成物I)の注入で処置したマウスで比較したカプランマイヤーグラフである。
【図11】表示量の液体医薬組成物IVで処置したマウスの血清中AST(aspartate aminotransferase)およびALT(alanine aminotransferase)レベルを示すグラフである。ASTのレベルは、検査対象の最高濃度(3.0mg/kg)で統計学的に有意な低下が認められた。ALTのレベルは、ビヒクルと比較して3つの処置群(0.3mg/kg、1.0mg/kgおよび3.0mg/kg)で低下した。統計学的に有意なp値0.05(*)およびp<0.01(**)を表示してある。
【図12】表示量のスルフィドの液体医薬組成物で処置したマウスのLV(left ventricle)比またはAAR(area at risk)比を示すグラフである。統計学的に有意なp値0.05(*)およびp<0.01(**)を表示してある。
【図13A】液体医薬組成物IVの存在下または非存在下で氷冷リンゲル液により処置したブタの中核体温を示すグラフである。p値を示してある2つの実験から得られた結果を示す。
【図13B】液体医薬組成物IVの存在下または非存在下で氷冷リンゲル液により処置したブタの中核体温を示すグラフである。p値を示してある2つの実験から得られた結果を示す。
【図14】対照ビヒクルまたは液体医薬組成物IVの存在下で虚血および再灌流を施したブタの梗塞サイズを示すグラフである。
【図15】対照ビヒクルまたは液体医薬組成物IVの存在下で虚血に反応したイヌの前負荷動員一回仕事量(PRSW:preload recruitable stroke work)の減少を示すグラフである。
【図16】対照ビヒクルまたは液体医薬組成物IVで前処置した動物のAAR比(pecent)またはLV比(pecent)を示すグラフである。
【図17A】左心室機能が対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下で心肺バイパス前後の動物であることを示す。対照ビヒクルまたは非経口硫化水素の存在下における心肺バイパス前後両方の動物の左心室dP/dTを示すグラフである。
【図17B】左心室機能が対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下で心肺バイパス前後の動物であることを示す。対照ビヒクルまたは非経口硫化水素の存在下における心肺バイパス前後両方の動物のPRSWを示すグラフである。
【図18】インビボでの内皮細胞機能を示すグラフで、対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下での心肺バイパス前後の動物のDCBF(coronary blood flow)[%]を示す。
【図19A】対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下のエキソビボでの内皮機能を示す。対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下で心肺バイパスを使用してまたは使用せずにアセチルコリンに反応する血管弛緩を示すグラフである。
【図19B】対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下のエキソビボでの内皮機能を示す。対照ビヒクルまたは硫化水素の存在下で心肺バイパスを使用してまたは使用せずにSNPに反応する血管弛緩を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0055】
カルコゲナイドを含む組成物とその調製および使用に有用な方法とを提供する。この組成物は、安定なカルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしく前駆体の液体組成物であり、通常は、液体での製造および保存の過程で酸化生成物を生成する酸化反応により治療薬としての有効性が損なわれる。本発明の液体組成物は、有効期間が長く、簡便かつ再現性よく製造され、標準的な投与経路に合わせて設計されており、液体またはガス状カルコゲナイド組成物が以前に考えられていた疾患および症候の処置および防止にも優れている。本発明に関しては、生物学的物質にステイシスまたはプレステイシスを誘導する方法ばかりでなく生物学的物質を疾患または傷害、特に虚血または低酸素傷害から保護する方法における使用を意図している。
【0056】
A.安定なカルコゲナイド液体医薬組成物
本発明は、カルコゲナイドを含む安定な液体組成物およびその調製に有用な方法を対象とする。本発明では、医薬組成物に対する「液体」という語は、「水性」という語を含むものとする。
【0057】
一態様では、本発明は、安定な液体医薬組成物であって、カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体を含み、該液体医薬組成物を事前に指定した期間保存した後、該カルコゲナイドの濃度、pHおよび酸化生成物が許容基準(限界値、数値範囲または記載した各試験の他の基準)の範囲内にとどまる、組成物に関する。
【0058】
本明細書で使用する場合、「安定な」とは、活性カルコゲナイド組成物の濃度、そのpHおよび/またはカルコゲナイド酸化生成物が許容基準の範囲内にとどまることをいう。
【0059】
「許容基準」とは、原薬または製剤がその使用目的に対して有効と判定される際に準拠すべき一連の基準をいう。本明細書で使用する場合、許容基準は、哺乳動物に使用する製剤を対象として規定された各検査、分析手順に関する参考文献および適切な尺度のリストである。たとえば、カルコゲナイドの安定な液体医薬組成物の許容基準とは、原薬、pHおよび酸化生成物のレベルについて事前設定された一連の範囲をいい、安定性試験に基づき個々の薬剤組成物の医薬品としての使用を認めるものである。許容基準は、局所用途および化粧用途の基準など、他の製剤(formulation)の基準と異なってもよい。許容可能な標準は、業種ごとに規定されるのが一般的である。
【0060】
許容基準には様々あるが、本明細書に記載の値または範囲が米国食品医薬品局が公表する医薬品製造管理および品質管理基準(Good Manufacturing Practice Regulations)に適合すれば許容基準に含まれる。ある実施形態では、許容基準は、4℃、25℃または40℃で0、1、2、3または4ヶ月間保存した時点でのpHの範囲が7.4〜9.0、6.5〜8.5または6.5〜9.0である。ある実施形態では、許容基準は、4℃、25℃または40℃で0、1、2、3または4ヶ月間保存した時点での重量オスモル濃度の範囲が250〜350mOsm/kgであるか、浸透圧モル濃度の範囲が250〜330mOsm/Lである。ある実施形態では、許容基準は、4℃、25℃または40℃で0、1、2、3または4ヶ月間保存した時点でのスルフィド濃度が5.0〜6.0mg/mlである。別の実施形態では、許容基準は、4℃、25℃または40℃で0、1、2、3または4ヶ月間保存した時点でのカルコゲナイド濃度が0.1〜100mg/ml、1〜10mg/mlまたは95〜150mMの範囲内である。他の実施形態の場合、許容基準では、4℃、25℃または40℃で0、1、2、3または4ヶ月間保存した時点で全スルフィドおよびその酸化生成物に対してスルフィドが少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%重量/体積存在する。関連する実施形態では、酸化生成物は、4℃、25℃または40℃で0、1、2、3または4ヶ月間保存した時点で全スルフィドおよび酸化生成物に対して10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%以下の濃度で存在する。
【0061】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、医療または獣医療の現場でヒトまたは動物に投与する際、分子的実体および組成物がアレルギー反応または類似の予期しない反応を起こさないことをいう。
【0062】
「カルコゲナイド」または「カルコゲナイド化合物」とは、カルコゲン元素、すなわち、周期表第6族(ただし、オキシドを除く)の元素を含む化合物をいう。これらの元素には、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)およびポロニウム(Po)がある。具体的なカルコゲナイドおよびその塩として、HS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrS、BaS、HSe、NaSe、NaHSe、KSe、KHSe、RbSe、CSSe、(NHSe、(NH)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSe、PoSeおよびBaSeが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0063】
「カルコゲナイド前駆体」とは、たとえば、生物物質に曝露したとき、あるいは曝露後すぐに一定の条件下で硫化水素(HS)のようなカルコゲナイドを生成することができる化合物および薬をいう。そうした前駆体は、1つまたは複数の酵素または化学反応によりHSまたは別のカルコゲナイドを生成する。ある実施形態では、カルコゲナイド前駆体は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルフィド(DMS)、メチルメルカプタン(CHSH)、メルカプトエタノール、チオシアナート、シアン化水素、メタンチオール(MeSH)または二硫化炭素(CS)である。ある実施形態では、カルコゲナイド前駆体は、CS、MeSHまたはDMSである。
【0064】
一実施形態では、以下の式によりH2S供与体である水硫化ナトリウム(NaHS)の水溶液中での自然解離によりHSを生成する:
【0065】
【化1】

ある実施形態では、カルコゲナイド化合物は硫黄を含むのに対し、別の実施形態では、セレン、テルルまたはポロニウムを含む。ある実施形態では、カルコゲナイド化合物は、1つまたは複数の露出したスルフィド基を含む。特定の実施形態では、こうしたカルコゲナイド化合物は、露出したスルフィド基を1、2、3、4、5、6またはそれ以上含むか、そこから導き出せる任意の範囲で含むと考えられる。特定の実施形態では、そうしたスルフィド含有化合物は、CS(二硫化炭素)である。ある実施形態では、カルコゲナイドは塩であり、好ましくはカルコゲンが−2酸化状態にある塩である。本発明の実施形態に包含されるスルフィド塩として、硫化ナトリウム(NaS)、硫化水素ナトリウム(NaHS)、硫化カリウム(KS)、硫化水素カリウム(KHS)、硫化リチウム(LiS)、硫化ルビジウム(RbS)、硫化セシウム(CsS)、硫化アンモニウム((NHS)、硫化水素アンモニウム(NH)HS、硫化ベリリウム(BeS)、硫化マグネシウム(MgS)、硫化カルシウム(CaS)、硫化ストロンチウム(SrS)、硫化バリウム(BaS)および同種のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0066】
スルフィドが不安定な化合物であることは当該技術分野において周知であり、このクラスの化合物を安定化すべく多くの試みがなされてきた。特に、スルフィドの酸化による酸化生成物は、測定することができる。このため、液体組成物中でのスルフィドの保存過程で生成される酸化生成物の範囲については、本明細書に記載のおよび当該技術分野において周知の標準的な解析方法を用いて酸化生成物のレベルを経時的に測定することで容易に判定することができる。
【0067】
本明細書で使用する場合、「酸化生成物」とは、たとえば、スルフィット、スルファート、チオスルファート、ポリスルフィド、ジチオナート、ポリチオナートおよび硫黄元素など、スルフィドの化学変化によって生じる生成物をいう。そうしたスルフィドの酸化による生成物は、(酸化などより)加工、製造または保存に伴い生じる可能性がある。
【0068】
「保存の過程で」とは、液体カルコゲナイド組成物を調製してから患者または生物物質に投与するまでの期間をいう。本発明の液体医薬組成物については、調製してから直ちに被検体に投与しなくてもよい。調製後はこの組成物をむしろ、液状、半固体状、ゼラチン状、固体状または被検体への投与に好適な他の形状のまま保存のためパッケージングする。ある実施形態では、保存の期間は、1ヶ月〜12ヶ月、1ヶ月〜6ヶ月または2ヶ月〜5ヶ月である。
【0069】
本発明の組成物は、当該技術分野において公知の方法および賦形剤を用いて薬学的投与用に調製してもよい。(Remington’s Pharmaceutical Sciences(2005);21st Edition,Troy,David B.Ed.Lippincott,Williams and Wilkins)。
【0070】
本発明の液体医薬組成物は、カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体を任意の所望の濃度で含んでもよい。濃度に関しては、たとえば、処置対象の生物物質のタイプおよび投与経路に応じて、簡便なやり方で適切な期間にわたり有効量が送達されるように容易に最適化できる。いくつかの実施形態では、カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体濃度は、0.001mM〜5,000mMの範囲、1mM〜1000mMの範囲、50〜500mMの範囲、75〜250mMの範囲または95mM〜150mMの範囲にある。
【0071】
本発明の液体医薬組成物は、濃度が1mM〜250mMの範囲にあるスルフィドからなるカルコゲナイドをさらに含む。別の実施形態では、スルフィドの濃度は、10mM〜200mMの範囲にある。
【0072】
ある実施形態では、本発明の液体カルコゲナイド組成物中のカルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の濃度は、(標準温度と圧力(STP:standard temperature and pressure)で)約、少なくとも約あるいは多くても約0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7.3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0mMもしくMまたはそれ以上あるいはそこから導き出せる任意の範囲にある。硫化水素ガスの場合、たとえば、いくつかの実施形態では、濃度は、(STPで)約0.01〜約0.5Mであってもよい。
【0073】
モル濃度は、体積当たりの重量に容易に変換することができる。したがって、上記のモル濃度の範囲はいずれも、たとえば、mg/mlで記載することができる。このため、ある実施形態では、本発明の液体カルコゲナイド組成物のカルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の濃度は、0.01〜1000mg/ml、0.1〜100mg/mlまたは1〜10mg/mlの範囲にある。他の実施形態では、濃度は、約1mg/ml、約2mg/ml、約3mg/ml、約4mg/ml、約5mg/ml、約6mg/ml、約7mg/ml、約8mg/ml、約9mg/mlまたは約10mg/ml、あるいは1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、7mg/ml、8mg/ml、9mg/mlまたは10mg/mlである。
【0074】
本発明の一態様では、液体医薬組成物は、液体中に溶解したカルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体を含む。一実施形態では、この液体は、水(HO)であり、他の実施形態では、この液体は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:phosphate−buffered saline)またはリンゲル液など、生理的適合性がより高い溶液である。さらなる実施形態では、この液体は水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である。
【0075】
いくつかの実施形態では、液体医薬組成物が、カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体の飽和溶液であることを意図している。
【0076】
本明細書において限定せずに用いる場合、「%」という語は、(w/v、v/vまたはw/wの場合と同様)液体に固体を溶かした溶液の重量体積比(w/v)、液体にガスを溶かした溶液の重量体積比(w/v)、液体に液体を解かした溶液の体積比(v/v)および固体と半固体の混合物の重量(w/w)を意味する(Remington’s Phamiaceutical Sciences(2005);21st Edition,Troy,David B.Ed.Lippincott,Williams and Wilkins)。
【0077】
一実施形態では、本発明の液体医薬組成物は、80%〜100%(w/v)で測定されるスルフィドを含む。一実施形態では、本発明の液体医薬組成物は、90%〜100%(w/v)で測定されるスルフィドを含む。一実施形態では、本発明の液体医薬組成物は、95%〜100%(w/v)で測定されるスルフィドを含む。一実施形態では、本発明の液体医薬組成物は、98%〜100%(w/v)で測定されるスルフィドを含む。
【0078】
一実施形態では、本発明のカルコゲナイド液体医薬組成物のpHは(3.0〜12.0)の範囲にあるのに対し、他の実施形態では、pHは、(5.0〜9.0)の範囲にある。液体医薬組成物のpHを、生理的適合性の範囲に調整しても構わない。たとえば、一実施形態では、液体医薬組成物のpHは、6.5〜8.5の範囲にある。他の実施形態では、本発明の液体医薬組成物のpHは、7.5〜8.5または7.4〜9.0の範囲にある。
【0079】
一実施形態では、医薬組成物中の酸素は、0μM〜5μMの範囲で測定される。一実施形態では、医薬組成物中の酸素は、0μM〜3μMの範囲で測定される。一実施形態では、医薬組成物中の酸素は、0.01μM〜1μMの範囲で測定される。一実施形態では、医薬組成物中の酸素は、0.001μM〜1μMの範囲で測定される。
【0080】
本発明の医薬組成物は、酸化生成物をさらに含んでもよい。本発明の酸化生成物として、スルフィット、スルファート、チオスルファート、ポリスルフィド、ジチオナート、ポリチオナートおよび硫黄元素があるが、これに限定されるものではない。種々の実施形態では、これらの酸化生成物の1つまたは複数は、10%未満、6.0%未満、3.0%未満、1.0%未満、0.5%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.05%未満または0.01%未満の量で存在する。
【0081】
一実施形態では、酸化生成物のスルフィットは、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物のスルフィットは、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のスルフィットは、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のスルフィットは、0%〜1.0%(w/v)の範囲にある。
【0082】
一実施形態では、酸化生成物のスルファートは、0%〜10.0%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物のスルファートは、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のスルファートは、1%〜3.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のスルファートは、0%〜1.0%(w/v)の範囲にある。
【0083】
一実施形態では、酸化生成物のチオスルファートは、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。別の実施形態では、酸化生成物のチオスルファートは、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。別の実施形態では、酸化生成物のチオスルファートは、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。別の実施形態では、酸化生成物のチオスルファートは、0%〜1.0%(w/v)の範囲にある。
【0084】
一実施形態では、酸化生成物は、(0%〜10%(w/v)の範囲で存在するポリスルフィドを含む。一実施形態では、酸化生成物のポリスルフィドは、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のポリスルフィドは、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のポリスルフィドは、0%〜1.0%(w/v)の範囲にある。
【0085】
一実施形態では、酸化生成物のジチオナートは、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物のジチオナートは、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のジチオナートは、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のジチオナートは、0%〜1.0%(w/v)の範囲に。
【0086】
一実施形態では、酸化生成物のポリチオナートは、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物のポリチオナートは、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のポリチオナートは、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物のポリチオナートは、0%〜1.0%(w/v)の範囲にある。
【0087】
一実施形態では、酸化生成物の硫黄元素は、0%〜10%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、酸化生成物の硫黄元素は、3.0%〜6.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物の硫黄元素は、1.0%〜3.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、酸化生成物の硫黄元素は、0%〜1.0%(w/v)の範囲で存在する。
【0088】
液体医薬組成物(製剤)については、哺乳動物への投与前の保存の過程で安定な状態が続くことが好ましいことを当業者であれば理解するであろう。一実施形態では、液体医薬組成物の保存は約3ヶ月で、保存温度は18℃〜27℃の範囲にある。別の実施形態では、液体医薬組成物の保存は約6ヶ月で、保存温度は18℃〜27℃の範囲にある。別の実施形態では、液体医薬組成物の保存は約12ヶ月で、保存温度は18℃〜27℃の範囲にある。
【0089】
一実施形態では、液体医薬組成物の保存は約3ヶ月で、保存温度は4℃〜23℃の範囲にある。別の実施形態では、液体医薬組成物の保存は約6ヶ月で、保存温度は4℃〜23℃の範囲にある。別の実施形態では、液体医薬組成物の保存は約12ヶ月で、保存温度は4℃〜23℃の範囲にある。
【0090】
一実施形態では、本発明の液体医薬組成物の調製方法は、液体医薬組成物の浸透圧モル濃度を200〜400mOsmol/Lの範囲の浸透圧モル濃度に調整することをさらに含む。一実施形態では、液体医薬組成物の浸透圧モル濃度は、240〜360mOsmol/Lまたは等張性の範囲にある。特定の実施形態では、液体医薬組成物の浸透圧モル濃度が250〜330mOsmol/Lの範囲にあるか、組成物の重量オスモル濃度が250〜350mOsmol/kgの範囲にある。NaClを賦形剤として用いて重量オスモル濃度を調整してもよい。
【0091】
ある実施形態では、投与時の疼痛が緩和され、高浸透圧または低浸透圧組成物に起因して起こり得る溶血作用を最小限に抑えられるため、液体医薬組成物は等張であることが望ましい。したがって、本発明の安定化組成物は、保存安定性が高いばかりでなく、酸およびその酸の塩の形からなる従来の他の緩衝系を用いた製剤(formulation)と比較して投与時に疼痛が実質的に緩和されるという利点も付加されている。
【0092】
一実施形態では、安定な液体医薬組成物を不透過性の容器にパッケージングする。「不透過性容器」とは、ガス分子の通過に対する永続的なバリアとなる容器をいう。不透過性容器は当業者に知られており、ガス不透過性構成材料を含む「点滴バッグ」または密封ガラスバイアルがあるが、これに限定されるものではない。液体医薬組成物は、不活性雰囲気または希ガス不透過性の容器にパッケージングすればよい。希ガスとは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)およびラドン(Rn)をいう。不活性ガスとは、窒素(N)をいう。「不活性雰囲気」という語は、容器内の窒素またはアルゴン雰囲気をいう。液体医薬組成物については、たとえば、琥珀色バイアルのような遮光バイアルまたは容器にパッケージングしてもよい。一実施形態では、ガラスアンプルに組成物をシールして保存してもよい。
【0093】
いくつかの実施形態では、本発明の液体医薬組成物は、保存期間が1〜12ヶ月またはそれ以上となる保存過程でのカルコゲナイドの酸化防止用に添加される1種または複数種の賦形剤を含む。いくつかの実施形態では、保存期間は1〜6ヶ月である。いくつかの実施形態では、保存期間は3〜6ヶ月である。いくつかの実施形態では、保存期間は4〜5ヶ月である。本発明の実施形態では、賦形剤を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好適な賦形剤は多くある。例として、キレート剤、pH改変剤、還元剤、酸化防止剤、スピントラップ剤および防腐剤がある。
【0094】
一実施形態では、本発明の液体医薬組成物は、任意にキレート剤またはキレート剤を含んでもよい。キレートは、金属イオンと錯化剤の水溶性錯体である。キレートは、ほとんどの場合、溶液中で容易に解離せずに、不活性錯体を形成する。ただし、レービル錯体では、金属イオンが容易に交換され得る。遷移元素の金属錯体がよく知られているが、キレート化は、もっと広範囲の元素内で起こる。金属錯体を生成するキレート剤は、金属イオン封鎖剤とも呼ばれる。キレート剤は一般に、−O、−NHまたは−COOなど、金属に一対の電子を供与する少なくとも2つの官能基を持つ。さらに、これらの基は、金属と環形成できる位置にある。天然のキレート剤の例として、多糖類などの炭水化物、複数の配位基を持つ有機酸、脂質、ステロイド、アミノ酸および関連化合物、ペプチド、ホスファート、ヌクレオチド、テトラピロール、フェリオキサミン、イオノフォア(グラミシジン、モネンシン、バリノマイシンなど)およびフェノール類が挙げられる。合成キレート剤の例として、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸五ナトリウム塩(DTPA5)、CaDTPAH、ジメルカプロール(BAL:British anti−Lewisite)、デフェロキサミン、デスフェラール、2,2’−ビピリジルジメルカプトプロパノールエチレンジアミノ四酢酸、エチレンジオキシジエチレンジニトリロ四酢酸(EDTA:ethylenedioxy−diethylene−dinitrilo−tetraacetic acid)、CaNaエチレンジアミン四酢酸、エチレングリコール−ビス−(2−アミノエチル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、イオノフォア、ニトリロ三酢酸(NTA:nitrilotriacetic acid)、オルトフェナントロリン、サリチル酸、サクシマー(メソ−2,3−ジメルカプトコハク酸、(DMSA:meso−2,3−dimercaptosuccinic acid)、トリエタノールアミン(TEA:triethanolamine)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸三ナトリウム(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA:nitrilotriacetic acid)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0095】
一実施形態では、合成キレート剤はDTPAである。ある実施形態では、DTPAの濃度は、約、少なくとも約あるいは多くても約0、0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0mMまたはMあるいはそこから導き出せる任意の範囲にある。一実施形態では、DTPAは、0.1mM〜50mMの範囲にある。一実施形態では、合成キレート剤は、DTPA5からなる。ある実施形態では、DTPA5の濃度は、(0.0001%〜0.1%)(w/v)の範囲にある。別の実施形態では、DTPA5は、(0%〜1.0%)(w/v)の範囲にある。一実施形態では、DTPA5は、(0%〜0.01%)(w/v)の範囲にある。
【0096】
一実施形態では、合成キレート剤はCaDTPAである。ある実施形態では、CaDTPAの濃度は、(0.0001%〜0.1%)(w/v)の範囲にある(is is)。一実施形態では、CaDTPAは、(0%〜0.01%)(w/v)の範囲にある。別の実施形態では、CaDTPAは、(0%〜1.0%)(w/v)の範囲にある。
【0097】
一実施形態では、合成キレート剤はデフェロキサミンである。ある実施形態では、デフェロキサミンの濃度は、約、少なくとも約あるいは多くても約0、0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0mMまたはMあるいはそこから導き出せる任意の範囲にある。一実施形態では、デフェロキサミンは、0.1mM〜10mMの範囲にある。
【0098】
一実施形態では、合成キレート剤はEDTAである。ある実施形態では、EDTAの濃度は、約、少なくとも約あるいは多くても約0、0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0mMまたはMあるいはそこから導き出せる任意の範囲にある。ある実施形態、EDTAは、0%〜1%(w/v)の範囲にある。別の実施形態では、EDTAは、0.0001%〜0.1%(w/v)の範囲にある。別の実施形態では、EDTAは、0%〜1.0%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、EDTAは、0%〜0.01%(w/v)の範囲にある。
【0099】
本発明(inventionmay)の液体医薬組成物は、1種または複数種のpH改変剤をさらに含んでもよい。pH改変剤には、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸水素カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、乳酸カルシウム、マレイン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム、酢酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、マレイン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、チオグリコール酸、酢酸亜鉛、リン酸水素亜鉛、リン酸亜鉛、乳酸亜鉛、マレイン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、シュウ酸亜鉛などの無機塩類およびこれらの組み合わせがあるが、これに限定されるものではない。他のpH改変剤として、たとえば、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、硝酸、リン酸、プロピオン酸、硫酸、酒石酸、二酸化炭素、炭酸、N−メチル−D−グルカミン、4−(2−ヒドロキシエチル)−モルホリン、トロメタミン、オロト酸および塩酸が挙げられる。一実施形態では、pH改変剤は水酸化ナトリウムである。
【0100】
pH改変剤については、もともと酸性または塩基性である溶液に加えると緩衝剤の役割を果たし、溶液を別のpHに変更し維持できることを当業者であれば理解する(以下を参照:The United States Pharmacopeia−National Formulary 2th Edition,(2006)Rockville,MD;Stahl,P.Wermuth,C.ed.Handbook of Pharmaceutical Salts Properties,Selection and Use.Wiley(2002))。特定の実施形態では、pH改変剤は、緩衝剤としての役割を果たし、二酸化炭素または硫化水素からなる。
【0101】
ある実施形態では、本発明の医薬組成物は、たとえば、グルタチオン(米国特許第6,586,404号を参照)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TSEP)、l−システイン、システインまたはメチオニンなど、還元剤であるもう1つの賦形剤を含む。一実施形態では、還元剤は、グルタチオン(以下を参照;Vincent et al.,Endocrine Reviews(2004)25:612−628)、ジチオスレイトール(DTT)(Weir et al.,Respir and Physiol Biol;(2002)132:121−30)またはジチオエリトリトール(DTE:dithioerythritol)である。ある実施形態では、グルタチオンの濃度は、約、少なくとも約あるいは多くても約0、0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0mMまたはMまたはそれ以上あるいはそこから導き出せる任意の範囲にある。ある実施形態では、ジチオスレイトール(DTT)の濃度は、約、少なくとも約あるいは多くても約0、0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0mMまたはMあるいはそこから導き出せる任意の範囲で存在する(which present)。ある実施形態では、還元剤は、ジチオエリトリトール(DTE)であり、約、少なくとも約あるいは多くても約0、0.001、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0mMまたはMあるいはそこから導き出せる任意の範囲にある。
【0102】
本発明の液体医薬組成物は任意に、フリーラジカルスカベンジャーまたは酸化防止剤を含んでもよい。フリーラジカルスカベンジャーまたは酸化防止剤の例として、アスコルビン酸(ビタミンC)、D−α酢酸トコフェロール、DL−α−トコフェロール(ビタミンE)、メラトニン、重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、Trolox(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)、メラトニン、、亜ジチオン酸塩、ピロ亜硫酸塩、システイン、二亜硫酸カリウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオエチレングリコール、L−トレオアスコブ酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸、レシチン、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニドール、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシキノン、ブチルヒドロキシアニソール、ヒドロキシコマリン、ブチル化ヒドロキシトルエン、セファルム、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ラウリル、プロピルヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシブチルロフェノン、ジメチルフェノール、、レシチン、エタノールアミン、メグルミンおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されるものではない(米国特許出願公開第2005/0106214号を参照)。
【0103】
一実施形態では、たとえば、酸化防止剤の亜硫酸ナトリウムは、0%〜2%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、たとえば、酸化防止剤の亜硫酸ナトリウムは、0%〜1%(w/v)の範囲にある。一実施形態では、たとえば、酸化防止剤の亜硫酸ナトリウムは、0%〜0.2%(w/v)の範囲にある。(以下を参照:Swadesh et al.,Anal Biochem(1984),141:397)。
【0104】
一実施形態では、酸化防止薬は、スピントラップ剤である。スピントラップ剤の例として、N−t−ブチル−フェニルニトロン(PBN)(以下を参照:Kotake,Y.,Antioxid Redox Signal(1999)481)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)(Gariboldi,M.B.,et al.(2000),Free Radic.Biol.Med.29:633;Miura,Y.,et al.J.Radiat Res.(Tokyo)(2000)41:103;Mota−Filipe,H.,et al.(1999),Shock 12:255R:22−41;S:39〜26 2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)(以下を参照:Lapchakら、Stroke(2001)32:147−53);(二ナトリウム−[(tert−ブチルイミノ)メチル]ベンゼン−1,3−ジスルホナートN−オキシド(NXY−059)(以下を参照:Lapchak et al.,CNS Drug Rev(2003)9:253−62)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0105】
いくつかの実施形態では、スピントラップ剤は、0mg/kg〜1,000mg/kgの範囲で存在するTEMPOである。いくつかの実施形態では、スピントラップ剤はTEMPOであり、100mg/kg〜1,000mg/kgの範囲で存在する。別の実施形態では、スピントラップ剤はTEMPOであり、0mg/kg〜100mg/kgの範囲で存在する。
【0106】
本発明のカルコゲナイド組成物は任意に、防腐剤を含んでもよい。本明細書で使用する場合、「防腐剤」という語は、微生物の増殖の防止に用いる化合物を意味するものである。そうした化合物の例として、以下に限定されるものではないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、安息香酸、ベンジルアルコール、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA:butylated hydroxyanisole)、臭化セトリモニウム、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、クロロクレゾール、クレゾール、メチルパラベンナトリウム、フェノール、フェエノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、酢酸フェニル水銀、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、チメロサール、メタクレゾール、ミリスチルγ−塩化ピコリニウム、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸、チオグリセロール、チメロサール、チモールおよびメチル、エチル、プロピルまたはブチルパラベンおよび当業者に公知のこれら以外ものが挙げられる。こうした防腐剤を、記載されているような許容可能な医療慣行に従って通常の濃度で液体カルゴゲナイド組成物に用いる。(以下を参照:The United States Pharmacopeia−National Formulary 29th Edition,(2006)Rockville,MD;Remington’s Pharmaceutical Sciences(2005)21st Edition,Troy,DB,Ed.Lippincott,Williams and Wilkins)。ある実施形態、防腐剤は、ベンジルアルコールであり、0%〜1.0%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、防腐剤はベンジルアルコールであり、0%〜0.5%(w/v)の範囲で存在する。一実施形態では、防腐剤は、0%〜0.5%(w/v)の範囲のフェノールである。ある実施形態では、防腐剤は、(0.0%〜0.25%(w/v)の範囲のメチルパラベンである。ある実施形態では、防腐剤は、0%〜0.25%(w/v)の範囲のエチルパラベンである。ある実施形態では、防腐剤は、0%〜0.25%(w/v)の範囲のプロピルパラベンである。ある実施形態では、防腐剤は、0%〜0.4%(w/v)の範囲のブチルパラベンである。ある実施形態では、防腐剤は、0%〜0.02%(w/v)の範囲の塩化ベンザルコニウムである。
【0107】
一実施形態では、賦形剤を組み合わせてポリスルフィドの形成を低減する。一実施形態では、ポリスルフィドの形成を低減させる賦形剤の組み合わせは、0%〜0.1%(w/v)の範囲の亜硫酸ナトリウムおよび0%〜0.01%(w/v)の範囲のEDTAを含む。一実施形態では、ポリスルフィドの形成を低減する賦形剤の組み合わせは、亜硫酸ナトリウムとDTPA5である。一実施形態では、ポリスルフィドの形成を低減する賦形剤の組み合わせは、亜硫酸ナトリウム、DTPA5およびベンジルアルコールである。
【0108】
特定の実施形態では、本発明の製剤(formulation)は、0.01mg/ml以下の鉄、10、5、2.7、2.5または1EU/ml以下のエンドトキシン、10、5または1ppm未満の硫化カルボニルおよび5、2.5または1ppm未満の二硫化炭素を含む。
【0109】
これらの材料は食品添加剤および加工助剤として一般に受け入れられているうえ、そうした用途に関する米国食品医薬品局の「一般に安全と認められる」(すわたち「GRAS:generally recognized as safe」)基準を達成している。このため、上述のいくつかは好ましいものである。
【0110】
本発明は、本発明の液体医薬組成物を含むキットをさらに含む。ある実施形態では、そうしたキットは、本発明の液体医薬組成物を保存する1つまたは複数の容器を含む。一実施形態では、不活性ガスまたは希ガス下で組成物を容器に保存する。この容器についてはシールし、不透過性かつ遮光性の容器(琥珀色バイアルなど)を含む(a sealed and has and impermeable light−protective container(e.g.,an amber vial))。
【0111】
B.液体医薬組成物の調製方法
本発明の方法の種々の実施形態によれば、生物学的物質に本発明の液体医薬組成物を、たとえば、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所(topically)、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、眼内、皮下、結膜下、小胞体内、粘膜、心膜内、臍帯内、イントラオクララリー、経口、局所(topically)、局所(locally)において与えるか、注射、注入、持続注入、吸収、吸着、浸漬、局所灌流、カテーテルまたは洗浄により与える。
【0112】
液体中に溶解したカルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体を既知の望ましい濃度で含む組成物または非経口投与用の組成物を意図している。「非経口」とは、消化管を経由せずに物質を投与する任意の経路をいう。一般に、液体カルコゲナイド組成物については、たとえば、カルコゲナイドガス(HSなど)を組成物に接触(溶解または注入など)させ、ガス分子を適切なpH改変剤からなる液体に溶解させることで製造すればよい。一実施形態では、カルコゲナイドガスは緩衝剤であり、薬学的に許容されるキャリアからなる液体に溶解させる。さらなる実施形態では、液体医薬組成物は、単一の賦形剤または賦形剤の組み合わせを加えて記載のように調製されるカルコゲナイドガス溶液からなる。
【0113】
組成物に溶解するガスの量については、以下に限定されるものではないが、たとえば、液体または溶液のガス溶解性、液体または溶液の化学組成、その温度、その圧力、そのpH、組成物中の化学品のpKA、そのイオン強度、さらにはガスの濃度、ガスを溶液に接触させる程度(溶解または注入の速度または持続時間など)など、多くの可変要素によって異なることを当業者であれば認識するであろう。非経口投与用の液体または溶液中のカルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の濃度に関しては、当業者に公知の方法を用いて測定することができる。カルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の安定性については、液体カルコゲナイド組成物の調製または製造後の様々な時間間隔でその濃度を測定することで判定することができ、出発濃度と比較してカルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の濃度が低下すると、カルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の減少または化学変換が示唆される。
【0114】
あるいは、最も多く含まれるカルコゲナイド化合物(またはその塩または前駆体)の化学変化(酸化など)により引き起こされる化学物質の経時的な変化を管理された保存条件(温度、湿度、光曝露など)下で測定して液体カルコゲナイド医薬組成物の安定性を判定してもよい。
【0115】
いくつかの実施形態では、カルコゲナイドの塩の形を滅菌水または食塩水(0.9%塩化ナトリウム)に溶解し、薬学的に許容される非経口製剤(formulation)(静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、大槽内、腹腔内および皮内など)剤形を得て液体カルコゲナイド組成物を生成する。別の実施形態では、液体医薬組成物を、経口、経鼻(吸入またはエアロゾル)、頬粘膜または局所(topical)投与剤形に製剤する。非経口用液体剤形をある種のpHに緩衝して、カルコゲナイド化合物の溶解性を高めたり、カルコゲナイド化合物のイオン化状態に影響を与えたりしてもよい。硫化水素またはセレン化水素の場合、以下に限定されるものではないが、ナトリウム、カルシウム、バリウム、リチウムまたはカリウムなど、当業者に公知の多くの塩の形のどれでも構わない。一実施形態では、硫化ナトリウムまたはセレン化ナトリウムを無菌リン酸緩衝生理食塩水に溶解し、塩酸でpHを7.5〜8.5の範囲に調整して被検体に投与可能な既知の濃度の溶液を得る。
【0116】
種々の実施形態では、液体または溶液をカルコゲナイド化合物と接触させる前に酸素を還元してある、液体または溶液中で液体カルコゲナイド組成物を調製する。一実施形態では、本発明の液体医薬組成物の調製方法は、医薬組成物の製造および保存の各局面で酸素含有量を限定することをさらに含む。一実施形態では、酸素は、医薬組成物中に0μM〜5μMの範囲で測定される。一実施形態では、酸素は、医薬組成物中に0μM〜3μMの範囲で測定される。一実施形態では、酸素は、医薬組成物中に0.001μM〜0.1μMの範囲で測定される。一実施形態では、酸素は、医薬組成物中に0.1μM〜1μMの範囲で測定される。
【0117】
ある種のカルコゲナイド化合物(硫化水素、セレン化水素など)は、酸素と化学反応する能力があり酸化および化学変化を起こすため、酸素の存在下で安定ではない。したがって、以下に限定されるものではないが、液体または溶液への陰圧の印加(真空脱気(vacuum degasing))あるいは溶液または液体を試薬と接触させ酸素を結合または「キレート化」させて溶液から酸素を効率的に除去するなど、当該技術分野において公知の方法を用いて、酸素を液体または溶液から除去してもよい。
【0118】
一実施形態では、液体カルコゲナイド組成物を不透過性の容器に保存する。これは特に、溶液からすでに酸素を除去してあるときに、カルコゲナイドまたはその塩もしくは前駆体の酸化を抑制または防止するのに望ましい。さらに、不透過性の容器で保存すれば、液体または溶液のカルコゲナイドガスの酸化生成物を抑えて、溶解したカルコゲナイドの濃度を一定に保つこともできる。不透過性容器については当業者に知られており、ガス不透過性の構成材料を含む「点滴バッグ」または密封ガラスバイアルがあるが、これに限定されるものではない。気密性保存容器内での空気への曝露を防ぐため、閉める前に容器に窒素またはアルゴンなどの不活性ガスまたは希ガスを導入しておいてもよい。
【0119】
他の関連する実施形態では、液体医薬組成物を琥珀色バイアルなどの耐光性または遮光の容器またはバイアルに保存する。好ましくは組成物をガラスバイアルにパッケージングする。ガラスバイアルは、組成物の酸化分解を防止/遅延させるため、たとえば、窒素のような不活性雰囲気の若干強い圧力で満たし、さらに光の侵入を防止することで組成物の光化学的劣化を防止するようになっていることが好ましい。これは、琥珀色バイアルを用いることで最も効果的に実現することができる。多くの静脈注射液が酸素に感受性であるため、溶液を無酸素環境で保存できる容器系については、よく知られている。たとえば、充填およびシールプロセスの過程で酸素をパージするガラス容器を用いてもよい。別の実施形態では、酸素が入らないようにシールする上包装に封入できる可撓性のプラスチック容器が有用である。基本的に、酸素が液体医薬組成物と相互作用できないようにするのであればどのような容器を用いてもよい。(米国特許第6,458,758号を参照)一実施形態では、容器は、1種または複数種の酸素スカベンジャーを含む。たとえば、酸素をスカベンジする組成物については、生成物を支持または保持する手段の内面のコーティングまたは内層として塗布すれば、酸素の透過に対するバリアとなり得る(米国特許第5,492,742号を参照)。
【0120】
一実施形態では、本発明は、溶液中にカルコゲナイド塩を溶解することを含む、医薬組成物の調製方法を含む。一実施形態では、カルコゲナイド塩は、硫化ナトリウムである。別の実施形態では、カルコゲナイドおよび塩は、HS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrS、BaSであるが、これに限定されるものではない。一実施形態では、この液体は水またはリン酸緩衝生理食塩水である。一実施形態では、この液体は水酸化カリウム溶液または水酸化ナトリウム溶液である。
【0121】
別の実施形態では、本発明は、ガス状のカルコゲナイド、たとえば、HS(硫化水素)を液体に注入することを含む、医薬組成物の調製方法を含む。一実施形態では、この液体は、水酸化カリウム溶液または水酸化ナトリウム溶液である。
【0122】
種々の実施形態では、本発明のカルコゲナイドを含む液体医薬組成物の調製方法は、組成物のpHを調整するステップをさらにも含む。ある実施形態では、塩化水素、二酸化炭素、窒素または硫化水素の1種または複数種を加えてpHを調整する。別の実施形態では、窒素、二酸化炭素または硫化水素またはこれらの任意の組み合わせを組成物に溶解してpHを調整する。一実施形態では、窒素と二酸化炭素の組み合わせまたは窒素と硫化水素の組み合わせを組成物に溶解してpHを調整する。ある実施形態では、硫化水素を水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムに溶解して溶液のpHを調整する。一実施形態では、1当量の硫化水素溶液を1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解する。
【0123】
さらに、本明細書に記載の方法は、金属キレート剤、フリーラジカルスカベンジャーおよび/または還元剤の1種または複数種を加えることをさらにも含んでもよい。本発明の特定の方法では、液体カルコゲナイド組成物を保持する入れ物を含む、pH測定用、ガス添加用アクセスポートおよび外部雰囲気と接触せずに分注できるアクセスポート付きの密封容器内で液体カルコゲナイド組成物を製造する。一実施形態では、その入れ物は、摺り合わせ備品付きの三つ口フラスコである。一実施形態では、入れ物に窒素ガスまたはアルゴンガスを流して酸素含有量を最小限に抑え0.00μM〜3μMの範囲とする。ある実施形態、入れ物内の酸素含有量の測定値が0.01μM〜0.03μMである。液体カルコゲナイド組成物の最終スルフィド濃度については、NaOHの初濃度から判定する。たとえば、安定性の向上(DTPA)または浸透圧モル濃度のバランス(NaCl)を確保する任意の所望の添加剤と共に、NaOH溶液を三つ口フラスコに加える。撹拌しながら5psiで15分間アルゴン溶解して、この溶液から酸素を除去する。この溶液に、溶液のpHが7.6〜7.8の範囲になるまで硫化水素ガス(HS)を撹拌しながら溶解する。一実施形態では、許容されるpH範囲は、7.5〜8.0である。酸素が溶液に入らないようアルゴンでヘッドスペースを最大限満たして、この溶液をアルゴン陽圧下でフラスコからバイアルまたはビンに分注する。分注バイアルまたはビンを、アルゴンが常時流されるグローブボックスに入れて酸素を最小限に抑え0.00μM〜0.5μMの範囲とする。分注前に各ビンまたはバイアルにアルゴンを流しておく。バイアルおよびビンは安定性を高めるため褐色のガラス製で、これをテフロン(登録商標)ライナー付きシリコンまたはゴムで覆われたキャップで閉じ、クラウンキャップクリンパーを用いてプラスチックキャップでシールし、密閉する。一実施形態では、バイアルおよびビンはホウケイ酸ガラスからなる。一実施形態では、バイアルおよびビンは二酸化ケイ素からなる。
【0124】
C.液体医薬組成物の使用方法
本発明の液体医薬組成物を用いて、ガス状のカルコゲナイド(国際公開第2005/041655号を参照)または液体カルコゲナイド組成物で処置されたことがある任意の疾患または障害など、種々の疾患および障害の処置または予防を行ってもよい。たとえば、動物モデルでは、硫化ナトリウムによる処置が、心筋梗塞、敗血症(以下を参照:Hui,et al.J Infect(2003):47:155)、硬変における血管異常(以下を参照:Fiorucci Sら、Hepatology.(2005)42:539)の有望な治療薬として、心臓保護剤として(以下を参照:(以下を参照;Gengら、Biochem and Biophy Res Com(2004)313:362)、神経保護剤として(以下を参照:Qu K.et al,Stroke.(2006)889)、心筋虚血再灌流障害において(以下を参照:Johansen et al.,Basic Res Cardiol(2006)101:53)、血管石灰化の抑制のため(以下を参照:Wu et al.,Acta Pharmacol Sin.(2006)27:299)、薬剤処置による胃障害の緩和のため(以下を参照:Fiorucci,S.et al.,Gastroenterology(2005)129:1210)、好中球接着の抑制のため、白血球による炎症の調節のため(以下を参照:Zanardo et al.,FASEB J.(2006)20:2118−2120)、勃起不全(以下を参照:Srilatha B.et al.,Eur J Pharmacol.(2006)535:280)、過敏性腸症候群において(Distrutti E.ら、JPET(2006)319:447)、炎症後の過敏症における抗侵害受容作用のため用いられている。治療用途および関連情報のさらなる例を表Iにまとめてある。さらに、この組成物については、種々の生物物質においてステイシスまたはプレステイシスを誘導するために用いてもよく、虚血または低酸素に起因する傷害の処置または予防に用いてもよい。
【0125】
「生物物質」という語は、細胞、組織、器官および/または生命体およびこれらの任意の組み合わせなど、任意の生きた生物学的物質をいう。本発明の方法については、生命体の部分(細胞内、組織内および/または1つもしくは複数の器官内など)で実施してもよいし(その部分が生命体内にとどまっているか、生命体から除去されているかは問わない)、生命体全体で実施してもよいことを意図している。さらに、細胞および組織の文脈では、均一および不均一な細胞集団も本発明の実施形態の被検体であってもよいことを意図している。「インビボにおける生物物質」という語は、インビボの、すなわち、そのまま生命体内あるか、生命体に結合している生物物質をいう。さらに、「生物物質」という語は、「生物学的物質」という語と同義であることも理解されよう。ある実施形態では、1つまたは複数の細胞、組織または器官が生命体から分離されていることを意図している。「単離された」という語を用いて、そうした生物物質を説明することができる。本発明の方法は、インビボおよび/または単離された生物物質で実施してもよいことを意図している。
【0126】
本発明の方法により処置される細胞は、真核細胞でも原核細胞でもよい。ある実施形態では、細胞は真核細胞である。より詳細には、いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞である。哺乳動物細胞として、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、フェレット、雌ウシ、ヒツジまたはウマ由来の細胞が挙げられるが、これに限定されるものではない。さらに、本発明の細胞は、2倍体であってもよいが、場合によっては、1倍体(性細胞)であってもよい。さらに、細胞は、倍数体、異数体または無核であってもよい。細胞は、心臓、肺、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、皮膚、骨、静脈、動脈、角膜、血液、小腸、大腸、脳、脊髄、平滑筋、骨格筋、卵巣、精巣、子宮および臍帯など、特定の組織または器官由来であってもよい。ある実施形態では、細胞は、血小板、骨髄球、赤血球、リンパ球、脂肪細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、内分泌細胞、グリア細胞、ニューロン、分泌細胞、バリア機能細胞、収縮性細胞、吸収細胞、粘膜細胞、輪部細胞(角膜由来)、幹細胞(全能性、多能性または複能性)、未受精もしくは受精卵母細胞または精子などの細胞型の1つとして特徴付けられてもよい。
【0127】
通常の単純な意味に従い「組織」および「器官」という語を用いている。組織は細胞からなるが、「組織」という語は、一定の種類の構造材料を形成する類似細胞の集合体をいうことが理解されよう。さらに、器官は、組織の特定のタイプである。ある実施形態では、組織または器官を「単離する」が、これは組織または器官が生命体内にないことを意味する。
【0128】
「低酸素」および「低酸素の」という語は、酸素レベルが正常未満である環境をいう。通常の生理学的濃度の酸素が細胞、組織または器官に供給されないと、低酸素が引き起こされる。「正常酸素」とは、該当する個々の細胞型、細胞状態または組織の酸素が通常の生理学的濃度であることをいう。「無酸素」は、酸素がないことをいう。「低酸素状態」は、細胞、器官または生命体の低酸素に到る状態をいう。これらの状態は、細胞型および組織または器官内の細胞の個々の構造または位置ばかりでなく、細胞の代謝状態によって異なる。本発明では、低酸素状態は、酸素濃度が通常の大気条件であるか、あるいはそれ未満の20.8、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0%未満の状態を含む。あるいは、これらの数字は、1気圧(101.3kPa)での気圧に対する割合を表してもよい。「無酸素」は、酸素がないことをいう。酸素濃度がゼロパーセントであれば、無酸素状態である。したがって、低酸素状態は無酸素状態を含むが、いくつかの実施形態で実現する低酸素状態は、0.5%以上である。本明細書で使用する場合、「正常酸素状態」は、約20.8%あるいはそれ以上の酸素濃度とする。
【0129】
水は、標準温度と圧力(STP)で空気に触れると280μMの溶解酸素を含む。ある実施形態では、本明細書に記載のおよび当業者に公知の方法を用いてカルコゲナイド液体医薬組成物を水中で製剤化し、水中の酸素レベルが低酸素状態に低下すると、すなわち、水中の酸素が280μM未満に低下になると、「製剤(formulation)低酸素」が生じる。
【0130】
別の実施形態では、製剤(formulation)低酸素は、酸素濃度が通常の大気条件であるか、あるいはそれ未満の20.8、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0%未満である状態を含む。あるいは、これらの数字は、1気圧(101.3kPa)での気圧に対する割合を表してもよい。
【0131】
低酸素または無酸素を達成する標準的な方法は十分確立しており、化学触媒の力を借りてチャンバーから酸素を除去する環境チャンバーを用いることを含む。そうしたチャンバーについては、たとえば、GASPAK Disposable Hydrogen+Carbon Dioxide EnvelopesまたはBIO−BAG Environmental ChambersとしてBD Diagnostic Systems(Sparks、MD)から市販されている。あるいは、チャンバー内の空気を窒素など酸素以外のガスと交換して酸素を取り除いてもよい。酸素濃度については、たとえば、FYRITE Oxygen Analyzer(Bacharach,Pittsburgh PA)を用いて判定することができる。
【0132】
一実施形態では、「有効量」という語は、測定可能な結果を達成できる量をいう。一実施形態では、「有効量」は、たとえば、第2相または第3相の比較臨床試験において医学的処置が必要なヒト被験者に投与した際に、事前に設定した臨床エンドポイント(死亡率など)に対して統計学的に有意な利益が得られる量である。有効量は、疾患または傷害に反応した生物物質の生存性を高める量であるか、生物物質のステイシスまたはプレステイシスを誘導する量である。
【0133】
当然のことながら、組織または器官においてステイシスまたはプレステイシスを誘導する際の有効量とは、組織または器官の細胞呼吸の全体量で判定した、組織または器官のステイシスまたはプレステイシスを誘導する量である。したがって、たとえば、特定量の本発明の液体カルコゲナイド組成物への曝露後、心臓の酸素消費レベル(心臓細胞の全体に関する)が少なくとも約2倍(すなわち、50%)低下する場合、その特定量は、心臓にステイシスを誘導する有効量であることが理解されよう。同様に、生命体にステイシスまたはプレステイシスを誘導する有効量も、ステイシスまたはプレステイシスに関するある特定のパラメーターの全体または総合レベルについて評価した量である。生命体の特定部分を標的にする場合を除き、生命体にステイシスまたはプレステイシスを誘導する際の有効量は、生命体全体のステイシスまたはプレステイシスを全体的に誘導する量であることも理解されよう。さらに、有効量は、ステイシスまたはプレステイシスを誘導するのに十分な量であってもよいし、たとえば、別の化合物、傷害または病状のような別の薬または刺激と組み合わせてステイシスまたはプレステイシスを誘導するのに十分な量であってもよいことも理解されよう。
【0134】
ある実施形態では、本発明の方法および組成物は、処置対象の生物学的物質にステイシスまたはプレステイシスを誘導する。本明細書で使用する場合、「ステイシス」とは、生物学的物質は生きているが、生物物質による二酸化炭素生成の速度または量が少なくとも50%(すなわち、2倍)低下すること;生物物質による酸素消費の速度または量が少なくとも50%低下すること;および運動または移動性が少なくとも10%低下すること(精細胞または心臓もしくは四肢など運動する細胞または組織、あるいは全生命体にステイシスを誘導する際にのみ適用)(「細胞呼吸指標」と総称される)の1つまたは複数を特徴とする低代謝状態をいう。
【0135】
本発明のある実施形態では、生物物質による酸素消費速度は、約、少なくとも、少なくとも約または多くても約2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、2000、3000、4000、5000または10000倍またはそれ以上あるいはそこから導き出せる任意の範囲で低下することを意図している。あるいは、本発明の実施形態については、約、少なくとも、少なくとも約または多くても約50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%またはそれ以上あるいはそこから導き出せる任意の範囲のように、生物物質による酸素消費速度の低下率という観点から検討してもよいことを意図している。
【0136】
酸素消費を測定するにはどのようなアッセイを用いてもよいが、典型的なアッセイでは、閉鎖環境を利用し、環境に導入した酸素と一定時間後に環境内残っている酸素の差の測定を行う。生物物質による二酸化炭素の生成を測定して酸素消費量を判定してもよいこともさらに意図している。したがって、二酸化炭素の生成が減少する場合は、酸素消費の減少に相当することになる。
【0137】
本明細書で使用する場合、「プレステイシス」とは、生物物質がステイシスに到るのに通過しなければならない低代謝状態をいう。プレステイシスは、生物学的物質内の代謝低下の規模がステイシスとして定義されるものより小さいことを特徴とする。有効な化合物を用いてステイシスを達成するには、生物物質は生物物質における酸素消費およびCO生成の低下が50%未満に分類される低代謝状態を必ず通過しなければならない。代謝または細胞呼吸が50%未満の程度に低下するそうした一連の現象を、「プレステイシス」の状態と呼ぶ。
【0138】
さらに、種々の実施形態では、プレステイシスは、正常な生理的状態と比較して代謝活性の1つまたは複数の指標の低下が1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%以下であることを特徴とする。他の実施形態では、プレステイシスは、別の刺激に呼応してステイシスへの移行を強化または促進し得ること、あるいは、傷害に起因する損傷、疾患の発症もしくは進行または出血、特に不可逆的組織損傷、出血性ショックもしくは死亡に到る可能性がある出血からの生物物質の生存を向上させる、またはそれから生物物質を保護できることを特徴とする。本明細書に明示的に例示した本発明の方法は「ステイシス」の誘導に言及する場合があるが、そうした方法を、「プレステイシス」の誘導に容易に適合させることができることと、本発明がそうしたプレステイシスの誘導方法を意図していることとが理解されよう。さらに、ステイシスの誘導に用いた同じ方法および組成物を用いて、その組成物をステイシスの誘導に使用するよりもより少ない投与量および/またはより短い時間で生物物質に与えることで、プレステイシスを誘導してもよい。
【0139】
本発明の方法によれば、ステイシスまたはプレステイシスは一時的および/または可逆的であるのが一般的であり、これは、ある程度経った時点で生物物質がステイシスの特徴をもはや示さなくなることと、生物学的物質が死んだり分解したりするほどに処置が有毒でないことを意味する。
【0140】
本発明の方法の種々の実施形態によれば、ステイシスまたはプレステイシスを誘導するには、直接ステイシスそのものを誘導する一定量の本発明の液体カルコゲナイド組成物で生物物質を処置するか、あるいは、それ自体はステイシスまたはプレステイシスを誘導しないものの、代わりに、以下に限定されるものではないが、傷害、疾患、低酸素症、過剰な出血または本明細書に記載するような1種または複数種の有効な化合物による処置などの別の刺激に呼応して、生物物質がステイシスを達成する能力を促進または強化する、またはそれを達成するのに要する時間を短縮する、一定量の本発明の液体カルコゲナイド組成物で生物物質を処置する。
【0141】
ある実施形態では、本発明の液体医薬組成物を用いて虚血または低酸素状態にさらされた生物物質の傷害の処置または予防を行う。一実施形態では、こうした方法を用いて、傷害、外傷または救命医療の処置を受けたことがある、受けている、あるいはそうした処置の影響を受けやすい患者を処置する。傷害の原因は、外的侵襲(熱傷、創傷、切断、銃創または手術による外傷、腹部手術、前立腺手術など)、内的侵襲(敗血症性ショック、脳卒中または心停止、血行の急激な低下を引き起こす心発作など)または低温または放射線への曝露など非侵襲的ストレスによる血行の低下であってもよい。傷害は、細胞レベルでは細胞、組織および/または器官を低酸素にさらすことになり、それによりプログラムされた細胞死、すなわち「アポトーシス」の誘導につながることが多い。
【0142】
故に、本発明は、組織、器官、四肢、さらに生命体全体を傷害の有害な作用から保護する手段としてそれらを本発明の液体カルコゲナイド組成物と有効量で接触させることを意図している。診察をすぐに受けられない特定のシナリオでは、こうすることで、患者が適切な診察を受けられるまで患者のために「時間を稼ぐ」ことができる。さらに、本発明は、創傷治癒および組織再生の遅延をもたらす恐れがある生物学的プロセスを阻止/遅延することで、組織再生および創傷治癒を誘導する方法も意図している。この文脈では、四肢または生命体に相当な創傷があるシナリオにおいて生物物質を液体カルコゲナイド組成物と接触させ、治癒および再生を阻害する生物学的プロセスに対処することで創傷治癒および組織再生プロセスを支援する。本発明の方法を実行して創傷治癒だけでなく、心停止または脳卒中および出血性ショックなどの外傷を防止または処置してもよい。本発明は、開胸手術(thoroacotomy)、開腹手術および脾臓の処置または心臓手術、動脈瘤、手術、脳手術および同種のものなど救急の外科的手技による外傷の危険に対して重要な意味を持つ。
【0143】
ある実施形態では、本発明の方法を実行して心停止または脳卒中の生存性を向上させてもよく、それに起因する虚血傷害を防止してもよい。したがって、一実施形態では、本発明は、心停止または脳卒中の患者またはその危険性がある患者の生存性を向上させる、またはそうした患者の虚血傷害を緩和する方法であって、心筋梗塞、心停止または脳卒中の前、その後あるいはその前後両方に液体カルコゲナイド組成物を有効量で患者に与えることを含む、方法を含む。
【0144】
本明細書で使用する場合、「疾患の処置」という語は、疾患、症候または障害を発症した患者の管理および看護をいう。処置の目的は、疾患、症候または障害の有害作用の減弱にある。処置は、有効な化合物を投与して疾患、症候または障害を除去または制御すると共に疾患、症候または障害に伴う症状または合併症を緩和することを含む。
【0145】
ある実施形態では、本発明の方法は、虚血もしくは低酸素傷害または疾患による侵襲の前に、たとえば、患者などの生物学的物質に前処置を行うことを含む。こうした方法については、虚血または低酸素を引き起こす可能性がある傷害または疾患が事前に予定または選択されているか、それが生じるであろうと事前に予測されているときに用いてもよい。例として、自然にあるいは手技の結果、失血が起こる可能性がある大手術、血液の酸素化が不十分になるか、血液の血管送達が減少する可能性がある心肺バイパス(冠動脈バイパス移植(CABG:coronary artery bypass graft)術の場合と同様)、または臓器移植が必要な移植患者に輸送および移植するため提供臓器を摘出する前に行われる臓器提供者の処置においてが挙げられるが、これに限定されるものではない。例として、傷害または疾患の進行の危険性が内在する(血管形成術後の不安定狭心症、大外傷または失血後に出血している動脈瘤、出血性卒中においてなど)病態または医療診断検査により危険性が診断される可能性がある病態が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0146】
さらに、本発明のさらなる実施形態は、失血、あるいは適切な血液供給の欠如などによるこれ以外の細胞または組織への酸素補給の不足から、生存性を向上させることおよび不可逆的組織損傷を防止することに関する。これは、たとえば、実際の失血の結果であってもよいし、細胞または組織への血流の閉塞が引き起こす症候または疾患、生命体の局所または全体の血圧を低下させる症候または疾患、血液により運ばれる酸素量を減少させる症候または疾患、あるいは血液中の酸素運搬細胞の数を減少せる症候または疾患によるものでもよい。関連する可能性がある症候および疾患として、凝血および塞栓、嚢胞、増殖、腫瘍、貧血(鎌状赤血球貧血など)、血友病、これ以外の血液凝固に関連する疾患(フォンウィルブランドまたはITP:idiopathic thrombocytopenic purpuraなど)およびアテローム性動脈硬化が挙げられるが、これに限定されるものではない。そうした症候および疾患は、傷害、疾患または症候が原因で本質的に生命体の細胞または組織に低酸素または無酸素状態をきたすものも含む。
【0147】
一実施形態では、本発明は、出血性ショックを起こしている生物学的物質の傷害または損傷を防止してその物質の生存性を向上させる方法であって、出血性ショックの危険性があるまたはその状態にある生物学的物質を、有効量の液体カルコゲナイド組成物とできる限り速やかに、理想的には傷害から1時間以内に接触させることを含む、方法を提供する。この方法を用いれば、患者を管理された環境(手術など)へ搬送することができ、傷害の当初の原因に対処し、その後患者を管理された方法で正常な機能に戻すことが可能になる。この適応症の場合、傷害後の1時間は「ゴールデンアワー」と呼ばれ、成功を収めるうえで決定的に重要である。
【0148】
様々な他の実施形態では、本発明の方法を、虚血または低酸素に伴う神経変性疾患の処置、低体温の処置、過剰増殖性障害の処置および免疫障害の処置に用いてもよい。他の様々な実施形態では、生物学的症候は、神経疾患、循環器疾患、代謝疾患、感染症、肺疾患、遺伝性疾患、自己免疫疾患および免疫関連疾患のいずれか1つまたはこれらの組み合わせである。
【0149】
ある実施形態では、本発明の方法を用いて、たとえば、単離された細胞、組織および器官など、低酸素または虚血状態にさられたエキソビボの生物物質の生存性を向上させる。そうしたエキソビボの生物学的物質の具体的な例として、血小板および他の血液製剤ならびに移植される組織および器官が挙げられる。
【0150】
一実施形態では、たとえば、低温保存および保存の過程で細胞株または実験用生命体を意図的に低酸素または虚血状態にさらす場合など、実験室または調査の状況で本発明の方法を用いて生物学的物質の生存性を向上させる。たとえば、細胞、組織または器官を、本発明の液体カルコゲナイド組成物の存在下で保存または輸送してもよい。本発明の方法を用いて提供組織および器官の生存性を高め、それにより提供組織を移植患者に移植してから血流を回復させるまでの時間を引き延ばしてもよい。こうした方法は、他の保存剤および酸素灌流の使用など現在の保存方法と併用してもよい。本発明は、血小板(特定の実施形態では、無酸素環境で保存された血小板を含む)の生存性を高める方法であって、保存過程で血小板を有効量の液体カルコゲナイド組成物と接触させることを含む、方法を提供する。
【0151】
さらに、本発明は、非生存の生物学的物質の保存と、非生物学的物質の保存またはその有効期間の延長のための方法および組成物も提供する。こうした方法は、非生存の生物物質または非生物学的物質を液体カルコゲナイド組成物と接触させることを含む。
【0152】
ある実施形態では、または生物学的物質に与える有効な化合物の量は、約、少なくとも、少なくとも約または多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000mg、mg/kgまたはmg/m2あるいはそこから導き出せる任意の範囲であってもよい。あるいは、その量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000mMまたはMあるいはそこから導き出せる任意の範囲で表してもよい。
【0153】
本発明の種々の実施形態では、生物学的物質を本発明の液体医薬組成物に、約、少なくとも、少なくとも約または多くても約30秒間、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55分間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、1、2、3、4、5、6、7日間またはそれ以上およびその任意の範囲または任意の組み合わせで曝露する。
【0154】
さらに、投与が静脈内である場合、以下のパラメーターを適用してもよいことを意図している。約、少なくとも約あるいは多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100滴/分またはμ滴/分あるいはそこから導き出せる任意の範囲の流量。いくつかの実施形態では、溶液の量を、液体カルコゲナイド組成物の濃度に応じて体積で規定する。時間の量は、約、少なくとも約あるいは多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60分間、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、1、2、3、4、5、6、7日間、1、2、3、4、5週間および/または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月あるいはそこから導き出せる任意の範囲であってもよい。
【0155】
全体としてまたは単一セッションで1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000mlもしくはリットルまたはその任意の範囲の量を投与してもよい。
【0156】
以下に限定されるものではないが、本明細書で言及した、および/または出願データシートに列挙した上記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願および非特許刊行物についてはすべて、その全体を参考として本明細書に援用する。
【0157】
(実施例1)
液体医薬組成物I〜IVの方法および製造
4つのカルコゲナイド液体医薬組成物を下記のように調製した。
【0158】
脱酸素水を用いて原液を調製した。脱酸素水については、空気を真空除去し、圧縮窒素(99.99%)で30分間溶解して酸素を除去した。2.5MのNaSの飽和原液を、無酸素の脱イオン蒸留水ですすいだNaS*9H2O結晶(フィッシャー(Fisher#5425)から調製した。この原液をしっかりとシールし遮光して保存した。HClの220mMの原液については、濃酸(FISHER#A144−212)を希釈して調製し、圧縮窒素で溶解することで酸素を除去した。
【0159】
無酸素環境を創出するため窒素ガスで満たした簡便なグローブボックス中のドラフト内で液体医薬組成物を調製した。pHメーター、バブラーおよびスターラー付きの反応器をグローブボックス内に置いた。グローブボックス内の酸素レベルを、感度レベルが0.03μMの酸素メーター(Mettler−Toledo)でモニターした。本発明の液体医薬組成物の調製方法は、医薬組成物の製造および保存の各局面で酸素含有量を制限し、酸素が医薬組成物中で0μM〜5μMの範囲で測定されるものである。
【0160】
液体医薬組成物を、各口に以下の特徴を持つ摺り合わせ備品付きの三つ口フラスコ(Wilmad Labs)で調製した:
a)中央オリフィスとoリングのあるプラスチックキャップが付いた汎用アダプター。このアダプターにpHプローブを装着しOリングでシールした。
【0161】
b)ホース継手と中央オリフィスおよびOリングのあるプラスチックキャップとが付いた汎用アダプター。このアダプターに、ガラスフリットを用いてガス分散チューブを装着した。分散チューブを圧縮ガスボンベに連結し、このチューブを用い圧縮窒素で溶解して溶液から酸素を除去し、HSと窒素の混合物でpHを中和した。ホース継手にプラスチックチューブを装着し圧力を逃がした。これらの2つの連結を逆にして窒素陽圧下でフラスコの内容物を分注した。
【0162】
c)第3の口を摺り合わせの栓でシールし、これを用いてNaS溶液または水をフラスコに加えた。
【0163】
1.液体医薬組成物I−NaS九水和物
液体医薬組成物Iを以下のステップで調製した:
a)無酸素の脱イオン蒸留水を三つ口フラスコに加え、撹拌しながら窒素で30分間溶解して酸素を除去した。
【0164】
b)2.5MのNaS原液を加えて200mMのNaS溶液を得た。
【0165】
c)200mMのNaS溶液を、撹拌しながら圧縮窒素で15分間バブリングした。
【0166】
d)220mMのHClを、圧縮窒素で溶解し撹拌しながら、最終pHが7.8〜8.0になるまで加えた。
【0167】
e)脱酸素脱イオン水を加えて最終濃度100mMのNaSを得た。
【0168】
2.液体医薬組成物II−NaS九水和物
液体医薬組成物IIを以下のステップで調製した:
a)無酸素脱イオン水を三つ口フラスコに加え、撹拌しながら窒素で30分間溶解して酸素を除去した。
【0169】
b)2.5MのNaS原液を加えて100mMのNaS溶液を得た。
【0170】
c)100mMのNaS溶液を撹拌しながら圧縮窒素で15分間バブリングした。
【0171】
d)この溶液を、pHが7.8になるまで圧縮窒素とCOとの50/50混合物(99.9%)でバブリングした。
【0172】
3.液体医薬組成物III−HSおよび窒素を含むNa
液体医薬組成物IIIを以下のステップで調製した:
a)無酸素脱イオン水を、三つ口フラスコに加え撹拌しながら窒素で30分間溶解して酸素を除去した。
【0173】
b)2.5MのNaS原液を加えて100mMのNaS溶液を得た。
【0174】
c)100mMのNaS溶液を、撹拌しながら圧縮窒素で15分間バブリングした。
【0175】
d)この溶液を、pHが8.2になるまで圧縮窒素とHSの50/50混合物でバブリングした。この結果、最終濃度が90mMのスルフィドを得た。
【0176】
4.液体医薬組成物IV−H
液体医薬組成物IVの最終スルフィド濃度をNaOHの初濃度により判定した。液体医薬組成物IVを以下のステップで調製した:
a)5mM〜500mMの範囲の溶液に溶かしたNaOHを添加剤(DTPA、酸化防止剤)と一緒に三つ口フラスコに加えた(図1。)
b)撹拌しながらアルゴンにて5psiで15分間バブリングして、この溶液から酸素を除去した。
【0177】
c)この溶液にHSを、pHが7.7(または7.6〜7.8の範囲)に低下するまで撹拌しながらバブリングした。
【0178】
d)フラスコのヘッドスペースにアルゴンを流した。
【0179】
e)褐色の分注ビンまたはバイアルを、アルゴンが常時流されるグローブボックス内に置き、各ビンまたはバイアルにアルゴンを流した。
【0180】
f)製剤(formulation)をアルゴン下で分注して無酸素環境を維持した。
【0181】
この溶液の安定性を、スルフィド濃度、pHおよび吸光度スペクトル(ポリスルフィド形成)を測定してモニターした。追加のアッセイを行い、スルフィット、スルファート、チオスルファートおよび硫黄元素を含む酸化生成物をモニターした。
【0182】
窒素陽圧下の密封グローブボックス内で三つ口フラスコから液体医薬組成物を分注した。琥珀色バイアルまたは褐色ビンを不活性アルゴンまたは窒素雰囲気で若干強い圧力で満たし、液体医薬組成物の酸化分解を防止/遅延し、クラウンキャップクリンパー(Aldrich Z112976)を用いてテフロン(登録商標)/シリコンライナー付きプラスチックキャップまたは中央テフロン(登録商標)ライナー付きのシリコンセプタム付きプラスチックキャップでシールし、密閉した。
【0183】
(実施例2)
カルコゲナイド液体医薬組成物を無酸素環境で製造すると、スルフィドが安定し、スルフィドの酸素化生成物が減少する
スルフィドが酸素に触れると、図1および図2に示すような種々の酸化生成物が生成される。(以下を参照:Chen et al.,Environ.Sci Technol.(1972),p.529−537;Kotronarou et al.,Environ.Sci Technol.(1992),p.2420−2428;Beaucham et al.,Critical Reviews in Toxicology(1984);p.25−97)
無酸素環境を創出するため窒素ガスで満たした簡便なグローブボックス中のドラフト内で製造したときの液体医薬組成物IVの3つの製剤(formulation)における安定性を検査した。この研究では、グローブボックス内および溶液中の酸素レベルを、感度レベルが0.03μMの酸素メーター(Mettler−Toledo)でモニターした。液体医薬組成物を実施例1に記載されているように調製した。
【0184】
(1)97mM、pH7.62、273mOsm;(2)98mM、pH7.71、291mOsmおよび(3)98mM、pH7.75、276mOsmなど、液体医薬組成物IVの3つの調製物を調製した。そこの組成物を検査し、無酸素環境で調製するとスルフィドの安定性が向上し、測定可能な酸化生成物が減少するかどうか判定した。液体医薬組成物を、窒素ガスを流してボックス内の酸素含有量を最低限(0.02μM)に抑えた密封グローブボックス内の反応装置で製造した。非経口液体医薬組成物のスルフィドのレベルおよび酸化生成物(ポリスルフィド、スルフィット、チオスルファート、スルファートおよび未知のピーク)を129日間にわたって解析した。
【0185】
スルフィドをイオン選択電気化学(ISE:Ion Selective Electrochemistry)で測定した。イオン選択電気化学(ISE)は、イオン種を測定する手法である。その電極は、イオンが膜の表面に結合する、イオン種特異的な膜を含んでいた。膜に結合したイオンの量から、溶液中のイオン濃度によって異なる電位差を確認した。スルフィドのレベルは、測定期間にわたり対照に対して100%の状態が続いた(図3)。
【0186】
スルフィット、チオスルファートおよびスルファートについては、イオンクロマトグラフィー(IC:Ion Chromatography)を用いて0、8、22、30、37、51、72、100および129日目に解析した。イオン種の解析のためイオンクロマトグラフィー(IC)を用いて、二相系におけるサンプル成分のマイグレーションの違いを測定した。固定相との相互作用が弱かったサンプル成分は、カラムで費やす時間が短くなる。イオンが注入から検出までカラムで費やす時間は保持時間と呼ばれ、成分確認の尺度となるのに対し、ピークの高さまたは面積は、成分濃度の尺度となる。このアッセイでのスルファートの検出上限は<0.08%であり、潜在的なスルファート値の範囲は、0%〜<0.08%と考えられた。ポリスルフィドについては、Spectramaxにて370nMで測定し、蒸留水HOと比較した(以下を参照:Weiss,J.and Weiss T.Handbook of Ion Chromatography;Wiley,Third Edition(2005);O’Brien D.J.et al.,Environ.Sci.Technol.1977,p.1114−1120;Hoffmann M.R.ら、Environ.Sci.Technol.1979,p.1406−1414;Tossell,J.A,Chemical Geology.1997,p.93−103;Chen,K.Environ.Sci.Technol.1972,p.529−537;Kotronarou A.et al.,Environ.Sci.Technol.1992,p.2420−2428)。検出された酸化生成物の量を図5Aに示す。
【0187】
(実施例3)
DTPAの存在下または非存在下でのポリスルフィド形成で測定される液体医薬組成物IVの安定性
合成キレート剤でスルフィドの液体医薬組成物の安定性を高められるかどうかを調べた。2つの液体医薬組成物(液体医薬組成物IV)を、無酸素環境を創出するため窒素ガスで満たした簡便なグローブボックス中のドラフト内で調製した。液体カルコゲナイド組成物を、pH測定用、ガス添加用アクセスポートと外部雰囲気と接触させずに分注することができるポートとがある、液体カルコゲナイド組成物を保持する摺り合わせ備品付きの三つ口フラスコ(入れ物)を含む密封容器内で製造した。入れ物に窒素ガスまたはアルゴンガスを流し、酸素含有量を最小限に抑えた。これらの医薬組成物の最終スルフィド濃度をNaOHの初濃度により判定した。
【0188】
NaOH溶液を、添加剤を一切使用せずに、あるいは安定性を高めるためDTPAを用いて三つ口フラスコに入れた。どちらの製剤(formulation)にもNaClを含ませ浸透圧モル濃度のバランスを取り、撹拌しながらアルゴンにて5psiで15分間溶解して溶液から酸素を除去した。グローブボックス内の酸素レベルを、感度レベルが0.03μMの酸素メーター(Mettler−Toledo)でモニターした。検査対象の液体医薬組成物、97mMのスルフィドHS(液体医薬組成物IV)を、合成キレート剤ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)(1mM)を使用してあるいは使用せずに作製した。スルフィドおよびポリスルフィドのレベルを、0、8、22、30、37、51、72、100および129日目に分光光度計(Spectromax)を用いてピーク吸光度370nmで測定値した。図4に示すように、1mMのDTPAが存在した場合、製剤(formulation)におけるスルフィドの安定性が129日目に向上した。
【0189】
酸化生成物のスルフィット(uM)、スルファート(uM)、チオスルファート(uM)および37分で測定された未知の生成物(U)を129日目に測定した。図5Aおよび図5Bに示すように、1mMのDTPAが存在した場合、酸化生成物のレベルが129日目に低下した。129日間の終了時に測定されるポリスルフィド形成は、全スルフィド濃度に対して0.03%未満である。
【0190】
(実施例4)
スルフィドの液体医薬組成物におけるpHは安定している
硫化水素は、弱い二塩基酸であり、溶液中で3つの形(HS、HS−およびS−)で存在している。溶液中の硫黄種の割合は、pHによって異なる。pH7では、HS−が主要な種である。pH7未満ではHSが支配的な種となる(以下を参照:O’Brien DJ.et al.,Environ.Sci.Technol.1977,p.1114−1120)。
【0191】
液体医薬組成物IVにおけるスルフィドの製剤安定性を検査するため、129日間の特定の時点でpHを測定した。100mMのスルフィドHS(液体医薬組成物IV)の液体医薬組成物を、窒素ガスを流してボックス内の酸素含有量を最低限(測定値0.02μM未満)に抑えた密封グローブボックス内の反応装置で製造した。pHメーター(Thermo Electron Corp.)を用いてpHを、0、8、22、30、37、51、72、100および129日目に測定した。pHは、平均値が7.68±0.04(平均と標準偏差)と129日間にわたって安定していた(図6)。
【0192】
商業的に許容可能な様々な温度および期間で保存した後、濃度、pHおよび重量オスモル濃度など、医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(GMP:Good Manufacturing Practices)の許容基準に適合した硫化ナトリウムの液体医薬組成物を調製した。
【0193】
(実施例5)
液体医薬組成物IVの投与後のラット尿におけるスルフィドおよび酸化生成物の検出
齧歯動物を用いて尿中のスルフィド酸化生成物の代謝プロファイルを測定した。ラットの尿における酸化生成物のチオスルファートおよびスルファートのレベルを測定し、その後、液体医薬組成物IV(98mMのスルフィド、pH7.65、293m/Osmol)を静脈内ボーラス投与した。
【0194】
10〜11週の雌性Sprague Dawleyラット(200〜250グラム)(Taconic),Prunedale,カリフォルニア州)を麻酔(100mg/kgのケタミンおよび10mg/kgのキシラジン)し、2つの頸静脈カテーテル(JVC:jugular vein catheter)および尿道カニューレを埋植した。実験の期間中、麻酔を維持した。液体医薬組成物IV(0.5mg/kg)のボーラス投与量を、頸静脈カテーテルを介して注射した。実験の期間中、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を、インフュージョンポンプ(Harvard Apparatus)を用いて3mL/時間の速度で注入した。注射前(時=0)および投与後60分まで15分間隔で尿サンプルを採取し、解析のため4℃で保存した。
【0195】
尿中のチオスルファートおよびスルファートのレベルを、イオンクロマトグラフィー(Metrosep A supp5カラムを備えたMetrohm AG861 IC)により解析した。尿サンプルをIC溶離液(3.2mMの炭酸ナトリウム/1.0mMの炭酸水素ナトリウム)で1:20に希釈した。60分後に排泄されたチオスルファートのレベルは、300μMに上昇した(図7A)。排泄されたスルファートのレベルは、60分間にわたり平均22±3mMであった(図7B)。これらのデータから、スルフィド酸化生成物のチオスルファートおよびスルファートが尿中に排泄され、イオンクロマトグラフィーで検出可能であることが示される。
【0196】
(実施例6)
液体医薬組成物IVの投与後のラット血中におけるスルフィドおよびチオスルファートの検出
液体医薬組成物IVの静脈内ボーラス投与後に誘導体化法およびGC−MS解析を用いて、ラット血中のスルフィドおよびチオスルファートのレベルを測定した。
【0197】
頸静脈カテーテル(JVC)および頸動脈カニューレ(CAC:carotid artery cannula)を挿入した10〜11週齢の雄性Sprague Dawleyラット3匹(326〜350)グラム(Taconic,Prunedale,CA)を用いた。この動物を、実験手順を開始する前の5〜6日間、温度と湿度が制御された環境で回復および馴化させた。食物および水を自由に与えた。
【0198】
各ラットからベースライン血液サンプル(約0.3ml)を、頸動脈カニューレを介して23gのルアースタブアダプターを装着したヘパリンコーティング1mlシリンジに採取した。サンプリング後、対応する量の食塩水を、続いて100μlのヘパリン溶液(ヘパリン加デキストロース50IU/ml)を、頸動脈カニューレを介して動物にゆっくりと注射した。ボーラス投与量(1mg/kg 静脈内)の液体医薬組成物IV(98mMのスルフィド、pH7.65、293mOsm)を、頸静脈カテーテルを介して注射した。頸動脈カテーテルによる投与後、23gのルアースタブアダプターを装着したヘパリンコーティング1mLシリンジを用いて血液(約0.3mL)をすぐに採取した。記載の通り血液サンプルをすぐに処理した。サンプリング後、対応する量の食塩水を、頸動脈カテーテルを介して動物にゆっくりと注射した。血液サンプリングを注射後10分、30分、60分、2時間および4時間後に繰り返した。
【0199】
0.2mlのラット血液をシリンジで採取し、5%NaCl、200mMのアスコルビン酸(新たに調製)、20mMのペンタフルオロベンジルブロミド(PFBBr:pentafluorobenzylbromide)のアセトン溶液を含む9mlの琥珀色バイアルにすぐに加えた。調製物をスクリューキャップ(PTFE被覆セプタム付き)で閉じ、1分間ボルテックスした。この混合物を15分インキュベートさせ、次いで各バイアルに、無酸素の四ホウ酸ナトリウム飽和水に溶かした5mMのテトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド溶液、酢酸エチルに溶かした25mMのヨウ素溶液、酢酸エチルに溶かした50mMのペンタフルオロベンジルブロミド溶液に加えた。この調製物を30秒間ボルテックスし、次いで5分間インキュベートした。次に100mgのリン酸二水素カリウムを加え、この溶液を30秒ボルテックスした。次にこの溶液を1時間インキュベートし、反応を終了させ、その後、2500rpmで15分間遠心した。上清(有機相)を除去し、GC/MSによる解析のため完全に乾燥させた。(Kageら、Journal of Forensic Science(1988)33:217;Kageら、Journal of Analytical Toxicology(1991)15:148).
これらの結果から、PFB−Br誘導体化法を用いて、ボーラス投与量の液体医薬組成物IVを静脈内注射したラットの血中でスルフィドおよびチオスルファートを同時に検出することができることが示される(図8Aおよび図8B)。240分間の研究期間にわたりスルフィドのレベルを血液から収集し、最高血中濃度には10分で到達した(図8B)。
【0200】
(実施例7)
液体医薬組成物は低酸素状態での生存を向上させる
ガス状HSによる処置は、低酸素状態での動物の生存能力を向上させることが明らかになっている。しかしながら、直ちに生命を脅かす傷害が遠隔地で生じた場合など、一定の環境下では、カルコゲナイド液体医薬組成物で患者を処置できれば非常に都合がよい。実施例Iに記載されているように液体スルフィド組成物を調製し、低酸素環境での動物の生存能力を向上できるどうかを検査した。
【0201】
実験の一セットでは、頸静脈にカテーテル(JVC)を埋め込んだ雄性C57BL/6マウス(5〜6週齢)(Taconic)を用いて、この動物に1mLまたは5mLのルアーロックシリンジBecton Dickison)で液体スルフィド液体医薬組成物を注入して3種類の液体医薬組成物を検査した。Bio Medic Data Systems(BMDS)社製のIPTT−300トランスポンダーを用いて体温をモニターした。実験の少なくとも24時間前にトランスポンダーを動物の背部に皮下(S.C.)注射した。トランスポンダーを介してBMDS社製のDAS−6008データ収集モジュールでマウスの体温を記録し、データをコンピュータースプレッドシートに入力し、時間に対してプロットした。
【0202】
インフュージョンポンプ(Harvard Apparatus)により留置カテーテルを介して液体医薬組成物を各マウスに投与した。皮膚に埋植した温度チップが33℃の体温を記録するまでマウスに注入した。体温が33℃まで低下する前にマウスが苦痛の徴候を示した場合、注入を10分間停止し、前の速度よりも遅い速度で再開した。動物の体温が33℃以下に低下したら、注入を停止し、マウスを低酸素雰囲気(4.0%O)に移した。
【0203】
第1の実験では、マウス(ID:MJVC07)にpH7.75の液体NaS溶液(液体医薬組成物I)を注入した。この例の液体医薬組成物Iの調製については、NaSの飽和原液を脱酸素脱イオンHOで濃度43mMに希釈し、pHのモニタリングと、ほとんど空気接触のないガス添加とが可能な摺り合わせ備品付きの三つ口フラスコで30分間撹拌しながら100%Nで溶解することにより、この溶液から酸素を除去して行った。溶液のpHをNで溶解し撹拌しながら、220mMのHClを用いて7.75に調整した。最終溶液(液体医薬組成物I)をアルゴン下で琥珀色バイアルに分注してヘッドスペースをできるだけ残さないようにし、テフロン(登録商標)/シリコンライナーまたはセプタムを用いてキャップでシールした。液体医薬組成物Iの調製に使用したNaSの飽和原液それ自体は、脱酸素脱イオンHO1ミリリットル当たり約1.0gの洗浄NaS結晶を溶解して調製し、この原液を遮光し、密栓して保存しておいた。
【0204】
マウスに0.8mM/kgのHS液体医薬組成物Iを、皮膚に埋植した温度チップが33℃の体温を記録するまで注入速度6.4μL/分で60分間にわたって有効用量にて注入した(図9)。次いで注入を停止し、1分以内にこの動物を低酸素雰囲気(4.0%O)に置いた。1時間後、マウスを低酸素チャンバーから取り出し、ケージに収容し、モニターした。マウスは、処置後に苦痛の徴候をまったく示さなかった。これに対し、対照ビヒクルで処置したマウスは、死亡した(図10)。
【0205】
第2の実験では、マウス(ID:MCAT08)に、pH8.2のNaS(液体医薬組成物II)を注入した。液体医薬組成物IIの調製については、NaSの飽和原液を脱酸素脱イオンHOで濃度41mMに希釈し、摺り合わせ備品(ground fittings)付きの三つ口フラスコで30分間撹拌しながら100%Nで溶解することにより、この溶液から酸素を除去して行った。NaClを加えて、この溶液の最終浸透圧モル濃度を300mOsmol/Lに調整した。NおよびCOの50/50混合物で溶解してpHを調整した。最終溶液(液体医薬組成物II)をできるだけ空気に触れないように琥珀色バイアルまたはビンに分注し、ヘッドスペースをできるだけ残さないようにし、テフロン(登録商標)/シリコンライナーまたはセプタムを用いてキャップでシールした。
【0206】
マウスに最初の注入速度8μL/分で62分間注入を行った。30分の注入後、苦痛の徴候が観察されたため注入を4μL/分に減らした。4μL/分で12分間注入後、体温が33℃に下がるまで注入速度を6μL/分に上げた。注入を停止し、5分以内にこの動物を低酸素雰囲気(4.0%O)に置いた。マウスは、低酸素雰囲気で60分間生存した。
【0207】
第3の実験では、マウス(ID:MJVC03)にNaS(HSおよび窒素で緩衝処理)の液体P医薬組成物III(pH8.35)を注入した。この例では、液体医薬組成物IIIの調製については、NaSの飽和原液を65mMに希釈し、摺り合わせ備品付きの三つ口フラスコで30分撹拌しながら100%Nで溶解してこの希釈溶液から酸素を除去し、NおよびHSの50/50混合物で溶解することでpHを調整して行った。最終溶液(液体医薬組成物III)をできるだけ空気に触れないように琥珀色バイアルまたはビンに分注し、ヘッドスペースをできるだけ残さないようにし、テフロン(登録商標)/シリコンライナーまたはセプタムを用いてキャップでシールした。
【0208】
マウスにNaS(HSおよび窒素で緩衝処理)液体医薬組成物IIIを注入速度4.3μL/分で60分間にわたり注入した。体温が33℃まで低下したとき注入を停止し、1分以内にこの動物を低酸素雰囲気(4.0%O)に置いた。マウスは、4.0%低酸素で53分生存した。
【0209】
マウスを液体HSで処置したときに得られた結果と対照的に、ビヒクルを注入(10μL/分)した対照(未処置)雄性C57BL/6マウス(平均体重22グラム)は、4.0%Oでわずか平均7分しか生存せず、体温の低下は平均でわずか0.06±0.38℃にとどまった。
【0210】
別の実験では、実験化合物の処置をまったく受けたことがないカニューレ挿入雄性Sprague Dawleyラット(RJVC40)(310グラム、Taconic)を用いて、pH7.9の液体医薬組成物(50mMのHS)(液体医薬組成物IV)の保護作用を検査した。この動物に血管内留置カテーテルを外科的に埋植し、任意の手順の前にストレスおよび疾患の徴候について調べた。手順の前に動物の体重を測定し、体重をケージカードに記載した。Bio Medic Data Systems(BMDS)社製のIPTT−300トランスポンダーを用いて体温をモニターした。実験の少なくとも24時間前にトランスポンダーを動物の背部に皮下(S.C.)注射した。トランスポンダーを介してBMDS社製のDAS−6008データ収集モジュールでマウスの体温を記録し、データをコンピュータースプレッドシートに入力し、時間に対してプロットした。
【0211】
苦痛の徴候および皮下に埋植したIPTT−300トランスポンダーで測定した体温の低下をモニターしながら、ラットに、インフュージョンポンプ(Havard Apparatus)により留置カテーテルを介してpH7.9の50mMのHS(液体医薬組成物IV)を283分間にわたり注入した。開始の注入速度は6.5μL/分で、皮膚に埋植した温度チップが33℃の体温を記録するまで15分ごとに6.5μL/分ずつ上昇させた。動物が苦痛の徴候を示した際、注入を10分間停止し、前の速度よりも遅い13.0μL/分速度で再開した。体温が33℃まで低下したとき注入を停止し、8分以内にこの動物を低酸素雰囲気(3.5%O)に置いた。動物は32分間生存した。低酸素チャンバー内で測定した体温は2.5℃低下した。
【0212】
4匹(未処置)の雄性SDラット(平均体重342グラム;ハーラン(Harlan))の対照群は、3.5%Oで平均15±4分生存し、体温は平均1.6±0.2℃低下した。
【0213】
これらの実験から、硫化水素の液体医薬組成物には、低酸素状態で動物の生存能力を向上させる保護作用があることが確認される。さらに、この結果からは、HSの液体医薬組成物の投与は、たとえば、傷害または疾患により誘発される低酸素または虚血状態にある患者、あるいはその危険性がある患者にとって有益であり、生物学的物質を低酸素傷害または虚血傷害から保護し、これを防ぐ手段となることも確認される。
【0214】
(実施例8)
スルフィドの液体医薬組成物は、マウスの肝虚血再灌流障害モデルにおいて肝傷害からの細胞保護効果をもたらす
マウスの肝虚血再灌流(I/R:ischemia−reperfusion)傷害モデルを用いてスルフィドの液体医薬組成物に細胞保護効果があるかどうかを検査した。この研究では、肝虚血後および5時間の再灌流期間の直前に液体医薬組成物IV(スルフィド、95mM、pH7.92)を腹腔内ボーラス投与すると、血清中で測定される肝トランスアミナーゼのアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)が減少し、病理組織スコアが改善することが証明される。一方、ビヒクルで処置しても、肝I/R傷害の保護効果はまったく得られなかった。
【0215】
これらの研究で用いたマウスは、8〜10週のC57−BL6/Jマウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,Maine)であった。食物および水を自由に与えた。実験手順を開始する前に温度および湿度が管理された環境で被検動物を馴化させた。
【0216】
マウスをケタミンおよびキシラジンで麻酔し、外科的手技の過程で加温を維持し、肝虚血再灌流(I/R)傷害を誘導した。具体的には、正中切開し、肝臓を露出させ、ヘパリンを注射し、血液凝固を防止した。肝動脈と門脈をともに微小動脈瘤鉗子でクランプし、肝臓の左側葉および中葉を虚血状態にした。肝臓を腹膜腔内の元の位置に維持して45分間虚血を行い、0.9%生理食塩水に浸したガーゼで湿性を保った。対照マウスにはシャム手術を行ったが、微小動脈瘤鉗子で肝血流量を減少させなかった。45分後、微小動脈瘤鉗子を除去した。5時間の肝再灌流後に分光光度法および市販されている試薬(Sigma−Aldrich)を用いて血清中の肝トランスアミナーゼのレベル(ASTまたはALT)を検査した。
【0217】
マウスの肝虚血再灌流障害被検動物を無作為に4群に割り付けた。群1はビヒクル処置;群2は0.3mg/kgの液体医薬組成物IVによる処置;群3は1.0mg/kgの液体医薬組成物IVによる処置および群4は3.0mg/kgの液体医薬組成物IVによる処置であった。図11に示すように、ASTのレベルは、検査対象の最高濃度(3.0mg/kg)で統計学的に有意な低下が認められた。3つの処置群(0.3mg/kg、1.0mg/kgおよび3.0mg/kg)でビヒクルと比較してALTのレベルが低下した。
【0218】
(実施例9)
スルフィドの液体医薬組成物は、マウスの心筋虚血再灌流モデルにおいて心保護効果をもたらす
マウスの心筋虚血再灌流(I/R)傷害モデルを用いてスルフィドの液体医薬組成物に心保護効果があるかどうかを検査した。この研究では、虚血後および24時間の再灌流期間の5分前に液体医薬組成物IV(95mM、pH7.65)を左心室腔にボーラス投与すると、危険領域に占める割合で心筋虚血が減少し、心筋梗塞サイズが縮小したことが明らかにされる。関連研究では、研究開始の24時間前に液体医薬組成物IVをプレコンディショニングボーラス投与量で投与すると、心筋梗塞サイズ(危険領域に占める割合)(心筋梗塞)が有意に縮小した(図16)。一方、ビヒクルで処置しても、心筋I/R傷害の保護効果はまったく得られなかった。
【0219】
これらの研究で用いたマウスは、8〜10週のC57−BL6/Jマウス(Jackson Laboratory,Bar Harbor,Maine)であった。食物および水を自由に与えた。実験手順を開始する前に温度および湿度が管理された環境で被検動物を馴化させた。
【0220】
マウスをケタミンおよびペントバルビタールナトリウムで麻酔し、外科的手技の過程で加温を維持し、心筋虚血再灌流(I/R)傷害を誘導した。マウスを手術台に腹側で置き、経口挿管し、モデル683齧歯動物用人工呼吸器に接続した(一回換気量は2.2mL、呼吸数は毎分122回、人工呼吸器サイドポート経由で100%酸素を補給。)(Havard Apparatus)。胸部を開き、近位左主冠動脈を露出させ、結紮した。心筋および冠動脈閉塞を30分間維持し、続いて縫合糸を除去し、24時間再灌流した。
【0221】
虚血後の再灌流から24時間後、マウスを麻酔し、挿管し、齧歯動物用人工呼吸器に接続した。エバンスブルー色素を、総頸動脈に通したカテーテルに注入した。胸骨正中切開を行い、左主冠動脈を前と同じ場所で再結紮した。エバンスブルー色素で可視化して虚血ゾーンを非虚血ゾーンと区別し、心臓を速やかに切除し、短軸に沿って連続的に切断して1mmの5枚の切片とし、これを1.0%2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(Sigma−Aldrich)中で37℃にて5分間インキュベートし、危険ゾーン内の生存心筋と非生存心筋を区別した。5枚の心筋スライス(1mm)をそれぞれ秤量し、サンプル内容を知らされていない観察者がコンピューター支援面積測定を用いて梗塞領域、危険領域(AAR)および非虚血性左心室を評価した。左心室の危険領域(AAR)および梗塞サイズの判定のすべての手順(以下を参照:Jones,SP.et al.Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.(2004)).286:H276−H282)。
【0222】
データを、StatViewソフトウェアバージョン5.0(SAS Institute)を用いて事後的なボンフェローニ分析により2元配置分散分析(ANOVA:analysis of variance)で解析した。データを平均値±平均値の標準誤差として報告する。p値が0.05未満の場合に有意と見なした。
【0223】
マウスの心筋虚血再灌流モデル被検群の動物10〜13匹を以下の4つの処置群に無作為に割り付けた。群1:ビヒクル処置;群2:50μg/kgの液体医薬組成物IVによる処置;群3:100μg/kgの液体医薬組成物IVによる処置;および群4:500μg/kgの液体医薬組成物IVによる処置。この研究では、虚血の30分および24時間の再灌流期間の前に液体医薬組成物IV(97mM、pH7.65)を左心室腔にボーラス投与すると、50μg/kgおよび100μg/kg用量投与処置群において危険領域に占める割合で心筋梗塞サイズが縮小した(図12)。試験対象の最高濃度(500μg/kg)で処置した動物4匹が生存した。ビヒクルでは心筋I/R傷害の保護効果はまったく得られなかった。
【0224】
第2の実験では、動物を手術および虚血の24時間前に、ボーラス投与量の液体医薬組成物IVで前処置(プレコンディショニング投与)した。液体(lquid)医薬組成物で前処置(100μg/kg)すると、梗塞サイズの有意な縮小が測定され、心筋壊死に対する保護作用が得られた(図16)。
【0225】
(実施例10)
大型哺乳動物において軽度の低体温を誘導するための、液体医薬組成物IVの方法および使用
液体医薬組成物I、II、IIIおよびIVが齧歯動物の中核体温を抑制することはすでに証明されている(実施例7)。心停止においては、心臓手術時の患者の広範囲な虚血の神経保護剤として、さらに再灌流障害の軽減を目的として軽度の低体温誘導が用いられている(以下を参照:Nolan et al.,Circulation.(2003),108:118−1210)。この研究では、軽度の低体温モデルを用いて液体医薬組成物IVが大型動物の体温を低下させるという仮説を確認した。液体医薬組成物IVを雌性ブタの2つのコホートに60分にわたり投与し、体温の変化率を経時的に測定した。
【0226】
雌性ブタ(20〜25kg)を収容し、実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に記載されているように適切な管理を施した。温度を61〜81°Fおよび相対湿度を30〜70%に維持するように環境管理内容を設定した。明暗各12時間周期として、部屋の換気回数を最低でも10回/時間とした。
【0227】
ケタミン(20mg/kg)とキシラジン(2.0mg/kg)の組み合わせを筋肉内(IM:intramuscularly)投与して動物を麻酔した。次いで、すぐに各動物に挿管し、イソフルラン吸入剤(0.5〜2.5%)を用いて麻酔状態を維持した。吸入麻酔については、従量式レスピレーターまたは再呼吸装置により送達した。静脈内カテーテルを、乳酸加リンゲル液(10ml/kg/時間)および任意の必要な救命救急薬(投与の薬剤、用量、経路および部位を手術ファイルに記述した)の投与のため頸静脈に留置した。イソフルラン濃度、酸素の割合、SaO%、脈拍、呼吸数および毛細血管再充満時間を15分ごとに手作業で記録した。血圧およびEKG(electrocardiogram)を、研究を通じてモニターした。中核体温については、中核体温を得るため動物の食道に挿入した食道温度プローブを用いてモニターした。
【0228】
動物5〜6匹の2つのコホートを記載のように麻酔した。EKG、動脈圧および中核(腹部)温度を測定した。動物を30分間のベースライン期間中麻酔状態に維持した。30分間のベースライン期間後、被検ブタにリンゲル液と、別の静脈ラインを通じてビヒクルまたはリンゲル液と、別の静脈ラインを通じて液体医薬組成物IVとを60分間注入(2.5mg/kg/時間)した。動物を60分間の注入期間中観察した。中核温度を1秒間隔で測定した。60分間の注入の後、麻酔から回復前の40分間動物を観察した。
【0229】
肝臓直下の腹部に配置した温度プローブから中核温度を記録した。PowerLabデータ収集器具およびソフトウェアを用いてデータを直接コンピューターに取り込んだ。氷冷乳酸リンゲル液を1時間注入する過程で記録したデータポイントを、回帰分析のためGraphPad Prismソフトウェアにエクスポートした。
【0230】
全体の温度変化および変化速度(回帰直線勾配)について群平均を計算し、スチューデントのt検定で比較検討した。
【0231】
これらの実験から、ブタ(20〜25kg)では、液体医薬組成物IVが低体温誘導処置により誘導される低体温の程度を高めることが確認される。液体医薬組成物IVを投与すると、ビヒクルと比較して中核体温に統計学的に有意な変化が生じる(図13Aおよび図13B)。データによって、大型動物に低体温を誘導するうえで液体医薬組成物IVが有効であることが明らかにされる。
【0232】
(実施例11)
液体医薬組成物IVはブタの心筋梗塞モデルにおいて局所虚血を減少させる
ブタの心筋虚血再灌流(I/R)傷害モデルを用いてスルフィドの液体医薬組成物に心保護効果があるかどうかを検査した。この研究では、虚血後(120分の再灌流期間の5分前に開始)に液体医薬組成物IV(100mM、pH7.80、292mOsm)のボーラス投与、続いて60分の注入を左心室腔に行うと、危険領域に占める割合で心筋虚血が減少し、心筋梗塞サイズが縮小したことが明らかにされる。一方、ビヒクルで処置しても心筋I/R傷害モデルの保護効果はまったく得られなかった。
【0233】
動物を個別に収容した。食物および水を自由に与えた。実験はすべて、実験動物の管理と使用を規制する米国国立衛生研究所の指針に準じた。
【0234】
雌雄両性のブタ(35〜45kg)を塩酸ケタミン(20mg/kg)の筋肉内注射で鎮静させ、ペントバルビタールナトリウム(25mg/kg)の静脈内注射で麻酔した。イソフルランからなる全身麻酔を、実験を通じて維持した。従量式ベンチレーターを用いて気管内挿管により換気(酸素40%;一回換気量1000mL;換気回数12回/分;終末呼気陽圧3cm HO;吸気時間と呼気時間の比1/2)を与えた。静脈アクセスおよびIV注射のため右大腿静脈をカニューレ処置し、動脈血のサンプリングおよび動脈内圧のモニタリングのため右総または浅大腿動脈をカニューレ処置した。ヘパリンナトリウムおよび1%リドカインを開胸の前に投与した。ヘパリンを実験の終了時まで30分ごとに投与した。胸骨正中切開により心嚢を露出させ、開放して心膜クレイドルを形成した。カテーテル付きマノメーターを心尖部から左心室(LV)に導入し、LV圧を記録した。血管を適切に露出させてから、左前下行枝またはその大きな対角枝の遠位1/3のあたりに血管ループを通した。血管ループを締めて冠動脈を閉塞させ、次いで、モスキート鉗子でクランプし安定させた。心筋表面の局所チアノーゼにより心筋虚血を視覚的に確認した。
【0235】
ブタを無作為に群分けし、45分の局所虚血(閉塞)、続いて120分の再灌流を施した。動脈圧(収縮期圧、拡張期圧、平均血圧)、心拍数、局所的な短縮率(LV dP/dt)および心筋組織血流を、Acquire Plusプロセッサーボードおよび左心室圧解析ソフトウェアおよびGould ECG/Biotachを用いて実験を通じて連続的に取得した(PO−NE−MAHデジタルデータ収集システム,(Gould,Valley View,OH)。液体医薬組成物IVまたはビヒクルを、冠動脈鉗子を除去し始める5分前から投与し(ボーラス(100mcg/kg)および1mg/kg/時間注入)、再灌流期間中に60分間注入を継続した。
【0236】
局所心筋機能を、虚血領域から約10mm離れた心内膜下層に埋植した超音波プローブ(2.0mm)を用いてソノミクロメトリー(Sonometrics Corp.,London,ON,カナダ)で評価した。プローブについては、2対を心臓の短軸と平行に設置し、ポリプロピレンステッチ(Ethicon,Inc.,Somerville,NG)で心外膜に取り付けた。実験の終了までプローブをそのままにしておいた。拡張末期ポイントおよび収縮末期ポイントを正確に識別するため、後処理ソフトウェア(SonoView,Sonometrics,London,ON,カナダ)を用いてデジタルデータを点検した。正常洞調律の少なくとも3回の心周期において測定を行い、次いで平均した。呼吸の影響を排除するためデータ収集中はベンチレーターを停止させた。拡張末期セグメント長(EDL:end−diastolic segment length)を正のLV dP/dtの開始時に、収縮末期セグメント長(ESL:end−systolic segment length)を負のdP/dtのピーク時に測定した。局所収縮性を局所心筋短縮率(SS:segment shortening)で評価した。壁運動異常を、拡張期終了後の心筋の隆起と定義される収縮期隆起(SB:systolic bulging)として評価した。収縮期駆出後の短縮は、収縮後短縮(PSS:postsystolic shortening)である。SS率の経時的変化を4〜5つの特有の水平距離および/または垂直距離の平均値±平均値の標準誤差から算出し、ベースラインに対する比で表し、個々の動物間のばらつきを最小限に抑えた。SSの経時的変化を平衡値に対する比で表し、個々の動物間のばらつきを最小限に抑えた。
【0237】
血液ガスおよびヘマトクリットを、10〜15分ごとにコーニング(Corning)238pH/血液ガスアナライザーおよびコーニング270CO−オキシメーターを用いてモニターした。血液ガスおよび酸塩基パラメーターをPO>100mmHg;pH7.3±0.3;および温度37℃に維持した。
【0238】
実験の終了後に関連する動脈を結紮してからモナストリルブルー色素を大動脈に注射して、虚血危険領域を明確にした。梗塞サイズを、トリフェニルテトラゾリウムクロリド染色(Sigma Chemical Co.)により判定し、危険領域に対する比で表した。危険領域および梗塞ゾーンの面積をコンピューター化された面積測定(Scion Image,Scion Corp.,Frederick,MD)で測定した。
【0239】
左心室の危険領域(虚血ゾーン)および非虚血領域(対照ゾーン)からの心筋組織サンプル(およそ0.5g)は、心外膜、心筋および心内膜組織で構成され、各実験の終了時に採取して2つのサンプルに分けておいた。虚血ゾーンサンプルと非虚血ゾーンサンプルの確認については、モナストリルブルー色素を注射して行った。サンプルを急速凍結するか、必要に応じて包埋した。
【0240】
血液サンプルを採取し、遠心し、および/または氷上で保存した。SAS(SAS Institute,Inc.,Cary,NC)を用いて統計解析を行った。すべての変数の平均値±平均値の標準誤差を示す。統計学的有意性を、群を「被験者間」要因とし、時間を「対象内」要因として反復測定分散分析(ANOVA)で判定した。ボンフェローニ補正を用いて個々の時点での平均効果について群間の事後比較を行い、検査の多重性を調整した。梗塞サイズにおける群間の統計的な差をANOVAで評価した。線形回帰分析を行い、各群における局所心筋短縮率、梗塞サイズおよび局所虚血時間の関係を判定した。群間の回帰直線の差を一般線形モデルを用いて比較検討した。さらに、顕著な非線形(たとえば、二次)効果についても一般線形モデルを用いて検査した。p<0.05の場合に統計学的に有意と見なした。
【0241】
この研究では、45分間の虚血および120分間の再灌流期間の5分前に液体医薬組成物IVを左心室腔にボーラス投与し、続いて60分間注入を行うことで、危険領域に占める割合で心筋梗塞サイズが縮小した(図14)。心筋I/R傷害においてビヒクルの保護効果は、まったく得られなかった。
【0242】
(実施例12)
液体医薬組成物IVは、イヌにおける心肺バイパス後の心機能を保護する
現在まで、一般的な心臓手術の大部分は、心筋保護下の心停止により体外循環を用いて行われている。心機能不全が臨床的に明らかでない場合でも、圧−容積関係を用いたヒト研究に記載されているように心筋収縮力の低下が起こる可能性がある。さらに、術後合併症として冠血管内皮および末梢血管機能の傷害が見られる場合もある。さらに、体外循環は、放出されるフリーラジカルとの全身性の炎症反応を引き起こし、二次的な臓器傷害につながることも知られている。
【0243】
培養筋細胞、灌流心臓において、および心筋梗塞の齧歯動物モデルにおいて硫化水素が心保護作用を発揮し得るという証拠が得られつつある(たとえば、Pan,TT.et al.,J.Mol.Cell.Cardiol.40:119−30(2006);Bian,J.S.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.316:670−8(2006);Johansen,D.et al.,Basic Res.Cardiol.101:53−60(2006);and Zhu,Y.Z.et al.,J.Appl.Physiol.102:261−8(2007)を参照)。スルフィドによる保護作用の機序として、細胞エネルギーの保存、炎症経路のダウンレギュレーション、酸化防止作用による細胞保護が挙げられる。本研究では、心肺バイパスのイヌモデルを用いてHSの液体医薬組成物の有望な心保護効果を検査し、この化合物が、臨床的に適切なバイパス手術モデルの心血管系機能に作用するかどうかを判定した。さらに、血管機能および心筋のエネルギー状態に対する硫化水素の作用も判定した。
【0244】
心停止(虚血;Szabo,G.et al.,Eur.J.Cardiothorac.Surg.25:825−32(2004))の確立したモデルを用いてイヌの2つのコホートで心肺バイパス中にスルフィドの液体医薬組成物に心保護効果があるかどうかを検査した。この研究では、各動物に90分間心肺バイパス(CBP:cardiopulmonary bypass)(30分間CBPの後、60分間の心停止)を行い、動脈流を回復させて60分間再灌流を行った。心停止および再灌流の過程で液体医薬組成物IVを注入すると、前負荷動員一回仕事量(PRSW)で測定した心機能が保護された。一方、ビヒクルで処置しても、心停止(虚血)モデルの心保護効果はまったく得られなかった。
【0245】
イヌを2群に無作為に割り付け、National Institutes of Healthおよび国立衛生研究所の指針に従って人道的なケアを行った。イヌにプロピオニルプロマジンを前投薬し、ペントバルビタールで麻酔し、臭化パンクロニウムで維持し、気管内に挿管した。換気については、室内空気とOの混合物、換気回数12〜15回/分とし、毎分の一回換気量15ml/kgで開始した。動脈血炭酸ガス分圧のレベルを35〜40mmHgに維持した。大腿動脈および大腿静脈をカニューレ処置し、大動脈圧(AoP:aortic pressure)を記録し、生化学解析のため血液サンプルを採取した。基本的に静脈内補液をリンゲル液で行った(1ml/分/kg)。補液は、カリウム、炭酸水素および過剰塩基の値に応じて塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムの投与を含む(8.4%)。カテコールアミンも、他のホルモン物質または昇圧物質も投与しなかった。
【0246】
液体医薬組成物IV(100mM、pH7.71、292mOsm)あるいはビヒクルを含む被験物質を60分間の心停止および60分間の再灌流期間中に注入した(1mg/kg/時間注入)。
【0247】
左前側方開胸後、大血管を切除した。左鎖骨下動脈を動脈灌流のためカニューレ処置し、抗凝固を維持するためヘパリンを投与した。静脈カニューレを右心房に留置した。体外回路(バイパス)については、熱交換器、静脈血貯血槽、ローラーポンプおよび膜型人工肺で構成され、ヘパリンおよび炭酸水素ナトリウムと共に乳酸リンゲル液溶液で刺激した。心肺バイパス(CPB)の開始後、動物の体温を28℃まで冷やした。大動脈を遮断し、心臓を25ml/kgのHTK溶液(mmol単位:15NaCl、9KCI、4MgCl 6HO、18ヒスチジンヒドロクロリド一水和物、180ヒスチジン、2トリプトファン、30マンニトール、0.015CaCl、1カリウム−水素−2−オキソペンタンジオアト、HO)で停止させた。
【0248】
心停止/灌流の間、ポンプ流量を調整して灌流圧を35〜40mmHg超に維持した。復温をクランプから40分後に開始し、心停止から60分後に大動脈のクランプを外し、バイパス回路で心臓に血液を再灌流させた。必要に応じて、40JのDC(direct current)除細動で心室細動を抑えた。
【0249】
研究後、換気を100%酸素で再開した。動脈遮断の解除から20分後にすべての動物を、強心薬療法を用いずにCPBから離脱させた。CBP前および再灌流の60分後に機能の測定を行い、記録した。さらに、実験終了時に高エネルギーリン酸の分析のため心筋プローブも回収した。
【0250】
左右心室の収縮期圧(LVESP:left end right ventricular systolic pressure)および拡張期圧(LVEDP:Left end right ventricular diastolic pressure)ならびに容積をそれぞれ、肺動脈を通る圧力−コンダクタンス複合カテーテルで測定した。一回拍出量(SV:stroke volume)を算出した。1mlの高張食塩水を肺動脈または上大静脈に急速注射して並列コンダクタンスを推計した。大静脈を閉塞させて一連の圧−容積ループを得た。左右心室の収縮末期圧−容積関係および前負荷動員一回仕事量(PRSW)の傾きおよび切片を、心筋収縮力の負荷非依存性指標として算出した。
【0251】
左前下行動脈の冠血流を、血管周囲の超音波流量プローブで測定した。アセチルコリン(ACH:acetylcholine、10−7M)を冠動脈内単回ボーラス投与した後、冠血管内皮依存性血管拡張を評価し、ニトロプルシドナトリウム(SNP:sodium nitroprusside、10−4M)を冠動脈内単回ボーラス投与した後、内皮非依存性血管拡張を評価した。血管反応をベースラインの冠血管抵抗に対する変化率で表した。
【0252】
心収縮機能を再灌流後の圧−容積ループ解析で測定した。ビヒクルあるいは液体医薬組成物IVによる注入をCBPから30分後に開始し、実験の終了まで継続した(1mg/kg/時間の用量で合計2時間静脈内注入)。すべての動物に60分間の心停止(虚血)および合計90分間の心肺バイパスを施した。虚血に対応してビヒクルで処置した群では前負荷動員一回仕事量(PRSW)が減少した。心停止および再灌流中の液体医薬組成物IVの注入では、ベースラインと比較した前負荷動員一回仕事量(PRSW)の変化で測定した心保護が確認された(図15)。
【0253】
アデノシン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)、アデノシン二リン酸(ADP:adenosine diphosphate)およびアデノシン一リン酸(AMP:adenosine monophosphate)の含量を、酵素反応速度アッセイにより標準的な測光で評価した。さらに、単離した冠状動脈環で内皮依存性と非依存性の弛緩も調べた。インビボ実験の終了後、心臓を切除し、冠動脈を単離して、冷たい(+4℃)Krebs−Henseleit溶液(118mMのNaCl、4,7mMのKCl、1,2mMのKHPO、1,2のmMmgSO、1,77mMのCaCl、25mMのNaHCO3、11,4mMのグルコース;pH=7,4)に浸した。冠動脈を、外膜周囲の脂肪および周囲の結合組織から調製および洗浄し、手術用顕微鏡を用いて横に切断し幅4mmの環にした。単離した大動脈環を、37℃のKrebs−Henseleit溶液25mlを含み、95%Oおよび5%COを通気させた別の器官槽(Radnoti Glass Technology,Monrovia,CA,USA)のステンレス製フックに掛けた。調製中は、内皮を損傷しないように特に注意を払った。等尺性収縮を、アイソメトリックフォーストランスデューサー(Radnoti Glass Technology,Monrovia,CA,USA)を用いて記録し、IOXソフトウェアシステム(EMKA Technologies,Paris,フランス)を用いてデジタル化し、保存し、表示した。この環を2gの静止張力下に置き、60分平衡処理した。U46619(5×10−7M)を用いて安定なプラトーに達するまで環を前接触させ、内皮依存性拡張物質アセチルコリン(ACh:acetylcholine、10−9〜10−4M)および内皮非依存性拡張物質ニトロプルシドナトリウム(SNP:sodium nitroprusside、10−10〜10−5M)を累積濃度で加えて弛緩反応を調べた。弛緩を、U46619により誘導された収縮に対する比で表わす。
【0254】
心拍数(HR:heart rate)、MAP(mean arterial pressure)、CO(cardiac output)
およびCBFを表2に示す。処置群ではベースラインの心拍数がやや上昇したが、その他の点では差は認められなかった。MAPは、CPB後に3群すべてで低下傾向を示したが、2つの処置群で有意であった(p<0.05)。COは群間および経時的に大きな差を示さなかった。CBFは、ベースライン時に3群すべてで類似していた。CPB後に対照群で大きく減少したのに対し、2つの処置群では変化がなかった。血行動態変数には群間および経時的に差がなかった。
【0255】
左心室機能に関するベースライン値に群間差はなかった。対照群ではCPB後、左心室dP/dtとPRSWがともに有意に低下したが、HSにより一部回復した(図15および図17)。
【0256】
CPB前のインビボでの内皮機能に差はなかった。CPB後のアセチルコリンに対する反応は、対照群で有意に低下したが、HSにより一部消出した(図19。)。SNPに対する反応については群間および経時的に差がなかった。
【0257】
アセチルコリン(ACh)に前接触させた動脈環の内皮依存性の血管弛緩は、対照環(CPBを使用しない動物、過去の対照)と比較して有意に阻害され、HS処置群では完全に防止された(図19)。SNP後の内皮依存性の血管弛緩には群間差はなかった。
【0258】
実験終了時に取得した心筋ATPの測定値は、硫化水素の存在下で対照ビヒクルと比較して有意に上昇した。一方、ADPおよびAMPのレベルには変化がなかった(表3)。
【0259】
これらのデータから、大型動物モデルを用いた心肺バイパスでは、HSの液体製剤(formulation)で処置すると、心筋保護下の心停止後の虚血後心筋機能および内皮機能が改善することが明らかにされる。こうした有益な効果は、HSの酸化防止効果、抗炎症効果、血行動態効果および細胞保護効果あるいはこれらの組み合わせに起因する可能性がある。
【0260】
(実施例13)
硫化水素は、大動脈閉塞による虚血再灌流障害に起因するDNAの損傷を緩和する
胸部大動脈閉塞による虚血/再灌流(I/R)傷害の臨床的に適切なブタモデルを用いてHSドナーであるNaHS注入の細胞保護効果を調べた。
【0261】
NaHS(n=6;2mg/kg×時間、大動脈閉塞の2時間前に開始し、8時間の再灌流まで継続)あるいはビヒクル(n=6)のどちらかに無作為に割り付けた後、麻酔下で換気し装置を埋め込んだブタに、鎖骨下動脈すぐ下流および大動脈分岐上流に留置した膨張可能なバルーンを用いて30分の大動脈閉塞を行った。大動脈閉塞中、平均動脈圧(MAP)を、エスモロール、ニトログリセリンおよびATPの静脈内投与で閉塞前のレベルの80〜120%に維持した。再灌流の初期にノルアドレナリンの持続静脈内投与を調節して、MAPがベースラインレベルの80%を超えるように維持した。全血サンプルのDNAの損傷を単細胞ゲル電気泳動(アルカリコメットアッセイ)で評価した。表4に示すデータは、中央値(範囲)であり、群内の差をフリードマンの順位によるANOVAで検査し、群間の差を対応のない順位和検定で検査した。
【0262】
NaHS注入の結果、心拍数および心拍出量が有意に減少した。一方、血圧および一回拍出量は影響を受けなかった。NaHSにより、血行動態の目標値を達成するのに必要なノルアドレナリンの必要量が減少し、グルコース代謝回転が低下し、I/RによるDNAの損傷が十分に抑制された(コメットアッセイのテールモーメント、#p<0.05対注入前、§p<0.05対ビヒクル)。
【0263】
これらのデータから、HSドナーであるNaHSを注入すると、大動脈閉塞によるI/R傷害において有益であったことが明らかにされ、液体スルフィド製剤(formulation)による処置で虚血傷害が防止されることが確認される。有益な効果は、本化合物の代謝調節効果と細胞保護効果の組み合わせに起因する可能性がある。
【0264】
【表1−1】

【0265】
【表1−2】

【0266】
【表1−3】

【0267】
【表2】

【0268】
【表3】

【0269】
【表4】

本明細書では説明のため本発明の特定の実施形態について記載してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変形が可能であることが上記から理解されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容されるキャリア中に安定な液体医薬カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物またはその塩もしくは前駆体を含む組成物であって、該カルコゲナイドもしくはカルコゲナイド化合物または塩の濃度、pHおよび酸化生成物が該液体医薬組成物の保存後に許容基準の範囲内にとどまる、組成物。
【請求項2】
前記カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩は、HS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrSおよびBaSからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩は、HSe、NaSe、NaHSe、KSe、KHSe、RbSe、CSSe、(NHSe、(NH)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSe、PoSeおよびBaSeからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩はスルフィドであり、濃度が95mM〜150mMの範囲にある、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩はスルフィドであり、該スルフィドはw/vで約80%〜約100%の範囲の量で存在する、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩はスルフィドであり、該スルフィドは、w/vで約90%〜約100%の範囲の量で存在する、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記カルコゲナイド化合物またはカルコゲナイド塩はスルフィドであり、該スルフィドはw/vで約95%〜約100%の範囲の量で存在する、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記液体は水酸化ナトリウムである、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物のpHの範囲は6.5〜8.5である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の酸素含有量は5μM以下である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項11】
ポリスルフィド、スルフィット、スルファートおよびチオスルファートからなる群より選択される1種または複数種の酸化生成物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記酸化生成物は(0%〜1.0%)の範囲のスルファート、(0%〜1.0%)の範囲のスルフィット、(0%〜1%)の範囲のポリスルフィドまたは(0%〜1.0%)の範囲のチオスルファートである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記保存期間は(23°〜27°)の範囲で約3ヶ月である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記保存期間は(23°〜27°)の範囲で約6ヶ月である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物の浸透圧モル濃度の範囲は250〜330mOsmol/Lである、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物はほぼ等張である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物は不透過性の容器に保存される、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物はキレート剤をさらに含む、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項19】
前記キレート剤は、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)またはデフェロキサミンからなる群より選択される、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
0.1mM〜1.0mMの範囲の前記DTPAの量の、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
0.1mM〜1mMの範囲の前記デフェロキサミンの量の、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物はpH改変剤をさらに含む、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項23】
前記pH改変剤は二酸化炭素、水酸化ナトリウム、塩酸または硫化水素からなる群より選択される、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物は還元剤をさらに含む、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項25】
前記還元剤は、ジチオスレイトール(DTT)またはグルタチオンからなる群より選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記ジチオスレイトール(DTT)の量は0.1mM〜1Mの範囲にある、請求項25に記載の還元剤。
【請求項27】
前記グルタチオンの量は0.1mM〜1Mの範囲にある、請求項25に記載の還元剤。
【請求項28】
前記組成物はフリーラジカルスカベンジャーをさらに含む、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項29】
前記フリーラジカルスカベンジャーは(6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸)(Trolox)またはトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)からなる群より選択される、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記フリーラジカルスカベンジャーはスピントラップ剤である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項31】
前記フリーラジカルスカベンジャーはN−t−ブチル−フェニルニトロン(PBN)、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPOL)からなる群より選択される、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記スピントラップ剤は(0mg/kg〜100mg/kg)の範囲にある、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記組成物は防腐剤をさらに含む、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項34】
前記防腐剤はベンジルアルコール、フェノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンまたは塩化ベンザルコニウムからなる群より選択される、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記防腐剤はベンジルアルコール(0%〜2.0%)(w/v)、フェノール(0%〜0.5%)(w/v)、メチルパラベン(0%〜0.25%)(w/v)、エチルパラベン(0%〜0.25%)(w/v)、プロピルパラベン(0%〜0.25%)(w/v)、ブチルパラベン(0%〜0.4%)(w/v)、塩化ベンザルコニウム、(0%〜0.02%)(w/v)の範囲にある、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
1当量の硫化水素ガスが1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解され、かつ3ヶ月間の保存後に前記組成物のpHの範囲は6.5〜8.5であり、該組成物の浸透圧モル濃度の範囲は250〜330mOsmol/Lであり、該組成物の酸素含有量は5μM以下であり、該組成物は0%〜3.0%(w/v)の範囲にある(are the range)酸化生成物を含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項37】
1当量の硫化水素ガスが1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解され、かつ5ヶ月間の保存後に前記組成物のpHの範囲は6.5〜8.5であり、該組成物の浸透圧モル濃度の範囲は250〜330mOsmol/Lであり、該組成物の酸素含有量は5μM以下であり、該組成物は0%〜2.0%(w/v)の範囲にある(are the range)酸化生成物を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項38】
1当量の硫化水素ガスが1当量の水酸化ナトリウム溶液に溶解され、かつ5ヶ月間の保存後に前記組成物のpHの範囲は7.5〜8.5であり、該組成物の浸透圧モル濃度の範囲は250〜330mOsmol/Lであり、該組成物の酸素含有量は5μM以下であり、該組成物は1%〜2.0%(w/v)の範囲にある(are the range)酸化生成物を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項39】
動物への投与に好適なスルフィドの組成物の調製方法であって、
a.1当量の硫化水素ガスを1当量の液体に溶解し、それによりスルフィド組成物を製造するステップ;および
b.ステップ(a)で得られた組成物のpHを6.5〜8.5の範囲に調整するステップを含み、それにより該組成物により、動物への投与に好適なスルフィドの液体組成物が生成される、方法。
【請求項40】
前記液体は水酸化ナトリウムである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記pHは1種または複数種の塩化水素、二酸化炭素、水酸化ナトリウムおよび硫化水素を加えて調整される、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記pHは窒素、二酸化炭素および/または硫化水素をステップ(a)で得られた組成物に溶解して調整される、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記pHは窒素と二酸化炭素との組み合わせまたは窒素と硫化水素との組み合わせをステップ(a)で得られた組成物に溶解して調整される、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記pHは硫化水素をステップ(a)で得られた組成物に溶解して調整される、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
ステップ(b)で得られた組成物の浸透圧モル濃度を250〜350mOsmol/Lの範囲の浸透圧モル濃度に調整するステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
ステップ(b)で得られた組成物を不活性雰囲気または希ガス下で遮光バイアルに分注するステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
ステップ(b)で得られた組成物に賦形剤を加えるステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項48】
前記賦形剤は、キレート剤、pH改変剤、還元剤、フリーラジカルスカベンジャーおよび防腐剤からなる群より選択される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
約6ヶ月間の酸素含有量が5μM以下である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩の組成物を含む1つまたは複数の容器を含むキットであって、該組成物のpHの範囲は6.5〜8.5である、キット。
【請求項51】
前記カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩はHS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrSおよびBaSからなる群より選択される、請求項50に記載のキット。
【請求項52】
前記カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩はHSe、NaSe、NaHSe、KSe、KHSe、RbSe、CSSe、(NHSe、(NH)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSeおよびBaSeからなる群より選択される、請求項50に記載のキット。
【請求項53】
前記組成物は等張性である、請求項50に記載のキット。
【請求項54】
前記容器は遮光性である、請求項50に記載のキット。
【請求項55】
前記容器は琥珀色バイアルである、請求項50に記載のキット。
【請求項56】
前記容器はガス不透過性である、請求項50に記載のキット。
【請求項57】
前記組成物は不活性雰囲気または希ガス下で前記容器に保存される、請求項50に記載のキット。
【請求項58】
前記不活性ガスまたは希ガスは、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)およびラドン(Rn)からなる群より選択される、請求項50に記載のキット。
【請求項59】
虚血または低酸素状態にさらされた生物学的物質のヒト疾患または傷害を処置する方法であって、該生物学的物質を有効量のカルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩の組成物と接触させることを含む、方法。
【請求項60】
前記接触させることは、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所(topically)、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、眼内、皮下、結膜下、小胞体内(intravesicularlly)、粘膜、心膜内、臍帯内、イントラオクララリー、経口、局所(locally)での接触、注射、注入、持続注入、吸収、吸着、浸漬、局所灌流、カテーテルまたは洗浄による接触を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩はHS、NaS、NaHS、KS、KHS、RbS、CSS、(NHS、(NH)HS、BeS、MgS、CaS、SrSおよびBaSからなる群より選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記カルコゲナイドまたはカルコゲナイド塩はHSe、NaSe、NaHSe、KSe、KHSe、RbSe、CSSe、(NHSe、(NH)HSe、BeSe、MgSe、CaSe、SrSeおよびBaSeからなる群より選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記虚血または低酸素状態は、前記物質への傷害、該物質に悪影響を及ぼす疾患の発症もしくは進行または該物質の大量出血に起因する、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
前記物質は、前記傷害の前、前記疾患の発症または進行の前または該物質の大量出血の前に前記組成物と接触する、請求項59に記載の方法。
【請求項65】
前記物質は、前記傷害の後、前記疾患の発症または進行の後または該物質の大量出血の後に前記組成物と接触する、請求項59に記載の方法。
【請求項66】
前記傷害は外部の物理的原因に起因する、請求項59に記載の方法。
【請求項67】
前記傷害は手術である、請求項59に記載の方法。
【請求項68】
前記物質は、前記傷害、前記疾患の発症もしくは進行または該物質の大量出血に起因する損傷または死から該物質を保護する量および時間で前記組成物と接触する、請求項59に記載の方法。
【請求項69】
前記物質は細胞、組織、器官、生命体および動物からなる群より選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項70】
前記物質は動物である、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記動物は哺乳動物である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記哺乳動物はヒトである、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記生物学的物質は血小板を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項74】
前記生物学的物質は移植される、請求項59に記載の方法。
【請求項75】
前記生物学的物質は再灌流障害の危険がある、請求項59に記載の方法。
【請求項76】
前記生物学的物質は出血性ショックの危険がある、請求項59に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【公表番号】特表2010−505879(P2010−505879A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531630(P2009−531630)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/080613
【国際公開番号】WO2008/043081
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(509095709)イカリア, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】