説明

液体クロマトグラフ装置、および分析用プログラム

【課題】本発明は、分析サイクル時間を短縮化等に関する。
【解決手段】本発明は、液体クロマトグラフ分析において、試料注入から次の試料注入までのサイクル時間を一定とし、カラムが溶離液により平衡化する前に試料を注入することに関する。各注入分析サイクルにおける溶離液の切り替えタイミングおよびサンプル注入のタイミングを同期させることにより、カラムが必ずしも平衡状態に至らなくとも、各成分ピークの保持時間が比較的再現性良く溶出される性質を応用したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置の一例として、高速アミノ酸分析計を用いて説明する。アミノ酸分析計は大別して、タンパク質加水分解物アミノ酸約20成分を対象とした標準分析法と、生体液アミノ酸類縁物質約40成分またはそれ以上の成分を対象とした生体液分析法を行うものに分類できる。
【0003】
生体液分析法の例としては、特開昭53−60291号公報,特開昭59−10849号公報,特開平4−194570号公報,特開平9−80037号公報,特開2002−71660号公報がある。また、報告文として、Journal of Chromatography, 224; 315-321(1981)“Resolution of 52 ninhydrin-positive compounds with a High-speed amino acid analyzer”,Clinical Chemistry 43; 8, 1421-1428(1997)“Amino Acid determination in biological fluids by automated ion-exchange chromatography: performance of Hitachi L-8500A”がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−60291号公報
【特許文献2】特開昭59−10849号公報
【特許文献3】特開平4−194570号公報
【特許文献4】特開平9−80037号公報
【特許文献5】特開2002−71660号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Chromatography, 224; 315-321(1981)“Resolution of 52 ninhydrin-positive compounds with a High-speed amino acid analyzer”
【非特許文献2】Clinical Chemistry 43; 8, 1421- 1428(1997)“Amino Acid determination in biological fluids by automated ion-exchange chromatography:performance of Hitachi L-8500A”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液体クロマトグラフ分析法では、高速に分析することがひとつの重要課題である。一般に液体クロマトグラフィーでは、第一溶離液によりカラムを十分に平衡化してからサンプルを注入しクロマトグラムを得る。これは、カラムが十分に平衡化していない場合、各成分の保持時間が不安定になり、結果的には良好な定量再現性が得られないことになってしまうからである。
【0007】
本発明は、分析サイクル時間を短縮化と、2種の異なる分析法プログラムを速く接続すること等に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液体クロマトグラフ分析において、試料注入から次の試料注入までのサイクル時間を一定とし、カラムが溶離液により平衡化する前に試料を注入することに関する。各注入分析サイクルにおける溶離液の切り替えタイミングおよびサンプル注入のタイミングを同期させることにより、カラムが必ずしも平衡状態に至らなくとも、各成分ピークの保持時間が比較的再現性良く溶出される性質を応用したものである。
【0009】
好ましくは、保持時間が不安定になることを防止するために、ステップワイズ溶出法またはグラジエント溶出法の溶離液切り替えタイミングを一定間隔とし、なおかつサンプル注入の間隔を溶出法の溶離液切り替えタイミングに同期させる。
【0010】
また、好ましくは、2種の異なる分析法プログラムの接続において、前に実行するプログラムの末尾と、後に実行するプログラムの先端の要素を取り上げ、最速接続用中間プログラムを作成する。最速接続用中間プログラムは、前の実行プログラムが分析対象となる最終ピークを溶出した時点で、前の実行プログラムを終了する。即、後方プログラムの末尾部分を切り出し送液する。最速接続用中間プログラムは、この前方プログラムの中断終了から後方プログラムの末尾の切り出しプログラムとの間に挿入される。
【発明の効果】
【0011】
分析サイクル時間の短縮化について、カラムが第一溶離液に十分置き換わらなくとも、切り替え時間を一定にすることにより、溶離液の置き換わりの程度は一定に繰り返されることで、各成分の保持時間再現性が良好に得られる。良好な保持時間再現性が得られれば、結果として溶離液切り替えおよび注入タイミングの同期は良好な定量再現性も得られる効果がある。
【0012】
2種の異なる分析法プログラムの接続については、効率よく、前方プログラムを終了し、後方プログラムの末尾を立ち上げることにより、最速な分析法の遷移を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】装置構成図。
【図2】PFS−94法によって得られるクロマトグラム。
【図3】PFS−75法によって得られるクロマトグラム。
【図4】分析プログラムA。
【図5】分析プログラムB。
【図6】最速接続中間プログラム使用例。
【図7】最速接続中間プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について、図面を参酌して説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本実施例のアミノ酸分析計の装置構成及び流路説明図である。1〜4はそれぞれ第1〜第4緩衝液、5はカラム再生液である。この中から電磁弁シリーズ6によって何れかの緩衝液が選ばれ、緩衝液ポンプ7によってアンモニアフィルタカラム8,オートサンプラ9によって導入されたアミノ酸試料は分離カラム10で分離される。ここで分離したアミノ酸は、ニンヒドリンポンプ12によって送られてきたニンヒドリン試薬11とミキサ13で混合し、加熱された反応カラム14で反応する。反応によって発色したアミノ酸(ルーエマン パープル)は検出器15で連続的に検知され、データ処理装置16によってクロマトグラム及びデータとして出力され、記録、保存される。
【0016】
(分析サイクル時間の短縮化に関して)
従来からイオン交換クロマトグラフィーを用いるアミノ酸分析法では、イオン交換カラムを約0.1mol/Lの水酸化ナトリウムもしくは水酸化リチウムの再生液で洗浄した後、クエン酸ナトリウムか、またはクエン酸リチウム溶離液を十分な時間を送液して、カラムを平衡化していた。再生液から溶離液に切り替えてサンプルを注入するまでの、所謂、カラム平衡化液量は、表1に示すように従来例PF−94法では9.5ml(流量:0.56ml/min、送時間:17分間)であった。カラムは、内径5.4mm長さ50mm相当であり、容積は1.1mlとなる。平衡化液量は、カラム容積で規格化すると、カラム容積の8.4倍量を送液している換算になる。イオン交換樹脂の場合、充填剤内部まで溶離液が浸透するため、カラム内の空隙率は考慮しないものとする。カラム容器中の再生液を溶離液の送液により置き換えていく場合、送り込んだ溶離液が速やかにカラム容器内で一様になるモデルでは、自然対数の底eの累乗に反比例した比率で再生液が残る。即ち、前述の例では、カラム容積の8.4倍量を送液すれば、e-8.4=0.000225=0.0225%の再生液しかカラム内に残っていない計算になる。
【0017】
本実施例では、カラム平衡化液量を従来のカラム容積7倍量に比べ、保持時間やピーク面積の変動・ばらつきを極限まで許容して、何倍量まで低減することできるかが重要になる。
【0018】
本実施例のアミノ酸分析方法であるPFS−75法と従来技術を備えたアミノ酸分析法であるPFS−94法を比較する。PFS−94法及びPFS−75法は、分析サイクル時間がそれぞれ94分間と75分間であり、カラム再生液の送液時間と第1緩衝液による平衡化時間のみが異なる。以上の分析法及び従来のタンパク質加水分解物分析法(以下PH)と生体液分析法(以下PF)について、カラム内の液体を再生液から第1緩衝液に置き換えたときの、再生液残存率を表1に示す。尚、カラム内体積をV(mL)、カラム再生後次の試料注入までに送液される第1緩衝液の送液体積をVRI(mL)とあらわすとき、カラム内の再生液残存率R(%)は数式1で示される。また、PFS−75法、及びPFS−94法で使用する緩衝液のリチウムイオン濃度及びpH等を表2に示す。
【0019】
【数1】

【0020】
表1から、本実施例の分析法における再生液残存率Rは従来技術のPF法における再生液残存率Rの600倍であり、本実施例である分析法の再生液残存率Rはこれまでのどの分析法と比較しても遥かに大きい値である。換言すれば、従来はカラム内の液体を第1緩衝液に十分置換し、カラムを平衡化した後に試料を注入していた。一方、本実施例では、液体置換が不十分であり、1%オーダーの再生液がカラム内に残存している状態で試料を注入する方法を採用している。つまり、従来法では十分なカラム平衡化の後に試料注入することで、良好な保持時間の再現性を得ていたと考えられる。しかし、本実施例では、再現性を若干低下させてでも高速に分析することを優先し、カラム平衡化がやや不十分な状態にもかかわらず試料注入する方法をとったといえる。なお、数式1よりRが1%のときは、VRI/V比は4.6であることがわかる。
【0021】
PFS−94は第1緩衝液から第4緩衝液までの分析プログラムは共通しているが、カラム再生液と平衡化のための第1緩衝液を送液する部分のプログラムが異なる。PFS−94,PFS−75はそれぞれ1分析あたりの所要時間が94分,75分の分析法である。
【0022】
図2,図3はそれぞれPFS−94法、及びPFS−75法について、各分析法を用いてRGスタートなしで分析を開始したときの第1注入分析と第2注入分析でのクロマトグラムを比較したものである。図3のPFS−75法では第1注入分析と第2注入分析のクロマトグラムにおいて、成分の保持時間が一致していないが、図2のPFS−94法では保持時間が一致している。
【0023】
従来から、同一のタイムウィンドウでピーク同定できるようにするため、即ち第1注入分析と第2注入分析において各成分の保持時間が極力一致するように、カラムを十分に平衡化してきた。PFS−94法では、サイクル中のピーク同定に関して、VRI/V比で8.4、再生液残存率0.0225%で、従来の通り十分、平衡化し、保持時間を一致させている。今回、第1注入分析の後にカラムを第1緩衝液で十分平衡化するという従来の手法にとらわれず、保持時間を一致させる別の方法を検討した。
【0024】
今回、カラム平衡化時間にとらわれることなく、再生液残存率がたとえ1%以上であっても、すなわち、VRI/V比が4.6以下であっても、注入間隔サイクルを一定にすることにより保持時間を一致させることができる方法を見つけた。第1緩衝液を十分送液しなくとも、注入間隔を時間短縮することができるため、分析を高速化することが可能となった。必ず先にカラム再生(RG)工程から分析を開始するRGスタートの場合のデータを用いることとすれば、図3の第2注入クロマトグラムの保持時間が得られる。RGスタートを用いるかあるいは第2以降の注入分析からのデータを用いることにより、分析サイクルの高速化は可能である。本実施例として、PFS−75法はVRI/V比が2.5(表1参照)であるにもかかわらず、第1注入分析と第2注入分析での保持時間を一致させることができた。
【0025】
また、タンパク質加水分解物(PH)法においても、従来の通り、VRI/V比は、6.8と大きい(表1参照)。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
(2種の異なる分析法プログラムの接続に関して)
分析プログラムはカラムに吸着した成分を分離する溶出工程,強アルカリの再生液によってカラムを再生するカラム再生工程,引き続き行われる分析に備えるための第1緩衝液でカラムを平衡化するカラム平衡化工程から構成される。また、分析プログラムはポンプの流速,カラムオーブンの温度等も時間軸に沿って指定するものである。
【0029】
ここで、2種類の分析プログラムを用いて連続分析する場合を考える。2種類の分析プログラムの例として分析プログラムA(図4)と分析プログラムB(図5)を例に挙げる。同一の分析プログラムを用いた試料中の連続成分分析を効率よく行うにはRGスタートが有効である。RGスタートとは第1分析によって得られるクロマトグラムにおける成分ピークの保持時間と、第2分析以降に得られるクロマトグラムにおける成分ピークの保持時間のずれを解消する方法である。
【0030】
ところが、分析プログラムAの後に分析プログラムBを用いて試料中の成分を分析する場合、分析プログラムAに引き続き連続して分析プログラムBを実行すると、分析プログラムBの第1分析で得られるクロマトグラムにおける成分ピークの保持時間と第2分析以降で得られるクロマトグラムにおける成分ピークの保持時間の再現性が低下する。分析プログラムAの最終成分であるアルギニン(Arg)の溶出直後にプログラムを途中で中断し、分析プログラムAによる再生液送液工程を実施することなく、分析プログラムB専用のRGスタートを挿入することによってこの現象を回避することができる。しかし、分析プログラムAと分析プログラムB用のRGスタートの繋ぎ目で以下の不具合が生じる。
【0031】
(1)2つの分析プログラム間でポンプ流速の設定値が等しくない場合、分析プログラムの繋ぎ目で圧力変動が起こる。これはカラム寿命に対して負の方向に作用する。(2)分析プログラムの繋ぎ目でカラムオーブンの温度設定値が一致しない場合、カラムがカラム外から受け取るエンタルピー量の再現性が低下するため、成分ピークの保持時間再現性が低下する。
【0032】
これらの問題を解決するため、図6に示すようにプログラムの繋ぎ目に両プログラムを円滑に繋ぐような接続プログラムを挿入する。また、図7に、図2及び図3に示した分析プログラムA及び分析プログラムBに対応させた最速接続中間プログラムを示す。図7に示した最速接続用中間プログラムでは、カラムオーブン温度値に関しては分析プログラムBのRG工程における、最初のカラムオーブン温度となるように設定した。ポンプの流速設定値に関しては、分析プログラムAの最下段の設定値と分析プログラムBのRG工程の初段の設定とを滑らかに繋げるよう、つまり、ポンプ1の流速設定値を0.500mL/minから0.400mL/minへ、ポンプ2の流速設定値を0.400mL/minから0.350mL/minへリニアグラジエントによって繋いだ。この接続プログラムを挿入することによって、分析プログラムBのRGが実行される前に、ポンプの流速及びカラムオーブン温度が分析プログラムBのRG工程初段のポンプ流速設定値、及びカラムオーブン温度設定値へとリニアグラジエントプログラムを用いて直線的に接続され、正常な状態で分析プログラムBをRGスタートすることによって、再現性よく連続分析することが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1…第1緩衝液、2…第2緩衝液、3…第3緩衝液、4…第4緩衝液、5…カラム再生液、6…電磁弁シリーズ、7…緩衝液ポンプ、8…アンモニアフィルタカラム、9…オートサンプラ、10…アミノ酸試料は分離カラム、11…ニンヒドリン試薬、12…ニンヒドリンポンプ、13…ミキサ、14…反応カラム、15…検出器、16…データ処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ装置であって、
第一グラジエント溶出プログラムから第二グラジエント溶出プログラムに移行する間に挿入する接続用グラジエント溶出プログラムに、第一グラジエント溶出プログラムおよび第二グラジエント溶出プログラムそれぞれの構成要素を含めた接続用グラジエント溶出プログラムを備えることを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項2】
液体クロマトグラフ装置に用いる分析用プログラムであって、
第一グラジエント溶出プログラムから第二グラジエント溶出プログラムに移行する間に挿入する接続用グラジエント溶出プログラムと、
第一グラジエント溶出プログラムおよび第二グラジエント溶出プログラムそれぞれの構成要素を含めた接続用グラジエント溶出プログラムとを含む分析用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−112960(P2010−112960A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7678(P2010−7678)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【分割の表示】特願2005−226087(P2005−226087)の分割
【原出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)