説明

液体レンズ及び液体レンズの制御方法

【課題】 ヒステリシス特性を利用して、より高い精度で焦点距離の制御が可能な液体レンズ及びその制御方法を提供する。
【解決手段】 印加電圧の第1の閾値と第2の閾値との間に、印加電圧を大きくしていく第1の動作と、印加電圧を小さくしていく第2の動作とで焦点距離が異なり、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第1の動作を行った時の方が第2の動作を行った時よりも小さい第1の範囲と、それと反対の第2の範囲とが存在するヒステリシス特性を有する液体レンズにおいて、
第2の範囲内の焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第2の閾値以上の状態とした後に、目標電圧値に変化させる制御を行い、且つ、第1の範囲内の焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第1の閾値以下の状態とした後に、目標電圧値に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点の液体レンズに関し、特にエレクトロウェッティング(電気毛管、以下EWと記す)現象を利用した液体レンズ及びこの液体レンズにおける光学特性の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学素子として可変焦点の液体レンズが注目されている。液体レンズは、レンズを移動させる駆動機構を設けることなく、レンズそのものの光学特性を変化させることによって焦点距離を可変にする。液体レンズとしては、EW現象を用いた電気方式の駆動制御を行うものが、特許文献1等で提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されたEW電気方式による液体レンズは、絶縁液体の液滴が、この液滴と互いに混和せず、且つ、異なる屈折率を有する導体液体と共に誘電体のチャンバに収容されて成る。チャンバの内壁には導体液体のぬれ性を向上させる表面処理が施されている。上記導体液体には、第1電極が接触している。一方、チャンバの外側表面には、円形の開口を有する第2の電極が配置されている。そして、第1及び第2の電極間に電圧を印加すると共に、印加電圧値を制御することによって、液滴の形状を変化させ、焦点距離を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号WO1999/018456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記EW電気方式による液体レンズは、第1及び第2の電極間に印加する電圧値を大きくして行った時と、小さくしていった時とで、同じ印加電圧値に対して焦点距離が異なる、所謂ヒステリシス特性を有することが知られている。
【0006】
本発明の目的は、上記ヒステリシス特性を利用して、より高い精度で焦点距離の制御が可能な液体レンズ及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の液体レンズは、導電性又は有極性の第1の液体と、該第1の液体と混合せず、且つ第1の液体と異なる屈折率を有する絶縁性又は無極性の第2の液体とが、曲率を有する界面を形成するように収容された容器、前記第1の液体に接触した第1の電極、前記第2の液体に絶縁層を介して対向するように設けられた第2の電極、及び前記第1の電極と第2の電極との間に印加される印加電圧値を制御することによって焦点距離を変化させる電圧制御部を備えた液体レンズにおいて、前記印加電圧値が第1の閾値以下又は第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上の場合には、印加電圧値に対応する1つの焦点距離となり、印加電圧値が第1の閾値よりも大きく、且つ、第2の閾値よりも小さい場合には、第1の閾値以下の状態から電圧値を大きくしていく第1の動作を行った時と、第2の閾値以上の状態から電圧値を小さくしていく第2の動作を行った時とで、焦点距離が異なり、且つ、前記第1及び第2の閾値にそれぞれ対応する第1及び第2の焦点距離の間に、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第1の動作を行った時の方が第2の動作を行った時よりも小さい第1の範囲と、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第2の動作を行った時の方が第1の動作を行った時よりも小さい第2の範囲とが存在するヒステリシス特性を有し、前記電圧制御部は、焦点距離が第1の範囲内又はそれよりも長い状態から第2の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第2の閾値以上の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行い、且つ、焦点距離が第2の範囲内又はそれよりも短い状態から第1の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第1の閾値以下の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行うことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の制御方法は、上記構成において、液体レンズを、焦点距離が第1の範囲内又はそれよりも長い状態から第2の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第2の閾値以上の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行い、且つ、前記液体レンズを、焦点距離が第2の範囲内又はそれよりも短い状態から第1の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第1の閾値以下の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より高い精度で焦点距離の制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る液体レンズの概略断面図。
【図2】図1に記載の電圧制御部の構成例を示すブロック図。
【図3】図1の実施形態における印加電圧と焦点距離との関係を示す図。
【図4】図1の実施形態において目標とする焦点距離が第2の範囲にある場合の制御方法を説明する図。
【図5】図1の実施形態において目標とする焦点距離が第1の範囲にある場合の制御方法を説明する図。
【図6】図1の実施形態における液体レンズの制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明に係わるEW電気方式の液体レンズの一実施形態を示す概略断面図である。図1において、符号Oは液体レンズの光軸を示す。液体レンズは、この光軸Oに対して回転対称形状をなしている。上側部材1及び下側部材2はそれぞれ、透光性の平板部材から成る。これらの部材1及び2は、不図示の枠体或いはスペーサーによって所定の間隔を空けて互いに平行に配置され、液体レンズを保持する収容室(セル)を構成している。
【0013】
下側部材2の内表面上には、円形の開口3aを有する第2の電極3が設けられている。この第2の電極3は、透明電極から成り、その開口は光軸Oに対して回転対称の形状を有する。第2の電極3の上には、絶縁層4が形成されている。そして、絶縁層4の上には、光軸Oを中心とした円形に撥水層5が形成され、この撥水層5を取り囲むように、絶縁層4上に親水層6が形成されている。これらの撥水層5及び親水層6が、収容室(セル)の内壁を構成している。
【0014】
上記の部材1及び2から構成された収容室(セル)には、導電性又は有極性の第1の液体7と、絶縁性又は無極性の第2の液体8とが収容されている。第1及び第2の液体は、互いに混合することなく、且つ、互いに異なる屈折率を有している。第2の液体8は疎水性を有し、撥水層5に接するように配置されている。これに対し、第1の液体7は親水性を有し、親水層6に接し、第2の液体8を取り囲むように収容室内に充填される。その結果、これらの液体の間には、Aに示すような曲率を有する界面が形成される。これらの液体は屈折率が異なるので、界面Aを透過する光に対して、レンズ作用を生じる。例えば、通常用いられる材料としては、絶縁性又は有極性である第2の液体8の方が、導電性又は有極性を有する第1の液体7よりも屈折率が大きい場合が多い。この場合には、液体レンズは凸レンズとして機能する。
【0015】
収容室(セル)の一部には孔が開けられ、ここに棒状電極から成る第1の電極9が挿入されて、第1の液体7と接触している。孔と第1の電極9との間は接着剤で封止され、収容室(セル)の密封性を維持している。第1の電極9と先に説明した第2の電極3との間には、電圧制御部10によって電圧が印加される。また、電圧制御部10は、第1及び第2の電極間に印加される印加電圧値を制御することができるように構成されている。また、電圧制御部10は、例えば液体レンズを搭載した光学装置の他の機器と信号のやり取りができるように構成されている。なお、電圧制御部10によって印加される電圧は、直流電圧でも良いが、絶縁層4への電荷注入を抑制するために、数10Hz〜数10KHzの交流電圧を用いるのが好ましい。
【0016】
図1の液体レンズにおいて、上側部材1及び下側部材2としては、例えばアクリル製の透明基板を用いることができる。第2の電極3は、例えば、下側部材2の内表面上に、スパッタリングによって酸化インジウムスズ(ITO)の薄膜を形成し、この薄膜をパターニングすることによって形成することができる。円形の開口3aは、絶縁材料によって埋め込まれ、電極の上面と同じ高さに平坦化されていることが望ましい。第2の電極3上の絶縁層4は、電圧制御部10の駆動電圧が高くならないよう、1μm以下の厚さであることが望ましい。このような絶縁層4としては、例えばLangmuir−Blodgett(LB)法で形成される膜(LB膜)を用いることができる。LB法を用いれば、常温、常圧で、均一な無欠陥の薄膜を得ることができる。また、絶縁層4として、キャストコート膜を用いることもできる。この膜は、有機や無機の化合物(好ましくはフッ素系やシリコン系の樹脂)を溶媒と共に、ディピングやスピンコートなどの手法を用いて、基板上に塗布することにより形成することができる。さらに、絶縁層4として、スパッタリングによって成膜した金属酸化物やシリコンなどの膜を用いることも可能である。
【0017】
撥水層5は、例えば絶縁層4上に撥水処理剤を塗布することによって形成される。撥水処理剤としては、フッ素化合物等が好適に用いられる。この撥水層5は、第2の液体8に対する親和性(親和力)が、第1の液体7に対する親和性よりも大きくなる表面層を形成するものである。また、親水層6は、例えば絶縁層4上に親水処理剤を塗布することによって形成される。親水処理剤としては、界面活性剤、親水性ポリマー等が好適に用いられる。この他にも、一般的に知られた親水性材料を用いて、親水層6を形成しても良い。
【0018】
第1の液体7としては、無機塩の水溶液や有機液体など、それ自体が導電性や有極性を有するもの、あるいは、イオン性成分を付加することによって導電性や有極性を持たせた液体が用いられる。一例として、水、エチルアルコール、食塩が所定比率で混合され、密度1.06、室温での屈折率1.38の電解液を用いることができる。なお、この例における密度や屈折率は一つの仕様として提示したものであり、特にこれに限定されない。
【0019】
第2の液体8としては、無色透明で、液体レンズの使用温度範囲において第1の液体7と実質的に同じ密度を有している液体を用いることが望ましい。第1及び第2の液体の密度の差が大きいと、これらの液体の界面が非対称形状になってしまい、コマ収差が生じてしまう。ここで、実質的に同じ密度とは、両液体の密度の差が、高い方の液体の密度に対して1%未満であることを言う。第2の液体8としては、例えば、密度1.06、室温での屈折率1.49のシリコーンオイルを用いることができる。また、第2の液体8として、パラフィンオイルを用いることもできる。このように、第1の液体7と混合しない絶縁性または無極性の液体であれば、第2の液体8の種類は問わない。
【0020】
図2は、図1に記載した本発明の実施形態における電圧制御部の構成例を示すブロック図である。
【0021】
図2において、電圧制御部10は、制御演算、駆動信号の生成を行うCPU(中央処理装置)11、CPU11のバスに接続されるROM13とRAM14、実際の印加電圧を生成する電源15、DC/DCコンバータ16、電圧値を増幅するアンプ17及び18から構成されている。CPU11は、印加電圧の制御を行う、組み込み型のものである。CPU11は、印加電圧値、印加するタイミング及び、PWM制御の場合は印加電圧のデューティ比の制御を行う。また、本実施形態の液体レンズが、撮像装置等の光学装置に組み込まれている場合、CPU11は、この光学装置の他の機器と信号のやり取りを行うことによって、光学装置全体を制御する。
【0022】
ROM13には、制御用の参照テーブル(LUT)やCPU11に各種制御を実行させるためのプログラムやデータが格納されている。ROM13としては、不揮発性のメモリであるフラッシュメモリ(Flash Memory)等が用いられる。RAM14には、CPU11が各種制御や処理を行うために用いるワークエリア、液体レンズの状態や装置の環境情報等が格納されている。RAM14としては、リフレッシュが必要なDRAMやリフレッシュ動作が不要なSRAM等、速度やコストを考慮して適したデバイスを用いる。
【0023】
電源15としては、乾電池や蓄電池等の直流電源が用いられる。電源15は、制御系であるCPU11やその周辺回路の他、液体レンズを始めとする他の制御機構の動作に必要な電力を供給する。DC/DCコンバータ16は、CPU11の制御信号に応じて電源15から供給される電圧を所望の電圧値へと昇圧する。エレクトロウェッティング動作を行うには、一般的には数百ボルトの電圧が必要となる。CPU11からの制御信号に応じて、電源15の出力電圧がDC/DCコンバータ16、アンプ17および18によって所望の電圧値、周波数、およびデューティで液体レンズに印加されるようになる。アンプ17は図1に示す液体レンズ内の第1の電極9に、アンプ18は第2の電極3にそれぞれ接続され、これらの電極間に電圧を印加する。
【0024】
次に、図1に示す実施形態の液体レンズの動作を説明する。まず、第1の液体7に電圧が印加されていない場合、この第1の液体7と第2の液体8との界面は図1において実線で示すAの状態である。ここで、界面Aの形状は、両液体間の界面張力、第1の液体7と撥水層5或いは親水層6との界面張力、第2の液体8と撥水層5或いは親水層6との界面張力、第2の液体8の体積によって決まる。本実施形態では、第2の液体8であるシリコーンオイルと撥水層5との界面張力が小さくなるように材料選定されている。すなわち、前記両材料間の濡れ性が高いため、第2の液体8が形成するレンズ状液滴の外縁は広がる性向を持ち、外縁が撥水層5の塗布領域に一致したところで安定する。一方、両液体は前述のごとく実質的に等しい密度を有するため、重力は作用しない。そのため、界面Aは球面となり、その曲率半径及び頂点の高さ(レンズの厚さ)は、第2の液体8の体積によって決まる。
【0025】
一方、図1に示す電圧制御部10から第1の電極9を介して、第1の液体7と第2の電極3との間に電圧が印加されると、EW現象によって、第1の液体7と親水層6或いは撥水層5との界面エネルギーの釣り合いが変化する。そして、第1の液体7が親水層6と撥水層5との境界を乗り越えて、撥水層5が塗布された領域に侵入する。その結果、第2の液体8が作るレンズの底面の直径は減少し、両液体の界面は、実線Aに示す形状から、破線で示すBの形状へと変化する。本実施形態においては、第2の液体8が第1の液体7よりも高い屈折率を有しており、界面Aから界面Bへの状態(形状)変化によって、界面の曲率半径が小さくなるため、液体レンズの焦点距離が短くなる。つまり、この液体レンズは電圧の印加によって焦点距離が変化する、所謂可変焦点レンズとして機能する。
【0026】
図1において、第1の電極9と第2の電極3との間に電圧を印加した時の接触角をθで示す。接触角θを、印加電圧Vの関数として表現したθ(V)は、絶縁層4の膜厚をd、絶縁層4の誘電率をε、第2の液体8の界面エネルギーをγ、真空の誘電率をεとすると、以下の(1)式で与えられる。
cosθ(V)−cosθ(0)=ε・ε・V/(2d・γ) …(1)
【0027】
(1)式から、電圧の印加によって接触角θが変化し、第1及び第2の液体の間の界面形状を制御できることがわかる。つまり、本実施形態においては、印加される電圧値によって、液体レンズの焦点距離が変化する。第1の電極9と第2の電極3との間に電圧を印加し、印加電圧値を徐々に大きくして行くと、液体レンズの焦点距離はだんだん短くなる。反対に、上記両電極間に大きな電圧値が印加されている状態から、徐々に電圧値を小さくして行くと、液体レンズの焦点距離はだんだん長くなる。このように、印加電圧値を変化させることによって、液体レンズの焦点距離を連続的に変化させることが出来る。
【0028】
以上、本発明の前提となる液体レンズの構成及び動作の実施形態を説明したが、次に本発明の特徴である制御方法について説明する。本発明は、EW電気方式の液体レンズが持つヒステリシス特性を利用して、焦点距離を目的とする値に制御する場合に、より高い精度で制御を行えるようにするものである。まず、液体レンズのヒステリシス特性について、図3を用いて説明する。
【0029】
図3(a)及び(b)は、図1の実施形態における印加電圧と焦点距離との関係を示す図である。図3(a)及び(b)において、横軸は図1に示す第1の電極9と第2の電極3との間に印加される電圧を示し、縦軸は液体レンズの焦点距離を示す。上記両電極間に電圧を印加していない状態において、液体レンズの焦点距離はFである。この状態から、図3(a)に示すように、両電極間に電圧を印加し、印加電圧値を大きくして行くと、焦点距離は曲線Cに従って徐々に短くなって行く。そして、一旦、第2の閾値V以上の電圧値を印加した後、印加電圧値を小さくして行くと、焦点距離は曲線Cにしたがって徐々に長くなって行く。更に、印加電圧値を小さくして行き、一旦、第1の閾値V以下の状態とした後、印加電圧値を大きくして行くと、焦点距離は再び曲線Cに従って変化する。このように、図1の液体レンズは、その界面挙動が非線形性、所謂ヒステリシス特性を示す。
【0030】
このようなヒステリシス特性を有すると、印加電圧値が第1の閾値Vよりも大きく、第2の閾値Vよりも小さい範囲においては、同じ電圧値Vを印加した場合であっても、液体レンズは異なる焦点距離を示す。例えば、図3(a)において、第1の閾値V以下の状態から電圧値を大きくして行く第1の動作を行って、電圧値をVとした場合の焦点距離はFである。これに対し、第2の閾値V以上の状態から電圧値を小さくして行く第2の動作を行って、電圧値をVとした場合の焦点距離は、Fとは異なるFとなる。一方、印加電圧値が第1の閾値V以下の場合、又は、第2の閾値V以上の場合には、印加電圧値から焦点距離は一義的に決まる。つまり、これらの場合に、液体レンズは印加電圧値に対応する1つの焦点距離となる。
【0031】
上記のような液体レンズにおいて、非線形領域では第1の曲線Cと第2の曲線Cとで印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が異なる。図3(b)において、印加電圧値の第1の閾値V及び第2の閾値Vに対応する焦点距離を、それぞれ第1の焦点距離F及び第2の焦点距離Fとする。すると、焦点距離FとFとの間に、曲線Cと曲線Cとで、焦点距離の変化率が等しくなる、つまり曲線Cの接線と曲線Cの接線の傾きが等しくなる焦点距離Fが存在する。そして、焦点距離FからFの間の第1の範囲Rにおいては、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が、第1の動作を行った時の方が第2の動作を行った時よりも小さくなる。これに対し、焦点距離FからFの間の第2の範囲Rにおいては、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が、第2の動作を行った時の方が第1の動作を行った時よりも小さい。
【0032】
図3(b)のような特性において、目標とする焦点距離が第1の範囲Rにある場合、曲線Cに沿って焦点距離を変化させた方が、印加電圧値に対する変化率が小さいので、より精度の高い制御が可能となる。これに対し、目標とする焦点距離が第2の範囲Rにある場合、曲線Cに沿って焦点距離を変化させた方が、より精度の高い制御が出来る。本発明は、この点に着目したものである。つまり、焦点距離が第1の範囲R内、又はそれよりも長い状態(Fよりも長い状態)から第2の範囲R内の目標とする焦点距離に変化させようとする場合を考えてみる。この場合には、印加電圧値を一旦、第2の閾値V以上の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行う。また、焦点距離が第2の範囲R内、又はそれよりも短い状態(Fよりも短い状態)から第1の範囲R内の目標とする焦点距離に変化させようとする場合を考えてみる。この場合には、印加電圧値を一旦、第1の閾値V以下の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行う。このような方法を用いることで、印加電圧値に対する焦点距離の変化率が小さい方の曲線上で焦点距離を変化させることが出来、より精度の高い制御が可能となる。以下に各々の場合について、更に詳細に説明する。
【0033】
図4は、印加電圧と焦点距離との関係に関し図3と同一の特性を示すものであって、目標とする焦点距離が第2の範囲R内にある場合の制御方法を説明するための図である。図4(a)のように、現在の状態、つまり焦点距離を変化させる前の状態が、Fよりも長い焦点距離FS1であるとする。この時の印加電圧値は、VS1である。目標とする焦点距離Fは第2の範囲R内にあるので、印加電圧値を、VS1から大きくして行き、一旦、第2の閾値V以上の状態とする。その後、印加電圧値を小さくして行き、Fに対応する電圧値Vとする。これは、現在の状態が第1の範囲R内の焦点距離FS2である場合も同様である。つまり、印加電圧値をVS2から一旦、第2の閾値V以上の状態とした後、Fに対応した電圧値Vに制御する。
【0034】
一方、図4(b)のように、現在の状態がFより短い焦点距離FS1であるとする。この場合に、印加電圧値はVS1から徐々に小さくして行き、直接Vとなるように制御する。つまり、印加電圧値を一旦、V以下にする必要はない。また、現在の状態が第2の範囲R内の焦点距離FS2である場合も同様に、印加電圧値をVS2から直接、Vに変化させる。
【0035】
続いて図5は、印加電圧と焦点距離との関係に関し図3と同一の特性を示すものであって、目標とする焦点距離が第1の範囲R内にある場合の制御方法を説明するための図である。図5(a)のように、現在の状態が、Fよりも短い焦点距離FS1であるとする。この時の印加電圧値は、VS1である。目標とする焦点距離Fは第1の範囲R内にあるので、印加電圧値を、VS1から小さくして行き、一旦、第1の閾値V以下の状態とする。その後、印加電圧値を大きくして行き、Fに対応する電圧値Vとする。これは、現在の状態が第2の範囲R内の焦点距離FS2である場合も同様である。つまり、印加電圧値をVS2から一旦、第1の閾値V以下の状態とした後、Fに対応した電圧値Vに制御する。
【0036】
一方、図5(b)のように、現在の状態がFより長い焦点距離FS1であるとする。この場合に、印加電圧値はVS1から徐々に大きくして行き、直接Vとなるように制御する。つまり、印加電圧値を一旦、V以上にする必要はない。また、現在の状態が第1の範囲R内の焦点距離FS2である場合も同様に、印加電圧値をVS2から直接、Vに変化させる。
【0037】
図4及び図5で説明した制御方法において、焦点距離が第1の範囲R内で、曲線C上にある状態、及び、第2の範囲R内で曲線C上にある状態を想定していない。これは、本発明の方法に従って制御を行っている限り、このような状態にはなり得ないからである。
また、目標とする焦点距離がF以上、又はF以下の場合は、印加電圧値に対して焦点距離が一義的に決まるのであるから、図4(a)或いは図5(a)のような制御は不要である。つまり、この場合には、印加電圧値を直接Vに制御すれば良い。
【0038】
上記のような制御は、図2に示す電圧制御部10によって行われる。電圧制御部10において、ROM13の参照テーブル(LUT)には、図3のような特性、つまり非線形領域における曲線C及びCを含め、焦点距離とその焦点距離に対応する印加電圧値がセットで格納されている。また、ROM13には、第1及び第2の閾値V及びVと、対応する焦点距離F及びF、更には第1の範囲Rと第2の範囲Rとの境界の焦点距離Fの情報が格納されている。一方、RAM14には、現在の状態、つまり焦点距離を変化させる前の状態の焦点距離Fが書き込まれている。そして、これらのメモリに格納された情報に基づいて、CPU11が制御方法を決定する。そして、CPU11は、決定した制御方法に従ってアンプ17及び18を制御し、印加電圧値を変化させる。ここでは、ROM13に参照テーブルを格納する例を示したが、メモリ容量削減のため、図3のような特性を関数に置き換えて格納し、CPU11で印加電圧値を演算によって求めるようにしても良い。
【0039】
また、図3のような特性は、環境条件、特に液体レンズ収容室内の液体の温度によって変わるため、環境条件に対応した参照用テーブルを複数保持する構成が望ましい。この場合、環境条件を計測するためのセンサが必要となる。また、このセンサによる計測は、液体レンズの駆動開始時等、所定のタイミングで行い、参照用テーブルを選択するようにすれば良い。
【0040】
図6は、図1の実施形態における液体レンズの制御の流れを示すフローチャートである。
図6において、ステップ101ではまず、図2に示すCPU11は、RAM14から現在の焦点距離Fを読み込む。次に、ステップS102では、図2のCPU11は、外部の他の機器から指示される目標の焦点距離Fを読み込む。ここで、先に説明したように、CPU11が液体レンズを組み込んだ光学機器全体を制御するように構成されている場合がある。この場合には、他の機器(例えば焦点検出装置)からの信号に従って、CPU11が目標とする焦点距離Fを決定することになる。
【0041】
続いて、ステップS103では、図2のCPU11は、目標とする焦点距離Fが第1の焦点距離F(第1の閾値Vに対応)以上であるか否かを判断する。FがF以上であった時には、ステップS104に進み、印加電圧値をVに制御して、焦点距離を目標値Fに合わせる。その後、CPU11は、ステップS105において、RAM14中の現在の焦点距離FをFに置き換え、処理を終了する。
【0042】
一方、ステップS103において、目標とする焦点距離FがF以上でない、と判断された時には、ステップS106に進む。ステップS106において、CPU11は、目標とする焦点距離Fが第2の焦点距離F(第2の閾値Vに対応)以下であるか否かを判断する。FがF以下であった時には、ステップS104に進む。その後、先の説明と同様に印加電圧値をVとして、焦点距離をFに調整した後、ステップS105を経て、処理を終了する。
【0043】
ステップS106において、目標とする焦点距離FがF以下でない、と判断された時には、ステップS107に進む。ステップS107において、CPU11は、目標とする焦点距離Fが第1の範囲R内か否かを判断する。FがR内である、と判断された時には、ステップS108に進む。ステップS108においては、現在の焦点距離Fが第1の範囲R内にあるか、又は、Fが第1の範囲Rよりも長いか(第1の焦点距離F以上であるか)を判断する。ステップS108でYESと判断された時には、ステップS104に進み、印加電圧値をVとして、焦点距離をFに調整した後、ステップS105を経て、処理を終了する。
【0044】
ステップS108において、NOと判断された時には、ステップS109に進む。ステップS109において、CPU11は、印加電圧を一旦、第1の閾値V以下とした後、印加電圧値をVに制御して、焦点距離を目標値Fに合わせる。その後、ステップS105を経て、処理を終了する。
【0045】
一方、ステップS107において、NO(Fが第1の範囲R内にない)と判断された時には、ステップS110に進む。ステップS110においては、現在の焦点距離Fが第2の範囲R内にあるか、又は、Fが第2の範囲Rよりも短いか(第2の焦点距離F以下であるか)を判断する。ステップS110でYESと判断された時には、ステップS104に進み、印加電圧値をVとして、焦点距離をFに調整した後、ステップS105を経て、処理を終了する。
【0046】
ステップS110でNOと判断された時には、ステップS111へ進む。ステップS111において、CPU11は、印加電圧を一旦、第2の閾値V以上とした後、印加電圧値をVに制御して、焦点距離を目標値Fに合わせる。その後、ステップS105を経て、処理を終了する。
【0047】
以上の実施形態においては、液体レンズが凸レンズとして機能する例を示したが、第2の液体の方が第1の液体よりも屈折率が小さく、液体レンズが凹レンズとして機能する場合にも、本発明を適用することが出来る。このように本発明は、種々の応用が可能であり、本発明は特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、このような応用例を全て包含するものである。
【符号の説明】
【0048】
3 第2の電極
3a 円形の開口
4 絶縁層
5 撥水層
6 親水層
7 第1の液体
8 第2の液体
9 第1の電極
10 電圧制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性又は有極性の第1の液体と、該第1の液体と混合せず、且つ第1の液体と異なる屈折率を有する絶縁性又は無極性の第2の液体とが、曲率を有する界面を形成するように収容された容器、
前記第1の液体に接触した第1の電極、
前記第2の液体に絶縁層を介して対向するように設けられた第2の電極、及び
前記第1の電極と第2の電極との間に印加される印加電圧値を制御することによって焦点距離を変化させる電圧制御部
を備えた液体レンズにおいて、
前記印加電圧値が第1の閾値以下又は第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上の場合には、印加電圧値に対応する1つの焦点距離となり、印加電圧値が第1の閾値よりも大きく、且つ、第2の閾値よりも小さい場合には、第1の閾値以下の状態から電圧値を大きくしていく第1の動作を行った時と、第2の閾値以上の状態から電圧値を小さくしていく第2の動作を行った時とで、焦点距離が異なり、且つ、
前記第1及び第2の閾値にそれぞれ対応する第1及び第2の焦点距離の間に、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第1の動作を行った時の方が第2の動作を行った時よりも小さい第1の範囲と、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第2の動作を行った時の方が第1の動作を行った時よりも小さい第2の範囲とが存在するヒステリシス特性を有し、
前記電圧制御部は、焦点距離が第1の範囲内又はそれよりも長い状態から第2の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第2の閾値以上の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行い、且つ、焦点距離が第2の範囲内又はそれよりも短い状態から第1の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第1の閾値以下の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行うことを特徴とする液体レンズ。
【請求項2】
導電性又は有極性の第1の液体と、該第1の液体と混合せず、且つ第1の液体と異なる屈折率を有する絶縁性又は無極性の第2の液体とが、曲率を有する界面を形成するように収容された容器、前記第1の液体に接触した第1の電極、及び前記第2の液体に絶縁層を介して対向するように設けられた第2の電極を備えた液体レンズに対し、前記第1の電極と第2の電極との間に印加される印加電圧値を変化させることによって前記液体レンズの焦点距離を変化させる制御方法において、
前記液体レンズは、前記印加電圧値が第1の閾値以下又は第1の閾値よりも大きい第2の閾値以上の場合には、印加電圧値に対応する1つの焦点距離となり、印加電圧値が第1の閾値よりも大きく、且つ、第2の閾値よりも小さい場合には、第1の閾値以下の状態から電圧値を大きくしていく第1の動作を行った時と、第2の閾値以上の状態から電圧値を小さくしていく第2の動作を行った時とで、焦点距離が異なり、且つ、
前記第1及び第2の閾値にそれぞれ対応する第1及び第2の焦点距離の間に、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第1の動作を行った時の方が第2の動作を行った時よりも小さい第1の範囲と、印加電圧値の変化に対する焦点距離の変化率が第2の動作を行った時の方が第1の動作を行った時よりも小さい第2の範囲とが存在するヒステリシス特性を有し、
前記液体レンズを、焦点距離が第1の範囲内又はそれよりも長い状態から第2の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第2の閾値以上の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行い、且つ、前記液体レンズを、焦点距離が第2の範囲内又はそれよりも短い状態から第1の範囲内の目標とする焦点距離に変化させる場合には、印加電圧値を一旦、第1の閾値以下の状態とした後に、目標とする焦点距離に対応する電圧値に変化させる制御を行うことを特徴とする液体レンズの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−128029(P2012−128029A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277316(P2010−277316)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】