説明

液体中に懸濁した生体サンプルの定量化、同定のためのシステムと方法

液体中に懸濁した生体サンプルの定量化、同定のためのシステムは、少なくとも一つの励起光源を備える蛍光励起モジュールと、蛍光励起モジュールに光結合され少なくとも一つの励起光源からの励起光を受け取るように生体サンプルを位置決めするサンプルインターフェースモジュールと、サンプルインターフェースモジュールに光結合されるとともに、生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスを検出するための少なくとも一つの検出装置を含む蛍光発光モジュールと、蛍光発光モジュールに作動可能に接続されたコンピュータモジュールとを有する。コンピュータモジュールは、生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスに対して多変数解析を行って生体サンプルを定量化、同定する。多変数解析は、生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法とすることができる。液体中に懸濁した生体サンプルの定量化、同定のための方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、液体中に懸濁した生体サンプルの定量化、同定のためのシステムと方法に関する。より具体的には、本発明は、生体サンプルを同定と定量化するためにその生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスに対する多変数解析を利用するシステムと方法とに関する。
【0002】
本出願は、ここにその全部を参考文献として合体させる2005年8月8日出願の「液体中に懸濁した生体サンプルの定量化、同定のためのシステム」と題する米国仮特許出願第60/706,489号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
細菌学において、その種を同定することなく、二つのバクテリアの一般型であるグラム陽性とグラム陰性とを同定するために染色法が使用される。ヒトの病気に関連する微生物のいくつかを単離し同定するために染色媒体を使用することができるが、それによっては全ての可能な種を同定することはできない。現在、化学染色法を利用して約20,000種のバクテリア種を同定することが可能である。ただし、そのような方法でまだ存在する大きな困難は、バクテリア同定にかかる時間であって、これは自動化装置を使用した標準的な化学法の場合、分離菌(これには更に24時間かかる)を有した状態で18〜24時間かかる。
【0004】
より早いレスポンス時間を達成するために、様々な分光技術が開発されてきた。例えば、生体サンプルの分析中に、より早いレスポンス時間を達成するためにフーリエ変換赤外線(FTIR)分光法が利用されてきた。FTIR分光法に必要な工程は以下の通りである。まず、尿道感染症(UTI)を有する患者の尿から単離された菌のグループを収集した。解析の前に、それらのサンプルを50℃のオーブンで30分間乾燥させた。これらのサンプルのスペクトルを、4000cm−1〜600cm−1の波数範囲にわたって収集した。前記スペクトルは、20Hzのレートで取得された。信号対ノイズ比を改善するために、256のスペクトルを合算し平均化した。その情報を分析したところ、前記サンプルの同定を行うことができたことが示された。
【0005】
ラマン分光法も生体サンプルを同定し定量化する方法の候補として検討された。ラマン分光法に必要な工程は、以下の通りである。まず、低出力(30mW)近赤外線780nmダイオードレーザを使用して、サンプリング点における出力を通常3mWに設定した分散型ラマン分光計(Ramascope)を使用してスペクトルを収集した。サンプルは、微生物懸濁物(3x10細胞/ml)として提供された。スペクトルを60秒間収集した。この情報を分析したところ、前記サンプルの同定を行うことができたことが示された。しかしながら、その同定は高い信頼度では行われなかった。
【0006】
高速な微生物同定のために蛍光スペクトルを使用するためのその他の研究が提案されている。例えば、最善の種同定のために、最善の励起波長を選択し、それによって生体分子群の選択的励起を可能にする、マルチ励起蛍光分光法を使用する方法が提案されている。
【0007】
ノアガード(Noergaard)ほかの米国特許No.6,834,237は、単離された生体サンプルを、動物の単離生体サンプルを含む少なくとも一つの条件について、特徴づけるための分類システムをトレースする方法を開示している。単離生体サンプルは、体液又は組織サンプルから選択される。組織サンプルは、前記条件(単数又は複数)と関連づけられていない。そのような方法の一例は、喫煙者と非喫煙者とからの尿サンプルを採取し、尿サンプルからの発光によってその人物が喫煙するか否かを検出することが可能であるか調べるものである。
【0008】
それぞれジェン(Jeng)ほかの米国特許No.6,773,922,No.6,426,045,No.6,365,109およびNo.6,087,182は、生体サンプルの少なくとも一つの分析物の濃度などのパラメータを測定するための装置と方法を開示している。これらの装置と方法は、ある種の分析物には可視光吸光光度法、又は他の分析物には赤外線吸光光度法を使用することによってそのような濃度値を得るものである。
【0009】
ヴォ‐ディン(Vo-Dinh)の米国特許No.5,938,617は、サンプル中の生物病原体を、サンプルを複数の周波数の光で励起して複数の発光強度を同時にサンプリングすることによって同定するシステムに関する。このシステムは、サンプルを励起放射線源に対して露出させ、それによって放射線放出を発生させるための機構を備えている。前記生物病原体はウイルスやバクテリアとすることができる。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,834,237号
【特許文献2】米国特許第6,773,922号
【特許文献3】米国特許第6,426,045号
【特許文献4】米国特許第6,365,109号
【特許文献5】米国特許第6,087,182号
【特許文献6】米国特許第5,938,617号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した方法および/又はシステムは、それぞれ、試薬の使用、又は、熟練した作業者によるサンプル作成作業を必要とするものであり、それによってこれらの方法および/又はシステムは、作業がより困難で作業者がミスしやすいものとなっている。又、そのようなサンプル作成に必要な時間によってもこれらの方法および/又はシステムは迅速な診断には不適なものとなっている。
【0012】
したがって、本発明の一つの課題は、流体中の生体サンプルを同定、定量化するシステムを提供することにある。本発明の別の課題は、分析を迅速に行うそのようなシステムを提供することにある。本発明の更に別の課題は、材料コスト削減のために、試薬の使用を必要としない、流体中の生体サンプルを同定、定量化するシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、流体中に懸濁した生体サンプルを同定、定量化するシステムに関する。前記システムは、少なくとも一つの励起光源を備える蛍光励起モジュールと、該蛍光励起モジュールに光結合され前記少なくとも一つの励起光源からの励起光を受け取るように生体サンプルを位置決めするサンプルインターフェースモジュールと、該サンプルインターフェースモジュールに光結合されるとともに、前記生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスを検出するための少なくとも一つの検出装置を含む蛍光発光モジュールと、前記蛍光発光モジュールに作動可能に接続されたコンピュータモジュールとを有する。前記コンピュータモジュールは、前記生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスに対して多変数解析を行って前記生体サンプルを定量化、同定する。前記多変数解析は、前記生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法とすることができる。
【0014】
前記システムは、更に、吸収モジュールと拡散−反射モジュールとを備えることができる。前記吸収モジュールは、少なくとも一つの励起光源、又は、別途設けられた変調光源からの光を使用して前記生体サンプルに対する吸収測定を行う。生体サンプルを同定、定量化するために、これら吸収測定結果と前記生体サンプルの前記蛍光励起−発光マトリクスとを組み合わせることも可能である。前記吸収モジュールは、モノクロメータ、又は、光電子増倍管を備えるフィルタホイールとして構成することができる。前記拡散−反射モジュールは、少なくとも一つの励起光源、又は、別途設けられた変調光源からの光を使用して前記生体サンプルに対する拡散−反射率測定を行う。生体サンプルを同定、定量化するために、これら拡散−反射率測定結果と前記生体サンプルの前記蛍光励起−発光マトリクスとを組み合わせることも可能である。該拡散−反射モジュールは、ダイオード検出器又は光電子増倍管を備えるモノクロメータとすることができる。
【0015】
前記少なくとも一つの励起光源は、連続光源、パルスフラッシュランプ、ダイオードレーザ、同調レーザ、又はこれらの組み合わせとすることができる。前記少なくとも一つの励起光源の波長は、格子モノクロメータ、ナローバンドパスフィルタ、音響光学同調フィルタ、液晶同調フィルタ、円形可変フィルタ、リニア可変フィルタ、を備えるフィルタホイール、又は、それらの任意の組み合わせを使用することによって選択可能である。
【0016】
前記蛍光発光モジュールの前記少なくとも一つの検出装置は、固体検出器を備える走査式格子モノクロメータ又はマルチチャンネルアレイ検出器を備える非走査式格子モノクロメータとすることができる。前記蛍光発光モジュールは、更に、液体中の光サンプリングの深さを制御して信号対ノイズ特性を最適化するゲート型電子機器とすることができる。
【0017】
前記システムは、更に、前記生体サンプルの同定と定量化とを表示する表示装置を備えることができる。
【0018】
本発明は、更に、流体中に懸濁した生体サンプルを同定、定量化する方法にも関する。該方法は、以下の工程を含む、a)励起光源を提供する、b)前記生体サンプルを前記励起光源で励起する、c)前記生体サンプルから、励起−発光マトリクス、吸収測定値、拡散−反射率測定値、又はこれらの任意の組み合わせ、としての、スペクトル情報を検出する、そしてd)前記スペクトル情報に対して多変数解析を行って前記生体サンプルを定量化、同定する。前記多変数解析は、前記生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法とすることができる。
【0019】
前記励起光源は、連続光源、パルスフラッシュランプ、ダイオードレーザ、同調レーザ、又はこれらの任意の組み合わせとすることができる。前記励起光源の波長は、格子モノクロメータ、ナローバンドパスフィルタ、音響光学同調フィルタ、液晶同調フィルタ、円形可変フィルタ、リニア可変フィルタ、を備えるフィルタホイール、又はそれらの任意の組み合わせを使用することによって選択可能である。
【0020】
前記方法は、更に、e)前記生体サンプルの同定と定量化とを表示する工程を含むことができる。データのフォーマット化と前処理とを工程d)の前に行うことができる。前記多変数解析は、前記生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法とすることができる。
【0021】
本発明のこれらおよびその他の特徴、更に、その構造の関連する部材の操作方法と作用は、添付の図面を参照して、以下の説明と添付の請求項とを考慮することによってより明らかになるであろう。前記図面の全てが本発明の一部を形成するものであり、異なる図面において、類似の参照番号は対応の部材を示している。本明細書と請求項とにおいて、単数記載は特に明記されない限り複数を含むものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ここでの記載の目的のために、「上方」、「下方」、「右側」、「左側」、「縦」、「横」、「上」、「底」、「側方」、「長手」およびこれらの派生語は、図面における向きで本発明に関連するものとする。ただし、本発明は、特に明記されない限り、種々のその他の変更を受けることが可能であると理解される。又、添付の図面に図示され、以下の明細書中に記載されている具体的な装置は、本発明の例示的な実施例に過ぎない。したがって、ここに開示されている実施例に関する具体的な寸法およびその他の物理的特性は限定的なものと解釈されてはならない。
【0023】
本発明のシステムと方法は、液体中の生体サンプルの同定と定量化とを迅速に、かつ、液体に試薬を添加することなく行うことを可能にする。本発明は、好ましくは、人体液中のバクテリアやウイルスのポイント・オブ・ケア生物医学分析、米国沿岸に入る海上輸送を管理するための海水バラスト中の微生物の同定、細菌戦争物質の検出と同定、食料飲料産業および飲料水および廃水汚染モニタリングとしてそのような環境に使用される。
【0024】
図1を参照すると、参照番号1によってその全体が示されている、液体中の生体サンプルの同定と定量化のためのシステムは、蛍光励起モジュール3と、サンプルインターフェースモジュール5と、蛍光発光モジュール7と、コンピュータモジュール9と、表示装置11と、吸収モジュール13と拡散−反射モジュール15とを有する。
【0025】
蛍光励起モジュール3と、サンプルインターフェースモジュール5と、蛍光発光モジュール7と、吸収モジュール13と拡散−反射モジュール15とは、互いに光結合されている。コンピュータモジュール9は、蛍光励起モジュール3と、蛍光発光モジュール7と、吸収モジュール13と拡散−反射モジュール15と表示装置11とに作動可能に接続されている。
【0026】
図2および3を参照し、引き続き図1を参照すると、本発明のシステム1は、蛍光の励起と収集のための種々の光学構造を備えたものとして構成することができる。例えば、システム1は、ライト−アングル(right-angle)コンフィグレーション(configuration)1’(図2を参照)又はフロント−フェース(front-face)コンフィグレーション1”(図3を参照)を有するものとして構成することができる。
【0027】
蛍光励起モジュール3は、少なくとも一つの励起光源19と波長選択装置21とを備えている。励起光源19は、非限定的に、希ガスアークランプやデュートリウムランプなどの連続光源、パルスフラッシュランプ、ダイオードレーザ又は同調レーザ、が例示される適当な光源とすることができる。波長選択装置21は、ユーザが、励起光源19から発光する光について特定の波長を選択することを可能にする。波長選択装置21は、非限定的に、格子モノクロメータ、ナローバンドパスフィルタ、音響光学同調フィルタ(AOTFs)、液晶同調フィルタ(LCTFs)、円形可変フィルタ、リニア可変フィルタ、を備えるフィルタホイールなどが例示される、光源の波長を選択するための適当な装置とすることができる。
【0028】
サンプルインターフェースモジュール5は、蛍光励起モジュール3とサンプルキュベット23内の生体サンプルとの間の光学インターフェースと、偏光光学系(図示せず)とを含む。これのようなサンプルキュベットは周知技術であり、典型的には正方形又は矩形形状(サンプルを含むウェル領域を有する)であり、ガラスやポリマー材などの透明材から形成されている。
【0029】
前記光学インターフェースは、ミラー25とレンズ37とを備え、励起光源19によって作り出された光を適当に案内し焦点合わせするために提供される。本発明の別実施例において、前記光学インターフェースとして単一又は分岐ファイバオプティクスとして設けることができる。サンプルキュベット23は、液体中に懸濁した生体サンプルをシステム内の適当な位置に保持するために設けられる。図4を参照すると、ここには、フロント−フェースコンフィグレーション1”のサンプルインターフェースモジュール5のより詳細な図面が提供されている。サンプルインターフェース5は、蛍光発光モジュール3によって提供される光を焦点合わせするレンズ40を含む。レンズ40は、CVI Laser LLC, 200 Dorado SE, Albuquerque, NM 87123によって製造されているCVI PXF-50.8-90.8-UVレンズとCVI BXF-50.8-312.0-UVレンズとの組み合わせとすることができる。レンズ40によって焦点合わせされた光は、その後、ミラー41,42によってサンプルキュベット23に向けて反射される。ミラー41,42は、それぞれ、Newport Corporation, 1791 Deere Avenue, Irvine, CA 92606によって製造されている、Newport 20D10.AL2、Newport 10D10.AL2とすることができる。
【0030】
サンプルキュベット23から反射された光は開口43を通って案内されレンズ44、開口45およびレンズ46によって蛍光発光モジュール7に向けて焦点合わせされる。レンズ44,46は、それぞれ、CVI Laser LLCによって製造されている、CVI PXF-50.8-77.3-UVレンズ、CVI PXF-50.8-40.7-UVレンズとすることができる。
【0031】
サンプルキュベット23を透過した光はミラー47、48によって反射される。ミラー47,48は、それぞれ、Newport Corporation製の、Newport 10D10.AL2、Newport 20D10.AL2とすることができる。次に、その光はレンズ49によって、絞り機構50を通して吸収モジュール13に向けて焦点合わせされる。レンズ49は、CVI Laser LLC製のCVI PXF-50.8-90.8-UVレンズとCVI BXF-50.8-312.0-UVレンズとの組み合わせとすることができる。
【0032】
サンプルインターフェース5の前記光学コンポーネントの全ては、Thorlabs, Inc., 435 Route 206 North, Newton, NJ 07860製のホルダーおよび位置決め装置などの適当なホルダーを使用して位置決めされる。前記光学インターフェースは、更に、装置の内部の反射からの迷光を減少させるために、図4に図示されているように位置決めされたビームダンプ51、52を備えることができる。
【0033】
吸収モジュール13は、励起光源19又は別途設けられた変調光源(図示せず)からの光を使用してサンプルキュベット23中の生体サンプルに対して吸収測定を行う。吸収モジュール13は、非限定的に、モノクロメータ、又は、光電子増倍管を備えるフィルタホイールとすることができる。拡散−反射モジュール15も、励起光源19又は別途設けられた変調光源(図示せず)からの光を使用してサンプルキュベット23中の生体サンプルに対して拡散−反射率測定を行う。拡散−反射モジュール15は、非限定的に、モノクロメータ、ダイオード検出器、又は光電子増倍管とすることができる。
【0034】
前記偏光光学系(図示せず)は、好ましくは、前記生体サンプルを懸濁している液体からの光の、励起および/又は発光ビームおよび弾性散乱のための偏光子である。
【0035】
蛍光発光モジュール7は、波長選択装置17と、検出器29と信号処理電子機器33とを備える。検出器29は、波長選択装置17に光結合されている。検出器29と波長選択装置17とは、非限定的に、固体検出器を備える走査式格子モノクロメータ又はマルチチャンネルアレイ検出器を備える非走査式格子モノクロメータとすることができる。前記蛍光発光モジュール7は、更に、ナローバンドフィルタ(図示せず)を備えるフィルタホイール、および、マルチモーダル多重分光(MMS)モノクロメータ(図示せず)を備えることができる。前記MMSモノクロメータは、拡張エリア拡散蛍光源用に最適化される。周知である信号処理電子機器33は、好ましくは、液体中の光走査の深さを制御して信号対ノイズ特性を最適化するゲート型電子機器である。
【0036】
コンピュータモジュール9は、システムの操作と制御のために設けられる。コンピュータモジュール9は、信号処理電子機器33から受け取ったデータをフォーマット化し前処理するとともに、これらのデータを分析して前記生体サンプルの同定と定量化とを行う。信号処理電子機器33からデータをフォーマット化することによって、コンピュータモジュール9は、前記蛍光励起−発光マトリクスを決定し、そして、選択されたスペクトル領域に渡る吸収対波長、および選択されたスペクトル領域に渡る拡散−反射率対波長を決定することもできる。次に、コンピュータモジュール9は、平均センタリング(mean centering)および分散スケーリング(variance scaling)、スムージングおよび微分、最適フィルタリング、吸収および散乱補正によってこの情報を前処理して、多変数解析の準備として、非摂動蛍光スペクトル、および蛍光、吸収および拡散−反射率スペクトルの統合化を作り出す。最後に、コンピュータモジュール9は、前記データに対して多変数解析を行い生体サンプルの同定と定量化とを行う。そのような多変数解析は、好ましくは、前記生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法(e−PLS)を含む。PARAFACおよびTucker法、人工神経ネットワーク(ANN)法、サポートベクタマシン(SVM)法などの多方向ケモメトリクス処理もこれらのデータに対して実行することができる。
【0037】
コンピュータモジュール9による前記多変数解析の完了後、表示装置11がユーザに関連情報を表示する。この情報は、非限定的に、生体サンプル同定および定量化、同定蓋然性および定量化統計を含むことができる。表示装置11は、非限定的に、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、リアプロジェクションディスプレイ、LCDディスプレイ、などを含む適当な表示装置とすることができる。
【0038】
その作動において、前記システム1,1’および1”は以下の工程を行う。まず、励起光が励起光源19によって提供される。励起光の波長が、波長選択装置21を使用して選択され、ミラー25によって前記サンプルキュベット23内の生体サンプルに向けられる。それによって前記励起光は生体サンプルを励起する。励起−発光マトリクス、吸収モジュール13からの吸収率測定値、拡散−反射モジュールからの拡散−反射率測定値としての、前記生体サンプルからのスペクトル情報が検出器29および検出器31によって検出される。その後、この情報が信号処理電子機器33および35によって処理される。次に、コンピュータモジュール9によって前記スペクトル情報に対してデータフォーマット化と前処理とが行われる。次に、コンピュータモジュール9はこのフォーマット化され前処理されたスペクトル情報に対して、拡張部分最小二乗法からなる多変数解析を行って前記生体サンプルを同定、定量化する。最後に、この生体サンプルの同定と定量化をユーザ解釈のために表示する。
【0039】
次に、下記の例によって本発明の種々の実施例について説明する。これらの例は、例示的なものであって本発明を限定するものではない。
【0040】
〔実施例1〕
下記の表は、肺炎桿菌無し(表1)と、1.6x10CFU/mLの濃度の肺炎桿菌有り(表2)のリン酸緩衝液の励起−発光マトリクスを提供している。これらの励起−発光マトリクスは、図3に図示されているフロント−フェースコンフィグレーションのシステム1を使用して作り出された。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
上の表は、図4および図5のグラフに要約されている。図4は、リン酸緩衝液中の肺炎桿菌濃度の関数としてのサブトラクションフロント−フェース蛍光発光強度を示している。図5は、リン酸緩衝液中の肺炎桿菌の励起波長の関数としてのサブトラクション蛍光発光強度を示している。
【0044】
〔実施例2〕
下記の表は、水(表3)と、3.9x10CFU/mLの濃度の大腸菌を含む水 (表4)の励起−発光マトリクスを提供している。これらの励起−発光マトリクスは、図2に図示されているライト−アングル(right-angle)コンフィグレーションのシステム1を使用して作り出された。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
上の表は、図6のグラフに要約されている。図6は、水中の大腸菌濃度の関数としてのサブトラクションライトアングル蛍光発光強度を示している。
【0048】
〔実施例3〕
下記の表は、大腸菌無し(表5)と、5.7x10CFU/mLの濃度の大腸菌有り(表6)のリン酸緩衝液の励起−発光マトリクスを提供している。これらの励起−発光マトリクスは、図3に図示されているフロント−フェースコンフィグレーションのシステム1を使用して作り出された。
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
上の表は、図7のグラフに要約されている。図7は、水中の大腸菌濃度の関数としてのサブトラクションフロント−フェース蛍光発光強度を示している。
【0052】
〔実施例4〕
下記の表は、大腸菌無し(表7)と、8.9x10CFU/mLの濃度の大腸菌有り(表8)のヒトの尿の励起−発光マトリクスを提供している。これらの励起−発光マトリクスは、図2に図示されているライト−アングルコンフィグレーションのシステム1を使用して作り出された。
【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
上の表は、図8のグラフに要約されている。図8は、ヒトの尿中の大腸菌濃度の関数としてのサブトラクションライトアングル蛍光発光強度を示している。
【0056】
以上、本発明を、現時点においてもっとも実用的で好適な実施例と考えられるものを基にして例示の目的で詳細に説明したが、そのような詳細は前記目的のためのものであって、本発明はここに開示した実施例に限定されるものではなく、添付の請求項の要旨および範囲内にある改造および均等構造をカバーするものである。例えば、本発明は、可能な限りにおいて、任意の実施例の単数又は複数の特徴構成を他の任意の実施例の単数又は複数の特徴構成と組み合わせることを考慮していると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による液体中に懸濁した生体サンプルの同定、定量化のためのシステムの概略図
【図2】本発明による液体中に懸濁した生体サンプルの同定、定量化のためのライト−アングルコンフィグレーションのシステムの略図
【図3】本発明による流体中に懸濁した生体サンプルの同定、定量化のためのフロント−フェースコンフィグレーションのシステムの略図
【図4】図3に図示したフロント−フェースコンフィグレーションのサンプルインターフェースモジュールの詳細図
【図5】リン酸緩衝液中の肺炎桿菌濃度の関数としてのサブトラクションフロント−フェース蛍光発光強度を示すグラフ
【図6】リン酸緩衝液中の肺炎桿菌の励起波長の関数としてのサブトラクション蛍光発光強度を示すグラフ
【図7】水中の大腸菌濃度の関数としてのサブトラクションライト−アングル蛍光発光強度を示すグラフ
【図8】リン酸緩衝液中の大腸菌濃度の関数としてのサブトラクションフロント−フェース蛍光発光強度を示すグラフ
【図9】ヒトの尿中の大腸菌濃度の関数としてのサブトラクションライト−アングル蛍光発光強度を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に懸濁した生体サンプルの定量化、同定のためのシステムであって、以下を有する、
少なくとも一つの励起光源を備える蛍光励起モジュール、
前記蛍光励起モジュールに光結合され前記少なくとも一つの励起光源からの励起光を受け取るように生体サンプルを位置決めし、蛍光、吸収および拡散反射モジュールへ光を伝達するサンプルインターフェースモジュール、
前記サンプルインターフェースモジュールに光結合されるとともに、前記生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスを検出するための少なくとも一つの検出装置を含む蛍光発光モジュール、そして
前記蛍光発光モジュールに作動可能に接続されたコンピュータモジュール、
ここで、前記コンピュータモジュールは、前記生体サンプルの蛍光励起−発光マトリクスに対して多変数解析を行って前記生体サンプルを定量化、同定する。
【請求項2】
更に、吸収モジュールと拡散−反射モジュールとを有する請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記吸収モジュールは、少なくとも一つの励起光源、又は、別途設けられた変調光源からの光を使用して前記生体サンプルに対する吸収測定を行う請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記吸収測定値は、前記生体サンプルの前記蛍光励起−発光マトリクスと組み合わせられて前記生体サンプルを同定し定量化する請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記吸収モジュールは、モノクロメータ、又は、光電子増倍管を備えるフィルタホイールのいずれかである請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記拡散−反射モジュールは、少なくとも一つの励起光源、又は、別途設けられた変調光源からの光を使用して前記生体サンプルに対する拡散−反射率測定を行う請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
前記拡散−反射率測定値は、前記生体サンプルの前記蛍光励起−発光マトリクスと組み合わせられて前記生体サンプルを同定し定量化する請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記拡散−反射モジュールは、モノクロメータ、ダイオード検出器および光電子増倍管のいずれかである請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも一つの励起光源は、連続光源、パルスフラッシュランプ、ダイオードレーザ、同調レーザ、又はこれらの任意の組み合わせである請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記少なくとも一つの励起光源の波長は、格子モノクロメータ、ナローバンドパスフィルタ、音響光学同調フィルタ、液晶同調フィルタ、円形可変フィルタ、リニア可変フィルタ、を備えるフィルタホイール、又は、それらの任意の組み合わせを使用することによって選択可能である請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記蛍光発光モジュールの前記少なくとも一つの検出装置は、固体検出器を備える走査式格子モノクロメータ又はマルチチャンネルアレイ検出器を備える非走査式格子モノクロメータである請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記蛍光発光モジュールは、更に、液体中の光サンプリングの深さを制御して信号対ノイズ特性を最適化するゲート型電子機器を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記多変数解析は、前記生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
更に、前記生体サンプルの同定と定量化とを表示する表示装置を有する請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
流体中に懸濁した生体サンプルを同定、定量化する方法であって、該方法は、以下の工程を含む、
a)励起光源を提供する、
b)前記生体サンプルを前記励起光源で励起する、
c)前記生体サンプルから、励起−発光マトリクス、吸収測定値、拡散−反射率測定値、又はこれらの任意の組み合わせ、としての、スペクトル情報を検出する、そして
d)前記スペクトル情報に対して多変数解析を行って前記生体サンプルを定量化、同定する。
【請求項16】
前記励起光源は、連続光源、パルスフラッシュランプ、ダイオードレーザ、同調レーザ、又はこれらの任意の組み合わせである請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記励起光源の波長は、格子モノクロメータ、ナローバンドパスフィルタ、音響光学同調フィルタ、液晶同調フィルタ、円形可変フィルタ、リニア可変フィルタ、を備えるフィルタホイール、又は、それらの任意の組み合わせを使用することによって選択可能である請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記多変数解析は、前記生体サンプルの同定と定量化のための拡張部分最小二乗法を含む請求項15に記載の方法。
【請求項19】
更に、
e)前記生体サンプルの同定と定量化とを表示する工程を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
データのフォーマット化と前処理とが工程d)の前に行われる請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−505070(P2009−505070A)
【公表日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526114(P2008−526114)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/030765
【国際公開番号】WO2007/019462
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(508041013)ポカード・ディアグノスティクス・リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】POCARED DIAGNOSTICS, LTD.
【Fターム(参考)】