説明

液体中の粒子のサイズの検出方法および装置

【課題】液体中の粒子のサイズをリアルタイムで正確に検出すること。
【解決手段】第2の光検出手段を第1の光検出手段よりも液体の流れ方向に沿った下流側に所定の距離だけ離間するように設けておき、第1の光検出手段および第2の光検出手段による検出信号のピーク値が現れる時間の差分であるピーク時間差T2、および、検出信号の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Twを計測し、複数の既知サイズLbについて、それぞれのサイズとピーク時間差T2および時間幅Twとの関係を示す基準データDKを、試液を用いた計測により予め求めてメモリに格納しておき、サイズが未知の粒子について計測されたピーク時間差T2および時間幅Twを含む実測データDJと、基準データDKとを用いて、当該粒子のサイズを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の粒子のサイズの検出方法および装置に関する。本発明は、例えば、半導体製造に用いられる超純水に代表されるような、粒子(パーティクル)などが不純物として混入すると不都合が生じる液体を監視するために利用される。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体中における微粒子の検出に関して種々の方法が知られている。例えば、レーザー光のようなコヒーレントな光を液体の流れ方向に対して横断するように照射し、液体に含まれる粒子により生じる回折縞を光センサで受光して粒子のサイズを検出する方法が提案され、実用化されている。この方法において、照射した光を液体の中で収束させ、収束した部分(焦点)の近傍を通過する粒子を検出することが知られている。
【0003】
例えば特許文献1による方法では、光検出手段として、第1の光検出センサおよび第2の光検出センサを所定の距離だけ離間して設け、これらのセンサによって検出される回折縞について、それぞれの検出信号のピーク値が現れる時間の差分であるピーク時間差T2、および、検出信号の波形による面積SQを計測する。
【0004】
そして、ピーク時間差T2をx軸とし面積SQをy軸とする座標平面において、粒子のサイズに応じて回折縞を振り分けるための複数の領域を予め定義しておき、粒子についての複数のサイズについて、それぞれのサイズとそれぞれの領域に含まれる回折縞の個数または割合との関係を示す基準データを、試液を用いた実測により予め求めてデータベースに記録しておき、計測されたピーク時間差T2および面積SQに基づいてそれぞれの領域に振り分けられた回折縞の個数を示す実測データを取得し、基準データおよび実測データを用い、液体に含まれる粒子のそれぞれのサイズに対応する個数を検出する。
【0005】
特許文献1の方法によると、液体中に含まれる不純物としての微粒子が少ない状態であっても正確にかつ低コストで粒子のサイズを検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4425347号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年において微細化する半導体製造現場においては、液体中の粒子のサイズを正確に検出することに加え、サイズの検出に要する時間の短縮、つまりリアルタイム性が要求されてきている。
【0008】
すなわち、半導体をウエハー上に形成される電子回路は年々微小化されており、これにともなって除去の必要な粒子のサイズも小さくなっている。半導体製品の歩留まりを低下させる要因の一つが洗浄液中に含まれる微細な塵(粒子)の存在であり、この様な微細な塵をリアルタイムで検出する方法が望まれている。
【0009】
上に述べた特許文献1の方法では、干渉縞の面積SQおよびピーク時間差T2を含む基準データから統計学的に粒子のサイズを演算しているので、基準データ、実測データ、および粒子のサイズの間において十分な相関を得るために多数の粒子を用いて大量のデータを得る必要があり、リアルタイム性において問題があった。
【0010】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、液体中の粒子のサイズをリアルタイムで正確に検出することのできる方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る方法は、透光性を有する管路を流れる液体の流れ方向に対して横断するようにコヒーレントな光を照射し、液体に含まれる粒子により生じる回折縞を光検出手段により検出することにより前記粒子のサイズを検出する粒子サイズ検出方法であって、前記光検出手段として、第1の光検出手段および第2の光検出手段を設けるとともに、前記第2の光検出手段を前記第1の光検出手段よりも前記液体の流れ方向に沿った下流側に所定の距離だけ離間するように設けておき、前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段によって検出されるそれぞれの回折縞について、前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段による検出信号のピーク値が現れる時間の差分であるピーク時間差T2、および、前記検出信号の所定の高さ位置における時間幅Twを計測し、サイズが既知である粒子の複数の既知サイズLbについて、それぞれのサイズと前記ピーク時間差T2および時間幅Twとの関係を示す基準データを、試液を用いた計測により予め求めてメモリに格納しておき、サイズが未知の粒子について計測された前記ピーク時間差T2および前記時間幅Twを含む実測データと、前記基準データとを用いて、当該粒子のサイズを検出する。
【0012】
好ましくは、複数の既知サイズLbについて多数の粒子を用いて前記基準データを求め、各既知サイズLbにおいて、次の(1)式、
Lc=T2×Tw×k ……(1)
で示される演算サイズLcの分布度数の最も多い階級を既知サイズLbの階級とするような係数kを選定し、選定した係数kを適用した(1)式に基づいて、サイズが未知の粒子についての前記実測データである前記ピーク時間差T2および前記時間幅Twから前記演算サイズLcを求め、求めた演算サイズLcを当該粒子のサイズとして検出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、液体中の粒子のサイズをリアルタイムで正確に検出することのできる方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による検出装置を示す斜視図である。
【図2】検出装置の要部を平面的に見て示す図である。
【図3】図2の一部を拡大して示す図である。
【図4】検出装置における検出回路の構成の例を示すブロック図である。
【図5】光検出手段の配置の他の例を示す図である。
【図6】光検出手段による回折縞の検出の様子を示す図である。
【図7】検出信号の包絡線による波形の例を示す図である。
【図8】検出信号の波形による時間幅Twを求める方法を説明する図である。
【図9】試液を用いた計測に基づく度数分布の例を示す図である。
【図10】粒子のサイズについての検量線の例を示す図である。
【図11】粒子の形状の例を示す図である。
【図12】試液を用いた計測による度数分布の具体例を示す図である。
【図13】検出装置における検出動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔検出装置1の構成の概要〕
図1〜図4において、検出装置1では、断面が矩形であって透光性を有する管路KRを流れる液体ETの流れ方向M1に対し、直交して横断するようにコヒーレントな光HKを照射する。照射された光HKは、液体ETの中で焦点STを結んで収束する。焦点STの近傍であって焦点STと光検出手段SEとの間を通過する粒子により生じる回折縞AMが、光検出手段SEにより検出され、得られた実測データに基づいて演算が行われ、粒子のサイズ(粒径)が検出される。
【0016】
コヒーレントな光HKを生成するために、レーザー光源11およびレンズ13が用いられる。レーザー光源11として種々のものを用いることができるが、できるだけ高出力で短波長の方が回折縞が発生しやすい。レンズ13として、種類の異なる種々のレンズを組み合わせて用いてもよい。
【0017】
なお、レーザー光源11として、例えば、レーザー波長405nm、レーザー出力35mWのもの、その他の光源を用いることが可能である。管路KRを構成するフローセルとして、ここでは断面が矩形であって断面の内側の1辺の長さが2mmのものを用いた。この場合に、管路KRの断面積は、2×2=4mm2 である。しかし、これ以外の形状寸法のものを採用することが可能である。
【0018】
図1、図2、および図4を参照して、光検出手段SEとして、第1の光検出手段SE1および第2の光検出手段SE2を設ける。第2の光検出手段SE2を、第1の光検出手段SE1よりも液体ETの流れ方向M1に沿った下流側に所定の距離L1だけ離間するように設ける。
【0019】
また、これら第1の光検出手段SE1および第2の光検出手段SE2は、焦点STから距離L3だけ離れた位置に設けておく。これによって、焦点STを通過して放射状になった光のうちの中心角αの範囲の近辺を通過する粒子の回折縞AMが、光検出手段SE1,2によって検出される。
【0020】
距離L1,L3の具体的な一例をあげると、例えば、距離L1が1mm程度、距離L3が7mm程度である。また、距離L1が数mm程度、距離L3が数十mm程度である。しかし、これら以外の距離および範囲であってもよい。
【0021】
また、第1の光検出手段SE1および第2の光検出手段SE2は、放射状の光が投影される範囲のうち、液体ETの流れ方向に対して直角方向についてのそれぞれの光検出手段SE1,2の位置における全範囲を受光するように配置される。
【0022】
このような光検出手段SEとして、フォトダイオードまたはフォトトランジスタなどの受光素子、またはCCDなどの撮像素子などを用いることが可能である。撮像素子を用いる場合には、1つの撮像素子における適当な距離だけ離れた画素または画素群からなる2つの領域を、第1および第2の光検出手段SE1,2とすることが可能である。
【0023】
また、図5に示すように、光検出手段SE1,2の前方に、スリットSL1,2を有した遮光板SBを配置し、レーザー光源11からの放射光がスリットSL1,2を介して各光検出手段SE1,2に入射するようにしてもよい。この場合のスリットSL1,2の幅d1,d1は、例えば、いずれも0.1mm程度としてよい。この場合に、各光検出手段SE1,2として、例えば1×6mm程度の長方形の受光面を持つPinフォトダイオードアレイなどを用いることが可能である。
【0024】
第1の光検出手段SE1および第2の光検出手段SE2によって、回折縞AMに対応した検出信号(出力信号)S1,S2が得られる。
【0025】
すなわち、図3に示すように、焦点STの近傍であって焦点STから例えば距離L4だけ離れた位置を粒子RSが通過すると、中心角αの範囲の近辺を通過する間に、それによる回折縞AMが光検出手段SE1,2により検出される。
【0026】
検出信号S1,S2は、図6に示すように、直接的には回折縞AMによって複数のピークを持った波形であるが、図7および図8に示すように、その包絡線HS1,2で示される波形が、粒子のサイズの検出のために用いられる。したがって、本明細書においては、「検出信号S1,S2」と記載した場合に、特に断りのない限り、個々のピークを持った波形ではなく、包絡線HS1,2で示される波形を指すものとする。
【0027】
そして、検出信号S1,S2から、各検出信号S1,S2のピーク値が現れる時間の差分であるピーク時間差T2、および、各検出信号S1,S2の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Twを計測する。
【0028】
サイズが未知の粒子についての計測を行う前に、そのサイズを演算で求めるための基準データDKを先に取得しておく。
【0029】
すなわち、サイズが既知である粒子の複数の既知サイズLbについて、それぞれのサイズとピーク時間差T2および時間幅Twとの関係を示す基準データDKを、試液を用いた計測により予め求めてメモリ(またはデータベース)に格納しておく。
【0030】
基準データDKを求めるに当たり、複数の既知サイズLbについて多数の粒子を用いる。複数の既知サイズLbの試液として、例えば、100nm、200nm、400nm、800nmなどのサイズLbの粒子を含んだ試液を用いる。
【0031】
これら複数の既知サイズLbの試液を用い、1つ1つの粒子RSについて、まず、ピーク時間差T2および時間幅Twを計測する。計測したピーク時間差T2および時間幅Twは、その粒子RSの既知サイズLbと対応付けてメモリに格納しておく。
【0032】
そして、各既知サイズLbにおいて、次の(2)式、
Lc=T2×Tw×k……(2)
で示される演算サイズLcの分布度数の最も多い階級を既知サイズLbの階級とするような係数kを選定する。
【0033】
そして、選定した係数kを(2)式に適用し、その(2)式に基づいて、サイズが未知の粒子についての実測データDJであるピーク時間差T2および時間幅Twから、演算サイズLcを求める。
【0034】
つまり、管路KR内を液体ETとともに流れてくるサイズが未知の粒子RSについて、ピーク時間差T2および時間幅Twを計測し、これらを実測データDJとしてメモリに格納する。メモリに格納された実測データDJについて、係数kが選定された(2)式に基づいて演算サイズLcを求める。求めた演算サイズLcを、当該粒子のサイズLaとして検出する。
【0035】
ここで、係数kが選定されるとは、係数kが何らかの形で表現されるように定義されることである。係数kを特定の値に決定したり、係数kを演算式で表したり、また、係数kを特定の関数により定義してもよい。また、ピーク時間差T2と時間幅Twとに基づいて演算サイズLcが求まるようなテーブル、グラフ、データベースなどを作成することでもよい。
【0036】
例えば、グラフを用いるとすると、粒子RSのサイズを横軸にとり、粒子RSの出現度数を縦軸にとってグラフで表す。そうすると、図9に示すような度数分布になることが予想される。つまり、各既知サイズLbについての粒子RSは、既知サイズLbの呼び値(公称値)を中心とした正規分布になると予想される。
【0037】
そこで、基準データDKのピーク時間差T2および時間幅Twを用い、(2)式を用いて演算サイズLcを求める。そして、演算サイズLcが、各既知サイズLbにおける分布の中心に一致するように係数kを選定する。このように選定した係数kが、目的とする係数kである。しかし、係数kを具体的に定めなくても、グラフにおける目盛りを打つことができれば、そのようなグラフに基づいてサイズLaを決定することが可能である。
【0038】
上の(2)式において、液体ETの流速が一定であるとすると、ピーク時間差T2は、粒子RSの焦点STからの距離(通過位置)L4に比例した値であり、距離L4の程度を示すことになる。つまり、
T2 ∝ L4
また、時間幅Tw、Tw1、Tw2は、粒子RSのサイズLaを焦点STからの距離L4で除したものに比例する。つまり、粒子RSのサイズLaが大きいほど時間幅Tw、Tw1、Tw2は大きくなり、焦点STからの距離L4が大きくなるほど時間幅Tw、Tw1、Tw2は小さくなる。
【0039】
したがって、ピーク時間差T2と時間幅Twとを掛け合わせると、距離L4の項が消えて粒子RSのサイズLaの項が残る。これに係数kを掛けたものが、粒子RSのサイズLaということになる。
【0040】
ここで、係数kは、例えば、サイズLaのn乗の関数になるものと考えられる。つまり、
k=f(Lan ) ……(3)
と表すことが可能であると考えられる。
【0041】
なお、基準データDKは、サイズとピーク時間差T2および時間幅Twとの関係を示すデータであるので、係数kが選定された場合には、選定された係数kそれ自体が基準データDKということになってもよい。係数kが選定される前においては、係数kを選定するために必要なデータである、サイズ(既知サイズLb)、ピーク時間差T2、および時間幅Twが、基準データDKということになる。
【0042】
また、基準データDKは、係数k以外の形態とすることが可能である。例えば、サイズ、ピーク時間差T2、および時間幅Twから係数kを導く途中のデータ、サイズ、ピーク時間差T2、および時間幅Twに基づいて上の(2)式の関係に沿って演算サイズLcを求めることのできる演算式、テーブル、グラフなども、基準データDKに含めることが可能である。
【0043】
このように、実測データDJと基準データDKとを用いて、液体ETに含まれた粒子のサイズLaをリアルタイムで検出する。
【0044】
なお、本実施形態においては、(2)式における時間幅Twとして、第1の光検出手段SE1による検出信号S1の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Tw1と、第2の光検出手段SE2による検出信号S2の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Tw2との和(Tw1+Tw2)を用いることができる。
【0045】
その場合に、時間幅Twとして、それらの和の2分の1の値、つまり、
Tw=(Tw1+Tw2)/2
=(Tw1/2+Tw2/2) ……(4)
とすることができる(図8参照)。
【0046】
また、検出信号S1,S2の時間幅Tw1,Tw2が互いに同じであるとみなせる場合には、一方の時間幅Tw1またはTw2を時間幅Twとして用いるようにすることも可能である。
【0047】
ここで、高さ位置Vhは、例えば、検出信号S1,S2のピーク高さの70パーセントの高さの位置、検出信号S1,S2のピーク高さの50パーセントの高さの位置などとしてよい。
【0048】
つまり、上の(2)式に示すように、時間幅Twは、粒子RSのサイズLaを焦点STからの距離L4で除したものに比例するものであり、比例するという性質を演算サイズLc(サイズLa)の算出に利用するものであるから、数値それ自体が重要なのではない。したがって、(4)式のように、特定の高さ位置Vhにおける時間幅の和(Tw1+Tw2)の数値の2分の1であってもよく、3分の1、4分の1、また1分の1であってもよい。
【0049】
以下さらに詳しく説明する。
〔回折縞AMの検出〕
検出装置1において、上に述べたように、光HKとして、液体ET中に焦点STを有する放射状の光(放射状光)HKSを用いる。
【0050】
図1および図2において、レーザー光源11からレンズ13を通って液体ETを照射する光(レーザー光)は、液体ET中に焦点を有する放射状光HKSである。したがって、焦点STから離れるにしたがって、粒子が放射状光HKS中を横切る距離は長くなる。ここでは、粒子は一定の流速で流れる液体ET中に均一に分散されているので、粒子の通過速度も一定となり、その結果、放射状光HKSを粒子が横切る時間は、焦点STからの距離に比例して長くなる。
【0051】
このことを粒子により発生した回折縞AMから見れば、焦点STの近辺を通過した粒子によって発生した回折縞AMは、その発生、移動、消滅といった、回折縞AMが光検出手段SEの受光面を横切って行くプロセスに要する時間が短くなるため、その移動速度は速くなり、光検出手段SEからの出力信号S1,2の幅(時間幅)は短くなる。逆に、焦点STから遠い粒子により発生した回折縞AMは、長い時間をかけて受光面を横切るので、その移動速度は遅くなり、光検出手段SEからの出力信号S1,2の幅は長くなる。
【0052】
一方、液体ET中に焦点STを有する放射状光HKSでは、通過位置が焦点STに近いほど、サイズのより小さな粒子でも回折縞を発生させるという特徴を有している。
【0053】
回折縞AMは、コヒーレント性の高い放射状光HKSが微粒子により攪乱され、微粒子そのものを特異点として発生するものであり、同心円状の縞模様となる。回折縞AMの中央部はレンズで光を集めたようになり、最も強い光強度を持っている。したがって、光検出手段SEで回折縞AMを測定した場合に、明らかなピーク値を観測することができる。このピーク値を観測した瞬間において、回折縞AMの中心部が光検出手段SEの中央に重なったこととなる。
【0054】
2つの光検出手段SE1,2を用いることにより、回折縞AMの中心点が2つの光検出手段SE1,2の間の距離L2を通り過ぎていく時間を、ピーク・ツー・ピークで簡単に知ることができる。このピーク・ツー・ピークの通過時間は、回折縞AMの中心点から中心点までの時間であるので、回折縞AMの中心部から周辺部までの距離つまり回折縞AMの大きさには関係なく、この時間は、微粒子が放射状光HKSを横切った位置と焦点STまでの距離とによって一義的に決定される。別の言い方をすれば、異なる2つの信号が観測され、その時間T2が同一であった場合は、その信号の元となった微粒子が通過した位置は、焦点STから同じ距離であったことになる。
【0055】
一方、微粒子が焦点STから同じ距離の位置を通過した場合に、その位置での光密度は同じとなるので、光検出手段SEの受光面で観測される回折縞AMそのものの大きさ(直径)を決める要素は、通過した微粒子の大きさそのものとなる。同一距離であるから、微粒子が受ける光密度は同じであり、微粒子からの散乱光は微粒子の表面積に比例し、その結果、大きな粒子からは直径の大きな回折縞AMが発生することとなる。回折縞AMが放射状光HKSの光路内に発生し、光検出手段SE1に差しかかったときから光検出手段SE2を完全に抜けるまでの時間をT1とする。時間T1は、回折縞AMの直径に相当する距離を時間に換算した量を含む。
【0056】
なお、図6〜図8に示された各パラメータは次のとおりである。
【0057】
VS:計時のスタートおよびストップを決定するしきい値
CS:しきい値VSを越える波形が続くカウント値(ストップ決定用)
CA:波形がしきい値VSを越えてから越えなくなるまでのカウント値
VPp:波形のプラスのピーク値(15bit)
VPm:波形のマイナスのピーク値(15bit)
C1 :スタートからピーク値VPmまでのカウント値
C2 :スタートからピーク値VPpまでのカウント値
C3 :波形の全体の長さによるカウント値(CA−CS)
〔検出回路の説明〕
次に、検出回路20について説明する。
【0058】
図4において、検出回路20は、差動増幅器21、ADコンバータ22、演算部23、表示部26、出力端子27,28などを備える。演算部23は、信号処理部24、データ演算部25、データベースDB1などを備える。演算部23には、データを格納するための種々のメモリが設けられる。
【0059】
図4において、液体ETの流れ方向M1に平行に配置された光検出手段SE1,2からの出力信号S1,2は、S/N比を上げるために、差動増幅器21によって差動増幅され、電圧信号である信号S3となる。このとき、出力信号S2または出力信号S1のいずれかが反転され、他の出力信号S1,2と合成される。これにより、光検出手段SE1,2が回折縞AMを検出していないときには、出力信号S1,2の加算値は相殺されてゼロ出力となり、回折縞AMを検出したときに出力信号S1,2が立ち上がる。
【0060】
差動増幅器21から出力される信号S3は、ADコンバータ22によって量子化され、デジタル信号S4となって演算部23に入力される。演算部23において、デジタル信号S4に対し、種々の演算または計測が行われ、液体ETに含まれる粒子RSのサイズLaが出力される。
【0061】
すなわち、信号処理部24において、VPp、VPm、C1、C2、C3などが求められ、これらに基づいてピーク時間差T2および時間幅Twが求められ、これらが測定データDSとしてメモリに記憶される。さらに、データ演算部25において、データベースDB1に記録された基準データDKが参照され、上に述べたような手法によって、液体ETに含まれる粒子RSのサイズLaが求められる。
【0062】
データ演算部25などにおいて、対数増幅器(ログアンプ)を用いてもよい。つまり、例えば、上の(3)式において係数kがサイズLaの2乗に比例するものとすると、サイズLaについて対数をとったものが直線的に対応することになるので、対数増幅器を用いることによって演算が容易となる。
【0063】
なお、演算部23において、上に述べたVS、CS、CAなどがユーザによって設定可能であり、ユーザにより設定されたそれらの値に基づいて、測定データDSが取得される。
【0064】
また、時間幅Tw、ピーク時間差T2のデータは、それぞれT1出力端子27およびT2出力端子28にも出力される。
【0065】
算出されたサイズLaは、表示部26の表示面に表示される。サイズLaを示す信号S7は、外部の機器などに出力される。
【0066】
外部の機器への出力は、例えばRS−232Cなどのシリアルデータとして出力することが可能である。
【0067】
このような検出回路20は、CPUまたはMPU、RAM、ROM、その他の周辺回路素子、その他のハードウエア回路および記憶装置などを用いて実現することができる。特に、演算部23は、CPUまたはMPUがROMなどに記憶されたプログラムを実行することによって実現することができる。
【0068】
また、特に演算部23は、パーソナルコンピュータを用いて実現することが可能である。その場合に、入力されたデジタル信号S4または信号S3を、コンピュータプログラムによって処理することにより、上に述べたような演算を行って信号S7を出力することが可能である。
【0069】
また、検出装置1から出力される信号に基づいて、パーソナルコンピュータを用い、係数kを選定し、サイズLaを算出し、かつその結果を表示してもよい。
〔本実施形態の検出装置1による効果〕
このように、本実施形態によると、観測された信号単体から元の粒子RSのサイズLaが直接的にリアルタイムで検出できる。
【0070】
上に述べたように、本実施形態において、光検出手段(受光素子)SEは、液体(試料水)ETの流れ方向M1に対し水平に2個1組で配置されている。しかし、これは測定の方法および原理を示すためであり、実際の装置においてはフォトダイオードアレイなどを用いて組数を増やし、有効な受光面積を増やすことが好ましい。また、CCDなどの画像処理が可能な受光素子を配置することでもよい。
【0071】
上に述べた検出装置1は、インライン接続を行って常時監視することが可能であり、取り扱いも容易でメンテナンス性も高く、低コストで提供可能である。
〔粒子RSの具体例〕
次に、ピーク時間差T2および時間幅Twに基づいて粒子のサイズを検出する具体例について説明する。
【0072】
液体ETの流量Fqを、0.1L/minとすると、
Fq=0.1×106 /60
=1666〔mm3 /sec〕
となる。管路KRの断面積を4mm2 とすると、そのときの流速Fsは、
Fs=1666/4
=416〔mm/sec〕
第1の光検出手段SE1と第2の光検出手段SE2との距離L1を1mmとし、焦点STからの距離L3を7mmとすると、粒子RSが焦点STから0.01mmの位置を通過するときの通過距離L5(図3参照)は、
L5=0.01/7
=0.001428〔mm〕
=1.428〔μm〕
このときの通過時間(ピーク時間差T2)は、
T2=1.428/416
=3.43〔μsec〕
となる。
【0073】
また、粒子RSのサイズが100nmであった場合に、その粒子RSが各光検出手段SE1、2を通過する間において検出信号S1,S2が得られるとすると、時間幅Tw1,2の最大値、つまり高さ位置Vhが最大高さの0パーセント(底辺)のときの時間幅Tw1MAX ,Tw2MAX は、
Tw1MAX =Tw2MAX
=(0.1/1.428)×3.43
=0.24〔μsec〕
となる。したがって、例えば高さ位置Vhが最大高さの50パーセントのときの時間幅(半値全幅)Tw150,Tw250は、Tw1MAX 、Tw2MAX の70パーセントであったとすると、
Tw150=Tw250
=0.24×0.70
=0.168〔μsec〕
となる。検出信号S1,S2がピークとなった後で半値になる時間(半値半幅)は、
Tw150/2=Tw250/2
=0.168/2
=0.084〔μsec〕
となる。
【0074】
また、粒子RSのサイズが400nmであった場合に、高さ位置Vhが最大高さの50パーセントのときの時間幅(半値全幅)Tw150,Tw250は、粒子RSのサイズが100nmであった場合の4倍である、
Tw150=Tw250
=0.168×4
=0.672〔μsec〕
となる。
【0075】
また、この場合に検出信号S1,S2がピークとなった後で半値になる時間(半値半幅)は、
Tw150/2=Tw250/2
=0.672/2(=0.084×4)
=0.336〔μsec〕
となる。
【0076】
図10には、上の(2)式を用いた場合に求められる演算サイズLcと実際の粒子RSのサイズLaとの関係の例が示されている。
【0077】
図10によると、直線で示される検量線CV2は理想状態の粒子RSに対するものである。しかし、実際には、サイズLaが小さい部分および大きい部分において、検量線CV2から遊離した検量線CV1となる。
【0078】
つまり、サイズLaが小さい部分において、検量線(校正曲線)CV1は検量線CV2よりも上方へ変位している。これは、レーザー光源11からの放射状光HKSが焦点STにおいて1点に絞り切れないことによるビームウエストの影響によるものと考えられる。
【0079】
また、サイズLaが大きい部分において、検量線CV1は検量線CV2よりも上方へ変位している。これは、回折縞AMの拡がりがあることによるものと考えられる。
【0080】
また、これらの遊離は、粒子RSの形状が理想的な球状ではなく、図11に示すように、縦、横、輪郭の長さが、粒子RSb,cによってバラついていることの影響もあると考えられる。
【0081】
図12には、100nm、200nm、400nm、500nm、1000nmの既知サイズLbの粒子RSを含んだ試液を用いて実験を行ったときの分布が示されている。
【0082】
図12において、各既知サイズLbについて、粒子RSの出現度数を縦軸とした度数分布がグラフで表されている。なお、横軸はサイズ(演算サイズLc)の対数によって示されており、この場合に、分布は正規分布となる。つまり、横軸は、次の(5)式、
(T2×Tw)1/2 ×k ……(5)
によって目盛られている。
【0083】
そして、横軸において、各既知サイズLbの中心が演算サイズLcと一致するように係数kが選定され、目盛りが打たれている。
【0084】
なお、縦軸は、各既知サイズLbについての分布の面積が1となるように正規化されている。
【0085】
したがって、図12のグラフを用いることにより、サイズLaが未知の粒子RSについての実測データDJであるピーク時間差T2および時間幅Twから、演算サイズLcを求めることができる。
【0086】
なお、具体例の説明では、検出信号S1,S2についての半値全幅Tw150,Tw250および半値半幅(Tw150/2),(Tw250/2)がそれぞれ互いに同じであるとしたが、厳密には異なる。したがって、検出信号S1,S2のそれぞれの半値全幅Tw150,Tw250および半値半幅(Tw150/2),(Tw250/2)を計測し、それらを加算したものを時間幅Twとして用いるのがよい。
〔フローチャートによる説明〕
図13は検出装置1における未知の粒子RSのサイズLaの検出動作を示すフローチャートである。
【0087】
図13において、試薬を用いて測定を行い(#11)、基準データDKを得る(#12)。未知の液体ETについて測定を行い(#13)、各回折縞AMについてのピーク時間差T2および時間幅Twを含む実測データDJを得る(#14)。実測データDJと基準データDKとを用いて、当該粒子RSのサイズLaを検出する(#15)。検出処理が終わるまで(#16)、ステップ#13以降を繰り返す。
〔他の実施形態〕
上に述べた実施形態において、特定の高さ位置Vhとして、種々の位置を選定することが可能である。検出する粒子RSのサイズとして、上に述べた以外の種々のサイズとしてもよい。
【0088】
上に述べた実施形態において、レーザ光源11、レンズ13、管路KR、光検出手段SE、検出回路20、データベースDB1、および検出装置1の全体または各部の構成、構造、形状、寸法、個数、材質、時間幅Twの算出方法、係数kを算出する方法、処理の内容または順序などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 検出装置
11 レーザ光源
20 検出回路
23 演算部
24 信号処理部(時間差計測手段、時間幅計測手段、実測データ取得手段)
25 データ演算部(サイズ検出手段)
SE1 第1の光検出手段
SE2 第2の光検出手段
S1,S2 検出信号
DB1 データベース(メモリ)
AM 回折縞
RS 粒子
DK 基準データ
DJ 実測データ
T2 ピーク時間差
Tw 時間幅
Vh 高さ位置
La サイズ
Lb 既知サイズ
Lc 演算サイズ
k 係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する管路を流れる液体の流れ方向に対して横断するようにコヒーレントな光を照射し、液体に含まれる粒子により生じる回折縞を光検出手段により検出することにより前記粒子のサイズを検出する粒子サイズ検出方法であって、
前記光検出手段として、第1の光検出手段および第2の光検出手段を設けるとともに、前記第2の光検出手段を前記第1の光検出手段よりも前記液体の流れ方向に沿った下流側に所定の距離だけ離間するように設けておき、
前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段によって検出されるそれぞれの回折縞について、前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段による検出信号のピーク値が現れる時間の差分であるピーク時間差T2、および、前記検出信号の所定の高さ位置における時間幅Twを計測し、
サイズが既知である粒子の複数の既知サイズLbについて、それぞれのサイズと前記ピーク時間差T2および時間幅Twとの関係を示す基準データを、試液を用いた計測により予め求めてメモリに格納しておき、
サイズが未知の粒子について計測された前記ピーク時間差T2および前記時間幅Twを含む実測データと、前記基準データとを用いて、当該粒子のサイズを検出する、
ことを特徴とする液体中の粒子のサイズの検出方法。
【請求項2】
複数の既知サイズLbについて多数の粒子を用いて前記基準データを求め、
各既知サイズLbにおいて、次の(1)式、
Lc=T2×Tw×k ……(1)
で示される演算サイズLcの分布度数の最も多い階級を既知サイズLbの階級とするような係数kを選定し、
選定した係数kを適用した(1)式に基づいて、サイズが未知の粒子についての前記実測データである前記ピーク時間差T2および前記時間幅Twから前記演算サイズLcを求め、
求めた演算サイズLcを当該粒子のサイズとして検出する、
請求項1記載の液体中の粒子のサイズの検出方法。
【請求項3】
前記(1)式における時間幅Twとして、第1の光検出手段による検出信号の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Tw1と、第2の光検出手段による検出信号の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Tw2との和(Tw1+Tw2)を用いる、
請求項2記載の液体中の粒子のサイズの検出方法。
【請求項4】
前記光として、前記液体中に焦点を有する放射状の光を用いる、
請求項1ないし3のいずれかに記載の液体中の粒子のサイズの検出方法。
【請求項5】
前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段は、前記放射状の光が投影される範囲のうち前記液体の流れ方向に対して直角方向についてのそれぞれの光検出手段の位置における全範囲を受光するように配置されている、
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体中の粒子のサイズの検出方法。
【請求項6】
透光性を有する管路を流れる液体の流れ方向に対して横断するようにコヒーレントな光を照射し、液体に含まれる粒子により生じる回折縞を光検出手段により検出することにより前記粒子のサイズを検出する粒子サイズ検出装置であって、
前記回折縞を検出するための第1の光検出手段と、
前記第1の光検出手段よりも前記液体の流れ方向に沿った下流側に所定の距離だけ離間するように設けられた第2の光検出手段と、
前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段により検出されるそれぞれの回折縞について、前記第1の光検出手段および前記第2の光検出手段による検出信号のピーク値が現れる時間の差分であるピーク時間差T2を計測する時間差計測手段と、
前記回折縞について、前記検出信号の所定の高さ位置における時間幅Twを計測する時間幅計測手段と、
サイズが既知である粒子の複数の既知サイズLbについて、それぞれのサイズと前記ピーク時間差T2および時間幅Twとの関係を試液を用いた計測により予め求めた基準データを格納するメモリと、
サイズが未知の粒子について、前記ピーク時間差T2および前記時間幅Twを含む実測データを取得する実測データ取得手段と、
前記基準データおよび前記実測データを用い、当該実測データの粒子のサイズを検出するサイズ検出手段と、
を有することを特徴とする液体中の粒子のサイズの検出装置。
【請求項7】
前記サイズ検出手段は、
各既知サイズLbにおいて、次の(1)式、
Lc=T2×Tw×k ……(1)
で示される演算サイズLcの分布度数の最も多い階級を既知サイズLbの階級とするような係数kを選定し、
選定した係数kを適用した(1)式に基づいて、サイズが未知の粒子についての前記実測データである前記ピーク時間差T2および前記時間幅Twから前記演算サイズLcを求め、
求めた演算サイズLcを当該粒子のサイズとして検出する、
請求項5記載の液体中の粒子のサイズの検出装置。
【請求項8】
前記(1)式における時間幅Twとして、第1の光検出手段による検出信号の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Tw1と、第2の光検出手段による検出信号の所定の高さ位置Vhにおける時間幅Tw2との和(Tw1+Tw2)を用いる、
請求項7記載の液体中の粒子のサイズの検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−181124(P2012−181124A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44816(P2011−44816)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(597167748)公益財団法人新産業創造研究機構 (20)
【出願人】(591142138)北斗電子工業株式会社 (15)