説明

液体中物質濃度分析装置および液体中物質分析方法

【課題】液体試料中の物質濃度の分析効率を向上させる。
【解決手段】液体中物質濃度分析装置は、液体試料に照射すると蛍光が発生するパルスレーザ光51を生成するレーザ照射部1と、液体試料が内部を流通可能で且つ湾曲自在に構成された管状で内部をパルスレーザ光51が透過する液体コア光ファイバ30とを有する。さらに、液体中物質濃度分析装置は、出射光55のうち、液体試料を透過したときに発生した蛍光の波長成分を選択的に透過させる光学フィルタ35と、光学フィルタ35を透過した蛍光を検出する光検出部41と、光検出部41で検出した蛍光の波長およびその強度に基づいて液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量分析する分析部45と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量する液体中物質濃度分析装置および液体中物質分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体中にウランを溶解させる湿式のウラン廃棄物処理装置等では、溶液処理プロセスの工程管理のために、ウラン濃度の分析が行われている。このような場合、液体中の物質濃度を高精度に分析する必要がある。
【0003】
液体中の物質濃度を分析する方法として、例えば特許文献1に開示されているように、吸光度測定法による分析方法が知られている。この分析方法は、一般に、分析対象物質の光吸収量を測定して、予め求めておいた光吸収量と物質濃度との較正曲線に基づいて、当該物質の濃度を求めるものである。
【0004】
この分析方法は、一般的に分析対象となる物質を含む液体試料が1〜10cm程度の石英セルに入れられている。この液体試料に光を入射させて、この入射光が吸収されて減衰した出射光を測定する。この方法では、低濃度の物質の場合には光吸収量が小さいため、高感度な分析が難しい場合がある。
【0005】
近年においては、このような吸光度測定法の精度(感度)を高めるために、石英セルに代わって、メートル・オーダーの光吸収長を有する液体コア光ファイバを用いて、光吸収量を増大させる装置も用いられてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−32631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、従来の液体コア光ファイバを具備した吸光度測定法による液体中物質濃度分析装置は、分析対象物質のみに起因する光吸収量を測定するためには、予めブランク試料の光吸収量測定を行う必要がある。ここでブランク試料の光吸収量の測定とは、分析対象物質を含まない溶媒について、光吸収量の測定を行うことである。ブランク試料の測定の後に、分析対象物質を含む液体試料の光吸収量を測定し、これらの差分を評価していた。これらのブランク試料測定や差分評価等は、濃度分析の効率を低下させる場合があった。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、液体試料中の物質濃度の分析効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る液体中物質濃度分析装置は、液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量する液体中物質濃度分析装置において、前記液体試料に照射すると蛍光が発生するレーザ光を生成するレーザ照射部と、前記液体試料が内部を流通可能で且つ湾曲自在に構成された管状で、前記液体試料が流通する方向に沿って前記液体試料に前記レーザ光が透過するように構成された液体コア光ファイバと、前記液体コア光ファイバから出射された光のうち、前記液体コア光ファイバ内の前記液体試料を透過したときに発生した前記蛍光の波長成分を選択的に透過させる光学フィルタと、前記光学フィルタを透過した蛍光を検出する光検出部と、前記光検出部で検出した前記蛍光の波長およびその強度に基づいて前記液体試料中に含まれる前記分析対象物質の濃度を定量分析する分析部と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る液体中物質分析方法は、液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量する液体中物質濃度分析方法において、前記液体試料を液体コア光ファイバ内に流通させる液体試料供給工程と、前記液体試料供給工程の後に、パルスレーザ光を前記液体試料に照射させて蛍光を発生させるレーザ光照射工程と、前記レーザ光照射工程の後に、前記液体コア光ファイバ内で発生した蛍光の波長成分を選択的に抽出して、前記蛍光の少なくとも一部を集光する蛍光集光工程と、前記蛍光集光工程の後に、前記蛍光の波長およびその強度に基づいて前記液体試料中に含まれる前記分析対象物質の濃度を定量分析する分析工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体試料中の物質濃度の分析効率を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る液体中物質濃度分析装置の第1の実施形態の構成を示す概略斜視図である。
【図2】本発明に係る液体中物質濃度分析装置の第2の実施形態の構成を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る液体中物質濃度分析装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
本発明に係る液体中物質濃度分析装置の第1の実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態の液体中物質濃度分析装置の構成を示す概略斜視図である。
【0015】
本実施形態の液体中物質濃度分析装置は、レーザ光を照射可能なレーザ照射部1と、液体をコアとしてレーザ光等の光を伝送可能な液体コア光ファイバ30と、所定の波長帯を選択的に透過可能な光学フィルタ35と、蛍光検出部41と、分析部45と、を有する。
【0016】
レーザ照射部1は、電源部2により駆動されてパルスレーザ光51を照射可能に構成されている。レーザ照射部1から照射されたパルスレーザ光51は、集光部31によって集光される。集光部31によって集光されたパルスレーザ光51は、入射光53となって液体コア光ファイバ30に入射される。この入射光53は、分析対象物質を含む液体試料に照射すると、蛍光を発生する。
【0017】
液体コア光ファイバ30は、液体試料が内部を流通可能で且つ湾曲自在に構成された管状である。内部を流通する液体試料がコアとなって、光を伝送させる機能を有している。本実施形態では、レーザ照射部1から照射されるパルスレーザ光51が、液体試料が流通する方向に沿って液体コア光ファイバ30内を伝送される。
【0018】
また、液体コア光ファイバ30は、内径数百μm程度の石英材質のキャピラリで、内部が液体試料で満たされているときに内壁面における光の反射率が高くなるように、内壁面にフッ素樹脂コーティング等を施したもの等を用いている。また、液体試料が内部を流通するときに圧損が大きくならないように、ファイバ長が数m程度の長さに設定されている。
【0019】
液体試料の上流側となる液体コア光ファイバ30の端部には、T字型の試料供給部10が接続されている。この試料供給部10には、3つの供給用開口部、すなわち、第1供給用開口部11、第2供給用開口部12および第3供給用開口部13が形成されている。第1供給用開口部11には、液体コア光ファイバ30の上流側端部が接続されている。第2供給用開口部12は、液体試料を液体コア光ファイバ30内に供給するための導入口で、液体試料が流通する系統(図示せず)等から抽出された液体試料の少なくとも一部が、流入するように形成されている。第3供給用開口部13は、集光部31で集光されて生成された入射光53が導光される導光口である。第2供給用開口部12および第1供給用開口部11を経て液体コア光ファイバ30内に供給される液体試料を、第3供給用開口部13から導光された入射光53が透過するように形成されている。
【0020】
第2供給用開口部12より下流側で第1供給用開口部11よりも上流側には、液体ポンプ15が配置されている。この液体ポンプ15は、液体試料を液体コア光ファイバ30内に送るためのものである。この液体ポンプ15は、液体試料による腐食作用等の影響を受けにくい材質で、例えば、酸、アルカリ等に強い耐薬品性の樹脂を用いたダイヤフラム式のマイクロポンプ等が用いられている。
【0021】
液体試料の下流側となる液体コア光ファイバ30の端部には、T字型の試料排出部20が接続されている。この試料排出部20には、3つの排出用開口部、すなわち、第1排出用開口部21、第2排出用開口部22および第3排出用開口部23が形成されている。第1排出用開口部21には、液体コア光ファイバ30の下流側端部が接続されている。第2排出用開口部22は、液体コア光ファイバ30内の液体試料を排出するための排出口で、液体試料が流通する系統等に液体試料を戻すように形成されている。第3排出用開口部23は、液体コア光ファイバ30内の光の一部を出射させる出射口である。
【0022】
光学フィルタ35は、第3排出用開口部23から出射された出射光55のうち、入射光53が液体コア光ファイバ30内の液体試料を透過したときに発生した蛍光の波長成分を選択的に透過させる。すなわち、光源となるパルスレーザ光51の波長成分を除去して、分析対象物質から発生した蛍光を透過させて、蛍光検出部41に導光させる。
【0023】
蛍光検出部41は、光学フィルタ35を透過した蛍光を検出する機能を有している。分析部45は、光検出部で検出した蛍光の波長およびその強度に基づいて液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量分析する機能を有している。分析部45は、信号ケーブル46や信号処理(演算処理)を行うパーソナルコンピュータ47等を含む。蛍光検出部41で検出した蛍光の強度に比例した電気信号に変換して、信号ケーブル46等を介して、パーソナルコンピュータ47へ伝送される。
【0024】
レーザ照射部1によって照射されるパルスレーザ光51の波長には、分析対象物質を励起する波長が含まれている。このパルスレーザ光51を、集光部31を介して分析対象物質を含む液体試料が流通する液体コア光ファイバ30に入射させる。この液体コア光ファイバ30から出射される出射光55は、分析対象物質の吸収により減衰した励起波長の光と、分析対象物質の放出する別の波長の蛍光と、が含まれている。ここで、励起波長の光は、吸収により減衰されたパルスレーザ光51(入射光53)の波長である。
【0025】
分析対象物質の放出する蛍光量は、分析対象物質の量、すなわち濃度に比例する。このため、分析対象物質の蛍光を選択的に透過させる光学フィルタ35を介して検出した蛍光の光強度測定を行うことで、分析対象物質の濃度を算出することが可能になる。よって、本実施形態の液中物質濃度分析装置では、予め分析対象物質を含まないブランク試料の光吸収量測定を行う必要がない。
【0026】
また、溶媒濃度や溶媒成分が変化する場合においても、光源の波長として、分析対象物質のみを選択的に励起できる波長を用いることで、溶媒状態が変化する毎にブランク試料の測定を行う必要がなくなる。
【0027】
したがって、本実施形態によれば、液体中の物質濃度を効率よく分析することが可能になる。
【0028】
[第2の実施形態]
本発明に係る液体中物質濃度分析装置の第2の実施形態について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態の液体中物質濃度分析装置の構成を示す概略斜視図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0029】
本実施形態の液体中物質濃度分析装置は、検出タイミング調整機構60を有する。その他の構成は、第1の実施形態と同様である。この検出タイミング調整機構60は、蛍光検出部41およびレーザ照射部1に接続される電源部2に、それぞれ電気信号を互いに通信可能に構成されている。
【0030】
また、この検出タイミング調整機構60は、パルスレーザ光51が発光するタイミングを検出して、当該タイミングに対して、所定の時間だけ遅らせて出射光55を検出する機能を有している。
【0031】
励起させるための光源の波長と蛍光波長とが近接しているときには、光学フィルタ35だけでは分離し難くなる場合がある。
【0032】
検出タイミング調整機構60は、パルスレーザ光51の発光タイミングに対して、所定の時間だけ遅れさせて、蛍光検出を作動させることができる。これにより、出射光55に含まれるパルスレーザ光51の波長成分を時間分解により除去することができる。これにより、蛍光の光強度等を高感度に測定することが可能になる。
【0033】
例えば、溶液中ウラニルイオン濃度を定量分析するときには、波長420nm近傍の光吸収量を単純に測定するためには、従来の分析方法ではブランク試料の測定が必要となる。
【0034】
これに対して、本実施形態では、波長266nmのパルスNd:YAGレーザの第4高調波のパルスレーザ光51で、パルス時間幅が約10nsの光を光源として用いる。この光に対して、約50ns遅延して時間ゲート幅約500nsの観測時間で、時間分解した波長480nm〜560nmの範囲の蛍光強度を測定する。
【0035】
50ns遅らせることによって、パルス幅10nsのパルスレーザ光51の影響を抑えることが可能になる。これにより、ブランク測定を行うことなく高S/N比の発光強度測定が可能となり、高感度な分析を行うことが可能になる。
【0036】
以上の説明からわかるように、本実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加え、光源の波長と蛍光の波長とが近接しているときでも、液体中の物質濃度を効率よく分析することが可能になる。
【0037】
[その他の実施形態]
上記実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0038】
例えば、検出タイミング調整機構60のみを用いて、蛍光の波長成分を選択的に抽出してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…レーザ照射部、2…電源部、10…試料供給部、11…第1供給用開口部、12…第2供給用開口部、13…第3供給用開口部、15…液体ポンプ、20…試料排出部、21…第1排出用開口部、22…第2排出用開口部、23…第3排出用開口部、30…液体コア光ファイバ、31…集光部、35…光学フィルタ、41…蛍光検出部、45…分析部、46…信号ケーブル、47…パーソナルコンピュータ、51…パルスレーザ光、53…入射光、55…出射光、60…検出タイミング調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量する液体中物質濃度分析装置において、
前記液体試料に照射すると蛍光が発生するレーザ光を生成するレーザ照射部と、
前記液体試料が内部を流通可能で且つ湾曲自在に構成された管状で、前記液体試料が流通する方向に沿って前記液体試料に前記レーザ光が透過するように構成された液体コア光ファイバと、
前記液体コア光ファイバから出射された光のうち、前記液体コア光ファイバ内の前記液体試料を透過したときに発生した前記蛍光の波長成分を選択的に透過させる光学フィルタと、
前記光学フィルタを透過した蛍光を検出する光検出部と、
前記光検出部で検出した前記蛍光の波長およびその強度に基づいて前記液体試料中に含まれる前記分析対象物質の濃度を定量分析する分析部と、
を有することを特徴とする液体中物質濃度分析装置。
【請求項2】
前記液体試料が流通する系統から抽出された前記液体試料の少なくとも一部を、前記液体コア光ファイバの上流側に供給するように構成された試料供給部と、
前記液体コア光ファイバの内部を流通した前記液体試料を、前記液体コア光ファイバの下流側で前記液体コア光ファイバの外部に排出する試料排出部と、
を有すること特徴とする請求項1に記載の液体中物質濃度分析装置。
【請求項3】
前記レーザ光はパルスレーザ光であって、
光検出部は、パルスレーザ光の発光時間に対して所定の時間遅らせて前記蛍光を検出するように構成された検出タイミング調整機構を含むこと、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体中物質濃度分析装置。
【請求項4】
液体試料中に含まれる分析対象物質の濃度を定量する液体中物質濃度分析方法において、
前記液体試料を液体コア光ファイバ内に流通させる液体試料供給工程と、
前記液体試料供給工程の後に、パルスレーザ光を前記液体試料に照射させて蛍光を発生させるレーザ光照射工程と、
前記レーザ光照射工程の後に、前記液体コア光ファイバ内で発生した蛍光の波長成分を選択的に抽出して、前記蛍光の少なくとも一部を集光する蛍光集光工程と、
前記蛍光集光工程の後に、前記蛍光の波長およびその強度に基づいて前記液体試料中に含まれる前記分析対象物質の濃度を定量分析する分析工程と、
を有することを特徴とする液体中物質濃度分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−217130(P2010−217130A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67271(P2009−67271)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】