説明

液体供給チューブ、およびこれを搭載した液体噴射装置

【課題】耐久性及び柔軟性に優れた液体供給チューブを提供する。
【解決手段】一端側が往復移動する液体噴射ヘッドHに接続され、他端側が液体噴射ヘッドHに供給する液体を収容する液体タンク6に接続されてなる液体供給チューブTBにおいて、少なくとも湾曲する部分100が、結晶性ポリプロピレン成分と、プロピレンを含有する非晶性ポリオレフィン成分と、を含むポリプロピレン系樹脂組成物により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体供給チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置においては、液体供給チューブ材料としてスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)ブロック共重合体樹脂と呼ばれる材料が用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液体供給チューブの引き回しをする際に、SEBSを主成分とする液体供給チューブを用いると液体供給チューブ湾曲部の曲率を小さくすることができず、液体噴射装置の大型化を招いていた。無理に液体供給チューブを曲率を小さくして曲げると、チューブがキンクして潰れてしまうことがあった。さらに、液体供給チューブの材質が硬いため、湾曲部の耐久性にも問題があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、耐久性及び柔軟性に優れた液体供給チューブを提供し、液体供給チューブを省スペースで液体噴射装置に設置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の液体供給チューブは、液体を収容する液体タンクから液体噴射ヘッドに液体を供給するのに用いられる液体供給チューブであって、少なくとも湾曲する部分が、結晶性ポリプロピレン成分と、プロピレンを含有する非晶性ポリオレフィン成分と、を含むポリプロピレン系樹脂組成物により構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の液体供給チューブによれば、少なくとも湾曲する部分が、結晶性ポリプロピレン成分と、プロピレンを含有する非晶性ポリオレフィン成分と、を含むポリプロピレン系樹脂組成物により構成されているので、柔軟性に優れたものとなる。よって、液体噴射装置内に組み込む際の液体供給チューブの曲率を小さくできるので、液体噴射装置の小型化を実現できる。また、液体供給チューブが柔軟性に優れるため、湾曲する部分の耐久性を向上させることができる。
【0008】
また、上記液体供給チューブにおいては、複数の前記液体タンクの各々に接続される複数の液体供給チューブを連結した多連チューブであるのが好ましい。
このようにすれば、各液体供給チューブが柔軟性に優れるため、複数の液体供給チューブを連結した多連チューブ自体も非常に柔軟性に優れたものとなる。よって、液体噴射装置内に多連チューブを組み込む際、小さい曲率で折り曲げることができるので、液体供給チューブの引き回しスペースを小さくすることができる。また、多連チューブが柔軟性に優れるので、液体噴射ヘッドの移動が液体供給チューブの反力によって妨げられるといった不具合が発生することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る液体噴射装置の構成を示す概略図。
【図2】本実施形態に係る液体噴射装置の構成を示す概念図。
【図3】液体噴射ヘッドの構成を示す側断面図。
【図4】液体噴射ヘッドの構成を説明する要部断面図。
【図5】液体噴射装置の電気的な構成を示すブロック図。
【図6】変形例に係る液体供給チューブの構成図。
【図7】液体供給チューブの効果を確認するため評価実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について図を参照にしながら説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態として、液体供給チューブ及びこれを搭載した液体噴射装置について説明する。図1は、液体噴射装置PRTの概略構成を示す図である。
【0012】
図1に示す液体噴射装置PRTは、シート状の媒体Mを搬送しつつ、媒体M上に液体の噴射を行う装置である。液体を噴射する対象となる媒体は、記録用紙のような紙に限らず、フィルム、織布、不織布等の他のメディアや、ガラス基板、シリコン基板等の各種基板のようなワークであってもよい。
【0013】
また、本発明の液体噴射装置から噴射する液体としては、特に限定されず、以下のような各種の材料を含む液体(サスペンション、エマルジョン等の分散液を含む)とすることができる。カラーフィルタのフィルター材料を含むインク、有機EL装置におけるEL発光層を形成するための発光材料、電子放出装置における電極上に蛍光体を形成するための蛍光材料、PDP(Plasma Display Panel)装置における蛍光体を形成するための蛍光材料、電気泳動表示装置における泳動体を形成する泳動体材料、基板Wの表面にバンクを形成するためのバンク材料、各種コーティング材料、電極を形成するための液状電極材料、2枚の基板間に微小なセルギャップを構成するためのスペーサを構成する粒子材料、金属配線を形成するための液状金属材料、マイクロレンズを形成するためのレンズ材料、レジスト材料、光拡散体を形成するための光拡散材料などである。
【0014】
液体噴射装置PRTは、筐体PBと、媒体Mに液体を噴射する液体噴射機構IJと、当該液体噴射機構IJに液体を供給する液体供給機構ISと、媒体Mを搬送する搬送機構CVと、液体噴射機構IJの保全動作を行うメンテナンス機構MNと、これら各機構を制御する制御装置CONTとを備えている。
【0015】
以下、XYZ直交座標系を設定し、当該XYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、媒体Mの搬送方向をX方向とし、当該媒体Mの搬送面においてX方向に直交する方向をY方向とし、X軸及びY軸を含む平面に垂直な方向をZ方向と表記する。また、X軸周りの回転方向をθX方向、Y軸周りの回転方向をθY方向、Z軸周りの回転方向をθZ方向とする。
【0016】
筐体PBは、Y方向を長手とするように形成されている。筐体PBには、上記の液体噴射機構IJ、液体供給機構IS、搬送機構CV、メンテナンス機構MN及び制御装置CONTの各部が取り付けられている。筐体PBには、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材である。プラテン13は、筐体PBのうちX方向の中央部に配置されている。プラテン13は、+Z方向に向けられた平坦面13aを有している。当該平坦面13aは、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0017】
搬送機構CVは、搬送ローラーや当該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有している。搬送機構CVは、筐体PBの−X側から当該筐体PBの内部に媒体Mを搬送し、当該筐体PBの+X側から当該筐体PBの外部に排出する。搬送機構CVは、筐体PBの内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように当該媒体Mを搬送する。搬送機構CVは、制御装置CONTによって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0018】
液体噴射機構IJは、液体を噴射する液体噴射ヘッドHと、当該液体噴射ヘッドHを保持して移動させる液体噴射ヘッド移動機構ACとを有している。液体噴射ヘッドHは、プラテン13上に送り出された媒体Mに向けて液体を噴射する。液体噴射ヘッドHは、液体を噴射する噴射面Haを有している。噴射面Haは、−Z方向に向けられており、プラテン13の平坦面13aに対向するように配置されている。
【0019】
液体噴射ヘッド移動機構ACは、キャリッジ4を有している。液体噴射ヘッドHは、当該キャリッジ4に固定されている。キャリッジ4は、筐体PBの長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。液体噴射ヘッドH及びキャリッジ4は、プラテン13の+Z方向に配置されている。
【0020】
液体噴射ヘッド移動機構ACは、キャリッジ4の他、パルスモーター9と、当該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とは筐体PBの幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12とを有している。
【0021】
キャリッジ4は、当該タイミングベルト12に接続されている。キャリッジ4は、タイミングベルト12の回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0022】
液体供給機構ISは、液体噴射ヘッドHに液体を供給する。液体供給機構ISには、複数の液体カートリッジ(液体タンク)6が収容されている。本実施形態の液体噴射装置PRTは、液体カートリッジ6が液体噴射ヘッドHとは異なる位置に収容される構成である。液体供給機構ISは、液体噴射ヘッドHと液体カートリッジ6とを接続する液体供給チューブとして、本発明の液体供給チューブの一実施例である液体供給チューブTBを有している。液体供給機構ISは、当該液体供給チューブTBを介して液体カートリッジ6内に貯留される液体を液体噴射ヘッドHに供給する不図示のポンプ機構を有している。
【0023】
液体供給チューブTBは、液体噴射装置PRTの大きさの制約から筐体PB内を種々に折り曲げられている。液体供給機構ISに収容されている液体は、第1湾曲部100および第2湾曲部101を通過し、液体供給チューブTBを束ねる結束部105よりもヘッド側にある第3湾曲部102、第4湾曲部103、第5湾曲部104を通過して液体噴射ヘッドHへと流れていく。液体噴射装置PRTを小型化するには液体供給チューブTBの第1湾曲部101から第5湾曲部104までの湾曲部の曲率を小さくするのが望ましい。よって、液体供給チューブTBとしては柔軟性及び耐久性に優れた材料を用いる必要がある。
【0024】
本実施形態では、液体供給チューブTBの構成材料として、結晶性ポリプロピレン成分と、プロピレンを含有する非晶性ポリオレフィン成分と、を含むポリプロピレン系樹脂組成物を用いている。
【0025】
非晶性ポリオレフィン成分は、ポリプロピレンの高分子可塑剤の役割を有し、ポリプロピレンを軟質化させることが可能であるとともに、軟質化させた場合でもベースであるポリプロピレンと同等の耐熱性を維持できるといった特徴を有するものである。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、結晶性ポリプロピレン成分の含有率が5〜50重量%であり、非晶性ポリオレフィン成分の含有率が95〜50重量%となっている。このようなポリプロピレン系樹脂組成物は、従来の液体供給チューブにおける主形成材料であるSEBS(図7に示す比較例)に比べて屈曲性が大きく向上している。ここで、屈曲性とは、液体供給チューブを引き回す際に液体供給チューブの内部流路がつぶれる、所謂キンクが発生することなく折り曲げることのできる最小の径(曲率の大きさ)により規定されるものである。
【0027】
一般的に、液体噴射装置PRTにおける液体供給チューブTBの外径は、0.9〜3mmとなっている。このような範囲の外径を有する液体供給チューブTBは、図7に示す実施例によれば上述の引き回し時の折り曲げ径の最小値が2mmとすることができる。一方、同等の外径を有する従来のSEBSを主成分に用いた液体供給チューブは、上述の引き回し時の折り曲げ径の最小値が15mmとなっている。
【0028】
このようにポリプロピレン系樹脂組成物により構成された液体供給チューブTBによれば、液体供給チューブの内部流路がつぶれる、所謂キンクが発生する最小折り曲げ径を小さくすることが可能である。
【0029】
液体供給チューブTBは引き回し時の折り曲げ径が小さくなっていることから、柔軟性が従来の液体供給チューブに対して大幅に向上していると換言することもできる。さらに、柔軟性に優れた液体供給チューブTBは第1湾曲部100から第5湾曲部104までの湾曲部における耐久性が向上していると換言することもできる。
【0030】
液体供給チューブTBの第1湾曲部100から第5湾曲部104において、キャリッジ4の移動にともなって湾曲部が追従変形せず、キャリッジ4の近くに湾曲部が位置しないものは、湾曲部の反力がキャリッジ4に与える影響が小さいため、キャリッジ4のすぐ近くに湾曲部が位置する可能性があるものに対して湾曲部の折り曲げ径を小さくできる。したがって、本実施形態では、結束部105よりも液体供給機構IS側の湾曲部であり、キャリッジの移動によっても湾曲部があまり変形しない第2湾曲部101、第3湾曲部102、第4湾曲部103、第5湾曲部104については、湾曲部の折り曲げ径を2mmないしは多少余裕を持たせた数mm程度にすることができる。これにより、液体供給チューブTBの引き回しを省スペース化でき、設計の自由度が向上する。
【0031】
第2湾曲部101については、キャリッジの移動にともなって、第2湾曲部101の位置とキャリッジ4との位置関係が大きく変わる。すなわち図1に対して図2では、第2湾曲部101がキャリッジ4の近くに位置する。そのため、図1では第2湾曲部101において生じる反力がキャリッジ4にほとんど影響しないのに対し、図2では第2湾曲部101が図1の状態に比べて大きな反力がキャリッジ4に働き、上述したようにキャリッジ4がガイド軸8に対して傾く可能性がある。そして、キャリッジ4に搭載されているヘッドHのノズルNZが傾いてノズルNZから噴出される液体の着弾位置がずれるおそれがある。したがって、第2湾曲部101の折り曲げ径は数十mm程度にする必要がある。
【0032】
メンテナンス機構MNは、液体噴射ヘッドHのホームポジションに配置されている。このホームポジションは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13の+Y側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、液体噴射装置PRTの電源がオフである時や、長時間に亘って記録が行われない時などに、液体噴射ヘッドHが待機する場所である。
【0033】
メンテナンス機構MNは、液体噴射ヘッドHの噴射面Haを覆うキャッピング機構CPや、当該噴射面Haを払拭するワイピング機構WPなどを有している。キャッピング機構CPには、吸引ポンプなどの吸引機構SCが接続されている。吸引機構SCにより、キャッピング機構CPは、噴射面Haを覆いつつ当該噴射面Ha上の空間を吸引できるようになっている。液体噴射ヘッドHからメンテナンス機構MN側に排出された廃液は、廃液回収機構(不図示)において回収されるようになっている。
【0034】
図3は、液体噴射ヘッドHの構成を示す側断面図である。図4は、液体噴射ヘッドHの構成を説明する要部断面図である。
図3に示されるように、液体噴射ヘッドHは、導入針ユニット17、ヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を備えている。
【0035】
導入針ユニット17の上面には、フィルター21を介在させた状態で2本の液体導入針22が並んで取り付けられている。導入針ユニット17の内部には、各液体導入針22に対応した液体導入路23が形成されている。液体導入路23の上端は、フィルター21を介して液体導入針22に接続されている。液体導入路23の下端は、パッキン24を介してヘッドケース18内部のケース流路25に接続されている。液体導入針22には、それぞれサブタンク2が装着されている。
【0036】
サブタンク2は、ポリプロピレン等の樹脂製材料を用いて形成されている。サブタンク2には、液体室27が設けられている。液体室27は、すり鉢状に形成された凹部27aを有している。凹部27aは、開口部27bを有している。開口部27bには、透明な弾性シート26が貼り付けられている。凹部27aの底部には、連通孔27cが形成されている。連通孔27cは、液体室27の凹部27aと液体供給室27dとの間を連通するように形成されている。液体供給室27dは、液体供給チューブTBに接続されている。液体供給室27dのうち液体供給チューブTBとの接続部分には、不図示のフィルターなどが設けられている。
【0037】
弾性シート26は、開口部27bを塞ぐように貼り付けられている。弾性シート26は、液体室27の圧力に応じて伸縮するようになっている。弾性シート26は、液体室27の圧力が外部の圧力よりも高くなると凹部27aの外側へ向けて膨張した状態となり、液体室27の容積が増加した状態となる。液体室27の圧力が外部の圧力よりも低くなると凹部27aの内側へ向けて膨張した状態となり、液体室27の容積が減少した状態となる。
【0038】
弾性シート26には、弁27eが取り付けられている。弁27eは、凹部27aから連通孔27cを介して液体供給室27dに接続されており、液体供給室27d側から連通孔27cを開閉するように形成されている。弁27eは、弾性シート26が膨張及び収縮に連動して連通孔27cを開閉するようになっている。具体的には、液体室27の容積を減少させる方向に弾性シート26が膨張したときに連通孔27cが開状態となり、液体室27の容積を増加させる方向に弾性シート26が膨張したときには連通孔27cが閉状態となる。弁27eには、所定の弾性力を付与する付勢部材27fが取り付けられており、連通孔27cの開閉の圧力が調整されている。
【0039】
サブタンク2は、針接続部28に接続されている。針接続部28は、サブタンク2と液体導入針22とを接続する部分である。液体室27の凹部27aには、当該針接続部28に接続される接続流路29が形成されている。針接続部28の内部空間には、液体導入針22がほぼ隙間無く嵌め込まれるシール材31が設けられている。液体導入針22がシール材31に嵌め込まれることで、サブタンク2と導入針ユニット17との間がほぼ漏れの無い状態で接続されるようになっている。
【0040】
図4に示すように、ヘッドケース18は、合成樹脂などを用いて形成されている。ヘッドケース18は、中空部を有するように箱型に形成されている。ヘッドケース18は、上端側がパッキン24を介して導入針ユニット17を取り付けられている。ヘッドケース18の下端面には、流路ユニット19が接合されている。ヘッドケース18の内部に形成された中空部37内には、アクチュエータユニット20が収容されている。
【0041】
ヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。ケース流路25の上端は、パッキン24を介して導入針ユニット17の液体導入路23に連通されている。ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通液体室44に連通されている。このため、液体導入針22から導入された液体Lは、液体導入路23及びケース流路25を通じて共通液体室44側に供給されるようになっている。
【0042】
アクチュエータユニット20は、櫛歯状に配置された複数の圧電振動子38と、当該圧電振動子38を保持する固定板39と、圧電振動子38に対して制御装置CONTからの駆動信号を供給するフレキシブルケーブル40とを有している。
【0043】
圧電振動子38は、図中下側端部が固定板39の下端面から突出するように固定されている。このように、各圧電振動子38は、所謂片持ち梁の状態で固定板39上に取り付けられている。各圧電振動子38を支持する固定板39は、厚さ1mm程度のステンレス鋼によって構成されている。固定板39のうち圧電振動子38の固定された面とは異なる面が中空部37を区画するケース内壁面に接着されている。
【0044】
流路ユニット19は、振動板41、流路基板42及びノズル基板43を有している。振動板41、流路基板42及びノズル基板43は、積層された状態で接着されている。流路ユニット19は、共通液体室44から液体供給口45、圧力室46を通り、ノズルNZに至るまでの一連の液体流路を構成している。圧力室46は、ノズルNZの配列方向(ノズル列方向)に対して直交する方向が長手方向となるように形成されている。
【0045】
共通液体室44は、ケース流路25に接続されている。共通液体室44は、液体導入針22側からの液体Lが導入される室である。また、共通液体室44は、液体供給口45に接続されている。共通液体室44に導入された液体Lは、当該液体供給口45を通じて各圧力室46に分配されるようになっている。
【0046】
ノズル基板43は、流路ユニット19の底部に配置されている。ノズル基板43には、媒体Mに形成される画像などのドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズルNZが形成されている。ノズル基板43としては、ステンレス鋼などの金属製の板材が用いられる。
【0047】
図5は液体噴射装置PRTの電気的な構成を示すブロック図である。
液体噴射装置PRTは、液体噴射装置PRT全体の動作を制御する制御装置CONTを備えている。制御装置CONTには、液体噴射装置PRTの動作に関する各種情報を入力する入力装置59、液体噴射装置PRTの動作に関する各種情報を記憶した記憶装置63などが接続されており、上述した搬送機構CVや、液体噴射ヘッド移動機構AC、メンテナンス機構MN等が接続されている。制御装置CONTは、メンテナンス機構MNのうち吸引機構SCを制御可能である。
【0048】
液体噴射装置PRTは、それぞれの圧電振動子38に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器62を備えている。この駆動信号発生器62は、制御装置CONTに接続されている。駆動信号発生器62には、液体噴射ヘッドHの圧電振動子38に入力する駆動パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び駆動パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器62は、各圧電振動子38に対して、個別に駆動信号を供給可能に設けられている。
【0049】
次に、上記のように構成された液体噴射装置PRTの動作を説明する。
液体噴射ヘッドHによる印刷動作を行う場合、制御装置CONTは、搬送機構CVによって媒体Mを液体噴射ヘッドHの−Z側に配置させる。媒体Mを配置させた後、制御装置CONTは、液体噴射ヘッドHを移動させつつ、画像データに基づいてノズルNZに係る駆動信号発生器62から圧電振動子38に駆動信号を入力する。
【0050】
圧電振動子38に駆動信号が入力されると、圧電振動子38が伸縮する。圧電振動子38の伸縮により、圧力室46の容積が変化し、液体を収容した圧力室46の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズルNZから液体が噴射される。ノズルNZから噴射された液体によって、媒体Mに所望の画像が形成される。
【0051】
制御装置CONTは、液体噴射ヘッドHのメンテナンス動作として、フラッシング動作、キャッピング動作、吸引動作などを行わせる。
フラッシング動作を行わせる場合、制御装置CONTは、液体噴射ヘッドHをホームポジションまで移動させ、液体噴射ヘッドHの噴射面Haとキャップ部材33とを対向させた状態とする。この状態で、制御装置CONTは、液体噴射ヘッドHの噴射面Haがキャップ部材33に平行になるようにキャップ部材33の姿勢を微調整する。キャップ部材33の姿勢を調整後、制御装置CONTは、駆動信号発生器62を介して圧電振動子38を振動させる。この動作により、ノズルNZから液体が噴射されて排出される。
【0052】
次に、キャッピング動作を行わせる場合、制御装置CONTは、液体噴射ヘッドHをホームポジションに移動させ、液体噴射ヘッドHとキャップ部材33とを対向させる。同時に、制御装置CONTは、図示しない駆動機構により、キャップ部材33を液体噴射ヘッドH側へ移動させて噴射面Haを押圧させる。この動作により、キャップ部材33と噴射面Haとの間が密閉状態となり、キャッピング動作が完了する。キャップ部材33内には、液体を吸収した液体吸収部が配置されている。したがって、液体吸収部に吸収された液体により、液体噴射ヘッドHに対して湿潤効果が及ぼされることになる。
【0053】
キャッピング動作の後、液体噴射ヘッドHのノズルNZを吸引する吸引動作を行うことができる。キャップ部材33を液体噴射ヘッドHに当接させた後、制御装置CONTは吸引機構SCを作動させる。この動作により、キャップ部材33と液体噴射ヘッドHの噴射面Haとの間の空間が吸引され、負圧となる。当該負圧により、液体噴射ヘッドHの複数のノズルNZから液体が−Z方向に排出され、液体の粘度が適正に保持されることになる。液体の吸引動作が終了した後、制御装置CONTは、キャップ部材33内を大気開放するなどして、当該キャップ部材33内の負圧状態を解除し、キャップ部材33を液体噴射ヘッドHの噴射面Haから離す。このようにして吸引動作が行われる。
【0054】
以上のように、本発明に係る液体供給チューブTBはポリプロピレン系樹脂組成物により構成されているので、柔軟性および耐久性に優れたものとなる。よって、液体噴射装置PRT内に組み込む際の液体供給チューブTBの湾曲部100の曲率を小さくできるので、液体供給チューブTBの引き回しスペースを小さくすることができ、結果的に液体噴射装置PRTを小型化できる。
【0055】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
上記実施形態では、液体供給チューブTBの全体をポリプロピレン系樹脂組成物で構成する場合について説明したが、二色成形により、少なくとも湾曲部100のみをポリプロピレン系樹脂組成物で形成し、その他の部分を従来の液体供給チューブ形成材料で構成する構成であっても構わない。
【0056】
また、上記実施形態では、液体噴射ヘッドHおよび液体カートリッジ6間を接続する液体供給チューブTBの各々がポリプロピレン系樹脂組成物により構成されている場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。図6に示すように、液体噴射ヘッドHおよび液体カートリッジ6間を接続する多連チューブ200がポリプロピレン系樹脂組成物により構成されていてもよい。ここで、多連チューブ200とは、複数の液体供給チューブTB1を連結することで構成したものである。この多連チューブ200によれば、各液体供給チューブTB1が柔軟性に優れるため、複数の液体供給チューブTB1を束ねた多連チューブ200自体も非常に柔軟性に優れたものとなる。よって、液体噴射装置PRT内に多連チューブ200を組み込む際、湾曲部100の曲率を小さくすることができるので、引き回しスペースを小さくできる。また、多連チューブ200が柔軟性に優れるので、液体噴射ヘッドHの移動が液体供給チューブTB1の反力によって妨げられるといった不具合が発生するのを防止できる。
【0057】
(実験例)
次に、液体供給チューブTBの効果を確認するために行った評価実験及びその結果について説明する。図7は、評価対象の液体供給チューブTBの各条件と、従来の液体供給チューブの各条件との関係を示すものである。
【0058】
図7中、実施例1〜3は、本願発明に係る液体供給チューブTBを構成するポリプロピレン系樹脂組成物の組成比率を異ならせた場合を示す。図7に示すように、ポリプロピレン系樹脂組成物は、2種類の成分を含むものである。成分A,Bは、それぞれ、
成分A:結晶性ポリプロピレン成分、
成分B:プロピレンを含有する非晶性ポリオレフィン成分、から形成されている。
【0059】
これら2種類の成分の含有率を異ならせたものについてバリア性及び屈曲性を評価したものを実施例とした。また、その比較として、SEBSを主成分とする従来の液体供給チューブについてバリア性及び屈曲性を評価したものを比較例とした。
【0060】
評価実験として、まず、実施例1〜13および比較例にかかる液体供給チューブについて、成形性を評価した。具体的には、押出成形および射出成形による液体供給チューブの成形について、成形のしやすさを主観評価した。本評価では、比較例における成形のしやすさと同等程度を「○」とし、成形性に困難が認められる場合には「△」とした。
【0061】
図7に示されるように、実施例2−13における成形性は、押出成形および射出成形共に「○」となり、比較例と同等程度の成形性を得られることが分かった。ただし、実施例1においては成形性が「△」となり、他の実施例や比較例よりも成形が困難なことが判明した。これは、成分Aの配合率が0%となったため、液体供給チューブの材質が柔らかくなりすぎたために成形が困難になったと考えられる。
【0062】
評価実験として、次に、実施例1〜13および比較例にかかる液体供給チューブについて、バリア性を評価した。本評価では、バリア性として、水蒸気および空気の1時間辺りの透過率について行った。図7における水蒸気のバリア性の単位は「g・mm/m・24hr」であり、空気のバリア性の単位は「cc・mm/m・24hr・atm」である。水蒸気のバリア性が3.0g・mm/m・24hr以下であれば水蒸気のバリア性が良好なため評価を「◎」とし、3.0g・mm/m・24hrより大きく4.0g・mm/m・24hr以下は実質的に問題がないため評価を「○」とし、4.0より大きく6.5g・mm/m・24hr以下であると水蒸気のバリア性にやや難があるため評価を「△」とし、6.5g・mm/m・24hrより大きい値は水蒸気のバリア性に難が生じるため評価を「×」とする。
また、空気のバリア性が0.7c・mm/m・24hr・atm以下であれば空気のバリア性が良好のため「◎」と評価し、0.7c・mm/m・24hr・atmより大きく0.8c・mm/m・24hr・atm以下であれば実質的に問題がないため評価を「○」とし、0.8c・mm/m・24hr・atmより大きく0.9c・mm/m・24hr・atm未満であると空気のバリア性にやや難があるため評価を「△」とし、0.9c・mm/m・24hr・atmより大きい値は空気のバリア性に難が生じるため評価を「×」とする。
【0063】
図7に示されるように、実施例1〜13及び比較例における水蒸気のバリア性は、実施例4−13及び比較例が「◎」と評価され、実施例2及び3が「○」と評価され、実施例1が「△」と評価された。また、実施例1〜13及び比較例における空気のバリア性は、実施例3−13及び比較例が「◎」と評価され、実施例2が「○」と評価され、実施例1が「△」と評価された。したがって、バリア性の観点では、成分Aの含有量が5〜100重量%であり、成分Bの含有量が95〜0重量%であるポリプロピレン系樹脂組成物により構成されることが望ましく、成分Aの含有量が15〜100重量%であり、成分Bの含有量が85〜0重量%であるポリプロピレン系樹脂組成物により構成されることがより望ましいことが分かった。
【0064】
評価実験として、キンクが発生しない最小折り曲げ半径の曲率(湾曲部曲率)がどの程度になるかを評価した。図6に示されるように、実施例1−11における湾曲部曲率はいずれもR14以下であり、湾曲部曲率が比較例(SEBSを主成分とするチューブ)のR15よりも向上したことが確認できた。
【0065】
すなわち、実施例1〜11に係るポリプロピレン系樹脂組成物により構成された液体供給チューブは、SEBSを主成分とする従来の液体供給チューブに比べて柔軟性が向上していることが確認でき、特に実施例1−8においては、大幅に柔軟性が向上していることが確認できた。
【0066】
以上の結果により、成分Aの含有量が5〜90重量%であり、成分Bの含有量が95〜10重量%であるポリプロピレン系樹脂組成物により構成された液体供給チューブTBであれば、湾曲部の形状が一定状態である第1湾曲部100、第3湾曲部102、第4湾曲部103、第5湾曲部104においては、従来のSEBSを主成分とする液体供給チューブよりも曲率を小さくできることが確認できた。とくに成分Aの含有量が5〜50重量%であり、成分Bの含有量が95〜50重量%であるポリプロピレン系樹脂組成物により構成された液体供給チューブTBであれば、従来のSEBSを主成分とする液体供給チューブよりも曲率を大幅に小さくできることが確認できた。
仮に、バリア性を考慮すれば、成分Aの含有量が15〜90重量%であり、成分Bの含有量が85〜10重量%であるポリプロピレン系樹脂組成物により構成された液体供給チューブTBであることがより望ましい。バリア性と屈曲性とを考慮すると、成分Aの含有量が15〜50重量%であり、成分Bの含有量が85〜50重量%であるポリプロピレン系樹脂組成物により構成された液体供給チューブTBであることがより望ましいことが確認できた。
【0067】
なお、結束部105を継手に変えて、液体体供給チューブTBを液体供給機構ISから継手までを成分Aと成分Bのある含有比率にてチューブで構成し、継手からヘッドHまでを成分Aと成分Bの別の含有比率によるチューブTBとして構成しても良い。このようにすれば、第2湾曲部101に合わせた曲率が大きくバリア性が安定したチューブTBをインクシステムISから継手105まで用いる一方、継手からヘッドHまでを曲率が小さくできるチューブTBとすることで、バリア性を確保しつつ、チューブの大きさを抑えた設計にすることが可能である。
【0068】
なお、液体供給チューブTB以外のチューブにおいても、本実施例によるチューブを用いることが可能である。例えば、液体噴射ヘッドHのノズルをキャップするキャップ部材に連通するチューブであって、チューブポンプによりチューブが押圧されてキャップ部材を負圧にする機構が知られているが、このチューブについても、本実施例によるチューブを用いることにより、チューブの引き回しの設計自由度を向上することができる。
【符号の説明】
【0069】
PRT…液体噴射装置、TB…液体供給チューブ、H…液体噴射ヘッド、6…液体カートリッジ(液体タンク)、100…湾曲部、200…多連チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射装置に用いられ、液体を通す液体供給チューブであって、少なくとも屈曲する部分が、結晶性ポリプロピレン成分と、プロピレンを含有する非晶性ポリオレフィン成分と、を含むポリプロピレン系樹脂組成物により構成されており、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物は、前記結晶性ポリプロピレン成分の含有率が5〜90重量%であり、前記非晶性ポリオレフィン成分の含有率が95〜10重量%であることを特徴とする液体供給チューブ。
【請求項2】
請求項1に記載の液体供給チューブを搭載した液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131036(P2012−131036A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282376(P2010−282376)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】