説明

液体供給部材、負圧ユニット及び液体吐出装置

【課題】液体供給部材の内壁への気泡や泡沫の付着を防止し、気泡や泡沫の排出性を向上させる。
【解決手段】液体吐出装置に液体を供給するための流路を形成する液体供給部材であって、内壁表面が所定の空間周波数で山部と谷部が繰り返す凹凸形状を有する。前記液体吐出装置に設けられるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記山部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出部材、負圧ユニット及び液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のような液体吐出を行う装置において、インクなどの液体の中に気泡が混入すると、吐出が不安定になったり吐出量が変動したりする。また、インクを貯留するタンクや、タンクに貯留されているインクを液体吐出ヘッドに供給する流路などに気泡が存在すると、液体の供給や循環がスムーズに行われなくなる。
【0003】
近年、インクジェット記録装置は、A1版やA0版のような大判のシートに画像や文字を記録する際にも使用されている。
【0004】
このような大量にインクを消費するインクジェット記録装置では、メインタンクと液体吐出ヘッド(記録ヘッド)とが負圧ユニットを介して接続されている。そして、必要に応じてメインタンク内のインクが負圧ユニットを介して記録ヘッドに供給され、また、記録ヘッド内のインクが負圧ユニットに回収される。
【0005】
負圧ユニットは、記録ヘッドに供給されるインクを一時的に貯留するバッファ機能と、記録ヘッドやチューブを通して混入した気泡や泡沫をインク(液体)と気体に分離する気液交換機能とを有する。負圧ユニットの下方の空間は、主にバッファ機能を果たすために利用され、上方の空間は気液交換機能を果たすために利用される。
【0006】
記録ヘッド内に気体が混入するのは、所定の記録を行った後にノズル面に付着したミストやインクのリフレッシュのためにヘッド回復を行う際が多い。特にインク吸引による一連の回復工程を行うと、ノズルから空気が混入する場合があり、記録ヘッド内やチューブ(インク流路)内に空気が溜まったり、気泡となって流れたりする。
【0007】
また、記録ヘッド内に配置された排出側のフィルタのノズル側に空気溜まりがあると、ポンプによるインク吸引動作に伴って、その空気がフィルタを通して負圧ユニット側に流入してしまう。
【0008】
これらの気泡がインク流路内や負圧ユニット内で滞留したり、付着したりすると、インクのスムーズな流動が阻害され、回復動作時の廃インク量の増大や気液交換室での液体と気体との分離に支障が生じる原因となる。
【0009】
特許文献1には、主インク室と副インク室を有し、副インク室内が仕切り板によって気泡溜め部分とインク貯留部分とに仕切られているインクタンクが記載されている。さらに、仕切り板には、気泡溜め部分からインク貯留部分にインクを導入するためのインク導入孔が設けられると共に、気泡溜め部分に面している表面には凹凸面が形成されている。上記構造のインクタンクでは、気泡溜め部分で発生した気泡が凹凸面で捕捉され、捕捉された気泡が結合して大きくなることにより、インク液面と分離されて排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−326731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載されているインクタンクでは、インク導入孔付近及びタンク内壁の形状や材質が気泡の分離や排出に効果的な形状や材質とはなっていない。よって、タンク内に気泡が付着し、排出が困難になる場合がある。このためインク導入孔の下方に副インク室のインク残量を光学的に検知するための被検出部(プリズム)を配置した場合、インク導入孔付近に付着した気泡や成長した泡沫によって誤検知が発生する可能性がある。
【0012】
本発明の目的の一つは、液体供給部材の内壁への気泡や泡沫の付着を防止し、気泡や泡沫の排出性を向上させることである。本発明の目的の他の一つは、液体吐出装置における廃インク量の増大や気体と液体の分離機構の誤動作を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の液体供給部材は、液体吐出装置に液体を供給するための流路を形成する液体供給部材であって、内壁表面が所定の空間周波数で山部と谷部(又は凸部と凹部)が繰り返す凹凸形状を有する。液体吐出装置内に配置されるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、山部(又は凸部)の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である。
【0014】
本発明の負圧ユニットは、液体吐出ヘッドと液体吐出ヘッドに供給される液体を貯留するタンクとの間に介在する負圧ユニットである。タンクから液体吐出ヘッドに供給される液体を一時的に貯留するバッファタンクと、液体吐出ヘッドから回収された流体を液体と気体とに分離する気液交換室とを備える。内壁表面は、所定の空間周波数で山部と谷部(又は凸部と凹部)が繰り返す凹凸形状を有する。液体吐出ヘッド内に配置されるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、山部(又は凸部)の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である。
【0015】
本発明の液体吐出装置は、上記本発明の負圧ユニットを備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液体供給部材の内壁への気泡や泡沫の付着が防止され、気泡や泡沫の排出性が向上する。また、液体吐出装置における廃インク量の増大や気体と液体の分離機構の誤動作が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の液体供給部材の実施形態の一例を示す部分拡大断面図である。
【図2】本発明の液体供給部材の実施形態の他の一例を示す部分拡大断面図である。
【図3】本発明の液体供給部材の実施形態のさらに他の一例を示す部分拡大断面図である。
【図4】本発明の液体吐出装置の実施形態の一例を示す模式図である。
【図5】図4に示す負圧ユニットの構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の液体供給部材の実施形態の一例について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る液体供給部材10の部分拡大断面図である。
【0019】
図1に示すように、液体供給部材10の内壁表面は、液体の流動方向(図中に示す矢印方向)に沿って(液体の流動方向と平行に)、山部11と谷部12が所定の空間周波数で繰り返す凹凸形状を有している。また、液体供給部材10の一端には、ゴミなどの異物除去のために、フィルタ13が設けられている。このため、液体の流動方向に対してフィルタ13の下方に空気溜まりがあると、液体の流動によりフィルタ13を通して気泡14が発生し、液体中に浮遊、流動する。上記構造を有する液体供給部材10は、金型を用いて成形することができる。
【0020】
次に、液体供給部材10の内壁表面の構造(形状)についてさらに詳しく説明する。内壁表面では、フィルタ13の開口径をR[μm]としたとき、1周期f[μm]がR以上√2・R以下の空間周波数で山部11と谷部12が周期的に繰り返している。換言すれば、隣接する山部(または谷部)の中心間のピッチは、R[μm]以上√2・R[μm]以下である。さらに、山部11の最大高さ(=谷部12の最大深さ)Ry[μm]は、√2・R/2[μm]以上である。
【0021】
液体供給部材10が金型を用いて成形されることは既述のとおりであるが、この金型は、上述した液体供給部材10の内壁表面の形状に応じたエンドミルが取り付けられたマシニングセンタによって加工される。金型加工の際には、上記空間周波数と上記最大高さが得られるように、マシニングセンタをNC制御して加工を行う。
【0022】
液体供給部材10の内壁表面の構造(形状)は、図2に示す構造(形状)であってもよい。すなわち、凸部21と凹部22が液体の流動方向に沿って(流動方向と平行に)所定の空間周波数で繰り返す凹凸形状であってもよい。図2に示す形態においても、フィルタの開口径をR[μm]としたとき、1周期f[μm]がR以上√2・R以下の空間周波数で凸部21と凹部22が周期的に繰り返している。換言すれば、隣接する凸部(または凹部)の中心間のピッチは、R[μm]以上√2・R[μm]以下である。さらに、凸部21の最大高さ(=凹部22の最大深さ)Ry[μm]は、√2・R/2以上である。
【0023】
図2に示すような櫛歯状の表面形状を得るための金型は、平面研削盤を用いて所望の溝形状が加工できるようにブレードの幅を選定し、所望の空間周波数と最大高さになるように平面研削盤のNC制御を行って加工する。もっとも、エンドミルを取り付けたマシニングセンタで加工してもよい。
【0024】
いずれの場合も、金型表面が所望の形状になっているか否かは、光学手法を用いた三次元形状測定機または触針式の測定機を用いて評価した。測定した粗さ曲線のデータから周期的な構造の空間周波数解析を行った。周波数解析としては、高速フーリエ変換(FFT)を用いたパワースペクトル解析法や相関関数解析法を用いることができる。最大高さRy[μm]は、JIS B 0601-1994の定義に基づいて数値を求めた。
【0025】
上記のように製作、評価した金型により、エンジニアリングプラスチック材料を用いて液体供給部材10を成形した。内壁表面は凹凸形状を有し、液体や気泡14の流動方向と平行な方向に上記空間周波数を有する形状に加工されている。具体的には、液体供給部材10内に配置されたフィルタ13の開口径R[μm]に対して、1周期f[μm]がR以上√2・R以下の空間周波数を有し、且つ、その最大高さRy[μm]が√2・R/2以上の表面形状になるように加工されている。上記の条件を満たす限り、内壁表面の形状は、連続した1条件の表面形状でもよいし、図3に示すように、異なる2種以上の条件の表面形状の組み合わせであってもよい。図3に示す液体供給部材10の内壁表面には、上記条件の範囲内において空間周波数及び最大高さが異なる2種の凹凸形状が連続して形成されている。また、内壁表面の形状は、スピントのような突起形状でもよい。
【0026】
また、図1に示す山部11の頂部や谷部12の底部は、それぞれ平坦であってもよい。換言すれば、山部11や谷部12は台形であってもよい。
【0027】
液体供給部材10の材料には、成形性や加工性が良好であるエンジニアリングプラスチック材料を用いることができる。好ましくは、表面に疎水基を持たないポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、尿素樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ナイロン(NY)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが良好に使用できる。また、ポリエチレン(PE)などの汎用プラスチックを用いることができる。
【0028】
表面に疎水基を持たないエンジニアリングプラスチックは、その表面に気泡や泡沫が接したとき、インク等の液体に含有し気泡や泡沫の表面で配向している界面活性剤と疎水性相互作用を持たないため化学的にも気泡や泡沫が付着しにくい。
【0029】
成形加工された液体供給部材10の内壁表面の形状について、金型表面と同様に測定し、測定された粗さ曲線のデータから空間周波数解析を行い、形状の評価を行った。
【0030】
液体供給部材10内の気泡の付着防止効果の検証や気泡の排出性の評価は、内壁表面が観察できるように、液体供給部材10の一部に透明な窓を設けて観察評価を行った。
【0031】
次に、本発明の液体吐出装置の一実施形態について説明する。本実施形態に係る液体吐出装置は、負圧ユニットを備えたインクジェット記録装置である。
【0032】
図4は、本実施形態に係るインクジェット記録装置のインク供給・循環システムを示す概略図である。
【0033】
図4において、液体吐出ヘッド(記録ヘッド31)には、ノズル内のインクを加熱するための複数の発熱素子(不図示)とインクを吐出するための複数のノズルが設けられている。発熱素子によってノズル内のインクを沸騰させると、ノズル内に気泡が発生し、その気泡の成長に伴う圧力によりノズルからインクが吐出される。記録ヘッド31により記録が行われる記録媒体(不図示)は、記録媒体搬送機構(不図示)により、ノズルに対向する位置に搬送される。
【0034】
メインタンク32と記録ヘッド31は、両者を繋ぐ流路の途中に介在する負圧ユニット33を介して接続されている。そして、必要に応じてメインタンク32内のインクが負圧ユニット33を介して記録ヘッド31に供給され、また、記録ヘッド31内のインクが負圧ユニット33に回収される。
【0035】
負圧ユニット33の拡大断面図を図5に示す。負圧ユニット33は、記録ヘッド31に供給されるインクを一時的に貯留するバッファ機能と、記録ヘッド31やチューブを通して混入した気泡や泡沫をインクから分離される気液交換機能とを有する。負圧ユニット33の下方の空間は、主にバッファ機能を果たすために利用され、上方の空間は主に気液交換機能を果たすために利用される。以下の説明では、主にバッファ機能を果たすために利用される負圧ユニット33の下方空間を「バッファタンク33a」と呼び、主に気液交換機能を果たすために利用される上方空間を「気液交換室33b」と呼んで区別する場合がある。もっとも、かかる区別は説明の便宜上の区別であり、実際には、上方空間と下方空間とが連続した単一の空間であることは図5より明らかである。
【0036】
再び図4を参照する。メインタンク32に収容されているインクは、負圧ユニット33のバッファタンク33aに移送され、一時的に貯留されてから記録ヘッド31に供給される。メインタンク32から負圧ユニット33のバッファタンク33aへのインク供給と、バッファタンク33aから記録ヘッド31へのインク供給とは、柔軟性を有する供給チューブ35を通して行われる。
【0037】
また、本実施形態のインクジェット記録装置には、記録ヘッド31の吐出量と着弾位置精度などの吐出性能を維持、安定させるためにヘッド回復機構が備えられている。
【0038】
ヘッド回復機構は、記録ヘッド31のノズルにキャップ36を被せた状態でポンプ37によってインクを吸引することで、ノズルの目詰まりを解消する。図示されている切替弁38を使うことにより、吸引したインクを循環排出チューブ39を介して負圧ユニット33の気液交換室33bに移送することができる。このような循環系を用いることでインクの再利用が可能となり、インクの使用効率を上げることができる。また、記録ヘッド31内のインクは、ポンプ41によって吸引して記録ヘッド31に配置されているフィルタ42(排出側)を通過して流体移送チューブ43を通してバッファタンク33aに戻すことができる。
【0039】
記録ヘッド31内のフィルタ42は、回復動作によって負圧ユニット33へゴミが侵入することを防止するために配置されている。そのため、フィルタ42の開口径は、流体移送チューブ43の内径よりも小さくされている。一方、フィルタ44は、負圧ユニット33から記録ヘッド31へのインク供給によって記録ヘッド31にゴミが侵入することを防止するために配置されている。そのため、フィルタ44の開口径は、記録ヘッド31内に形成されている不図示のノズル流路の寸法よりも小さくされている。
【0040】
次に、図5を参照して、記録ヘッド31の回復動作に使用される負圧ユニット33の気液交換室33bについて説明する。気液交換室33bにはインクよりも比重の小さいフロート部材50と、フロート部材50が移動可能なフロート室51が設置されている。気液交換室33bのフロート部材50とフロート室51からなる気液分離機構によってインクに混入した気泡をインクと気体とに分離することができる。もっとも、かかる機構は公知なので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0041】
負圧ユニット33を構成するバッファタンク33aや気液交換室33b作は、上記液体供給部材10と同様に金型を用いて成形することができる。特に、負圧ユニット33の内壁表面には、気体が混合したインクの流動方向に対して平行になるように、液体供給部材10の内壁表面と同様の空間周波数を有する凹凸形状が形成されている。
【0042】
気液交換室33bにおいては、記録ヘッド31の回復動作時に、循環排出チューブ39を通して気液交換室33bの上部から気泡が混入したインクが戻ってくる。この際、記録ヘッド31内に発生した気泡は回復動作の継続により、ノズルを通過して循環排出チューブ39に流動するが、気泡の大きさはノズル径に影響されずフィルタ44(図4)の開口径により決まる。
【0043】
また、気液交換室33bのフロート室51では、循環排出チューブ39を通して戻ってきたインクが気液分離されて上部の排出流路52から気体が排出される。このように気液交換室33bにおいては、流体が気液交換室33bの内壁側面と平行な方向に流動する。そこで、負圧ユニット33を構成する気液交換室33bにおいては、内壁側面と平行な方向に上記空間周波数を持った凹凸形状が形成されている。
【0044】
また、気液交換室33bにおいて、流体がフロート室51で気液分離されるため、インクはフロート室51の入口53に向かう方向と平行な方向に流動する。このため、フロート室51のバッファタンク側底面54は、フロート室51の入口53に向かう方向と平行な方向に上記空間周波数を持った凹凸形状が形成されている。すなわち、フィルタ44の開口径をR[μm]としたとき、1周期f[μm]がR以上√2・R以下の空間周波数を有し、且つ、最大高さRy[μm]が√2・R/2以上の凹凸形状が形成されている。
【0045】
バファタンク33aでは、記録ヘッド31から流体移送チューブ43を通して気泡が混入したインクが戻ってくる。このとき、特にインク中に含まれる気泡は浮力により、バッファタンク33aの内壁側面と平行方向の上部に流動する。また、バッファタンク33aには、メインタンク32(図4)からインクが供給される。このとき、インクは、初めにバッファタンク33aの内壁側面と平行方向の下部に流動し、所定量供給されるとインクの流動が止まる。このようにバッファタンク33aにおいては、気液交換室33bと同様に、インクが内壁側面と平行な方向に流動する。そこで、バッファタンク33aにおいても、内壁側面と平行な方向に上記空間周波数を持った凹凸形状が形成されている。すなわち、フィルタ42の開口径をR[μm]としたとき、1周期f[μm]がR以上√2・R以下の空間周波数を有し、且つ、最大高さRy[μm]が√2・R/2以上の凹凸形状が形成されている。
【0046】
負圧ユニット33を成形するための金型の表面形状は、液体供給部材10を成形するための金型の表面形状と同様の手法により評価した。空間周波数解析及び最大高さRyも同様の手法により求めた。
【0047】
上記のようにして製作、評価した金型により、エンジニアリングプラスチック材料を用いて負圧ユニット33を成形した。
【0048】
なお、上記条件を満たす限り、負圧ユニット33の内壁表面の形状は、連続した1条件の表面形状でもよいし、異なる2種以上の条件の表面形状の組み合わせであってもよい。また、内壁表面の形状は、スピントのような突起形状でもよい。
【0049】
負圧ユニット33の材料としては、上記液体供給部材10と同様のエンジニアリングプラスチック材料や汎用プラスチック材料を用いることができる。
【0050】
負圧ユニット33の内壁表面の形状については、金型表面と同様に測定し、測定した粗さ曲線のデータから空間周波数解析を行い、形状の評価を行った。
【0051】
負圧ユニット33内の気泡や泡沫の付着防止効果の検証や気泡の排出性の評価は、内壁が観察できるように、負圧ユニット33の一部に透明な窓を設けて観察評価を行った。
【実施例1】
【0052】
図1に示す液体供給部材10の実施例として、内壁表面形状の空間周波数の1周期f[μm]と最大高さRy[μm]との組み合わせが異なる48種類の試作品を製作し、それぞれについて内壁表面への気泡の付着状態を観察した。いずれの試作品についても、図1に示すフィルタ13として、開口径15[μm]のフィルタを端部内側に配置した。各試作品における空間周波数の1周期f[μm]と最大高さRy[μm]の組み合わせ条件は次の表1に示すとおりである。すなわち、空間周波数の1周期f[μm]については、5〜30[μm]の範囲内で5[μm]ずつ異ならせた。また、最大高さRy[μm]については、5〜40[μm]の範囲内で5[μm]ずつ異ならせた。
【0053】
いずれの試作品も金型を用いて成形した。使用した金型の表面(液体供給部材の内壁表面を形成する面)は、エンドミルを取り付けたマシニングセンタを用いて加工した。また、いずれの試作品の材料にもポリアセタール(POM)を用いた。
【0054】
各試作品において、上記フィルタを通過して発生する気泡の内壁への付着状態を観察した。観察結果を表1に示す。
【0055】
評価基準は、内壁表面への気泡の付着がほとんど観察されないものを◎、観察領域の中で15%未満の気泡の付着状態のものを○、15%以上30%未満の気泡の付着状態のものを△、30%以上の気泡の付着の場合を×とした。
【0056】
【表1】

【0057】
上記表1より、空間周波数の1周期fが15〜20[μm]、最大高さRyが15[μm]以上の試作品では気泡の付着がほとんど観察されず、気泡の付着防止性能と排出性が良好であることが分かる。
【0058】
また、空間周波数の1周期fが5〜15[μm]、最大高さRyが5[μm]以上の試作品では、気泡の付着が多数観察され、時間の経過に伴い気泡同士が結合し泡沫化していくのが観察された。さらに、空間周波数の1周期fが25[μm]以上、最大高さRyが5[μm]以上の試作品でも、気泡の付着が多数観察され、時間の経過に伴い気泡同士が結合し泡沫化していくのが観察された。
(実施例2)
図4に示す負圧ユニット33の実施例として、空間周波数の1周期f[μm]と最大高さRy[μm]との組み合わせが異なる48種類の試作品を製作し、それぞれについて内壁表面への気泡の付着状態を観察した。各試作品における空間周波数の1周期f[μm]と最大高さRy[μm]の組み合わせ条件は上記表1に示すとおりである。なお、いずれの試作品も金型を用いて成形した。
【0059】
各試作品を図4に示す構成を有するインクジェット記録装置に組み込んだ。このとき、図4に示すフィルタ42として開口径15[μm]のフィルタを記録ヘッド31に相当する記録ヘッド内に設けた。
【0060】
各試作品が組み込まれたインクジェット記録装置においてヘッド回復動作を実行し、回収インク中に気泡が含まれてしまったインクを負圧ユニット(各試作品)に戻した。さらに記録ヘッド内にあった空気が上記フィルタを通過することにより気泡が発生した。この際、発生した気泡は、図4に示すポンプ37に相当するポンプを通過するが、気泡の大きさはポンプの通過前後で変化はほとんどなく、上記フィルタの開口径により決まっていた。この気泡を含んだインクもインク循環により負圧ユニットに回収した。
【0061】
各試作品の内壁表面への気泡の付着状態を観察したところ、内壁表面の形状の空間周波数の1周期fが15〜20[μm]、最大高さRyが15[μm]以上の試作品では気泡の付着がほとんど観察されず、気泡の付着防止性能と排出性が良好であった。
【0062】
また、空間周波数の1周期fが5〜15[μm]、最大高さRyが5[μm]以上の試作品及び空間周波数の1周期fが25[μm]以上、最大高さRyが5[μm]以上の試作品では、バッファタンク内や気液交換室内で気泡の付着が多数観察された。気液交換室内では、時間の経過に伴い気泡同士が結合し泡沫化していくのが観察された。
【符号の説明】
【0063】
10 液体供給部材
11 山部
12 谷部
13、42、44 フィルタ
14 気泡
21 凸部
22 凹部
31 記録ヘッド
33 負圧ユニット
33a バッファタンク
33b 気液交換室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出装置に液体を供給するための流路を形成する液体供給部材であって、
内壁表面が所定の空間周波数で山部と谷部が繰り返す凹凸形状を有し、
前記液体吐出装置に設けられるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記山部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である液体供給部材。
【請求項2】
請求項1に記載の液体供給部材であって、液体の流動方向と平行な方向に前記山部と前記谷部が繰り返し形成されている液体供給部材。
【請求項3】
液体吐出装置に液体を供給するための流路を形成する液体供給部材であって、
内壁表面が所定の空間周波数で凸部と凹部が繰り返す凹凸形状を有し、
前記液体吐出装置に設けられるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記凸部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である液体供給部材。
【請求項4】
請求項3に記載の液体供給部材であって、液体の流動方向と平行な方向に前記凸部と前記凹部が繰り返し形成されている液体供給部材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体供給部材であって、前記内壁表面に、前記空間周波数の1周期f[μm]および前記最大高さRy[μm]が異なる2種以上の凹凸形状が形成されている液体供給部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液体供給部材であって、表面に疎水基を持たない材料によって形成されている液体供給部材。
【請求項7】
請求項6に記載の液体供給部材であって、前記材料がポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ナイロン、ポリブチレンテレフタレート又は尿素樹脂のいずれかである液体供給部材。
【請求項8】
液体吐出ヘッドと前記液体吐出ヘッドに供給される液体を貯留するタンクとの間に介在する負圧ユニットであって、
前記タンクから前記液体吐出ヘッドに供給される液体を一時的に貯留するバッファタンクと、前記液体吐出ヘッドから回収された流体を液体と気体とに分離する気液交換室とを備え、
前記バッファタンクと前記気液交換室の少なくとも一方の内壁表面は、所定の空間周波数で山部と谷部が繰り返す凹凸形状を有し、
前記液体吐出ヘッドに設けられるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記山部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である負圧ユニット。
【請求項9】
液体吐出ヘッドと前記液体吐出ヘッドに供給される液体を貯留するタンクとの間に介在する負圧ユニットであって、
前記タンクから前記液体吐出ヘッドに供給される液体を一時的に貯留するバッファタンクと、前記液体吐出ヘッドから回収された流体を液体と気体とに分離する気液交換室とを備え、
前記バッファタンクと前記気液交換室の少なくとも一方の内壁表面は、所定の空間周波数で凸部と凹部が繰り返す凹凸形状を有し、
前記液体吐出ヘッドに設けられる配置されるフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記凸部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である負圧ユニット。
【請求項10】
液体吐出ヘッドから記録媒体に向けて液体を吐出して前記記録媒体の上に記録を行う液体吐出装置であって、
前記液体吐出ヘッドに供給される液体を貯留するタンクと、
前記タンクに貯留されている液体を前記液体吐出ヘッドへ供給する流路の途中に配置され、前記液体吐出ヘッドに供給される液体を一時的に貯留するバッファタンクと、前記液体吐出ヘッドから回収された流体を液体と気体とに分離する気液交換室とを備えた負圧ユニットとを有し、
前記負圧ユニットの内壁表面の少なくとも一部は、所定の空間周波数で山部と谷部が繰り返す凹凸形状を有し、前記液体吐出ヘッドに設けられているフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記山部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である、液体吐出装置。
【請求項11】
液体吐出ヘッドから記録媒体に向けて液体を吐出して前記記録媒体の上に記録を行う液体吐出装置であって、
前記液体吐出ヘッドに供給される液体を貯留するタンクと、
前記タンクに貯留されている液体を前記液体吐出ヘッドへ供給する流路の途中に配置され、前記液体吐出ヘッドに供給される液体を一時的に貯留するバッファタンクと、前記液体吐出ヘッドから回収された流体を液体と気体とに分離する気液交換室とを備えた負圧ユニットとを有し、
前記負圧ユニットの内壁表面の少なくとも一部は、所定の空間周波数で凸部と凹部が繰り返す凹凸形状を有し、前記液体吐出ヘッドに設けられているフィルタの開口径をR[μm]としたとき、前記空間周波数の1周期f[μm]がR以上√2・R以下であり、かつ、前記凸部の最大高さRy[μm]が√2・R/2以上である、液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−260284(P2010−260284A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113424(P2009−113424)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】