説明

液体吐出ヘッド、およびその調整方法、ならびにそれを用いた記録装置

【課題】印刷物の濃度のばらつき少なくできるように補正することができる液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】複数のアクチュエータを含む複数のアクチュエータユニット21と、前記複数のアクチュエータにそれぞれ対向して設けられた複数の液体加圧室10と、該複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった複数の液体吐出孔8と、前記複数の液体加圧室に液体を供給するマニホールド5と、前記複数のアクチュエータユニットにそれぞれ重なるように設けられた複数のヒータ40と、前記複数のヒータの動作を制御するヒータ制御部とを備えた液体吐出ヘッドであって、前記ヒータ制御部は、前記複数のヒータの温度差が所定の値となるよう制御でする液体吐出ヘッドを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドに関し、特に、文字や画像の記録に用いるインクジェット式プリンタに好適に用いられる液体吐出ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタやインクジェットプロッタなどの、インクジェット記録方式を利用した記録装置が、一般消費者向けのプリンタだけでなく、例えば電子回路の形成や液晶ディスプレイ用のカラーフィルタの製造、有機ELディスプレイの製造といった工業用途にも広く利用されている。
【0003】
このようなインクジェット方式の記録装置には、液体を吐出させるための液体吐出ヘッドが印刷ヘッドとして搭載されている。この種の印刷ヘッドには、インクが充填されたインク流路内に加圧手段としてのヒータを備え、ヒータによりインクを加熱、沸騰させ、インク流路内に発生する気泡によってインクを加圧し、インク吐出孔より、液滴として吐出させるサーマルヘッド方式と、インクが充填されるインク流路の一部の壁を変位素子によって屈曲変位させ、機械的にインク流路内のインクを加圧し、インク吐出孔より液滴として吐出させる圧電方式が一般的に知られている。
【0004】
また、このような液体吐出ヘッドには、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)にヘッドを移動させつつ記録を行なうシリアル式、および主走査方向に関して記録媒体より長いヘッドを固定した状態で副走査方向に搬送されてくる記録媒体に記録を行なうライン式がある。ライン式は、シリアル式のようにヘッドを移動させる必要がないので、高速記録が可能であるという利点を有する。
【0005】
シリアル式、ライン式いずれの方式の液体吐出ヘッドであっても、液滴を高い密度で印刷するには、液体吐出ヘッドに形成されている、液滴を吐出する液体吐出孔の密度を高くする必要がある。
【0006】
そこで液体吐出ヘッドを、マニホールドとマニホールドから複数の液体加圧室をそれぞれ介して繋がる液体吐出孔を有した流路部材と、前記液体加圧室をそれぞれ覆うように設けられた複数の変位素子を有するアクチュエータユニットとを積層して構成する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この液体吐出ヘッドでは、各液体吐出孔に繋がった液体加圧室を、それを覆うように設けられた変位素子を変位させることで、各液体吐出孔からインクを吐出させ、主走査方向に600dpiの解像度で印刷が可能とされている。
【0007】
また、このようなインクジェットヘッドにおいては、流路部材の寸法精度および組み立て精度のばらつき等により、液体吐出孔毎に液体吐出量にばらつきが生じることがある。このインク吐出量のばらつきは、印刷媒体に形成される画像の濃度ムラとなって表れることがある。そこで、液体吐出孔毎に液体吐出量を検出して補正テーブルを作成し、印刷時に補正テーブルを用いて液体吐出孔毎に液体吐出量の補正を個別に行なう技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2003−305852号公報
【特許文献2】特開平5−69545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の技術を特許文献1に記載の液体吐出ヘッドのような多数の液体吐出孔を有する液体吐出ヘッドに適用しようとしても、補正するための計算量が膨大になり、印刷時のスループットが低下するという問題があった。
【0009】
これを改善するため、補正を、液体吐出孔毎ではなく、アクチュエータユニット毎に行なうことが考えられる。アクチュエータユニット毎に液体吐出量を調整することにより、各アクチュエータユニットに含まれるアクチュエータから吐出された液体単独で印刷された部分の平均的な濃度は均一化できるが、異なるアクチュエータユニットから吐出された液体が混在して印刷される部分では、人間の目で見た印刷の濃度が異なることがあった。
【0010】
それは次のようなことが原因と考えられる。図7(a)とおよび7(b)は、印刷された記録媒体の一部を拡大したものの模式図である。各画素は同一量の液体で形成されたものであり、各画素の直径は同じである。図7(a)では画素は等間隔の格子の交点上に印刷されている。これに対して図7(b)では、画素は等間隔の格子の交点上からずれて印刷されている。このようなずれが生じた場合、人間の目には白地が目立つために濃度が薄く感じられることが多い。実際には様々な場合があるが、印刷された画素の面積、すなわち液体吐出量を同じにしても人間の目に同じ濃度に見えるとは限らない。このようなずれは、各アクチュエータユニットに対応した液体吐出孔から吐出される液滴の吐出速度にばらつきがあることに起因する。
【0011】
したがって、本発明の目的は、印刷物の濃度のばらつき少なくできるように補正することができる液体吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の液体吐出ヘッドは、複数のアクチュエータを含む複数のアクチュエータユニットと、前記複数のアクチュエータにそれぞれ対向して設けられた複数の液体加圧室と、該複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった複数の液体吐出孔と、前記複数の液体加圧室に液体を供給するマニホールドと、前記複数のアクチュエータユニットにそれぞれ重なるように設けられた複数のヒータと、前記複数のヒータの動作を制御するヒータ制御部とを備えた液体吐出ヘッドであって、前記ヒータ制御部は、前記複数のヒータの温度差が所定の値となるよう制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の液体吐出ヘッドの調整方法は、液体吐出ヘッドを調整する調整方法であって、同一の温度で前記各アクチュエータユニットに対向した液体加圧室に繋がった液体吐出孔から吐出される液体の平均速度を比較して、吐出される液体の平均速度の遅い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度を、吐出される液体の平均速度の速い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度より高くして、温度差が前記所定の値となるように調整することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の液体吐出ヘッドの調整方法は、前記液体吐出ヘッドを調整する調整方法であって、前記複数の液体吐出孔が2次元的に、かつ一方方向に等間隔で配置されており、1つの前記アクチュエータユニットに含まれる前記複数のアクチュエータと対向する前記複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった前記液体吐出孔の集合を1つの液体吐出孔群とし、複数の液体吐出孔群を前記一方方向に平行な直線に直角に投影したとき、1つの前記液体吐出孔群だけが投影されている領域と複数の前記液体吐出孔群が投影されている領域とを有するとともに、前記複数の前記液体吐出孔群が投影されている領域の各液体吐出孔群の液体吐出孔において、前記領域の液体吐出孔から吐出される液体の平均速度の遅い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度を、前記領域の液体吐出孔から吐出される液体の平均速度の速い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度より高くして、温度差が前記所定の値となるように調整することを特徴とする
本発明の記録装置は、前記液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して相対的に搬送させる搬送部と、前記液体吐出ヘッドの駆動を制御する制御部とを備えることを特徴とする。
のである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液体吐出ヘッドによれば、複数のアクチュエータを含む複数のアクチュエータユニットと、前記複数のアクチュエータにそれぞれ対向して設けられた複数の液体加圧室と、該複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった複数の液体吐出孔と、前記複数の液体加圧室に液体を供給するマニホールドと、前記複数のアクチュエータユニットにそれぞれ重なるように設けられた複数のヒータと、前記複数のヒータの動作を制御するヒータ制御部とを備えた液体吐出ヘッドであって、前記ヒータ制御部は、前記複数のヒータの温度差が所定の値となるよう制御することにより、アクチュエータユニット毎に差のある液体吐出特性の差を少なくするように温度差を調整することができる。
【0016】
本発明の液体吐出ヘッドの調整方法によれば、前記液体吐出ヘッドを調整する調整方法であって、同一の温度で前記各アクチュエータユニットに対向した液体加圧室に繋がった液体吐出孔から吐出される液体の平均速度を比較して、吐出される液体の平均速度の遅い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度を、吐出される液体の平均速度の速い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度より高くして、温度差が前記所定の値となるように調整することにより、アクチュエータユニットの平均の液体吐出速度の差を少なくすることができる。
【0017】
また、本発明の液体吐出ヘッドの調整方法によれば、前記液体吐出ヘッドを調整する調整方法であって、前記複数の液体吐出孔が2次元的に、かつ一方方向に等間隔で配置されており、1つの前記アクチュエータユニットに含まれる前記複数のアクチュエータと対向する前記複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった前記液体吐出孔の集合を1つの液体吐出孔群とし、複数の液体吐出孔群を前記一方方向に平行な直線に直角に投影したとき、1つの前記液体吐出孔群だけが投影されている領域と複数の前記液体吐出孔群が投影されている領域とを有するとともに、前記複数の前記液体吐出孔群が投影されている領域の各液体吐出孔群の液体吐出孔において、前記領域の液体吐出孔から吐出される液体の平均速度の遅い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度を、前記領域の液体吐出孔から吐出される液体の平均速度の速い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度より高くして、温度差が前記所定の値となるように調整することにより、2つのアクチュエータユニットの間で印刷される、異なるアクチュエータユニットにより印刷された画素が混在する領域の印刷の濃度と、隣接する1つのアクチュエータユニットにより印刷される画素だけでの領域の印刷の濃度との差を少なくすることができる。
【0018】
本発明の記録装置によれば、前記液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して相対的に搬送させる搬送部と、前記液体吐出ヘッドの駆動を制御する制御部とを備えることに記録媒体に濃度むらの少ない記録ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含むカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
【0020】
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
【0021】
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
【0022】
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
【0023】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
【0024】
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0025】
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
【0026】
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
【0027】
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図3参照)。
【0028】
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直角な方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
【0029】
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
【0030】
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
【0031】
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
【0032】
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
【0033】
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、アクチュエータユニットである圧電アクチュエータユニット21とヒータ40とを有している。圧電アクチュエータユニット21とヒータ40は重なって設けられており、ヒータ40の温度を制御する温度制御配線(図示せず)は、ヒータ制御部を備えた回路基板(図示せず)に接続されてい
る。各圧電アクチュエータユニット21に温度センサを付け、ヒータ制御部は、温度センアで測定された温度をフェードバックして、温度を調節するようにするのが好ましい。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。圧電アクチュエータユニット21とヒータ40は平面視した形状がほぼ等しく、圧電アクチュエータユニット21全体を略均等に加熱することができる。また、そのため図3および図4では、圧電アクチュエータユニット21とヒータ40とが重なって描かれている。
【0034】
また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。詳細は後述するが、このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる、
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
【0035】
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
【0036】
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
【0037】
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
【0038】
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。すなわち、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されているということである。
【0039】
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
【0040】
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されており、4つの液体吐出孔群7a〜dとなっている。これらの液体吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
【0041】
ここで、本実施例の液体吐出ヘッド2による印刷とその際に生じる印刷の濃度の差について説明についてする。圧電アクチュエータユニット21は、後述するように圧電体層の変形により液体加圧室10の体積を変化させ、液体吐出孔8から液滴を吐出させる。液滴の吐出速度や吐出量などの吐出特性は、圧電アクチュエータユニット21を製造する際に生じる圧電特性や厚さのばらつきに大きく影響を受けるため、各圧電アクチュエータユニット21に対向した液体加圧室10に繋がった液体吐出孔8は比較的近い吐出特性を示す。そして、圧電アクチュエータユニット21に対応した液体吐出孔8の平均の吐出速度が異なると、印刷物への液滴の着弾位置がずれるため、圧電アクチュエータユニット21に対応した液体吐出孔8が変わる部分の印刷物の直線性が劣るおそれがあり、圧電アクチュエータユニット21に対応した液体吐出孔8の平均の吐出量が異なると、印刷物への液滴の着弾位置がずれるため、圧電アクチュエータユニット21に対応した液体吐出孔8が変わる部分の印刷物で濃度差が生じるおそれがある。
【0042】
このような印刷状態を改善する方法として、圧電アクチュエータユニット21毎に、それに対向した液体加圧室10の中の液体の温度を調整する方法がある。液体、特に液体吐出ヘッドに用いられる低粘度で溶媒の特性に近い液体は、温度を上げると粘度が低くなるため、圧電アクチュエータユニット21に対向した液体加圧室10の中の液体の温度を高くすると、液滴の吐出速度を高くし、吐出量を増やすことができる。これにより、吐出特性が異なった圧電アクチュエータユニット21を用いる際には、圧電アクチュエータユニット21に対向した液体加圧室10の中の液体の温度に差をつけることにより、吐出特性の差を少なくすることができる。この際の温度差の調整は、印刷における直線性を重視するため、また、次に述べる点とも関係するため、液体の吐出速度を遅くするように調整するのが良い。
【0043】
例えば、水を溶媒とし30℃での粘度が6.0mPa・sのある液体は、温度が1℃高くなる毎に粘度が約0.16mPa・s低くなる。この粘度変化は、±10℃程度の温度範囲ではほぼ直線的になる。この液体を後述の液体吐出ヘッドを30℃に保って、1つの圧電アクチュエータ21を駆動して、吐出すると8.0m/sの平均吐出速度が得られ、液体吐出ヘッドの温度を32℃に上げると8.5m/sの平均吐出速度が得られた。同じヘッドの別の圧電アクチュエータ21を駆動すると、30℃での平均吐出速度は7.5m/sであり、32℃では、平均吐出速度は8.0m/sとなった。このような液体吐出ヘッドでは、先の圧電アクチュエータ21に重なるヒータ40を30℃に保ち、後の圧電アクチュエータ21に重なるヒータ40を32℃にすれば、平均吐出速度の差をほとんどなくすことができる。なお、前述のように粘度変化はほぼ線型であるため、温度差を2℃に保つようにすれば、別の温度に調整しても良い。
【0044】
以上2つの圧電アクチュエータユニット21について説明したが、3つ以上の圧電アクチュエータユニット21がある場合も同様に、温度差を所定値にすればよい。例えば、4つの圧電アクチュエータユニット21に対して、一端から第1の圧電アクチュエータユニット21〜第4の圧電アクチュエータユニット21とすれば、第1の圧電アクチュエータユニット21を基準にして、第2の圧電アクチュエータユニット21〜第4の圧電アクチュエータユニット21の温度差を+1.5℃、+0.8℃、−0.4℃というようにすればよい。
【0045】
続いて、本実施例の液体吐出ヘッド2による印刷の細部、特に2つの圧電アクチュエータユニット21により印刷される領域について、図6により説明する。図6は流路部材4を上から透視した図であり、液体吐出孔群7以外は省略してある。液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線L上に、この仮想直線Lと直角な方向から各液体吐出孔8の形成位置を射影した射影点が、印刷の解像度に対応した間隔で等間隔に途切れずに並ぶような位置に形成されている。これによって、液体吐出ヘッド2は、流路部材4における液体吐出孔8が形成された領域の長手方向についてのほぼ全領域にわたって、印刷の解像度に対応した間隔で途切れずに印刷できるようになっている。そして、各液体吐出孔群7から仮想直線Lに投影された領域には、1つの液体吐出孔群だけが投影されている領域LA、LCと、複数の液体吐出孔群7から投影されている領域LBがある。印刷は、領域LAでは1つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が印刷され、領域LBでは2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が印刷される。最も外側に位置する圧電アクチュエータユニット21の外側の斜辺を含む三角形の部分に対応した領域LCでは、液体吐出孔8が等間隔となっていないため、液体吐出ヘッド2を単独で用いる場合は、領域LCに対応する部分は通常使用されない。複数の液体吐出ヘッド2用いて、印刷される領域が長手方向に並ぶようにして印刷する場合には次に述べる領域LBの場合と同様に使用することもできる。
【0046】
領域LBでは2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が印刷される。印刷用紙Pを搬送方向Bに相対的に移動させて印刷する場合を考えると、領域LBに対応する位置の印刷状態は、領域LBに液滴を吐出する2つの圧電アクチュエータユニット21の特性に影響を受ける。具体的には液滴の吐出量および吐出速度が影響する。液滴の吐出量により印刷される画素の面積が変わるが、領域LBの中で隣接する領域LAに近づくと、その領域LAを印刷するのと同じ圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴により形成された画素の割合が増えていくため、液滴の吐出量の差は比較的なだらかに変化するため目立ち難い。
【0047】
これに対して、液滴の吐出速度が変わると、印刷用紙Pに着弾するまでの時間が変わるため、着弾位置が搬送方向Bと平行な方向にずれる。領域LBに液滴を吐出する2つの圧電アクチュエータユニット21の間に速度差があると画素の位置がずれることにより、人間が感じる濃度に差が生じる。この濃度差は印刷されるパターンにもよるが、領域LBの中で連続的に変化するわけではないので、領域LAと領域LBの境目には、人間が感じる濃度に差が生じやすい。
【0048】
このような印刷状態を改善するには、複数の液体吐出孔群7から液滴が吐出される領域LBに吐出される液滴の速度を平均化するようにヒータ40の温度を調整する。具体的には、液体吐出孔群7aと液体吐出孔群7bの間で液滴の吐出速度を補正する場合は、その間の領域LBに液体を吐出する、液体吐出孔群7aのうちの台形の斜辺を含む3角形の領域7a−Lに属する液体吐出孔から吐出される液滴の吐出速度の平均と、液体吐出孔群7bのうちの台形の斜辺を含む3角形の領域7b−Rに属する液体吐出孔から吐出される液滴の吐出速度の平均との差を減ずるようにヒータ40の温度を調整する。上述のように温度を上げることにより吐出速度を速くでき、温度を下げることで吐出速度を遅くできる。
【0049】
4つの圧電アクチュエータユニット21全体を調整するには、例えば、一端の液体吐出孔群7aと液体吐出孔群7bとの間の領域LBに投影される液体吐出孔群7a−Lから吐出される液体の平均速度と、液体吐出孔郡7b−Rから吐出される液滴の平均速度との差を少なくするようにする。この際、一方の温度を固定して、他方の温度を変えて差を少なくしてもよく、両方の温度を、速度差が少なくなるように変えてよい。続いて、液体吐出孔群7bと液体吐出孔群7cとの間の領域LBに投影される液体吐出孔群7b−Lから吐出される液体の平均速度と、液体吐出孔郡7c−Rから吐出される液体の平均速度との差を少なくするようにする。この際は、液体吐出孔郡7c−Rから吐出される液滴の平均速度が液体吐出孔郡7b−Lから吐出される液滴の平均速度に近づくように、液体吐出孔郡7cに対応する圧電アクチュエータ21のヒータ40の温度を調整する。さらに、液体吐出孔群7cと液体吐出孔群7dとの間の領域LBに投影される液体吐出孔群7c−Lから吐出される液体の平均速度と、液体吐出孔郡7d−Rから吐出される液体の平均速度との差を少なくするようにする。この際は、液体吐出孔郡7d−Rから吐出される液滴の平均速度が液体吐出孔郡7b−Lから吐出される液滴の平均速度に近づくように、液体吐出孔郡7dに対応する圧電アクチュエータ21のヒータ40の温度を調整する。
【0050】
このように4つの圧電アクチュエータユニットに対応するヒータ40の温度差を定めれば、温度差を保ったまま全体の温度を変えても良い。また、ヒータ制御部は、この温度差と、吐出する液体の粘度の温度特性を記憶させ、別の液体に適した温度差を設定できるようにしても良い。具体的には、前述の粘度の温度特性が−0.16mPa・s/℃の液体を吐出する際に温度差を2℃にすることで、吐出速度の差をほぼなくすことのできる液体吐出ヘッドで、粘度の温度特性が前述の液体の1/2倍の−0.08mPa・s/℃の液体を吐出する場合は、温度差を2℃の1/2倍の1℃になるようにすれば良い。
【0051】
以上のようにすることにより、境界の領域LBにおけるアクチュエータユニット毎の液滴の吐出速度の差が少なくなり、領域LBおよびそれに隣接する領域LAにおける濃度差が人の目に目立たなくできる。このように調整した結果、例えば、吐出孔群7a−Mから吐出された液滴で印刷された部分と吐出孔群7d−Mから吐出された液滴で印刷された部分では液滴の大きさが異なることで実際の印刷の濃度差があったとしても、それらの間で濃度差が比較的連続的に変化するため、人に目には濃度差は目立たない。逆に、各アクチュエータユニットから吐出される液滴により印刷される濃度を平均化させるように温度を調節すると、人の目で見た場合、境界の領域LB付近で濃度差が目立ってしまうことがある。
【0052】
平均吐出速度の調整は、速度差を平均吐出速度の3%以内、特に1.5%以内にすることが好ましく、これにより濃度差をより目立たなくさせることができる。具体的には、平均吐出速度が8m/s程度であれば、平均吐出速度の差は、0.2m/s以内、特に0.1m/s以内に調整する。
【0053】
以上、単純にするため、圧電アクチュエータユニット21により特性が変動するように説明したが、実際には、圧電アクチュエータユニット21と流路部材4を接合する際に生じる圧電アクチュエータユニット21内の残留応力などによっても特性は変動する。
【0054】
流路部材4の内部には、多数のしぼり12が形成されている。これらのしぼり12は、液体加圧室群9と対向する領域内に配置されている。本実施形態のしぼり12は、水平面に平行な1方向に沿って延在している。しぼり12の一方の端は、後述の個別供給流路6を介して副マニホールド5aに繋がっている。また、しぼり12の他方の端は、液体加圧室10に繋がっている。
【0055】
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0056】
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
【0057】
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
【0058】
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
【0059】
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
【0060】
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34およびとAu系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、液体加圧室10と対向する領域外に引き出されて接続電極36が形成されている。この接続電極36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。接続電極36は、FPC(Flexible Printed Circuit)45に設けられた電極46と接続導体47を介して電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPC45を通じて吐出信号が供給される。
【0061】
FPC45の圧電アクチュエータユニット21と反対の面には、ヒータ40が接合されている。ヒータ40は、限定されるものではないが、コストの低い発熱電極が埋め込まれたフィルムヒータが好ましい。ヒータ40は、接続導体47およびFPC45と圧電アクチュエータユニット21の間の大気を通して圧電アクチュエータユニット21を加熱し、さらに流路部材4および流路部材4の中の液体を加熱する。
【0062】
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に、FPC45上の別の電極と接続されている。
【0063】
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
【0064】
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の吐出信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
【0065】
多数の個別電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPC45の電極46を介して、個別にアクチュエータ制御部に電気的に接続されている。
【0066】
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21においては、個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加すると、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と直角な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域をもたない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
【0067】
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、アクチュエータ制御部により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0068】
本実施の形態における実際の駆動手順は、予め個別電極35を共通電極34より高い電位(以下高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位(以下低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む吐出信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、液体加圧室10内において圧力波がマニホールド5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
【0069】
また、階調印刷においては、液体吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する液体吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。
【0070】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態および変形例においては、液体吐出ヘッドの平面形状が長方形形状になっているが、正方形であってもよい。
【0071】
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。
【0072】
ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、必要に応じてグリーンシートの一部にビアホールを形成し、その内部にビア導体を挿入する。
【0073】
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成し、その後有機金ペーストを用いて焼成体表面に個別電極25を印刷して、焼成した後、Agペーストを用いて接続電極36を印刷し、焼成することにより、圧電アクチュエータユニット21を作製する。
【0074】
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
【0075】
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
【0076】
圧電アクチュエータユニット21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電アクチュエータユニット21や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータユニット21と流路部材4とを加熱接合することができる。
【0077】
次に、接続電極36に接続電極47として銀ペーストを塗布し、FPC45を接続した。さらに、FPC45にヒータ40としてフィルムヒータを貼り付け。ヒータ40の加熱用電極をヒータ制御部を備えた、回路基板に接続して、液体吐出ヘッド2を得る。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液体吐出ヘッドを含むプリンタの概略構成図である。
【図2】図1の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体を示す上面図である。
【図3】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図である。
【図4】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図5】図3のV−V線に沿った縦断面図である。
【図6】図1の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体を示す上面図であり、液体吐出孔群以外を省略したものである。
【図7】印刷されたものの濃度の違いを説明する図である。
【符号の説明】
【0079】
1・・・プリンタ
2・・・液体吐出ヘッド
4・・・流路部材
5・・・マニホールド
5a・・・副マニホールド
5b・・・開口
6・・・個別供給流路
7a、b、c、d・・・液体吐出孔群
8・・・液体吐出孔
9・・・液体加圧室群
10・・・液体加圧室
11a、b、c、d・・・液体加圧室列
12・・・しぼり
15a、b、c、d・・・液体吐出孔列
21・・・圧電アクチュエータユニット
21a・・・圧電セラミック層(振動板)
21b・・・圧電セラミック層
22〜31・・・プレート
32・・・個別流路
34・・・共通電極
35・・・個別電極
36・・・接続電極
40・・・ヒータ
45・・・FPC
46・・・電極
47・・・接続導体
50・・・変位素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアクチュエータを含む複数のアクチュエータユニットと、前記複数のアクチュエータにそれぞれ対向して設けられた複数の液体加圧室と、該複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった複数の液体吐出孔と、前記複数の液体加圧室に液体を供給するマニホールドと、前記複数のアクチュエータユニットにそれぞれ重なるように設けられた複数のヒータと、前記複数のヒータの動作を制御するヒータ制御部とを備えた液体吐出ヘッドであって、前記ヒータ制御部は、前記複数のヒータの温度差が所定の値となるよう制御することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の液体吐出ヘッドを調整する調整方法であって、同一の温度で前記各アクチュエータユニットに対向した液体加圧室に繋がった液体吐出孔から吐出される液体の平均速度を比較して、吐出される液体の平均速度の遅い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度を、吐出される液体の平均速度の速い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度より高くして、温度差が前記所定の値となるように調整することを特徴とする液体吐出ヘッドの調整方法。
【請求項3】
請求項1記載の液体吐出ヘッドを調整する調整方法であって、前記複数の液体吐出孔が2次元的に、かつ一方方向に等間隔で配置されており、1つの前記アクチュエータユニットに含まれる前記複数のアクチュエータと対向する前記複数の液体加圧室にそれぞれ繋がった前記液体吐出孔の集合を1つの液体吐出孔群とし、複数の液体吐出孔群を前記一方方向に平行な直線に直角に投影したとき、1つの前記液体吐出孔群だけが投影されている領域と複数の前記液体吐出孔群が投影されている領域とを有するとともに、前記複数の前記液体吐出孔群が投影されている領域の各液体吐出孔群の液体吐出孔において、前記領域の液体吐出孔から吐出される液体の平均速度の遅い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度を、前記領域の液体吐出孔から吐出される液体の平均速度の速い前記アクチュエータユニットに重なるように設けられた前記ヒータの温度より高くして、温度差が前記所定の値となるように調整することを特徴とする液体吐出ヘッドの調整方法。
【請求項4】
請求項1記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して相対的に搬送させる搬送部と、前記液体吐出ヘッドの駆動を制御する制御部とを備えることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−149290(P2010−149290A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326983(P2008−326983)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】