説明

液体吐出ヘッド

【課題】吐出素子基板の狭小化が進んでも吐出素子基板を支持する支持部材と吐出素子基板に液体を供給する為の液体供給部材とが極めて親和性よく接合され良好な液密性を有する液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】エネルギー発生素子を備えた基板を有する吐出素子基板と液体を該吐出素子基板へ供給する液体供給部材と該吐出素子基板と該液体供給部材との間に設けられた支持部材とを有する液体吐出ヘッドであり該支持部材が該支持部材を貫通する貫通孔である液体供給流路を少なくとも2つ以上有し該液体供給部材との接合面に凸部又は凹部を有し該支持部材の液体供給部材との接合面における互いに隣り合う2つの液体供給流路の間の間隔が該支持部材の吐出素子基板との接合面における互いに隣り合う2つの液体供給流路の間の間隔よりも大きく該支持部材が一体化成形により液体供給部材と接合されている液体吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを被記録媒体に吐出することにより記録を行うインクジェット記録ヘッド等の液体吐出ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いる例としては、インクを被記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録方式に用いられるインクジェット記録ヘッドが挙げられる。インクジェット記録ヘッド(記録ヘッド)としては、吐出素子基板と、吐出素子基板へインクを供給するインク供給路形成部材(インク供給部材)とを有する記録ヘッドが知られている。なお、吐出素子基板は、インクが吐出される複数の吐出口と、流路内のインクに吐出エネルギーを付与するエネルギー発生素子とを少なくとも備える。吐出素子基板に用いる基板としては、通常はシリコン製の基板が用いられる。また、インク供給部材はプラスチックなどで作られる。
【0003】
従来、このような記録ヘッドにおいては、以下のことがあった。即ち吐出口から液体を吐出する為のエネルギー発生素子を備えた吐出素子基板と、液体を収容するとともに吐出素子基板へ液体を供給するインク供給部材との線膨張率差によって、接合界面への応力が増大し、吐出素子基板の反りやゆがみが発生する場合があった。
【0004】
そのような場合には、記録中の昇温などによって、吐出素子基板とインク供給部材との接合界面に熱応力が発生することがあり、吐出素子基板の変形が引き起こされ、記録画像に影響が生じる場合があった。
【0005】
上記の現象を解決する手段として、特許文献1には、吐出素子基板とインク供給部材との間に、吐出素子基板のシリコンと同等の線膨張率を有する支持部材を介在させる構成が記載されている。また、特許文献2には、吐出素子基板のシリコンと同等の線膨張率を有する支持部材をインク供給部材と一体的に成形する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6257703号公報
【特許文献2】特開2007−276156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような吐出素子基板とインク供給部材との間に支持部材を有する記録ヘッドでは、吐出素子基板やインク供給部材と、支持部材の確実な接合が行われていないと、インクが流路外部へと漏れてしまうことがあった。特に、支持部材が、インク供給流路を少なくとも2つ以上有する場合に、この接合が正確に行われずに流路外部にインクが漏れるようなことがあれば、2種以上のインク同士が混ざり合い、記録画像に影響が出てしまう恐れがあった。
【0008】
基板と支持部材との接合は、記録画像に影響が生じやすいため、通常、精度を重視したマウント技術によって接合され、液密性が保証されている。
【0009】
一方、支持部材とインク供給部材との接合については、記録画像への影響が小さいため、簡便な一体化成形による接合方法が好まれる。しかしながら、インク供給部材に使用される材料と支持部材に使用される材料とは求められる特性が異なるため、支持部材とインク供給部材とを一体的に形成しても、良好な接合状態が得られない場合があった。また、成形後に支持部材とインク供給部材との間に剥離などが生じる場合があり、液密性が低下するという恐れがあった。
【0010】
液密性を向上させる方法として、支持部材とインク供給部材との接合面に凹凸形状を設けることで、接合性を向上させる方法が考えられる。しかし、省エネルギーや低コストの観点から、1枚のウエハからより多くのシリコン基板を生産することが求められており、取り個数向上の研究が進められている。その過程で、基板の幅は、より狭小化し、これに伴い基板と支持部材との接合領域、および、支持部材とインク供給部材との接合領域も狭小化の傾向にある。この支持部材とインク供給部材との接合領域の狭小化に伴い、凹凸形状を支持部材とインク供給部材との接合面に成形で設けることが難しくなってきている。
【0011】
よって、基板の狭小化技術が進んでも、支持部材とインク供給部材との接合面に凹凸形状を設置できる領域を確保し、支持部材とインク供給部材との一体化成形において液密性が保証されることが求められる。
【0012】
本発明は前述した従来技術における課題を解決するためにされたものである。本発明は、基板の狭小化技術が進んでも、吐出素子基板を支持する支持部材と、吐出素子基板にインクを供給する為のインク供給部材とが極めて親和性よく接合され、良好な液密性を有するインクジェット記録ヘッド等の液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板を有する吐出素子基板と、液体を前記吐出素子基板へ供給する液体供給部材と、前記吐出素子基板と前記液体供給部材との間に設けられた支持部材とを有する液体吐出ヘッドであって、
前記支持部材が、前記支持部材を貫通する貫通孔である液体供給流路を少なくとも2つ以上有し、かつ前記液体供給部材との接合面に凸部または凹部を有し、
前記支持部材の液体供給部材との接合面における互いに隣り合う2つの液体供給流路の間の間隔が、前記支持部材の吐出素子基板との接合面における互いに隣り合う2つの液体供給流路の間の間隔よりも大きく、
前記支持部材が、一体化成形により液体供給部材と接合されていることを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、基板の狭小化技術が進んでも、吐出素子基板を支持する支持部材と、吐出素子基板にインクを供給する為のインク供給部材とが極めて親和性よく接合され、良好な液密性を有するインクジェット記録ヘッド等の液体吐出ヘッドを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】液体吐出ヘッドの構成を説明するための模式図である。
【図2】液体供給部材との接合面における液体供給流路および凹凸形状を説明するための支持部材の模式的平面図である。
【図3】液体供給部材との接合面における液体供給流路および凹凸形状を説明するための支持部材の模式的斜視図である。
【図4】液体供給部材との接合面に形成する支持部材の凸部の例を示す模式図である。
【図5】液体供給部材との接合面に形成する支持部材の凹部の例を示す模式図である。
【図6】液体供給部材と一体化した支持部材をA−A線において切断した際の一例の模式的断面図であり、(a)は支持部材が凸部、(b)は凹部を有する場合の断面図である。
【図7】液体供給部材と一体化した支持部材をB−B線において切断した際の一例の模式的断面図である。
【図8】支持部材の成形を説明するための模式的断面図である。
【図9】支持部材と液体供給部材の一体化成形を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、液体吐出ヘッド(例えば、インクジェット記録ヘッド)の構成を説明するための模式図である。
上述したように、インク(液体)を吐出する複数の吐出口からなる吐出口列を有する吐出素子基板1は狭小化してきている。これにより、2種以上インクを吐出する場合(図1は3種のインクを吐出する場合)、互いに隣り合う2つの吐出口列の間の間隔(例えば符号1L)が1mm未満になる場合が主流となってきている。この結果、支持部材2の基板1との接合面2aにおける互いに隣り合う2つのインク供給流路(液体供給流路)5の間の間隔(例えば符号5L)も1mm未満になってきている。
【0017】
なお、吐出素子基板と支持部材の接合は、記録画像に影響が生じやすいため、通常、マウンターにより1mm未満の高い位置精度でずれのない接合が行われ、インクが流路外部へと漏れること防止している。
【0018】
一方、支持部材2とインク供給部材(液体供給部材)3との接合は、記録画像への影響が小さいため、簡便な方法として、成形により一体化が行われる。しかし、支持部材のインク供給部材との接合面2bにおける互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔が1mm未満であると、成形条件によっては、一体化成形を行っても、充填が十分に行えない場合があり、接合不良を起こす場合がある。そこで、従来、支持部材とインク供給部材の接合領域に凹凸の勘合部を設置することで、接合による液密性の信頼性を上げている。しかし、互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔が1mm未満であると液密性に効果的な凹凸形状の遮断壁を設置することができない場合がある。
【0019】
このような状況を受け、本発明では、支持部材のインク供給部材との接合面2bにおける互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔を、支持部材の吐出素子基板との接合面2aにおける間隔よりも大きくする。これにより、本発明では、上記凹凸形状の遮断壁を支持部材とインク供給部材の接合領域に容易に形成することができる。
【0020】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の液体吐出ヘッドは、インク、薬液、接着剤およびはんだペーストなどの吐出ヘッドとして使用することができる。以降、液体吐出ヘッドのうちのインクを吐出するインクジェット記録ヘッドに着目して説明を行う。
【0021】
インクジェット記録ヘッドは、吐出素子基板1、支持部材2およびインク供給部材3を有する。
【0022】
吐出素子基板は、インクを吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備える基板を有する。また、吐出素子基板は、インクを吐出する吐出口と、吐出口に連通する流路と、この流路に連通し、流路にインクを供給する供給口とを有することができる。
【0023】
また、支持部材2は吐出素子基板1とインク供給部材3との間に設けられ、インク供給部材から吐出素子基板へとインクを供給させる、支持部材を貫通する貫通孔であるインク供給流路(図1では符号5)を2つ以上有する。これらのインク供給流路は、吐出素子基板の供給口に連通させることができる。
【0024】
インク供給部材3は、支持部材2が有するインク供給流路に連通し、インク供給部材3を貫通する貫通孔(図6(b)に示す符号3b)と、この貫通孔に連通する供給室(図6(b)に示す符号3a)とからなる流路を、各インク供給流路に対して有することができる。
【0025】
なお、図1および2に示すように、吐出素子基板1との接合面2aにおけるインク供給流路を符号5で表し、インク供給部材3との接合面2bにおけるインク供給流路を符号4で表す。以降、支持部材とインク供給部材に着目して説明する。
【0026】
図2および3はそれぞれ、接合面2bにおけるインク供給流路4および凹凸形状を説明するための支持部材2の模式的平面図および模式的斜視図である。図3(a)〜(e)に示す支持部材はいずれも、開口形状が接合面2aでは四角形、接合面2bでは円形の3つのインク供給流路(i、iiおよびiii)を有する。図2(a)は、図3(a)に示す支持部材の平面図であり、図2(b)は、接合面2aおよび2bにおける開口形状がいずれも四角形のインク供給流路を有する支持部材の平面図である。このように、インク供給流路の各接合面における開口形状は必要に応じて選択することができ、例えば円形の他に楕円形や図1に示すような四角形とすることができる。
【0027】
なお、上述したように、本発明では、接合面2bにおける互いに隣り合うインク供給流路同士の間隔4Lを接合面2aにおける間隔5Lと比較して大きくするため、支持部材とインク供給部材の接合領域に凹凸形状の遮断壁を設置することが可能となる。このため、本発明では、液密性の観点から、接合面2bに凸部または凹部を有する支持部材を用いる。この凸部または凹部は、互いに隣り合う2つのインク供給流路の間に配置することができる。なお、これら凹凸部による遮断性を向上させるために、凹凸部は、各インク供給流路を取り囲むように配置することが最も好ましい。そうすることで、隣り合うインク供給流路同士の間に複数の遮蔽壁を設置することができる。
【0028】
一方、インク供給部材には、支持部材に形成された凹凸形状に対応する凸凹形状が支持部材との接合面に形成される。なお、支持部材は、接合面2bに凹部および凸部を両方有することもできる。
【0029】
図3(a)では、接合面2bに、インク供給流路4と同心円状の凸形状遮断壁6が各インク供給流路4を取り囲むように配置されており、図3(b)では、インク供給流路4と同心円状の凹形状遮断溝7が各インク供給流路4を取り囲むように配置されている。
【0030】
また、図3(c)では、接合面2bに、各インク供給流路4を取り囲む四角形の凸形状遮断壁が配置されている。さらに、図3(d)および(e)では、接合面2bにおいて、各インク供給流路は取り囲まれてはいないが、互いに隣り合う2つのインク供給流路を隔てるように凸部や凹部が配置されている。
【0031】
続いて、図4および5に、支持部材に対して垂直に支持部材を切断した際の、接合面2bに設ける凹凸部の断面図を示す。凹凸部の断面形状は、必要に応じて選択することができ、例えば、図4、5に示すように凸部の先端(紙面上方の部分)や凹部の底が、平坦な形状や鋭角な形状や丸みをもった形状でも良い。
【0032】
また、凸部の幅wは、支持部材に収まればよく特に制限されるものではないが、1mm以上3mm以下とすることが好ましい。また、凸部の高さhも1mm以上3mm以下とすることが好ましい。いずれも、1mm以上であれば成形がしやすく、3mm以下であれば成形時の離型性に優れる。
【0033】
図5に示す、凹部の幅wおよび深さdについても、同様の理由から1mm以上3mm以下とすることが好ましい。
【0034】
続いて、図6(a)にインク供給部材3と一体化させた図3(a)に示す支持部材2を、図6(b)にインク供給部材と一体化させた図3(b)に示す支持部材を、図1に示すA−A線に沿って切断した際の断面図を示す。また、図7に、インク供給部材と一体化させた図3(a)に示す支持部材を、図1に示すB−B線に沿って切断した際の断面図を示す。
【0035】
本発明では、接合面2bにおける互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔4Lがいずれも、接合面2aにおけるどの間隔5Lよりも大きくなる。すなわち、図6では、4L(i−ii)、(ii−iii)および(i−iii)がいずれも、5L(i−ii)よりも大きく、かつ5L(ii−iii)よりも大きくなる。
【0036】
なお、図1に示すように、接合面2aでは、インク供給流路iとiiiとは隣り合っていないため、5L(i−iii)は存在しない。また、4L(i−ii)とは、接合面2bにおけるインク供給流路iとiiとの間の間隔を表し、5L(i−ii)とは、接合面2aにおけるインク供給流路iとiiとの間の間隔を表す。なお、互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔とは、この2つのインク供給流路間の距離を意味する。
【0037】
また、図6において、4L(ii−iii)は、A−A線に沿った切断面での流路iiとiiiとの間隔を記載しているのではなく、図2(a)に示す間隔4L(ii−iii)を記載したものであり、図6における4L(i−ii)についても同様である。図3に示すように、3つのインク流路は面2bにおいて等間隔に配置されていることから、図6に示す4L(i−ii)、(ii−iii)および(i−iii)はいずれも同じ間隔(距離)となる。また、図1に示すように、3つのインク流路は面2aにおいても等間隔に配置されていることから、図6に示す5L(i−ii)と5L(ii−iii)とは、同じ間隔となる。
【0038】
面2bでの間隔4Lが面2aでの間隔5Lよりも大きければ、隣り合うインク供給流路の組み合わせ数が接合面2a(図6では、2つ)と接合面2b(図6では3つ)とで異なっていても良いし、同じであっても良い。また、本発明では、支持部材内部においてインク供給流路はどのような形状をしていても良い。例えば、互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔を、接合面2aから2bに向かに従って徐々に大きくしても良いし、図6のように互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔が、接合面2aから2bに向かう間に、一定の(変化しない)部分が存在していても良い。
【0039】
次に、支持部材2に使用する樹脂について説明する。
支持部材は、接液性に加えて、吐出素子基板から発せられる熱に対する耐熱性を有することが望まれる。そこで、支持部材に、耐熱性を付与する樹脂材料として、ポリスチレン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、アクリル系樹脂、HIPS(ハイインパクトポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ナイロン、PSF(ポリサルフォン)等を含むことができる。特にPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)は、線膨張係数を低減させることのできるフィラーを多く含ませても、容易に成形可能であるため、好適である。
【0040】
また、本発明において、支持部材は、耐熱性とインク供給部材との接合性、インク接液性等の特性をあわせもつ1種類の高機能材料を用いるよりも、ポリマーアロイを用いる方が安価に形成することができる。このため、上述した耐熱性を付与する樹脂材料と、インク供給部材との親和性が高い材料とのポリマーアロイを用いて支持部材を形成することが好ましい。また、とりわけインク供給部材は後述する第1の樹脂で形成されるため、このインク供給部材との親和性が高い材料として、インク供給部材を構成する第1の樹脂と同じ樹脂を用いることがより好ましい。
【0041】
また、支持部材は、インク供給部材を構成する第1の樹脂と、第1の樹脂と異なる第2の樹脂(例えば、上述した耐熱性を付与する樹脂材料)との混合物であるポリマーアロイを含む材料を用いて形成することができる。支持部材に用いるポリマーアロイとしては、第1の樹脂と、マグネシウムなどの金属とのアロイを使用することもできる。
【0042】
なお、支持部材に、さらにインク供給部材との親和性を高めるために、エポキシ化合物を共重合したポリエチレン系共重合体等を含有させることもできる。
【0043】
また、支持部材にフィラーを充填することもでき、これにより線膨張係数を容易に下げることができる。フィラーとしては、無機フィラーであるガラスフィラー、カーボンフィラー、球状シリカ、球状アルミナ、雲母、タルク等、樹脂の線膨張係数を低下させる物が使用可能である。
【0044】
フィラーを支持部材に充填する場合には、表面の平坦性の観点と、膨張率に異方性を生じさせないという観点から、球状の粒子である球状フィラ−を使用することが好ましい。また、通常、液体吐出ヘッドに使用される吐出素子基板(シリコン基板)の線膨張係数は、0.3×10-5 (1/K)であり、支持部材の線膨張係数をその値に近づけるためには、フィラーの充填量を多くすることが好ましい。
【0045】
そのためにフィラーは粒子径の異なる2種類以上のフィラーを組み合わせることが好ましく、大きな粒子の隙間に小さな粒子を充填させることを繰り返すことにより容易に空隙率を下げることができ、結果として、容易に充填率を高めることができる。例えば、平均粒径30μmの球状フィラーを75〜85質量%と、平均粒径6μmの球状フィラーを15〜25質量%とを組み合わせたフィラーを使用した場合、高密度の充填が容易に可能となる。
【0046】
使用する樹脂材料にもよるが、支持部材中のフィラーの含有量は90質量%以下であることが好ましい。90質量%以下であれば、混練が難しくなることを容易に防ぐことができ、容易にペレット化することができる。
【0047】
また、支持部材中のフィラーの含有量は、70質量%以上85質量%以下であることがより好ましい。この割合で支持部材にフィラーを含有させると、支持部材の線膨張係数が容易に下がり、吐出素子基板との線膨張係数差を容易に小さくできる。さらに、支持部材に、フィラー100質量部に対してPPSを好ましくは3.8質量部以上、より好ましくは5.0質量部以上の割合で使用すると、支持部材の成形時の流動性が非常に良い。
【0048】
続いて、インク供給部材3の形成に用いる樹脂(第1の樹脂)について説明する。
インク供給部材の形成に用いる第1の樹脂としては、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)、PS(ポリスチレン)、HIPS(耐衝撃ポリスチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)を用いることができる。接液性、成形時の寸法安定性、剛性を考慮すると、変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル樹脂)が好ましい。
【0049】
さらに、インク供給部材3が、上記樹脂以外の他の樹脂を含むことも可能であるが、含まない方が好ましい場合がある。たとえば、他の樹脂として使用する樹脂材料が、インク供給部材の細部を精度よく成形する際に困難を生じさせることが想定される場合は、インク供給部材に含まない方が好ましい。
【0050】
本発明では、特にインク供給部材に変性PPEを用い、支持部材にPPSと変性PPEとを含むポリマーアロイ(必要に応じて、球状フィラーやエポキシ化合物を共重合したポリエチレン系共重合体等を含む)を用いて、両方を一体的に成形することが好ましい。これにより、基板を支持する支持部材としての役割を果たし、かつインク供給部材との親和性が高い支持部材を容易に得ることができる。また、親和性よく接合された、この支持部材とインク供給部材との一体成形物を容易に得ることができる。例えば、支持部材は、PPSとPPEと球状フィラーとを含むアロイ材(ポリマーアロイ)の射出成形物であることができる。
【0051】
支持部材に、フィラー100質量部に対して、変性PPEを2質量部以上の割合で使用すると、インク供給部材3との接合性を良くすることができるため好ましい。また、支持部材に用いるPPS、変性PPEの含有の割合の上限は、特に制限されるものではない。但し、支持部材の成形時の流動性、支持部材の線膨張性、インク供給部材3との接合性を満たすためにそれぞれの必要量の下限を凌駕しない割合が好ましい。従って、PPSや変性PPEの含有量は、他の材料とのバランスから、フィラー100質量部に対して、それぞれ40質量部以下であることが好ましい。
【0052】
本発明に用いる支持部材は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず支持部材の材料を混練し、ペレット化する。このとき、支持部材原料がフィラーを75質量%以上含有する場合などは、高温下、強力な剪断力をかけることが可能な混練装置を用いることが好ましい。例えば、混練装置として、オープンロール連続押出機「ニーデックス」(商品名:三井鉱山(株)社製)を用いた場合、支持部材原料をこの装置に供給することで、混練からペレット化まで連続して行なうことができる。次に、ペレットを、成形機を用いて、図8に示すような所定の形状のスライド10を有する金型(キャビティプレート8、コア9)内に流し込み、射出成形により支持部材を作製することができる。このとき、支持部材材料のフィラー含有率が高く、流動性が低い場合は、支持部材材料を高速で流し込むことが可能な高速・高圧対応成形機を用いることができる。通常の成形機では、射出速度が500mm/sec程度であるのに対し、高速・高圧対応成形機では1500〜2000mm/secの射出速度が得られる。成型条件としては、射出速度は1000mm/sec以上、射出圧力は300MPa以上で充填性を高めることがこのましい。
【0053】
また、支持部材とインク供給部材とは、簡便な装置で製作可能なことから、後述するインサート成形により一体化することが好ましい。また、この他にも熱や振動、超音波等を使用した溶着方法により支持部材とインク供給部材とを一体化することができる。
【0054】
次に、図9を用いて、支持部材とインク供給部材の成形による一体化接合について説明する。図9(a)〜(b)は成形手順を示すものであり、まず、図9(a)に示すように支持部材2をインク供給部材3の金型キャビティプレート11内に装着し、固定した状態で、インク供給部材3を形成するための材料を、金型(コア12およびスライド13)を用いて射出成形する。このとき、図9(b)に示すように、インク供給部材3と支持部材2との接合面は融着され、図7に示す接合された支持部材2とインク供給部材3を得ることができる。この成形方法は、一般にインサート成形と呼ばれる一体成形の方法であり、この方法により支持部材2を確実にインク供給部材3と接合することが可能である。
【0055】
上記方法により得られたインク供給部材と一体化した支持部材を、所望の吐出素子基板と接合することにより、インクジェット記録ヘッドを再現性よく、効率的に製造することができる。なお、上記支持部材と、吐出素子基板との接合方法としては、例えば、接着剤を用いた接合方法を用いることができる。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
以下のようにしてインク供給部材と一体化した支持部材を作製した。
【0057】
まず、図3(a)に示す凸部6および3つのインク供給流路(i、iiおよびiii)を有する支持部材を以下のようにして作製した。
支持部材の材料として、PPS(東ソー(株)製、商品名:SUSTEEL B−060P)と、変性PPE(SASIC(株)製、商品名:SE1−X)と、平均粒径が30μmの球状シリカ(商品名「S−430」、マイクロン(株)製)とを用意した。そして、これらの材料を質量比8/2/90(PPS/変性PPE/球状シリカ)の割合で、樹脂温度280〜290℃で混錬を行い、ペレット化した球状フィラーを含むポリマーアロイを得た。
【0058】
このポリマーアロイを用いて、インク供給部材との接合面2bに各インク供給流路の外周を取り囲む図3(a)に示す凸部6を有する支持部材を、以下の条件で成形した。即ち、射出速度1500mm/s、射出圧343MPa、樹脂温度320℃、金型温度100℃、冷却時間60secの条件で射出した。
得られた支持部材の基板との接合面2aにおけるインク供給流路同士の間隔は、いずれも0.5mmであり、インク供給部材との接合面2bにおけるインク供給流路同士の間隔は、いずれも12mmであった。また、接合面2bに形成した凸部の高さhは3mmであり、幅wも3mmであった。
【0059】
次に得られた支持部材をインク供給部材の金型内に予めインサートして、ここに変性PPE(SASIC(株)製、商品名:SE1−X)樹脂を流し込みインサート成形を行った。インク供給部材の成形条件は、射出速度70mm/s、射出圧は65MPa、樹脂温度320℃、金型温度100℃とした。
【0060】
以上により、図6(a)に断面図を示す、支持部材とインク供給部材とが一体化した成形物を得た。この成形物に対し、液密性の試験を後述の方法で行い、評価を行った。
【0061】
また、この成形物に所望の吐出素子基板を接合することにより、インクジェット記録ヘッドを作製することができる。そこで、吐出口と吐出口に連通する流路とを有する流路形成部材が形成されたSi基板を有する吐出素子基板1を用意し、吐出素子基板の吐出口面と反対側のSiの面を支持部材の2a面に対して、接着剤で接着した。以上のようにして記録ヘッドを得た。なお吐出素子基板は幅1.5mm、長さ19.06mm、厚さ0.3mmであった。
【0062】
また、支持部材に接着した吐出素子基板の吐出口が整列する側の面の平面度をレーザー3次元測定機で測定すると20μmであった。なお平面度は、吐出素子基板の表面の高さ測定を行い、最も高い点と最も低い点の差により求められる。
【0063】
さらに反りやゆがみの確認として、この記録ヘッドに対し、100℃で1時間の加熱を行った後、放冷し再度平面度を測定すると20μmのままであり、反りやゆがみのない吐出素子基板を搭載した記録ヘッドを得ることができた。
【0064】
また、支持部材の線膨張係数はJIS K 7197に準じて求めると1.4×10-5 (1/K)であった。
【0065】
(実施例2)
図3(b)に示す凹部7および3つのインク供給流路を有する支持部材を作製した。具体的には、まず、支持部材の材料として、変性PPE(商品名「SE−1X」、SABIC社製)と球状シリカ(商品名「S−430」、マイクロン社製)とを用意した。そして、これらの材料を質量比25/75(変性PPE/球状シリカ)の割合で混練を行いペレット化した。
【0066】
このペレット化した材料を用いて、インク供給部材との接合面2bに各インク供給流路の外周を取り囲む図3(b)に示す凹部7を有する支持部材を、以下の条件で成形した。即ち、射出速度1500mm/s、射出圧340MPa、樹脂温度300℃、金型温度80℃、冷却時間60secの条件で射出した。
得られた支持部材の基板との接合面2aにおけるインク供給流路同士の間隔は、いずれも0.5mmであり、インク供給部材との接合面2bにおけるインク供給流路同士の間隔は、いずれも12mmであった。また、接合面2bに形成した凹部の深さdは1mmであり、幅wも1mmであった。
【0067】
次に得られた支持部材を実施例1と同様の方法でインサート成形を行い、図6(b)に断面図を示す、支持部材とインク供給部材とが一体化した成形物を得た。
【0068】
(実施例3)
図3(d)に示す凸部および3つのインク供給流路を有する支持部材を作製した。まず、支持部材の材料として、PC(ポリカーボネート)(商品名:「ユーピトロン」、三菱エンジニアリングプラスティックス社製)と、球状シリカ(商品名「S−430」、マイクロン社製)とを用意した。そして、これらの材料を質量比25/75(PC/球状シリカ)の割合で混練を行いペレット化した。
【0069】
このペレット化した材料を用いて、インク供給部材との接合面2bに互いに隣り合う2つのインク供給流路の間を遮断する図3(d)に示す凸部を有する支持部材を、以下の条件で成形した。即ち、射出速度1500mm/s、射出圧340MPa、樹脂温度300℃、金型温度100℃、冷却時間60secの条件で射出した。
得られた支持部材の基板との接合面2aにおけるインク供給流路同士の間隔は、いずれも0.5mmであり、インク供給部材との接合面2bにおけるインク供給流路同士の間隔は、いずれも12mmであった。また、接合面2bに形成した凸部の高さhは2mmであり、幅wは2mmであった。
【0070】
次に得られた支持部材を実施例1と同様の方法でインサート成形を行い、支持部材とインク供給部材とが一体化した成形物を得た。
【0071】
(比較例1)
3つのインク供給流路を有し、接合面2bに凹凸形状を有さない支持部材を作製した。なお、3つのインク供給流路の形状は、実施例1と同様にした。
まず、支持部材の材料として、PC(ポリカーボネート)(商品名:「ユーピトロン」、三菱エンジニアリングプラスティックス社製)と球状シリカ(商品名「S−430」、マイクロン社製)とを用意した。そして、これらの材料を質量比25/75(PC/球状シリカ)の割合で混練を行いペレット化した。
【0072】
このペレット化した材料を、射出速度1500mm/s、射出圧340MPa、樹脂温度300℃、金型温度100℃、冷却時間60secの条件で射出し、支持部材を得た。得られた支持部材は、基板との接合面2aにおけるインク供給流路同士の間隔がいずれも0.5mmで、インク供給部材との接合面2bにおけるインク供給流路同士の間隔がいずれも12mmであり、接合面2aおよび2bはいずれも平坦であった。
【0073】
次に得られた支持部材を実施例1と同様の方法でインサート成形を行い、支持部材とインク供給部材とが一体化した成形物を得た。
【0074】
(比較例2)
支持部材の形状において、基板との接合面2aにおけるインク供給流路同士の間隔が、いずれも0.5mmであり、インク供給部材との接合面2bにおけるインク供給流路同士の間隔も、いずれも0.5mmである以外は、実施例2と同様の方法で支持部材とインク供給部材とが一体化した成形物を得た。
【0075】
(水没試験)
実施例1〜3、比較例1および2で作製した支持部材とインク供給部材とが一体化した成形物に対し、液密性の試験を行った。
【0076】
支持部材の吐出基板との接合面2aにおけるインク供給流路5を接着剤で塞ぎ、インク供給部材に空気供給用のチューブを接続した。これを水中に沈めて、インク供給部材に接続したチューブから0.2〜0.5MPaの圧力で空気を送り、30秒間保持した。なお、比較例1および2については、圧力0.2MPaにおいて支持部材とインク供給部材の接合が不十分であったため、圧力0.5MPaでの試験は行わなかった。評価結果を表1および2に示す。
「評価基準」
○:水中で空気の漏れが無く、支持部材とインク供給部材の接合が良好であった。
×:水中で空気の漏れが発生し、支持部材とインク供給部材の接合が不十分であった。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【符号の説明】
【0079】
1 吐出素子基板
2 支持部材
2a 支持部材の吐出素子基板との接合面
2b 支持部材のインク供給部材との接合面
3 インク供給部材
4 接合面2bにおけるインク供給流路
4L 接合面2bにおける互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔
5 接合面2aにおけるインク供給流路
5L 接合面2aにおける互いに隣り合う2つのインク供給流路の間の間隔
6 凸形状遮断壁
7 凹形状遮断溝
8 支持部材用成形金型キャビティプレート
9 支持部材用成形金型コア
10 支持部材用成形金型スライド
11 インク供給部材用成形金型キャビティプレート
12 インク供給部材用成形金型コア
13 インク供給部材用成形金型スライド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するためのエネルギーを発生するエネルギー発生素子を備えた基板を有する吐出素子基板と、液体を前記吐出素子基板へ供給する液体供給部材と、前記吐出素子基板と前記液体供給部材との間に設けられた支持部材とを有する液体吐出ヘッドであって、
前記支持部材が、前記支持部材を貫通する貫通孔である液体供給流路を少なくとも2つ以上有し、かつ前記液体供給部材との接合面に凸部または凹部を有し、
前記支持部材の液体供給部材との接合面における互いに隣り合う2つの液体供給流路の間の間隔が、前記支持部材の吐出素子基板との接合面における互いに隣り合う2つの液体供給流路の間の間隔よりも大きく、
前記支持部材が、一体化成形により液体供給部材と接合されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記支持部材の凸部または凹部が、各液体供給流路を取り囲むように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記支持部材が凸部を有する場合、前記凸部の高さおよび幅がいずれも1mm以上3mm以下であり、
前記支持部材が凹部を有する場合、前記凹部の深さおよび幅がいずれも1mm以上3mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記支持部材が、球状フィラーと、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)と、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)とを含むアロイ材の射出成形物であり、
前記支持部材と前記液体供給部材とが、インサート成形により一体化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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