説明

液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】 線膨張形成数の違いから発生した反りによる応力に基づいたヘッド本体を構成
する積層基板の剥離を抑制した液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装
置を提供する。
【解決手段】 液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズル開口が形成されたノズルプレー
トと、ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、圧力発生室に圧力
を付与し、ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを含むヘッド本体20と、ヘ
ッド本体が固定される固定板70と、を含み、固定板には、ノズル開口が露出される露出
部開口71と、露出部開口の周囲の少なくとも一部に形成された貫通孔72、73とが設
けられている。液体噴射ヘッドユニット1及び液体噴射装置Iは、これを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電素子、あるいは発熱素子等の圧力発生手段によって液体に圧力を付与す
ることで、ノズルから液滴を噴射する液体噴射ヘッドが知られており、その代表例として
は、インク滴を噴射するインクジェット式記録ヘッドが挙げられる。
【0003】
インクジェット式記録ヘッド(ユニット)としては、例えば、インク滴を噴射するノズ
ル開口が穿設されたノズルプレートと、ノズル開口に連通する圧力発生室や複数の圧力発
生室が連通するリザーバー(連通部)等の流路が形成された流路形成基板と、を有するヘ
ッド本体を複数備え、これら複数のヘッド本体のノズルプレートをそれぞれ固定板に位置
決めした後に、ヘッド本体を固定板に接着剤で固定されたものがある(例えば、特許文献
1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−096419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このように固定板にヘッド本体を固定した場合に、ヘッド本体に設けら
れたノズルプレートが剥離してしまうことがある。これは、ヘッド本体が、流路形成基板
等の複数の基板を接着剤を用いて固定したものであるが、これらの基板がそれぞれ異なる
材料で構成されているためである。つまり、それぞれの基板が異なる線膨張係数を有して
いるため、環境温度が高温である場合に、ヘッド本体の長手方向において反りが発生して
応力が発生すると接着剤で積層された基板間で剥離が生じることが考えられる。
【0006】
そこで、本発明の課題は、上記した従来技術の問題点を解決することにあり、ヘッド本
体を構成する基板間の剥離を抑制した液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体
噴射装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズル開口が形成されたノズルプレートと
、前記ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記圧力発生室に
圧力を付与し、前記ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを含むヘッド本体と
、該ヘッド本体が固定される固定板と、を含み、該固定板には、前記ノズル開口が露出さ
れる露出部開口と、該露出部開口の周囲の少なくとも一部に形成された貫通孔とが設けら
れていることを特徴とする。
本発明の液体噴射ヘッドにおいては、固定板に露出部以外に貫通孔が設けられているの
で、ノズルプレート、流路形成基板等の積層基板での線膨張係数の違いによる長手方向の
反りが発生したとしても、その応力を緩和することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施形態としては、前記貫通孔が、前記露出部開口の周縁部の少なく
とも一部に設けられている第1貫通孔であることか、前記貫通孔が、前記露出部開口の外
周側の少なくとも一部に前記露出部開口とは不連続となるように設けられている第2貫通
孔であることが挙げられる。
【0009】
前記ヘッド本体は、圧力発生室に液体流路を介して連通し、液体を貯留する液体貯留部
と、該液体貯留部を封止する封止板とを備え、該封止板には、該封止板の長手方向に沿っ
て設けられた凹部と、該凹部の縁部から該凹部に向かってせり出して延設され、前記液体
貯留部に液体を導入するための液体導入口が形成された延設部とが設けられ、前記貫通孔
は、少なくともその一部が上面視において前記ヘッド本体の短手方向で該延設部と相対向
するように前記固定板に形成されていることが好ましい。
【0010】
延設部が設けられた領域は、封止板の長手方向において剛性が高いので、この剛性が高
い領域と上面視において前記ヘッド本体の短手方向で相対向するように貫通孔が設けられ
ていることで、ヘッド全体の剛性が均一化される。
【0011】
本発明の液体噴射ヘッドユニットは、前記いずれかに記載の前記液体噴射ヘッドを複数
有することを特徴とする。本発明の液体噴射ヘッドユニットは、線膨張形成数の違いから
発生した反りによる応力に基づいたヘッド本体を構成する積層基板の剥離を抑制した液体
噴射ヘッドを有していることで、液体噴射特性が優れている。
【0012】
本発明の液体噴射装置は、前記いずれかに記載の前記液体噴射ヘッドを有することを特
徴とする。本発明の液体噴射装置は、線膨張形成数の違いから発生した反りによる応力に
基づいたヘッド本体を構成する積層基板の剥離を抑制した液体噴射ヘッドを有しているこ
とで、液体噴射特性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの組立斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る固定板の上面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る固定板の一部拡大断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドの上面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る液体噴射装置である。
【図9】本発明の一実施形態に係る固定板の要部拡大図である。
【図10】本発明の別の実施形態に係る記録ヘッドの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドユニットの一例であるインクジェット
式記録ヘッドユニット(以下、単にヘッドユニットとも言う)について説明する。なお、
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドユニットの分解斜視図で
ある。
【0015】
図1に示すように、インクジェット式記録ヘッドユニット1は、液体噴射ヘッドの一例
である複数(本実施例では、例として4個)のインクジェット式記録ヘッド10(以下、
単に「記録ヘッド」という)と、保持部材60とを備える。記録ヘッド10は、インクジ
ェット式記録ヘッド本体20(以下、単に「記録ヘッド本体」という)と、各記録ヘッド
本体20がそれぞれ位置決めされた後で、接着剤で固定される固定板70とで構成されて
いる。
【0016】
保持部材60は、例えば、樹脂材料で形成され、その内部に回路基板やインク連通路が
形成された流路部材を備えている。保持部材60の上面(記録ヘッド本体20とは逆側の
面)にはインク供給針61(本実施例では、例として8個)が固定されている。このイン
ク供給針61は、各色のインクが貯留されたインクカートリッジ(図示なし)に接続され
たチューブに接合される。このインク供給針61には、インク連通路の一端が連通してい
る。インク連通路の他端は記録ヘッド本体20側(保持部材60の底面側)に開口してい
る。即ち、インクはインクカートリッジからインク供給針61を介してこのインク連通路
に供給され、供給されたインクは、詳しくは後述するようにインク導入路を介して記録ヘ
ッド本体20にそれぞれ供給される。
【0017】
保持部材60の底面には、所定間隔で位置決めされた複数の記録ヘッド本体20が固定
される。各記録ヘッド本体20は各色のインクに対応してそれぞれ設けられている。
【0018】
この場合に、記録ヘッド10は、記録ヘッドの長手方向である第1方向に向かって千鳥
状に配置されることで、第1方向に同一ピッチで長尺化したノズル列を形成することがで
きる。なお、ここで言う記録ヘッド10が千鳥状に配置されているとは、複数の記録ヘッ
ド10が後述するノズル開口26(図2参照)の並設方向でもある第1方向に向かって並
設されており、第1方向に並設された複数(2つ)の記録ヘッド10で構成される列は、
ノズル開口が並設された方向(第1方向)とは交差する第2方向に並んで2列設けられて
いる。これら第2方向に並設された記録ヘッド10の2列は、互いに第1方向に向かって
若干ずらした位置に配置されている。そして、2列の記録ヘッド10の列において、隣り
合う記録ヘッド10は、一方の列の記録ヘッド10のノズル列の端部側のノズル開口と、
他方の列の記録ヘッド10のノズル列の端部側のノズル開口とが、ノズル開口の第1方向
で同一位置となるように設けられている。これにより、複数の記録ヘッド10(本実施形
態では、4つの記録ヘッド10)によって、第1方向に沿って同一ピッチでノズル開口を
4つの記録ヘッド10の分だけ並設してノズル列を連続させることができ、連続するノズ
ル列の幅で広い面積に亘って印刷を行うことができる。
【0019】
以下、記録ヘッド10の構成の一例について、図2及び図3を参照して説明する。なお
、図2は、本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図であり、図3は、記録ヘッ
ドの圧力発生室の長手方向中央における断面図である。
【0020】
図2及び図3に示すように、記録ヘッド本体20を構成する流路形成基板21には、複
数の圧力発生室22がその幅方向に並設された列が2列設けられている。また、各列の圧
力発生室22の長手方向外側の領域には連通部23が形成され、連通部23と各圧力発生
室22とが、圧力発生室22毎に設けられたインク供給路24及び連通路25を介して連
通されている。
【0021】
流路形成基板21の一方の面には、各圧力発生室22のインク供給路24とは反対側の
端部近傍に連通するノズル開口26が穿設されたノズルプレート27が接合されている。
ノズル開口26は、列設されている。このノズル開口26が列設されてなるノズル列の長
手方向が、本実施形態における第1方向である。
【0022】
他方、流路形成基板21のノズルプレート27とは反対側の面には、弾性膜28及び絶
縁体膜29を介して圧電素子30が形成されている。圧電素子30は、第1電極31と、
圧電体層32と、第2電極33とで構成されている。各圧電素子30を構成する第2電極
33には、絶縁体膜29上まで延設されたリード電極34が接続されている。リード電極
34は、一端部が第2電極33に接続されていると共に、他端部側が、フレキシブル配線
部材(COF基板)であり圧電素子30を駆動するための駆動IC35aが実装された駆
動配線35と接続されている。このように駆動配線35の一端側にはリード電極34が接
続され、駆動配線35の他端側はカートリッジケース内に設けられた図示しない回路基板
に固定されている。
【0023】
このような圧電素子30が形成された流路形成基板21上には、圧電素子30に対向す
る領域に、圧電素子30を保護するための空間である圧電素子保持部36を備えた保護基
板37が接着剤38によって接合されている。また、保護基板37には、マニホールド部
39が設けられている。このマニホールド部39は、本実施形態では、流路形成基板21
の連通部23と連通されて各圧力発生室22の共通のインク室となるマニホールド(液体
貯留部)40を構成している。
【0024】
また、保護基板37には、保護基板37を厚さ方向に貫通する貫通孔41が設けられて
いる。貫通孔41は、本実施形態では、2つの圧電素子保持部36の間に設けられている
。そして、各圧電素子30から引き出されたリード電極34の端部近傍は、貫通孔41内
に露出するように設けられている。
【0025】
さらに保護基板37上には、封止膜44及び封止膜44を補強する補強板45とからな
るコンプライアンス基板(封止基板)46が接合されている。ここで、封止膜44は、剛
性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜44によってマニホールド部39の一
方面が封止されている。このように封止膜44でマニホールド部39の一方面を封止する
ことで、例えば、マニホールド40よりも上流側にあるインクがマニホールド40内に流
入した際に発生する圧力を封止膜44が吸収でき、ノズル開口26からインクが誤って吐
出されてしまうことを防止することができる。また、補強板45は、金属等の硬質の材料
で形成されている。この補強板45のマニホールド40に対向する領域は、厚さ方向に完
全に除去された開口部47となっているため、マニホールド40の一方面は可撓性を有す
る封止膜44のみで封止されている。即ち、コンプライアンス基板46は、この開口部4
7が凹部となるように構成されている。
【0026】
開口部47の長手方向の中央部には、開口部47にせり出すように開口部47の縁部か
ら延設された延設部47aが設けられている。延設部47aには、マニホールド40内に
マニホールド40よりも上流側から流れてくるインクを導入するためのインレットとなる
インク導入口48が設けられている。即ち、封止膜44が剛性を有していないためにイン
ク導入口48を形成することができないので、補強板45に延設部47aを設け、この延
設部47aにインク導入口48を設けている。このように開口部47の幅が延設部47a
により狭まることでコンプライアンス基板46の長手方向の剛性はこの延設部47aが設
けられた近辺で高くなる。従って、記録ヘッド本体20の長手方向において、インク導入
口48の周囲は開口部47の他の部分に比べて剛性が高くなっている箇所が存在する。
【0027】
コンプライアンス基板46上には、ヘッドケース49が固定されている。ヘッドケース
49には、インク導入口48に連通し、カートリッジ等の貯留手段からのインクをマニホ
ールド40に供給するインク導入路50が設けられている。さらに、ヘッドケース49に
は、保護基板37に設けられた貫通孔41と連通する配線部材を保持する保持孔51が設
けられており、駆動配線35は保持孔51内に挿通された状態でその一端側がリード電極
34と接続されている。
【0028】
また、ノズルプレート27の圧力発生室22とは逆側の面には、図示しない接着層で接
着された固定板70が設けられている。この固定板70の底面は、記録ヘッド本体20の
底面となるノズルプレート27の外形よりも大きい矩形状となるように構成されており、
この固定板70の上面と記録ヘッド本体20の外周縁部とで構成された角部には、モール
ド部材52(図3参照)が設けられている。このモールド部材52は、本実施形態ではノ
ズルプレート27と流路形成基板21との接合面より上側に亘って設けられており、これ
によりインクが接着層を通ってノズルプレート27と流路形成基板21との間に回りこむ
ことを防止している。
【0029】
固定板70の底面には、ノズル開口26が露出するように矩形状の露出部開口71が形
成されている。固定板70の縁部は、記録ヘッド本体20側に屈曲し立ち上がって壁状と
なっている。即ち、この固定板70は、側壁部を有する箱状形状を有している。
【0030】
この固定板70の側壁部は、記録ヘッド本体20のノズルプレート27近辺の外周側を
覆っている。記録ヘッド本体20の底面側の角部がそのまま露出していると例えば紙送り
の際に紙が引っ掛かったり、また、その流路が形成された積層部分に異物が侵入してしま
う等の問題が発生しやすいが、このように記録ヘッド本体20の底面側の角部を固定板7
0が保護していることで、これらの問題を抑制することができる。
【0031】
なお、本実施形態では、固定板70の側壁部は固定板70の底面と一体であるものを説
明しているが、必ずしも一体にする必要はない。底面部分となる平板部と、記録ヘッド本
体20の側面を覆うように配置された側壁部とを別体としてもよい。この場合に、固定板
70のノズルプレート27と接する部分が平板部となり、側壁部は、記録ヘッド本体20
の側壁に接着剤で固定されていてもよく、又は、保持部材60と一体的に構成されていて
もよい。
【0032】
固定板70について、図4も用いて詳細に説明する。
本実施形態において、固定板70の底面には、矩形状の露出部開口71と、露出部開口
71の周縁部の一部に、一対の第1スリット(第1貫通孔)72が形成されている。
【0033】
第1スリット72は、露出部開口71の周縁部における長手方向の中央部に、露出部開
口71の周縁部に連続するように形成されている。この第1スリット72は露出部開口7
1を挟んで互いに対向して設けられている。第1スリット72は、矩形状である。この第
1スリット72及び露出部開口71の外周側に亘って、記録ヘッド本体20を固定板70
に接着するために接着剤が塗布される第1の領域74aが設けられている。この第1の領
域74aは、記録ヘッド本体20の底面を構成するノズルプレート27よりもやや小さい

【0034】
また、この第1の領域74aよりも固定板70における外周側には、モールド部材52
(図3参照)が塗布される第2の領域74bが形成されている。この第2の領域74bは
、第1の領域74aよりも幅が広く、ノズルプレート27を固定板70に接着する際に、
第2の領域74bのうち、内周側はノズルプレート27がその上面に接着される。そして
、第2の領域74bの残部である外周側はノズルプレート27が内周側に接着されると、
この外周側に塗布されていたモールド部材52が盛り上がり(図3参照)、ノズルプレー
ト27と流路形成基板21との接合面より上側に亘って設けることができ、これにより上
述したようにインクが接着層を通ってノズルプレート27と流路形成基板21との間に回
りこむことを防止できる。第2の領域74bよりも固定板70における外周側に、第1ス
リット72と対向して第2スリット(第2貫通孔)73が設けられている。即ち、第2ス
リット73は、第1スリット72及び露出部開口71とは不連続で設けられている。また
、第2スリット73の周縁は、すべて固定板70の底面部で規定されていることになる。
【0035】
第2スリット73は、矩形状の開口である。このように第2スリット73を第1の領域
74aよりも固定板70の外周側に設けていることで、第1の領域74aを第1スリット
72及び露出部開口71の外周に亘って確保することができ、固定板70に記録ヘッド本
体20を所望の接着強度で固定することができる。また、第2スリット73が第1の領域
74aの固定板70の外周側に設けられていることで、固定板70に記録ヘッド本体20
を固定した場合に接着剤が第2スリット73から固定板70の外部(印刷媒体側)にはみ
出ることを防止することができる。
【0036】
これらの第1スリット72及び第2スリット73が固定板70に設けられていることで
、図5に示すように、記録ヘッド10の長手方向で発生する応力を抑制することができる
。即ち、第1スリット及び第2スリットを設けない場合、図5(1)に示すように、記録
ヘッド本体20のノズルプレートや流路形成基板等の積層基板の線膨張係数の違いにより
例えば、環境が高温である時に記録ヘッド本体20にその長手方向において反りが発生し
た場合に、記録ヘッド本体20に固定された固定板70がこの反りに追随してその長手方
向において湾曲する。この場合に、固定板70が元の方向に戻ろうとして固定板70の湾
曲方向とは逆方向に応力が発生するが、特に記録ヘッド本体20の長手方向の端部側にお
いて大きな応力(図中矢印A)が発生する。この応力により、固定板70に接着されたノ
ズルプレート27にも応力が作用し、この応力によりノズルプレート27の記録ヘッド本
体20から剥離や固定板70からの剥離が生じてしまう。
【0037】
しかしながら、本実施形態においては、図5(2)に示すように、高温時に記録ヘッド
10にその長手方向において反りが発生した場合に、記録ヘッド本体20に固定された固
定板70も追随してその長手方向において湾曲しているが、第1スリット72及び第2ス
リット73が形成されていることで、固定板70の長手方向の端部における固定板70の
湾曲方向とは反対側に発生した応力(図中矢印B)は図5(1)に比較して小さなものと
なる。従って、本実施形態では、このような基板間で発生した応力によるノズルプレート
27の剥離を抑制することができる。
【0038】
なお、このように流路形成基板21やノズルプレート27にこのように応力を緩和する
ための開口を設けることも考えられるが、これらの基板にスリットを設ける余裕がないこ
とや、流路形成基板21やノズルプレート27自体の剛性を低下させてしまい、耐久性が
低くなってしまうことが考えられるため、本実施形態のように固定板70に第1スリット
72及び第2スリット73を設けることが好ましい。
【0039】
このように本実施形態においては、第1スリット72及び第2スリット73を設けるこ
とで、記録ヘッド10の長手方向での反りによる応力を軽減し、ノズルプレート27の剥
離を抑制することができる。
【0040】
また、この場合に、モールド部材が塗布される第2の領域74bよりも固定板70にお
ける外周側に第2スリット73が設けられていることで、上述のように図6に示すように
仮に第2スリット73からモールド部材52がインク吐出面側にはみでたとしても、第2
スリット73と第1スリット72とは連続していないので、モールド部材52が露出部開
口71に流出することがない。その結果、ノズル開口26にモールド部材52が到達する
ことがなく、吐出を妨げることはない。かつ、このようにモールド部材52が第2スリッ
ト73から露出することで、モールド部材52によるモールドが広範囲に亘って確実に行
われていると共に第2の領域74bの内周側の領域におけるモールド部材52による接着
もより確実に行われていることを記録ヘッド10の吐出面側から視覚的に確認することが
できる。また、このように第2スリット73をモールド部材52で埋設する場合には、記
録ヘッド10の吐出面側での記録媒体(紙面)の第2スリット73での引っかかりを抑制
することができる。
【0041】
これらの第1スリット72及び第2スリット73の形成位置について、さらに図7を用
いて説明する。
【0042】
図7に示すように記録ヘッド10の上面視において、第1スリット72及び第2スリッ
ト73は、固定板70の長手方向における所定位置、つまり、インク導入口48が形成さ
れている延設部47aが形成されている位置に設けられている。
【0043】
上述したように、インク導入口48を形成するために設けた延設部47a付近は開口部
47の幅が狭いために記録ヘッド本体20の長手方向において剛性が高い。このように記
録ヘッド本体20の長手方向における剛性の高い領域R、即ち延設部47aの幅に一致し
て、記録ヘッド本体20の幅方向に延びる領域R内に全て重なるように固定板70に第1
スリット72及び第2スリット73を設けることで、記録ヘッド10全体の長手方向にお
ける剛性を均一化することができる。即ち、固定板70は、第1スリット72及び第2ス
リット73を設けることで上面視において領域Rでその長手方向における剛性が下がるが
、記録ヘッド本体20の剛性は上面視においてこの領域Rでその長手方向における剛性が
上がっている。従って、記録ヘッド本体20と固定板70とからなる記録ヘッド10全体
としては、その長手方向における剛性が均一化される。
【0044】
このように、上面視においてこの延設部47aが形成されている領域Rに記録ヘッド本
体20の幅方向において相対向する第1スリット72及び第2スリット73を設けること
により剛性が低下する虞もなく、むしろ第1スリット72及び第2スリット73を設けて
剛性を均一化することで、応力が集中することも抑制されているのである。
【0045】
このような記録ヘッド10を有するヘッドユニット1は、図8に示すように、複数個が
固定部材に固定されて(本実施形態では例として4個)液体噴射ヘッドモジュールの一例
であるインクジェット式記録ヘッドモジュール200を構成する。このようなヘッドモジ
ュール200は、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置に搭載される。こ
こで、本実施形態のインクジェット式記録装置について説明する。なお、図8は、本発明
の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置を示す概略斜視
図である。
【0046】
図8に示すように、本実施形態のインクジェット式記録装置は、ヘッドモジュール20
0が固定されて、被噴射媒体である紙などの記録シートSを搬送することで印刷を行う、
所謂ライン式記録装置である。
【0047】
具体的には、インクジェット式記録装置Iは、装置本体2と、装置本体2に固定された
ヘッドモジュール200と、被記録媒体である記録シートSを搬送する搬送手段3と、記
録シートSのヘッドモジュール200に相対向する印刷面とは反対の裏面側を支持するプ
ラテン4とを具備する。
【0048】
ヘッドモジュール200は、記録ヘッド本体20のノズル開口26の並設方向である第
1方向が記録シートSの搬送方向と交差する方向となるように装置本体2に固定されてい
る。
【0049】
搬送手段3は、ヘッドモジュール200に対して記録シートSの搬送方向の両側に設け
られた第1の搬送手段5と、第2の搬送手段6とを具備する。
【0050】
第1の搬送手段5は、駆動ローラー5aと、従動ローラー5bと、これら駆動ローラー
5a及び従動ローラー5bに巻回された搬送ベルト5cとで構成されている。また、第2
の搬送手段6は、第1の搬送手段5と同様に駆動ローラー6a、従動ローラー6b及び搬
送ベルト6cで構成されている。
【0051】
これらの第1の搬送手段5及び第2の搬送手段6のそれぞれの駆動ローラー5a、6a
には、図示しない駆動モーター等の駆動手段が接続されており、駆動手段の駆動力によっ
て搬送ベルト5c、6cが回転駆動することで、記録シートSをヘッドモジュール200
の上流及び下流側で搬送する。
【0052】
なお、本実施形態では、駆動ローラー5a、6a、従動ローラー5b、6b及び搬送ベ
ルト5c、6cで構成される第1の搬送手段5及び第2の搬送手段6を例示したが、記録
シートSを搬送ベルト5c、6c上に保持させる保持手段をさらに設けてもよい。保持手
段としては、例えば、記録シートSの外周面を帯電させる帯電手段を設け、この帯電手段
によって帯電した記録シートSを誘電分極の作用により搬送ベルト5c、6c上に吸着さ
せるようにしてもよい。また、保持手段として、搬送ベルト5c、6c上に押えローラー
を設け、押えローラーと搬送ベルト5c、6cとの間で記録シートSを挟持させるように
してもよい。
【0053】
プラテン4は、第1の搬送手段5と第2の搬送手段6との間に、ヘッドモジュール20
0に相対向して設けられた断面が矩形状を有する金属又は樹脂等からなる。プラテン4は
、第1の搬送手段5及び第2の搬送手段6によって搬送された記録シートSを、ヘッドモ
ジュール200に相対向する位置で支持する。
【0054】
なお、プラテン4には、搬送された記録シートSをプラテン4上で吸着する吸着手段が
設けられていてもよい。吸着手段としては、例えば、記録シートSを吸引することで吸引
吸着するものや、静電気力で記録シートSを静電吸着するもの等が挙げられる。
【0055】
また、ヘッドモジュール200には、図示していないが、インクが貯留されたインクタ
ンクやインクカートリッジなどのインク貯留手段がインクを供給可能に接続されている。
インク貯留手段は、例えば、ヘッドモジュール200上に保持されていても、また、装置
本体2内のヘッドモジュール200とは異なる位置に保持されてチューブ等を介して各ヘ
ッドユニット1のインク供給針61に接続されていてもよい。さらに、ヘッドモジュール
200の各ヘッドユニット1には、図示しない外部配線が接続されている。
【0056】
このようなインクジェット式記録装置Iでは、搬送手段5によって記録シートSが搬送
され、ヘッドモジュール200によってプラテン4上で支持された記録シートSに印刷が
実行される。印刷された記録シートSは、搬送手段3によって搬送される。
【0057】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限
定されるものではない。
【0058】
上述した実施形態では、スリットとしては第1スリット72及び第2スリット73をそ
れぞれ設けたが、これに限定されない。例えば、第1スリット72のみ、第2スリット7
3のみでもよい。また、スリットを左右非対称となるように設けても良い。
【0059】
実施形態では、延設部47aの幅方向における領域R内が記録ヘッド本体20の長手方
向における剛性の高い領域であるので、この領域R内に第1スリット72及び第2スリッ
ト73が収まるように設けているが、これに限定されない。図9に示すように、少なくと
もこの領域R内に第1スリット72及び第2スリット73の一部が重なるように設けられ
ていても、各記録ヘッド10の長手方向における応力を軽減させると共に、各記録ヘッド
10の長手方向における剛性分布を略均一にすることができる。また、本実施形態に示す
ように、第1スリット72の形状と第2スリット73の形状とを異なる形状としてもよい

【0060】
また、本実施形態では、インク導入路50及びインク導入口48が記録ヘッド本体20
の中央部に形成されていたために、延設部47aも記録ヘッド本体20の中央部に位置す
るように設けたが、これに限定されない。例えば、図10に示すように、インク導入路5
0及びインク導入口48が4つ、それぞれ上面視において記録ヘッド本体20にそれぞれ
ヘッドケース49の長手方向における端部側に設けられている場合には、この形成位置に
合わせて延設部47bが固定板70の長手方向の端部側にそれぞれ設けられている。なお
、図10に示す実施形態においては、露出部開口71は本実施形態におけるものよりも小
さい。
【0061】
従って、この図10に示す場合には、これらの延設部47bの形成位置に対向するよう
に第1スリット72A及び第2スリット73Aを設けている。このように固定板70の長
手方向に複数の第1スリット72A及び第2スリット73Aを設けることで、より固定板
70の長手方向における応力を軽減させると共に、各記録ヘッド10の長手方向における
剛性分布を略均一にすることができる。
【0062】
本実施形態では、各記録ヘッド本体20に対して一つの固定板70を設けたが、これに
限定されない。複数の記録ヘッド本体20を一つの固定板70に固定し、固定板70に各
記録ヘッド本体20に対応した複数の露出部開口71を設けるように構成してもよい。こ
の場合においても、各記録ヘッド本体20の長手方向における反りによる応力を抑制する
ように第1スリット72及び第2スリット73が形成されていればよい。即ち、各露出部
開口71には、露出部開口71の周縁部の少なくとも一部に第1スリット72が一対設け
られていると共に、第2スリット73が、各記録ヘッド本体20のモールド部材塗布領域
74bよりも外側の少なくとも一部に露出部開口71とは不連続となるように設けられて
いればよい。
【0063】
また、本実施形態では第1スリット72及び第2スリット73の形状はそれぞれ矩形状
であるとしたが、これに限定されない。第1スリット72及び第2スリット73の角部が
R形状となっていてもよい。このように角部を鋭角とせずにR形状とすることで、固定板
70の表面を拭き取るワイピング時にワイピング手段の引っ掛かりを防止することができ
る。
【0064】
本実施形態では、インクカートリッジがヘッドモジュールに搭載されないいわゆるオフ
キャリアー型のインクジェット式記録装置を例示したが、これに限定されない。例えば、
インクカートリッジがヘッドモジュールに搭載されたいわゆるオンキャリアー型のインク
ジェット式記録装置としてもよい。
【0065】
また、例えば、上述した実施形態では、圧力発生素子として、薄膜型の圧電素子を例示
したが、圧力発生素子の構成は特に限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の
方法により形成される厚膜型の圧電素子や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させ
て軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子などであってもよい。また、圧力発生素子とし
て、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズ
ルから液滴を噴射するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて静電気力によっ
て振動板を変形させてノズルから液滴を噴射させるいわゆる静電式アクチュエーターなど
を使用することができる。
【0066】
また、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッ
ドを説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドを具備する液体噴射ヘッドモジュール全
般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記
録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、
有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極
材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を有する液体
噴射ヘッドモジュールにも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
I インクジェット式記録装置、 1 ヘッドユニット、 10 インクジェット式記
録ヘッド、 20 記録ヘッド本体、 21 流路形成基板、 22 圧力発生室、 2
6 ノズル開口、 27 ノズルプレート、 30 圧電素子、 39 マニホールド部
、 40 マニホールド、 41 貫通孔、 44 封止膜、 45 補強板、 46
コンプライアンス基板、 47 開口部、 47a、47b 延設部、 48 インク導
入口、 49 ヘッドケース、 50 インク導入路、 60 保持部材、 70 固定
板、 71 露出部開口、 72、72A 第1スリット、 73、73A 第2スリッ
ト、 74a 接着剤塗布領域、 74b モールド部材塗布領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口が形成されたノズルプレートと、
前記ノズル開口に連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記圧力発生室に
圧力を付与し、前記ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを含むヘッド本体と

該ヘッド本体が固定される固定板と、を含み、
該固定板には、前記ノズル開口が露出される露出部開口と、該露出部開口の周囲の少な
くとも一部に形成された貫通孔とが設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記貫通孔が、前記露出部開口の周縁部の少なくとも一部に設けられている第1貫通孔
であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記貫通孔が、前記露出部開口の外周側の少なくとも一部に前記露出部開口とは不連続
となるように設けられている第2貫通孔であることを特徴とする請求項1又は2記載の液
体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記ヘッド本体は、
圧力発生室に液体流路を介して連通し、液体を貯留する液体貯留部と、
該液体貯留部を封止する封止板とを備え、
該封止板には、該封止板の長手方向に沿って設けられた凹部と、
該凹部の縁部から該凹部に向かってせり出して延設され、前記液体貯留部に液体を導入
するための液体導入口が形成された延設部とが設けられ、
前記貫通孔は、少なくともその一部が上面視において前記ヘッド本体の短手方向で該延
設部と相対向するように前記固定板に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のい
ずれかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記液体噴射ヘッドを複数有することを特徴とす
る液体噴射ヘッドユニット。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記液体噴射ヘッドを有することを特徴とする液
体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−116031(P2012−116031A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266218(P2010−266218)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】