説明

液体噴射装置、印刷装置、及び医療機器

【課題】容量性負荷の駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避する。
【解決手段】液体噴射装置は、液体室の容積を変更することによって、液体室に流入された液体をノズルより噴射する液体噴射装置であって、容量性負荷駆動回路200は、駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、変調信号を電力増幅してパルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって駆動信号を生成する平滑フィルター250と、平滑フィルター250と容量性負荷116とを接続し、平滑フィルター250と容量性負荷116との少なくとも一方を取替え可能に設けられた配線ケーブル150と、を備え、配線ケーブル150にはコンデンサーCasが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子などの容量性負荷に駆動信号を用いて駆動する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに搭載されている噴射ヘッドのように、圧電素子などの容量性負荷によって構成されて、駆動信号が印加されることによって動作するアクチュエーターは数多く存在する。この駆動信号を、アナログ増幅回路を用いて生成しようとすると、アナログ増幅回路内を大きな電流が流れるために大きな電力が消費される。その結果、電力効率が低下するだけでなく、回路基板が大きくなり、更には、消費された電力が熱に変わるので大きな放熱板が必要になって、ますます基板が大型化する。
【0003】
そこで、アナログの駆動信号を直接増幅するのではなく、駆動信号の基準となる駆動波形信号をパルス変調して変調信号に一旦変換し、得られた変調信号を増幅した後に平滑フィルターを通すことによって、増幅された駆動信号を得るようにした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。変調信号の増幅は、スイッチのON/OFFを切り換えるだけで実現することが可能である。更に、平滑フィルターは、コイルとコンデンサーとを組み合わせたLC回路を用いて実現できるので、原理的には電力を消費することがない。このため提案の技術によれば、大きな電力を消費することなく駆動信号を生成することが可能であり、回路基板を小型化することが可能である。
【0004】
この提案の技術は、LC回路で平滑フィルターを構成しているため、LC回路の共振周波数でゲインにピークが現れる。通常は、電気負荷が有する抵抗値によって、あるいは別途にダンピング抵抗を挿入することによって出力ピークを抑制するが、この方法では抵抗によって電力消費が発生する。そこで、出力段からのフィードバックを行って、出力ピークを抑制することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。また、平滑フィルターを通った信号は位相が最大で180度まで遅れるので、出力段の信号でそのままフィードバックをかけると出力が発振する恐れがある。そこで、出力段の信号に位相進み補償をかけてからフィードバックすることが行われる。
【0005】
また、出力段からの信号をフィードバックする際に、平滑フィルターから容量性負荷までの配線が有する抵抗の影響で駆動回路の動作が不安定になることを抑制するために、配線抵抗を考慮してフィードバックをかける技術(例えば、特許文献3参照)や、消費電力を抑制する目的で、パルス変調する際のキャリア周波数を駆動信号の波形に応じて切り換える技術(例えば、特許文献4参照)なども提案されている。
【0006】
更に、流体をパルス状に噴射して対象物の切断又は切除等を行う技術が知られている。例えば、医療分野では、生体組織を切開又は切除する手術具としての流体噴射装置として、容積変更手段の駆動によって容積が変化される流体室と、この流体室に連通されたノズルとを備え、流体室に流体を供給すると共に容積変更手段を駆動することによって、流体を脈流に変換してノズルから流体をパルス状に高速噴射させるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−168172号公報
【特許文献2】特開2009−153272号公報
【特許文献3】特開2005−329710号公報
【特許文献4】特開2007−190708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した特許文献1〜特許文献4を初めとする従来の技術では、平滑フィルターで除去している筈のキャリア周波数のリップル(キャリアリップル)が駆動信号に重畳する場合があるという問題があった。そのため、容量性負荷であるアクチュエーターを適切に駆動できなくなり、特に医療分野においては切開の深さや方向の調節が非常に要求されるため、キャリア周波数の微小なリップル(キャリアリップル)が駆動信号に重畳することも許されない。
【0009】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、平滑フィルター後の駆動信号にキャリア周波数のリップルが重畳することを回避可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0011】
[適用例1]本適用例に係る液体噴射装置は、ノズルと、前記ノズルに接続され容積が変更可能な液体室と、前記ノズルと前記液体室とを連通する液体通路管と、を有する噴射ユニットと、駆動信号が容量性負荷に印加されることによって、前記容量性負荷が伸張して前記液体室の容積を変更する容量性負荷と、前記容量性負荷に前記駆動信号を印加することによって、前記容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路と、を備え、前記液体室の容積を変更することによって、前記液体室に流入された液体を前記ノズルより噴射する液体噴射装置であって、前記容量性負荷駆動回路は、前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、前記変調信号を電力増幅してパルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する平滑フィルターと、前記平滑フィルターと前記容量性負荷とを接続し、前記平滑フィルターと前記容量性負荷との少なくとも一方を取替え可能に設けられた配線ケーブルと、を備え、前記配線ケーブルにはコンデンサーが設けられている。
【0012】
本適用例によれば、容量性負荷に印加すべき駆動信号の基準となる駆動波形信号を、パルス変調することによって変調信号を生成し、得られた変調信号を電力増幅した後に平滑化することによって、駆動信号を生成する。こうして容量性負荷に印加された駆動信号に対して位相進み補償を行って帰還信号を生成し、駆動波形信号に負帰還させる。平滑フィルターから出力された駆動信号は、配線ケーブルを経由して容量性負荷に印加される。ここで配線ケーブルには、駆動信号のキャリアリップルの振幅を所定値以下に抑制するための補助コンデンサーが設けられている。
【0013】
こうすれば、駆動信号の基準となる駆動波形信号に対して、容量性負荷に印加された駆動信号を負帰還させるので、平滑フィルターの共振の影響で駆動信号が歪んでしまうことを抑制することができる。また、駆動信号を負帰還させるに際しては、位相を進ませる補償(位相進み補償)を行ってから負帰還させているので、平滑フィルターによって位相が遅れた駆動信号を負帰還させることによって駆動信号の出力が不安定になってしまうこともない。更に、詳細には後述するが、平滑フィルターを通過した後の駆動信号にキャリアリップルが重畳する現象は、配線ケーブルが有するインダクタンス成分と容量性負荷との間の共振周波数がキャリア周波数に接近(あるいは一致)することに起因する。したがって、配線ケーブルに補助コンデンサーを設ければ、配線ケーブルが有するインダクタンス成分と容量性負荷との間の共振周波数をキャリア周波数からずらすことができるので、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0014】
また、配線ケーブルは平滑フィルターと容量性負荷の少なくとも一方を取替え可能に設けられているので、配線ケーブルの長さを所望の長さにできる。
【0015】
[適用例2]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルに設けられるコンデンサーは、前記配線ケーブルのインダクタンス値又はインピーダンス値に応じた容量のコンデンサーであることを特徴とする。
【0016】
本適用例によれば、平滑フィルターを通った後の駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0017】
[適用例3]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルに設けられるコンデンサーは、前記配線ケーブルの長さに応じた容量のコンデンサーであることを特徴とする。
【0018】
本適用例によれば、平滑フィルターを通った後の駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0019】
[適用例4]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルは、前記平滑フィルター側に接続される第一端子及び第二端子と、前記容量性負荷と前記第一端子とを接続する第三端子と、前記容量性負荷と前記第二端子とを接続する第四端子と、を有し、前記コンデンサーは、前記第三端子と前記第四端子との間に接続されていることを特徴とする。
【0020】
本適用例によれば、容量性負荷の容量成分の大きさが、あたかも補助コンデンサーの分だけ大きくなったのと同じ状態にすることができる。その結果、配線ケーブルのインダクタンス成分と容量性負荷との間の共振周波数をキャリア周波数からずらすことが可能となり、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0021】
[適用例5]上記適用例に記載の液体噴射装置において、前記配線ケーブルは、前記平滑フィルター側に接続される第一端子及び第二端子と、前記容量性負荷と前記第一端子とを接続する第三端子と、前記容量性負荷と前記第二端子とを接続する第四端子と、を有し、前記コンデンサーは、前記第一端子と前記第三端子との間、又は前記第二端子と前記第四端子との間の少なくとも一方に接続されていることを特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、配線ケーブルのインダクタンス成分と容量性負荷との間の共振周波数をキャリア周波数からずらすことができる。その結果、駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0023】
[適用例6]本適用例に係る印刷装置は、上記適用例に記載の液体噴射装置を用いたことを特徴とする。
【0024】
本適用例によれば、長さが異なるケーブルにおいても、配線ケーブルのインダクタンス成分と容量性負荷との間の共振周波数をキャリア周波数からずらし、キャリアリップルが重畳することを回避することができるため、複数のアクチュエーターを意図した駆動信号で駆動することができる。
【0025】
[適用例7]本適用例に係る医療機器は、上記適用例に記載の液体噴射装置を用いたことを特徴とする。
【0026】
本適用例によれば、医療機器として上記の流体噴射装置を用いることにより、手術具としての優れた特性をより効果的なものとして提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路を搭載した液体噴射装置の構成を示した説明図。
【図2】本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路の回路構成を示した説明図。
【図3】本実施形態に係わるデジタル電力増幅器の回路構成を示した説明図。
【図4】本実施形態に係わるインダクタンス成分と抵抗成分とを含む回路モデルを示した説明図。
【図5】伝達関数H1についての説明図。
【図6】配線ケーブルが有するインダクタンス成分(及び抵抗成分)の影響でキャリアリップルが発生するメカニズムを示した説明図。
【図7】配線ケーブルが有するインダクタンス成分(及び抵抗成分)の影響でキャリアリップルが発生するメカニズムを示した説明図。
【図8】第1実施例の容量性負荷駆動回路の一部を示した回路図。
【図9】第1実施例の容量性負荷駆動回路で駆動信号の重畳するキャリアリップルを抑制可能な理由を示す説明図。
【図10】第2実施例の容量性負荷駆動回路の一部を示した回路図。
【図11】第2実施例の容量性負荷駆動回路で駆動信号の重畳するキャリアリップルを抑制可能な理由を示す説明図。
【図12】容量性負荷駆動回路を用いた液体噴射型印刷装置の一実施形態を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.装置構成:
B.容量性負荷駆動回路の回路構成:
C.キャリアリップルが発生するメカニズム:
D.第1実施例の容量性負荷駆動回路:
E.第2実施例の容量性負荷駆動回路:
F.液体噴射型印刷装置(プリンター):
【0029】
A.装置構成:
図1は、本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路を搭載した液体噴射装置の構成を示した説明図である。図示されているように液体噴射装置100は、大きく分けると、液体を噴射する噴射ユニット110と、噴射ユニット110から噴射される液体を噴射ユニット110に向けて供給する供給ポンプ120と、噴射ユニット110及び供給ポンプ120の動作を制御する制御ユニット130などから構成されている。液体噴射装置100は、パルス状の液体を噴射ユニット110から噴射することによって、生体組織を切除又は切開することに使用する手術具としてのウォータージェットメスの一例である。
【0030】
噴射ユニット110は、金属製のフロントブロック113に、同じく金属製のリアブロック114を重ねてネジ止めした構造となっており、フロントブロック113の前面には円管形状の液体通路管112が立設され、液体通路管112の先端には噴射ノズル111が挿着されている。フロントブロック113とリアブロック114との合わせ面には、薄い円板形状の液体室115が形成されており、液体室115は、液体通路管112を介して噴射ノズル111に接続されている。また、リアブロック114の内部には、積層型の圧電素子によって構成されたアクチュエーター116が設けられている。噴射ユニット110と制御ユニット130とは配線ケーブル150によって接続されており、制御ユニット130内の容量性負荷駆動回路200からは、配線ケーブル150を介して駆動信号がアクチュエーター116に供給される。また、配線ケーブル150の一端側はコネクター152によって噴射ユニット110に取り付けられ、配線ケーブル150の他端側はコネクター154によって制御ユニット130に取り付けられている。このため、配線ケーブル150は、長さや特性の異なる種々の配線ケーブル150に取り替えることが可能となっている。尚、このアクチュエーター116が、本発明における「容量性負荷」に対応する。
【0031】
供給ポンプ120は、噴射しようとする液体(水、生理食塩水、薬液など)が貯められた液体タンク123から、チューブ121を介して液体を吸い上げた後、チューブ122を介して噴射ユニット110の液体室115内に供給する。このため、液体室115は液体で満たされた状態となっている。
【0032】
そして、制御ユニット130から駆動信号をアクチュエーター116に印加すると、アクチュエーター116が伸張して液体室115が押し縮められ、その結果、液体室115内に充満していた液体が、噴射ノズル111からパルス状に噴射される。アクチュエーター116の伸張量は、駆動信号として印加される電圧に依存する。したがって、所望の特性のパルス状の液体を噴射するためには、精度の良い駆動信号をアクチュエーター116に印加する必要がある。そこで、このような駆動信号を生成するために、制御ユニット130内には、以下に説明するような容量性負荷駆動回路200が搭載されている。
【0033】
B.容量性負荷駆動回路の回路構成:
図2は、本実施形態に係わる容量性負荷駆動回路200の回路構成を示した説明図である。図示されているように容量性負荷駆動回路200は、駆動信号の基準となる駆動波形信号(以下、WCOM)を出力する駆動波形信号発生回路210と、駆動波形信号発生回路210からのWCOMをパルス変調して変調信号(以下、MCOM)に変換する変調回路230と、変調回路230からのMCOMをデジタル的に電力増幅して電力増幅変調信号(以下、ACOM)を生成するデジタル電力増幅器240と、デジタル電力増幅器240からACOMを受け取って変調成分を取り除いた後、駆動信号(以下、COM)として噴射ユニット110のアクチュエーター116に供給する平滑フィルター250と、を備えている。
【0034】
このうち、駆動波形信号発生回路210は、WCOMのデータを記憶した波形メモリーや、D/A変換器を備えており、波形メモリーから読み出したデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することによって、WCOM(駆動波形信号)を生成する。また逆に、変調回路230を信号処理回路を用いてデジタル回路で構成することで、駆動波形信号発生回路210の波形メモリーから読み出したWCOM(駆動波形信号)をデジタルデータのまま取り扱うようにしてもよい。
【0035】
変調回路230では、WCOMを一定周期の三角波と比較することによって、パルス波状のMCOM(変調信号)を生成(パルス変調)する。上述した三角波の周期の逆数、すなわち周波数をキャリア周波数fcと呼ぶ。変調回路230によって生成されたMCOMは、デジタル電力増幅器240に入力される。デジタル電力増幅器240は、図3に示すように、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子(MOSFETなど)と、電源と、これらスイッチ素子を駆動するゲートドライバーとを備えている。本実施例では、上述した電源の電圧はVdd[V]であるとする。MCOMがHigh状態の場合は、ハイサイド側のスイッチ素子がON状態になり、ローサイド側のスイッチ素子がOFF状態になって、電源の電圧VddがACOMとして出力される。また、MCOMがLow状態の場合は、ハイサイド側のスイッチ素子がOFF状態になり、ローサイド側のスイッチ素子がON状態になってグランドの電圧がACOMとして出力される。その結果、変調回路230の動作電圧とグランドとの間でパルス波状に変化するMCOMが、電源の電圧Vddとグランドとの間でパルス波状に変化するACOMに電力増幅される。この増幅では、プッシュ・プル接続された2つのスイッチ素子のON/OFFを切り換えているだけなので、アナログ波形を増幅する場合に比べて電力損失を大幅に抑制することが可能である。その結果、電力効率を向上させることが可能となるだけでなく、放熱のために大きなヒートシンクを設ける必要もなくなるので、回路を小型化することも可能となる。
【0036】
こうして電力増幅されたACOM(電力増幅変調信号)は、LC回路によって構成される平滑フィルター250を通すことによってCOM(駆動信号)に変換され、配線ケーブル150を介してアクチュエーター116に印加される。
【0037】
ここで、前述した配線ケーブル150も、インダクタンス成分及び抵抗成分を含むインピーダンスを有している。したがって、この影響で、長さや特性の異なる種々の配線ケーブル150に取り替えられた場合に、アクチュエーター116に印加される信号(以下、RCOM)は何某かの変化が生じるものと思われる。実際に検討してみると、接続される配線ケーブル150の長さや種類、あるいはそれらによって決る配線ケーブル150のインダクタンス成分(及び抵抗成分)の大きさによっては、アクチュエーター116に印加されるRCOMにキャリアリップルが重畳し得ることが見いだされた。ここでキャリアリップルとは、アクチュエーター116に印加されるRCOMに含まれるキャリア周波数の信号成分を意味する。以下、この点について詳しく説明する。
【0038】
C.キャリアリップルが発生するメカニズム:
上述したキャリアリップルが重畳し得る理由を説明するにあたり、先ず、ACOMを入力信号、RCOMを出力信号とした場合の伝達関数(以後、H1と表記する)について説明する必要がある。
伝達関数H1の構成要素として平滑フィルター250、配線ケーブル150、容量性負荷であるアクチュエーター116が挙げられる。配線ケーブル150に関しては種々の回路モデルが考えられるが、本実施例では、図4に示すように、インダクタンス成分と抵抗成分とを含む回路モデルを例に説明を行う。
便宜上、図4に示す配線ケーブル150の4つの端子に関して、平滑フィルター250のCOM出力側に接続される端子を第一端子、平滑フィルター250のグランド(GND)側に接続される端子を第二端子と呼ぶ。また、アクチュエーター116のRCOMが印加される側に接続される端子を第三端子、アクチュエーター116のRCOMが印加されるとは逆側に接続される端子を第四端子と呼ぶ。
図4に示すように、配線ケーブル150の第一端子から第三端子までと、第二端子から第四端子までの各々において、単位長あたりのインダクタンス成分がLc〔H〕、単位長あたりの抵抗成分がRc[Ω]であるとする。図5は、上述した伝達関数H1についての説明図である。本実施例では、図5に示すように平滑フィルター250のコイルのインダクタンスをLlpf〔H〕とし、平滑フィルター250の容量成分のキャパシタンスをClpf[F]とする。更に、容量性負荷のキャパシタンスをCload[F]とする。
【0039】
また便宜上、図5に示すように、平滑フィルター250のコイルのインピーダンスをZ1とおき、配線ケーブル150の第一端子から第三端子までの間のインピーダンスをZaとおき、アクチュエーター116に配線ケーブル150の第四端子から第二端子までの間を加えた部分のインピーダンスをZbとおくと、Z1、Za、Zbはそれぞれ以下の式で与えられる。
Z1=jω・Llpf
Za=Rc+jω・Lc
Zb=1/(jω・Cload)+(Rc+jω・Lc)
また、図5(a)に示した回路構成の中で、平滑フィルター250のコイルに直列に接続された伝達要素(配線ケーブル150の往復部分とアクチュエーター116と平滑フィルター250の容量成分)のインピーダンスをZ2とおくと、Z2は、次式で与えられる。
Z2={1/(jω・Clpf)}//{2(Rc+jω・Lc)+1/(jω・Cload)}
ただし、ωは角周波数で、周波数fに2倍の円周率πをかけたものである。jは虚数単位である。また//は、並列接続の合成インピーダンスを表す並列合成記号である。
すると、前述した伝達関数H1は、図5(b)の式(1)で与えられる。図5(b)の式(1)では、式の表記が複雑になることを避けるため、伝達関数H1をインピーダンスZ1、Z2、及びZa、Zbで表している。ただし前述したように、インピーダンスZ1、Z2、及びZa、Zbは、角周波数ω(又は周波数f)や、配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc等で表される。
したがって、式(1)に示す伝達関数H1を展開していくと、最終的には角周波数ω(又は周波数f)や、配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc、抵抗成分Rc等が含まれた式A、Bによって、図5(b)の式(2)の形で表すことができる。
また伝達関数H1のゲイン|H1|[dB]は、図5(b)の式(3)で表される。式(2)と同様に、式(3)には角周波数ω(又は周波数f)が含まれるため、伝達関数H1のゲイン|H1|は周波数に依存して変化するパラメーターである。
【0040】
以上に、伝達関数H1に関する説明を行った。次に、上述したキャリアリップルが重畳し得る理由を説明するために、伝達関数H1のゲイン|H1|−周波数特性とキャリアリップルとの関係について説明を行う。
図6に配線ケーブル150がない場合(ケーブル長が0mの場合)の伝達関数H1のゲイン−周波数特性の例を示す。前述したように、キャリア周波数fcは固定された一定の周波数である。
図6において、配線ケーブル150がない場合は、キャリア周波数fcにおけるゲインはy[dB]であるとする。前述したデジタル電力増幅器240の電源電圧をVdd[V]とすると、RCOMに重畳されるキャリアリップルVrpp[Vpp]は、図6の式(4)で表される。ただし、式(4)は前述したパルス変調信号のデューティー比が50%の場合のキャリアリップルである。
式(4)より、例えば、デジタル電力増幅器240の電源電圧を100Vとし、図6に示すゲインyが−40[dB]であったとすると、RCOMに重畳されるキャリアリップルは1Vppと算出される。
一方、配線ケーブル150がある場合について考える。
前述した式(2)と同様に、式(3)には配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc、抵抗成分Rc等が含まれる。したがって、配線ケーブル150がある場合で、長さや種類が異なる配線ケーブル150に取り替えられた場合、配線ケーブル150のインダクタンス成分Lc及び抵抗成分Rcが変化するため、伝達係数H1のゲイン|H1|−周波数特性が変化してしまう。
図7に伝達関数H1のゲイン|H1|−周波数特性の一例を示す。尚、図7では、配線ケーブル150の単位長あたりの抵抗成分Rcを数百ミリΩ程度とし、単位長あたりのインダクタンス成分Lcを数μH程度と想定して、種々の配線長で得られるゲイン−周波数特性を例示している。
【0041】
図7中に示した破線は、配線ケーブル150の長さが2[m(メートル)]の場合のゲイン−周波数特性であり、一点鎖線は長さが1[m]の場合のゲイン−周波数特性であり、二点鎖線は0.5[m]の場合のゲイン−周波数特性である。また、実線は、配線ケーブル150なしの場合のゲイン−周波数特性を表している。図示されるように、配線ケーブル150を介してアクチュエーター116(容量性負荷)を接続すると、式(3)(伝達関数のゲイン|H1|)の関係から、平滑フィルター250の共振周波数f0よりも高周波数側に、周波数fxの共振が発生する。また、配線ケーブル150がより長いものに取り替えられると、配線ケーブル150のインダクタンス値がより大きくなるため、式(3)の関係から、前述した共振周波数fxはより低くなる。したがって、図7中に示した配線ケーブル150の長さが1mの場合のように、接続する配線ケーブル150の長さ(あるいは長さによって決るインダクタンス)によっては、周波数fxの共振ピークがキャリア周波数fcに接近あるいは一致してしまう。その結果、キャリア周波数fcにおけるゲインが大きくなり、式(3)に示した関係から、アクチュエーター116に印加する駆動信号に非常に大きなキャリアリップルが残ってしまう場合が起こり得る。
【0042】
図7を用いて、配線ケーブル150の有無及び接続される配線ケーブル150の長さによって、キャリアリップルの大きさがどの程度変化するかを説明する。ここで、デジタル電力増幅器240の電源電圧Vddは100Vとする。また、平滑フィルター250とアクチュエーター116とを繋ぐ配線ケーブル150は、0.5[m]〜2[m]までの間で種々の長さのものが接続されるものとする。
図7から、配線ケーブル150がない場合(0[m])と、配線ケーブル150のケーブル長が0.5[m]の場合、1[m]の場合、2[m]の場合について、キャリア周波数fcにおけるゲインはそれぞれ−40db、−38db、−20db、−45dbとなる。式(4)から駆動信号に残るキャリアリップルは、それぞれ1Vpp、1.25Vpp、10Vpp、0.56Vppとなる。したがって、本実施例の場合には1[m]の長さの配線ケーブル150に取り替えられた場合に、キャリア周波数fcにおけるゲインが大きくなり、アクチュエーター116に印加する駆動信号に10Vppもの非常に大きなキャリアリップルが残ってしまう場合が起こり得る。デジタル電力増幅器240によって増幅されたACOMを、平滑フィルター250を通して平滑化しているにも拘わらず、駆動信号にキャリアリップルが重畳することがあるのは、以上のようなメカニズムによるものと考えられる。
【0043】
キャリアリップルが重畳していたのではアクチュエーター116を適切に駆動することができない。特に医療分野においては切開の深さや方向の調節が難しいことに直結するためこのような現象は許されない。しかし、配線中にダンピング抵抗を挿入したのでは、抵抗で電力を消費してしまうので電力効率が低下する。また、キャリアリップルの周波数成分が更に抑制されるように平滑フィルター250の特性を変更すると、平滑フィルター250の共振周波数f0が低くなるので信号周波数の帯域が確保できなくなる。逆に、パルス変調時のキャリア周波数を高くすればキャリアリップルを抑制することができるが、パルス変調時あるいは変調信号の増幅時のスイッチング損失の増加を招くことになる。そこで、こうした問題を伴うことなく、キャリアリップルの無い駆動信号をアクチュエーター116に印加するために、以下のような方法を採用する。
【0044】
D.第1実施例の容量性負荷駆動回路:
図8は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の一部を示した回路図である。本実施例では、図4に示したのと同様に、配線ケーブル150が2本の線心を有しており、それぞれの線心は、抵抗成分(Rc)、インダクタンス(Lc)を有している。尚、図8では、1つの線心についての抵抗成分(Rc)及びインダクタンス(Lc)にのみ符号を付し、他の線心の抵抗成分やインダクタンスについては符号の表示を省略している。図8に示すように、配線ケーブル150の各端子の名称は、前述したのと同様に第一端子〜第四端子と称する。
【0045】
本実施例では、平滑フィルター250とアクチュエーター116とを接続する配線ケーブル150に、アクチュエーター116と並列となるように補助コンデンサーCasが設けられている。すなわち、配線ケーブル150の第三端子と第四端子との間にCasが設けられている。配線ケーブル150のケーブル長に応じて補助コンデンサーCasを設けて、その補助コンデンサーCasのキャパシタンスを調整する。こうすれば、以下の理由から、平滑フィルター250を通った後の駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0046】
図9は、本実施例の容量性負荷駆動回路200で駆動信号の重畳するキャリアリップルを抑制可能な理由を示す説明図である。図9(a)は、配線ケーブル150に補助コンデンサーCasが設けられている場合のACOMからRCOMまでの回路構成が示されている。図示されるように、補助コンデンサーCasは、アクチュエーター116に対して並列に接続されている。図9(a)においても、平滑フィルター250のコイルのインピーダンスをZ1とおき、配線ケーブル150の第一端子から第三端子までの間のインピーダンスをZaとおく。また、アクチュエーター116及び補助コンデンサーCasに配線ケーブル150の第四端子から第二端子までの間を加えた部分のインピーダンスをZb’とおく。すると、Z1、Za、Zb’はそれぞれ以下の式で与えられる。
Z1=jω・Llpf
Za=Rc+jω・Lc
Zb’=1/(jω・(Cload+Cas))+(Rc+jω・Lc)
また、図9(a)に示した回路構成の中で、平滑フィルター250のコイルに直列に接続された伝達要素(配線ケーブル150の往復部分とアクチュエーター116と補助コンデンサーCasと平滑フィルター250の容量成分)の伝達関数Z2’は、次式で与えられる。
Z2’={1/(jω・Clpf)}//{2(Rc+jω・Lc)+1/(jω・(Cload+Cas))}
ただし、ωは角周波数で、周波数fに2倍の円周率πをかけたものである。jは虚数単位である。また//は、並列接続の合成インピーダンスを表す並列合成記号である。
すると、ACOMとRCOMとの間の伝達関数H2は、図9(b)の式(5)で与えられる。
【0047】
図9(c)には、伝達関数H2のゲイン|H2|−周波数特性が示されている。図中の実線は補助コンデンサーCasがない場合のゲイン−周波数特性であり、破線は補助コンデンサーCasがある場合のゲイン−周波数特性である。ここで、補助コンデンサーを設けない場合は、配線ケーブル150のインダクタンス(Lc)等によって現れる共振ピークの周波数fxがキャリア周波数fcと一致(あるいは接近)するものと考える。また一例として、補助コンデンサーを設けない場合は、キャリア周波数fcにおけるゲインが−20dbであったとする。前述したように、式(4)より、この場合は10Vppもの非常に大きなキャリアリップルになってしまう。しかしそのような長さ、あるいは種類の配線ケーブル150が接続された場合でも、配線ケーブル150に補助コンデンサーCasを設けることで、共振周波数をfxからdfだけ低くすることができる。ただし、dfは式(5)の関係から、Casの容量値の大きさに応じて決まる値である。その結果、図9(c)に示すように、一例としてキャリア周波数fcにおけるゲインが−40dbになったとすると、式(4)よりキャリアリップルは1Vppにまで下げることが可能となる。尚、補助コンデンサーCasの容量値は、共振ピークの周波数fxをキャリア周波数fcからずらす程度の小さな容量値でよい。このため、数Ω程度のダンピング抵抗を挿入する場合に対して、消費電力はほとんど変わらない。加えて、共振ピークの周波数fxをずらす必要があるか否か、ずらす場合にはどの程度ずらすかと言ったことは、配線ケーブル150毎に決まっている。補助コンデンサーCasは、最終的には式(4)や式(5)等を用いて、キャリアリップルすなわちキャリア周波数fcにおけるゲイン|H2|が目標値以内となるように、容量値を選定し、配線ケーブル150に組み込んでおく。
【0048】
したがって、配線ケーブル150毎に、適切な容量値の補助コンデンサーCasが、配線ケーブル150に一体化した状態で設けられている。もちろん、共振ピークの周波数fxがキャリア周波数fcから十分に離れているような配線ケーブル150については、補助コンデンサーCasを設ける必要はない。このようにすることで、どのような配線ケーブル150が接続された場合でも、アクチュエーター116に印加される駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0049】
E.第2実施例の容量性負荷駆動回路:
以上に説明した第1実施例では、アクチュエーター116に並列に補助コンデンサーCasを設けるものとして説明した。しかし、配線ケーブル150に並列に補助コンデンサーを設けるようにしても良い。以下に第2実施例について説明するが、第2実施例の説明にあたっては、第1実施例と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0050】
図10は、本実施例の容量性負荷駆動回路200の一部を示した回路図である。本実施例では、配線ケーブル150に並列に補助コンデンサーCas2が設けられている。ここで、図10に示すように、配線ケーブル150の各端子の名称は、前述したのと同様に第一端子〜第四端子と称する。本実施例の配線ケーブル150は、4つの線心によって構成されている。1本目は第一端子と第三端子とを接続し、2本目は第一端子と第三端子とを補助コンデンサーCas2を介して接続する。更に、3本目は第二端子と第四端子とを接続し、4本目は第二端子と第四端子とを補助コンデンサーCas2を介して接続する。尚、これら4つの線心は、それぞれに抵抗成分(Rc)、インダクタンス(Lc)を有している。図10では、1つの線心についての抵抗成分(Rc)及びインダクタンス(Lc)にのみ符号を付し、他の線心の抵抗成分やインダクタンスについては符号の表示を省略している。
【0051】
図11は、本実施例の容量性負荷駆動回路200で駆動信号の重畳するキャリアリップルを抑制可能な理由を示す説明図である。図11(a)は、本実施例の容量性負荷駆動回路200におけるACOMからRCOMまでの回路構成を示した説明図である。本実施例においても、平滑フィルター250のコイルのインダクタンスをLlpfとし、平滑フィルター250の容量成分のキャパシタンスをClpfとし、配線ケーブル150の線心が有する抵抗値及びインダクタンスを、Rc、Lcとし、更に、容量性負荷のキャパシタンスをCloadとしている。
【0052】
図11(a)においても、平滑フィルター250のコイルのインピーダンスをZ1とおく。また、配線ケーブル150の第一端子から第三端子までの間の2本の線心のインピーダンスをZa”とおく。また、アクチュエーター116に配線ケーブル150の第四端子から第二端子までの間を加えた部分のインピーダンスをZb”とおく。すると、Z1、Za”、Zb”はそれぞれ以下の式で与えられる。
Z1=jω・Llpf
Za”=(Rc+jω・Lc)//(Rc+jω・Lc+1/(jω・Cas2))
Zb”=1/(jω・Cload)+(Rc+jω・Lc)//{(Rc+jω・Lc+1/(jω・Cas2))}
また、図11(a)に示した回路構成の中で、平滑フィルター250のコイルに直列に接続された伝達要素(配線ケーブル150の4本の線心部分とアクチュエーター116と平滑フィルター250の容量成分)の伝達関数Z2は、次式で与えられる。
Z2={1/(jω・Clpf)}//{2[(Rc+jω・Lc)//(Rc+jω・Lc+1/(jω・Cas2))]+1/(jω・Cload)}
ただし、ωは角周波数で、周波数fに2倍の円周率πをかけたものである。jは虚数単位である。すると、ACOMとRCOMとの間の伝達関数H3は、図11(b)の式(6)で与えられる。
【0053】
図11(c)には、伝達関数H3のゲイン|H3|-周波数特性が示されている。図中の実線は補助コンデンサーCas2がない場合のゲイン−周波数特性であり、破線は補助コンデンサーCas2がある場合のゲイン−周波数特性である。本実施例においても、補助コンデンサーを設けない場合は、配線ケーブル150のインダクタンス(Lc)等によって現れる共振ピークの周波数fxがキャリア周波数fcと一致(あるいは接近)するものと考える。また前述した例と同様に、補助コンデンサーを設けない場合は、キャリア周波数fcにおけるゲインが−20db、すなわちキャリアリップルが10Vppであったとする。図示されるように、補助コンデンサーCas2を設けた配線ケーブル150を使用することで、共振周波数をfxからdfだけ低くすることができる。ただし、dfは式(6)の関係から、Cas2の容量値の大きさに応じて決まる値である。また、第2実施例においても第1実施例と同様に、共振ピークをずらす必要があるか否か、ずらす場合にはどの程度ずらすかと言ったことは、配線ケーブル150毎に決まっている。補助コンデンサーCas2は、最終的には式(4)や式(6)等を用いて、キャリアリップルすなわちキャリア周波数fcにおけるゲイン|H3|が目標値以内となるように、容量値を選定し、配線ケーブル150に組み込んでおく。もちろん第2実施例においても、共振ピークがキャリア周波数fcから十分に離れているような配線ケーブル150については、補助コンデンサーCas2を設ける必要はない。
【0054】
このようにすることで、どのような配線ケーブル150が接続された場合でも、アクチュエーター116に印加される駆動信号にキャリアリップルが重畳することを回避することが可能となる。
【0055】
F.液体噴射型印刷装置(プリンター):
図12は、本実施例の容量性負荷駆動回路を用いた液体噴射型印刷装置の一実施形態を示す概略図である。図12(a)は概略構成正面図である。図12(b)は液体噴射ヘッド近傍の平面図である。
【0056】
本実施例の液体噴射型印刷装置は、上記実施例に記載の容量性負荷駆動回路(図示せず)と、液体供給チューブを介して液体を供給する液体タンク(図示せず)と、液体タンクから供給された液体が流入する液体室(図示せず)と、容量性負荷であるアクチュエーター(図示せず)と、液体室に流入された液体を噴射する噴射ノズルとを有する複数の液体噴射ヘッド(噴射ユニット)2と、を備えている。液体噴射型印刷装置は、駆動信号がアクチュエーターに印加されることによって、液体室に流入された液体を噴射ノズルから噴射する。
【0057】
液体噴射型印刷装置のうち、液体噴射ノズルの形成された液体噴射ヘッド2をキャリッジと呼ばれる移動体に載せて印刷媒体の搬送方向と交差する方向に移動させるものを一般に「マルチパス型印刷装置」と呼んでいる。これに対し、印刷媒体の搬送方向と交差する方向に長尺な液体噴射ヘッドを配置して、所謂1パスでの印刷が可能なものを一般に「ラインヘッド型印刷装置」と呼んでいる。
【0058】
図12(a)中の符号2は、印刷媒体1の搬送ライン上方に設けられた複数の液体噴射ヘッドであり、印刷媒体搬送方向に2列になるようにかつ印刷媒体搬送方向と交差する方向に並べて配設されて、夫々、ヘッド固定プレート11に固定されている。各液体噴射ヘッド2の最下面には、多数のノズルが形成されており、この面がノズル面と呼ばれている。ノズルは、図12(b)に示すように、噴射する液体の色毎に、印刷媒体搬送方向と交差する方向に列状に配設されており、その列をノズル列とし、その列方向をノズル列方向とする。そして、印刷媒体搬送方向と交差する方向に配設された全ての液体噴射ヘッド2のノズル列によって、印刷媒体1の搬送方向と交差する方向の幅全長に及ぶラインヘッドが形成されている。印刷媒体1は、これらの液体噴射ヘッド2のノズル面の下方を通過するときに、ノズル面に形成されている多数のノズルから液体が噴射され、印刷が行われる。
【0059】
液体噴射ヘッド2には、例えばイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のインクなどの液体が、図示しない各色の液体タンクから液体供給チューブを介して供給される。そして、各液体噴射ヘッド2に形成されているノズルから同時に必要箇所に必要量の液体を噴射することにより、印刷媒体1上に微小なドットを出力する。これを色毎に行うことにより、搬送部で搬送される印刷媒体1を一度通過させるだけで、所謂1パスによる印刷を行うことができる。
【0060】
液体噴射ヘッドの各ノズルから液体を噴射する方法としては、静電方式、ピエゾ方式、膜沸騰液体噴射方式などがあり、本実施形態ではピエゾ方式を用いた。ピエゾ方式は、ノズルアクチュエーターである圧電素子に駆動信号を与えると、キャビティ内の振動板が変位してキャビティ内に圧力変化を生じ、その圧力変化によって液滴がノズルから噴射されるというものである。そして、駆動信号の波高値や電圧増減傾きを調整することで液滴の噴射量を調整することが可能となる。
【0061】
図12(b)に示したように、ラインヘッド型印刷装置には複数の液体噴射ヘッドが用意されている。容量性負荷駆動回路と複数の液体噴射ヘッドは、それぞれ前述した配線ケーブル150で接続される。ただし、複数の液体噴射ヘッドは印刷媒体の搬送方向と交差する方向に長尺に配置されている為、容量性負荷駆動回路と複数の液体噴射ヘッドとを接続する各々の配線ケーブル150は、液体噴射ヘッドと容量性負荷駆動回路と位置関係によって、それぞれ適した長さのものが用意される。
【0062】
すると、前述した理由から、複数の液体噴射ヘッドのうちの少なくとも一部は、ケーブルの長さによっては大きなキャリアリップルが重畳する可能性が生じる。その結果、液体噴射型印刷装置において、適切な液滴吐出制御が困難になり、印刷物の画質が低下する虞が発生する。
【0063】
このような場合においても、本実施例によれば、配線ケーブルのインダクタンス成分と容量性負荷(液体噴射ヘッド)との間の共振周波数をキャリア周波数からずらし、キャリアリップルが重畳することを回避することができるため、複数のアクチュエーターを意図した駆動信号で駆動することができる。その結果、印刷物の画質の低下を回避することが可能となる。尚、本実施例は、静電方式にも適用可能である。
【0064】
以上、各種実施例の容量性負荷駆動回路について説明したが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる流体噴射装置など、医療機器を含む様々な電子機器に本実施例の容量性負荷駆動回路を適用することで、電力効率が良く小型化の電子機器を提供することができる。また、インクジェットプリンターに搭載されて、インクを噴射する噴射ノズルを駆動するための容量性負荷駆動回路に対しても、本発明を好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
100…液体噴射装置 110…噴射ユニット 111…噴射ノズル 112…液体通路管 113…フロントブロック 114…リアブロック 115…液体室 116…アクチュエーター(容量性負荷) 120…供給ポンプ 121…チューブ 122…チューブ 123…液体タンク 130…制御ユニット 150…配線ケーブル 152…コネクター 154…コネクター 200…容量性負荷駆動回路 210…駆動波形信号発生回路 230…変調回路 240…デジタル電力増幅器 250…平滑フィルター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、前記ノズルに接続され容積が変更可能な液体室と、前記ノズルと前記液体室とを連通する液体通路管と、を有する噴射ユニットと、
駆動信号が容量性負荷に印加されることによって、前記容量性負荷が伸張して前記液体室の容積を変更する容量性負荷と、
前記容量性負荷に前記駆動信号を印加することによって、前記容量性負荷を駆動する容量性負荷駆動回路と、を備え、
前記液体室の容積を変更することによって、前記液体室に流入された液体を前記ノズルより噴射する液体噴射装置であって、
前記容量性負荷駆動回路は、
前記駆動信号の基準となる駆動波形信号を発生する駆動波形信号発生回路と、
前記駆動波形信号をパルス変調して変調信号を生成する変調回路と、
前記変調信号を電力増幅してパルス波状の電力増幅変調信号を生成するデジタル電力増幅器と、
前記パルス波状の電力増幅変調信号を平滑化することによって前記駆動信号を生成する平滑フィルターと、
前記平滑フィルターと前記容量性負荷とを接続し、前記平滑フィルターと前記容量性負荷との少なくとも一方を取替え可能に設けられた配線ケーブルと、
を備え、
前記配線ケーブルにはコンデンサーが設けられていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルに設けられるコンデンサーは、前記配線ケーブルのインダクタンス値又はインピーダンス値に応じた容量のコンデンサーであることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルに設けられるコンデンサーは、前記配線ケーブルの長さに応じた容量のコンデンサーであることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルは、
前記平滑フィルター側に接続される第一端子及び第二端子と、
前記容量性負荷と前記第一端子とを接続する第三端子と、
前記容量性負荷と前記第二端子とを接続する第四端子と、
を有し、
前記コンデンサーは、前記第三端子と前記第四端子との間に接続されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射装置において、
前記配線ケーブルは、
前記平滑フィルター側に接続される第一端子及び第二端子と、
前記容量性負荷と前記第一端子とを接続する第三端子と、
前記容量性負荷と前記第二端子とを接続する第四端子と、
を有し、
前記コンデンサーは、前記第一端子と前記第三端子との間、又は前記第二端子と前記第四端子との間の少なくとも一方に接続されていることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射装置を用いたことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射装置を用いたことを特徴とする医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−39692(P2013−39692A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176577(P2011−176577)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】