説明

液体噴射装置

【課題】支持部材内に設けられたキャップを用いて噴射ノズルから液体を吸引する液体噴
射装置において、支持部材上に液体が滴下することを回避する。
【解決手段】媒体支持部材の噴射ヘッドと向き合う位置に凹部を設けておき、凹部内にキ
ャップ部材とともにワイパー部材を設けておく。そして、媒体支持部材または噴射ヘッド
の少なくとも一方を駆動して噴射ヘッドとキャップ部材とを当接させることで液体が増粘
することを抑制し、この状態で噴射ノズルに負圧を作用させることで噴射ヘッド内の増粘
した液体を吸引する。また、液体を吸引したら、媒体支持部材または噴射ヘッドの少なく
とも一方を移動させてワイパー部材とノズル面とを互いに摺動させ、噴射ノズルに付着し
た液体を拭き取る。こうすれば、凹部内で液体の吸引とノズル面の拭き取りを実行できる
ので、媒体支持部上に液体が滴下することを回避可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドから液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンターでは、微細な噴射ノズルから、正確な分量のインク
を正確な位置に噴射することによって、高画質の画像を印刷することが可能である。また
、この技術を利用して、インクの代わりに各種の液体を基板に向けて噴射すれば、電極や
、センサ、バイオチップなどを製造することも可能である。
【0003】
このような技術では、プラテンなどの支持部材によって媒体を支えながら、噴射ノズル
を備えた噴射ヘッドを用いてインクなどの液体を媒体上に噴射する。また、液体を噴射し
ない間は、噴射ノズルをキャップで覆うことにより、液体中の成分が蒸発あるいは揮発し
て液体が増粘することを抑制する。それでも液体が増粘するなどして性状が劣化してしま
った場合には、噴射ノズルをキャップで覆った状態で、キャップに接続された吸引ポンプ
を作動させることで性状の劣化した液体を噴射ノズルから吸引することが行われる。
【0004】
また、通常、キャップは、単体でプラテンなどの支持部材の外側に設置されており、噴
射ヘッドをキャップの位置まで移動させ、あるいはキャップを噴射ヘッドの位置まで移動
させてキャップをすることが行われている。そこで、液体噴射装置の小型化を図るために
、あるいは噴射ヘッドまたはキャップの移動機構を簡略化あるいは省略可能とするために
、プラテンの噴射ヘッドと向き合う箇所を凹状に形成し、そこにキャップを設ける技術が
提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−307862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来技術では、プラテンなどの支持部材上にインクなどの液体が垂れ
て支持部材を汚してしまうという問題があった。すなわち、キャップで噴射ノズルを覆っ
た状態で噴射ノズルからインクなどの液体を吸引すると、キャップ内に吸い出された液体
が跳ねかえるなどして噴射ノズルに付着する。この状態では、噴射ノズルから媒体に向か
ってインクなどの液体を噴射する際、噴射ノズルに付着した液体が媒体上に垂れてしまう
ので、付着した液体をぬぐい取るために、キャップとは異なる位置に設けられたワイピン
グ機構まで噴射ヘッドを移動させる。このとき、噴射ヘッドはプラテンなどの支持部材上
を通過するので、噴射ノズルから支持部材上にインクなどの液体が垂れてしまい、結局、
汚れた支持部材によって媒体を支えることで媒体を汚してしまうという問題があった。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
支持部材内に設けられたキャップを用いて噴射ノズルから液体を吸引する液体噴射装置に
おいて、支持部材上に液体が滴下することを回避可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を
採用した。すなわち、
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから被噴射媒体に向けて液体を噴射する液体噴射装
置であって、
前記噴射ヘッドに対して前記被噴射媒体を背面側から支える媒体支持部材と、
前記噴射ヘッドに当接することで前記噴射ノズルの周囲に閉空間を形成するキャップ部
材と、
前記キャップ部材と前記噴射ヘッドとを互いに当接あるいは離間させる駆動手段と、
前記キャップ部材が前記噴射ヘッドに当接した状態で前記噴射ノズルに負圧を作用させ
ることにより、該噴射ノズルから液体を吸引する液体吸引手段と、
前記噴射ヘッドの前記噴射ノズルが設けられたノズル面を摺動することで、該ノズル面
に付着した液体を拭き取るワイパー部材と、
前記ワイパー部材と前記ノズル面とを互いに摺動させる摺動手段と
を備え、
前記媒体支持部材は、前記噴射ヘッドと向き合う位置に凹部が設けられた部材であり、
前記キャップ部材および前記ワイパー部材は、前記凹部内に設けられた部材であり、
前記駆動手段は、前記媒体支持部材または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を駆動する
ことにより、前記キャップ部材と前記噴射ヘッドとを互いに当接あるいは離間させる手段
であり、
前記摺動手段は、前記媒体支持部材または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を移動させ
ることにより、前記ワイパー部材と前記ノズル面とを互いに摺動させる手段であることを
要旨とする。
【0009】
このような本発明の液体噴射装置においては、噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから
被噴射媒体に向けて液体を噴射する。また、液体を噴射しない間は、媒体支持部材の噴射
ヘッドと向き合う位置に設けられた凹部内のキャップ部材と噴射ヘッドとを当接させるこ
とで、噴射ヘッド内の液体が増粘することを抑制する。それでも液体が増粘してしまった
場合には、キャップ部材を噴射ヘッドに当接させた状態で噴射ノズルに負圧を作用させ液
体を吸引する動作(クリーニング動作)を行う。更に、本発明の媒体支持部材の凹部内に
は、キャップ部材に加えてワイパー部材も設けられており、媒体支持部材または噴射ヘッ
ドの少なくとも一方を移動させてワイパー部材とノズル面とを互いに摺動させることで、
噴射ノズルに付着した液体を拭き取る動作(ワイピング動作)を行うことも可能になって
いる。
【0010】
こうすれば、媒体支持部材の凹部内でクリーニング動作とワイピング動作とを行うこと
ができるので、噴射ノズルに液体が付着した状態の噴射ヘッドを移動させて、液体が媒体
支持部材の上に垂れてしまうことがない。また、媒体支持部材の凹部内でワイピング動作
を行うことから、拭き取った液体がワイパー部材から少し飛散した程度では、媒体支持部
材の上にまで液体が飛散することもない。従って、液体が媒体支持部材に付着して、被噴
射媒体を汚してしまうことを回避することができる。加えて、媒体支持部材内にワイパー
部材が設けられているので、媒体支持部材の外にワイピング機構を設ける場合に比べて、
液体噴射装置全体の小型化を図ることが可能となる。
【0011】
また、上述した本発明の液体噴射装置においては、次のようにしてもよい。先ず、噴射
ヘッドにはノズル面に複数の噴射ノズルを列状に設けておく。また、キャップ部材として
は、噴射ヘッドに当接させることで所定個数ずつの噴射ノズルの周囲に閉空間を形成する
ことが可能な複数のキャップ部材を設けておく。更に、各キャップ部材に対して、噴射ノ
ズルが並んだ方向に隣接してワイパー部材を設けておく。そして、ワイパー部材とノズル
面とを、噴射ノズルが並んだ方向に摺動させてノズル面を拭き取ることとしてもよい。
【0012】
こうすれば、ワイパー部材で拭き取った液体が飛散したとしても、噴射ノズルが並んだ
方向に飛散するので、媒体支持部材に設けられた凹部の両側から液体が飛散することはな
い。このため、飛散した液体が媒体支持部材の表面に付着して、被噴射媒体が汚れてしま
うことを回避することができる。また、各キャップ部材に対して、噴射ノズルが並んだ方
向と直行する方向に隣接してワイパー部材を設ける場合に比べ、ワイパー部材の面積を小
さくすることができるので、装置全体の大きさを抑制することも可能となる。
【0013】
更に、上述した本発明の液体噴射装置においては、媒体支持部材に設けられた凹部の周
囲に、噴射ヘッドを当接することで凹部内に閉空間を形成するシール面を設けることとし
てもよい。
【0014】
こうすると、噴射ヘッドのノズル面と媒体支持部材の凹部とによって閉空間が形成され
る。その結果、シール面に噴射ヘッドを当接している間は、ワイピング動作時にワイパー
部材に付着した液体が乾燥することを抑制することができる。このため、液体が固着した
ワイパー部材を用いてワイピング動作を行うことで、噴射ヘッドのノズル面に傷をつける
などして、液体の噴射に支障を来してしまうような弊害が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ラインプリンターを例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構造を示した説明図である。
【図2】ヘッドユニットを底面側から見たときの状態を示す説明図である。
【図3】プラテン部の構造を示した斜視図である。
【図4】ラインプリンターのキャッピング動作を示した説明図である。
【図5】ラインプリンターのワイピング動作を示した説明図である。
【図6】ワイピング時にプラテン部の表面にインクが飛散しない理由を示した説明図である。
【図7】ワイパーに付着したインクの乾燥が抑えられる理由を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.装置構成:
B.プラテン部の構造:
C.ワイピング動作:
【0017】
A.装置構成 :
図1は、ラインプリンター1を例に用いて本実施例の流体噴射装置の大まかな構造を示
した説明図である。図示されているように、本実施例のラインプリンター1は、大まかに
は箱型の外形形状をしており、上面には、モニターパネル2と、ユーザーが操作するため
の操作パネル3と、ラインプリンター1の各種メンテナンスを行うためのメンテナンス扉
4などが設けられている。また、ラインプリンター1の前面には、印刷用紙を装填する際
に開ける給紙扉5が設けられており、更に、向かって右側面には、印刷された印刷用紙が
排出される排紙口6が設けられている。
【0018】
ラインプリンター1の内部には、各種の機能を実行する複数のユニットあるいは部品が
搭載されている。先ず、ラインプリンター1のほぼ中央の位置には、印刷用紙にインクを
噴射するヘッドユニット30が設けられており、ヘッドユニット30の下方には印刷用紙
を支えるプラテン部40が設けられている。また、プラテン部40の下方には、性状が劣
化したインクを吸引するための吸引ポンプ50や、吸引ポンプ50で吸引したインクを溜
めておくための廃液タンク52などが設けられている。
【0019】
図1の紙面上で、ヘッドユニット30の左下の位置には、印刷用紙が装填される給紙カ
セット10が設けられており、給紙カセット10の右端の上面に接する位置に、給紙ロー
ラー20が設けられている。更に、給紙ローラー20の奥側には給紙モーター22が接続
されており、給紙モーター22を駆動して給紙ローラー20を回転させると、給紙カセッ
ト10から印刷用紙が1枚ずつ、ヘッドユニット30に向かって搬送されるようになって
いる。尚、図1では、印刷用紙の搬送経路が太い破線で示されている。
【0020】
また、紙面上でヘッドユニット30の右下の位置には、ラインプリンター1に電力を供
給するための電源ユニット70が設けられている。更に、モニターパネル2や操作パネル
3が設けられている部分の直ぐ下の位置には、ラインプリンター1の各種の動きを制御す
る制御ユニット80が搭載されている。
【0021】
続いて、図1を参照しながら、ラインプリンター1の印刷動作について説明する。先ず
、給紙カセット10には、複数枚の印刷用紙が装填される。給紙カセット10に装填され
た印刷用紙は図示しないバネによって押し上げられて、上方に設けられた給紙ローラー2
0に押し付けられている。給紙ローラー20は、金属製の細長い円柱を長さ方向に半分に
割って形成した略半円形断面の細長い部材であり、円周部分に対応する側面はゴム材料に
よって形成されている。この給紙ローラー20の一端には給紙モーター22が接続されて
おり、給紙モーター22によって給紙ローラー20を回転させることによって、給紙カセ
ット10から印刷用紙を1枚ずつ、ヘッドユニット30に向かって送り出す。
【0022】
給紙ローラー20とヘッドユニット30との間には、複数のガイドローラー26が設け
られている。ガイドローラー26は、図示しないモーターによって駆動されて回転するこ
とにより、印刷用紙をガイドしながら、ヘッドユニット30へと搬送する。
【0023】
ヘッドユニット30は、印刷用紙の搬送経路上に、印刷用紙を跨ぐような状態で設けら
れており、ヘッドユニット30の底面側(すなわち、印刷用紙に面する側)には、インク
を噴射する複数の噴射ヘッドが設けられている(図2を参照)。また、ヘッドユニット3
0の内部には、インクを収容したインクカートリッジが搭載されており、インクカートリ
ッジ内に収容されたインクが、ヘッドユニット30の下面側に設けられた複数の噴射ヘッ
ドから噴射される。尚、本実施例のラインプリンター1では、搭載するインクの種類は1
種類(黒インク)であるものとして説明するが、黒インクの他にも、シアンインク、マゼ
ンタインク、イエローインクなど、複数のインクを搭載することとしてもよい。
【0024】
図2は、ヘッドユニット30を底面側(印刷用紙に面した側)から見たときの状態を示
す説明図である。図示されるように、本実施例のヘッドユニット30の底面には、略矩形
形状をした噴射ヘッド32が6つ設けられている。また、6つの噴射ヘッド32は、3つ
ずつ二列に並べられるとともに、互いの列の噴射ヘッド32が互い違いとなるように配列
されている。更に、各噴射ヘッド32には、インクを噴射する複数の噴射ノズルが列状に
設けられている。尚、こうした噴射ノズルが設けられている噴射ヘッド32の下側の面を
「ノズル面」と呼ぶことがあるものとする。
【0025】
また、図1に示されるように、ヘッドユニット30の下方には、ヘッドユニット30の
底面に向かい合うようにして、プラテン部40が設けられている。給紙ローラー20およ
びガイドローラー26によって搬送されてきた印刷用紙は、プラテン部40の上に供給さ
れ、プラテン部40の上を搬送されながら、ヘッドユニット30の底面の噴射ヘッド32
からインクが噴射されて、画像が印刷されていく。こうして画像が印刷された印刷用紙は
、プラテン部40の下流側に設けられたガイドローラー26によって、進行方向を、下方
に曲げられた後、電源ユニット70の下側を通って、排紙口6からラインプリンター1の
外部に排出される。ここで、本実施例のプラテン部40は、印刷が行われていない状態で
、噴射ヘッド32内のインクが増粘することを防止することも可能とするために以下のよ
うな構造となっている。
【0026】
B.プラテン部の構造 :
図3は、本実施例のプラテン部40の構造を示した斜視図である。本実施例のプラテン
部40は、印刷中に印刷用紙を支える部分と、印刷していないときにインクの増粘を防止
する部分とから構成されている。図3(a)には、プラテン部40の印刷用紙を支える部
分が示されており、図3(b)には、プラテン部40のインクの増粘を防止する部分が示
されている。
【0027】
図3(a)に示されるように、プラテン部40の上面には、プラテン部40に供給され
た印刷用紙を、搬送方向にスムーズに送るための複数のリブ42が設けられている。また
、プラテン部40の上面の中央には、複数のリブ42を横切る方向に溝が設けられており
、この溝の中央部分(ヘッドユニット30が向き合う位置)には、凹部が形成されている
。噴射ヘッド32内のインクの増粘を防止するための部分は、この凹部内に収容されてい
る。
【0028】
図3(b)には、プラテン部40の凹部内に設けられたインクの増粘を防止するための
部分が詳しく示されている。図示されるように、プラテン部40の凹部内には、略矩形形
状で内側に凹部が形成されたキャップ44が複数設けられている。また、それぞれのキャ
ップ44の長手方向に隣接する位置には、薄い板状のワイパー46が設けられている。尚
、本実施例のワイパー46はゴム製となっているが、ワイパー46の材質はゴムに限られ
ず、例えば不織布や、多孔質体などの材質を用いて形成することとしてもよい。
【0029】
上述した複数のキャップ44は、プラテン部40の凹部内で、ヘッドユニット30の底
面に設けられた噴射ヘッド32が向かい合う位置にそれぞれ配置されている。このため、
噴射ヘッド32と同様に、キャップ44もプラテン部40の凹部内に3つずつ二列に並べ
られるとともに、互いの列のキャップ44が互い違いとなるように配列されている。また
、ワイパー46は、ワイパー46の面とキャップ44の短辺とが平行になるように配置さ
れている。更に、上述したキャップ44は、それぞれ通路を介して吸引ポンプ50に接続
されている。
【0030】
本実施例のプラテン部40は、以上のような構成となっているので、印刷を行っていな
い間は、ヘッドユニット30をプラテン部40の凹部に向かって降下させることにより、
噴射ヘッド32の噴射ノズルが設けられた面(すなわちノズル面)をキャップ44で覆う
ことができる。こうすれば、印刷を行わない間に噴射ノズルからインクの成分が蒸発する
などして噴射ヘッド32内のインクが増粘することを抑制することが可能となる。
【0031】
また、上述したように、プラテン部40の各キャップ44は、それぞれ吸引ポンプ50
に接続されている(図3(b)を参照)。従って、印刷が長時間行われずに放置されるな
どして、仮に噴射ヘッド32内のインクが増粘してしまった場合にも、キャップ44でノ
ズル面を覆った状態で、吸引ポンプ50を作動させることで、増粘したインクを吸引する
ことが可能である。
【0032】
また、ノズル面をキャップ44で覆った状態で増粘したインクを吸引すると、キャップ
44内に吸い出されたインクが跳ねかえるなどして噴射ノズルに付着する。そこで、本実
施例のラインプリンター1では、以下のようにして噴射ノズルに付着したインクをぬぐい
取る動作(ワイピング動作)を行う。
【0033】
C.ワイピング動作 :
図4は、ラインプリンター1がワイピング動作に先立って行うキャッピング動作を示し
た説明図である。図4(a)には、印刷中のヘッドユニット30の位置が示されており、
また図4(b)には、噴射ヘッド32のノズル面をキャッピングした時のヘッドユニット
30の位置が示されている。
【0034】
本実施例のラインプリンター1では、印刷を行う際には、噴射ヘッド32のノズル面が
、プラテン部40のリブ42の高さよりも少しだけ高い位置に来るようにヘッドユニット
30が配置される。このため、図4(a)に示されるように、ヘッドユニット30とプラ
テン部40との間の隙間を、搬送方向に印刷用紙を紙送りしながら画像を印刷することが
できる。また、印刷をしない間は、図4(b)に示されるように、駆動機構90によって
ヘッドユニット30を降下させ、ヘッドユニット30の底面を、プラテン部40の上面に
設けられた溝の底面に当接させる。ヘッドユニット30の底面に設けられた噴射ヘッド3
2は、底面から若干、突き出した状態で設けられているので、ヘッドユニット30の底面
を溝に当接させると、噴射ヘッド32は、溝の中央に設けられた凹部(図3(a)を参照
)の中に入り込んだ状態となる。
【0035】
また、前述したように、プラテン部40の凹部内には、ヘッドユニット30の底面に設
けられた噴射ヘッド32と向かい合う位置にキャップ44が設けられている(図3(b)
を参照)。更に、各キャップ44の高さは、ヘッドユニット30をプラテン部40の溝の
底まで降下させた時に、ちょうど噴射ヘッド32のノズル面と当接する高さとなっている
。従って、図4(b)に示すように、ヘッドユニット30の底面をプラテン部40の溝に
底面に当接させると、ヘッドユニット30の底面に設けられた6つの噴射ヘッド32のノ
ズル面がキャップ44で覆われた状態(キャッピング状態)となる。
【0036】
以上のようにしてキャッピング動作を完了したら、必要に応じて吸引ポンプ50を作動
させることで、噴射ヘッド32内で増粘したインクを吸引する動作(クリーニング動作)
を実行する。このとき、吸引したインクが跳ねかえるなどして噴射ノズルに付着するので
、次のようにして噴射ノズルに付着したインクをぬぐい取る動作(ワイピング動作)を行
う。
【0037】
図5は、ラインプリンター1のワイピング動作を示した説明図である。上述したクリー
ニング動作を終了したら、今度は、図5(a)に示されるように、駆動機構90によって
ヘッドユニット30をプラテン部40の溝から少しだけ持ち上げる。続いて、この状態で
、プラテン部40を、摺動機構92によってラインプリンター1の手前側にスライドさせ
る。その結果、図5(b)に示されるように、噴射ヘッド32が引っかかることなく、プ
ラテン部40を手前側にスライドすることができる。
【0038】
ここで、前述したように、プラテン部40の溝の凹部内には、キャップ44の短辺と平
行な状態でワイパー46が設けられている(図3(b)を参照)。そして、ワイパー46
の先端部分は、プラテン部40の溝の底面よりも少しだけ高い位置まで突き出すようにな
っている。従って、上述した図5(b)のように、プラテン部40を手前側にスライドさ
せると、各ワイパー46の先端部分が各噴射ヘッド32のノズル面に接触しながら噴射ノ
ズルに付着したインクをぬぐい取っていく。また、各ワイパー46の幅は、噴射ヘッド3
2の短辺よりも広くなっており、ノズル面の短辺方向に対してインクのぬぐい残しが生じ
ないようになっている。その結果、ワイパー46の先端部分がノズル面の長辺方向の端か
ら端まで移動する間に、ノズル面の全面をぬぐい取ることができる。
【0039】
こうして噴射ノズルに付着したインクをぬぐい取ったら、その後はヘッドユニット30
をプラテン部40のリブ42の少し上まで上昇させ、続いてプラテン部40を再びライン
プリンター1の奥側にスライドさせてもとの位置に戻す。すると、前述した図4(a)の
ように、印刷用紙にインクを噴射することが可能な状態となる。また、すぐに印刷を開始
しない場合には、そのままヘッドユニット30をプラテン部40の溝の底まで降下させる
ことで、噴射ヘッド32のノズル面をキャッピングする(図4(b)を参照)。
【0040】
以上に説明したように、本実施例のラインプリンター1では、プラテン部40の凹部内
に設けられたキャップ44に噴射ヘッド32を当接させてクリーニングを行った後、凹部
内に設けられたワイパー46を用いて噴射ヘッド32のノズル面をワイピングすることが
可能である。こうすれば、凹部内でクリーニング動作とワイピング動作を完結させること
ができるので、噴射ノズルにインクが付着した状態のヘッドユニット30を、プラテン部
40の上を移動させてインクがプラテン部40上に垂れてしまうことがない。その結果、
インクで汚れたプラテン部40上に印刷用紙が搬送されることで、印刷用紙が汚れてしま
うことを回避することが可能となる。加えて、プラテン部40の内部にワイパー46が設
けられているので、プラテン部40の外部にワイピング機構を設ける空間を確保しなくて
もよい。従って、ラインプリンター1の装置全体を小型化することが可能である。
【0041】
また、本実施例では、プラテン部40の凹部内でワイピング動作を行うことが可能なだ
けでなく、以下に示すように、ワイパー46でぬぐい取ったインクがプラテン部40の表
面には飛散しないようになっている。
【0042】
図6は、ワイピング動作時にインクがプラテン部40の表面に飛散しない理由を示した
説明図である。前述したように、本実施例のワイパー46は、キャップ44の短辺とワイ
パー46の面とが平行となるように配置されている。従って、ワイピング動作を実行する
と、図6に示されるように、ワイパー46は、プラテン部40の奥側から手前側に向かっ
て(すなわち、キャップ44に向かって)しなるような動作をする。このことに伴い、ワ
イパー46に付着したインクは、キャップ44に向かって飛散する。換言すれば、プラテ
ン部40に形成された溝の両側(リブ42が形成された部分)に向かってインクが飛散す
ることはない。このため、ワイパー46に付着したインクが飛散して、プラテン部40の
表面がインクで汚れることがないので、印刷用紙が汚れることを防ぐことができる。
【0043】
更に、本実施例のラインプリンター1では、前述したキャッピング動作(図4(b)を
参照)を行うと、噴射ヘッド32内のインクの増粘を抑制することができるだけでなく、
ワイパー46に付着したインクが乾燥することを抑制することが可能となっている。以下
、この点について説明する。
【0044】
図7は、キャッピング動作によって、ワイパー46に付着したインクの乾燥が抑えられ
る理由を示した説明図である。図7(a)には、ラインプリンター1がキャッピングを行
っている様子が示されている。この時、ヘッドユニット30の底面はプラテン部40の溝
の底面に当接した状態となっている。また、図7(b)には、図7(a)のほぼ中央の位
置(図中では一点鎖線で示される位置)で長手方向に断面をとった際の、ヘッドユニット
30、およびプラテン部40の内部の様子が示されている。尚、図7に示した例では、プ
ラテン部40の溝の底面(ヘッドユニット30が当接摺る部分)が、ゴム製のシール部材
48によって覆われている。
【0045】
図7(a)に示されるように、キャッピング動作に伴って、ヘッドユニット30の底面
をプラテン部40の溝の上に設けられたシール部材48まで降下させると、ヘッドユニッ
ト30の底面の外縁部がゴム製のシール部材48に当接する。このとき、プラテン部40
の凹部内では、図7(b)に示されるように、噴射ヘッド32のノズル面がキャップ44
で覆われるとともに、ヘッドユニット30の底面と、プラテン部40の凹部とによって囲
まれた空間が完全に閉鎖される。その結果、キャッピング中にワイパー46が外気に曝さ
れることがなくなるので、ワイピング動作時にワイパー46に付着したインクが乾燥する
ことを抑制することができる。このため、乾燥したインクが固着したワイパー46を使用
してワイピング動作が行われて、噴射ヘッド32のノズル面に傷をつけてしまうことを防
止することが可能となる。
【0046】
尚、前述したように、ワイパー46の先端部分は、プラテン部40の溝の底面よりも少
しだけ高い位置まで突き出しているが、ヘッドユニット30の底面には、ワイパー46と
対向する位置に退避穴49が設けられている。従って、図7(b)に示すように、ヘッド
ユニット30の底面をプラテン部40の溝の底まで降下させて、シール部材48に当接し
た状態であっても、ワイパー46の先端がヘッドユニット30の底に接触しないようにな
っている。こうした退避穴49を設けておけば、キャッピング時に、ワイパー46の先端
部分にヘッドユニット30の底が長時間にわたって押しつけられるのを防ぐことができる
ので、ワイパー46の劣化を軽減することが可能となる。また、ワイパー46でぬぐい取
ったインクがヘッドユニット30の底面に付着することを回避できるので、ヘッドユニッ
ト30の底面に付着したインクが印刷中に印刷用紙上に垂れることも防止できる。
【0047】
以上、本願発明の実施例について説明したが、本発明は上記に限られるものではなく、
その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0048】
例えば、上述した実施例では、プラテン部とキャップとワイパーは一体となっており、
プラテン部の全体を移動させることでワイピング動作を行うものと説明した。しかし、キ
ャップとワイパーとを備えたユニットをプラテン部の内部に設けておき、このユニットの
みを移動させることでワイピング動作を行うこととしてもよい。こうすれば、プラテン部
の全体を移動させる場合と比較して、プラテン部の摺動機構を簡略化することができる。
【0049】
また、ワイピング動作を実行するに際しては、プラテン部は移動させずに、ヘッドユニ
ットを移動させることとしてもよい。こうすれば、プラテン部の摺動機構を省略すること
が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…ラインプリンター、 30…ヘッドユニット、 32…噴射ヘッド、
40…プラテン部、 44…キャップ、 46…ワイパー、
48…シール部材、 49…退避穴、 50…吸引ポンプ、
90…駆動機構、 92…摺動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから被噴射媒体に向けて液体を噴射する液体噴射装
置であって、
前記噴射ヘッドに対して前記被噴射媒体を背面側から支える媒体支持部材と、
前記噴射ヘッドに当接することで前記噴射ノズルの周囲に閉空間を形成するキャップ部
材と、
前記キャップ部材と前記噴射ヘッドとを互いに当接あるいは離間させる駆動手段と、
前記キャップ部材が前記噴射ヘッドに当接した状態で前記噴射ノズルに負圧を作用させ
ることにより、該噴射ノズルから液体を吸引する液体吸引手段と、
前記噴射ヘッドの前記噴射ノズルが設けられたノズル面を摺動することで、該ノズル面
に付着した液体を拭き取るワイパー部材と、
前記ワイパー部材と前記ノズル面とを互いに摺動させる摺動手段と
を備え、
前記媒体支持部材は、前記噴射ヘッドと向き合う位置に凹部が設けられた部材であり、
前記キャップ部材および前記ワイパー部材は、前記凹部内に設けられた部材であり、
前記駆動手段は、前記媒体支持部材または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を駆動する
ことにより、前記キャップ部材と前記噴射ヘッドとを互いに当接あるいは離間させる手段
であり、
前記摺動手段は、前記媒体支持部材または前記噴射ヘッドの少なくとも一方を移動させ
ることにより、前記ワイパー部材と前記ノズル面とを互いに摺動させる手段である液体噴
射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記噴射ヘッドは、前記ノズル面に複数の前記噴射ノズルが列状に設けられた噴射ヘッ
ドであり、
前記キャップ部材は、所定個数の噴射ノズルに1つずつ設けられて、前記噴射ヘッドに
当接すると、該所定個数ずつの噴射ノズルの周囲に閉空間を形成する部材であり、
前記ワイパー部材は、前記キャップ部材に対して、前記噴射ノズルが並んだ方向に隣接
して設けられた部材であり、
前記摺動手段は、前記噴射ノズルが並んだ方向に、前記ワイパー部材と前記ノズル面と
を互いに摺動させる手段である液体噴射装置。
【請求項3】
前記凹部の周囲には、前記噴射ヘッドに当接することで該凹部内に閉空間を形成するシ
ール面が設けられている請求項2に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121260(P2011−121260A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280182(P2009−280182)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】