説明

液体噴射装置

【課題】高粘度液体を噴射する場合にサテライト滴を抑えることが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】噴射パルスDPは、圧力室を膨張させるように電圧が変化する膨張要素p1と、当該膨張要素の後端電位を一定時間保持する膨張ホールド要素p2と、圧力室を収縮させるように電圧が変化する収縮要素と、を順に接続して有し、膨張要素の始端から終端までの時間t1と、収縮要素の始端から終端までの時間t2とが、それぞれ以下の範囲内に設定された。
Tc/3≦t1≦Tc…(A)
Tc/3≦t2≦Tc…(B)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置に関し、特に、噴射パルスを用いて圧力発生手段を駆動してノズルから液体を噴射する構成の液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録紙等の記録媒体(着弾対象)に対して噴射・着弾させてドットを形成することで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置が応用されている。
【0003】
上記プリンターは、噴射駆動パルスを圧力発生手段(例えば、圧電振動子や発熱素子等)に印加してこれを駆動することにより圧力室内の液体に圧力変化を与え、この圧力変化を利用して圧力室に連通したノズルから液体を噴射させるように構成されたものがある。例えば、特許文献1に開示されているプリンターでは、ノズルのメニスカスを圧力室側に最大限引き込む準備の膨張工程と、この状態を保持してインク滴の噴射のタイミングを図るホールド工程と、圧力室の収縮によってインク滴を噴射させる第1の収縮工程と、噴射動作の反動によるメニスカスの引き込みを低減する第2の収縮工程と、を含む駆動パルス(駆動波形)が用いられている。即ち、膨張工程でメニスカスを圧力室側に引き込んだ後、圧力室側を収縮させることにより、メニスカスの引き込みの反動を利用してインク滴を噴射させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3412682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プリンターで、粘度がいわゆる高粘度領域の液体、例えば8mPa・s以上の液体(以下、高粘度液体)を噴射させる場合、水系のインクのように低粘度の液体を噴射する場合と比較して、噴射された液滴の進行方向後端部分が尾のように伸びる現象(以下、尾曳と称する。)が生じ易い傾向にある。このような尾曳が生じると、着弾対象における着弾形状(ドット形状)が乱れる可能性がある。即ち、着弾形状は、画質上またはデバイスの性能上目標とする大きさの円形や楕円形であることが望ましいが、尾の全体又は一部分が液滴本体から分離してサテライト滴として飛翔した場合には、着弾対象物において液滴本体とは別の位置に着弾する可能性もある。このような着弾形状の乱れは、例えばプリンターで記録紙に画像を記録したときの画質の劣化の原因となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体を噴射する場合にサテライト滴の発生を抑えることが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体が充填される圧力室と、当該圧力室に連通し、液体が噴射されるノズルと、前記圧力室内の液体に圧力変化を与える圧力発生手段と、を有する液体噴射ヘッド、及び、前記ノズルから液体を噴射させるべく前記圧力発生手段を駆動する噴射パルスを発生する噴射パルス発生部を備えた液体噴射装置であって、
前記噴射パルスは、前記圧力室を膨張させるように電圧が変化する第1電圧変化要素と、当該第1電圧変化要素の後端電位を一定時間保持するホールド要素と、前記第1電圧変化要素によって膨張された圧力室を収縮させるように電圧が変化する第2電圧変化要素と、を順に接続して有し、
前記第1電圧変化要素の始端から終端までの時間t1と、第2電圧変化要素の始端から終端までの時間t2とが、それぞれ以下の範囲内に設定されたことを特徴とする。
Tc/3≦t1≦Tc…(A)
Tc/3≦t2≦Tc…(B)
【0008】
本発明に係る液体噴射装置では、第1電圧変化要素の始端から終端までの時間t1と、第2電圧変化要素の始端から終端までの時間t2とが、それぞれTc/3≦t1≦Tc、Tc/3≦t2≦Tcに設定されている。このため、特に高粘度液体を噴射する場合において液滴本体から分離して飛翔するサテライト滴の発生を抑制することができる。即ち、噴射パルスによって圧力発生手段を駆動してノズルから液体を噴射させる際に、圧力室の膨張および収縮の速度が、噴射特性を低下させない程度に緩やかであるので、ノズルの内壁に近い部分である境界層を中央部に追従させることができ、境界層と中央部との速度差を抑制することができる。その結果、従来よりも液滴の進行方向後端部に生じる尾曳が細長くなることが抑制され、これによりサテライト滴の発生が抑制される。
【0009】
上記構成において、前記第2電圧変化要素の時間t2が、以下の式を満たすように設定されることが望ましい。
Tc/2≦t2≦Tc…(C)
【0010】
また、本発明は、噴射時の前記ノズルにおける液体の粘度が8mPa・s以上30mPa・s以下である場合に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】プリンターの内部構成を説明する斜視図である。
【図2】印刷システムの構成を説明するブロック図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】本発明に係る噴射パルスの構成を説明する波形図である。
【図5】(a)〜(d)は本発明に係る噴射パルスによってノズルから液体が噴射される様子を説明する模式図である。
【図6】(a)〜(d)は未対策の噴射パルスによってノズルから液体が噴射される様子を説明する模式図である。
【図7】第2の実施形態における噴射パルスの構成を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0013】
図1に例示したプリンター1は、記録用紙、布、フィルム等の記録媒体に向けて、液体の一種であるインクを噴射する。記録媒体は、液体が噴射されて着弾する対象となる着弾対象である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、インクカートリッジ3(液体供給源の一種)が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を着弾対象の一種である記録紙8の紙幅方向に移動させるキャリッジ用移動機構6と、キャリッジ4の移動に伴ってエンコーダーパルスを出力するリニアエンコーダー7と、記録紙8を紙送り方向に移動させる紙送り機構9とを備えている。
【0014】
上記のキャリッジ用移動機構6は、プリンター1における主走査方向(紙幅方向)に架設されたガイド軸11と、主走査方向の一側に配設されたキャリッジ移動モーター12と、このキャリッジ移動モーター12の回転軸に接続され、キャリッジ移動モーター12によって回転駆動される駆動プーリー13と、駆動プーリー13とは反対側の主走査方向他側に配設された遊転プーリー14と、駆動プーリー13と遊転プーリー14との間に掛け渡され、キャリッジ4に接続されたタイミングベルト15とから構成される。キャリッジ移動モーター12は、キャリッジ用移動機構6における駆動源として機能し、例えば、パルスモーターやDCモーターが用いられる。このキャリッジ移動モーター12は、制御手段として機能する制御部25(図2参照)により、その回転速度や回転方向等が制御される。そして、キャリッジ移動モーター12が回転すると、駆動プーリー13及びタイミングベルト15が回転し、キャリッジ4がガイド軸11に沿って記録紙8の幅方向に移動する。つまり、このキャリッジ4に搭載された記録ヘッド2は、制御部25による制御の下で主走査方向に往復移動される。また、リニアエンコーダー7は、キャリッジ4の走査位置に応じたエンコーダーパルス(位置制御信号)を、主走査方向における位置情報として出力する。
【0015】
上記の紙送り機構9は、紙送り駆動源としての紙送りモーター16と、この紙送りモーター16によって回転駆動される紙送りローラー17とから構成される。本実施形態の紙送りローラー17は、上下一対のローラーで構成されている。即ち、下側に位置する駆動ローラーと上側に位置する従動ローラー(図示せず)によって構成されている。駆動ローラーは上端部分をプラテン5の上面から露出させた状態でプラテン5内に配設されており、この露出した部分の上に従動ローラーが配置される。そして、従動ローラーと駆動ローラーとによって記録紙8を挟み付け、この挟持状態で駆動ローラーを回転することで記録紙8を紙送り方向に移動させる。
【0016】
図2は、プリンター1の電気的な構成について説明するブロック図である。
このプリンターは、プリンターコントローラー20とプリントエンジン21とで概略構成されている。プリンターコントローラー20は、ホストコンピューター等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェ−ス(外部I/F)22と、各種データ等を記憶するRAM23と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM24と、各部の制御を行う制御部25と、クロック信号を発生する発振回路26と、記録ヘッド2へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路27(本発明における噴射パルス発生部の一種)と、ドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド2に出力するための内部インターフェ−ス(内部I/F)28と、を備えている。
【0017】
制御部25は、各部の制御を行うほか、外部装置から外部I/F22を通じて受信した印刷データを、ドットパターンデータに変換し、このドットパターンデータを内部I/F28を通じて記録ヘッド2側に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成されている。また、制御部25は、発振回路26からのクロック信号に基づいて記録ヘッド2に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
【0018】
駆動信号発生回路27は、制御部25によって制御され、圧電振動子30を駆動するための駆動信号を発生する。本実施形態における駆動信号発生回路27は、インク滴(液滴の一種)を噴射して記録紙8上にドットを形成するための噴射パルスや、ノズル50(図3参照)に露出したインク(液体の一種)の自由表面、即ち、メニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を一記録周期内に含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
【0019】
次に、プリントエンジン21側の構成について説明する。プリントエンジン21は、記録ヘッド2と、キャリッジ用移動機構6と、紙送り機構9と、リニアエンコーダー7とから構成されている。記録ヘッド2は、シフトレジスター(SR)31、ラッチ32、デコーダー33、レベルシフター(LS)34、スイッチ35、及び圧電振動子30を備えている。プリンターコントローラー20からのドットパターンデータSIは、発振回路26からのクロック信号CKに同期して、シフトレジスター31にシリアル伝送される。このドットパターンデータは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(噴射階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
【0020】
シフトレジスター31には、ラッチ32が電気的に接続されており、プリンターコントローラー20からのラッチ信号(LAT)がラッチ32に入力されると、シフトレジスター31のドットパターンデータをラッチする。このラッチ32にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー33に入力される。このデコーダー33は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電振動子30に対する噴射パルスの供給又は非供給が選択される。
【0021】
そして、デコーダー33は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター34に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター34に入力される。このレベルシフター34は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ35を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター34で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ35に供給される。このスイッチ35の入力側には、駆動信号発生回路27からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ35の出力側には、圧電振動子30が接続されている。
【0022】
そして、パルス選択データは、スイッチ35の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電振動子30への供給を制御する。例えば、スイッチ35に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ35が接続状態になって、対応する噴射パルスが圧電振動子30に供給され、この噴射パルスの波形に倣って圧電振動子30の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター34からはスイッチ35を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ35は切断状態となり、圧電振動子30へは噴射パルスが供給されない。
【0023】
このような動作を行うデコーダー33、レベルシフター34、スイッチ35、制御部25、及び駆動信号発生回路27は、噴射制御手段として機能し、ドットパターンデータに基づき、駆動信号の中から必要な噴射パルスを選択して圧電振動子30に印加(供給)する。その結果、圧電振動子30が伸張又は収縮し、この圧電振動子30の伸縮に伴って圧力室48(図3参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータを構成する階調情報に応じた量のインク滴がノズル50から噴射される。
【0024】
図3は、上記記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース37と、このケース37内に収納される振動子ユニット39と、ケース37の底面(先端面)に接合される流路ユニット38等を備えている。上記のケース37は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット39を収納するための収納空部40が形成されている。振動子ユニット39は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子30と、この圧電振動子30が接合される固定板41と、圧電振動子30に駆動信号等を供給するためのフレキシブルケーブル42とを備えている。圧電振動子30は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードの圧電振動子である。
【0025】
流路ユニット38は、流路形成基板43の一方の面にノズルプレート44を、流路形成基板43の他方の面に振動板45をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット38には、リザーバー46(共通液室)と、インク供給口47と、圧力室48と、ノズル連通口49と、ノズル50とを設けている。そして、インク供給口47から圧力室48及びノズル連通口49を経てノズル50に至る一連のインク流路が、各ノズル50に対応して形成されている。
【0026】
上記ノズルプレート44は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル50が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート44には、ノズル50を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル50によって構成される。
【0027】
上記振動板45は、支持板51の表面に弾性体膜52を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板51とし、この支持板51の表面に樹脂フィルムを弾性体膜52としてラミネートした複合板材を用いて振動板45を作製している。この振動板45には、圧力室48の容積を変化させるダイヤフラム部53が設けられている。また、この振動板45には、リザーバー46の一部を封止するコンプライアンス部54が設けられている。
【0028】
上記のダイヤフラム部53は、エッチング加工等によって支持板51を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部53は、圧電振動子30の自由端部の先端面が接合される島部55と、この島部55を囲む薄肉弾性部56とからなる。上記のコンプライアンス部54は、リザーバー46の開口面に対向する領域の支持板51を、ダイヤフラム部53と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー46に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0029】
そして、上記の島部55には圧電振動子30の先端面が接合されているので、この圧電振動子30の自由端部を伸縮させることで圧力室48の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室48内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル50からインク滴を噴射させるようになっている。
【0030】
図4は、上記駆動信号発生回路27が発生する駆動信号COMに含まれる噴射パルスDPの構成を説明する波形図である。噴射パルスDPは、圧力室48の容積の膨張・伸縮の基準容積に対応する基準電位VBから膨張電位VHまで電位を一定勾配で上昇させて圧力室48を基準容積から膨張容積まで膨張させる膨張要素p1(本発明における第1電圧変化要素に相当)と、圧力室48の膨張状態を一定時間維持する膨張電位VHで一定な膨張ホールド要素p2(本発明におけるホールド要素に相当)と、膨張電位VHから収縮電位VLまで電位を一定勾配で降下させて圧力室48を収縮容積まで収縮させる収縮要素p3(本発明における第2電圧変化要素に相当)と、圧力室48の収縮状態を維持する収縮電位VLで一定な収縮ホールド要素p4と、収縮電位VLから基準電位VBまで電位を一定勾配で上昇させて圧力室48を膨張させて基準容積まで復帰させる復帰要素p5と、を含んで構成されている。
【0031】
上記噴射パルスDPは、例えば紫外線硬化型のインクのように、8mPa・s以上30mPa・s以下の、いわゆる高粘度領域の粘度を持つ液体の噴射に対応するべく最適化されている(以下、このような高粘度のインクを噴射することを前提として説明する)。具体的には、膨張要素p1の始端から終端までの時間幅t1と、収縮要素p3の始端から終端までの時間幅t2に関し、圧力室48内のインクに生じる振動のヘルムホルツ周期(固有振動周期)をTcとしたときに、以下の各式を満たす値に設定される。
Tc/3≦t1≦Tc…(A)
Tc/3≦t2≦Tc…(B)
なお、収縮要素p3の時間幅t2に関し、以下の式を満たす値に設定することがより望ましい。
Tc/2≦t2≦Tc…(C)
本実施形態においては、t2=3Tc/4に設定される。
ここで、上記のTcは、一般的には次式(1)で表すことができる。
Tc=2π√〔(Mn+Ms)/(Mn×Ms×(Cc+Ci))〕…(1)
上記式(1)において、Mnはノズル50におけるイナータンス(単位断面積あたりのインクの質量)、Msはインク供給口47におけるイナータンス、Ccは圧力室48のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)、Ciはインクのコンプライアンス(Ci=体積V/〔密度ρ×音速c〕)である。
【0032】
各時間幅t1,t2を、Tcを超える値に設定した場合、噴射パルスDPによって圧電振動子30を駆動してノズル50からインクを噴射する際に、圧力室48内のインクに十分な圧力変動を与えることができず、所望の噴射特性(設計・仕様上、目標とするインク重量や飛翔速度等)が得られない。この場合、噴射パルスDPの駆動電圧Vd(最低電位VLから最高電位VHまでの電位差)をより高く設定する必要性が生じる。逆に、各時間幅t1,t2をTc/3未満に設定した場合、圧力変動に応じてノズル50内で移動するメニスカスにおいてノズル50の内壁に近い部分であって、インク自体の粘性による影響を強く受ける部分、即ち境界層が圧力変動に追従できず、メニスカスの中央部と境界層との間の速度差が大きくなり、ノズル50からインクを噴射したときの尾曳が細長くなってしまう。収縮要素p3の時間幅t2に関しては、上記式(C)を満たすように設定することで、噴射パルスDPの駆動電圧Vdを過度に高く設定することなく、より確実に所望の飛翔特性を確保することができる。
【0033】
図5は、上記噴射パルスDPが圧電振動子30に印加されてノズル50からインクが噴射されるまでのメニスカスの動きを説明する模式図である。なお、図における矢印はメニスカスの移動方向を示し、矢印の長さはメニスカスの移動速度の大まかな大きさを示している。また、図において上側が圧力室48側、下側が噴射側(着弾対象側)である。
まず、膨張要素p1により圧電振動子30が収縮して、基準電位VBに対応する基準容積から最高電位VHで規定される膨張容積まで圧力室48が膨張する(膨張工程)。これにより、図5(a)に示すように、メニスカスが圧力室48側に大きく引き込まれる。ここで、膨張要素p1の時間幅t1が、上記式(A)を満たすように設定されているので、メニスカスにおける境界層を中央部に追従させつつメニスカス全体を圧力室48側に引き込むことができる。この圧力室48の膨張状態は、膨張ホールド要素p2の供給期間中に亘って維持される(膨張維持工程)。ノズル50における内径が一定なストレート部50aと、圧力室48側に向けて次第に内径が大きくなるテーパー部50bとの境界を越える程度までメニスカス全体が引き込まれたタイミングで、収縮要素p3が圧電振動子30に印加されることにより、圧電振動子30が伸長して圧力室48の容積が膨張容積から最低電位VLで規定される収縮容積まで収縮する(収縮工程)。この圧力室48の収縮によって圧力室48内のインクが加圧される。これにより、図5(b)に示すように、メニスカスが圧力室48側とは反対側の噴射側に押し出され、圧力変動に追従し易いメニスカスの中心部分が柱状に盛り上がる(以下、この部分を柱状部という。)。ここで、収縮要素p3の時間幅t2が、上記式(B)を満たすように(望ましくは上記式(C)を満たすように)設定されているので、メニスカスの中央部(柱状部)と境界層との移動速度差を抑えつつメニスカス全体を噴射側に押し出すことができる(図5(c))。
【0034】
圧力室48の収縮状態は、収縮ホールド要素p4の供給期間に亘って維持される。その後、図5(d)に示すように、柱状部が噴射側に大きく伸びる。この柱状部は、根元部分でメニスカスと分離し、この分離した部分が、ノズル50からインク滴として噴射される。そして、収縮ホールド要素p4の後に続いて、インク滴の噴射による反動でメニスカスが圧力室48側に一旦引き込まれた後、再度噴射側に押し出されるタイミングで、復帰要素p5が圧電振動子30に印加される。これにより、圧力室48が収縮容積から基準容積まで膨張する(復帰工程)。その結果、メニスカスの残留振動が抑制される。
【0035】
このように、本発明に係る噴射パルスDPを用いて噴射動作を行うことで、高粘度のインクを用いる場合においても、所望の噴射特性を確保しつつも、インク滴の進行方向後端部に生じる尾曳が従来よりも細長くなることが抑制される。この尾がインク滴本体から分離した場合でも、細かいミスト等の発生が防止され、ドットの分離を抑制することができる。
【0036】
これに対し、膨張要素p1の時間幅t1および収縮要素p3の時間幅t2をそれぞれTc/3未満(例えば、Tc/4)に設定した構成の場合、図6に示すように、膨張工程および膨張維持工程までは上記噴射駆動パルスDPの場合と同様であるが(図6(a))、収縮工程では、収縮要素p3により圧力室48が膨張容積から収縮容積まで急激に収縮するため、図6(b)及び(c)に示すように、圧力変動に追従し易いメニスカス中心部の柱状部に対して境界層が追従できず、図6(d)に示すように、本発明に係る噴射パルスDPの場合と比較して、柱状部が細長くなってしまう。このため、柱状部が根元部分でメニスカスと分離してノズル50からインク滴として噴射されたときに、尾の部分がインク滴本体から分離し、この分離した部分がより細かいミスト状になりやすい。このミスト化した部分が、記録紙8等の着弾対象に対して、インク滴本体から離れた位置に着弾すると、記録された画像等の画質に悪影響を及ぼす等の不具合が生じる可能性がある。
【0037】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0038】
上記実施形態では、本発明における噴射パルスの一例として、図4に示す噴射パルスDPを挙げて説明したが、噴射パルスの形状はこれには限られない。
例えば、図7は第2の実施形態における噴射パルスDP′の構成を例示する図である。この第2の実施形態における噴射パルスDP′は、圧力室48の収縮容積に対応する基準電位VBから膨張電位VHまで電位を上昇させて圧力室48を収縮容積から膨張容積まで膨張させる膨張要素p1と、圧力室48の膨張状態を一定時間維持する膨張電位VHで一定な膨張ホールド要素p2と、膨張電位VHから基準電位VBまで電位を降下させて圧力室48を収縮容積まで収縮させる収縮要素p3と、を含んで構成されている。そして、上記噴射パルスDP′は、膨張要素p1の始端から終端までの電位差と収縮要素p3の始端から終端までの電位差とが噴射パルスDP′の駆動電圧Vd′で等しい点、及び、収縮ホールド要素p4と復帰要素p5とを有していない点、で上記第1の実施形態における噴射パルスDPと異なっている。その他の構成については上記第1実施形態と同様であるためその説明については省略する。
【0039】
本実施形態における噴射パルスDP′においても、膨張要素p1の始端から終端までの時間幅t1と、収縮要素p3の始端から終端までの時間幅t2に関し、上記の各式(A),(B)を満たすように設定される。当該噴射パルスDP′を用いて高粘度のインクを噴射する場合においても、上記第1の実施形態における噴射パルスDPと同様に、所望の噴射特性を確保しつつも、インク滴の進行方向後端部に生じる尾曳が従来よりも細長くなることが抑制される。
【0040】
また、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子30を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
【0041】
そして、本発明は、噴射パルスを用いて噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0042】
1…プリンター,2…記録ヘッド,25…制御部,27…駆動信号発生回路,30…圧電振動子,48…圧力室,50…ノズル,DP…噴射駆動パルス,p1…膨張要素,p2…膨張ホールド要素,p3…収縮要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填される圧力室と、当該圧力室に連通し、液体が噴射されるノズルと、前記圧力室内の液体に圧力変化を与える圧力発生手段と、を有する液体噴射ヘッド、及び、前記ノズルから液体を噴射させるべく前記圧力発生手段を駆動する噴射パルスを発生する噴射パルス発生部を備えた液体噴射装置であって、
前記噴射パルスは、前記圧力室を膨張させるように電圧が変化する第1電圧変化要素と、当該第1電圧変化要素の後端電位を一定時間保持するホールド要素と、前記第1電圧変化要素によって膨張された圧力室を収縮させるように電圧が変化する第2電圧変化要素と、を順に接続して有し、
前記第1電圧変化要素の始端から終端までの時間t1と、第2電圧変化要素の始端から終端までの時間t2とが、それぞれ以下の範囲内に設定されたことを特徴とする液体噴射装置。
Tc/3≦t1≦Tc…(A)
Tc/3≦t2≦Tc…(B)
【請求項2】
前記第2電圧変化要素の時間t2が、以下の式を満たすように設定されたことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
Tc/2≦t2≦Tc…(C)
【請求項3】
噴射時の前記ノズルにおける液体の粘度が8mPa・s以上30mPa・s以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−207080(P2011−207080A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77521(P2010−77521)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】