説明

液体塗布具用塗布体

【課題】防カビ剤や漂白剤等に配合されている次亜塩素酸ナトリウムによって化学的劣化を起すことがなく長期にわたって、薬剤を塗布する機能を十分に発揮することができるフェルトペン型塗布具を提供する。
【解決手段】合成繊維をバインダーで結束させてなる液体塗布具用塗布体であって、合成繊維がポリエステル繊維であり、バインダーがウレタン樹脂であり、液体には少なくとも次亜塩素酸ナトリウムが含まれていることを特徴とする液体塗布具用塗布体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防カビ剤や漂白剤等の液体を塗布するための塗布体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、防カビ剤等の薬剤を塗布することを目的として、薬剤を含んだフェルト状の中綿を内蔵し、フェルトペン体をセットしたホルダーを先端に取りつけた、フェルトペン型塗布具が開示されている(特許文献1)。そして、前記フェルトペン体は、毛細管作用を生ずるものであれば、フェルト、合成繊維束等を採用可能であるとの記載がある。さらに、この種の塗布具を用いて薬剤を塗布する方法は、従来のスプレー式に比べ、余分なところに薬剤を付けることなく、細かいところでも均一に薬剤を塗布できると記載されている。
【特許文献1】実開昭60−99253号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記ペン体の種類によっては、防カビ剤や漂白剤等に配合されている次亜塩素酸ナトリウムによって化学的劣化を起こし、それにより強度が低下したペン体は、塗布体としての使用には適さないものとなる。ここで化学的劣化とは、ペン体が化学反応を起こして劣化する現象をいい、具体的には、ペン体が膨潤や分解を起こす現象をいう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、上記の課題を解決するために完成された発明は、合成繊維をバインダーで結束させてなる液体塗布具用塗布体であって、前記合成繊維がポリエステル繊維であり、前記バインダーがウレタン樹脂であり、前記液体には少なくとも次亜塩素酸ナトリウムが含まれていることを特徴とする液体塗布具用塗布体である。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、合成繊維としてポリエステル繊維を採用し、バインダーとしてウレタン樹脂を採用しているため、前記次亜塩素酸ナトリウムの影響による化学的劣化によって、ペン体が膨潤や分解を起こすことがない。そのため、長期にわたって、ペン体の強度が低下することなく、薬剤を塗布する機能を十分に発揮することができる。ここで、バインダーとは、繊維を樹脂で結束させた所謂繊維ペン芯の、当該樹脂のことをいう。
また、薬剤を塗布する機能とは、従来よりこの種のフェルトペン型塗布具がもつ作用効果であって、次が挙げられる。
タイルの目地など細かいところに均一に薬剤を塗布できる。余分なところへ薬剤を誤って付けることがないので、薬剤の必要量が少なく、人体への影響も少ない。天井面や、顔より上方に薬剤を塗布する場合、従来のスプレー式では、薬剤の飛散が大きく人体に対する危険が大きかったが、フェルトペン型塗布具であればその危険性は大きく軽減される。また、スプレー式と違い、ペン体を被塗布部へ直接接触させて薬剤を塗布するため、カビ等の汚れに対して、物理的作用である摩擦力で除去することもできる。また、ペン体を淡色とした場合、ペン体表面にカビが付着し、使用者にとってカビの除去状況をよく確認できる利点がある。さらに、ペン体表面にカビが付着した状態で放置しておくと、カビが薬剤により漂白されて消色し、次に使用する際、ペン体表面がキレイで見栄えがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明を実施するための最良の形態について、以下具体的に説明する。
液体塗布具としては、本体に薬剤を含んだフェルト状の吸収体を内蔵し、塗布体(ペン体)をセットしたホルダーを、前記本体先端に取りつけた、フェルトペンと称される構成を採用できる。また、フェルト状の吸収体を用いず、薬剤を直接本体内に入れ、塗布体(ペン体)をセットしたホルダーを、前記本体先端に取りつけただけの構成でもよい。
また、塗布液を容器内に入れ、塗布体を押すと開閉弁が開いて容器から塗布液が塗布体へ滲み出る構造であるフェルトペン、サインペン、修正液塗布具等として広く知られている液体塗布具も採用可能である(例えば実公平3−44099号の発明が開示されている)。そして、部材はそのままで、インキや修正液のみを本薬剤に置換えて採用することができる。
前記塗布具の部材中、本体、吸収体、ホルダー、容器、弁等は、次亜塩素酸ナトリウムによって化学的劣化を起こさないものであれば、その材質は適宜採用可能であり、また、形状も適宜採用可能である。
【0007】
前記塗布体は、繊維をバインダーで結束させた繊維束で、繊維としては、ポリエステル繊維を採用可能である。バインダーとしては、ウレタン樹脂を採用可能である。
塗布体を構成する繊維束は、ポリエステル樹脂を加熱して溶融させるか、あるいは溶剤で溶解してから、ダイスに所定の圧力で供給することによって得られるフィラメント(長繊維タイプ)又はスライバー(短繊維タイプ)をバインダーで結束させて得るもので、所定の長さにカットしたのち、切削して所望の形状に調製するものである。
ポリエステル繊維をウレタン樹脂で結束させた塗布体として、例えば、EH−325N(テイボー株式会社製)、EB−049F(テイボー株式会社製)、ET−043RP(テイボー株式会社製)を採用可能である。
また、塗布体としては、フェルトも使用可能である。フェルトは、繊維をランダム配列させたウェッブを積層し、その後合成樹脂で接着させてシート状にしたものを、トムソン刃を用いた油圧裁断機、打ち抜きプレス機、あるいはスリッター加工等で所望の形状に加工し使用できる。
【0008】
前記薬剤は、次亜塩素酸ナトリウムを含むのであれば、種々の防カビ剤や漂白剤を採用可能である。例えば、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、界面活性剤、水を適宜混合配合したものが挙げられる。
【実施例】
【0009】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
表1には、実施例及び比較例の詳細と、試験結果を示す。

【0010】
表中、浸漬試験、塗布体強度劣化試験、塗布体磨耗性試験、製品組付け試験は、次のように行った。
浸漬試験は、カビ取り用洗浄剤、商品名「カビキラー」(ジョンソン株式会社製)を入れた容器内に、塗布体を完全に浸し、蓋をして温度50℃に1週間保管した。1週間後、室温まで徐冷した後、塗布体の外観を目視確認すると共に、外形寸法をノギスで測定した。
塗布体強度劣化試験は、前記外観確認及び外形寸法測定を終えた塗布体を、プッシュプルゲージの所定位置で挟み、塗布体が潰れたり折れたりするときの荷重を測定した。
塗布体磨耗性試験は、前記外観確認及び外形寸法測定を終えた塗布体を、タイル目地に対して垂直に保持した状態で、荷重100g、移動速度10cm/sで、100往復させたときの塗布体の外観と外形寸法を測定した。
ここで、実施例1の塗布体として、EH−325N(テイボー株式会社製)を、実施例2の塗布体として、EB−049F(テイボー株式会社製)を、比較例1の塗布体として、EFM−427P(テイボー株式会社製)を、比較例2の塗布体として、AN−543R65(テイボー株式会社製)を、比較例3の塗布体として、NB−132C(テイボー株式会社製)を使用した。
製品組付け試験は、液体塗布具(シヤチハタ株式会社製ペイントマーカー)に、各実施例および各比較例の塗布体を組みつけ、薬剤として、カビ取り用洗浄剤、商品名「カビキラー」(ジョンソン株式会社製)を入れ、防カビ剤塗布具を作製した。
そして、塗布体を押して開閉弁を開く動作を20回繰り返し、薬剤を塗布体へ十分に浸透させた後、キャップをして、温度50℃に1週間保管した。1週間後、室温まで徐冷した後、塗布体の状態を指触及び塗布試験により確認した。塗布試験は、キャップを開けた後、塗布体を100g荷重でタイル目地に押し付けたときの塗布体の状態を目視観察した。
【0011】
浸漬試験結果より、実施例1、2は、外観・外形寸法共に、初期と差がなかった。一方で、比較例1、2は、外形寸法が約5%膨潤し、比較例3は、塗布体が分解現象を起こしていた。
塗布体強度劣化試験結果より、実施例1、2は、荷重1kgで折れたが、これは初期強度と同等であり、塗布体としては十分な強度を有していた。一方で、比較例1、2は、荷重50gで折れてしまい、塗布体としては、強度不十分であった。また、比較例3は、塗布体が分解していたため、試験自体不可能であった。
塗布体磨耗性試験結果より、実施例1、2は、100往復でも磨耗しなかったが、比較例1、2は、塗布体が折れて計測不能であった。また、比較例3は、塗布体が分解していたため、試験自体不可能であった。
製品組付け試験の結果より、実施例1、2は、初期と差がなく、タイル目地に薬剤を塗布する上で、潰れなく十分な強度が保たれていた。一方、比較例1、2は、塗布体が折れて塗布不可能であり、また、比較例3は、塗布体が分解現象を起こし、これも塗布不可能であった。
これらの結果から、塗布体のバインダー樹脂であるメラミン樹脂や、塗布体繊維であるナイロン繊維が、薬剤中に含まれる次亜塩素酸ナトリウムの影響により化学的劣化を起こし、その結果塗布体としての強度が低下したものと推察される。
【0012】
尚、本発明を前記実施例により説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う塗布体もまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維をバインダーで結束させてなる液体塗布具用塗布体であって、前記合成繊維がポリエステル繊維であり、前記バインダーがウレタン樹脂であり、前記液体には少なくとも次亜塩素酸ナトリウムが含まれていることを特徴とする液体塗布具用塗布体。

【公開番号】特開2010−29762(P2010−29762A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193390(P2008−193390)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(390017891)シヤチハタ株式会社 (162)
【Fターム(参考)】