説明

液体試料中のアルブミンを測定するための液状試薬

【課題】尿などの液体試料中の微量アルブミンを特異的かつ簡便に、免疫学的測定法に匹敵するほどの感度で、そして、免疫学的測定法では測定できない変性アルブミン(免疫非応答性アルブミン)も含めて高感度に測定することのできる液状試薬を提供する。
【解決手段】液体試料中の微量アルブミンを測定するための液状試薬であって、化学式1で示される化学構造を有する指示薬と、pHを1.0〜3.0に調整したクエン酸緩衝液および酢酸緩衝液のうちの少なくとも一方の緩衝液と、非イオン性界面活性剤と、を含ませた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中のアルブミンを高感度かつ特異的に測定するための液状試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中の蛋白質を測定することは、病理学的診断において重要である。たとえば、肝臓機能が低下した場合には、血清アルブミンの量が減少する。一方、腎炎、ネフローゼ症候群、結石、腫瘍等の腎・尿路疾患の場合には、尿中の蛋白質の量が増加する。また、近年では、生活習慣病である糖尿病、肥満、高血圧、あるいは動脈硬化に起因する心筋梗塞や脳梗塞等の危険性のある患者においても、尿中のアルブミンの量が増加することが指摘されている。生活習慣病を改善する方法として、各種降圧剤を投与して効果があった場合は、尿中アルブミンが減少する。従って、尿中に微量に排泄されるアルブミンを高感度に、特異的に、簡便に、安価に測定することは、上記疾患の早期診断と治療方針の適切化、治療効果の判定のために、また、重篤な生活習慣病に進行させないための各個人の予防意識を向上させる動機付けに、重要な指標となっている。
【0003】
高感度に尿中アルブミンを測定する目的のために、各種測定方法が開発されてきた。特に、近年、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが高いメタボリックシンドローム(中心肥満症候群)の概念が提唱され、上記の糖尿病性腎症の尿中アルブミンの診断基準以下でもメタボリックシンドロームを発症していることが報告されており、さらに高感度な測定法が要求されている。
【0004】
米国糖尿病学会は、糖尿病性腎症である微量アルブミン尿の診断基準は、20mg/L(2mg/dL)以上、200mg/L以下であると提唱している。この診断基準付近を正確に測定するために、測定法として20mg/L(2mg/dL)以下が精度良く測定できる方法が要望される。その方法の最小検出感度は1〜5mg/L(0.1〜0.5mg/dL)まで測定できる必要がある。
【0005】
アルブミンを含む尿中蛋白質のスクリーニング検査として、試験紙法が汎用されている。試験紙法では、主に蛋白質誤差法が用いられている。この方法は、pH指示薬として、たとえばテトラブロムフェノールブルー(TBPB)が用いられており、アルブミンの等電点付近でアルブミンのアミノ基があたかも塩基性を示し、pH指示薬であるTBPBを発色させる。試験紙法にするためには、TBPBと緩衝剤を濾紙などに含浸乾燥させて、プラスチックフィルム片に貼付して尿蛋白測定用試験紙を作製し、スクリーニング用として広く用いられている。上記pH指示薬を用いた蛋白誤差法による試験紙法の最小検出感度は、150mg/L(15mg/dL)で、感度的には不十分であった。
【0006】
近年、蛋白誤差法を改良して尿中アルブミンを高感度に測定できる試験紙法が開発された。pH指示薬として、ビス(3’,3’’−ジヨード−4’,4’’−ジヒドロキシ−5’,5’’−ジニトロフェニル)−3,4,5,6−テトラブロモスルホフタレインを用いた試験紙法で、検出感度は10mg/Lである。TBPB法よりも、約10倍近く高感度化されているが、まだ感度が低い課題があった。
【0007】
さらに、尿中アルブミンを高感度に測定できる蛋白結合法(疎水結合)を用いた試験紙法が開発された。アルブミン結合色素として、4,5,6,7−テトラクロロ−2’,4’,5’,7’−テトラヨード−フルオレセイン二ナトリウム塩(慣用名:アシッドレッド94、ローズベンガル)を用いた試験紙法で、検出感度は同様に10mg/Lである。(特許文献1)
【0008】
高感度かつ特異的に尿中微量アルブミンを測定する方法として、免疫比濁法や免疫ラテックス凝集法が一般に用いられている。これら免疫法は1mg/L(0.1mg/dL)まで測定できる高感度な方法であり、免疫反応であるためにアルブミンに特異性が高い方法である。しかし、アルブミン濃度が20mg/L以下で正常と判定された尿試料においても、電気泳動法や液体クロマトグラフィー法において、変性アルブミンやグロブリンが多数検出される例が存在するとの報告がある。免疫法で用いられる抗体は、人血清アルブミンの1つ分画を抗原にして作製されている。尿中に排泄されるアルブミンには変性アルブミン(立体構造が変化したもの、薬物やビリルビンが結合したもの、糖化やスルフォニル化したもの、側鎖が切断された低分子アルブミン等)が多く排泄されている。アルブミンの抗原認識部位(エピトープ)に各種化合物が結合したり、変性したアルブミン(免疫非応答性アルブミン)を本免疫法では測定することができないことが指摘されている(非特許文献1)。
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2004/015423号公報
【非特許文献1】Clinical Chemistry 50: 2286-2291, 2004. Characterization ofImmunochemically Nonreactive Urinary Albumin Tanya M. Osicka and Wayne D.Comper
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
尿中蛋白質のスクリーニング検査として多用されているTBPBを指示薬として用いた試験紙法の最小検出感度は15mg/dLで、米国糖尿病学会の微量アルブミン尿の診断基準である20mg/L(2mg/dL)の低濃度付近のアルブミンを測定できない課題があった。当然、上記の診断基準を満足させるための最小検出感度:1〜5mg/L(0.1〜0.5mg/dL)付近では検出不可能か、又はその濃度差を定量的に識別できない。
【0011】
非特許文献1に記載されているような、各種変性アルブミンを測定する方法として、液体クロマトグラフィー法や電気泳動法を用いて分離分析して測定する方法があるが、高価な特別な装置が必要であり、また操作が煩雑で実用向きではない。信頼性向上のために、各変性アルブミンに対する抗体を作製して混合抗体で免疫学的に測定することも考えられるが、さらに高コストになり、極めて現実性が無くなる。
【0012】
そこで本発明は、尿などの液体試料中の微量アルブミンを特異的かつ簡便に、免疫学的測定法に匹敵するほどの感度で、そして、免疫法では測定できない変性アルブミン(免疫非応答性アルブミン)も含めて高感度に測定することのできる液状試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記化学式1または下記化学式2で示される化学構造を有する指示薬と、pHを1.0〜3.0に調整したクエン酸緩衝液および酢酸緩衝液のうちの少なくとも一方の緩衝液と、非イオン性界面活性剤と、を含むことを特徴とする、液体試料中の微量アルブミンを特異的に測定するための液状試薬である。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【発明の効果】
【0016】
本発明者らは鋭意研究の末、先述の特許文献1に記載のアルブミン高感度測定方法を改良し、さらに高感度に、さらにアルブミンに特異的である処方を見出し、本発明を完成させた。これにより、免疫学的測定法にも匹敵する感度を有しながら、より低濃度のアルブミンを特異的に測定できる。また、特許文献1に記載のアルブミン高感度測定方法は、蛋白質自体を染色することが原理であり、抗原認識部位の有無や性質にとらわれないために、本発明では免疫学的測定法では測定できない免疫非応答性アルブミンも測定することが可能となった。
【0017】
また、本発明の液状試薬を用いる場合には、免疫非応答性アルブミンをも同時に測定するために、液体クロマトグラフィー法や電気泳動法を利用した高価で操作が煩雑な特別の装置が不要であり、本発明の液状試薬は指示薬として安価に入手可能な試薬を用いている。そのため、本発明の液状試薬は、安価かつ簡易にアルブミンを高感度で測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の液状試薬は、微量アルブミン測定用指示薬として、色素結合法で用いられるハロゲン化キサンテン系色素のうち、下記化学式3で示される化学構造を有するアシッドレッド92(一般名:フロキシンB(Phloxine B))または下記化学式4で示されるアシッドレッド94(一般名:ローズベンガル(Rose Bengal))を使用するものである。
【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
本発明の液状試薬におけるアシッドレッド92(上記化学式3)およびアシッドレッド94(上記化学式4)の濃度は、測定対象である微量アルブミンの濃度によって変更可能であり、たとえば0.005〜0.2mmol/Lである。好ましくは、液状試薬に含有される指示薬の濃度は、0.01〜0.1mmol/Lとされる。
【0022】
本発明の液状試薬はさらに、反応系のpHを1.0〜3.5の条件に調整することのできるクエン酸および酢酸緩衝液のうちの少なくとも一方の緩衝液と、非イオン性界面活性剤と、を含んでいる。
【0023】
緩衝液としては、液状試薬に含有される指示薬がアシッドレッド92(上記化学式3)である場合には、反応系のpHを2.5〜2.8とすることができるものを使用するのが好ましい。この場合、緩衝液としては、クエン酸緩衝液を使用するのが好ましい。
【0024】
一方、液状試薬に含有される指示薬がアシッドレッド94(上記化学式4)である場合には、緩衝液としては反応系のpHを2.2〜3.5とすることができるものを使用するのが好ましい。この場合、緩衝液としては、酢酸緩衝液を使用するのが好ましい。
【0025】
液状試薬に含有される緩衝液の濃度は、たとえば0.01〜0.5mol/Lとされ、好ましくは0.05mol/Lとされる。
【0026】
液状試薬に含有される非イオン性界面活性剤は、指示薬であるアシッドレッド92およびアシッドレッド94の溶解性を向上させるためのものである。非イオン性界面活性剤としては、指示薬とアルブミンとの反応性を阻害させないものを使用するのが好ましく、ポリオキシオクチルフェニルエーテルシリーズ(エトオキシル基が7〜70)が好ましく使用され、一般名Triton X-100(Union Carbide Chemicals and Plastic Co.の登録商標)として市販されているポリオキシ(10)オクチルフェニルエーテルを使用することで、よりアルブミンに対する特異性を上げることができる。液状試薬における非イオン性界面活性剤の濃度は、たとえば0.01〜1.0%とされ、最適濃度は0.1〜0.5%である。
【0027】
本発明による液状試薬は、基本的に、一液系の形態でも、二液系の形態でも、好ましく使用できる。二液系の形態の場合、指示薬(アシッドレッド92又はアシッドレッド94)と非イオン性界面活性剤が、別個の溶液(R1試薬およびR2試薬)として独立して存在させられる。液体試料にR1試薬を加え混合して吸光度(A)を測定して、次にR2試薬を添加して混合して吸光度(B)を測定して、(B)−[(A)×容量係数]より検体盲検を差し引いた測定値を得ることができる。
【0028】
ここで、R1試薬は、非イオン性界面活性剤と、クエン酸緩衝液および酢酸緩衝液のうちの少なくとも一方の緩衝液と、を含んだものとされる。
【0029】
一方、R2試薬は、指示薬(アシッドレッド92又はアシッドレッド94)と、クエン酸緩衝液および酢酸緩衝液のうちの少なくとも一方の緩衝液と、を含んだものとされる。
【0030】
R1試薬における非イオン性界面活性剤および緩衝液の濃度は、R2試薬と混合したときの最終濃度が先に説明した濃度範囲となるように設定される。たとえば、非イオン性界面活性剤の最終濃度は0.01〜1.0%とされ、指示薬の最終濃度は0.005〜0.2mmol/Lとされ、緩衝液の最終濃度は0.01〜0.5mol/Lとされる。
【0031】
二液系として調製した液状試薬は、非イオン界面活性剤及び緩衝液を含むR1試薬と指示薬及び緩衝液を含むR2試薬を、予め、混合して一液系として使用することができる。この場合には検体盲検は測定できないが、試薬盲検で代用することができる。
【0032】
二液系として調製した液状試薬を二液系として使用する場合および一液系として使用する場合における測定方法の一例を示すと、表1の通りとなる。ここで、表1において、たとえば吸光度測定AはR1試薬200μLに尿試料30μLを添加して吸光度を測定する場合を示しており、吸光度測定Bは吸光度測定Aに使用した尿試料とR1試薬との混合液にR2試薬100μL添加して吸光度を測定する場合を示している。表1に関しては、吸光度測定C〜Iについても吸光度測定A,Bと同様な見方をするものとする。ここで、表1の吸光度測定Aは、R1試薬を検体盲検として使用する場合に相当している。なお、本測定方法は一例であって、自動分析装置の種類や測定対象の試料の種類によって、試料量やR1試薬、R2試薬の量は適宜変更して使用することができる。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の液状試薬は、尿、血液、髄液、唾液、涙液、胃液、およびアルブミン含有液(例えば、輸液、組織抽出液、蛋白精製液、食品等)などの液状試料中のアルブミン濃度を測定するために使用することができ、液体試料が尿検体である場合に特に有用である。
【0035】
次に、本発明を、以下の実施例により説明する。なお、本発明は、下記の実施例に制限されない。また、以下の実施例における指示薬(アシッドレッド92又はアシッドレッド94)の濃度は、100mg/dLのアルブミンを測定できる濃度である、0.05mmol/Lに設定した。その理由は、早期腎症や動脈血管の障害を検出するには、糖尿病性腎症の診断基準2mg/dLが重要で、100mg/dL以上は顕性腎症で重篤な状態になっているので、これ以上の濃度を測定するのは意味が無いからである。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、指示薬としてアシッドレッド92およびアシッドレッド94を用いる場合において、緩衝液の種類の最適化を行なう前に、液状試薬における緩衝液のpHがアルブミンとの反応性に与える影響について検討した。
【0037】
液状試薬に含有させる緩衝液としては酒石酸緩衝液(0.1mol/L)を用い、pHは2.3〜3.5とし、アルブミンに対する反応性を確認した。アルブミンに対する反応性は、液体試料として、人血清アルブミン、α,β−グロブリン、およびγ−グロブリンの3種について、それぞれ20mg/dL水溶液を用い、吸光度を測定することにより確認した。吸光度の測定結果については、アルブミンの吸光度を100%としたときの各グロブリンの吸光度の相対値(%)として反応性を評価し、アシッドレッド92については表2に、アシッドレッド94については表3にそれぞれ示した。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、指示薬としてアシッドレッド92を用いた場合には、pH2.5およびpH2.8でアルブミンへの反応性が高く、グロブリンに対する反応性が低いことが分かった。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すように、指示薬としてアシッドレッド94を用いる場合には、pH2.2からpH3.5の範囲でアルブミンへの反応性が高く、グロブリンに対する反応性が低いことが分かった。
【実施例2】
【0042】
本実施例では、指示薬としてアシッドレッド92およびアシッドレッド94を用いる場合において、緩衝液の種類がアルブミンとの反応性に与える影響について検討した。
【0043】
指示薬としてアシッドレッド92を用いる場合には、緩衝液として、クエン酸、酒石酸、フタル酸、およびグリシンの各緩衝液を0.05mol/L、pH2.8に調整したものを用いた。各緩衝液を用いた場合の反応性は、人血清アルブミン、α,β−グロブリン、およびγ−グロブリンの3種について、それぞれ20mg/dL水溶液を用い、実施例1と同様にして吸光度を測定することにより確認した。吸光度の測定結果については、アルブミンの吸光度を100%としたときの各グロブリンの吸光度の相対値(%)として反応性を評価し、表4に示した。
【0044】
【表4】

【0045】
表4から分かるように、クエン酸(0.05mol/L、pH2.8)が、最もアルブミンに対する吸光度が高く、かつグロブリンとの反応性が低く、アルブミンに特異的であった。
【0046】
一方、指示薬としてアシッドレッド94を用いる場合には、緩衝液として、クエン酸、酢酸、ギ酸、およびグリシンの各緩衝液を0.05mol/L、pH2.8に調整したものを用いた。各緩衝液を用いた場合の反応性は、人血清アルブミン、α,β−グロブリン、およびγ−グロブリンの3種について、それぞれ20mg/dL水溶液を用い、実施例1と同様にして吸光度を測定することにより確認した。吸光度の測定結果については、アルブミンの吸光度を100%としたときの各グロブリンの吸光度の相対値(%)として反応性を評価し、表5に示した。
【0047】
【表5】

【0048】
表4から分かるように、緩衝液としてクエン酸緩衝液、酢酸緩衝液(0.05mol/L、pH2.8)およびグリシン緩衝液を用いた場合に、グロブリンとの反応性が低く、アルブミンに特異的であった。これらの緩衝液のうち、酢酸緩衝液が最もアルブミンに対する吸光度が高く、この点からは、アシッドレッド94を用いる場合の緩衝液としては、酢酸を用いるのが好ましいことが分かる。
【実施例3】
【0049】
本実施例では、指示薬としてアシッドレッド92を用いる場合において、非イオン界面活性剤の種類が、アルブミンとの反応性に与える影響について検討した。
【0050】
本実施例においては、液状試薬として、アシッドレッド92(0.05mmol/L)、クエン酸緩衝液(pH2.8、0.05mol/L)、および非イオン界面活性剤(0.1%)を含むものを使用した。非イオン界面活性剤としては、アシッドレッド92を溶解するために、また指示薬であるアシッドレッド92とアルブミンの結合物の溶解性を確保するために必要で、アルブミンとアシッドレッド92の反応性を阻害させない非イオン性界面活性剤である、一般名Triton X-100(Union Carbide Chemicals and Plastic Co.の登録商標)および一般名Brij35として市販されているポリオキシエチレンラウリルエーテルを使用した。
【0051】
アルブミンとの反応性は、人血清アルブミン、α,β−グロブリン、およびγ−グロブリンの3種について、それぞれ20mg/dL水溶液を用い、実施例1と同様にして吸光度を測定することにより確認した。吸光度の測定結果については、アルブミンの吸光度を100%としたときの各グロブリンの吸光度の相対値(%)として反応性を評価し、表6に示した。
【0052】
【表6】

【0053】
表6に示すように、非イオン界面活性剤として、一般名Triton X-100(Union Carbide Chemicals and Plastic Co.の登録商標)として市販されているポリオキシ(10)オクチルフェニルエーテルを用いた場合には、一般名Brij35として市販されているポリオキシエチレンラウリルエーテルを用いた場合と比較して、アルブミンに対する反応性は同等であるが、グロブリンとの反応性が低くいことが分かった。
【実施例4】
【0054】
本実施例では、アシッドレッド92またはアシッドレッド94を用いた液状試薬の処方における自動分析装置での定量特性を、同時再現性として評価した。この評価においては、自動分析装置として、株式会社日立ハイテクノロジーズ製の自動分析装置7170を用いた。同時再現性は、アルブミン溶液として、アルブミン濃度が10mg/dL、30mg/dL、60mg/dLおよび100mg/dLになるように調製し、それぞれのアルブミン溶液を試料として、20回の同時再現性から、変動係数として評価した。
【0055】
(二液系の測定条件)
指示薬としてアシッドレッド92を用いる定量法の場合、まず試料(アルブミン溶液)30μLと、0.1%TritonX-100を含むクエン酸緩衝液(0.05mol/L、pH2.8)200μLとを混合し、この混合液を37度にて5分間インキュベートした。先の自動分析装置を用いて、主波長546nm、副波長660nmで試薬盲検を対照に吸光度を測定し、検体盲検とした。続いて、先の混合液と、アシッドレッド92(0.05mmol/L)を含むクエン酸緩衝液(0.05mol/L、pH2.8)100μLとを混合し、37度にて5分間インキュベートし、試料発色液を調製した。この試料発色液について、同様に自動分析装置を用いて、主波長546nm、副波長660nmで試薬盲検を対照に吸光度を測定した。別途検定された100mg/dLアルブミン標準液についても同様の操作を行い、その標準液の吸光度で試料発色液の吸光度を除し、100mg/dLを乗じてアルブミン濃度を求めた。各濃度の試料溶液におけるアルブミン濃度の測定結果は、表7に示した。表7には、20回測定の平均値と標準偏差および変動係数を同時に示した。
【0056】
【表7】

【0057】
表7に示したように、上記処方の液体試料を用いた場合、各種濃度の試料溶液において変動係数が0.2〜0.8%と極めて良好であり、同時再現性に優れていることが分かった。また、表7に示した結果より、指示薬としてアシッドレッド92を用いる場合の測定値は、10〜100mg/dLの範囲で原点を通る直線性を示すことが分かる。
【0058】
本発明者らはさらに、データは示さないが、アシッドレッド92でのアルブミンの最小検出感度について、100mg/dLのアルブミン標準液を精製水で段階希釈し、精製水の再現性の+2標準偏差と最低のアルブミン濃度の再現性の−2標準偏差が交差しない濃度として求めた。その結果、アルブミンの最小検出感度は0.5mg/dL(5mg/L)であった。故に、アシッドレッド92を用いた本発明の液体指示薬は、0.5〜100mg/dLの範囲までアルブミン濃度を測定可能で、低濃度から高濃度まで広範囲に、精度良くアルブミン濃度を測定できることか分かった。
【0059】
一方、指示薬としてアシッドレッド94を用いる場合には、緩衝液として酢酸緩衝液を用いた以外はアシッドレッド92と同様にして、アルブミン標準液を精製水で段階希釈して、アルブミン濃度を測定した。この条件でのアルブミン濃度の最小検出感度をアシッドレッド92と同様にして求めたところ、アルブミン濃度の最小検出感度が0.125mg/dL(1.25mg/L)であった。また、アシッドレッド94を用いた本発明の液状試薬は、アルブミン濃度の測定結果における直線性がアシッドレッド92の場合と同様に良好なものであった。故に、アシッドレッド94を用いた本発明の液体指示薬は、0.125〜100mg/dLの範囲までアルブミン濃度を測定可能で、低濃度から高濃度まで広範囲に、精度良くアルブミン濃度を測定できることか分かった。
【0060】
以上より、本発明の液状試薬は、低濃度から高濃度までアルブミン濃度を測定する場合の変動係数で1%以下であり、極めて良好な再現性が得られ、臨床の現場で使用可能である。
【0061】
本発明の液状試薬の最小検出感度は、0.125〜0.5mg/dLであり、糖尿病性腎症の診断基準から要望される最小検出感度の0.1〜0.5mg/dLをクリアしており、免疫法と同等の感度を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、生体試料などの液体試料中の微量アルブミンを色素結合法の原理を用いて、高感度に、アルブミンに特異的に、低コストで、簡便に測定でき、免疫学的測定法に匹敵する性能を有する液状試薬である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の微量アルブミンを測定するための液状試薬であって、
下記化学式1または下記化学式2で示される化学構造を有する指示薬と、
pHを1.0〜3.5に調製したクエン酸緩衝液および酢酸緩衝液のうちの少なくとも一方の緩衝液と、
非イオン性界面活性剤と、
を含むことを特徴とする、液体試料中の微量アルブミンを特異的に測定するための液状試薬。
【化1】

【化2】

【請求項2】
液状試薬に含有される指示薬の濃度が、0.005〜0.2mmol/Lである、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項3】
液状試薬に含有される指示薬の濃度が、0.01〜0.1mmol/Lである、特許請求の範囲第2項に記載の液状試薬。
【請求項4】
液状試薬に含有される指示薬が、上記化学式1に記載したものであり、
液状試薬のpH条件が、2.5〜2.8である、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項5】
液状試薬に含有される緩衝液が、クエン酸緩衝液である、特許請求の範囲第4項に記載の液状試薬。
【請求項6】
液状試薬に含有される指示薬が、上記化学式2に記載したものであり、
液状試薬のpH条件が、2.2〜3.5である、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項7】
液状試薬に含有される緩衝液が、酢酸緩衝液である、特許請求の範囲第6項に記載の液状試薬。
【請求項8】
液状試薬に含有される緩衝液の濃度が、0.01〜0.5mol/Lである、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項9】
液状試薬に含有される非イオン性界面活性剤が、ポリオキシオクチルフェニルエーテルシリーズ(エトオキシル基が7〜70)である、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項10】
液状試薬に含有される非イオン性界面活性剤が、ポリオキシ(10)オクチルフェニルエーテル(商品名:Triton
X-100)である、特許請求の範囲第9項に記載の液状試薬。
【請求項11】
液状試薬に含有される非イオン性界面活性剤の濃度が、0.01〜1.0%である、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項12】
指示薬と非イオン性界面活性剤が別個の溶液(R1試薬およびR2試薬)として独立して存在し、検体盲検を測定することができることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項13】
指示薬と非イオン性界面活性剤が同一の試薬として測定できることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。
【請求項14】
液体試料が、尿、血液、髄液、唾液、涙液、胃液、およびアルブミン含有液(たとえば輸液、組織抽出液、蛋白精製液、食品等)である、特許請求の範囲第1項に記載の液状試薬。

【公開番号】特開2008−46052(P2008−46052A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223688(P2006−223688)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】