説明

液体試料分析用ディスク

【課題】 液体試料の漏洩を容易に確実に防止できる液体試料分析用ディスクを提供する。
【解決手段】 液体試料を試料注入孔5を通じて内部流路に注入して遠心力で展開させ、光学的に走査して分析するための液体試料分析用ディスク20において、ディスク表面を被覆して試料注入孔5を封止する接着シート11を、試料注入孔5を含んだ所定領域に接着される接着面を剥離紙12で保護し、残部の接着面でディスク表面に接着して予め設ける。これにより、作業者は、試料注入後に剥離紙12を取り除いて接着シート11をディスク表面に押圧するという簡単な作業で、接着シート11を適正な位置に貼付して試料注入孔5を封止することができ、接着面に触れて接着力が低下することもないため、液体試料の漏洩を確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料を展開させて光学的に分析するための液体試料分析用ディスクに関し、特にディスク内に注入した液体試料の漏洩を防止できる封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の液体試料を分析するための試料分析装置として、液体試料を注入した液体試料分析用ディスクを回転させ、その際の遠心力で展開された液体試料の状態を光学的に読み取るようにした装置がある。
【0003】
たとえば、特許文献1に記載された従来の試料分析装置は、図17に示すように、液体試料分析用ディスク20を回転軸21などの機構部22により回転させ、その際の遠心力でディスク20の液体試料展開部26で展開された液体試料中の粒子成分などの情報を発光部23,受光部24によって光学的に読み取り、制御解析部25で解析し、プリンタなどに出力する。
【0004】
機構部22,発光部23,受光部24などに相当する光学的読取装置として、図18に示すような、CD,DVDなどの光ディスクの記録再生に使用されているのと同様のドライブ装置が使用されることもある。かかるドライブ装置27は、函体内部にターンテーブルなどの回転機構や光ピックアップを備えていて(図示せず)、光ディスクとほぼ同寸法に形成された液体試料分析用ディスク20をトレイ28により函体内部に収納し、ターンテーブルで回転させながら光ピックアップで走査して反射光あるいは透過光を検出し、電気信号に変換する。この検出信号を、試料分析装置の本体CPUに備わる制御解析部25で画像処理して分析することになる。
【特許文献1】特開2001−124690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、液体試料分析用ディスク20は、回転させることによって液体試料を展開させるものである。ところが分析対象の液体試料は、感染症の病原体を含む可能性がある血液などの生体試料であることが多く、分析時に液体試料が液体試料分析用ディスク20から漏洩して飛散したり、漏洩した液体試料に作業者が触れてしまうと、作業者が病原体に感染してしまう事故が想定される。そこで液体試料の漏洩対策として、図19に示すように、液体試料分析用ディスク20の内部流路(図示せず)への試料注入後に、液体試料注入孔などの開口部29を接着シート30で封止することが考えられる。
【0006】
しかし、接着シート30の接着面に作業者の指などが触れて接着力が低下したり、あるいは接着シート30を開口部29に正確に貼り付けるのは容易でないため貼付位置がずれてしまう可能性があり、そのような接着シート30で封止された液体試料分析用ディスク20を回転させたときには液体試料が漏洩する恐れがある。また作業者は手袋を装着していることが多く、その状態では作業性が悪いため接着シート30を正確に貼り付けるのはさらに容易でなく、液体試料が漏洩する危険性はより高まる。貼付位置のずれを防止するために、接着シート30を予め適正な位置に貼り付けておき、一部分のみ剥して試料注入した後に再び貼り付けるという方法も考えられるが、接着シート30の着脱を繰り返すことで接着力が低下する恐れがある。
【0007】
本発明は上記した従来の問題に鑑みてなされたもので、液体試料の漏洩を容易かつ確実に防止できる液体試料分析用ディスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる液体試料分析用ディスクは、液体試料を試料注入孔を通じて内部流路に注入して遠心力で展開させ、光学的に走査して分析するための液体試料分析用ディスクにおいて、ディスク表面を被覆して試料注入孔を封止する接着シートを、試料注入孔を含んだ所定領域に接着される接着面を剥離紙で保護し、残部の接着面でディスク表面に接着して予め設けたことを特徴とする。これによれば、液体試料の注入後に接着シートの剥離紙を取り除いて、現れた接着面をディスク表面に押圧するだけで、試料注入孔を確実に封止でき、液体試料の漏洩を防止できる。
【0009】
本発明の請求項2にかかる液体試料分析用ディスクは、内部流路に連通した排気孔が形成され、接着シートは、試料注入孔と排気孔を含んだ所定領域に接着される接着面を剥離紙で保護して設けられたことを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3にかかる液体試料分析用ディスクは、接着シートが、光学的に走査されない領域のディスク表面を被覆するように設けられたことを特徴とする。
本発明の請求項4にかかる液体試料分析用ディスクは、複数の内部流路と、そのそれぞれに連通した複数組の試料注入孔と排気孔とが形成され、接着シートは、複数組の試料注入孔と排気孔とを一括して被覆するように設けられたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5にかかる液体試料分析用ディスクは、複数の内部流路と、そのそれぞれに連通した複数組の試料注入孔と排気孔とが形成され、接着シートは、各組の試料注入孔と排気孔とを被覆するように個別に設けられたことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6にかかる液体試料分析用ディスクは、各接着シートに設けられた剥離紙が、各内部流路に注入される液体試料と同一質量であることを特徴とする。
本発明の請求項7にかかる液体試料分析用ディスクは、接着シートの接着面に背反する剥離紙の背面に粘着性が付与され、この剥離紙を介して各接着シートがディスク表面に仮固定されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項8にかかる液体試料分析用ディスクは、接着シートが、剥離紙とともにディスク表面から立ち上がった姿勢で自立できる材料で形成されたことを特徴とする。
本発明の請求項9にかかる液体試料分析用ディスクは、剥離紙に掴みしろが形成されたことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項10にかかる液体試料分析用ディスクは、接着シートまたは剥離紙が、光が透過しない材料、もしくはディスク表面への接着後に接着領域の光の透過率を低下させる材料で形成されたことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項11にかかる液体試料分析用ディスクは、接着シートが、ディスク表面への接着の前後で接着領域の光の透過率を変化させる材料で形成されたことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項12にかかる液体試料分析用ディスクは、少なくとも試料注入孔の周りのディスク表面に微細な凹凸加工が施され、ディスク表面への粘着シートの接着の前後で凹凸加工部の光の透過率が変化するように構成されたことを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項13にかかる液体試料分析用ディスクは、少なくとも試料注入孔が、ディスク表面から内部流路へ向かうにしたがって拡径したテーパ状に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の液体試料分析用ディスクは、試料注入孔を封止するための接着シートを、試料注入孔への対応部の接着面を剥離紙で保護したうえで、残部の接着面でディスク表面に接着して予め取り付けているので、液体試料の注入後に剥離紙を剥がすだけで試料注入孔を容易に確実に封止することができ、液体試料の漏洩、それによる作業者の感染やバイオハザードを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明にかかる液体試料分析用ディスクの概略全体構成を示す斜視図、図2は同液体試料分析用ディスクの分解斜視図、図3は同液体試料分析用ディスクの要部断面図である。
【0020】
この液体試料分析用ディスクは、先に図17を用いて説明したような試料分析装置において、回転軸21などの機構部22により回転させて、ディスク内に予め注入した液体試料に関する情報を発光部23,受光部24で光学的に読み取って解析するためのものであり、CDやDVDといった光ディスクと同程度の寸法に形成されている。また液体試料に関する情報をディスク内での位置情報と併せて取得できるように、光ディスクと同様にピットなどが形成されている。
【0021】
図1〜図3に示すように、液体試料分析用ディスク20(以下、分析用ディスク20という)は、上カバー1と下基板2との間に接着部材3を挟んで構成されており、センターホール4の周囲に、液体試料注入孔5(以下、試料注入孔5という)と排気孔6と内部流路7とを持った分析部8が複数個、軸心周りにほぼ均等に形成されている。
【0022】
各分析部8において、試料注入孔5,排気孔6はディスク内周部に並んでおり、内部流路7は、試料注入孔5,排気孔6に両端部で連通していて、ディスク内周部から外方に延びた後に折り返してディスク内周部に戻るU形である。
【0023】
試料注入孔5,排気孔6は、上カバー1を厚み方向に貫通しており、内部流路7は、上カバー1の接着部材3への接着面から約100μm〜400μm程度の深さで凹んでいる。内部流路7の途中には、液体試料の情報を光学的に読み取るための液体試料展開部9(以下、試料展開部9という)が少なくとも1箇所設定されている。
【0024】
試料展開部9には通常、分析用試薬が配置される。分析用試薬としては、血液,尿等の生体試料などの液体試料に含まれる検査対象成分と反応して(たとえば酵素反応や免疫反応)、反応状態に応じた光学的変化(たとえば化学発光、蛍光)を生じ、それより検査対象成分の有無や濃度、あるいは検査対象物の数量などとして測定分析可能なものが用いられる。分析内容によっては、たとえば血球数の計測のように予め試料に分析用試薬を添加したり、不要な場合もある。
【0025】
分析に際しては、注入器具10(例えばシリンジやディスペンサ)によって試料注入孔5を通じて内部流路7内に液体試料を注入するが、排気孔6があるため速やかに注入することができる。試料注入後に、試料注入孔4及び排気孔5を封止するための接着シート11を貼付したうえで回転させると、遠心力や内部流路7内の毛細管力によって液体試料が展開されるので、試料展開部9をレーザー光で走査することで液体試料中の粒子成分などの情報を得ることができる。液体試料の注入後の漏洩は接着シート11によって防止できる。
【0026】
ここで、接着シート11は分析用ディスク20の製造時に一部のみ接着して予め取り付けられている。この接着シート11による封止構造を以下に詳細に説明する。分析用ディスク20における分析部8の個数や、各分析部8における試料注入孔5,排気孔6,内部流路7の位置や形状は上記したものに限定されないので、種々の分析用ディスク20を例示する。
【0027】
図4に示す第1例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、一対の試料注入孔5及び排気孔6が並んで形成され、これらに連通する内部流路(図示せず)が形成されている。
図4(a)に示すように、接着シート11は、ディスク内周部からディスク外周部にわたって被覆可能な円環形に形成されていて、試料注入孔5と排気孔6とを一括して被覆できる。また接着シート11は、その一面全体にわたる接着面の半面にのみ、一回り大きい半円環形の剥離紙12が貼付されていて、剥離紙12が貼付されていない接着面の半面で、試料注入孔5と排気孔6を含まない上カバー1のディスク半面に対して接着されている。試料注入孔5と排気孔6を含んだディスク半面に対しては、剥離紙12が対向していて、試料注入孔5及び排気孔6は封止されていない。この分析用ディスク20は請求項1及び請求項2に対応する。
【0028】
液体試料の注入にあたっては、図4(b)に示すように、剥離紙12が貼付された接着シート11の半円環部を持ち上げた状態で、注入器具10により試料注入孔5を通じて液体試料を注入する。注入終了後に、図4(c)に示すように、剥離紙12を接着シート11から剥がしてフレッシュな接着面11aを露出させ、図4(d)に示すように、接着面11aを折り返してディスク表面に押圧して貼り合わせる。
【0029】
この際に、接着シート11は上記したように試料注入孔5と排気孔6を含んだディスク半面に対する領域が剥離紙12で保護され、残部でディスク表面に取り付けられているため、接着シート11の位置ズレや、接着面に作業者の指等が触れて接着力低下が誘発されることはなく、試料注入孔5および排気孔6を容易に確実に封止できる。
【0030】
図5に示す第2例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、図4を用いて説明したものとほぼ同様に形成されているが、接着シート11は、剥離紙12が貼付された半円環部をもう一方の半円環部側に折り畳み可能に形成されている。このため、液体試料の注入が終了するまで接着シート11を折り畳み状態としておくことができ、作業性がよい。
【0031】
図6に示す第3例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、図4を用いて説明したものとほぼ同様に形成されているが、接着シート11は、剥離紙12が貼付された半円環部が、剥離紙12とともにディスク表面から立ち上がった姿勢で自立可能に形成されている。このため、作業者は液体試料を注入する際に接着シート11の一部を把持する必要がなく、煩わしさを感じることなく作業を行える。この分析用ディスク20は請求項8に対応する。
【0032】
上記した第2例および第3例の分析用ディスク20の接着シート11の性状は、たとえばアルミニウム系シート(日東電工製 プロセルフシリーズ/ニトムズなど)を用いることで実現される。
【0033】
図7に示す第4例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、図4を用いて説明したものとほぼ同様に形成されているが、接着シート11に、分析領域(通常は上述した試料展開部9)に対応する開口部11bが設けられている。剥離紙は剥がした状態で示している。この構造によれば、分析用ディスク20の分析領域を光学的に走査するレーザー光が接着シート11で妨げられることがなく、分析精度を確保できる。この分析用ディスク20は請求項3に対応する。
【0034】
図8に示す第5例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、図4を用いて説明したものとほぼ同様に形成されているが、図8(a)に示すように、接着シート11に貼付された剥離紙12に、接着シート11から部分的にはみ出す掴みしろ(タブ)12aが形成されている。掴みしろ12aの位置は、作業者が掴み易い位置、ここでは半円環形の剥離紙12の頂部と底部のほぼ中間である。この分析用ディスク20は請求項9に対応する。
【0035】
この構造によれば、掴みしろ12aをつかんで接着シート11を矢印方向に持ち上げ(図8(b))、その状態で試料注入孔5を通じて試料注入した後、そのまま掴みしろ12aを矢印方向に引くだけで剥離紙12を取り除くことができ(図8(c))、しかる後に接着シート11をディスク表面に押圧するだけで貼り合わせることができる(図8(d))。剥離紙12を接着シート11から分離する細かい作業が不要であるため、作業者は手袋を着用していても容易に作業を行える。
【0036】
図9に示す第6例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、複数の内部流路が形成され(図示せず;図1参照)、上カバー1に、内部流路のそれぞれに連通した試料注入孔5と排気孔6とが複数組、形成されている。
【0037】
接着シート11は、複数組の試料注入孔5と排気孔6とを一括して被覆可能に、ディスク内周部からディスク外周部にわたって被覆可能なほぼ円環形に形成され、かつ適当位置に配置されていて、一部分のみ外周方向に舌状に突出して形成された突出部11cでディスク表面に接着されている。突出部11c以外の接着面には剥離紙12が貼付され、この剥離紙12が、複数組の試料注入孔5と排気孔6を含んだディスク表面に対向していて、試料注入孔5及び排気孔6はいずれも封止されていない。
【0038】
この構造によれば、1回の封止作業で複数組の試料注入孔5及び排気孔6を封止することができ、作業がより簡便となる。この分析用ディスク20は請求項4に対応する。
図10に示す第7例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、図9に示した分析用ディスク20と同様に、複数の内部流路が形成され、上カバー1に、内部流路のそれぞれに連通した試料注入孔5と排気孔6とが複数組、形成されている。
【0039】
接着シート11は、1対の試料注入孔5と排気孔6ごとに個別に被覆するように複数枚設けられている。各接着シート11は、1対の試料注入孔5と排気孔6とを一括して被覆可能に、ディスク内周部からディスク外周部におよぶ扇形に形成され、かつ適当位置に配置されていて、ディスク半径方向に沿う一側部11dの接着面でディスク表面に接着されている。各接着シート11の一側部11d以外の接着面にはそれより一回り大きな剥離紙12が貼付され、その剥離紙12が、試料注入孔5と排気孔6とその周囲部分のディスク表面に対向していて、試料注入孔5及び排気孔6はいずれも封止されていない。
【0040】
この構造によれば、1対の試料注入孔5及び排気孔6ごとに個別に封止できることから、任意の内部流路のみ使用する場合にそれに対応する試料注入孔5及び排気孔6のみを封止したり、あるいは複数の内部流路の全てに順次に液体試料を注入する場合に、注入終了した内部流路に対応する試料注入孔5及び排気孔6を順次に速やかに封止することができる。よって、個別の液体試料を別々の時に、また別々の分析に、付すことなどが可能であり、その際の液体試料の漏洩を防止して作業者の安全を確保できる。この分析用ディスク20は請求項5に対応する。
【0041】
1つの内部流路に注入される液体試料の質量とその内部流路に対応する接着シート11から取り除かれる剥離紙12の質量とが同一もしくはほぼ同一となるように、剥離紙12を選定しておくのが望ましい。それにより、分析用ディスク20の回転時の偏心及び面振れを抑えることができる。例えば、液体試料として血液70μlを注入する場合、血液の比重は通常1.05〜1.06なので、各剥離紙12を73.5〜74.2mgになるように選定すればよい。この構成は請求項6に対応する。
【0042】
図11に示す第8例の封止構造を備えた分析用ディスク20は、図10を用いて説明したものとほぼ同様に形成されているが、接着シート11に背反する剥離紙12の背面が容易に剥がせる程度のタック性を持つ接着面12bとされ、ディスク表面に仮固定されている。これは、任意の内部流路のみ使用してディスク回転させる時に、使用していない内部流路に対応する接着シート11および剥離紙12がバタついてしまう可能性があるからであり、仮固定させておくことで、バタつきを防止できる。望ましくは、ディスク表面に完全に接着された接着シート11の一側部11dは、ディスク回転時に先行する側とされる。それにより仮固定部分が風圧でめくれあがるのを防止できる。この分析用ディスク20は請求項7に対応する。
【0043】
図12は分析用ディスク20の径方向に沿う断面を示した一部拡大断面図である。
図12(a)に示すように、試料注入孔5は、ディスク表面から内部流路へ向かうにしたがって拡径するように、特に外周側の壁面5aが外方へ傾斜するように、テーパ状に形成されている。この分析用ディスク20は請求項13に対応する。
【0044】
図12(b)は、試料注入孔5から液体試料13を注入して接着シート11で封止した状態を示す。この時点では分析用ディスク20を回転させていないため、液体試料13は重力のみの作用で試料注入孔5の底部、すなわち内部流路7の端部に溜まっている。
【0045】
分析用ディスク20を回転させ始めると、図12(c)に示すように、液体試料13は遠心力の作用によって展開し始め、ディスクの外周方向に移動する。このとき液体試料13の一部が試料注入孔5の外周側の壁面5aに押し付けられるが、壁面5aが外周側へ傾斜しているため、液体試料13が試料注入孔5の入り口まで逆流することはない。
【0046】
回転させ始めてから充分な時間がたったら、図12(d)に示すように、試料注入孔5付近には液体試料13は残らず、液体試料13が試料注入孔5から漏洩・飛散する危険はない。
【0047】
排気孔6については図示を省略するが、試料注入孔5と同様のテーパ状とすることで同様に液体試料13の漏洩・飛散を防止できる。このような試料注入孔5,排気孔6の構造を上記した接着シート11による封止構造と組み合わせることで、液体試料の漏洩・飛散防止の効果をさらに高めることができる。
【0048】
次に、試料注入孔5及び排気孔6が接着シート11によって確実に封止されているか否かを検査する検査方法を説明する。簡便のために試料注入孔5とその周辺部のみを図示するが、排気孔6の封止も同様にして検査可能である。特に断らない限り、上記した各例の分析用ディスク20で実施可能である。
(第1の検査方法)
接着シート11は、レーザー光を透過させないか、もしくはレーザー光の透過率が低下するような材料(例えばNDフィルタ)で形成しておく。この構成は請求項10に対応する。
【0049】
試料注入前の分析用ディスク20を上述した試料分析装置にセットし、図13(a)に示すように、発光部23からのレーザー光27を試料注入孔5に照射し、その透過光27aを受光部24で受光させて、封止前のデータとして分析装置に記憶させておく。
【0050】
試料注入後、分析開始に先立って、試料注入孔5にレーザー光27を照射し、その透過光27a´を受光部24で受光させる。
そして、透過光27a´のデータと封止前の透過光27aのデータとを比較する。透過光27aに対する透過光27a´の透過率の低下が検出されないときは、試料注入孔5を封止する接着シートが存在せず、試料注入孔5は封止されていない(図13(a)と同じ状態)と判定する。透過光27aに対する透過光27a´の透過率の低下が検出されたときは、図13(b)に示すように、試料注入孔5を封止する接着シートが存在しており、試料注入孔5は封止されていると判定する。
【0051】
このように、試料注入前に試料注入孔5および排気孔6を光で走査してその透過率を読み取っておき、試料注入後に再び光で走査してその透過率を読み取り、先の読み取り値と比較することによって、接着シート11の貼付けの有無を検出して、試料注入孔5及び排気孔6が接着シート11で封止されているか否かを判定することができる。これにより、接着シート11を貼付することなく分析用ディスク20を回転させてしまう誤操作を防止できる。
(第2の検査方法)
図14(a)に示すように、接着シート11が剥離紙12を介してディスク表面に仮固定されている構造(先に図11を用いて説明したのと同様の構造)では、試料注入孔は接着シート11,剥離紙12で遮蔽されているので、第1の検査方法のように接着シート11がないときの透過光のデータを取得することはできない。そこで剥離紙12をレーザー光を通さない材料(例えば東レ製 ルミラーX30)で形成しておく。この構成は請求項10に対応する。
【0052】
試料注入後、分析開始に先立って、試料注入孔5にレーザー光27を照射し、受光部24で受光させる。
この際の試料注入孔5の透過光が0であるときは、剥離紙12が介在していて、接着シート11がディスク表面に仮固定されている(図14(a)と同じ状態)と判定する。透過光が検出されたときは、図14(b)に示したように、剥離紙12が取り除かれて、接着シート11がディスク表面に完全に接着固定されていて、試料注入孔5が封止されていると判定する。
【0053】
このようにして、透過光27aの有無から、接着シート11の仮固定あるいは完全な貼付けを判定できる。これにより、接着シート11を貼付することなく分析用ディスク20を回転させてしまう誤操作を防止できる。
(第3の検査方法)
接着シート11は、ディスク表面への接着の前後で接着領域の光透過率を変化させる接着材(例えば住友3M製のメンディングテープなど)で形成しておく。この構成は請求項11に対応する。
【0054】
試料注入前に、図15(a)に示すように、試料注入孔5を接着シート11で封止した状態で、試料注入孔5の周辺部に接着シート11が正しく接着されていない状態、例えば気泡やコンタミ等により接着シート11が浮いている状態での透過光27a″を受光部24で受光させ、そのデータを予め分析装置内部に記憶させておく。
【0055】
液体試料を注入して接着シート11で封止した後、分析開始に先立って、図15(b)に示すように、試料注入孔5の周囲を連続して一回り大きい円を描くようにレーザー光27を照射して、受光部24で受光する透過光27aのデータを監視する。
【0056】
そして、たとえば図15(c)に示すような試料注入孔4の周辺の接合面5b(確実に接着シート11が接着されることを要する領域)について得られる透過光27aのデータが、先に記憶させた透過光27a″のデータに一致すれば、接着シート11によって試料注入孔5が確実に封止されていないと判定する。接合面5bを一周トレースする間に受光する透過光27aのデータが先の透過光27a″のデータに一致しなければ、接着シート11によって試料注入孔5が確実に封止されていると判定する。
【0057】
このようにして、接着シート11が正しく接着されていない状態での透過光27a″のデータを予め取得し、実際の分析開始前に得る透過光透過光27aのデータを比較することにより、接着シート11の貼り合わせ異常を判別できる。
(第4の検査方法)
上カバー1の試料注入孔5の周辺部の表面(たとえば上記した図15の接合面35)に、図16に示すように、すりガラスのような光が乱反射する凹凸加工を施しておく。また透明な接着シート11(例えば日東電工製、透明セロハンテープなど)を用いる。この構成は請求項12に対応する。
【0058】
液体試料を注入して接着シート11で封止した後、分析開始に先立って、上記した第3の検査方法と同様して透過光を調べる。図16(a)に示すように、接着シート11が確実に接着されていなければ、上カバー1の表面の凹凸部分1bで乱反射が起こるため、その部分の透過率は低くなる。図16(b)に示すように、接着シート11が確実に接着されていれば、接着シート11の粘着材11eで凹凸部1bが埋められて乱反射がなくなるため、その部分の透過率は高くなる。よって、透過率の違いから貼り合わせの良否を容易に判定することができ、貼り合わせ異常の判別の確実性が向上する。ただし、接着シート11の粘着材11eが凹凸部1bの窪みに入るので、凹凸部1bの高低差は粘着材11eの厚みより小さくしておく必要がある。
【0059】
以上の第1から第4の検査方法のような手順で、試料注入孔5及び排気孔6の部分の接着シート11の状態を検出及び判定することができる。試料注入孔5及び排気孔6の部分に接着シート11が存在しない、もしくは試料注入孔5及び排気孔6が確実に封止されていないと判定された時に、分析を開始せずに作業者等のユーザーへ知らせたり、ディスクを排出するように分析装置を構成しておけば、貼り合わせ不良による分析装置での液体試料の漏洩や飛散を防止することができる。
【0060】
なお第1から第4の検査方法では、分析用ディスク20を400rpm程度で回転させて透過光を調べればよい。400rpmという回転数は、例えば血液中の血球成分を遠心分離する際の回転数が4000rpmであることからも理解されるように十分に低く、この程度の低い回転数であれば液体試料の漏洩や飛散は生じない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の液体試料分析用ディスクは、ディスク内に注入された液体試料の漏洩を容易に確実に防止することができ、生物学的、化学的、生化学的な液体試料を光学的に分析する際の作業者の安全を確保するために特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態における液体試料分析用ディスクの概略全体構成を示す斜視図
【図2】図1の液体試料分析用ディスクの分解斜視図
【図3】図1の液体試料分析用ディスクの要部断面図
【図4】本発明の第1例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止手順を説明する工程図
【図5】本発明の第2例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止前の斜視図
【図6】本発明の第3例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止前の斜視図
【図7】本発明の第4例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止後の斜視図
【図8】本発明の第5例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止手順を説明する工程図
【図9】本発明の第6例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止前の斜視図
【図10】本発明の第7例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止前の斜視図
【図11】本発明の第8例の封止構造を備えた分析用ディスクの封止前の斜視図
【図12】本発明の封止構造と組み合わせて形成される液体試料注入孔の形状および同液体試料注入孔を通じて注入された液体試料の展開状況を説明する断面図
【図13】封止状態を検査する第1の検査方法を説明する工程断面図
【図14】封止状態を検査する第2の検査方法を説明する工程断面図
【図15】封止状態を検査する第3の検査方法を説明する工程断面図
【図16】封止状態を検査する第4の検査方法を説明する工程断面図
【図17】従来よりある試料分析装置の概略全体構成図
【図18】図17の試料分析装置に用いられる光学的読取装置の外観斜視図
【図19】従来の液体試料分析用ディスクの斜視図
【符号の説明】
【0063】
1 上カバー
1a 凹凸部
5 液体試料注入孔
5a 壁面
6 排気孔
7 内部流路
11 接着シート
11a 接着面
11b 開口部
11c 突出部
11d 一側部
11e 粘着材
12 剥離紙
12a 掴みしろ
12b 接着面
13 液体試料
20 液体試料分析用ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を試料注入孔を通じて内部流路に注入して遠心力で展開させ、光学的に走査して分析するための液体試料分析用ディスクにおいて、
ディスク表面を被覆して試料注入孔を封止する接着シートを、試料注入孔を含んだ所定領域に接着される接着面を剥離紙で保護し、残部の接着面でディスク表面に接着して予め設けた液体試料分析用ディスク。
【請求項2】
内部流路に連通した排気孔が形成され、接着シートは、試料注入孔と排気孔を含んだ所定領域に接着される接着面を剥離紙で保護して設けられた請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項3】
接着シートは、光学的に走査されない領域のディスク表面を被覆するように設けられた請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項4】
複数の内部流路と、そのそれぞれに連通した複数組の試料注入孔と排気孔とが形成され、接着シートは、複数組の試料注入孔と排気孔とを一括して被覆するように設けられた請求項3記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項5】
複数の内部流路と、そのそれぞれに連通した複数組の試料注入孔と排気孔とが形成され、接着シートは、各組の試料注入孔と排気孔とを被覆するように個別に設けられた請求項3記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項6】
各接着シートに設けられた剥離紙が、各内部流路に注入される液体試料と同一質量である請求項5記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項7】
接着シートの接着面に背反する剥離紙の背面に粘着性が付与され、この剥離紙を介して各接着シートがディスク表面に仮固定された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項8】
接着シートは、剥離紙とともにディスク表面から立ち上がった姿勢で自立できる材料で形成された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項9】
剥離紙に掴みしろが形成された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項10】
接着シートまたは剥離紙は、光が透過しない材料、もしくはディスク表面への接着後に接着領域の光の透過率を低下させる材料で形成された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項11】
接着シートは、ディスク表面への接着の前後で接着領域の光の透過率を変化させる材料で形成された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項12】
少なくとも試料注入孔の周りのディスク表面に微細な凹凸加工が施され、ディスク表面への粘着シートの接着の前後で凹凸加工部の光の透過率が変化するように構成された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。
【請求項13】
少なくとも試料注入孔が、ディスク表面から内部流路へ向かうにしたがって拡径し、外周側が傾斜面をなすテーパ状に形成された請求項1記載の液体試料分析用ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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