説明

液体調味料の果実香の改善方法および果実香が改善された液体調味料

【課題】 液体調味料の果実香を経済的にそして簡便に改善する方法、果実香が改善された液体調味料およびこれらを使用した果実香が改善された加工食品の提供。
【解決手段】 柑橘類(レモン、オレンジ、グレープフルーツ、だいだい、かぼす、すだち、ゆず等)および梅等の果実香を有する液体調味料(例えばドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状調味料等)に、芋焼酎を0.5〜15.0%(w/w)含有させる。そのようにして果実香を改善した液体調味料を使い、果実香の改善された加工食品を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体調味料の果実香の改善方法、果実香が改善された液体調味料およびこれらを使用した加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
果実を含む液体調味料あるいは果実香を有する液体調味料は世界で広く一般的に存在する。代表的なものとして、日本においては柑橘搾汁を使用したポン酢醤油等、また他国に目を向ければレモンドレッシング等があり、いずれもわが国の食卓で広く用いられている。これら果実香を特徴とするものは、よりリッチな香り、またはより濃厚な感があるようにしたものの方が通常嗜好性が高くなる。しかし一方で消費者の嗜好性を得るべく、香りのよい高級な果実や果汁を使用したり、あるいは果実や果汁の配合量を上げると、原料コスト上昇につながり、これが消費を伸び悩ませる原因ともなる。結果として高品質なものは消費者が享受しにくくなる。
【0003】
そこで、これらの香気を補う方法として香料が広く使用されている。しかしながら香料の多くはその果実の特徴香を形成する代表的な物質を配合した合成香料であり、果実が本来持っているがその特徴香に貢献度の少ない物質も含めて配合されたものは稀である。そのため香料は果実香気の増強に著しい貢献があるものの天然の香気を形作る香気バランスを本来保持しておらず、これを使用した液体調味料はその果実香気に類似の香気が強くはなるが、天然の香気からは遠ざかってしまうと感じられるのが一般的である。また天然嗜好が比較的強いとされる日本においては香料の使用を敬遠する傾向にもある。ポン酢醤油をはじめとする柑橘類の果汁に醤油等が添加された和食系の液体調味料等においては、醤油のもつ特徴的な呈味、香気により、もともと果実香気が立ちにくい傾向にあるせいか、合成香料をもって香気を補った製品は極めて少ない。合成香料を添加するという従来の技術では、香気バランスを保った状態で液体調味料の果実香気を改善することは十分果たせていないというのが現状である。
【0004】
また一部の香料には、果実より直接香気成分を抽出した天然香料もある。酒類のリキュールにおいては果実より直接エタノール抽出を行う等の工程を経た、果実が本来持つ天然の香気バランスに近いものも存在する。これらを用いることにより本来の果実が持つ自然な香気に極めて近い状態で香気を補う事ができるが、天然香料や果実を浸漬したリキュールは合成香料と比較して一般的に高価であり、原材料費の上昇につながり、一部の高価格帯製品への使用にとどまっている。
【0005】
また、菓子類の果実香気の改善に使用される酒類として、ドイツがルーツであるブラックチェリーの蒸留酒キルシュワッサーが知られている。その効果は、ブラックチェリー果実がもつ香気とは大きく異なるものの、添加することにより果実香気が改善されるというものである。しかしこの蒸留酒も高価であるため食品製造者による使用は一般的でなく、高価格帯製品を製造販売する高級洋菓子店以外では使用されにくく、果実香気の改善に対する普遍的な解決方法になっていない。液体調味料の果実香気改善にキルシュワッサーを使用する方法も一般的とは言えない。
【0006】
一方、さつま芋を原料とした焼酎と果実の香気成分との関係については、全く報告されていない。さつま芋を香気の改善等に利用した例としては、さつま芋と植物蛋白加水分解液の混合物を加熱蒸留した着香料(特許文献1参照)、さつま芋のエタノール抽出物を消臭剤とした例(特許文献2参照)、さつま芋の葉の抽出物を有効成分とする香料の劣化防止剤(特許文献3参照)等が提案されているが、いずれも本発明とは直接の関連はない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−9909号公報
【特許文献2】特開平10−179703号公報
【特許文献3】特開2002−275496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、液体調味料の果実香を経済的にそして簡便に改善する方法、果実香が改善された液体調味料およびこれらを使用した果実香が改善された加工食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、様々な種類の食品についてその果実香の改善効果を種々検討したところ、芋焼酎の香気の中に課題解決のための香気バランスがある事を見出し、果実香を有する液体調味料にこれを添加して香気の改善効果を確認し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]である。
[1] 果実香を有する液体調味料に、芋焼酎を0.5〜15.0%(w/w)含有させることを特徴とする果実香の改善方法。
[2] 液体調味料が、ドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状およびペースト状の調味料からなる群より選ばれる[1]記載の方法。
[3] 果実香が、柑橘類および梅からなる群より選ばれる果実の香りである、[1]または[2]記載の方法。
[4] 果実香を有する液体調味料であって、芋焼酎を0.5〜15.0%(w/w)含有する上記液体調味料。
[5] 液体調味料が、ドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状およびペースト状の調味料からなる群より選ばれる[4]記載の液体調味料。
[6] 果実香が、柑橘類および梅からなる群より選ばれる果実の香りである、[4]または[5]記載の液体調味料。
[7] [1]〜[4]のいずれか一項に記載の液体調味料を原材料の一部として用いて製造された加工食品。
【0010】
以下、本明細書において記載された各種の用語・記号等について説明する。
本願明細書において用いる「果実香」とは、通常の人間の官能にて確認できる果実の特徴を表わす果実の香気をいい、単一の果実の香気だけでなく二つ以上の果実の混合香気をも包含する。
本願明細書において用いる「液体調味料」とは、単独で調味料としても利用されるが、さらに種々の調味料を製造する際の素材として用いられる液状の調味料全般を意味し、通常の液体だけでなく、粘性を有するもの、ペースト状のもの、さらには固形物を一部懸濁状態で含むものも含み、特に制限されない。
【0011】
本願明細書において用いる「芋焼酎」とは、さつま芋を原料とし単式蒸留により製造された乙類焼酎だけでなく、それに糖類(ぶどう糖、液糖、蔗糖等)を加えた酒税法におけるリキュール規格の酒類をも包含する。また、さつま芋を原料とした乙類焼酎を含む甲乙混和焼酎も乙類焼酎の混和率にもよるが本発明の効果を有するものであれば「芋焼酎」に包含される。またこれらに食塩等を添加し発酵調味料規格としたものも同じく「芋焼酎」に包含される。
本願明細書において用いる「加工食品」とは、農産物、畜産物または海産物を直接の原料として、物理的あるいは微生物的な処理を加えて製造される食品を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、特別な製造装置や製造工程条件を必要とせずに、簡便な方法で果実香を改善した液体調味料および加工食品を得ることができる。また芋焼酎は、果実香の改善で従来より使用されている天然香料、果実系リキュール、キルシュワッサー等に比較して大幅に廉価であり、価格の点でそのような材料を利用できなかった液体調味料はじめ各種製品にも使用することができ、この点でも本発明は広く社会に貢献できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の果実香の改善方法に適用できる液体調味料は果実香を有するものであれば特に制限なく使用できる。例えば、果実香を有するドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状またはペースト状の調味料等を挙げることができる。ドレッシングは油を含有するものであっても、ノンオイルタイプのものであってもよい。たれは、醤油をベースとする和風または中華風のものだけでなく、洋風のいわゆるソースと呼ばれるものであってもよい。練合などにより製造された練り歯磨き様の物性をもった調味料であってもよい。
【0014】
本発明の方法を適用できる果実香の種類としては、柑橘類(レモン、オレンジ、グレープフルーツ、だいだい、かぼす、すだち、ゆず等)または梅等の香気を挙げることができる。特に柑橘類の香気に対してその改善効果が高い。また果実香の由来は、果実そのものやその加工品あるいはそれらを模した合成香料、さらにはそれらを混合したものであってもよい。
【0015】
本発明に適用できる芋焼酎は、さつま芋を原料にした乙類焼酎特有の香気を有するものであり、その特有の香気が強いものほど少量で目的を達成できるので好ましい。アルコール度数は、特に制限はない。
【0016】
液体調味料に芋焼酎を含有させる方法は、特に制限はないが、液体調味料を調製する際にその原材料と一緒に混合するか、あるいは液体調味料を調製した後に芋焼酎を添加してもよい。また液体調味料に対する芋焼酎の含有量は、一般的に0.5〜15.0%(w/w)であり、好ましくは1.0〜10.0%(w/w)である。この範囲では果実香を明瞭に引き立たせることができるが、0.5%(w/w)より少ない含有量では明瞭な差異を認めることは困難であり、また15.0%(w/w)より多く含有させると芋焼酎本来の香気が前面に出過ぎて、果実香を損ねてしまい好ましくない。果実香の種類、液体調味料の果実香の強さ、芋焼酎の香気の強さ、あるいはそれを使った最終製品である液体調味料、またこれら液体調味料を使用した加工食品の総合官能に応じて、芋焼酎の含有量を適宜調節し至適濃度を得ればよい。
【0017】
果実香の種類による芋焼酎の適当な含有量の目安を例示すると以下のようになる。レモンでは0.5〜5.0%(w/w)、オレンジでは0.5〜3.0%(w/w)、グレープフルーツでは0.5〜7.0%(w/w)、ゆずでは0.2〜6.0%(w/w)、梅では0.5〜7.0%である。
【0018】
このようにして製造された液体調味料をそのまま、あるいは、必要により加熱殺菌した後、最終的に包装容器に充填することにより、市場に広く流通する液体調味料を製造することができる。また、このようにして製造された液体調味料を、必要により他の調味料(例えば、しょうゆ、食塩水、アミノ酸含有調味液、野菜エキス、魚介系エキス、畜肉系エキス等)や食品素材(ごま、しそ、とうがらし、山椒、にんにく、しょうが、ねぎ、しいたけ、まつたけ、ほたて貝、魚卵、野菜、畜肉、魚介類等)と混合、加熱あるいはそれらを組み合わせて、最終的に容器に封入するか包装することにより、加工食品を製造することができる。液体調味料の具体例としてはポン酢醤油、めんつゆ、鍋用調味液、ドレッシング、ゆず胡椒、中華調味料の醤、浅漬け製造時の調味液等を挙げることができ、これらを使用した加工食品の具体例として、ポン酢醤油で調味されたアンコウ肝のレトルト製品、ゆず風味が加えられたカツ煮の弁当、柑橘風味が付与されたさといもの煮物、レモンドレッシングで和えた、またはレモンドレッシングが別添されたパック惣菜サラダ、白菜の浅漬け等を挙げることができる。
【0019】
本発明の果実香改善の作用機序は、単なる着香ではなく、また消臭によるものでもない。元々果実香が存在しない液体調味料に芋焼酎を用いても果実香が生じるものではない。果実香が存在するところに芋焼酎を共存させることにより、元々そこにある果実香を引き締め明瞭に感じさせることができるものである。液体調味料中に果実や果汁由来の成分が含有されておらず、合成香料でのみ果実香が形成されているものであっても本発明の方法によりその香気は明瞭化される。このように本発明の方法は合成香料により形成された果実香にも適用できるが、この場合の効果は、あくまで合成香料の香気の明瞭化であり、天然果実の香気雰囲気に近づけるものではない。また果汁含量が多い、天然の果実香が十分な液体調味料に本発明を使用すると、それは更に明瞭な引き締まった香気となる。本発明の方法は、果実香と芋焼酎の香気を共存させることにより芋焼酎を果実香の官能的エンハンサーとして機能させるものである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により説明する。但し、本発明は、以下の態様に限定されるものではない。
実施例1 ゆずドレッシングの調製および官能評価
ゆずのストレート果汁凍結品(果香社製)を解凍し、表1に示す配合割合で食塩を添加、乳化目的で卵白を添加混合し、これにキャノーラ油(味の素社製)を加えた。このようにして調製したゆずドレッシングを強く震盪し均一に乳化させ、すばやく1区を60gとした3区にし、このうち2区に水をそれぞれ2.5g、1区に芋焼酎を2.5g(芋焼酎として終濃度4%)添加した。なお、芋焼酎は以後の実施例も含め、薩摩酒造社製:さつま白波25度を用いた。3つの内から異なる一つを選択する3点識別法にてパネルテストに供した。
【0021】
パネラーには「最も果汁感がリッチなもの」はどれかを問うた。表1に処方および調製方法を、表2にパネル結果を、表3にパネラー内訳をそれぞれ示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【0022】
芋焼酎を添加した試験区が最も果汁感がリッチであると選択した割合は、18人中10人で、全体の55.6%であった。各試験区が等しいと仮定し、各試験区の出現回数が3分の1である2項分布による正規分布近似による有意差検定を実施すると、p〜0.3・1.96√0.3(1−0.3)/18 より95%信頼区間は(0.0883、0.5117)である。本試験の結果より芋焼酎を添加することにより、有意に「果実感をリッチに」することができたと考察される。また、他の試験区では何れも確率1/3の2項分布としてサンプル1が16.67%、サンプル2が27.78%であり有意差が無く、これより水添加区が有意に果実感を消長させていないことが明確である。この試験から本発明の結果は危険率5%において有意差が認められる。
【0023】
実施例2 かぼすポン酢醤油の調製および官能評価
水60gにグラニュー糖18gを溶解し、これにかぼすのストレート果汁瓶詰め製品(大分みどり農協 製)30g、および本醸造醤油(キッコーマン社製)42gを加え混合した。このようにして調製したかぼすポン酢醤油を1区を50gとした3区にし、このうち2区に水をそれぞれ1.5g、1区に芋焼酎を1.5g(芋焼酎としてかぼすポン酢醤油に対して3%、かぼすポン酢醤油中のかぼす酢に対して15%)を添加した。3つの内から異なる一つを選択する3点識別法にてパネルテストに供した。
【0024】
パネラーには「最も果汁感が明瞭なもの」はどれかを問うた。表4に処方および調製方法を、表5にパネル結果を、表6にパネラー内訳をそれぞれ示す。
【表4】

【表5】

【表6】


75%となる16人中の12人のパネラーが「最も果汁感が明瞭なもの」としてサンプル2を選択した。他のサンプルと比べて有意差が認められることは歴然である。
【0025】
実施例3
市販の梅ドレッシング(セゾンファクトリー社製)を用意し、これに芋焼酎を添加し梅果実香の改善効果を試験した。梅ドレッシング製品を50gづつ7等分し、このうち1区をコントロールとし何も加えず、残りの6区に芋焼酎をそれぞれ梅ドレッシングに対して、0.5、1.0、3.0、5.0、7.0および10.0%(w/w)となるよう添加し、ブラインドによるパネルテストを実施した。 パネラーには濃度はブラインドとし、各サンプルの濃度傾向は開示した。
【0026】
パネラーには「梅の味、香りに明瞭な変化を感じる最低濃度」および「お酒が入りすぎて違和感を感じ始める最低濃度」を問い、得られた件数を濃度に乗じて累積値を算出した。それぞれについて、平均値の95%信頼区間についてt検定を実施した。表7に試験結果を、表8に本パネルテストのパネラー内訳を示す。
【表7】

【表8】

【0027】
これらの結果から、ここで使用した市販梅ドレッシングにおいては「明瞭な変化」を感じる最低濃度の平均値が95%の確率で−1.94〜5.87%(対梅ドレッシングへの添加)の範囲に入ることがわかる。 また、「違和感」を感じ始める濃度については−2.61〜14.75%(対梅ドレッシングへの添加量)となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実香を有する液体調味料に、芋焼酎を0.5〜15.0%(w/w)含有させることを特徴とする果実香の改善方法。
【請求項2】
液体調味料が、ドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状およびペースト状の調味料からなる群より選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
果実香が、柑橘類および梅からなる群より選ばれる果実の香りである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
果実香を有する液体調味料であって、芋焼酎を0.5〜15.0%(w/w)含有する上記液体調味料。
【請求項5】
液体調味料が、ドレッシング、たれ、つゆ、ゲル状およびペースト状の調味料からなる群より選ばれる請求項4記載の液体調味料。
【請求項6】
果実香が、柑橘類および梅からなる群より選ばれる果実の香りである、請求項4または5記載の液体調味料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体調味料を原材料の一部として用いて製造された加工食品。