説明

液体麻酔剤気化装置

【課題】麻酔ガス濃度の精度を向上させると共に、液体麻酔剤の種類の変更を一つの装置で容易にできる安価な液体麻酔剤気化装置を開発する。
【解決手段】入口から麻酔基準ガスが流入し出口から麻酔ガスが流出するガス流路内にローラーチュービングポンプにより液体麻酔剤を供給することで、液体麻酔剤の吸引と吐出が同時に行われ、麻酔ガス濃度の精度も向上する。また、麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類に基づいてローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転速度を制御することで、液体麻酔剤の種類の変更を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人又は動物に対して吸入麻酔をかけるための液体麻酔剤気化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸入麻酔(全身麻酔)の方法として広く半閉鎖式循環麻酔法が用いられている。半閉鎖式循環麻酔器は、酸素・空気等の生命維持ガスと亜酸化窒素ガス(笑気とも称する麻酔ガス)の混合ガス(以下「麻酔基準ガス」と称する。)を流量計で計測し、一定量を供給する(通常4〜6l/min)。その麻酔基準ガスを液体麻酔剤気化装置に導き、所要濃度(人間の場合通常1〜5vol%)の麻酔ガスを得る。液体麻酔剤としては、フローセン、エンフルレン、イソフルレン、セボフルレン、デスフルレン等が使用される。麻酔ガスを得る方法として、コスト面等により、自然気化濃度調整方式の液体麻酔剤気化装置を用いるのが一般的である。
【0003】
得られた麻酔ガスを全身麻酔を受ける患者の呼吸回路に流し、患者が吸引し全身麻酔となる。麻酔ガス濃度は麻酔深度に大きく影響するので精度が要求される。
呼吸回路には、麻酔ガスの入口のほか炭酸ガス吸収装置、過圧安全弁、人工呼吸用回路等がサークル状に設置され、各種ガスは循環するように弁が配置されている。呼吸回路に入った麻酔ガスは、患者の体内に吸収され、患者からは吸収されなかった麻酔ガスと患者から排泄された炭酸ガスが呼気として呼吸回路に吐き出され、炭酸ガスは炭酸ガス吸収装置にて吸収され、再び循環回路に入り患者のもとへと流れる。余分な呼吸回路中のガスは過圧安全弁より外部に排出される。
【0004】
液体麻酔剤を気化させる手段として、通常「自然気化濃度調整方式」と「滴下気化濃度調整方式」があるが、本発明は「滴下気化濃度調整方式」を従来のものから改善した液体麻酔剤気化装置に関するものである。
【0005】
〔自然気化濃度調整方式〕
一般的な自然気化濃度調整方式の気化装置を、図5に基づいて説明する。
この気化装置内において、麻酔基準ガスは装置内を通過するだけのバイパス回路Aの流れと、気化した液体麻酔剤と混合される麻酔剤気化回路Bの流れに分岐する。麻酔剤気化回路Bには、回路Aと回路Bの流量比を調整する濃度調整部13、温度変化による気体の濃度を補償する温度補償室16、液体麻酔剤の気化を促進すると共に気化麻酔剤を麻酔基準ガスに混合させる気化槽17を有する。
濃度調整部13は、入口スリット14と出口スリット19を有し、これらはスリット間隔を変化させて回路Aと回路Bの流量比を所望の値にするためのものである。
温度補償室16には、温度により気体濃度の変化を補償するバイメタル等を使用した温度補償装置15が設けられている。これは、バイメタルの温度による湾曲の変化でスリット間隔を調整し温度補償を行うものである。
気化槽17は、内周面に沿って灯芯状の筒形含浸シート18を設け、槽底部に貯留した液体麻酔剤10が毛細管現象で含浸シート18に吸い上げられ、麻酔基準ガスが気化槽17を通るときに含浸シート18の作用により液体麻酔剤の気化・混合が促進される構造となっている。
【0006】
液体麻酔剤気化装置の入口11に流入した麻酔基準ガスは、分岐部でバイパス回路Aと麻酔剤気化回路Bに分岐する。回路Bに入った麻酔基準ガスは、入口スリット14、温度補償装置15を経て気化槽17内に流入し、含浸シート18に沿って上昇し、このときに含浸シートに含浸している液体麻酔剤10の気化が促進され、気化した麻酔剤が混合されて麻酔ガスとなる。麻酔ガスは気化槽を出て出口スリット19を通り、バイパス回路Aの麻酔基準ガスと合流して液体麻酔剤気化装置の出口12から流出する。
【0007】
この方式には、次のような問題点がある。
濃度調整部13は、スリット間隔を変化させて回路抵抗をかえることにより、麻酔基準ガスの回路Aと回路Bの流量比を所望の値にするものであるので、麻酔基準ガスの流量により回路A,Bの流量比が常に一定とはならず、結果的に出口側での麻酔ガス濃度が麻酔基準ガスの流量により変わってしまう。また単純に回路抵抗により流れを振り分けているため、特に低流量において精度が悪く、不安定となり使用不能になることも多かった。
また、温度補償装置が内蔵されているとはいえ、外気温の変化、気化潜熱による液体麻酔剤の温度変化、それに伴う液体麻酔剤の蒸気圧変化に温度補償装置が追随できず、これによっても麻酔ガス濃度にばらつきを生じてしまう。
また、使用する液体麻酔剤の種類により飽和蒸気圧、気化効率が異なるため、液体麻酔剤の種類ごとに専用の液体麻酔剤気化装置を製造する必要があった。
【0008】
〔滴下気化濃度調整方式〕
従来の滴下気化濃度調整方式の気化装置を、図6に基づいて説明する。
この気化装置は、シリンジ(注射筒)21、液体麻酔剤容器27、ガス流路24を有する。
シリンジ21は、配管23により液体麻酔剤容器27及びガス流路24に接続されている。
シリンジ21のピストンはシリンジ駆動装置22により前方又は後方に往復移動する。シリンジ21のピストンが後方に移動するときは、切換バルブ25が開き、切換バルブ26が閉じて液体麻酔剤容器27内の液体麻酔剤10がシリンジ21内に吸引される。ピストンが前方に移動するときは、切換バルブ25が閉じ、切換バルブ26が開いてシリンジ内の液体麻酔剤10が押し出されて吐出口23bからガス流路24内に滴下される。ガス流路24は入口から麻酔基準ガスが供給され、滴下された液体麻酔剤が気化してこれに混合され、出口から麻酔ガスとなって流出する。
【0009】
この方式の従来の気化装置には、次のような問題点がある。
麻酔基準ガス流量を人間の場合通常の5l/min、所要麻酔ガス濃度を1vol%とすると、液体麻酔剤の滴下量は0.2ml/min程度とごく微量になり、加えて麻酔ガス濃度を変化させる必要があり、精度を上げるために装置(特にシリンジ駆動装置)が非常に高価になり、普及されているとは言い難い。
シリンジが液体麻酔剤を吸引しているときは、ガス流路24内に液体麻酔剤が供給されず、その間麻酔ガス濃度は0%となってしまう。これを解消するためにシリンジを2本駆動とし、切換バルブも2組設け、一方が吸引しているときに他方を吐出に使用すればよいが、一層コストアップになってしまう。
また、シリンジ本数にかかわらず、往復動によるシリンジとシリンジ駆動装置、あるいはシリンジ駆動装置自体等のバックラッシュを避けることができず、これにより精度が悪くなるという問題もある。
さらに、使用する液体麻酔剤の種類により分子量、比重が異なるため、各液体麻酔剤ごとに専用の液体麻酔剤気化装置とする必要があった。
【0010】
この方式の液体麻酔剤気化装置を使用した麻酔装置は、例えば下記特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−236874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、自然気化濃度調整方式の、麻酔基準ガスの流量により麻酔ガス濃度が変動して精度が得られないこと、麻酔基準ガスの流量が少ないときに使用不能になること、滴下気化濃度調整方式の、装置が非常に高価になること、バックラッシュによる精度不良があること、また前記両方式の、液体麻酔剤の種類ごとに個別の装置とする必要があることの欠点を解消する液体麻酔剤気化装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
〔請求項1〕
本発明は、入口から麻酔基準ガスが流入し出口から麻酔ガスが流出するガス流路、液体麻酔剤を収納する液体麻酔剤容器、前記液体麻酔剤容器内から前記ガス流路内に亘って設けたチューブ、及び該チューブの途中に設けたローラーチュービングポンプを有し、前記ローラーチュービングポンプにより前記液体麻酔剤容器内の液体麻酔剤を、前記チューブを通じて前記ガス流路内に吐出させ、該ガス流路内でその液体麻酔剤が気化し、麻酔基準ガスに混合して麻酔ガスとなることを特徴とする液体麻酔剤気化装置である。
【0014】
本発明は、一方向に作動するローラーチュービングポンプにより液体麻酔剤をガス流路内に吐出させるので、液体麻酔剤の吸引と吐出が同時に行われ、往復作動させるシリンジと違って切換バルブが不要であり、吸引時に麻酔ガス濃度が0%になるのを防ぐためにシリンジ・シリンジ駆動装置を2組設けるようなことも必要ない。また、汎用のローラーチュービングポンプを使用できるので、非常に安価に製作することができる。
【0015】
また、ローラーチュービングポンプは一方向に連続作動するためにバックラッシュによる精度低下が無く、例えば、駆動モーターにステッピングモーターを採用し、駆動電子回路から発せられるパルス信号によりローラーチュービングポンプ回転数を制御して液体麻酔剤吐出量を調節するなどして、液体麻酔剤吐出量を容易かつ正確に制御でき、麻酔基準ガスの流量が少ないときでも麻酔ガス濃度の精度を保つことができる。
【0016】
〔請求項2〕
また本発明は、前記麻酔基準ガス又は麻酔ガスの流量を測定する流量測定部、麻酔ガス濃度を設定する麻酔ガス濃度設定部、麻酔剤の種類を選択する麻酔剤選択部、及び制御部を有し、該制御部が、前記流量測定部で測定された流量、前記麻酔ガス濃度設定部で設定された麻酔ガス濃度及び前記麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類に基づいて、前記ローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転速度を制御し、前記ガス流路内に所定量の液体麻酔剤を吐出させ、設定された濃度の麻酔ガスを前記ガス流路出口から流出させる請求項1に記載の液体麻酔剤気化装置である。
【0017】
麻酔ガス濃度設定部、麻酔剤選択部は、例えばダイアル式のスイッチを使用できるが、これに限るものではなく、キーボードやタッチパネルから入力するタイプ等でもよい。流量測定部は市販の流量センサーを使用できる。制御部は、例えば市販のマイクロコンピューター等を使用できる。
【0018】
設定された麻酔ガス濃度を得るための、液体麻酔剤の必要吐出量は、基準ガスの流量と麻酔ガス濃度の積に比例する。また必要吐出量はローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転速度に比例する。
必要吐出量を得るための駆動モーターの回転速度Vは次式で与えられ、制御部は次式により駆動モーターの回転速度Vを計算し、駆動モーターの回転を制御する。
回転速度V=流量×麻酔ガス濃度×α
ここで、「流量」は流量測定部で測定した麻酔基準ガス又は麻酔ガスの流量、「麻酔ガス濃度」は麻酔ガス濃度設定部で設定された麻酔ガス濃度、「α」は麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類によって予め設定されている固有の定数(以下αを「固有定数」と称する。)である。
【0019】
現在、液体麻酔剤は日本における臨床上、患者の状態、コスト、使い勝手、慣れ等の要因を考慮して主に次の4種類から選択使用されている。
・フローセン
・エンフルレン
・イソフルレン
・セボフルレン
この4種類に加え、デスフルレンが研究用として提供されている。
液体麻酔剤を気化させ、麻酔基準ガスに混合して麻酔ガスとしたとき、麻酔ガスの濃度に関係するのは、液体麻酔剤の分子量と比重である。液体麻酔剤は各々固有の分子量、比重を有し、これらの分子量、比重は実質的には変化しない。
そこで、各液体麻酔剤ごとに固有定数αを予め計算で求めておく。この計算は、液体麻酔剤の分子量、比重、及びローラーチュービングポンプ1回転当たりの液体麻酔剤送り量から求めることができる。
例えば、計算で求めた結果を以下の通りとすると、各液体麻酔剤の種類ごとにαの固有定数αの具体的数値として下記のa〜eを制御部のメモリに記録しておき、制御部は、麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類によって該当するa〜eのいずれかの数値を前記式の固有定数αに代入し、駆動モーターの回転速度Vを計算する。
・フローセンの場合α=a
・エンフルレンの場合α=b
・イソフルレンの場合α=c
・セボフルレンの場合α=d
・デスフルレンの場合α=e
【0020】
本発明は、麻酔基準ガスの流量に基づいて液体麻酔剤の吐出量を制御するので、麻酔基準ガスの流量が変化しても麻酔ガス濃度を高精度で所望の濃度とすることができる。
また、選択した液体麻酔剤の種類に基づいて液体麻酔剤の吐出量を制御するので、各種の液体麻酔剤について、高精度で所望の麻酔ガス濃度とすることができ、1台の液体麻酔剤気化装置で種々の液体麻酔剤を使用できる。
【0021】
〔請求項3〕
また本発明は、前記ガス流路に流入する麻酔基準ガスの流量を制御する流量調整部、その流量を設定する流量設定部、麻酔ガス濃度を設定する麻酔ガス濃度設定部、麻酔剤の種類を選択する麻酔剤選択部、及び制御部を有し、該制御部が、前記流量設定部で設定された流量、前記麻酔ガス濃度設定部で設定された麻酔ガス濃度及び前記麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類に基づいて、前記ローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転数を制御し、前記ガス流路内に所定量の液体麻酔剤を吐出させ、設定された濃度の麻酔ガスを前記ガス流路出口から流出させる請求項1に記載の液体麻酔剤気化装置である。
【0022】
流量調整部は、例えばスリットの開口面積を制御して所望の流量を得るタイプのもの等を使用できが、これに限るものではない。流量設定部は、例えばダイアル式のスイッチを使用できるが、これに限るものではなく、キーボードやタッチパネルから入力するタイプ等でもよい。
【0023】
本発明によれば、前記請求項2の発明と同様に、選択した種類の液体麻酔剤について、高精度に所望の濃度の麻酔ガスを得ることができるばかりでなく、さらに、所望の流量の麻酔ガスを得ることができる。
【0024】
制御部に、時間軸に対応して必要な麻酔ガス流量、麻酔ガス濃度を設定しておくと、全自動で全身麻酔を行うことも可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液体麻酔剤気化装置は、一方向に作動するローラーチュービングポンプにより液体麻酔剤をガス流路内に吐出させるので、液体麻酔剤の吸引と吐出が同時に行われ、吸引時に麻酔ガス濃度が0%になることがなく、バックラッシュによる精度低下もなく、高精度で麻酔ガス濃度を管理できる。
ローラーチュービングポンプは、液体麻酔剤がごく少量であっても所望量を精度よく送ることができるので、小動物用の麻酔装置にも適用できる。
また、汎用のローラーチュービングポンプを使用できるので、非常に安価に製作することができる。
【0026】
また、麻酔基準ガス又は麻酔ガスの流量を測定する流量測定部、麻酔ガス濃度を設定する麻酔ガス濃度設定部、麻酔剤の種類を選択する麻酔剤選択部、及び制御部を設け、制御部が、流量測定部で測定された流量、麻酔ガス濃度設定部で設定された麻酔ガス濃度及び麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類に基づいて、ローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転数を制御するようにしたので、麻酔基準ガスの流量が変化しても麻酔ガス濃度を高精度で所望の濃度とすることができ、1台で種々の液体麻酔剤を使用できる。
【0027】
さらに、麻酔基準ガスの流量を制御する流量調整部、その流量を設定する流量設定部を設けることで、選択した種類の液体麻酔剤について、高精度に所望の濃度の麻酔ガスを得ることができるばかりでなく、所望の流量の麻酔ガスを得ることができる。これにより、全身麻酔装置の自動化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例の液体麻酔剤気化装置1の概略説明図である。
【図2】液体麻酔剤気化装置1の制御部を中心とした信号の流れの説明図である。
【図3】実施例の液体麻酔剤気化装置1’の概略説明図である。
【図4】液体麻酔剤気化装置1’の制御部を中心とした信号の流れの説明図である。
【図5】自然気化濃度調整方式の概略説明図である。
【図6】従来の滴下気化濃度調整方式の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0029】
図1,2は、実施例の液体麻酔剤気化装置1に関するものである。
液体麻酔剤気化装置1は、入口から麻酔基準ガスが流入し出口から麻酔ガスが流出するガス流路2、液体麻酔剤10を収納する液体麻酔剤容器3、液体麻酔剤容器3の内部からガス流路2の内部に亘って設けたチューブ4を有する。チューブ4の一端(吸引口4a)は液体麻酔剤容器3内に貯留している液体麻酔剤10の中に位置し、他端(吐出口4b)はガス流路2内に位置する。また、チューブ4の途中にローラーチュービングポンプ5が設けられ、これにより液体麻酔剤容器3内の液体麻酔剤10がチューブ5の中を通ってガス流路2内に吐出する。
【0030】
ローラーチュービングポンプ5は、複数(この場合は3個)のローラー5bを持ち1方向に回転するローター5aと、回転するローラー5bと所定間隔にて固定されたシリンダー5cを有する。ローター5aを回転させると、チューブ4がローラー5bとシリンダー5cにより押し潰され、ローター5aの回転に伴って押し潰された位置が移動するので、吸引口4aで液体麻酔剤容器3から液体麻酔剤10を吸引すると共に、吐出口4bから液体麻酔剤10をガス流路2内に吐出する。
ローラーチュービングポンプ5のローター5aは、駆動モーター6(ステッピングモーター)により回転する。
【0031】
また液体麻酔剤気化装置1は、ガス流路2内に流入する麻酔基準ガスの流量を測定する流量測定部F、麻酔ガス濃度を設定する麻酔ガス濃度設定部D、麻酔剤の種類を選択する麻酔剤選択部S、及び制御部7(マイクロコンピューター等)を有する。
【0032】
麻酔ガス濃度設定部D、麻酔剤選択部Sはダイアル式スイッチである。麻酔剤選択部Sのダイアル式スイッチは段階的に変化するものであり、麻酔ガス濃度設定部Dのダイアル式スイッチは連続的に変化するものでも段階的に変化するものでもよい。設定された麻酔ガス濃度、選択された液体麻酔剤の種類、及び流量測定部Fで測定された麻酔基準ガス流量を示す信号は制御部に送られる。
制御部は、送られてきたこれらの信号に基づいて
駆動モーターの回転速度V=麻酔基準ガス流量×麻酔ガス濃度×固有定数α
を算出し、その回転速度を制御するパルス信号を駆動モーター6に送る。
これにより、設定した麻酔ガス濃度を得るために必要な量の液体麻酔剤が、精度よくガス流路2内に吐出される。
【0033】
ガス流路2の入口には、麻酔基準ガス供給手段8から麻酔基準ガスが供給される。図1に示される麻酔基準ガス供給手段8は、コンプレッサー、ガスボンベ、又は手術室・病室などに備え付けの中央配管方式等から供給される空気・酸素と笑気を入口の調整バルブVで調整し、これらのガスを所望の割合で混合して麻酔基準ガスとし、所望の圧力(大気圧に近い圧力)でガス流路2に供給するもので、麻酔基準ガスの流量表示部分(図示せず)を有し、一般には「流量計」と呼ばれているものである。
ガス流路2に流入した麻酔基準ガスはガス流路2内を出口方向に流れる途中で、吐出口4bから吐出した液体麻酔剤の気化ガスが混合し、所定濃度の麻酔ガスとなってガス流路2の出口から流出する。
【0034】
麻酔剤選択部Sで、使用する液体麻酔剤(例えばフローセン)を選択し、麻酔ガス濃度設定部Dで所望の麻酔ガス濃度を設定し、装置を作動させることで、所望の濃度のフローセン麻酔ガスをガス流路2出口から流出させることができる。
【0035】
使用する液体麻酔剤を変更する(例えばフローセンからエンフルレンに変更する)場合は、
液体麻酔剤容器を本装置から取り外す → チューブ内に残された液体麻酔剤を押し出す、又はチューブを取り替える → 変更後の液体麻酔剤容器を本装置に取り付ける → 麻酔剤選択部Sの選択を変更する
の簡単な作業で実施することができる。したがって、液体麻酔剤の種類ごとに気化装置を製造又は購入する必要がなくなり、利便性が向上しコスト負担が低減した。
【0036】
図3,4は、実施例の液体麻酔剤気化装置1’に関するものである。液体麻酔剤気化装置1’が前記の液体麻酔剤気化装置1と異なるのは、麻酔基準ガスの流量を制御する流量調整部9をガス流路2の入口付近に設け、さらにその流量を設定する流量設定部Gを設けた点である。
【0037】
流量調整部9は、図1の麻酔基準ガス供給手段(いわゆる流量計)を兼ねるものである。コンプレッサー、ガスボンベ、又は手術室・病室などに備え付けの中央配管方式等から供給される空気・酸素と笑気の流量を調整するソレノイドバルブV、これらのガスを混合した麻酔基準ガスの流路の開口面積を調整できるスリットSL及びその駆動手段、スリットを通過した麻酔基準ガスの流速を測定する流速センサーを有し、麻酔基準ガスの流量が流量設定部Gで設定した流量となるように、流速センサーの測定値に基づいてソレノイドバルブV及びスリット開口面積を自動制御で調整するものである。
流量調整部は、上記のものに限るものではなく、麻酔基準ガスが流量設定部Gで設定した流量となるように調整できるものであればどのようなものでもよい。
【0038】
麻酔剤選択部Sで、使用する液体麻酔剤(例えばフローセン)を選択し、流量設定部Gで所望の麻酔ガス流量を設定し、麻酔ガス濃度設定部Dで所望の麻酔ガス濃度を設定し、装置を作動させることで、所望の流量・濃度のフローセン麻酔ガスをガス流路2出口から流出させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 液体麻酔剤気化装置
2 ガス流路
3 液体麻酔剤容器
4 チューブ
5 ローラーチュービングポンプ
5a ローター
5b ローラー
5c シリンダー
6 駆動モーター
7 制御部
8 麻酔基準ガス供給手段
9 流量調整部
10 液体麻酔剤
11 入口
12 出口
13 濃度調整部
14 入口スリット
15 温度補償装置
16 温度補償室
17 気化槽
18 含浸シート
19 出口スリット
21 シリンジ
22 シリンジ駆動装置
23 配管
24 ガス流路
25 切換バルブ
26 切換バルブ
27 液体麻酔剤容器
F 流量測定部
G 流量設定部
D 麻酔ガス濃度設定部
S 麻酔剤選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口から麻酔基準ガスが流入し出口から麻酔ガスが流出するガス流路、液体麻酔剤を収納する液体麻酔剤容器、前記液体麻酔剤容器内から前記ガス流路内に亘って設けたチューブ、及び該チューブの途中に設けたローラーチュービングポンプを有し、前記ローラーチュービングポンプにより前記液体麻酔剤容器内の液体麻酔剤を、前記チューブを通じて前記ガス流路内に吐出させ、該ガス流路内でその液体麻酔剤が気化し、麻酔基準ガスに混合して麻酔ガスとなることを特徴とする液体麻酔剤気化装置。
【請求項2】
前記麻酔基準ガス又は麻酔ガスの流量を測定する流量測定部、麻酔ガス濃度を設定する麻酔ガス濃度設定部、液体麻酔剤の種類を選択する麻酔剤選択部、及び制御部を有し、該制御部が、前記流量測定部で測定された流量、前記麻酔ガス濃度設定部で設定された麻酔ガス濃度及び前記麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類に基づいて、前記ローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転数を制御し、前記ガス流路内に所定量の液体麻酔剤を吐出させ、設定された濃度の麻酔ガスを前記ガス流路出口から流出させる請求項1に記載の液体麻酔剤気化装置。
【請求項3】
前記ガス流路に流入する麻酔基準ガスの流量を制御する流量調整部、その流量を設定する流量設定部、麻酔ガス濃度を設定する麻酔ガス濃度設定部、液体麻酔剤の種類を選択する麻酔剤選択部、及び制御部を有し、該制御部が、前記流量設定部で設定された流量、前記麻酔ガス濃度設定部で設定された麻酔ガス濃度及び前記麻酔剤選択部で選択された液体麻酔剤の種類に基づいて、前記ローラーチュービングポンプの駆動モーターの回転数を制御し、前記ガス流路内に所定量の液体麻酔剤を吐出させ、設定された濃度の麻酔ガスを前記ガス流路出口から流出させる請求項1に記載の液体麻酔剤気化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−83472(P2011−83472A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239107(P2009−239107)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(595178494)株式会社ムラコメディカル (1)