説明

液化ガス気化装置

【課題】寒冷地のサテライト基地向けの気化装置として好適な、液化ガス気化装置を提供する。
【解決手段】解氷運転時においては、後述する温風発生装置で作られ、温風ダクト11を経由して温風導入口7に供給される温風を、気化装置下部空間13に吹き出して、伝熱管10の周囲温度が5℃前後となるように加温する。さらに、後述する別系統の加熱装置から、ガスラインLcを経由して供給される加温されたガスを伝熱管内部に流して、内部からも加温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空温式の液化ガス気化装置に係り、特に、寒冷地のサテライト基地向けの気化装置として好適な液化ガス気化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大都市圏から離れた地方における都市ガス需要の増加に伴い、液化天然ガス(LNG)サテライト基地が多く建設されている。LNGサテライト基地は、LNG貯槽と気化器を備えた設備であり、沿岸のLNG受入基地からローリーでLNGを輸送し、LNG貯槽に一旦貯蔵した後に、LNGを気化装置で気化して工業団地や住宅地などに都市ガスとして供給するためのものである。
従来、寒冷地向けのエアフィン式LNG気化装置に関しては、熱交換器伝熱管表面に付着した氷を融解・除去させるため、気化装置内部に温風を送入して解氷運転が行われる。しかしながら、気温の低い冬季には、気化運転時の外気導入のために設けられている外気取入口からの寒冷風の吹き込みにより、気化器内部の温度が下がり、解氷性能を著しく低下させるという問題がある。
これに対して、温風を各部に行き渡らせるために、複数の温風導入口や温風経路中に分配用の羽根などを設けて、気化器内部の温度分布の均一化を図る技術(例えば特許文献1)が提案されているが、気化器の構造が複雑となり、コストアップ要因となるという問題がある。
【0003】
また、解氷運転時の風の吹き込みを遮断する方法も提案されている(例えば特許文献2)。図9はこのような気化装置100を示し、蒸発部101、加熱部102の上部にシャッター104を備えている。そして、気化運転時にはシャッター104を収納部105に格納し、蒸発部101、加熱部102の上部を開放することにより、必要通気量を確保する。また、解氷運転時には、温風供給手段106から送入される温風をハウジング103内に導入するが、この際、シャッター104を閉じることにより、開口部107からの大気の吹き込みを防止して、気化装置内部の保温性能を向上させるものである。
しかしながら、当該気化装置はシャッターという可動機構を持つため、特に寒冷地では凍結等のトラブルが懸念される。また、定期的な点検、整備等のメンテナンスが必要という問題もある。
【特許文献1】特開2005-98480号公報
【特許文献2】特開2006-242274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためのものであって、簡易な構成により、解氷運転時において装置内部の保温性能を確保し、短時間で伝熱管の着氷を解氷可能な液化ガス気化装置を提供する。本発明は、以下の内容を要旨とする。すなわち、本発明に係る液化ガス気化装置は、
(1)管内に液化ガスを通して外気との熱交換により気化させる伝熱管群と、液化ガスの気化に伴う伝熱管群の着氷を解氷するための温風供給手段と、伝熱管群の下方に外気導入口と、伝熱管群の上方に強制通気ファンと、を備えた液化ガス気化装置であって、該温風供給手段は、解氷運転時において、伝熱管周囲温度を約5℃以上に維持可能に構成され、 該外気導入口は、気化運転時において必要通風量を確保し、かつ、解氷運転時における温風供給の効果を妨げない程度の、開口率及び通気抵抗を有する防風手段を備えて成ることを特徴とする。
【0005】
気化運転時には外気導入を必要とする一方、解氷運転時には寒冷外気の吹き込みを抑制しなければならない。これらの要求は相反するものであるが、適切な通風抵抗を有する防風手段(ガラリ、衝立等)を設けることにより、両者の要求を両立させることができる。
さらに、装置内部加温のための温風導入量に関しては、経済性を考慮すると少ない方が好ましい。図6は、伝熱管周囲温度と所要解氷時間の関係を示す図である。周囲温度が5℃以上では解氷時間の変化は緩やかであるのに対して、5℃以下では急激に解氷時間が増加していることが分かる。経済性を考慮すると、5℃前後が最適伝熱管周囲温度といえる。
以上のことから、本発明は、気化運転時と解氷運転時の要求を両立させる外気導入口と、解氷運転時に要求される解氷性能と経済性を両立させる温風供給手段と、の相互作用により成立するものである。
【0006】
なお、図6の前提となる試験条件等については後述するが、検討に際しては気化能力0.5〜2t/h程度の、小型気化装置用伝熱管として標準的な伝熱管を用いている。一方、実際の気化装置の設計に際しては、要求気化能力に合わせて伝熱管本数を増減させることが一般的である。従って、本発明の範囲は、単に試験条件の範囲に限定されるものではなく、同等の伝熱特性を持つ伝熱管を用いた気化装置一般に広く及ぶものである。
【0007】
(2)温風供給手段は、温風発生手段と、伝熱管群の下方に温風吹き出し口と、を備え、温風吹き出し口は、前記伝熱管周囲温度条件を満たす温風風量、風速及び風向となる垂直断面形状及び水平断面形状を備えて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凍結等のトラブルの懸念がある可動機構や、コストアップ要因となる複雑な温風通路構造を持つことなく、短時間で解氷運転を完了させることができるという効果がある。
また、温風発生のための所要燃料を減らすことができ、エネルギー効率の高い液化ガス気化装置が実現できる。
さらに、本発明に係る液化ガス気化装置を複数台備えて、解氷運転を順に行うガス供給システムにおいては、1台あたりの解氷時間の短縮により稼働率向上を図ることができ、気化装置の必要設置台数を減らすことができる。これによっても、イニシアルコスト、ランニングコストの低減が実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至5を参照してさらに詳細に説明する。なお、重複説明を回避するため、各図において同一構成には同一符号を用いて示している。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
図1は、本実施形態に係る液化ガス気化装置1の正面内部構成を示す図である。図2は、同平面内部構成を示す図である。
液化ガス気化装置1は、カバーフレーム2の内部に収容される蒸発部3と、蒸発部3の上部に配設される2個の強制通気ファン8と、カバーフレーム2の下部に配設される温風導入口7と、これら本体を四隅で支持するコンクリート架台9と、各辺の架台間に形成される空間部に設けられた4個の外気導入部6と、を主要構成として備えている。
蒸発部3は、縦方向に配列した複数のフィン付伝熱管10と、各伝熱管に接続する下部マニホールド4及び上部マニホールド5と、により構成されている。下部マニホールド4は、LNG貯槽(図示せず)内のLNGを送出するガスラインLaに接続されている。また、上部マニホールド5は、ガスラインLbに接続されている。
温風導入口7は、上方から見て末広がり形状に形成され、吹出口から吹き出される温風が内部全体に行き渡り、温度分布を均一にするように構成されている。また、吹出口断面は長方形に形成され、末端側の伝熱管に温風が届く温風風速を確保するように、断面積、縦横比が設定されている。
【0010】
外気導入部6は、架台間の開口部に嵌め込まれたフレーム6aと、フレーム6aに取り付けられたガラリ6bにより構成されている。ガラリ6bの開口率及び通気抵抗は、気化運転時に気化に必要な通風量が確保されるように設定されている。
以上の構成により、液化ガス気化装置1は、気化運転時においてガスラインLaを経由して下部マニホールド4に導入され、さらに各伝熱管10に送られるLNGを、強制通気ファン8によりガラリ6bを介して導入される外気と熱交換させて気化する。気化したガスを上部マニホールド5に集めた後、後述する加熱装置(図示せず)に送り、そこで加温して供給ガスとして需要家(図示せず)に供給する。
【0011】
また、解氷運転時においては、後述する温風発生装置(図示せず)で作られ、温風ダクト11を経由して温風導入口7に供給される温風を、気化装置下部空間13に吹き出して、伝熱管10の周囲温度が5℃前後となるように加温する。さらに、後述する別系統の加熱装置(図示せず)からガスラインLcを経由して供給される約50〜100℃に加温されたガスを、伝熱管内部に流して、内部からも加温する。これにより、伝熱管表面の着氷12を解氷する。
【0012】
次に、図3を参照して、上述の構成に係る液化ガス気化装置を用いた、ガス供給装置20について説明する。ガス供給装置20は、2基の液化ガス気化装置1A、1Bを並列に配置し、それぞれの下流側に、気化したガスを加熱する加熱装置20A、20Bと、これらの装置に温風を供給する温風発生装置21と、を主要構成として備えている。
温風発生装置21は、加熱装置20A又は20BのガスラインL6a又はL6bを介して供給される気化ガスを燃料として温風を発生させ、これを解氷運転時に、温風ダクト22を介して気化装置1A又は1Bに供給可能に構成されている。また、供給ガス加熱用として、温風ダクト23a、23bを介して及び加熱装置20A又は20Bに供給可能に構成されている。
ガス供給装置20におけるガス供給は、ガスラインL0を介して送入されるLNGを、ガスラインL1、L2に分岐して気化装置1A、1Bに導入し、気化後に加熱装置20A、20Bを通して加熱し、合流後にガスラインL3を経由して需要家に供給することにより行われる。
【0013】
次に、2基の気化装置を用いて、気化運転と解氷運転とを交互に行う工程について説明する。図4は、気化装置1Aが気化運転、気化装置1Bが解氷運転の工程を示す図である。LNGは、ガスラインL0、L1を経由して気化装置1Aに送入され、気化後に加熱装置20Aで加熱されて、ガスラインL3を経由して需要家(図示せず)に供給される。この間、気化装置1B側では温風ダクト22bを介して温風が気化器内部に導入され、解氷運転が行われる。
【0014】
次に、図5は、気化装置1Bの解氷終了後に、気化運転と解氷運転が切り替えられた状態を示す図であり、気化装置1Aが解氷運転、気化装置1Bが気化運転の工程となる。すなわち、LNGはガスラインL1を経由して気化装置1Bに送入され、気化後に加熱装置20Bで加熱されて、ガスラインL3より需要家に供給される。この間、気化装置1A側では温風ダクト22aを介して温風が気化器内部に導入され、解氷運転が行われる。
以上の工程をサイクリックに行うことにより、ガス供給を中断することなく連続的に液化ガスを供給することが可能となる。
【0015】
なお、本実施形態においては、2基の気化装置を用いた例を示したが、3基以上の気化装置を用いることにより、供給量のさらなる増加が可能となり、また、メンテナンス等が容易となる。
また、本実施形態においては、それぞれの気化装置が下流側に加熱装置を備えた例を示したが、加熱装置を共通とする形態とすることもできる。
【0016】
以下、本発明の効果を確認するために行った試験の内容について概説する。
【実施例1】
【0017】
伝熱管周囲温度と所要解氷時間の関係を得るため、以下の試験を行った。
恒温室内に配管したフィン付き伝熱管にLN2(液化窒素)を流して着氷させ、次に、加温N2ガスを管内を通過させて、解氷に要する時間を測定した。供試伝熱管の仕様を表1に示す。また、恒温室内湿度、N2ガス温度及び伝熱管の着氷厚の各条件は、表2の通りである。
【表1】

【0018】
【表2】

図6に、伝熱管周囲温度と解氷所要時間の関係を示す。同図より、周囲温度が5℃以上では解氷時間の変化は緩やかであるのに対して、5℃以下では急激に解氷時間が増加していることが分かる。
【実施例2】
【0019】
既存の気化装置の外気導入口を本発明の条件に適合させ、さらに温風吹出口形状を種々変えた試験装置を用いて、温風分配性能(温度均一性)を比較測定した。

(1)気化装置の能力、各部の仕様及び温風供給条件等を表3に示す。
【表3】

(2)評価結果
図7に、各吹出口形状に対する吹出口位置断面温度分布を示す。また、表4に各ブロックの外気温度との温度差を示す(ブロック番号と位置の対応については、図7最下欄参照)。温度差5deg以下のブロック数の最も少ない、H×D=30×1600を最適吹出口形状と判定した。
【0020】
【表4】

【実施例3】
【0021】
さらに、解氷性能を上げるため温風量4500m3N/hに設定したときの、気化装置の縦断面及び横断面の温度分布をシミュレーションにより求めた。ここに、吹出口形状を実施例2の吹き出し風速と一致させるため、H×D=50mm×1600mmを選定した。外気条件、温風供給条件は表5に示す通りである。なお、ガラリによる効果の計算については、シミュレーション困難なため、実測した通過風速を用いた。
【0022】
【表5】

(2)評価結果
図8にシミュレーション結果を示す。この結果から、吹出口より上方位置においては5℃以上となることが確認された。これより、本実施例と同程度の気化能力を持つ気化装置について、本発明の有効性が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、LNGのガス化供給装置に限らず、気化装置を用いてガス化する液化燃料ガスの供給装置に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】液化ガス気化装置1の透過側面を示す図である。
【図2】液化ガス気化装置1の透過平面を示す図である。
【図3】本発明に係る液化ガス気化装置を用いたガス供給装置20の構成を示す図である。
【図4】気化装置1Aが気化運転、気化装置1Bが解氷運転の工程を示す図である。
【図5】気化装置1Aが解氷運転、気化装置1Bが気化運転の工程を示す図である。
【図6】伝熱管周囲温度と解氷所要時間の関係を示す図である。
【図7】温風吹出口形状を変えたときの気化装置底部断面の温度分布を示す図である。
【図8】30×1600 吹出口を用いた気化装置の縦方向及び横方向の温度分布を示す図である。
【図9】従来の液化ガス気化装置100の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
1、1A、1B・・・・液化ガス気化装置
2・・・・カバーフレーム
3・・・・蒸発部
4・・・・下部マニホールド
5・・・・上部マニホールド
6・・・・外気導入部
6b・・・ガラリ
7・・・・温風導入口
10・・・フィン付伝熱管
20・・・ガス供給装置
20A、20B・・・加熱装置
21・・・温風発生装置
11、22、23a、23b・・・温風ダクト
L0〜L5、La〜Lc・・・・ ガスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管内に液化ガスを通して外気との熱交換により気化させる伝熱管群と、液化ガスの気化に伴う伝熱管群の着氷を解氷するための温風供給手段と、伝熱管群の下方に外気導入口と、伝熱管群の上方に強制通気ファンと、を備えた液化ガス気化装置であって、
該温風供給手段は、解氷運転時において、伝熱管周囲温度を約5℃以上に維持可能に構成され、
該外気導入口は、気化運転時において必要通風量を確保し、かつ、解氷運転時における温風供給の効果を妨げない程度の、開口率及び通気抵抗を有する防風手段を備え、
て成ることを特徴とする液化ガス気化装置。
【請求項2】
前記温風供給手段は、温風発生手段と、伝熱管群の下方に温風吹き出し口と、を備え、
該温風吹き出し口は、前記伝熱管周囲温度条件を満たす温風風量、風速及び風向となる垂直断面形状及び水平断面形状を備えて成ることを特徴とする請求項1に記載の液化ガス気化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−162247(P2009−162247A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339272(P2007−339272)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000220000)東京ガス・エンジニアリング株式会社 (15)
【Fターム(参考)】