説明

液化ガス燃料船及びそのバンカリング方法

【課題】LNGのような液化ガスであっても船舶の燃料として使用することができ、大気汚染物質の発生が少なく、燃料の補充が容易であり、既存船にも適用可能な液化ガス燃料船及びそのバンカリング方法を提供する。
【解決手段】本発明の液化ガス燃料船1は、燃料である液化ガスを貯蔵可能なバンカータンク2と、バンカータンク2から自然的に又は強制的に発生される気化ガスを貯蔵可能なバッファタンクを備えた気化ガス処理部3と、気化ガスを再液化してバンカータンク2に再戻する再液化装置部4と、バッファタンクから供給される気化ガスにより駆動されるエンジン5と、エンジン5に接続された発電機6と、発電機6により生じた電気を駆動源とする電気推進器7と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガスを船舶の燃料とする液化ガス燃料船及びそのバンカリング方法に関し、特に、液化天然ガス(LNG)に適した液化ガス燃料船及びそのバンカリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナ船や商船等の船舶は、重油を燃料とするディーゼルエンジンにより運航されることが多い。近年、重油は高騰しており、船舶の運航コストに与える影響が大きくなっている。また、重油を燃焼すると、二酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等の大気汚染物質が発生する。そこで、地球環境への配慮から天然ガスを船舶の燃料として使用することが提案されている。
【0003】
特許文献1には、天然ガスを燃料とする電気駆動推進機構を備えた船舶であって、船体と、前記船体に収容された燃料タンクと、前記燃料タンク内の天然ガスを燃料として用いて発電する複数のガス発電機と、前記ガス発電機が生成した電力により駆動されるモーターと、前記モーターによって駆動されるスクリューとを備え、前記複数のガス発電機は、船内において分散設置されていることを特徴とする船舶が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−126829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された船舶では、船内スペースを有効利用するために、燃料タンクを前方、後方、右舷、左舷等に分散して配置している。しかしながら、かかる船舶では、燃料タンクが分散しているため燃料の補充が面倒である。また、既存船に燃料タンクを分散配置するスペースを設けることが困難である。さらに、特許文献1に記載された船舶の燃料である天然ガスにはNGH(天然ガスハイドレート)を使用することを前提としている。そして、燃料として液化天然ガス(LNG)を使用すると、−162℃の極低温下で製造・貯蔵されるため取り扱いが非常に難しい、タンクの温度上昇によりLNGが少しずつ蒸発してボイルオフガス(BOG)が多量に発生する、船舶の停泊中にはBOGを取り除く必要がありコストが増加する等の問題点が指摘されており、これらのLNGの問題点を解決する手段には言及していない。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、LNGのような液化ガスであっても船舶の燃料として使用することができ、大気汚染物質の発生が少なく、燃料の補充が容易であり、既存船にも適用可能な液化ガス燃料船及びそのバンカリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、燃料である液化ガスを貯蔵可能なバンカータンクと、該バンカータンクから自然的に又は強制的に発生される気化ガスを貯蔵可能なバッファタンクを備えた気化ガス処理部と、前記気化ガスを再液化して前記バンカータンクに再戻する再液化装置部と、前記バッファタンクから供給される気化ガスにより駆動されるエンジンと、該エンジンに接続された発電機と、該発電機により生じた電気を駆動源とする電気推進器と、を有することを特徴とする液化ガス燃料船が提供される。ここで、前記バンカータンク、前記気化ガス処理部及び前記再液化装置部は、ユニット化されて一体に構成されていてもよい。
【0008】
前記気化ガス処理部は、例えば、前記バンカータンク内のボイルオフガスを前記バッファタンクに供給するガスコンプレッサと、前記バンカータンク内の液化ガスをガス化して前記バッファタンクに供給するヒーターと、を有する。
【0009】
前記再液化装置部は、例えば、前記バンカータンク内の液化ガスを再冷却する第一熱交換器と、前記バッファタンク内の気化ガスを冷却して液化する第二熱交換器と、前記第一熱交換器及び前記第二熱交換器の冷却源を貯蔵可能な冷却用タンクと、を有する。
【0010】
前記エンジンは、ガスエンジン、ディーゼルエンジンを改良したガス化エンジン又はディーゼル燃料と液化ガスの双方を燃焼できるデュアルフューエルエンジンであることが好ましい。また、前記発電機により生じた電気を船内電源及び港内電源として利用可能に構成されていてもよい。
【0011】
前記液化ガス燃料船は、通常航海時に用いるサービスモードと、BOGの発生量がエンジンの気化ガス消費量よりも多い場合に用いるエクセスモードと、BOGの発生量を抑制するためにバンカータンク内の液化ガスの温度を低下させるクールダウンモードと、前記バンカータンクに液化ガスを供給(バンカリング)する場合に用いるバンカリングモードと、を有し、これらのモードを組み合わせて運航されることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、燃料である液化ガスを貯蔵可能なバンカータンクと、該バンカータンクから自然的に又は強制的に発生される気化ガスを貯蔵可能なバッファタンクを備えた気化ガス処理部と、前記気化ガスを再液化して前記バンカータンクに再戻する再液化装置部と、前記バッファタンクから供給される気化ガスにより駆動されるエンジンと、該エンジンに接続された発電機と、該発電機により生じた電気を駆動源とする電気推進器と、を有する液化ガス燃料船のバンカリング方法であって、前記液化ガス燃料船の寄港時に、前記バンカータンクに液化ガスを供給する又は前記バンカータンクを交換することにより前記液化ガス燃料船の燃料を補充する、ことを特徴とする液化ガス燃料船のバンカリング方法が提供される。
【0013】
前記バンカータンク、前記気化ガス処理部及び前記再液化装置部は、ユニット化されて一体に構成されており、前記液化ガス燃料船の寄港時に、ユニットごと交換することにより前記液化ガス燃料船の燃料を補充するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明の液化ガス燃料船及びそのバンカリング方法によれば、バッファタンクを備えた気化ガス処理部と、気化ガスを再液化可能な再液化装置部と、を設けたことにより、燃料がLNGであっても容易に取り扱うことができ、BOGの処理を容易に行うことができる。したがって、LNGであっても船舶の燃料として使用することができ、大気汚染物質の発生が少ない船舶を提供することができる。また、LNGタンク等の設備を備えた港であればLNGタンクとバンカータンクを接続することにより燃料を補充することができ、設備が整っていない港であればバンカータンクごと交換することにより燃料を補充することができ、容易に燃料を補充することができる。また、既存船のディーゼルエンジンをガスエンジンに交換又は改造することにより、既存船にも容易に適用することができる。特に、バンカータンク、気化ガス処理部及び再液化装置部をユニット化することにより、燃料の補充や既存船の改造をより容易に行うことができる。
【0015】
また、発電機により生じた電気を船内電源のみならず港内電源として利用可能に構成することにより、停泊中にBOGが大量に発生したとしても陸上側に売電等することによりコストの上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図1〜図5を用いて説明する。ここで、図1は、本発明に係る液化ガス燃料船を示す構成図であり、(A)は第一実施形態、(B)は第二実施形態、である。また、図2は、気化ガス処理部及び再液化装置部を示す詳細構成図である。
【0017】
図1(A)に示すように、本発明の液化ガス燃料船1は、燃料である液化ガスを貯蔵可能なバンカータンク2と、バンカータンク2から自然的に又は強制的に発生される気化ガスを貯蔵可能なバッファタンク3t(図2参照)を備えた気化ガス処理部3と、気化ガスを再液化してバンカータンク2に再戻する再液化装置部4と、バッファタンク3tから供給される気化ガスにより駆動されるエンジン5と、エンジン5に接続された発電機6と、発電機6により生じた電気を駆動源とする電気推進器7と、を有する。
【0018】
前記液化ガスは、例えば、液化天然ガス(LNG)である。したがって、前記バンカータンク2には、LNG船等に使用されるLNGタンクをそのまま又は小型化したものが使用することができる。例えば、LNGの洋上貯蔵技術として実績のある自立角型(SPB)タンクを使用すれば、タンク形状の設計自由度が高く船形に適した形状を選定することができる、タンク壁面を破壊する恐れがあるスロッシング(液体の揺れ)に強い構造を有しており、船体とタンクの間に常温の空間が確保されており、点検・保守が容易である等のメリットがある。かかるバンカータンク2の容積は、液化ガス燃料船1の航路が決まっている場合には、航路及び寄港時間等を考慮して設計される。例えば、小型の船舶であれば、100〜200m程度の容積で十分である。
【0019】
前記気化ガス処理部3は、バンカータンク2内のボイルオフガス(BOG)をバッファタンク3tに供給するガスコンプレッサ3cと、バンカータンク2内の液化ガスをガス化してバッファタンク3tに供給するヒーター3hと、を有する。また、気化ガス処理部3は、図2に示すように、バンカータンク2内で発生するBOGをバッファタンク3tに送るBOG回収ライン31と、バンカータンク2内の液化ガスを積極的に気化させてバッファタンク3tに送る気化ガス発生ライン32と、バッファタンク3t内の気化ガスをエンジン5に供給する気化ガス供給ライン33と、を有する。そして、ガスコンプレッサ3cはBOG回収ライン31に配置され、ヒーター3hは気化ガス発生ライン32に配置されている。
【0020】
BOG回収ライン31は、バンカータンク2の内圧を一定に保ちつつバンカータンク2内で発生したBOGをガスコンプレッサ3cにより吸い上げてバッファタンク3tに回収するラインである。
【0021】
気化ガス発生ライン32は、BOGのみでは気化ガスが不足する場合に、バンカータンク2内の液化ガスをポンプ32pで汲み上げてヒーター3hで積極的に気化させ、ヒーター3hで発生した気化ガスをバッファタンク3tに貯蔵するラインである。なお、図2に示すように、気化ガス発生ライン32の一部を、後述する再液化装置部4の再冷却ライン41と共有する場合には、切り換え可能なバルブ32vをライン中に配置してもよい。
【0022】
気化ガス供給ライン33は、図1(A)に示したエンジン5に気化ガスを供給するラインであり、各エンジン5側に配置された流量調整バルブ(図示せず)により各エンジン5への供給量が制御される。
【0023】
前記再液化装置部4は、バンカータンク2内の液化ガスを再冷却する第一熱交換器4aと、バッファタンク3t内の気化ガスを冷却して液化する第二熱交換器4bと、第一熱交換器4a及び前記第二熱交換器4bの冷却源を貯蔵可能な冷却用タンク4cと、を有する。冷却源には、例えば、液体窒素(LN)が使用される。また、再液化装置部4は、図2に示すように、バンカータンク2内の液化ガスを再冷却してバンカータンク2内に再戻する再冷却ライン41と、バッファタンク3t内の気化ガスを液化してバンカータンク2内に再戻する再液化ライン42と、第一熱交換器4a及び第二熱交換器4bの冷媒を循環させる冷媒循環ライン43と、を有する。そして、第一熱交換器4aは再冷却ライン41に配置され、第二熱交換器4bは再液化ライン42に配置され、冷却用タンク4cは冷媒循環ライン43に配置されている。
【0024】
再冷却ライン41は、バンカータンク2の上層部の液化ガスをポンプ41pで汲み上げて第一熱交換器4aで過冷却状態にした後、バンカータンク2の下層部に再戻するラインである。液化ガスがLNGの場合には、−162〜−163℃程度まで第一熱交換器4aで冷却する。過冷却した液化ガスをバンカータンク2に戻して撹拌するとバンカータンク2内の温度を液化ガスの沸点以下の温度(液化ガスがLNGの場合には、−160℃以下の温度)に下げることができ、BOGの発生を抑制することができる。また、再冷却ライン41は、バルブ32vを介して気化ガス発生ライン32から分岐されており、バンカータンク2に接続される液化ガスの取出口を共有化している。なお、バンカータンク2内の温度を均一にするために、再冷却ライン41の噴出口をバンカータンク2の下面に分散させて対流を発生させたり、バンカータンク2内の液化ガスを掻き混ぜる撹拌器を設置したりしてもよい。
【0025】
再液化ライン42は、バッファタンク3t内の気化ガスが余剰の場合に再液化してバンカータンク2内に再戻するラインである。停泊中のようにエンジン5の使用率が低い場合にはバッファタンク3t内の気化ガスが余剰となる場合があるため、気化ガスをバルブ42vを介して第二熱交換器4bに供給し再液化してバンカータンク2に戻すことにより、バッファタンク3tの内圧を一定に維持する。なお、バルブ42vの代わりに、ポンプやガスコンプレッサを使用してもよい。
【0026】
冷媒循環ライン43は、液化ガスの沸点よりも低い温度の冷媒を循環するラインである。例えば、冷却源として液体窒素(LN)を使用した場合には、冷媒循環ライン43は、冷却用タンク4cから窒素(N)を送り出す第一コンプレッサ43aと、第一コンプレッサ43aにより送り出された窒素を冷却する第一冷却器43bと、第一冷却器43bの下流に配置された第二コンプレッサ43cと、第二コンプレッサ43cにより送り出された窒素を冷却する第二冷却器43dと、第二コンプレッサ43cにより駆動されるエキスパンダ43eと、を有する。エキスパンダ43eは送られた窒素を膨張させて温度を低下させる機能を有する。また、エキスパンダ43eを通過した窒素は、第二熱交換器4b及び第一熱交換器4aを通過して冷却用タンク4cに戻され、冷却用タンク4c内で冷却されて液体窒素として貯蔵される。
【0027】
前記エンジン5は、気化ガスにより作動可能なガスエンジンであり、図1(A)に示すように、複数のエンジン5が配置される。ここでは、2台のエンジン5を図示したが、3台以上のエンジン5を配置してもよい。また、既存船を改良する場合には、ディーゼルエンジン本体をガスエンジンに交換してもよいし、ディーゼルエンジンにガスインジェクションを取り付けてガス化エンジンに改良してもよい。
【0028】
前記発電機6は、各エンジン5の作動により回転され発電する機器であり、各エンジン5に配置される。発電機6により発電された電気は、配電盤8を介して電気が必要な箇所に送電される。例えば、かかる電気は、船内の電気機器に使用する船内電源として利用されたり、船内に配置された別の配電盤9に送電されて利用されたり、電気推進器7の電源として利用されたりする。配電盤9に送電された電気は、例えば、気化ガス処理部3、再液化装置部4及びその他の船内機器の電源として利用される。また、配電盤8,9には、電気を貯蓄可能な蓄電池等を接続してもよいし、陸上側の電気機器や配電盤と接続可能な接続口を設けておいて寄港時に港内電源として利用するようにしてもよい。
【0029】
前記電気推進器7は、発電機6により発電された電気により駆動される電動モータ7mと、電動モータ7mの駆動により回転されるスクリュー7sと、を有する。電気推進器7は、図示した構成に限られず、スクリュー7sを水平方向に回動可能に構成したポッド型電気推進器であってもよいし、スクリュー7sに二重反転プロペラを採用してもよい。
【0030】
上述した液化ガス燃料船によれば、バッファタンク3tを備えた気化ガス処理部3と、気化ガスを再液化可能な再液化装置部4と、を設けたことにより、燃料がLNGであっても容易に取り扱うことができ、BOGの処理を容易に行うことができる。したがって、LNGであっても船舶の燃料として使用することができ、大気汚染物質の発生が少ない船舶を提供することができる。
【0031】
ここで、一般的な船舶の燃料である重油と液化ガスである液化天然ガス(LNG)との大気汚染物質の発生量について説明する。大気汚染物質として、二酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、微粉末物質(PM)を例に挙げる。
【0032】
COの発生量は、重油:100に対してLNG:約70程度である。したがって、LNGを燃料として使用することにより30%のCOを低減することができる。近年では地球温暖化防止が急務であり、重油炊きの船舶を本発明の液化ガス燃料船1に切り換えることによりCOを約30%も低減することができることは注目に値する。
【0033】
NOxの発生量は、重油:100に対してLNG:約10程度である。したがって、LNGを燃料として使用することにより約90%のNOxを低減することができる。NOxを所定量低減できない場合に課税される国やNOxを低減したことにより優遇措置を受けられる国も存在しており、これらの国においてはコストの低減も図ることができる。また、重油炊きの船舶でNOxを低減しようとした場合には付加設備が必要であり、触媒を使用した場合にはメンテナンスや交換にコストが発生し、尿素を使用した場合にはコストが嵩む等の課題が生ずるが、本発明の液化ガス燃料船1ではこれらの課題は発生しない。
【0034】
また、SOxの発生量は、燃料油中に含まれる硫黄分に比例する。LNGには通常硫黄分は含まれないので、SOxの発生量は、重油:100に対してLNG:0となる。また、PMの発生量は重油:100に対してLNG:約10程度である。したがって、燃料としてLNGを使用すれば劇的にSOxやPMを低減することができる。また、残渣油を燃料とする場合、船内で前処理を行うが、その際にスラッジが発生するため、寄港時にスラッジを陸揚げして処理する必要がある。しかし、LNGを燃料とした場合には、かかる前処理が必要なく、船上で発生するスラッジを無くすことができる。
【0035】
次に、上述した液化ガス燃料船1のオペレーションについて説明する。液化ガス燃料船1のオペレーションには、(1)サービスモード、(2)エクセスモード、(3)クールダウンモード、(4)バンカリングモード、を設定する。なお、これらのオペレーションモードは単なる一例であり、これらに限定されるものではない。
【0036】
(1)サービスモード
サービスモードは、通常の運航時に用いるモードである。具体的には、BOG回収ライン31を使用して、BOGをガスコンプレッサ3cによりバッファタンク3tへ移送する。その際、バンカータンク2の内圧をモニタリングしながらガスコンプレッサ3cの発停を制御する。また、エンジン5の気化ガス消費量が多く、BOGでは気化ガスが不足する場合には、気化ガス発生ライン32を使用して、バンカータンク2からポンプ32pにより液化ガスをヒーター3hに送って気化させる。
【0037】
(2)エクセスモード
エクセスモードは、BOGの発生量がエンジン5の気化ガス消費量よりも多くなってきた場合に用いるモードである。具体的には、バンカータンク2の内圧が所定の閾値以上に上昇しないように、BOG回収ライン31を使用して、ガスコンプレッサ3cによりBOGをバッファタンク3tへ移送する。また、バッファタンク3tの内圧が所定の閾値以上に上昇しないように、再液化ライン42を使用して、バッファタンク3t内のBOGを再液化してバンカータンク2へ戻す。
【0038】
(3)クールダウンモード
クールダウンモードは、BOGの発生量を抑制するためにバンカータンク2内の液化ガスの温度を低下させるモードである。具体的には、再冷却ライン41を使用して、バンカータンク2の上層部の液化ガスを再冷却してバンカータンク2の下層部へ戻す。
【0039】
(4)バンカリングモード
バンカリングモードは、バンカリング時のようにエンジン5の気化ガス消費量が少なくバンカータンク2においてBOGの発生が多い場合に用いるモードである。具体的には、エクセスモードとクールダウンモードを併用する。すなわち、バンカータンク2の内圧が所定の閾値以上に上昇しないように、BOG回収ライン31を使用して、ガスコンプレッサ3cによりBOGをバッファタンク3tへ移送し、バッファタンク3tの内圧が所定の閾値以上に上昇しないように、再液化ライン42を使用して、バッファタンク3t内のBOGを再液化してバンカータンク2へ戻す。更に、BOGの発生量を抑制するために、再冷却ライン41を使用して、バンカータンク2の上層部の液化ガスを再冷却してバンカータンク2の下層部へ戻す。
【0040】
上述したオペレーションモードを予め切替可能に設定しておけば、例えば、停泊中はサービスモード又はエクセスモードを適用し、航海中はサービスモードを適用し、バンカリング直前はクールダウンモードを適用し、バンカリング時はバンカリングモードを適用することにより、効率のよい運航を実現することができる。なお、オペレーションモードの切替は手動であってもよいし、コンピュータを使用して処理するようにしてもよい。
【0041】
次に、本発明に係る液化ガス燃料船の第二実施形態について説明する。図1(B)に示した第二実施形態の液化ガス燃料船1は、バンカータンク2、気化ガス処理部3及び再液化装置部4をユニット化して一体に構成したものである。なお、その他の構成については、図1(A)に示した第一実施形態と同じであるため、ここでは重複する構成部品についての詳細な説明を省略する。
【0042】
図1(B)に示すように、第二実施形態の液化ガス燃料船1は、バンカータンク2、気化ガス処理部3、再液化装置部4及び配電盤9を一体化した液化ガスユニット10を有している。液化ガスユニット10は、例えば、液化ガス燃料船1の積荷であるコンテナと同形状に設計すれば、コンテナと同様にクレーン等で容易に液化ガス燃料船1に積み込むことができる。したがって、本発明の液化ガス燃料船を新造する場合や既存船を改造する場合であっても、特別なスペースを準備する必要がなく、コンテナ積載スペース等に液化ガスユニット10を積み込んで配管等の手配をするだけで容易に液化ガス燃料船を製造(改造を含む)することができる。また、デッキ上に液化ガスユニット10を配置することができれば様々な船種に対して本発明を実施することが可能である。
【0043】
ここで、図3は、液化ガスユニットを示す構成図である。なお、配管に関しては図を省略してある。図3に示すように、液化ガスユニット10は、例えば、鋼板により形成された矩形形状の容器内に集約されている。
【0044】
液化ガスユニット10の内部は、図3に示すように、左から順に、タンク室100、第一区画室101、第二区画室102に分割されている。タンク室100にはバンカータンク2が配置されており、その周囲に断熱材21が配置されている。また、第一区画室101と第二区画室102とは、バルクヘッド11により仕切られており、それぞれの機器から発生する熱が互いに影響しないように構成されている。
【0045】
第一区画室101には、気化ガス処理部3を構成するバッファタンク3t、ガスコンプレッサ3c、ヒーター3h、ポンプ32p等が配置されている。また、第一区画室101には、再液化装置部4の一部を構成する第一熱交換器4a及び第二熱交換器4bが配置されている。第一熱交換器4a及び第二熱交換器4bには、バンカータンク2内の液化ガス又はバッファタンク3t内の気化ガスが供給されることから、気化ガス処理部3と一緒に第一区画室101に配置されている。また、バッファタンク3tからエンジン5に気化ガスを供給する気化ガス供給ライン33は、第一区画室101の側壁から外部に気化ガスを排出することができるように構成されている。
【0046】
第二区画室102には、再液化装置部4の一部を構成する冷却用タンク4c、第一コンプレッサ43a、第一冷却器43b、第二コンプレッサ43c、第二冷却器43d、エキスパンダ43e、配電盤9等が配置されている。第一熱交換器4a及び第二熱交換器4bに冷媒を供給する配管は、バルクヘッド11を貫通させて配置すればよい。また、第一冷却器43b及び第二冷却器43dに冷却水を供給する配管は、第二区画室102の側壁から内部に冷却水を供給することができるように構成されている。また、配電盤9には、発電機6により発電された電気を直接又は配電盤8を介して受け取る接続口、陸上発電設備より受け取った電気を気化ガス処理部3及び再液化装置部4を構成する機器に分配する接続口、受け取った電気を船内電源として及び配電盤8を介して受け取った電力を港内電源として(売電)利用可能に分配する接続口等が配置されている。
【0047】
続いて、上述した液化ガス燃料船1のバンカリング方法について説明する。ここで、図4は、本発明に係る液化ガス燃料船のバンカリング方法を示す図であり、(A)は液化ガス燃料船が寄港した状態、(B)は液化ガスユニットを取り外した状態、(C)は新しい液化ガスユニットを準備した状態、(D)は新しい液化ガスユニットを積み込んだ状態、を示している。
【0048】
図4(A)に示す液化ガス燃料船1は、液化ガスユニット10を搭載した第二実施形態の液化ガス燃料船1である。今、液化ガス燃料船1が、燃料である液化ガスを補充する港12に寄港したものとする。そして、液化ガスユニット10を新しい液化ガスユニット10nに交換することにより、液化ガスを補充する場合について説明する。
【0049】
まず、液化ガスユニット10を取り外すことができるように、液化ガスユニット10に接続されている配管やケーブルを取り外す。このとき、気化ガスや液化ガスが外部に漏洩しないように、必要な箇所のバルブを締めたり、配管接続口をマスキングしたりする。そして、液化ガスユニット10上のコンテナ等を移動させてから、図4(B)に示すように、液化ガスユニット10を港12側にクレーン等を利用して移動させる。液化ガス燃料船1から取り外した液化ガスユニット10は、液化ガスをバンカータンク2に補充することにより再利用することができるため、必要な設備が整った場所に回収され、液化ガスの補充及び他の機器のメンテナンスを行う。
【0050】
そして、図4(C)に示すように、港12側で新しい液化ガスユニット10nを準備する。この液化ガスユニット10nは、新規ユニット又はリサイクルユニットのいずれであってもよいが、バンカリングの時間を短縮するために予め港12側で用意しておくことが好ましい。停泊時間が長く、かつ港12に液化ガスをバンカータンク2に補充することができる設備が整っている場合には、取り外した液化ガスユニット10に液化ガスを補充したものを新しい液化ガスユニット10nとして使用してもよい。
【0051】
新しい液化ガスユニット10nの準備ができたら、図4(D)に示すように、クレーン等を利用して液化ガス燃料船1に液化ガスユニット10nを積み込み、配管やケーブル等を接続する。このように液化ガスユニット10を搭載した液化ガス燃料船1では、液化ガスユニットごと交換することにより燃料を補充することができ、液化ガスの貯蔵タンクや補充設備が整っていない港12であっても、新しい液化ガスユニット10nを別途準備しておくことにより、容易に燃料の補充を行うことができる。
【0052】
次に、上述した液化ガス燃料船1の他のバンカリング方法について説明する。ここで、図5は、本発明に係る液化ガス燃料船の他のバンカリング方法を示す図であり、(A)は第一実施形態に示した液化ガス燃料船に燃料を補充する方法、(B)は第二実施形態に示した液化ガス燃料船に燃料を補充する方法、(C)は第一実施形態に示した液化ガス燃料船のバンカータンクを交換して燃料を補充する方法、を示している。
【0053】
図5(A)に示す液化ガス燃料船1は、第一実施形態の液化ガス燃料船1である。今、液化ガス燃料船1が、燃料である液化ガスを補充する港12に寄港したものとする。そして、港12には液化ガスの貯蔵タンク13及び補充設備が整っているものとする。かかる港12においては、貯蔵タンク13と液化ガス燃料船1のバンカータンク2を配管で接続することにより燃料である液化ガスを補充することができる。
【0054】
図5(B)に示す液化ガス燃料船1は、液化ガスユニット10を搭載した第二実施形態の液化ガス燃料船1である。かかる液化ガス燃料船1であっても、港12に液化ガスの貯蔵タンク13及び補充設備が整っている場合には、液化ガスユニット10を交換することなく、貯蔵タンク13と液化ガス燃料船1のバンカータンク2を配管で接続することにより燃料である液化ガスを補充することができる。
【0055】
図5(C)に示す液化ガス燃料船1は、第一実施形態の液化ガス燃料船1である。今、液化ガス燃料船1が、燃料である液化ガスを補充する港12に寄港したものとする。そして、港12には液化ガスの貯蔵タンク及び補充設備が整っていないものとする。かかる港12においては、液化ガス燃料船1のバンカータンク2を港12に準備された新しいバンカータンク2nに交換することにより燃料である液化ガスを補充することができる。かかるバンカリング方法を使用する場合には、バンカータンク2,2nにスロッシングに強いSPBタンクを使用することが好ましい。具体的には、バンカータンク2に接続された配管等を取り外し、クレーン等によりバンカータンク2を港12側に移動し、新しいバンカータンク2nを液化ガス燃料船1に積み込み、配管等の接続を行う。なお、港12に液化ガスをバンカータンク2に補充することができる設備が整っている場合には、取り外したバンカータンク2に液化ガスを補充したものを再度積み込むようにしてもよい。
【0056】
本発明は上述した実施形態に限定されず、LNG以外の液化ガス(例えば、LPG等)であっても本発明の液化ガス燃料船1の燃料として使用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る液化ガス燃料船を示す構成図であり、(A)は第一実施形態、(B)は第二実施形態、である。
【図2】気化ガス処理部及び再液化装置部を示す詳細構成図である。
【図3】液化ガスユニットを示す構成図である。
【図4】本発明に係る液化ガス燃料船のバンカリング方法を示す図であり、(A)は液化ガス燃料船が寄港した状態、(B)は液化ガスユニットを取り外した状態、(C)は新しい液化ガスユニットを準備した状態、(D)は新しい液化ガスユニットを積み込んだ状態、を示している。
【図5】本発明に係る液化ガス燃料船の他のバンカリング方法を示す図であり、(A)は第一実施形態に示した液化ガス燃料船に燃料を補充する方法、(B)は第二実施形態に示した液化ガス燃料船に燃料を補充する方法、(C)は第一実施形態に示した液化ガス燃料船のバンカータンクを交換して燃料を補充する方法、を示している。
【符号の説明】
【0058】
1 液化ガス燃料船
2,2n バンカータンク
3 気化ガス処理部
3t バッファタンク
3c ガスコンプレッサ
3h ヒータ
4 再液化装置部
4a 第一熱交換器
4b 第二熱交換器
4c 冷却用タンク
5 エンジン
6 発電機
7 電気推進器
7m 電動モータ
7s スクリュー
8,9 配電盤
10,10n 液化ガスユニット
11 バルクヘッド
12 港
13 貯蔵タンク
21 断熱材
31 BOG回収ライン
32 気化ガス発生ライン
32p ポンプ
32v バルブ
33 気化ガス供給ライン
41 再冷却ライン
41p ポンプ
42 再液化ライン
42v バルブ
43 循環ライン
43a 第一コンプレッサ
43b 第一冷却器
43c 第二コンプレッサ
43d 第二冷却器
43e エキスパンダ
100 タンク室
101 第一区画室
102 第二区画室


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料である液化ガスを貯蔵可能なバンカータンクと、該バンカータンクから自然的に又は強制的に発生される気化ガスを貯蔵可能なバッファタンクを備えた気化ガス処理部と、前記気化ガスを再液化して前記バンカータンクに再戻する再液化装置部と、前記バッファタンクから供給される気化ガスにより駆動されるエンジンと、該エンジンに接続された発電機と、該発電機により生じた電気を駆動源とする電気推進器と、を有することを特徴とする液化ガス燃料船。
【請求項2】
前記バンカータンク、前記気化ガス処理部及び前記再液化装置部は、ユニット化されて一体に構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料船。
【請求項3】
前記気化ガス処理部は、前記バンカータンク内のボイルオフガスを前記バッファタンクに供給するガスコンプレッサと、前記バンカータンク内の液化ガスをガス化して前記バッファタンクに供給するヒーターと、を有することを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料船。
【請求項4】
前記再液化装置部は、前記バンカータンク内の液化ガスを再冷却する第一熱交換器と、前記バッファタンク内の気化ガスを冷却して液化する第二熱交換器と、前記第一熱交換器及び前記第二熱交換器の冷却源を貯蔵可能な冷却用タンクと、を有することを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料船。
【請求項5】
前記エンジンは、ガスエンジン、ディーゼルエンジンを改良したガス化エンジン又はディーゼル燃料と前記液化ガスの双方を燃焼できるデュアルフューエルエンジンである、ことを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料船。
【請求項6】
前記発電機により生じた電気を船内電源及び港内電源として利用可能に構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料船。
【請求項7】
前記液化ガス燃料船は、通常航海時に用いるサービスモードと、BOGの発生量が前記エンジンの気化ガス消費量よりも多い場合に用いるエクセスモードと、BOGの発生量を抑制するために前記バンカータンク内の液化ガスの温度を低下させるクールダウンモードと、前記バンカータンクに液化ガスを供給(バンカリング)する場合に用いるバンカリングモードと、を有し、これらのモードを組み合わせて運航される、ことを特徴とする請求項1に記載の液化ガス燃料船。
【請求項8】
燃料である液化ガスを貯蔵可能なバンカータンクと、該バンカータンクから自然的に又は強制的に発生される気化ガスを貯蔵可能なバッファタンクを備えた気化ガス処理部と、前記気化ガスを再液化して前記バンカータンクに再戻する再液化装置部と、前記バッファタンクから供給される気化ガスにより駆動されるエンジンと、該エンジンに接続された発電機と、該発電機により生じた電気を駆動源とする電気推進器と、を有する液化ガス燃料船のバンカリング方法であって、
前記液化ガス燃料船の寄港時に、前記バンカータンクに液化ガスを供給する又は前記バンカータンクを交換することにより前記液化ガス燃料船の燃料を補充する、ことを特徴とする液化ガス燃料船のバンカリング方法。
【請求項9】
前記バンカータンク、前記気化ガス処理部及び前記再液化装置部は、ユニット化されて一体に構成されており、前記液化ガス燃料船の寄港時に、ユニットごと交換することにより前記液化ガス燃料船の燃料を補充する、ことを特徴とする請求項7に記載の液化ガス燃料船のバンカリング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−23776(P2010−23776A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190333(P2008−190333)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)