説明

液化剤および液化方法

【課題】セルロース、リグノセルロースなどの多糖を含有する成分を効率よく液化する方法を提供する。
【解決手段】多糖を含有する成分と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物[例えば、9,9−ビス(ヒドロキシアルコキシフェニル)フルオレンなど]で構成された液化剤とを加熱下で混合する。混合は、酸触媒の存在下で行ってもよい。このような加熱混合により、セルロースなどの多糖やリグニンが容易に低分子量化され、多糖を含有する成分が液化した液化物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース、リグノセルロースなどの多糖を含有する成分を液化するための液化剤およびこの液化剤により液化された液状物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロースは、地球上最大の再生可能の有機資源であり、優れた機械特性、環境・生体対応性を有するため化石資源の代替資源として近年一層注目されている。しかし、不融不溶な材料であるため熱加工できず、そのままでの利用が極めて限定されている。
【0003】
このような中、リグノセルロースを有効活用する試みもなされており、例えば、特開平11−130872号公報(特許文献1)には、リグノセルロース物質と、酸触媒と、フェノール類、多価アルコール類及び環状エステル類から選択される1種又は2種以上の物質とを混合して得られる混合物を押出機により加熱混練して押出し、リグノセルロース物質の液化物を製造する方法が開示されている。この文献には、リグノセルロース物質として、スギ、ヒノキなどの木材を粉砕したものなどが例示され、フェノール類として、フェノール、ビスフェノールAなどが例示され、多価アルコール類として、グリセリンなどが例示されている。また、この文献の実施例には、フェノールと、硫酸と、ヒノキ木粉との混合物を押出機により混練押出することにより、液化物を得たことが記載されている。
【0004】
しかし、この方法では、リグノセルロース物質を有効に溶出できず、多量の残渣が生成し、リグノセルロース含有液化物の収率を向上するのが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−130872号公報(請求項1、段落[0015][0019][0020]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、多糖を含有する成分を液化するための新規な液化剤およびこの液化剤を用いて多糖を含有する成分が液化した液状物を製造する方法(又は多糖を含有する成分の液化方法)を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、多糖を含有する成分が非結晶成分(リグニンなど)を含んでいても、多糖を含有する成分を効率よく液化できる液化剤およびこの液化剤を用いて多糖を含有する成分が液化した液状物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有する化合物と、多糖(セルロース、デンプンなど)を含有する成分とを加熱下で混合すると、多糖を含有する成分が、容易に液化すること、特に、多糖を含有する成分が、リグノセルロースなどの非結晶成分(リグニン、ヘミセルロースなど)を含有する多糖であっても効率よく分解し、液化できることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の液化剤は、多糖(例えば、セルロース)を含有する成分を液化するための液化剤であって、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を含む。このような液化剤は、代表的には、非結晶成分を含むセルロース(例えば、リグノセルロース)を液化するための液化剤であってもよい。
【0010】
前記9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)
なお、前記式(1)において、代表的には、環Zがベンゼン環又はナフタレン環、RがC2−4アルキレン基、mが0〜4、nが1〜3であってもよい。
【0013】
本発明には、前記液化剤を用いて、多糖を含有する成分を液化する方法(又は多糖を含有する成分が液化した液状物又は液状組成物を製造する方法)も含まれる。このような方法は、代表的には、多糖を含有する成分と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を含む液化剤とを加熱下で混合し、前記多糖を含有する成分が液化した液化物(液化組成物)を製造する方法であってもよい。
【0014】
前記方法において、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物の混合割合は、例えば、多糖を含有する成分100重量部に対して、3〜500重量部程度であってもよい。
【0015】
また、前記方法において、混合は、酸触媒(例えば、硫酸など)の存在下で行ってもよい。
【0016】
前記方法では、通常、多糖の分解物を含む液状物(例えば、黒液)が得られる場合が多く、例えば、前記多糖がセルロースであり、液状物がセルロースの分解物[グルコース、グルコースの分解物(フルフラール誘導体など]を含んでいてもよい。
【0017】
また、前記方法では、多糖を含有する成分が、リグニンなどの非結晶成分を含んでいても、このような非結晶成分を分解でき、液状物にはこのような非結晶成分の分解物が含まれていてもよい。例えば、前記方法において、多糖を含有する成分がリグノセルロースであり、液状物がリグニンの分解物を含んでいてもよい。このような液化物に含まれる多糖の分解物やリグニンの分解物は、前記式(2)で表される化合物により、低分子量化された液状成分である場合が多く、前記式(1)で表される化合物との液状組成物として利用可能である。リグニン分解物は、通常、低分子量化されたフェノール骨格を有する化合物を含み、このような化合物を含む組成物は、樹脂原料などとして有用である。なお、リグニン分解物を含む組成物は、必要に応じて、他の分解物(例えば、セルロース分解物など)を分離除去して使用することもできる。
【0018】
さらに、前記方法では、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物と多糖との反応物が生成する場合があり、液状物はこのような反応物を含んでいてもよい。例えば、前記方法において、前記9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物が、前記式(1)においてXがヒドロキシル基である化合物であり、液状物が下記式(2)で表される化合物を含んでいてもよい。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Aは、水素原子、糖鎖又は糖から誘導された基を示し、Z、R、R、R、k、m、n、およびpは前記と同じ。ただし、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である。)
上記式(2)において、糖鎖又は糖から誘導された基は、例えば、下記式(A1)で表される基、下記式(A2)で表される基又は下記式(A3)で表される基であってもよい。
【0021】
【化3】

【0022】
上記のように、本発明の方法で得られる液状組成物には、多糖の分解物、非結晶成分の分解物、フルオレン骨格を有する化合物と多糖との反応物などが含まれていてもよく、このような成分は、通常、ヒドロキシル基やカルボキシル基を有する比較的低分子量の有用成分である。このように、本発明では、多糖を含む成分を簡便にかつ効率よく液化し、樹脂原料などとして各種用途に使用可能な有用な液状組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液化剤は、セルロース、リグノセルロースなどの多糖を含有する成分を液化するための液化剤として好適である。特に、本発明の液化剤は、多糖を含有する成分が非結晶成分(リグニンなど)を含んでいても、多糖を含有する成分を効率よく液化できる。そして、このような液化剤により液化された液状物は、樹脂原料などとして種々の用途に利用することできる。そのため、本発明の液化剤を用いると、バイオマス由来の材料を簡便に得ることができ、本発明はバイオリファイナリ技術として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[液化剤]
本発明の液化剤は、フルオレン骨格を有する化合物(9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物)を含む。そして、このような液化剤は、多糖を含有する成分を液化するための液化剤(又は液状化剤又は可溶化剤又は可塑剤)として好適である。
【0025】
(フルオレン骨格を有する化合物)
フルオレン骨格を有する化合物は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格(例えば、9,9−ビスフェニルフルオレン骨格、9,9−ビスナフチルフルオレン骨格)を有する限り特に限定されないが、通常、9,9−ビス(アミノアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン[例えば、9,9−ビス(カルボキシフェニル)フルオレンなど]、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンなどの官能基(例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基など)を有するフルオレン骨格を有する化合物を好適に使用できる。
【0026】
代表的なフルオレン骨格を有する化合物には、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)
上記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、縮合多環式炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合2乃至4環式炭化水素環]などが挙げられ、ベンゼン環又はナフタレン環であるのが好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0029】
前記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0030】
前記式(1)において、ヘテロ原子含有官能基としては、例えば、酸素、イオウ及び窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常、1〜3個、好ましくは1又は2個であってもよい。前記官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、エポキシ含有基(グリシジルオキシ基など)、カルボキシル基などの酸素原子含有官能基;メルカプト基などのイオウ原子含有官能基;アミノ基又はN−一置換アミノ基[例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)などの窒素原子含有官能基などが例示できる。好ましいXには、ヒドロキシル基、メルカプト基、エポキシ含有基(グリシジルオキシ基など)、アミノ基又はN−一置換アミノ基などが挙げられ、特に、ヒドロキシル基が好ましい。なお、Xは異なるZにおいて同一又は異なる基であってもよく、また、同一の環Zにおいて同一又は異なる基であってもよい。
【0031】
また、前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−10アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ヘキシレン基などのC2−6アルキレン基)などが例示でき、C2−4アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基などのC2−3アルキレン基)が好ましく、特にエチレン基であってもよい。なお、Rは、同一の又は異なるアルキレン基であってもよい(すなわち、mが複数である場合、Rは同一又は異なっていてもよい)。すなわち、mが2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基[−(OR−]は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、複数のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)で構成されていてもよい。通常、Rは同一のベンゼン環において、同一のアルキレン基であってもよい。
【0032】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、例えば、0〜15(例えば、1〜10)程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば、0〜7)、好ましくは0〜6、さらに好ましくは0〜5(例えば、0〜3)、特に1であってもよい。また、mは2つの環Zにおいて異なっていてもよく、同一の環Zにおいて異なっていてもよい。例えば、同一の環Zにおいて、mが0である基−Xと、mが1以上である基−[(OR−X]とを有していてもよい。なお、前記式(1)において、基−[(OR−X]の置換数nは、環Zの種類にもよるが、例えば、1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3、特に1〜2であってもよい。
【0033】
また、前記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;メルカプト基;カルボキシル基;アミノ基;カルバモイル基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など);スルホニル基;これらの置換基同士が結合した置換基[例えば、アルコキシアリール基(例えば、メトキシフェニル基などのC1−4アルコキシC6−10アリール基)、アルコキシカルボニルアリール基(例えば、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニルC6−10アリール基など)]などが挙げられる。
【0034】
これらのうち、代表的には、基Rは、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などであってもよい。
【0035】
好ましい基Rとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などであるのが好ましい。
【0036】
また、好ましい置換数pは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2であってもよい。異なる環Zにおいて、置換数pは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。また、同一の環Zにおいて、pが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。さらに、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0037】
なお、前記式(1)において、n+pの値は、環Zの種類にもよるが、例えば、1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3程度であってもよい。
【0038】
代表的な前記式(1)で表される化合物には、環Zがベンゼン環又はナフタレン環、Xがヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、グリシジルオキシ基又はアミノ基(特に、ヒドロキシル基)、RがC2−6アルキレン基(特にC2−4アルキレン基)、mが0〜10(例えば、0〜6)、nが1〜3である化合物などが挙げられる。
【0039】
代表的な前記式(1)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−アルキルフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−アリールフェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)−アルキルフェニル]フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)−アリールフェニル]フルオレン;これらの化合物に対応し、環Zがナフタレン環に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]フルオレンなどの前記式(1)においてXがヒドロキシル基である化合物;これらの化合物に対応し、Xがメルカプト基、カルボキシル基、グリシジル基又はアミノ基に置換した化合物などが含まれる。
【0040】
フルオレン骨格を有する化合物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0041】
なお、前記式(1)で表される化合物は、市販品を利用してもよく、慣用の方法[例えば、酸触媒(硫酸、塩酸など)及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法]により合成してもよい。
【0042】
(液化助剤)
液化剤は、フルオレン骨格を有する化合物(前記式(1)で表される化合物など)単独で構成されていてもよく、他の液化剤(又は液化助剤)を含んでいてもよい。他の液化剤としては、ヒドロキシ化合物、窒素含有環式ケトン、アミド類、スルホキシド類などが使用でき、これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
ヒドロキシ化合物は、例えば、多価アルコール及びフェノール類から選択された少なくとも一種で構成されていてもよい。多価アルコールとしては、2価アルコール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリC2−5アルキレングリコールなど)など];3価以上のポリオール[例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど]が例示できる。フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノール(ビスフェノールA,Sなど)などが例示できる。
【0044】
窒素含有環式ケトンとしては、N−メチル−2−ピロリドンなどが例示でき、アミド類としては、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが例示できる。スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシドなどが例示できる。
【0045】
これらの液化助剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
液化剤が、液化助剤を含む場合、フルオレン骨格を有する化合物と、液化助剤との割合は、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜40/60、好ましくは98/2〜50/50(例えば、97/3〜55/45)、さらに好ましくは95/5〜60/40(例えば、93/7〜70/30)程度であってもよい。
【0047】
(多糖を含有する成分)
多糖を含有する成分(多糖を含む成分、多糖含有成分などということがある)において、多糖を構成する糖(構成糖)としては、例えば、ペントース(例えば、アラビノース、キシロースなどのピラノース;デオキシリボース、リボースなどのフラノース)、ヘキソース[例えば、ガラクトース、グルコース(D−グルコースなど)、マンノース、フルクトース、ソルボース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミンなどのピラノース;ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール]、ヘプトース、オクトース、ノノースなどが挙げられる。多糖は、単独又は2種以上の糖を構成糖とする多糖(すなわち、ホモ多糖又はヘテロ多糖)であってもよい。
【0048】
具体的な多糖としては、例えば、ヘキソースを構成糖とする多糖{例えば、グルコースを構成糖とする多糖[例えば、アミロース、アミロペクチン(又はデンプン)、セルロース、デキストラン、グリコーゲンなど]、マンノースを構成糖とする多糖(マンナンなど)、フルクトースを構成糖とする多糖(イヌリンなど)、グルコサミンを構成糖とする多糖(キチンなど)など}、ペントースを構成糖とする多糖[例えば、キシロースを構成糖とする多糖(キシランなど)など]などが挙げられる。多糖には、ヘテロ多糖(例えば、グルコマンナン、アルギン酸、アガロース、ペクチン、トラガカントガム、ローカストビーンガム、ヘミセルロースなど)も含まれる。多糖は、単独で又は2種以上組み合わせて多糖を含有する成分を構成してもよい。多糖は、天然由来であってもよく、非天然由来であってもよい。
【0049】
なお、多糖は、通常、常温(例えば、15〜25℃)で固体である場合が多い。また、多糖の重合度(平均重合度)は、特に限定されないが、例えば、10以上(例えば、15〜20000)、好ましくは20以上(例えば、25〜15000)、さらに好ましくは30〜12000程度であってもよく、通常50〜10000程度であってもよい。
【0050】
特に、多糖は、少なくともセルロースを含んでいてもよい。フルオレン骨格を有する化合物は、セルロースのような硬い結晶構造を有する糖であっても、容易に浸透して分解、液化できる。
【0051】
多糖を含有する成分は、少なくとも多糖を含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。特に、多糖として少なくともセルロースを使用する場合、多糖を含有する成分として、リグノセルロース(リグニンを含むセルロース)などの非結晶成分(リグニンなど)を含むセルロース含有成分を使用してもよい。本発明では、このような他の成分(非結晶成分など)を含んでいても、フルオレン骨格を有する化合物により、多糖を含む成分を分解できるためか、効率よく液化可能である。
【0052】
非結晶成分を含むセルロース含有成分は、結晶性セルロースと非結晶性成分を含んでいる。非結晶成分としては、例えば、リグニン、ヘミセルロース、非結晶セルロース(又は不定形セルロース)などが挙げられる。特に、セルロース含有成分は、リグノセルロース(リグニン含有セルロース)であってもよい。
【0053】
リグノセルロースは、セルロース(結晶性セルロース)とリグニンとで構成されている。リグニンは、植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子であり、フェニルプロパン系の構成単位を含む縮合体である。このようなリグニンを含有する物質(リグノセルロース)としては、木材、草本類などが挙げられる。木材は、針葉樹と広葉樹とに大別され、針葉樹としては、マツ、スギ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤなどが挙げられる。広葉樹としては、シイ、サクラ、柿などが挙げられる。草本類としては、ケナフ、ワラ、バガス、亜麻、マニラ麻、黄麻、楮などが挙げられる。針葉樹に含まれるリグニン(針葉樹リグニン)は、グアイアシルプロパン構造を有していてもよく、広葉樹に含まれるリグニン(広葉樹リグニン)は、グアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を有していてもよく、草本類に含まれるリグニン(草本類リグニン)は、グアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造、及びp−ヒドロキシフェニルプロパン構造を有していてもよい。なお、メトキシ基の含量は、針葉樹リグニンで14〜17重量%程度、広葉樹リグニンで20〜23重量%程度、草本類リグニンで14〜15重量%程度であってもよい。
【0054】
代表的なリグノセルロースとしては、例えば、木材、草本類やこれらを原料とする誘導体などが利用できる。木材は、間伐材などであってもよく、木材の破砕物、例えば、木粉、木材チップ、単板くずなどの形態で利用でき、廃材(建築廃材など)などを利用してもよい。廃材(建築廃材など)を再利用すると、リグニン含有物質を有効に利用できる。リグノセルロースの破砕物のサイズは特に制限されないが、効率よく製造するため、平均径が0.01〜1mm、好ましくは0.02〜0.5mm、さらに好ましくは0.03〜0.1mm程度であってもよい。
【0055】
セルロース含有成分としては、パルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、木綿パルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)も利用できる。さらに、セルロース含有成分として、パルプから調製される紙(抄紙やボードなど)、古紙などのパルプ含有成形体も利用できる。なお、パルプでは、通常、ほとんどのリグニンやヘミセルロースが除去されている場合が多いが、このようなパルプにおいても、通常、非結晶セルロースが残存しており、この非結晶セルロースが、結晶性セルロース間に存在して強固に結合している。
【0056】
セルロース含有成分(リグノセルロースなど)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
セルロース含有成分において、非結晶成分(例えば、リグニン、ヘミセルロース、非結晶セルロースなど)の割合は、その種類にもよるが、例えば、1〜90重量%、好ましくは3〜80重量%、さらに好ましくは5〜70重量%程度であってもよい。特に、パルプにおいて、非結晶成分(非結晶セルロースなど)の割合は、1〜40重量%、好ましくは1.5〜30重量%、さらに好ましくは2〜25重量%程度であってもよい。
【0058】
特に、リグノセルロースにおいて、セルロースとリグニンとの割合は、特に限定されないが、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜20/80、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜40/60程度であってもよい。なお、リグノセルロースにおいて、リグニンの割合は、例えば、1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは5〜40重量%程度であってもよい。
【0059】
なお、リグノセルロースは、非結晶成分としてリグニンを含んでいるが、通常、リグニンに加えて、ヘミセルロース、不定形セルロースを含んでいてもよい。本発明では、リグニンだけでなく、ヘミセルロースなどもまたフルオレン骨格を有する化合物により分解されるためか、ヘミセルロースを含有する成分であっても、効率よく液化可能である。
【0060】
セルロース含有成分(リグノセルロースなど)において、セルロースとヘミセルロースとの割合は、前者/後者(重量比)=99/1〜20/80、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜40/60程度であってもよい。なお、リグノセルロースにおいて、ヘミセルロースの割合は、例えば、1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは10〜40重量%程度であってもよい。
【0061】
なお、リグノセルロースにおいて、非結晶成分(例えば、リグニン、ヘミセルロースおよび不定形セルロース)の割合は、特に限定されるものではないが、例えば、5〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%、特に30〜60重量%程度であってもよい。
【0062】
多糖を含有する成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0063】
[液状物の製造方法]
本発明の液化剤は、前記のように、多糖を含有する成分の液化剤として好適である。そのため、本発明には、前記液化剤を用いて、多糖を含有する成分が液化した液状物を製造する方法(又は多糖を含有する成分を液化する方法)も含まれる。
【0064】
液状物は、多糖を含有する成分と前記液化剤とを混合することによって得ることができる。
【0065】
混合において、フルオレン骨格を有する化合物と、多糖を含む成分との使用割合は、多糖を含む成分に含まれる多糖や非結晶成分の割合などに応じて適宜選択でき、例えば、多糖を含む成分100重量部に対して、フルオレン骨格を有する化合物1〜1000重量部、好ましくは3〜500重量部、さらに好ましくは5〜300重量部程度であってもよく、通常10〜800重量部(例えば、50〜500重量部)程度であってもよい。特に、フルオレン骨格を有する化合物の割合は、多糖を含む成分中の多糖100重量部に対して、例えば、5〜2000重量部、好ましくは20〜1500重量部、さらに好ましくは30〜1000重量部程度であってもよく、通常50〜800重量部(例えば、80〜500重量部)程度であってもよい。
【0066】
混合は、酸触媒の存在下で行ってもよい。酸触媒を使用すると、液化を効率よく進行させることができる。酸触媒(又は酸成分)としては、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸など)、有機酸[例えば、カルボン酸(ギ酸、酢酸などの脂肪族カルボン酸)、ヒドロキシカルボン酸(例えば、シュウ酸、酒石酸、クエン酸など)、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)など]、ルイス酸(例えば、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛など)などが例示できる。これらの酸触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸触媒のうち、硫酸などの無機酸が好ましい。
【0067】
酸触媒の使用割合は、フルオレン骨格を有する化合物100重量部に対して、例えば、0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜20重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部程度であってもよく、通常1〜20重量部(例えば、1.2〜15重量部)程度であってもよい。また、酸触媒の割合は、多糖を含有する成分100重量部に対して、例えば、0.01〜50重量部(例えば、0.05〜30重量部)、好ましくは0.1〜25重量部(例えば、0.2〜20重量部)、さらに好ましくは0.5〜15重量部(例えば、1〜10重量部)程度であってもよい。さらに、酸触媒の割合は、フルオレン骨格を有する化合物および多糖を含有する成分の総量100重量部に対して、例えば、0.01〜25重量部、好ましくは0.03〜20重量部、さらに好ましくは0.05〜15重量部、特に0.05〜10重量部程度であってもよく、通常0.05〜10重量部(例えば、0.08〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.12〜2重量部)程度であってもよい。
【0068】
なお、混合(反応)は、必要に応じて、溶媒中で行ってもよいが、本発明では、このような溶媒を実質的に用いることなく、乾式混合しても、多糖を含む成分を効率よく液化(分解し、低分子量化)できる。
【0069】
フルオレン骨格を有する化合物と、多糖を含む成分との混合は、通常、加熱下で行うことができる。混合温度又は加熱温度(加熱混合温度)は、例えば、120〜350℃、好ましくは150〜320℃(例えば、160〜300℃)、さらに好ましくは165〜250℃程度であってもよい。なお、混合温度は、フルオレン骨格を有する化合物の融点などに応じて選択してよく、フルオレン骨格を有する化合物の融点以上の温度で(又はフルオレン骨格を有する化合物を溶融可能な温度)であってもよい。
【0070】
混合時間又は加熱時間(加熱混合時間)は、混合温度(又は反応温度)、酸触媒の使用割合、さらには多糖を含む成分の種類(リグニンなどの非結晶成分を含むか否かなど)などに応じて選択でき、例えば、1分以上(例えば、3分〜48時間)、好ましくは10分以上(例えば、20分〜24時間)、さらに好ましくは30分以上(例えば、40分〜12時間)程度であってもよい。
【0071】
なお、液化には、多糖を低分子量化(例えば、単糖の単位にまで分解)したり、非結晶成分を低分子量化又は分解したりする必要があるが、酸触媒の使用割合、加熱時間、フルオレン骨格を有する化合物の使用量などの混合条件を適宜調整することにより、液化を効率よく進行させることができる。
【0072】
混合(又は反応)は、必要に応じて、溶媒中で行ってもよい。また、混合は、常圧下、減圧下又は加圧下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気中又は空気中で行ってもよい。
【0073】
なお、加熱混合又は加熱処理を行うための装置の種類は、特に制限されず、反応釜などのバッチ式反応装置であってもよく、連続反応装置であってもよい。
【0074】
(液状組成物)
上記のようにして、多糖を含有する成分が液化した液状物(液状組成物)が得られる。このような液状組成物において、多糖を含有する成分は分解され、低分子量化された形態で含まれている。すなわち、液状組成物は、通常、多糖を含有する成分の分解物を少なくとも含んでいる。このような液状組成物は、多糖の分解物や、後述するようにリグニンなどの非結晶成分の分解物を含み、このような分解物は、ヒドロキシル基、カルボキシル基などの官能基を有しており、樹脂原料などの各種用途に利用可能である。
【0075】
(分解物)
多糖を含む成分の分解物としては、多糖を含む成分の分解により生成する化合物、例えば、多糖の分解物、多糖を含む成分のうち多糖以外の他の成分(例えば、リグニン)の分解物などが挙げられる。なお、分解物には、二次分解物(例えば、分解後、さらに開環、縮合などして得られる化合物)も含まれる。
【0076】
多糖の分解物としては、多糖の種類に応じて選択でき、例えば、単糖{例えば、ペントース(例えば、アラビノース、キシロースなどのピラノース;デオキシリボース、リボースなどのフラノース)、ヘキソース[例えば、ガラクトース、グルコース(D−グルコースなど)、マンノース、フルクトース、ソルボース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミンなどのピラノース]、ヘプトース、オクトース、ノノースなど}、オリゴ糖[前記単糖に対応するオリゴ糖、例えば、二糖(例えば、セロビオース、ゲンチビオース、イソマルトース、コージービオース、ラクトース、マルトース、スクロース(又はショ糖又は砂糖)、トレハロースなど)、三糖以上のオリゴ糖(例えば、ラフィノース、シクロデキストリンなど)など]、糖アルコール(ソルビトール、マンニトールなどの前記単糖に対応する糖アルコールなど)、単糖分解物又は多糖の二次分解物{例えば、レブリン酸又はその誘導体(レブリン酸エステルなど);5−ヒドロキシメチルフルフラール、5−ヒドロキシメチル−2−ホルミルテトラヒドロフラン、5−ヒドロキシメチル−2−テトラヒドロフランカルボン酸、5−ホルミルオキシメチル−2−テトラヒドロフランカルボン酸(又は下記式(a1)で表される化合物)、5−ヒドロキシメチル−2−フランカルボン酸、5−ホルミルオキシメチル−2−フランカルボン酸(又は下記式(a2)で表される化合物)などの2−ホルミルテトラヒドロフラン、フルフラール又はこれらの誘導体[例えば、5−ヒドロキシメチルフルフラール、5−ヒドロキシメチル−2−ホルミルテトラヒドロフラン又はこれらの誘導体(酸化物、ホルムアルデヒド付加物又は反応物など)]など}が挙げられる。
【0077】
【化5】

【0078】
なお、分解物としての単糖やオリゴ糖は、多糖が分解することにより生成する。本発明では、セルロースなどの多糖であっても、効率よく単糖や単糖の二次分解物にまで、効率よく分解して液化できる。
【0079】
代表的な前記組成物には、前記多糖が、グルコースを構成糖とする多糖(例えば、デンプン、セルロースなど、特にセルロース)であり、グルコース及び/又はグルコース(又はグルコースを構成糖とする多糖の)分解物(例えば、フルフラール誘導体などの前記例示の分解物)を含む組成物などが含まれる。
【0080】
リグニンの分解物としては、例えば、クマロン誘導体[例えば、2−(4−ヒドロキシフェニル)−7−メトキシクマロン(又は下記式(b1)で表される化合物)、2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)クマロン(又は下記式(b2)で表される化合物)などのヒドロキシフェニルクマロン類]、クマラン誘導体[例えば、2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−3−メチル−7−メトキシクマラン(又は下記式(b3)で表される化合物)などのヒドロキシフェニルクマラン類]、ジフェニルエーテル誘導体{例えば、2−[4−(3−ヒドロキシプロピル)−2−メトキシフェノキシ]−4−(1,3−ジヒドロキシプロピル)−6−メトキシフェノール(又は下記式(b4)で表される化合物)、2−[4−(3−ヒドロキシプロピル)−2,6−ジメトキシフェノキシ]−4−(1,3−ジヒドロキシプロピル)−6−メトキシフェノール(又は下記式(b5)で表される化合物)などのフェノキシフェノール類}などが挙げられる。
【0081】
【化6】

【0082】
【化7】

【0083】
これらの分解物は、単独で又は2種以上組み合わせて前記組成物に含まれていてもよい。
【0084】
なお、本発明では、フルオレン骨格を有する化合物を用いることにより、上記のようにリグニンやセルロースなどであっても、可塑化又は溶解(又は溶融)し、さらには、比較的低分子量化された化合物にまで分解して液化できるようである。例えば、前記組成物は、前記糖を含有する成分がリグノセルロースであり、セルロース分解物[グルコース、グルコースの分解物(フルフラール誘導体など)]およびリグニン分解物を含む組成物(通常、液状組成物)であってもよい。
【0085】
(フルオレン骨格を有する化合物と多糖を有する成分との反応物)
また、前記液状組成物は、フルオレン骨格を有する化合物と多糖を有する成分(又はその分解物)とが反応して得られる化合物を含んでいてもよい。このような化合物としては、フルオレン骨格を有する化合物の種類にもよるが、例えば、前記式(1)において、Xがヒドロキシル基である化合物を用いると、下記式(2)で表される化合物[すなわち、フルオレン骨格(9,9−ビスアリールフルオレン骨格)と糖由来の骨格とを有する化合物]が生成する。
【0086】
【化8】

【0087】
(式中、Aは、水素原子、糖鎖又は糖から誘導された基を示し、Z、R、R、R、k、m、n、およびpは前記と同じ。ただし、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である。)
上記式(2)のAにおいて、糖鎖に対応する糖としては、多糖であってもよいが、通常、単糖又はオリゴ糖(例えば、2〜30糖程度)、特に、単糖であってもよい。前記のように、糖として、多糖を使用しても、多糖が分解した単糖、さらには単糖が分解した形態でフルオレン骨格を有する化合物に結合した化合物が生成する場合が多い。
【0088】
なお、単糖は、アルドース又はケトースであってもよく、鎖状又は環状(フラノース、ピラノース、セプタノースなどのヘミアセタール環状)であってもよい。また、単糖は、D型、L型のいずれであってもよい。さらに、単糖は、糖アルコールであってもよい。
【0089】
代表的な単糖としては、例えば、ペントース(例えば、アラビノース、キシロースなどのピラノース;デオキシリボース、リボースなどのフラノース)、ヘキソース[例えば、ガラクトース、グルコース(D−グルコースなど)、マンノース、フルクトース、ソルボース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミンなどのピラノース;ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール]、ヘプトース、オクトース、ノノースなどが挙げられる。
【0090】
オリゴ糖としては、前記単糖に対応するオリゴ糖、例えば、二糖(例えば、セロビオース、ゲンチビオース、イソマルトース、コージービオース、ラクトース、マルトース、スクロース(又はショ糖又は砂糖)、トレハロースなど)、三糖以上のオリゴ糖(例えば、ラフィノース、シクロデキストリンなど)などが挙げられる。
【0091】
なお、糖鎖Aは、糖から糖を構成する1つのヒドロキシル基を除いた基(すなわち、糖をA−OHとすると、基A−)である場合が多い。ヒドロキシル基としては、限定されないが、例えば、環状の糖(単糖など)であれば、通常、アノマー性ヒドロキシル基(又はグリコシド性ヒドロキシル基又はC1のヒドロキシル基)であってもよい。すなわち、糖鎖Aは、グリコシル基(例えば、グリコフラノシル基、グルコシル基などのグリコピラノシル基)であってもよい。
【0092】
また、式(2)のAにおいて、糖から誘導された基としては、例えば、糖(例えば、単糖など)が分解(加水分解など)した基、糖が開環してさらに環化(環化脱水)した基などが挙げられる。なお、このような基は、通常、カルボキシル基を有していてもよい。
【0093】
好ましい糖鎖又は糖から誘導された基としては、グルコース鎖などの単糖鎖[例えば、グリコピラノシル基(例えば、グリコシル基など)などのグリコシル基]、又は単糖(又は単糖鎖)から誘導された基などが挙げられ、特に、下記式(A1)で表される基(グルコシル基など)、下記式(A2)で表される基、又は下記式(A3)で表される基であるのが好ましい。
【0094】
【化9】

【0095】
上記式(A1)で表される基としては、ガラクトシル基、グルコシル基(α−D−グルコシル基、β−D−グルコシル基)、マンノシル基などが挙げられ、グルコシル基(特に、α−D−グルコシル基)が好ましい。
【0096】
なお、上記式(A2)又は(A3)で表される基は、グルコシル基が開環後、さらに脱水環化することにより形成される場合が多い。
【0097】
前記式(2)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基であればよく、その数は、例えば、1〜8(例えば、1〜6)、好ましくは1〜4(例えば、1〜3)、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。
【0098】
代表的な前記式(2)で表される化合物には、下記式(2A)で表される化合物[すなわち、前記式(2)において、2n個のAのうち、1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である化合物]が含まれる。
【0099】
【化10】

【0100】
(式中、Aは糖鎖又は糖から誘導された基であり、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
好ましい前記式(2)で表される化合物には、下記式(2B)で表される化合物[すなわち、前記式(2A)において、Aが、前記式(A1)で表される基、前記式(A2)で表される基、又は前記式(A3)で表される基である化合物]などが含まれる。
【0101】
【化11】

【0102】
(式中、Aは、前記式(A1)で表される基、前記式(A2)で表される基、又は前記式(A3)で表される基であり、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
特に、上記式(1B)において、基Aが前記式(A2)で表される基である化合物は、代表的には、下記式で表される化合物であってもよい。
【0103】
【化12】

【0104】
(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
なお、前記式(2)において、Z、R、R、R、k、m、n、およびpは、前記式(1)と同様であり、好ましい態様もまた同様である。なお、前記式(1)においてmが1以上の化合物を用いても、前記式(2)において、基−OA(式中、Aは、糖鎖又は糖から誘導された基に置換された基)を有する化合物が得られる場合がある。
【0105】
なお、使用した多糖の種類に応じて、前記式(2)において基Aで表される糖鎖又は糖から誘導された基が導入される。例えば、グルコース鎖(例えば、グルコシル基)又はグルコースから誘導された基を導入する場合には、糖として、グルコースを構成糖とする(又はグルコースを単糖として縮合した)多糖(例えば、セルロースなど)を糖として使用すればよい。
【0106】
また、多糖を使用した場合、通常、多糖が単糖又はオリゴ糖(特に単糖)に分解され、単糖鎖、オリゴ糖鎖(特に単糖鎖)又はこれらの鎖から誘導された基として、前記式(2)で表される化合物に導入される場合が多い。例えば、多糖としてセルロースを使用した場合には、構成糖であるグルコース鎖(通常、グルコシル基)や、グルコース鎖から誘導された基{例えば、前記式(A2)で表される基[(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メチル基]や、前記式(A3)で表される基など}などが前記式(2)で表される化合物に導入される。なお、前記式(2)で表される化合物は、主に、前記式(1)で表される化合物のヒドロキシル基又はエーテル基と、糖を含む成分中の糖を構成するC1のヒドロキシル基とが反応して生成するが、糖を構成するC1以外のヒドロキシル基と反応してもよい。
【0107】
また、前記式(2)において、基Aとして糖から誘導された基(例えば、前記式(A2)又は前記式(A3)で表される基など)を有する化合物は、糖鎖の分解などを経て生成するため、高温条件下や長時間での反応などにより生成しやすいようである。さらに、前記式(2)においてmが0であり、基Aが糖鎖である化合物[すなわち、フェノール性ヒドロキシル基に直接的に糖鎖が結合した基(基−OAにおいてAが糖鎖である基)を有する化合物]は、分解により、糖から誘導された基を有する化合物を比較的生成しやすいようである。
【0108】
具体的な前記式(2)で表される化合物には、(i)前記式(2B)において、基Aが前記式(A1)で表される基である化合物、(ii)前記式(2B)において、基Aが前記式(A2)で表される基である化合物、(iii)前記式(2B)において、基Aが前記式(A3)で表される基である化合物などが含まれる。
【0109】
化合物(i)としては、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−グルコシルオキシフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−(グリコピラノシルオキシフェニル)フルオレン;9−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−9−(4−グルコシルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−9−(4−グルコシルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシ−アルキルフェニル)−9−(グリコピラノシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン;9−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−9−(4−グルコシルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシ−アリールフェニル)−9−(グリコピラノシルオキシ−アリールフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−(4−グルコシルオキシフェニル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−(グリコピラノシルオキシフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]−9−(4−グルコシルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]−9−(4−グルコシルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アルキルフェニル]−9−(グリコピラノシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−9−(4−グルコシルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アリールフェニル]−9−(グリコピラノシルオキシ−アリールフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)フェニル]フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アルキルフェニル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)−アルキルフェニル]フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アリールフェニル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)−アリールフェニル]フルオレン;これらの化合物に対応し、環Zがナフタレン環に置換した化合物、例えば、9−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)−9−(6−グルコシルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシナフチル)−9−(グリコピラノシルオキシナフチル)フルオレン、9−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]−9−(6−グルコシルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]−9−(グリコピラノシルオキシナフチル)フルオレン、9−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]−9−[6−(2−グルコシルオキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)ナフチル)]フルオレンなどが挙げられる。
【0110】
化合物(ii)としては、前記化合物(i)において基A(又はグリコピラノシル基)が前記式(A2)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−{4−[(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−{(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メトキシ]フェニル}フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−{(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メトキシ]フェニル}フルオレンなどが挙げられる。
【0111】
化合物(iii)としては、前記化合物(i)において基A(又はグリコピラノシル基)が前記式(A3)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−{4−[(2−カルボキシ−5−フリル)メトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−{(2−カルボキシ−5−フリル)メトキシ]フェニル}フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−カルボキシ−5−フリルメトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−{(2−カルボキシ−5−フリルメトキシ)アルコキシ]フェニル}フルオレンなどが挙げられる。
【0112】
前記式(2)で表される化合物は、比較的耐熱性が高く、例えば、熱分解温度は、200℃以上(例えば、210〜450℃)、好ましくは220℃以上(例えば、230〜420℃)、さらに好ましくは250℃以上(例えば、260〜380℃)であってもよい。
【0113】
なお、前記式(2)で表される化合物の生成機構の詳細は定かではないが、混合により、前記式(1)で表される化合物が多糖と反応して、多糖が単糖などに分解するとともに前記式(1)で表される化合物に結合する(さらには、環化、脱水などの反応も生じる)ようである。また、リグニンなどの成分を含んでいても、優先的に多糖と前記式(1)で表される化合物とが反応し、さらに、過剰に前記式(1)で表される化合物が混合系に存在する場合には、リグニンなどを可塑化および分解し、低分子量成分が生成するようである。
【0114】
なお、液状組成物には、未反応のフルオレン骨格を有する化合物なども含んでいてもよい。
【0115】
液状組成物は、反応混合物そのものである必要はなく、必要に応じて、不要な成分を分離した組成物であってもよい。例えば、反応混合物から、未反応成分(未反応の多糖を含む成分、前記式(1)で表される化合物)や固体状の成分を、濾過、抽出などにより分離し、前記多糖を含む成分の分解物(さらには前記式(2)で表される化合物)を含む組成物を得てもよい。より具体的には、リグニン分解物を含む組成物では、必要に応じて、他の分解物(例えば、セルロース分解物など)を分離除去した組成物とすることもできる。
【0116】
このような組成物は、慣用の方法を利用して得ることができるが、特に、反応混合物(液状組成物)を溶媒により溶出又は抽出すると、効率よく前記式(2)で表される化合物を含む組成物(例えば、前記分解物を含む組成物)を得ることができる。溶媒の種類は、抽出可能であれば特に限定されないが、例えば、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(メチルカルビトールなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0117】
これらの溶媒のうち、アルコール類(メタノールなど)、環状エーテル類(1,4−ジオキサンなど)、ニトリル類などが好ましい。
【0118】
なお、前記組成物において、多糖を含む成分の分解物の割合は、例えば、1〜100重量%、好ましくは2〜90重量%、さらに好ましくは5〜85重量%、特に10〜80重量%(例えば、20〜70重量%)程度であってもよい。また、前記組成物において、多糖を含む成分の分解物の割合は、前記式(2)で表される化合物100重量部に対して、1〜500重量部、好ましくは5〜300重量部、さらに好ましくは10〜100重量部程度であってもよい。さらに、前記組成物において、リグニン分解物の割合は、前記式(2)で表される化合物100重量部に対して、例えば、0.5〜200重量部、好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは3〜70重量部程度であってもよい。
【0119】
なお、前記組成物において、前記式(2)で表される化合物の割合は、例えば、5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは20〜80重量%(例えば、30〜70重量%)程度であってもよい。
【0120】
また、前記組成物には、フルオレン骨格を有する化合物(例えば、前記式(1)で表される化合物)が残存していてもよく、例えば、前記組成物における前記式(1)で表される化合物の割合は、0.1〜80重量%(例えば、0.2〜70重量%)、好ましくは0.3〜60重量%(例えば、0.4〜50重量%)、さらに好ましくは0.5〜40重量%(例えば、1〜30重量%)程度であってもよく、通常0.1〜50重量%(例えば、0.2〜30重量%、好ましくは0.3〜20重量%)程度であってもよい。
【0121】
なお、前記組成物の形態は、固体状であってもよいが、通常、室温(15〜25℃)で液状又は半固形状である。特に、多糖を含む成分としてリグノセルロース(木材など)を使用すると、セルロースの分解物やリグニン分解物を含む液状組成物として得られる場合が多い。
【0122】
液状組成物の粘度は、25℃において、例えば、1〜3000mPa・s、好ましくは2〜2000mPa・s、さらに好ましくは3〜1000mPa・s(例えば、5〜800mPa・s)程度であってもよい。
【実施例】
【0123】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0124】
(実施例1)
三口フラスコ(容量100mL)に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪ガスケミカル(株)製)20g、微結晶セルロース(メルク社製、重合度200、粒子の平均直径10μm)10g、及び濃度6Nの硫酸0.7gを加え、200℃のオイルバスを用いて加熱下で1時間撹拌し、液状の反応混合物(液化組成物)を得た。得られた液状反応混合物を、1,4−ジオキサンと水(9/1、v/v)の混合溶媒に分散させてから濾紙を用いて減圧下でろ過した。得られた残渣を105℃で3時間乾燥してから、微結晶セルロースの残渣率をセルロースの仕込量に基づいて計算した結果、残渣率は25重量%であり、75重量%もの微結晶セルロースを液化できたことがわかった。また、液状反応混合物の粘度は約500mPa・sであった。
【0125】
液化組成物の組成を調べるため、反応混合物に、1,4−ジオキサンを加え、ろ過、洗浄して得られた濾液を一定な濃度(0.5重量%)に調整し、GC−MASSによる分析を行なった。その結果、セルロースの分解生成物である前記式(a1)で表される化合物および前記式(a2)で表される化合物の生成が確認でき、セルロースがグルコースの分解物にまで分解されていることがわかった。
【0126】
そして、HPLCにより、反応混合物のうち、3つの主要なピークの成分を分取し、さらに、分取した各成分をLC−MASS、NMRおよびIRにより分析したところ、下記構造の化合物(I)〜(III)、すなわち、(I)9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メトキシ]フェニル}フルオレン、(II)、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、(III)9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−カルボキシ−5−フリルメトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンであることがわかった。
【0127】
なお、LC−MASSにより測定した化合物(I)の分子量は536、化合物(II)の分子量は600、化合物(III)の分子量は546であった。また、下記化合物の熱分解温度を測定したところ、いずれも高く、例えば、化合物(I)の熱分解温度は340℃を超えていることがわかった。なお、下記式において、化合物(I)および(II)については、詳細なNMRにおける帰属を記載している。
【0128】
【化13】

【0129】
H−NMR(CDCl)ppm:δ2.60(H−4””),2.71(H−3””),3.92(H−β),4.02(H−α),4.12(H−5””,2””),4.47(H−1””),6.75(H−3”,3”’),7.11(H−2”,2”’),7.25(H−6, 6’)、7.35(H−4, 4’,5,5’),7.75(H−3,3’)
13C−NMR(CDCl)ppm:δ38.0(C−1””),61.6(C−β),62.4(C−4””),63.1(C−3””),64.3(C−A),65.7(C−2””),66.0(C−5””),69.2(C−α),114.3(C−3”,C−3”’),120.3(C−3,3’),126.1(C−6,6’),127.5(C−4,4’),127.9(C−5,5’),129.4(C−2”’,C−2”),138.8(C−1”’),138.9(C−1”),140.1(C−2,2’),151.7(C−1’),151.8(C−1),157.1(C−4”’),157.5(C−4”),161.0(C−6””)。
【0130】
【化14】

【0131】
H−NMR(CDCl)ppm:δ3.44(H−6α),3.75−3.9(H−,2””,3””,4””,5””,6β),3.98(H−β),4.10(H−α),4.92(H−1””),6.75(H−3”,3”’),7.11(H−2”,2”’),7.26(H−6, 6’)、7.34(H−4, 4’,5,5’),7.34(H−7.75(H−3,3’)
13C−NMR(CDCl)ppm:δ59.4(C−6””),61.3(C−β),64.0(C−A),66.6(C−β’),66.9(C−α’),68.9(C−α),71.28(C−5””),73.38(C−4””),73.9(C−3””),74.6(C−2””),98.6(C−1””),114.3(C−3”,C−3”’),120.1(C−3,3’),125.9(C−6,6’),127.3(C−4,4’),127.6(C−5,5’),129.1(C−2”’,C−2”),138.4(C−1”,1”’),139.8(C−2,2’),151.4(C−1,1’),157.0(C−4”,4”’)
【0132】
【化15】

【0133】
なお、反応混合物には、未反応のBPEF(7g)も含まれており、HPLCにより定量した化合物(I)の生成量は7g(仕込んだBPEF1モルに対して0.29モル)、化合物(II)の生成量は0.8g、化合物(III)の生成量は0.9gであった。
【0134】
(実施例2)
実施例1において、微結晶セルロースに代えて米松を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、液状の反応混合物(液化組成物)を得た。なお、液状反応混合物の粘度は約450mPa・sであった。
【0135】
また、液化組成物の組成を調べるため、実施例1と同様にして反応混合物を分析したところ、セルロースの分解生成物である前記式(a1)で表される化合物および前記式(a2)で表される化合物、前記化合物(I)〜(III)の生成に加え、リグニンの分解物である前記式(b1)〜(b5)で表される化合物などの生成もGC−MSにより確認でき、セルロースだけでなく、リグニンも低分子量化されていることがわかった。
【0136】
なお、反応混合物には、未反応のBPEF(12.3g)も含まれており、HPLCにより定量した化合物(I)の生成量は2.7g(仕込んだBPEF1モルに対して0.12モル)、化合物(II)の生成量は0.9g、化合物(III)の生成量は0.5gであった。
【0137】
(実施例3)
実施例2において、BPEF20gに代えてBEPF/グリセリン(14g/6g)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、液状の反応混合物(液化組成物)を得た。得られた反応混合液は200℃での粘度は約300mPa・sであった。
【0138】
また、液化組成物の組成を調べるため、実施例2と同様にして反応混合物を分析したところ、セルロースの分解生成物である前記式(a1)で表される化合物および前記式(a2)で表される化合物、前記化合物(I)〜(III)の生成に加え、リグニンの分解物である前記式(b1)〜(b5)で表される化合物などの生成もGC−MSにより確認でき、セルロースだけでなく、リグニンも低分子量化されていることがわかった。
【0139】
なお、反応混合物には、未反応のBPEF(9.8g)も含まれており、HPLCにより定量した化合物(I)の生成量は2.3g(仕込んだBPEF1モルに対して0.13モル)、化合物(II)の生成量は0.5g、化合物(III)の生成量は0.2gであった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の液化剤は、セルロース、リグノセルロースのような多糖を含む成分に、浸透しやすく、加熱混合により、簡便にかつ効率よくこのような成分を分解して低分子量化しつつ、液化できる。しかも、このような液化剤により得られる液状組成物は、複雑な分子構造ではなく、単純な構造を有する化合物を含み、また、このような化合物は、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの官能基を有し、反応性にも優れているため、そのまま樹脂原料などの各種用途に利用できる。また、液状組成物は、フルオレン骨格を有する化合物や、この化合物と多糖とが反応した反応物を含んでいてもよく、このような組成物は、フルオレン骨格に由来して、可撓性、耐熱性などに優れ、高屈折率などの優れた光学的特性も有している。
【0141】
そのため、液汁組成物は、樹脂原料(例えば、ポリエステル樹脂原料、ポリウレタン樹脂原料、フェノール樹脂原料、エポキシ樹脂原料など)などの各種機能性材料又は加工材料、各種処理剤などとして利用でき、このような材料は、高強度、高靭性、高耐熱性、優れた光学的特性などが要求される用途に好適である。また、官能基を利用して、親水性、生体親和性などの親水性、生体親和性などの新機能を付与することにより広い分野での応用が期待できる。このように、本発明は、バイオリファイナリ可能な技術として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖を含有する成分を液化するための液化剤であって、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を含む液化剤。
【請求項2】
多糖がセルロースである請求項1記載の液化剤。
【請求項3】
リグノセルロースを液化するための液化剤である請求項1又は2記載の液化剤。
【請求項4】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物が、下記式(1)で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の液化剤。
【化1】

(式中、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Xはヘテロ原子含有官能基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数である。)
【請求項5】
多糖を含有する成分と、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を含む液化剤とを加熱下で混合し、前記多糖を含有する成分が液化した液化物を製造する方法。
【請求項6】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物の混合割合が、多糖を含有する成分100重量部に対して、3〜500重量部である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
酸触媒の存在下で混合する請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
多糖がセルロースであり、液状物がセルロースの分解物を含む請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
多糖を含有する成分がリグノセルロースであり、液状物がリグニンの分解物を含む請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物が、前記式(1)においてXがヒドロキシル基である化合物であり、液状物が下記式(2)で表される化合物を含む請求項5〜9のいずれかに記載の製造方法。
【化2】

(式中、Aは、水素原子、糖鎖又は糖から誘導された基を示し、Z、R、R、R、k、m、n、およびpは前記と同じ。ただし、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である。)
【請求項11】
式(2)において、糖鎖又は糖から誘導された基が、下記式(A1)で表される基、下記式(A2)で表される基又は下記式(A3)で表される基である請求項10記載の製造方法。
【化3】


【公開番号】特開2011−208084(P2011−208084A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79476(P2010−79476)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】