説明

液圧制御装置および該液圧制御装置を備えた試験機

【課題】ゼロ荷重付近における位置決め精度が高く、目標追従性に優れた液圧制御装置、および該液圧制御装置を備えた試験機を提供すること。
【解決手段】液圧シリンダ(10)の作動状態を制御する液圧制御装置(2)であって、作動液体を吐出する液圧ポンプ(20)と、液圧ポンプ(20)と液圧シリンダ(10)のヘッド室(12a)とを接続するヘッド側液路(32)、および液圧ポンプ(20)と液圧シリンダ(10)のロッド室(12b)とを接続するロッド側液路(34)を有する液圧回路(30)と、を備え、液圧回路(30)のヘッド側液路(12a)には第1の高速オンオフ弁(42)が配置され、第1の高速オンオフ弁(42)とヘッド室(12a)との間には、作動液体を排出する排出液路(36)が接続されるとともに、排出液路(36)には第2の高速オンオフ弁(44)が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液圧制御装置および該液圧制御装置を備えた試験機に関し、詳しくは、土木建築分野における構造実験等に用いられて好適な液圧制御装置および該液圧制御装置を備えた試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木建築分野においては、試験体に圧縮力や引張力を負荷してその構造耐力を評価する構造実験が行われており、その構造実験には、例えば特許文献1に開示されているような試験機が用いられている。
【0003】
図6は、この特許文献1に開示されている従来の試験機100の構成を示した回路図である。
この従来の試験機100は、図6に示したように、油圧シリンダ110と、吐出量可変ポンプ120と、吐出量可変ポンプ120と油圧シリンダ110とを接続する油圧回路130とから構成されている。
【0004】
油圧シリンダ110は、シリンダ内部に収容されたピストンの一端面側からロッドが突設された片ロッド油圧シリンダであり、ピストンによって、そのシリンダの内部がヘッド室112aとロッド室112bに画成されている。
【0005】
また、ロッドの先端部にはセンサ機構Sが配置され、このセンサ機構Sによって、油圧シリンダ110を介して試験体Wに負荷される圧縮力や引張力などが検出される。
吐出量可変ポンプ120は、油圧回路130を介して作動油を油圧シリンダ110に供給するものであり、インバータによるポンプ回転数制御によって、作動油の吐出量が可変に構成されている。
【0006】
油圧回路130は、上述した油圧シリンダ110のヘッド室112aおよびロッド室112bと吐出量可変ポンプ120とを接続する給液管路132と、給液管路132から分岐してタンク137aと接続する戻液管路134からなる。そして給液管路132には、給液管路132とヘッド室112aおよびロッド室112bとの接続を切り換える切換弁142が配置されており、この切換弁142を切り換えることで、吐出量可変ポンプ120から吐出された作動油が、ヘッド室112aまたはロッド室112bに選択的に供給される。
【0007】
また、戻液管路134には、高速オンオフ弁144が配置されており、この高速オンオフ弁144を制御することで、油圧シリンダ110からタンク137aへの戻液量が制御される。
【0008】
このように構成される従来の試験機100は、例えば、試験体Wが引張状態から圧縮状態となるように制御する場合において、先ず、吐出量可変ポンプ120を停止し、高速オンオフ弁144を制御してロッド室112bにある作動油をタンク137aへと戻し、ロッド室112b側からピストンに作用する力と、ヘッド室112a側からピストンに作用する力とが均衡するゼロ荷重付近になった後は、切換弁142をシフトし、吐出量可変ポンプ120を稼働させて、作動油をヘッド室112aに供給するように制御される。
【0009】
そして、試験体Wに作用する荷重が目標値に達した後は、吐出量可変ポンプ120は待機状態となり、油圧シリンダ110が所定の作動状態で保持される。また、時間の経過により、試験体Wに作用する荷重の実際値と目標値との間にずれが生じた場合は、待機状態にあった吐出量可変ポンプ120または高速オンオフ弁144が稼働して、実際値と目標値との差に対応した加圧または減圧制御が行なわれる。
【0010】
このような従来の試験機100は、試験体Wに作用する荷重が目標値に達した後は、吐出量可変ポンプ120が待機状態となるため、ポンプを常時駆動させた状態で油圧シリンダの作動状態を制御する従来の試験機と比べて、パワー損失の少ない試験機100となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−269702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来の試験機100では、上述した減圧過程におけるゼロ荷重付近おいて、ロッド室112bおよびヘッド室112aの圧力が大気圧近くまで低下するため、ゼロ荷重付近における位置決め精度が低いとの問題があった。
【0013】
また、上述した減圧過程において、ロッド室112bの圧力が低くなるにつれて、ロッド室112bから作動油が排出され難くなり、目標追従性に劣るとの問題があった。
また、油圧シリンダ110の作動状態に応じて吐出量可変ポンプ120を制御する必要があることから、1台の吐出量可変ポンプ120と複数の油圧シリンダ110とを接続し、これら複数の油圧シリンダ110をそれぞれ異なる作動状態で制御することはできなかった。
【0014】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みなされた発明であって、ゼロ荷重付近における位置決め精度が高く、目標追従性に優れた液圧制御装置、および該液圧制御装置を備えた試験機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上述したような従来の課題を解決するために発明されたものであって、
本発明の液圧制御装置は、
片ロッド液圧シリンダのヘッド室およびロッド室への作動液体の給液量を制御することにより、該液圧シリンダの作動状態を制御する液圧制御装置であって、
作動液体を吐出する液圧ポンプと、
前記液圧ポンプと前記液圧シリンダのヘッド室とを接続するヘッド側液路、および前記液圧ポンプと前記液圧シリンダのロッド室とを接続するロッド側液路を有する液圧回路と、
を備え、
前記液圧回路のヘッド側液路には第1の高速オンオフ弁が配置され、該第1の高速オンオフ弁とヘッド室との間には、作動液体を排出する排出液路が接続されるとともに、該排出液路には第2の高速オンオフ弁が配置されていることを特徴とする。
【0016】
このように構成されている本発明の液圧制御装置は、ヘッド室およびロッド室に常に圧力が作用した状態で、液圧シリンダの作動状態が制御されるため、ゼロ荷重付近における位置決め精度が高く、目標追従性に優れた液圧制御装置となっている。
【0017】
上記発明において、
前記第1の高速オンオフ弁および第2の高速オンオフ弁が、パルス幅制御によって開閉制御されるように構成されている。
【0018】
また、上記発明において、
前記液圧回路のロッド側液路には、該ロッド側液路を遮断可能に構成された閉止弁が配置されていることが望ましい。
【0019】
このような閉止弁がロッド側液路に配置されていれば、第1の高速オンオフ弁を閉止状態とし、この閉止弁を閉止状態とすることで、液圧シリンダの作動状態を保持することが可能となる。
【0020】
また、上記発明において、
前記液圧回路のヘッド側液路およびロッド側液路が、前記液圧シリンダのヘッド室およびロッド室と、それぞれ着脱自在に接続していることが望ましい。
【0021】
このように構成すれば、液圧シリンダを液圧回路から簡単に取り外すことができるため、液圧シリンダの交換や、液圧回路の保守・分解・修理等が容易となる。
また、上記発明において、
前記液圧ポンプ対して、前記液圧回路が複数並列に配置されていることが望ましい。
【0022】
本発明の液圧制御装置は、液圧ポンプの吐出圧は一定の状態で制御され、第1の高速オンオフ弁、および第2の高速オンオフ弁を開閉制御することによって、液圧シリンダの作動状態を制御している。よって、本発明の液圧制御装置によって複数台の液圧シリンダを制御する場合に、液圧ポンプを共通化することが可能である。
【0023】
また、本発明の試験機は、
上述した液圧制御装置と、
前記液圧制御装置によって作動状態が制御される液圧シリンダと、
前記液圧シリンダを介して試験体に負荷される試験力を検出するセンサ機構と、
を備えている。
【0024】
このように構成される本発明の試験機にあっては、ゼロ荷重付近における位置決め精度が高く、目標追従性に優れている。
また、上記発明において、
前記試験機が、土木または建築用途の部材用の試験機であることが望ましい。
【0025】
このように構成される本発明の試験機にあっては、土木または建築用途の部材の構造実験用の試験機として、特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ゼロ荷重付近における位置決め精度が高く、目標追従性に優れた液圧制御装置、および該液圧制御装置を備えた試験機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の試験機の構成を示した回路図である。
【図2】図2は、本発明の試験機における油圧シリンダを示した概略断面図である。
【図3】図3は、本発明の試験機において、油圧シリンダの作動状態が引き工程にある場合の作動油の流れを説明するための説明図である。
【図4】図4は、本発明の試験機において、油圧シリンダの作動状態が押し工程にある場合の作動油の流れを説明するための説明図である。
【図5】図5は、本発明の別の実施形態の試験機の構成を示した回路図である。
【図6】図6は、従来の試験機の構成を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面などを基に詳細に説明する。
図1は、本発明の試験機1の構成を示した回路図である。また図2は、本発明の試験機1における油圧シリンダ10を示した概略断面図であって、図2の(a)は、油圧シリンダ10によって外部出力Fpull(引張力)が発生している状態を、図2の(b)は、油圧シリンダ10によって外部出力Ppush(圧縮力)が発生している状態を、それぞれ示している。
【0029】
本発明の試験機1は、特に限定されるものではないが、土木建築分野において、試験体に圧縮力や引張力を負荷してその構造耐力を評価する構造実験に用いられる試験機1として、特に好適に用いられるものである。
【0030】
また、本発明の試験機1は、特に限定されるものではないが、その作動液体としては、摩擦防止性、粘度のせん断安定性、および酸化安定性などの観点から、特に作動油が好適に用いられる。したがって、以下の実施形態の説明では、作動液体が作動油であるものとして説明する。
【0031】
本発明の試験機1は、図1に示したように、油圧シリンダ10と、油圧ポンプ20および油圧ポンプ20と油圧シリンダ10とを接続する油圧回路30とから構成される油圧制御装置2と、を少なくとも備えている。
【0032】
油圧シリンダ10は、図2に示したように片ロッド型式の油圧シリンダ10であって、円筒状のシリンダ12と、シリンダ12の内部において往復動自在に収容されたピストン14と、ピストン14の一端面側から突設されたロッド16と、から構成されている。
【0033】
また、シリンダ12の内部は、ピストン14によって、ヘッド室12aとロッド室12bとに液密に画成されている。そして、上述したロッド16は、ピストン14のロッド室12b側の面から突設されており、シリンダ12を貫通して、シリンダ12の外部に突出している。したがって、ピストン14のヘッド室12a側の受圧面積は、ロッド16が突設されていない分だけ、ピストン14のロッド室12bの受圧面積よりも大きくなっている。
【0034】
また、ヘッド室12aおよびロッド室12bには、後述する油圧回路30の液路が接続されるヘッド側ポート18aとロッド側ポート18bとが、夫々形成されている。
そして後述するように、油圧ポンプ20から吐出された作動油が、第1の高速オンオフ弁42を介してヘッド室12aに供給されることによって、上述したロッド16が往復動するように構成されている。
【0035】
また、図1に示したように、ロッド16の先端部にはセンサ機構Sが配置されている。そして、このセンサ機構Sによって、油圧シリンダ10を介して試験体Wに負荷される圧縮力や引張力などの試験力および/または試験体Wの変位などが検出されるとともに、検出された試験力および/または試験体Wの変位などが、制御装置50に送信されるようになっている。
油圧ポンプ20は、後述する油圧回路30を介して、作動油を油圧シリンダ10に供給するものである。
【0036】
本発明において、油圧ポンプ20の形式等は特に限定されるものではない。しかしながら、本発明の試験機1にあっては、油圧ポンプ20の吐出圧は一定の状態で制御されるため、上述した従来の吐出量可変ポンプのように、高価なインバータ等を備えている必要はなく、定量吐出型の油圧ポンプ20が好適に用いられる。また、土木建築用の構造実験に用いられること、および油圧シリンダ10をコンパクトにできること等から、最高使用圧力が70MPa以上の高圧用ポンプであることが好ましい。
【0037】
油圧回路30は、図1に示したように、上述した油圧ポンプ20と油圧シリンダ10のヘッド室12aとを接続するヘッド側液路32と、油圧ポンプ20と油圧シリンダ10のロッド室12bとを接続するロッド側液路34と、を備えている。
【0038】
ヘッド側液路32は、その一端側が上述したシリンダ12のヘッド側ポート18aに接続されているとともに、その他端側が上述した油圧ポンプ20に接続している給油液路31と接続している。
【0039】
また、ロッド側液路34は、その一端側が上述したシリンダ12のロッド側ポート18bに接続されているとともに、その他端側が上述した油圧ポンプ20に接続している給油液路31と接続している。
【0040】
なお、これらヘッド側液路32とシリンダ12のヘッド側ポート18aとの間、ロッド側液路34とシリンダ12のロッド側ポート18bとの間、および給油液路31と油圧ポンプ20との間には、それぞれ、その一端側またはその両端側が着脱自在に構成されたホース配管39が配置されている。そして、このホース配管39によって、ヘッド側液路32とシリンダ12のヘッド側ポート18a、ロッド側液路34とシリンダ12のロッド側ポート18b、および給油液路31と油圧ポンプ20とは、それぞれ着脱自在に接続されている。
【0041】
このように構成されていれば、油圧シリンダ10や油圧ポンプ20を油圧回路30から簡単に取り外すことができるため、油圧シリンダ10、油圧ポンプ20および油圧回路30の保守・分解・修理等を容易に行うことができる。
【0042】
また例えば、土木建築分野における構造実験などでは、試験体Wに作用させる最大負荷に合わせて、試験毎に油圧シリンダ10を交換して試験を実施することが行なわれるが、上述したように、油圧回路30と油圧シリンダ10とが着脱自在に構成されていれば、油圧シリンダ10の交換を容易に行うことができる。
【0043】
また、上述した油圧回路30のヘッド側液路32には、第1の高速オンオフ弁42が配置されている。また、この第1の高速オンオフ弁42と上述したヘッド側ポート18aとの間には、作動油をタンク37aに排出する液路である排出液路36が接続されているとともに、この排出液路36には第2の高速オンオフ弁44が配置されている。
【0044】
これら第1の高速オンオフ弁42および第2の高速オンオフ弁44は、例えば、高速(10〜100msec)で弁体を開放または閉止するように構成された電磁弁であり、高速で弁体を開閉することによって、流量を制御するものである。
【0045】
そして、本発明の試験機1にあっては、これら第1の高速オンオフ弁42および第2の高速オンオフ弁44を、制御装置50のパルス幅制御(PWM制御)によって開閉制御することで、ヘッド側液路32や排出液路36を流れる作動油の流量を制御するようになっている。
【0046】
また、油圧回路30のロッド側液路34には、通常時は開放状態にあり、緊急時などにその弁体を閉止することでロッド側液路34を遮断するように構成された、閉止弁46が配置されている。この閉止弁46は、特に限定されるものではないが例えば電磁弁であって、上述した制御装置50と接続され、制御装置50からの信号に応じて弁体を閉止し、ロッド側液路34を遮断するように構成されている。
【0047】
また、油圧回路30の給油液路31には、リリーフ弁48が配置されているリリーフ液路38が接続されている。このリリーフ弁48は、通常時は閉止状態にあり、油圧回路30内が所定以上の圧力に達した際に開放されるように構成されている。そしてこのリリーフ弁48が開放されると、油圧回路30内にある作動油がタンク37bに排出されるようになっている。
【0048】
このように構成されている本発明の油圧制御装置2およびこの油圧制御装置2を備えた試験機1は、図3および図4に示すように作動して油圧シリンダ10の作動状態を制御する。
【0049】
ここで、図3は、本発明の試験機1において、油圧シリンダ10の作動状態が引き工程にある場合の作動油の流れを説明するための説明図、図4は、油圧シリンダ10の作動状態が押し工程にある場合の作動油の流れを説明するための説明図である。
【0050】
先ず、図3に示したように、油圧シリンダ10の作動状態が、ロッド室12b側からヘッド室12a側へと移動する引き工程にある場合は、第1の高速オンオフ弁42はオフ状態で閉止されているとともに、第2の高速オンオフ弁44はオン状態(PWM制御状態)にあって、制御装置50からのPWM信号によって開閉を繰り返す。そして、油圧ポンプ20から吐出された作動油が、給油液路31およびロッド側液路34を流れ、ロッド側ポート18bを介して、ロッド室12bへと流入するとともに、ヘッド室12aの内部にある作動油が、ヘッド側ポート18aを介して排出液路36へと流れ、第2の高速オンオフ弁44によってその流量を制御されながら、タンク37aへと排出される。
【0051】
この際、ヘッド室12aの内部圧力をPpush、ピストン14のヘッド室12a側の受圧面積をApush、ロッド室12bの内部圧力をPpull、ピストン14のロッド室12b側の受圧面積をApullとした場合に、その力関係は、下記式(1)のとおりに表される。
Ppush×Apush=Ppull×Apull+F ・・・(1)
(ここでFは、油圧シリンダ10の外部出力であり、その作用方向は、試験体Wに圧縮力が作用する方向を正、試験体Wに引張力が作用する方向を負とする。)
【0052】
また、ヘッド室12aの受圧面積Apushを、ロッド室12bの受圧面積ApullのK倍(Apush/Apull)とすれば、外部出力Fは、下記式(2)のとおりに表される。
F=(K×Ppush−Ppull)×Apull ・・・(2)
【0053】
また、Ppullは油圧ポンプ20の吐出圧力P0と等しいので、上式(2)は、下記式(3)のとおりに表される。
F=(K×Ppush−P0)×Apull ・・・(3)
【0054】
図3に示した引き工程にある場合は、外部出力FはF<0である。したがって、引き工程にある場合のPpushは、下記式(4)のとおりに表される。
F=(K×Ppush−P0)×Apull<0
∴ Ppush<P0/K ・・・(4)
すなわち、引き工程においては、第2の高速オンオフ弁44によって、PpushがP0/Kより小さくなるようにして、油圧シリンダ10の作動状態を制御すればよい。
【0055】
また、図4に示したように、油圧シリンダ10の作動状態が、ヘッド室12a側からロッド室12b側へと移動する押し工程にある場合は、第2の高速オンオフ弁44はオフ状態で閉止されているとともに、第1の高速オンオフ弁42はオン状態(PWM制御状態)であって、制御装置50からのPWM信号によって開閉を繰り返す。そして、油圧ポンプ20から吐出された作動油、およびロッド室12bからロッド側ポート18bを介してロッド側液路34へと流れた作動油が、ヘッド側液路32を流れ、第1の高速オンオフ弁42によってその流量を制御されながら、ヘッド側ポート18aを介して、ヘッド室12aへと流入する。
【0056】
この押し工程の場合も、上述した引き工程と同様に、ロッド室12bの内部圧力Ppullは、油圧ポンプ20の吐出圧力P0と等しい。また、外部出力FはF>0である。
したがって、押し工程にある場合のPpushは、下記式(5)のとおりに表される。
F=(K×Ppush−P0)×Apull>0
∴ Ppush>P0/K ・・・(5)
すなわち、押し工程においては、第1の高速オンオフ弁42によって、PpushがP0/Kより大きくなるようにして、油圧シリンダ10の作動状態を制御すればよい。
【0057】
また、実際の試験においては、制御装置50に予め逐次目標値となる試験荷重(または変位)を記憶させておき、この目標値とセンサ機構Sによって検出された実際値である試験荷重(または試験体Wの変位)とを比較して、目標値<実際値の場合は、第1の高速オンオフ弁42をオフ状態、第2の高速オンオフ弁44をオン状態として、上述した引き工程のごとく油圧シリンダ10の作動状態を制御する。また、目標値>実際値の場合は、第1の高速オンオフ弁42をオン状態(PWM制御状態)、第2の高速オンオフ弁44をオフ状態として、上述した押し工程のごとく油圧シリンダ10の作動状態を制御する。
【0058】
また、実際の試験において、油圧シリンダ10の動作を停止させて試験体Wの状況を観察する場合には、制御装置50によって、第1の高速オンオフ弁42および第2の高速オンオフ弁44をオフ状態とするとともに、閉止弁46を閉止することで、油圧シリンダ10の作動状態を所定の状態に保持することが可能である。
【0059】
また、上式(3)において、F=0、すなわち、ゼロ荷重状態における力関係を表せば、下記式(6)のとおりである。
F=(K×Ppush−P0)×Apull=0
∴ Ppush=P0/K ・・・(6)
すなわち、本発明にあっては、ゼロ荷重状態においても、ヘッド室12aおよびロッド室12bの内部圧力がゼロになることはなく、常に圧力がかかった状態で、油圧シリンダ10の作動状態が制御される。したがって、ゼロ荷重付近における位置決め精度が高く、目標追従性に優れている。
【0060】
なお、本発明において、上述したヘッド室12aの受圧面積Apushと、ロッド室12bの受圧面積Apullとの比であるKは、特に限定されるものではないが、Kが小さすぎると引き工程における出力が十分に得られず、反対にKが大きすぎると、押し工程における出力が十分に得られないほか、ロッド16の座屈が懸念される。よって、K=1.5〜3の範囲が好ましく、K=2とするのが特に好ましい。
【0061】
なお、本発明者は、上述した第1の高速オンオフ弁42、および第2の高速オンオフ弁44に替えて、サーボ弁によって、ヘッド室12aの内部圧力を制御することも検討したが、以下の理由(1)〜(3)に示したより採用しなかった。
【0062】
すなわち、(1)サーボ弁には、ノズルフラッパ型や直動型と呼ばれるものがあるが、ノズルフラッパ型ではノズル径が小さく、また直動型ではスプールとブッシュとのクリアランスが小さいため、いずれも作動油中にゴミなどが含まれていると弁の作動不良を起こしやすい。そのため、目の細かいフィルタを使用し、かつ油圧シリンダ、サーボ弁、油圧ポンプ、および油圧回路を着脱不可能な構造として、油圧シリンダの交換などは行わないことを原則としている。しかしながら、上述したように、土木建築分野における構造実験などでは、試験毎に油圧ピストンを交換して試験を実施することが行なわれるため、油圧回路と油圧シリンダとが着脱不可能に構成されていることは好ましくない。また、試験に用いられる油圧シリンダ10には、他の現場から搬入されてきたものなどもあり、油圧シリンダ10中の作動油にゴミなどが含まれていることもあることから、ゴミに対して弱いサーボ弁は好ましくない。これに対して、高速オンオフ弁は、弁体を開放または閉止することで流量を制御するものであり、ゴミに対して強い構造となっている。
【0063】
また上述したように、(2)本発明においては、土木建築用の構造実験に好適に用いられること、および油圧シリンダ10をコンパクトにできること等から、油圧ポンプ20としては、最高使用圧力が70MPa以上の高圧用ポンプであることが好ましい。サーボ弁をこのような高圧下で使用する場合には、作動油の漏れを防止するために、ノズルフラッパ型にあってはノズル径を小さくしたり、直動型にあってはスプールとブッシュとのクリアランスをより小さくすることが求められる。これに対して、高速オンオフ弁はシール性能に優れるため、特段の高圧対策は必要ない。
【0064】
さらに、(3)本発明の試験機1の好適な用途としての土木・建築分野での構造実験では、試験体Wの破壊課程での観察を試験体近傍で行うため、万一の非常停止では、観察者の危険回避のために、油圧ポンプ20を停止するとともに、油圧シリンダ10の作動状態を保持すること(すなわち、試験体Wの変位を保持すること)が絶対的に求められる。これに対してサーボ弁は、その構造上、圧力を保持することができないため、本発明の第1の高速オンオフ弁42、および第2の高速オンオフ弁44に替えてサーボ弁を採用した場合には、油圧ポンプ20を停止した際、油圧シリンダ10の作動状態を保持するために、サーボ弁と油圧シリンダとの間にも閉止弁が必要となり、高速オンオフ弁を採用する場合と比べて、閉止弁の配置箇所数が2倍になってしまう。
【0065】
次に、本発明の別の実施形態の油圧制御装置2および試験機1について、図5をもとに説明する。
図5は、本発明の別の実施形態の試験機1の構成を示した回路図である。
【0066】
なお、上述した実施形態と同一の構成部材には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、制御装置50についても、図5では省略している。
この実施形態の油圧制御装置2および試験機1は、1台の油圧ポンプ20に対して、2つの油圧回路30A,30Bが並列に配置されている点が、上述した実施形態と異なっている。
【0067】
本発明の油圧制御装置2および試験機1では、上述したように、特に油圧ポンプ20の吐出圧力に制限を加えるものではなく、油圧ポンプ20の吐出圧力は一定の状態で制御される。したがって、図5に示したように、2台の油圧シリンダ10A,10Bに本発明の油圧制御装置2を適用しようとした場合に、油圧供給源である油圧ポンプ20を共通にすることが可能である。
【0068】
また図示しないが、1台の油圧ポンプ20に対して、3つ以上の油圧回路30A,30B、30C・・を並列に配置することで、3台以上の油圧シリンダ10A,10B,10Cに対して、本発明の油圧制御装置2を適用することも勿論可能である。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 試験機
2 油圧制御装置
10 油圧シリンダ
12 シリンダ
12a ヘッド室
12b ロッド室
14 ピストン
16 ロッド
18a ヘッド側ポート
18b ロッド側ポート
20 油圧ポンプ
30 油圧回路
31 給油液路
32 ヘッド側液路
34 ロッド側液路
36 排出液路
37a,37b タンク
38 リリーフ液路
39 ホース配管
42 第1の高速オンオフ弁
44 第2の高速オンオフ弁
46 閉止弁
48 リリーフ弁
50 制御装置
100 試験機
110 油圧シリンダ
110 油圧シリンダ
112a ヘッド室
112b ロッド室
120 吐出量可変ポンプ
130 油圧回路
132 給液管路
134 戻液管路
137a,137b タンク
142 切換弁
144 高速オンオフ弁
S センサ機構
W 試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片ロッド液圧シリンダのヘッド室およびロッド室への作動液体の給液量を制御することにより、該液圧シリンダの作動状態を制御する液圧制御装置であって、
作動液体を吐出する液圧ポンプと、
前記液圧ポンプと前記液圧シリンダのヘッド室とを接続するヘッド側液路、および前記液圧ポンプと前記液圧シリンダのロッド室とを接続するロッド側液路を有する液圧回路と、
を備え、
前記液圧回路のヘッド側液路には第1の高速オンオフ弁が配置され、該第1の高速オンオフ弁とヘッド室との間には、作動液体を排出する排出液路が接続されるとともに、該排出液路には第2の高速オンオフ弁が配置されていることを特徴とする液圧制御装置。
【請求項2】
前記第1の高速オンオフ弁および第2の高速オンオフ弁が、パルス幅制御によって開閉制御されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液圧制御装置。
【請求項3】
前記液圧回路のロッド側液路には、該ロッド側液路を遮断可能に構成された閉止弁が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧制御装置。
【請求項4】
前記液圧回路のヘッド側液路およびロッド側液路が、前記液圧シリンダのヘッド室およびロッド室と、それぞれ着脱自在に接続していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液圧制御装置。
【請求項5】
前記液圧ポンプ対して、前記液圧回路が複数並列に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液圧制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の液圧制御装置と、
前記液圧制御装置によって作動状態が制御される液圧シリンダと、
前記液圧シリンダを介して試験体に負荷される試験力を検出するセンサ機構と、
を備えることを特徴とする試験機。
【請求項7】
前記試験機が、土木または建築用途の部材用の試験機であることを特徴とする請求項6に記載の試験機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−242259(P2012−242259A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113184(P2011−113184)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000250409)理研機器株式会社 (4)
【Fターム(参考)】