説明

液晶パネル基板ラビング材

【課題】パイル片が緯糸に沿って織幅方向に傾斜し、経糸の長さ方向を軸芯方向に平行に向けて回転ロールに装着することが出来る液晶パネル基板ラビング材を得る。
【解決手段】太い経糸21と細い経糸22を2本1組にして配列して織成される綾織組織のベース織地に、その各組の太い経糸と細い経糸の間にパイル糸70を配列して織り込み、製織方向において前後異なる緯糸の下を潜ってパイル片がパイル面に突出し、その前方において突出する前方パイル片31と後方において突出する後方パイル片32との間で他の緯糸の上を越えるファーストパイル40を形成する。ファーストパイルの前方パイル片の沈込部51と、後方パイル片の沈込部52のうちの少なくとも一方の沈込部の上を越える緯糸を、隣り合う組の細い経糸の下に潜らせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルの基板の表面に液晶素子の配列を促す配向膜を形成するために使用される液晶パネル基板ラビング材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルの基板の表面に液晶素子の配列を促す配向膜を形成するために、液晶パネルの基板の表面にポリイミド樹脂等によって形成された配向膜に、周面に液晶パネル基板ラビング材(以下、単にラビング材と言う。)を巻き付けた回転するラビングロールを当てて擦り、その回転方向に沿った微細な擦過溝を形成するラビング処理が施され、そのラビング材には経パイル織物が適用されている。ラビング材としての経パイル織物の厚みは概して1.5〜4.0mmであり、カットパイルや緯糸や経糸には繊度(太さ)が概して15〜100綿番手の糸条が使用され、ベース織地(地組織)の経糸密度は概して20〜180本/25.4mmに、緯糸密度は概して30〜150本/25.4mmに設定されている。
【0003】
経パイル織物のカットパイルは、2つのカットパイル片が対を成している。その対を成す2つのカットパイル片は、U字、V字乃至W字形を成して連続している。そのU字、V字ないしW字状に折れ曲がって連続する2つのカットパイル片の連続部分であるカットパイルの沈込部は、経パイル織物のベース織地を構成する緯糸の下を潜り抜けている。カットパイルは、その潜り抜ける沈込部によってベース織地に係止され、その対を成す2つのカットパイル片は、その係止する緯糸の前後に分かれてベース織地から突出している。そのカットパイルの沈込部が潜り抜ける緯糸の数、その潜り抜ける緯糸と経糸によって構成されるベース織地の織組織を変えることによって、経糸の長さ方向におけるパイル片の傾き具合が変化し、カットパイルが経糸の長さ方向において傾斜した経パイル織物を得ることが出来る。ラビング材としての経パイル織物は、回転ロールに巻き付けて使用されるものであり、その回転ロールの回転方向に沿ってカットパイル片が傾斜したものが好適とされ、その経糸の長さ方向を回転方向に合わせ、緯糸の長さ方向を軸芯方向に向けて回転ロールに巻き付けられる。このため、ラビング材として、ラビングロールの幅に応じた織幅の経パイル織物が必要になる。
【0004】
ラビング材としての経パイル織物の製織には、衣料生地やシート地(椅子張り地)としての経パイル織物の製織に使用されているモケット織機が使用されている。しかし、モケット織機の織幅は2.3m以下であり、モケット織機によっては、織幅が2.3mを超える経パイル織物は得られない。勿論、織幅が2.3mを超える広幅の経パイル織物は、ウイルトン・カーペット織機によって製織することが出来る。しかし、ウイルトン・カーペット織機は、あくまでもカーペット織機であり、15〜100綿番手の糸条をパイルや緯糸や経糸に使用し、経糸密度や緯糸密度が20〜150本/25.4mmで、厚みが1.5〜4.0mmのラビング材に適した経パイル織物をウイルトン・カーペット織機によって得ることは出来ない。従って、ラビング処理に2.3mを超える広幅のラビングロールに使用し、液晶パネル基板の生産効率を高めようとする場合には、ラビング材用経パイル織物を、その緯糸の長さ方向を回転方向に向け、経糸の長さ方向を軸芯方向に向けて回転ロールに巻き付け、そのロールを回転しつつパイル面を撫でてパイルを回転方向に沿ってカットパイル片を傾斜させることになる。
【0005】
しかし、経糸密度が20〜180本/25.4mmに設定された緻密なラビング材用経パイル織物では、パイルの左右(緯糸の長さ方向)が経糸によって強く把持されているので、緯糸の長さ方向に一定の傾斜角をもってパイルを傾斜させることは出来ず、それを樹脂や熱によって強制的に傾斜させようとしても、その傾斜度合にバラツキが生じ、その結果、パイルの先端によって液晶パネルの配向膜の配合性にバラツキが生じ、ラビング処理における液晶パネル基板の歩留りの低下を招き、ラビング処理によるロスが多発する。
【0006】
そこで、本出願人は、ベース織地を2本1組の経糸が引き揃え状態で緯糸に交絡する2本緯畦(2/2緯畦)織組織とし、パイル糸を各組2本の経糸の間に配置し、その各組2本の経糸が交絡して上を越える緯糸に係止してルーズパイルのカットパイルを形成した経パイル織物において、その各組2本の経糸の中の1本の経糸の繊度(太さ)を他の1本の経糸の繊度(太さ)よりも大きく(太く)し、その細い経糸と太い経糸を交互に配置することによって、パイル片を間に挟んで隣合う各組2本の経糸の中の1本の太い経糸が細い経糸よりもパイル片の根元に強く載り掛かり、パイル片の軸芯が太い経糸側から細い経糸側へと織幅方向に傾斜し、経糸の長さ方向を軸芯方向に平行に向けて回転ロールに装着することが出来るラビング材(以下、第一先願ラビング材と言う。)を開発した(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
更に、本出願人は、図1と図2に示す通り、パイル面がカットパイルによって構成される経パイル織物によって構成され、経糸21・22が緯糸10と交絡してベース織地の織組織を構成しており、パイル片30のベース織地に沈み込む沈込部50の上を越えてそのパイル片を係止する緯糸10が、そのパイル片を間に挟んで隣り合う左右片側の経糸21の下に潜り、その左右隣り合う他の片側の経糸22の上を越えており、緯糸10に係止されるパイル片30を間に挟んで左右隣り合う全ての2本の経糸(21aと22a、21bと22b、21cと22c………)の中の沈込部50の上を越える全ての左右片側の経糸(21a、21b、21c………)と、沈込部50の下に潜る全ての左右隣り合う他の片側の経糸(22a、22b、22c………)とのパイル片30を間に挟んで隣り合う左右の配置が同じに揃えられているラビング材(以下、第二先願ラビング材と言う。)を開発した(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−241638号公報(特許第4126438号)
【特許文献2】特開2007−101464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
第二先願ラビング材には、第一先願ラビング材に比して、パイルをベース織地から離脱し難いファーストパイルにすることが出来るので耐久性に優れ、又、パイル片30を間に挟む経糸間21・22の中心線が緯糸の軸芯に傾斜するので、その傾斜する経糸間の中心線に交叉するパイル片30の軸芯も緯糸の軸芯に対して傾斜することになり、パイル片30の軸芯を緯糸の軸芯に対して傾斜させるために、パイル片30を間に挟む一方の経糸21を他方の経糸22よりも太くする必要はなく、その太くする必要がなくなる分だけ経糸密度を緻密にすることが出来る利点がある。
【0010】
第二先願ラビング材では、パイル片の根元60が、その沈込部50の上を越えてパイル片を係止する緯糸10の上を越える経糸21に押し倒されて、その経糸21に対してパイル片を間に挟んで隣り合い、緯糸10が上に越える他の経糸側22に傾斜し、図1(a)に示すように、緯糸10の上を越える経糸21の太さが緯糸10の下に潜る経糸21の太さよりも太くなるにつれてパイル片の根元60の傾斜の度合いも大きくなる。しかし、その傾斜の度合いにはバラツキが認められ、そのバラツキは、製織直後の第2先願ラビング材よりも、パイル面にブラッシングやシャーリングを施して仕上がった第2先願ラビング材に多くなる傾向が認められた。
【0011】
その原因を究明するに、第二先願ラビング材では、図1(b)に示すように、パイル片30の沈込部50の上を越えてパイル片30を係止する緯糸10が、そのパイル片を間に挟んで左右隣り合う片側の太い経糸21の下に潜っているので、その沈込部50は、太い経糸21の上に向けて移動することはなく、それが移動して太い経糸21の上に重なることはない。しかし、その緯糸10が潜る太い経糸21に左右隣り合う他の片側の細い経糸22に対しては、その緯糸10が細い経糸22と共にパイル片の沈込部50と太い経糸21の上をも越えており、前後の沈込部51・52の間でファーストパイル40と緯糸10とが引き揃え状態になって平行に並ぶので(図2参照)、ファーストパイル40は緯糸11・12・13に導かれるように細い経糸22の上へと織幅方向に移動し、その細い経糸22の上に重なり易くなる(図2参照)。 そして、ブラッシングやシャーリング等の仕上処理やラビング材の巻き返しや振り落し等の製織後に加えられる振動が、沈込部50や細い経糸22の織幅方向への移動を促し、その結果、図1(b)と図2に示すように、沈込部50が、それと同じように緯糸10の下に潜る細い経糸22の上に載って重なる格好になり、パイル片の根元60が、太い経糸21と細い経糸22の間ではなく、太い経糸21と太い経糸21との間で挟持される格好になり、結果的に、太い経糸21と細い経糸22の間にパイル糸71(72)を配置してラビング材を織成する意味がなくなる。
【0012】
本発明は、上記の知見を得て完成されたものであり、第二先願ラビング材において太い経糸21と細い経糸22の間に形成されたファーストパイル40の沈込部50の細い経糸22の上への移動を防ぎ、ファーストパイルのパイル片30の根元60が太い経糸21と細い経糸22の間で挟持され、太い経糸側21から細い経糸側22へと傾く根元60の傾斜状態が維持されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る液晶パネル基板ラビング材は、(a) 経糸(21・22)と緯糸(10)が交絡して形成するベース織地にパイル糸70が織り込まれて製織方向に続くパイル列を形成しているパイル織物によって構成された液晶パネル基板ラビング材において、(b) 太い経糸21と細い経糸22が、2本1組となる対を成して織幅方向に繰り返し配置されており、(c) その各組の太い経糸21と細い経糸22の間にパイル糸70が挟まれて製織方向に続くパイル列を形成しており、(d) 各組の太い経糸21と緯糸とは、太い経糸21が複数本の緯糸の上を越える毎に1本の緯糸の下に潜る綾織組織を構成しており、(e) 各組の細い経糸22と緯糸とは、細い経糸22が1本の緯糸の上を越える毎に1〜3本の緯糸の下を潜る平織または綾織組織を構成しており、(f) パイル糸70は、製織方向において前後する異なる緯糸の下を潜ってパイル片がパイル面に突出し、その前方において突出する前方パイル片31と後方において突出する後方パイル片32との間で他の緯糸の上を越えるファーストパイル40を形成しており、(g) そのファーストパイル40を形成している前方パイル片31が緯糸の下を潜る前方パイル片31の沈込部51と、後方パイル片32が緯糸の下を潜る後方パイル片32の沈込部52のうちの少なくとも一方の沈込部(51・52)の上を越える緯糸が、ファーストパイル40を間に挟んで隣り合う各組の細い経糸22の下を潜り抜けていることを第1の特徴とする。
【0014】
本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(h) 太い経糸21と緯糸が、太い経糸21が3本の緯糸の上を越える毎に1本の緯糸の下に潜る綾織組織を構成しており、(i) 細い経糸22と緯糸が、細い経糸22が1本の緯糸の上を越える毎に3本の緯糸の下を潜る綾織組織を構成しており、(j) ファーストパイル40の前方パイル片31の沈込部51と後方パイル片32の沈込部52の間の部分が、1本の緯糸の上を越えている点にある。
【0015】
本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加えて、(k) パイル糸70aを間に挟んで配置された1組の太い経糸21aと細い経糸22aと、その組に隣り合う他組のパイル糸70bを間に挟んで配置された太い経糸21bと細い経糸22bが、緯糸の上を越え又緯糸の下を潜る周期が半周期異なり、(k−1) 1組の太い経糸21aが下に潜る緯糸の上を隣り合う他組の太い経糸21bが越え、(k−2) 1組の太い経糸21aが上を越える緯糸の下を隣り合う他組の太い経糸21bが潜り、(k−3) 1組の細い経糸22aが下に潜る緯糸の上を隣り合う他組の細い経糸22bが越え、(k−4) 1組の細い経糸22aが上を越える緯糸の下を隣り合う他組の細い経糸22bが潜っている点にある。
【0016】
本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加えて、(l) 織幅方向において隣り合うパイル列のパイル糸70aとパイル糸70bが、それぞれ形成して織幅方向において隣り合うパイル列のファーストパイルとファーストパイルの製織方向における形成位置Pが異なっており、(m) それらの織幅方向において隣り合うパイル列のファーストパイルの前方パイル片と後方パイル片の間においてパイル糸の上を越える緯糸が、その隣り合うファーストパイルとファーストパイルの間で異なっている点にある。
【0017】
本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の第5の特徴は、上記第1、第2、第3、第4の何れかの特徴に加えて、(n) 太い経糸21の繊度が細い経糸22の繊度の1.2倍〜4.0倍である点にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、太い経糸21と細い経糸22の間にパイル糸70が挟まれて製織方向に続くパイル列を形成しており、太い経糸21と緯糸とは、太い経糸21が複数本の緯糸の上を越える毎に1本の緯糸の下に潜る綾織組織を構成しており、細い経糸22と緯糸とは、細い経糸22が1本の緯糸の上を越える毎に1〜3本の緯糸の下を潜る平織または綾織組織を構成している。
従って、ファーストパイル40は、前方パイル片31の沈込部51の上を越えて押さえる緯糸と、後方パイル片32の沈込部52の上を越える緯糸と、その前後の沈込部51・52の間でパイル糸が上を越える緯糸との少なくとも3本の緯糸につき1個の割合で形成される。
【0019】
そのファーストパイル40を形成している前方パイル片31が緯糸の下を潜る前方パイル片31の沈込部51と、後方パイル片32が緯糸の下を潜る後方パイル片32の沈込部52のうちの少なくとも一方の沈込部(51・52)の上を越える緯糸が、ファーストパイルを間に挟んで隣り合う各組の細い経糸22の下を潜り抜けている。そのため、ベース織地の側面視においては、細い経糸とパイル糸は必ず交叉状態になる。即ち、図3に示すように、ファーストパイル40を形成しているパイル糸70と細い経糸22とは、そのファーストパイル40の前後の沈込部51・52の間において、それらが緯糸に対して一緒になって浮き沈みする引揃状態にはならない。従って、ファーストパイル40が、織幅方向に移動し、図4に示すように、細い経糸22の上に載り上がって重なることはない。
【0020】
一方、太い経糸21は、1本の緯糸を越える毎に複数本、即ち、少なくとも2本の緯糸の上を越えており、ファーストパイル40を形成するパイル糸のように2本の緯糸の下を潜り1本の緯糸の上を越えることがなく、ベース織地の側面視においては、太い経糸とパイル糸は必ず交叉状態になる。即ち、ファーストパイル40を形成しているパイル糸70と太い経糸21とは、そのファーストパイル40の前後の沈込部51・52の間において、それらが緯糸に対して一緒になって浮き沈みする引揃状態で緯糸を越えになることはない。従って、ファーストパイル40が織幅方向に移動して太い経糸21の上に重なることはない。
【0021】
又、太い経糸21の太さからしても、ファーストパイル40が、織幅方向に移動し、太い経糸21の上には載り上がり難い。
【0022】
そして、後方パイル片32の沈込部52の上を越える緯糸だけが、ファーストパイル40を間に挟んで隣り合う各組の細い経糸22の下を潜り抜ける場合(図3参照)において、前方沈込部51が織幅方向に移動して細い経糸22の上に載り上がって重なることがあるとしても(図4参照)、図5(b)に示すように、後方パイル片32が傾斜状態を維持するので、液晶パネル基板ラビング材の機能が大きく損なわれることはない。
【0023】
しかし、図3に示すように、後方パイル片32の沈込部52の上を越える緯糸だけが、ファーストパイル40を間に挟んで隣り合う各組の細い経糸22の下を潜り抜ける場合でも、その後方パイル片32の沈込部52によってファーストパイル全体40の織幅方向への移動が抑制されるので、図4に示すように、前方パイル片31の沈込部51の上を越える緯糸が隣り合う細い経糸22の上を越えていても、その前方パイル片31の沈込部51が織幅方向に移動して細い経糸22の上に載り上がって重なることは起こり難い。
【0024】
このように、本発明によると、図5(a)に示すように、パイル片31・32が太い経糸21と細い経糸22の間で挟持され、太い経糸側21から細い経糸側22へと傾く根元60の傾斜状態が維持される液晶パネル基板ラビング材を得ることが出来る。
【0025】
前後双方のパイル片31・32の傾斜状態を確実に維持するためには、図6に示すように、前方沈込部51の上を越える緯糸11と後方沈込部52の上を越える緯糸13が共に細い経糸22の下に潜らせればよいのであるが、それらの緯糸11・13の間で細い経糸22が浮き上らないように押さえるために、その間の緯糸12が細い経糸22の上を越えるようにしなければならず、その結果、細い経糸22が緯糸を昇降する頻度が多くなり、細い経糸と緯糸で平織組織を形成しなければならなくなる(図6参照)。しかし、経糸が緯糸を昇降する織組織点の多さからして平織物が綾織物や朱子織物に比して緻密に織成し難くなるのと同様に、前後双方の沈込部51・52の上を越える緯糸11・13を細い経糸22の下に潜らせるときは、パイル密度の緻密な液晶パネル基板ラビング材は得難くなる。
【0026】
この点、本発明では、太い経糸21と組を成す細い経糸22が、1本の緯糸の上を越える毎に複数本の緯糸の下を潜り抜けることにしたので、パイル密度の緻密な液晶パネル基板ラビング材を得ることが出来る(図3と図4参照)。
【0027】
緯糸の下を潜り抜けた太い経糸21が複数本の緯糸の上を越えて浮き出るときは、パイル片の根元60を細い経糸側22に押し倒す力が弱まる。
本発明では、その点、細い経糸22と組を成す太い経糸21が2〜3本の緯糸の上を越える毎に1本の緯糸の下を潜り抜け、太い経糸21と組を成す細い経糸22が1本の緯糸の上を越える毎に2〜3本の緯糸の下を潜り抜けることにしたので、パイル片が細い経糸側22に傾斜した液晶パネル基板ラビング材を確実に得ることが出来る。
【0028】
又、本発明では、パイル糸70aを間に挟んで配置された1組の太い経糸21aと細い経糸22aと、その組に隣り合う他組のパイル糸70bを間に挟んで配置された太い経糸21bと細い経糸22bが、緯糸の上を越え又緯糸の下を潜る周期が半周期異なっており、織幅方向において隣り合うパイル列のパイル糸70aとパイル糸70bが、それぞれ形成して織幅方向において隣り合うパイル列のファーストパイルとファーストパイルの製織方向における形成位置Pが異なっており、その形成位置Pが市松状に均等に分散しているので、パイル片30が均等に分布し、而も、前方パイル片31と後方パイル片32が織幅方向に交互して分布し、品質が均一な液晶パネル基板ラビング材を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来技術に係る液晶パネル基板ラビング材の断面図である。
【図2】従来技術に係る液晶パネル基板ラビング材の斜視図である。
【図3】本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の斜視図である。
【図4】図3に示す液晶パネル基板ラビング材の変形状態を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の断面図である。
【図6】本発明に係る液晶パネル基板ラビング材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
パイル糸70を間に挟んで対を成す太い経糸21と細い経糸22を織幅方向に繰り返して配置する場合、その隣り合う対と対の間、即ち、隣り合う太い経糸21と細い経糸22の間には、他の経糸を配置することが出来る。
即ち、パイル糸と太い経糸21と細い経糸22と他の経糸とのパイル糸を含む合計4本以上の経糸を一組として配列することが出来、そのように隣り合う太い経糸21と細い経糸22の間に他の経糸を配置することによってベース織地の織組織構造を安定にし、経糸密度を緻密化し、又、その追加配置する他の経糸によって制電性、接着性、引張強度等の物性品質をラビング材に付加することが出来る。
【0031】
ベース織地(地組織)の経糸密度は20〜180本/25.4mmに設定し、緯糸密度は30〜150本/25.4mmに設定し、経パイル織物の厚みは1.5〜4.0mmに設定するとよい。パイルや緯糸や経糸には繊度(太さ)が10〜100綿番手の糸条が使用される。パイル糸には、セルロース系繊維を主材とする糸条を使用することが望ましい。太い経糸21の繊度は、細い経糸22の繊度の1.4倍〜3.0倍に、概して2.0倍前後にするとよい。
【0032】
ファーストパイル40は、緯糸4本(11・12・13・14)につき1個の割合で形成し、パイル糸(71)が1本の緯糸(12)の上を越えてW字状を成して向き合う前後2本のパイル片31・32の沈込部51・52を、それぞれ前後異なる2本緯糸(11・13)の下に潜らせて係止し、残りの1本の緯糸(14)によって製織方向において前後するファーストパイル40・40の後方パイル片32と前方パイル片31の間を仕切り、前方パイル片31と後方パイル片32が前後する2本の緯糸(14と11)と緯糸(13と14)に根元がそれぞれ挟まれて突出するように形成すると共に、織幅方向において隣り合うパイル列のパイル糸71とパイル糸72の間では、その一方のパイル糸71の形成するファーストパイルの後方パイル片32と前方パイル片31の間を仕切る緯糸(14)の上を、その他方のパイル糸72の形成するファーストパイルの前方パイル片31と後方パイル片32の間の部分が越えるようにし、それらの織幅方向において隣り合うパイル列のファーストパイルとファーストパイルの形成位置P1とP2が市松状に配置させることが推奨される(図3と図4と図6参照)。
【0033】
液晶パネル基板ラビング材の裏面(非パイル面)には接着剤を塗布し、パイル片31・32の沈込部51・52をベース織地に接着固定するとよい。その接着剤の塗布量は概して50〜80g/m2 (乾燥重量)にするとよい。
【実施例】
【0034】
[実施例]
繊度30綿番手(60/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸を細い経糸22とし、繊度13綿番手(30/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸を太い経糸21とし、繊度20綿番手(40/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸を緯糸10とし、繊度20綿番手(40/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸をパイル糸70とし、太い経糸21とパイル糸70と細い経糸22を順次並べて3本1組の経糸群として各筬羽間に通し、順次織り込む4本の緯糸11・12・13・14を緯糸群とし、織幅方向において左右隣り合う2組の経糸群a・bの綜絖による開口運動を変え、(1) 杼打の第1打では緯糸11を、経糸群aの細い経糸22aとパイル糸70aの上を越え、太い経糸21aと経糸群bの細い経糸22bの下に潜らせ、経糸群bのパイル糸70bと太い経糸21bの上を越えて織り込み、(2) 第2打では緯糸12を、経糸群aの細い経糸22aの上を越え、パイル糸70aと太い経糸21aの下に潜らせ、経糸群bの細い経糸22bの上を越え、パイル糸70bと太い経糸21bの下に潜らせて織り込み、(3) 第3打では緯糸13を、経糸群aの細い経糸22aの下に潜らせ、パイル糸70aと太い経糸21aと経糸群bの細い経糸22bとパイル糸70bの上を越え、太い経糸21bの下に潜らせて織り込み、(4) 第4打では緯糸14を、経糸群aの細い経糸22aの上を越え、パイル糸70aと太い経糸21aの下に潜らせ、経糸群bの細い経糸22bの上を越え、パイル糸70bと太い経糸21bの下に潜らせて織り込み、図3に示すように、前方パイル片31の沈込部51の上を越える緯糸11(13)が細い経糸22の上をも越え、後方パイル片32の沈込部52の上を越える緯糸13(11)が細い経糸22の下に潜る経糸密度80本/25.4mm、緯糸密度を80本/25.4mm、厚み3.0mm(パイル長2.2mm)のファーストパイル40のパイル織物をダブルモケット織機により織成し、裏面にアクリル樹脂系接着剤(エマルジョン)を塗布(乾燥塗布量65g/m2 )してラビング材に仕上げた。
【0035】
[比較例]
繊度30綿番手(60/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸を細い経糸22とし、繊度13綿番手(30/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸を太い経糸21とし、繊度20綿番手(40/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸を緯糸10とし、繊度20綿番手(40/2s綿番手)のコットン(綿)繊維紡績糸をパイル糸70とし、太い経糸21とパイル糸70と細い経糸22を順次並べて3本1組の経糸群として各筬羽間に通し、順次織り込む4本の緯糸11・12・13・14を緯糸群とし、織幅方向において左右隣り合う2組の経糸群a・bの綜絖による開口運動を変え、(1) 杼打の第1打では緯糸11を、経糸群aの細い経糸22aとパイル糸70aの上を越え、太い経糸21aの下に潜らせ、経糸群bの細い経糸22bとパイル糸70bの上を越え、太い経糸21bの下に潜らせて織り込み、(2) 第2打では緯糸12を、経糸群aの細い経糸22aとパイル糸70aの下に潜らせ、太い経糸21aと経糸群bの細い経糸22bの上を越え、パイル糸70bと太い経糸21bの下に潜らせて織り込み、(3) 第3打では緯糸13を、経糸群aの細い経糸22aとパイル糸70aの上を越え、太い経糸21aの下に潜らせ、経糸群bの細い経糸22bとパイル糸70bの上を越え、太い経糸21bの下に潜らせて織り込み、(4) 第4打では緯糸14を、経糸群aの細い経糸22aの上を越え、パイル糸70aと太い経糸21aと経糸群bの細い経糸22bとパイル糸70bの下に潜らせ、太い経糸21bの上を越えて織り込み、図2に示すように、前方パイル片31の沈込部51の上を越える緯糸11(13)が細い経糸22の上をも越えると共に、後方パイル片32の沈込部52の上を越える緯糸13(11)も細い経糸22の上をも越える経糸密度80本/25.4mm、緯糸密度を80本/25.4mm、厚み3.0mm(パイル長2.2mm)のファーストパイル40のパイル織物をダブルモケット織機により織成し、裏面にアクリル樹脂系接着剤(エマルジョン)を塗布(乾燥塗布量65g/m2 )してラビング材に仕上げた。
【0036】
[評価]
それぞれパイル面を織幅方向に撫でて実施例の液晶パネル基板ラビング材と比較例の液晶パネル基板ラビング材のパイル片の織幅方向への傾斜の度合いを比較すると、実施例の液晶パネル基板ラビング材のパイル片が比較例の液晶パネル基板ラビング材のパイル片に比して織幅方向に強く傾斜していることが感じ取られた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の液晶パネル基板ラビング材は、塗装を施すプラスチック平板用ラビング材やワイピングクロスに利用することが出来る。
【符号の説明】
【0038】
10・11・12・13・14:緯糸
21・22:経糸
30:パイル片
31:前方パイル片
32:後方パイル片
40:ファーストパイル
50:沈込部
51:前方沈込部
52:後方沈込部
60:根元
70:パイル糸
P :ファーストパイル形成位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 経糸(21・22)と緯糸(10)が交絡して形成するベース織地にパイル糸(70)が織り込まれて製織方向に続くパイル列を形成しているパイル織物によって構成された液晶パネル基板ラビング材において、
(b) 太い経糸(21)と細い経糸(22)が、2本1組となる対を成して織幅方向に繰り返し配置されており、
(c) その各組の太い経糸(21)と細い経糸(22)の間にパイル糸(70)が挟まれて製織方向に続くパイル列を形成しており、
(d) 各組の太い経糸(21)と緯糸とは、太い経糸(21)が複数本の緯糸の上を越える毎に1本の緯糸の下に潜る綾織組織を構成しており、
(e) 各組の細い経糸(22)と緯糸とは、細い経糸(22)が1本の緯糸の上を越える毎に1〜3本の緯糸の下を潜る平織または綾織組織を構成しており、
(f) パイル糸(70)は、製織方向において前後する異なる緯糸の下を潜ってパイル片がパイル面に突出し、その前方において突出する前方パイル片(31)と後方において突出する後方パイル片(32)の間で他の緯糸の上を越えるファーストパイル(40)を形成しており、
(g) そのファーストパイル(40)を形成している前方パイル片(31)が緯糸の下を潜る前方パイル片(31)の沈込部(51)と、後方パイル片(32)が緯糸の下を潜る後方パイル片(32)の沈込部(52)のうちの少なくとも一方の沈込部(51・52)の上を越える緯糸が、ファーストパイル(40)を間に挟んで隣り合う各組の細い経糸(22)の下を潜り抜けている液晶パネル基板ラビング材。
【請求項2】
太い経糸(21)と緯糸が、太い経糸(21)が3本の緯糸の上を越える毎に1本の緯糸の下に潜る綾織組織を構成しており、細い経糸(22)と緯糸が、細い経糸(22)が1本の緯糸の上を越える毎に3本の緯糸の下を潜る綾織組織を構成しており、ファーストパイル(40)の前方パイル片(31)の沈込部(51)と後方パイル片(32)の沈込部(52)の間の部分が、1本の緯糸の上を越えている前掲請求項1に記載の液晶パネル基板ラビング材。
【請求項3】
パイル糸(70a)を間に挟んで配置された1組の太い経糸(21a)と細い経糸(22a)と、その組に隣り合う他組のパイル糸(70b)を間に挟んで配置された太い経糸(21b)と細い経糸(22b)が、緯糸の上を越え又緯糸の下を潜る周期が半周期異なり、(1) 1組の太い経糸(21a)が下に潜る緯糸の上を隣り合う他組の太い経糸(21b)が越え、(2) 1組の太い経糸(21a)が上を越える緯糸の下を隣り合う他組の太い経糸(21b)が潜り、(3) 1組の細い経糸(22a)が下に潜る緯糸の上を隣り合う他組の細い経糸(22b)が越え、(4) 1組の細い経糸(22a)が上を越える緯糸の下を隣り合う他組の細い経糸(22b)が潜っている前掲請求項1と2の何れかに記載の液晶パネル基板ラビング材。
【請求項4】
織幅方向において隣り合うパイル列のパイル糸(70a)とパイル糸(70b)が、それぞれ形成して織幅方向において隣り合うパイル列のファーストパイルとファーストパイルの製織方向における形成位置(P)が異なっており、それらの織幅方向において隣り合うパイル列のファーストパイルの前方パイル片と後方パイル片の間においてパイル糸の上を越える緯糸が、その隣り合うファーストパイルとファーストパイルの間で異なる前掲請求項1と2と3の何れかに記載の液晶パネル基板ラビング材。
【請求項5】
太い経糸(21)の繊度が細い経糸(22)の繊度の1.2倍〜4.0倍である前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の液晶パネル基板ラビング材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−281005(P2010−281005A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134952(P2009−134952)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(394022015)妙中パイル織物株式会社 (5)
【Fターム(参考)】