説明

液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ

【課題】互いに相反の関係にある焦点距離の可変範囲と印加電圧に対する応答特性の問題を解決するために有効である液晶層の複数分割による実効厚みを減少した液晶レンズの作製を簡単に行うことができるようにする。
【解決手段】電極を有する第1の基板と第2の基板からなる第1の液晶セルと、第3の基板と電極を有する第4の基板からなる第2の液晶セルを、前記第1の液晶セルの第2の基板側と第2の液晶セルの第3の基板側がそれぞれ内側になるように重ねて第2の基板と第3の基板それぞれを第3の液晶セルの基板として利用することで第3の液晶セルを構成することを特徴とする液晶レンズの製造方法及び液晶レンズを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の空間分布特性を利用する液晶レンズにおいて、液晶層を3層または4層以上に分割することで光学特性の改善を行う液晶レンズの製造方法及び前記の製造方法により製造された液晶レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
近年薄型軽量の平板型表示パネルに利用されている液晶素子は、液晶素子を構成する2枚の基板表面の処理や、外部印加電圧により、液晶分子の配向状態を容易に制御することができ、また電圧印加により実効的な屈折率を異常光に対する値から常光に対する値まで連続的に可変できるという、優れた特性を有している。
【0003】
このように、低電圧印加により分子配向状態を大幅に可変制御できる液晶は、ディスプレイを始め各種の光学素子に応用され始めている。これまで液晶素子における屈折率の空間分布特性を利用した光学素子として、液晶分子が基板に平行で一方向に配向するような強い配向規制力を有する配向処理を行い、円形の孔型パターンを有する電極を用いることで生じる軸対称的な不均一電界による液晶分子配向効果に基づく屈折率の空間分布特性を利用した液晶レンズが特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2に報告されている。
【0004】
また、円形孔型パターン電極と液晶層の間に絶縁性媒質を挿入することで、レンズの有効径を大きくした液晶レンズが特許文献2に開示されている。
【0005】
一方、液晶層と円形の孔型パターン電極との間に絶縁層を挿入した液晶レンズにおいて、円形孔型パターン電極の外部に透明な第3の電極を配置して2電圧で駆動することで、良好な光学特性を維持した状態で凹レンズ特性から凸レンズ特性まで広範囲に焦点距離を可変できる液晶レンズが特許文献3に開示されている。
【0006】
さらに、液晶セル基板に入射光の波長程度もしくはそれ以下の寸法で液晶分子の配向方向が異なる微小な領域をランダムに配置し、前記微小な領域の密度分布を適宜設定することで実効的な屈折率の空間分布を軸対称状としてレンズ効果を発現させる液晶光学素子が特許文献4に開示されている。
【0007】
これらの液晶光学素子は、印加電圧により焦点距離やレンズ特性を大幅に可変制御できるという優れた特徴を有していることから、種々の光学素子としての応用が期待されている。
【0008】
前記の焦点距離可変の機能を有する液晶レンズにおいて、外部印加電圧による焦点距離の可変範囲は液晶層における光学位相遅れ、すなわち液晶材料の複屈折の値と液晶層の厚みの積に依存することが知られており、同一の液晶材料を使用する場合には液晶層の厚みが厚いほど焦点可変範囲が大きくなる。一方、印加電圧に対する液晶レンズにおける光学特性の応答速度は液晶層の厚みの2乗に比例して遅くなるため、液晶層の厚みに関しては焦点の可変範囲と応答特性の間には相反の関係がある。
【0009】
また、前記の液晶層の厚みに関係する焦点の可変範囲と応答特性の間の相反関係を解決する方法として、数10ミクロンから100ミクロン程度の薄いガラス板により液晶層を2層に分割して、液晶層の実効的な厚みを半分にする方法が特許文献2及び特許文献3に開示されている。
【0010】
液晶層をさらに多くの層に分割することで、液晶層の実効的な厚みをより薄くすることができるため、所望の焦点可変範囲を保持した状態で応答特性の高速化を行うなどの光学特性のさらなる改善が可能となる。
【特許文献1】特開平11−109303
【特許文献2】特開2004−4616
【特許文献3】特開2006−91826
【特許文献4】特開2006−119532
【非特許文献1】能勢敏明,佐藤進(T. Nose and S. Sato),「不均一電界を用いた液晶マイクロレンズ(Liquid-crystal microlens obtained with a nonuniformelectric field)」,Liquid Crystals,1989年,Vol.5,P. 1425-1433
【非特許文献2】佐藤進、「液晶の世界」、産業図書株式会社、1994年4月15日、P. 186-189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記の課題を解決する手段として液晶層を複数に分割して液晶層を実効的に薄くするためには、100ミクロン程度以下の厚み、たとえば70ミクロン厚の薄いガラス板を使用して液晶層を分割したセルを構成する必要がある。このような薄いガラス板は極めて割れやすく取り扱いが難しいため、薄いガラス基板を1枚ずつ重ねることで液晶層を増やしていく手法では、液晶層数が多くなるほど液晶レンズの製造工程が難しくなり、特に大量生産等を行う場合に問題があった。
【0012】
本発明の目的は、上述の問題を解決し、3層もしくは4層以上の液晶層を有する液晶レンズの工業的な生産において容易な手法を提供すると共に、優れた光学特性を有する液晶レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は前記課題を解決するために、液晶分子を配向させた液晶層を少なくとも3層以上有し、前記液晶層に外部電界を加えて液晶分子の配向状態を変化させることで光学特性を可変制御する液晶レンズにおいて、電極を有する第1の基板と第2の基板からなる第1の液晶セルと、第3の基板と電極を有する第4の基板からなる第2の液晶セルを、前記第1の液晶セルの第2の基板側と第2の液晶セルの第3の基板側がそれぞれ内側になるように重ねて第2の基板と第3の基板それぞれを第3の液晶セルの基板として利用することで第3の液晶セルを構成することを特徴とする液晶レンズの製造方法及び液晶レンズを提供する。
【0014】
第1の液晶セルにおける第1の基板の液晶層に接する側に第1の電極があり、第2の液晶セルにおける第4の基板の液晶層に接する側と反対側に開口部を有する第2の電極を配置してもよく、また第2の液晶セルにおける第4の基板の外部、または前記第4の基板の第2の電極における開口部に第3の電極を設けることもできる。
【0015】
また、液晶分子を配向させた液晶層を少なくとも4層以上有し、前記液晶層に外部電界を加えて液晶分子の配向状態を変化させることで光学特性を可変制御する液晶レンズにおいて、電極を有する第1の基板と第2の基板からなる第1の液晶セルと、第3の基板と第5の基板からなる第2の液晶セルを、前記第1の液晶セルの第2の基板側と第2の液晶セルの第3の基板側がそれぞれ内側になるように重ねて第2の基板と第3の基板それぞれを第3の液晶セルの基板として利用することで第3の液晶セルを構成し、前記第2の液晶セルの前記第5の基板及び電極を有する第4の基板を用いて第4の液晶セルを構成することを特徴とする液晶レンズの製造方法及び液晶レンズを提供する。
【0016】
第1の液晶セルにおける第1の基板の液晶層に接する側に第1の電極があり、第4の液晶セルにおける第4の基板の液晶層に接する側と反対側に開口部を有する第2の電極を配置してもよく、また第4の液晶セルにおける第4の基板の外部、または前記第4の基板の第2の電極における開口部に第3の電極を設けることもできる。
【0017】
さらに、複数の液晶層の中で少なくとも一層の液晶層における液晶分子の配向方向が他の液晶層における液晶分子の配向方向と逆向きになるような配向処理が行われている構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
上記の手段により、液晶層を3層または4層以上有する液晶レンズを容易に製造することが可能となる。また、優れた光学特性を有する液晶レンズを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、その基本構成を述べる。
【0020】
図1(A)は、この発明の一実施の形態による液晶レンズの基本構成を断面から見た構成を示している。透明な第1の電極21は第1の基板11の上に形成され、第2の基板12を所定の厚みを保つためのスペーサ41を介して重ね合わせることで液晶セル1を構成する。第1の基板11と前記第2の基板12の間には、第1の電極21と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させた第1の液晶層31を備える。
【0021】
次に、第3の基板13及び第4の基板14を所定の厚みを保つためのスペーサ42を介して重ね合わせることで液晶セル2を構成する。第3の基板13と前記第4の基板14の間には、液晶分子を一方向に配向させた第2の液晶層32を備える。
【0022】
液晶セル1と、液晶セル2を、前記液晶セル1の第2の基板側と液晶セル2の第3の基板側が対向するようにスペーサ43を介して重ね合わせることで、第2の基板12と第3の基板13を利用して液晶セル3を構成する。第2の基板12と前記第3の基板13の間には、液晶分子を一方向に配向させた第3の液晶層33を備える。
【0023】
図1(B)は、図1(A)の液晶レンズを平面的に見た図であり、前記第4の基板14は、第2の電極22を有し、第2の電極22には円形孔22−1が形成されている。前記第1の電極21と第2の電極22の間には第1の電圧V1を加える。また、前記円形孔22−1の中にはスリットにより電気的に絶縁された同一の中心をもつ円状の透明な第3の電極23が形成されている。この円形の透明な第3の電極23に、同様にスリットで第2の電極から絶縁された引き出し部23−1を通して外部から第2の電圧V2を印加することができるように配置されている。
【0024】
また、図1に示した構造の液晶レンズと同様の機能を有する液晶レンズとして、図2に示した他の実施例について説明する。図2[A]は、この発明の他の実施の形態による液晶レンズの基本構成を断面から見た構成を示しており、図2[B]は図2[A]の液晶レンズを平面的に見た図である。図1で円形孔22−1の内部に配置した第3の電極23の代わりに、図2[A]及び[B]に示したように、第4の基板14上の第2の電極22から電気的に絶縁する絶縁層50を挿入し、第6の基板16に円形孔22−1の全域よりも大きな透明な第3の電極23’を形成した構成とすることもできる。
【0025】
ここで、図1及び図2に示した構成から第3の電極23を除いた構成とした場合について説明する。第1の電極21と第2の電極22の間にしきい値よりも高い第1の電圧V1を加えると、液晶セル1の第1の液晶層31、液晶セル2の第2の液晶層32、液晶セル3の第3の液晶層33に軸対称の不均一電界が加わり、液晶分子が各基板面による配向規制力と軸対称不均一電界の配向効果が弾性的に釣り合った状態に配向し、主として凸レンズ効果が得られ液晶レンズAが構成される。前記液晶レンズAの動作原理の詳細については特許文献2に開示されている。
【0026】
図1に示した構成から第3の電極23を除いた構成の液晶レンズでは、外部印加電圧の増加に対する液晶レンズの焦点距離の変化特性が、一度最短となった後増加に転ずるという複雑な特性を示し、また凹レンズ特性を得ることが難しいという問題があったことから、図1及び図2示したように第2の電極の他に第3の電極を設ける構成となっている。
【0027】
なお、図1に示した構造では、図2に示した構造の液晶レンズにおける第2の電極22と第3の電極23’とを絶縁するための絶縁層50及び第6の基板16を設ける必要がなくなるため、液晶レンズ全体の厚みを薄くすることができるという利点がある。
【0028】
一方、図2に示した構造では、第2の電極と第3の電極を絶縁するために図1に示した微細なスリットではなく絶縁層50を使用しているため、焦点の切り替え時等にパルス状の高電圧印加による応答時間の短縮を行う場合などにおいても絶縁破壊等が生じないという利点がある。また、第3の電極に電圧を加えるための電極引き出し部23−1を必要としないので電気的接続が容易であること、などの利点がある。
【0029】
図1または図2に示した第3の電極を配置した構成とした場合では、前記第3の電極23に第1の電圧V1とは独立した第2の電圧V2を加えられるように構成されている。そして、第1の電圧V1に基づく第1段階の光学特性、前記第2の電圧V2に基づく第2段階の光学特性を得られる液晶レンズBが構成される。前記液晶レンズBの動作原理の詳細については特許文献3に開示されている。この液晶レンズBによると、凸レンズ、凹レンズとしての機能が得られる。
【0030】
次に、具体的な実施例について説明する。図1(A)において、液晶セル1の第1の基板11は300μm厚の透明ガラス板であり、液晶層に接する内面側に、インジウム・スズ系の酸化物(ITO)からなる透明な第1の電極21が形成されている。第2の基板12は70μm厚のガラス板である。液晶セル2の第3の基板13は同様に70μm厚のガラス板であり、第4の基板14の厚みは、円形孔22−1の寸法や液晶セルの構造に依存するが、ここでは800μmとしており、第2の液晶層32に接する面と反対側の面には第2の電極となるITO電極22が形成されている。この第2の電極22の液晶レンズ部となる領域には図1(B)に示すように円形孔22−1(例えば直径2mm)を形成する。
【0031】
ここで、第1の電極21と第2の基板12の間には液晶分子を一方向に配向させた第1の液晶層31(例えば厚み20μm)が封入される。第3の基板13と第4の基板14の間にも液晶分子を一方向に配向させた第2の液晶層32(例えば厚み20μm)が封入される。
【0032】
また、第1の液晶セルの第2の基板12と第2の液晶セルの第3の基板13の間にも液晶分子を一方向に配向させた第3の液晶層33(例えば厚み20μm)が封入され、第3の液晶セルを構成する。
【0033】
第1の液晶層31、第2の液晶層32及び第3の液晶層33の液晶材料としてはいずれもZLI6080(メルク社製)を使用した。なお、第1の液晶層31、第2の液晶層32、及び第3の液晶層33を所定の厚みに保つためのスペーサ41、42、43としては直径が20μmの球状スペーサを接着剤に分散したものを用い、図示していないが基板の周辺部等は接着剤により液晶が封止されている。
【0034】
また、液晶層を挟む電極や基板の面には配向膜として図示されていないポリイミド膜を約150nmの厚みに塗布し、熱処理を行い安定化させた後に一方向にラビング処理が施されている。図1及び図2において、矢印はそれぞれの基板面上に塗布されたポリイミド配向膜に対するラビング方向を示している。
【0035】
ラビング処理を行った場合には、一般にラビング方向に対して液晶分子の長軸方向が基板面からプレティルト角と呼ばれる数度以下程度の小さな角度傾いた配向状態となることが知られている。したがって、対向する基板上の配向膜に対するラビングの方向を図1及び図2に示したようにそれぞれ逆向きとなるように処理した場合には、図中の液晶層31、32、33において棒状の記号により液晶分子の配向方向を模擬して示しているが、液晶分子は基板面にプレティルト角傾いた配向状態となっている。
【0036】
円形孔電極を有する液晶レンズにおいて、液晶層が1層の場合には液晶層のラビング方向の断面において円形孔領域の中心軸の両側で液晶分子が電界の効果により基板面から回転して立ち上がる方向がプレティルト角の効果により完全に同一とはならず、光学特性に収差が生じることが知られている。
【0037】
液晶層を2層とし、液晶分子配向の方向が互いに逆になるようにすることで、ラビングによる分子配向処理に基づくプレティルト角の効果により生じる収差を抑制することができる。しかし、液晶層を2層以上有する液晶レンズにおいて、プレティルト角に基づく分子配向の異方性の大きさが各液晶層において同一ではなく、たとえば円形孔22−1を有する第2の電極22から最も遠い第1の液晶層31では小さく、第2の電極22に近くなるほど強くなることが実験により明らかにされている。したがって、液晶層を2層有する液晶レンズにおいて、各々の液晶セル基板面における分子配向の方向すなわちラビング方向を逆にすることで液晶分子配向の異方性に基づく収差を十分に相殺することはできず、液晶分子配向の異方性に基づく収差の相殺効果は不十分なものとなる。
【0038】
液晶層が3層の場合には、各基板面におけるラビングの方向に基づく液晶分子の配向方向の組み合わせを考慮することで、分子配向の異方性に基づく収差の相殺効果をより効果的にすることが可能となる。すなわち、液晶セル1及び液晶セル3における各基板に対するラビング処理の方向と、液晶セル2における基板のラビング処理の方向を、図1及び図2にそれぞれの基板面上の配向膜に対するラビング方向を矢印で示したように、ラビング処理が液晶セル1及び液晶セル3と液晶セル2とで逆方向になるように各々の基板を重ね合わせた。その結果、電界により液晶分子が基板面から回転する方向が液晶セル1及び液晶セル3では同じ方向であるが、液晶セル2では逆方向となる。
【0039】
液晶セル2は円形孔22−1に最も近い位置にあるので、液晶セル1及び液晶セル3の場合と比べて液晶セル2の方が円形孔により生じる軸対称の不均一電界の基板面に対する傾きの角度が大きくなるため、液晶分子配向の異方性が大きく、実効的に液晶セル1及び液晶セル3に生じる液晶分子配向の異方性に基づく収差と液晶セル2における液晶分子配向の異方性に基づく収差が互いに打ち消され相殺されることになり、収差が非常に小さい液晶レンズを構成することができる。すなわち、液晶層を3層とすることで液晶分子配向の異方性に基づく収差の相殺効果がより効果的に生じるため、収差が非常に小さく優れた液晶レンズ特性を示す素子が構成される。
【0040】
前記の液晶分子の配向処理としてのラビングの方向は、液晶セルの2枚の基板面において互いに逆方向になるように行っているが、液晶分子配向の方向に対応するラビングの方向を同一の液晶セルにおいて同じ方向にした液晶素子を構成することもできる。電圧印加の方法によっては、このような配向処理を行った方が良好な特性が得られることがある。なお、この場合においても、円形孔を有する電極側に近い液晶セル2と液晶セル1及び液晶セル3における配向方向を逆向きにして配置することで、同様の収差の相殺を行うことができる。
【0041】
円形孔22−1の直径を2mm、第1、第2及び第3の液晶層31、32,33の厚みを20μmとし、液晶材料としてZLI6080(メルク社製)を使用して作製した液晶レンズでは、第1の電圧及び第2の電圧をそれぞれ印加することで、図3に示したように凸レンズに対応する位相差分布特性[A]、及び凹レンズに対応する位相差分布特性[B]が得られた。焦点距離の逆数に対応するレンズパワーと各印加電圧の関係は、図4に示すように連続的なレンズパワーの変化が得られている。凸レンズ側で7〜8ジオプトリ(1/m)、凹レンズ側で約6ジオプトリ(1/m)のレンズパワーの可変効果が得られた。
【0042】
次に、この液晶層を3層有する液晶レンズの波面収差特性を図5に示す。液晶層が1層の場合の波面収差は、液晶レンズのパワーが正の最大値となる印加電圧付近において0.09λ(λは波長:405nm)程度であったが、液晶層を2層とした場合には、波面収差は0.06λ程度まで改善されるが、液晶層を3層とし、且つラビングの方向を適切に行うことにより、図5から波面収差が0.016λ以下となっており、さらに収差が小さい良好な光学特性を示す液晶レンズを実現することができた。
【0043】
次に、他の実施例について具体的に説明する。図2に示したように、第4の基板14の第2の電極に円形孔22−1(例えば直径2mm)を形成し、前記第4の基板14の上に絶縁層50として間隙部を設け、間隙部を隔てて透明な第3の電極23’を有する第6の基板16を配置した。絶縁層50に相当する間隙部の厚みは40μmとした。第3の電極に前記第1の電極と第2の電極との間に加える電圧とは独立した第2の電圧を加えることで、図3〜図5に示した液晶レンズの特性とほぼ同様の焦点距離の広範囲にわたって連続的な可変効果や収差特性等を得ることができた。
【0044】
図1及び図2に示した構成の液晶レンズでは、ラビング方向に対応する液晶分子の配向方向に偏光した入射光にのみレンズ効果が生じ、液晶分子の配向方向と直交した偏光の入射光に対してはレンズ効果が生じないという問題点がある。そこで、あらゆる偏光成分を有する自然光に対応できる液晶レンズを構成するためには、同一の特性を有する2組の液晶レンズを用いて、液晶分子の配向方向が互いに直交するように重ね合わせて使用することが必要とされる。
【0045】
液晶層が偶数層の場合には、対を成す液晶層毎に液晶分子の配向方向が直交するような構成とすることで自然光対応の液晶レンズを構成することができるが、図1及び図2の構造では液晶層が3層、すなわち奇数であるため、対を成す液晶層における液晶分子の配向方向を直交させることで自然光対応の液晶レンズを構成することはできない。自然光対応の液晶レンズを構成するためには、同一の特性を有する液晶レンズを2組用いてそれぞれの液晶レンズにおける分子配向すなわちラビングの方向が直交するように重ね合わせる必要がある。
【0046】
そこで、自然光対応の液晶レンズを構成することが可能な偶数の液晶層を有する多層構造の液晶レンズに関わる他の実施例について説明する。
【0047】
図1に示した3層構造の液晶レンズに、液晶セル4を加えることで液晶層を1層多くした4層の液晶層を有する液晶レンズを作製した。その構造を図6[A],[B]に示す。
【0048】
図6(A)において、第1の液晶層31、第2の液晶層32、第3の液晶層33、及び第4の液晶層34の間を隔てる基板12,13,15としては、いずれも両面にポリイミド配向膜を塗布しラビングによる配向処理を行った70μm厚のガラス板を使用した。図1に示した第4の基板14及び第2の電極22、第3の電極23と同一の構造を有する基板の電極面と反対側の面と第4の液晶セルを構成する第5の基板を用いて液晶セル4を構成した。
【0049】
図6に示した液晶層を4層有する液晶レンズにおいて、液晶分子の配向方向を同一の方向とすることで、液晶層が3層である図1または図2に示した液晶レンズと比べて液晶レンズとしてのレンズパワーの可変範囲を4/3倍増加することができた。一方、各々の液晶層における分子配向の方向が互いに直交するように組み合わせることで、偏光方向に依存しない自然光対応の液晶レンズを構成することも可能である。
【0050】
本発明による手法を適用し、薄いガラス基板を用いて作製した液晶セルの基板をそれぞれ新しい基板として用いることで、液晶層を更に多くすることが可能となるため、より広範囲でレンズパワーを可変できる液晶レンズや、高速応答の液晶レンズ等を構成することが可能となる。
【0051】
液晶は可視光の波長領域のみならず、近赤外線の波長領域においても良好な透過特性を示し、かつ可視光の波長領域における値よりもわずかに小さいがほぼ同程度の複屈折特性を有しているので、近赤外光における光学素子としても利用することができる。
【0052】
図1及び図2では、液晶層に接する各基板面におけるラビングの方向が互いに逆になるようにして液晶セルを作製しているが、ラビングの方向が同一の方向となるようにして液晶セルを作製してもよい。ラビングの方向を適宜選択することで、電界印加時における液晶分子の配向状態や、液晶分子の配向状態の基づく液晶レンズの光学特性等を所定の特性に近くすることが可能となる。
【0053】
本発明の原理を利用することで、必要な工程数を少なくして液晶層を5層、6層、7層、・・・と更に多層にすることが可能となる。
【0054】
薄板ガラスは割れ易く取り扱いが難しいため、あらかじめ所定の厚みよりも厚いガラス基板を用いて各液晶セルを作製した後、ガラス基板をエッチングや研磨等の工程を経て所定の厚みまで薄くした後、各液晶セルを新しい基板として用いて多層構造の液晶レンズを作製することもできる。
【0055】
液晶セルを構成する各基板面にはポリイミド等の配向膜を塗布し、ラビング処理を行う必要があるが、各々の液晶セルを構成した後、次に重ね合わせる前に液晶層に接する面をラビングすることもできる。このようにすると、1枚の基板の両面をラビングするときに始めにラビングを行った面が次のラビング時に汚染されるという弊害を除去することができる。
【0056】
本発明の液晶レンズの製造方法によると、第1の液晶セル及び第2の液晶セルをそれぞれ液晶セルの基板として利用して第3の液晶セルを構成するため、各々の液晶セルに多数の液晶レンズを構成し、液晶を封入後に切断して個々の液晶レンズを得ることができるという製造工程数の減少が可能となり、製品の歩留まりの向上が可能となる。
【0057】
さらに、本発明により3層もしくは4層以上の液晶層を有する液晶レンズを製造することがきわめて容易となる。また、本発明により製造された液晶レンズは収差が非常に小さい優れた光学特性を有するという、格段の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明における液晶レンズの一実施の形態を示す構成説明図。
【図2】本発明における液晶レンズの他の実施の形態を示す構成説明図。
【図3】本発明に係わる液晶レンズ機能を説明するために、光波に対する位相遅れの分布が変化した例を示す説明図。
【図4】本発明に係わる液晶レンズ機能を説明するために、印加電圧に対するレンズパワー(1/m)が変化する様子を示す説明図。
【図5】本発明に係わる液晶レンズの機能を説明するために、液晶レンズの波面収差とレンズパワーの関係を示す説明図。
【図6】本発明における液晶レンズのまた他の実施の形態を示す構成説明図。
【符号の説明】
【0059】
11・・・第1の基板、12・・・第2の基板、13・・・第3の基板、14・・・第4の基板、15・・・第5の基板、16・・・第6の基板、21・・・第1の電極、22・・・第2の電極、22−1・・・円形孔、23・・・第3の電極、31・・・第1の液晶層、32・・・第2の液晶層、33・・・第3の液晶層、34・・・第4の液晶層、41、42、43、44・・・スペーサ、50・・・絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶分子を配向させた液晶層を少なくとも3層以上有し、前記液晶層に外部電界を加えて液晶分子の配向状態を変化させることで光学特性を可変制御する液晶レンズにおいて、電極を有する第1の基板と第2の基板からなる第1の液晶セルと、第3の基板と電極を有する第4の基板からなる第2の液晶セルを、前記第1の液晶セルの第2の基板側と第2の液晶セルの第3の基板側がそれぞれ内側になるように重ねて第2の基板と第3の基板それぞれを第3の液晶セルの基板として利用することで第3の液晶セルを構成することを特徴とする液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。
【請求項2】
第1の液晶セルにおける第1の基板の液晶層に接する側に第1の透明電極があり、第2の液晶セルにおける第4の基板の液晶層に接する側と反対側に開口部を有する第2の電極があることを特徴とする請求項1に記載の液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。
【請求項3】
第2の液晶セルにおける第4の基板の外部、または前記第4の基板の第2の電極における開口部に電気的に絶縁された透明な第3の電極を設けることを特徴とする請求項2に記載の液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。
【請求項4】
液晶分子を配向させた液晶層を少なくとも4層以上有し、前記液晶層に外部電界を加えて液晶分子の配向状態を変化させることで光学特性を可変制御する液晶レンズにおいて、電極を有する第1の基板と第2の基板からなる第1の液晶セルと、第3の基板と第5の基板からなる第2の液晶セルを、前記第1の液晶セルの第2の基板側と第2の液晶セルの第3の基板側がそれぞれ内側になるように重ねて第2の基板と第3の基板それぞれを第3の液晶セルの基板として利用することで第3の液晶セルを構成し、第2の液晶セルの前記第5の基板及び電極を有する第4の基板を用いて第4の液晶セルを構成することを特徴とする液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。
【請求項5】
第1の液晶セルにおける第1の基板の液晶層に接する側に第1の透明電極があり、第4の液晶セルにおける第4の基板の液晶層に接する側と反対側に開口部を有する第2の電極があることを特徴とする請求項4に記載の液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。
【請求項6】
第4の液晶セルにおける第4の基板の外部、または前記第4の基板の第2の電極における開口部に電気的に絶縁された透明な第3の電極を設けることを特徴とする請求項5に記載の液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。
【請求項7】
液晶レンズを構成する複数の液晶層の中で少なくとも一層の液晶層における液晶分子の配向方向が他の液晶層における液晶分子の配向方向と逆向きになるような配向処理が行われていることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、及び請求項6に記載の液晶レンズの製造方法及び液晶レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−107686(P2010−107686A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279076(P2008−279076)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】