説明

液晶性モノマー、液晶性オリゴマー、液晶性ポリマーおよびその製造方法

【課題】 ポリマー化する光照射の途中で、光照射中に液晶性を失わないようにするために、液晶モノマー及びそれを重合させたオリゴマー若しくはポリマー、その製造方法を提供する。
【解決手段】一般式


(式中、R又はR’は−(CH−,−(CHCHO)−,−(CH−C(=O)− <nは1〜20>で表わされるスペーサ分子のいずれかひとつであり、MGは、特定のメソゲンの基を表す。)で表わされる分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマー及びそれを重合させたオリゴマー若しくはポリマー、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性を示すモノマー及びそれを重合させた液晶性オリゴマー若しくは液晶性ポリマー及びその製造方法に関し、当該液晶性オリゴマー若しくは液晶性ポリマーには、液晶高分子フィルム、液晶高分子繊維、光学フィルター杜等に用いることが出来る。
【背景技術】
【0002】
液晶性モノマーの光重合を用いることにより、巨視的に配向した液晶構造をポリマー中に固定化することが可能である(非特許文献1)。これを利用して、実際に光学フィルターなどの材料が開発されている(非特許文献2)。
しかし、ここで使われている重合基は、ほとんどがアクリレート基かメタクリレート基であり、得られる液晶ポリマーは側鎖型の骨格を有している。側鎖型液晶ポリマーではメソゲンの配向方向と主鎖骨格の伸びる方向は必ずしも一致していない。それに対して、主鎖型液晶ポリマーではメソゲンの配向方向と主鎖の方向が一致しているので、もし、このような光照射により主鎖型の液晶ポリマーが得られれば、新たな性能・機能を有した材料への展開が期待できる。実際に、分子中に2つのケイ皮酸部位を有する液晶モノマーに光を照射することによりポリマーを合成することが試みられているが(非特許文献3及び4)、これらは光照射の途中で液晶相から等方相へ転移してしまい、また得られたポリマーも液晶性を示さない。つまりモノマーの液晶配向をポリマー中に固定化することには成功していない。これはケイ皮酸部位が光化学反応を起こすことにより形成するトルクシン酸構造の立体障害によって液晶性が阻害されているためである。また、光照射中に等方相になってしまうことにより、光化学反応自体の速度が遅くなり分子量も増加しない。
【非特許文献1】R.A.M. Hikmet and J. Lub, Prog.Polym. Sci., 21, 1165(1996).
【非特許文献2】伊藤洋士、御林慶司、高分子、53, 802 (2004).
【非特許文献3】T. Ikeda, etal., Liq. Cryst., 9, 457 (1991).
【非特許文献4】L. Oriol, etal., J. Photochem. Photobio. A,155, 37 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、新しい液晶性モノマー及びそれを重合させた主鎖型液晶性オリゴマー又は液晶性ポリマーを提供し、さらに液晶性オリゴマー又は液晶性ポリマーを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために本発明は、ポリマー化する光照射の途中で、光照射中に液晶性を失わないようにするために、液晶モノマー構造中で光化学反応を起こすケイ皮酸部位と液晶性に与るメソゲン部位を、スペーサ分子を介在させて、遠ざけた。また、トルクシン酸構造の立体障害を考慮して、メソゲンとして大きいもの(熱的に安定なもの)を導入した。このような条件を満たす液晶性モノマーの液晶相において、光照射を行ったところ実際に主鎖型の液晶性ポリマーが得られた。すなわち、本発明は、一般式
【化10】

(式中、R又はR’は式
【化11】

<nは1〜20>で表わされるスペーサ分子のいずれかひとつであり、MGは、
【化12】

で表わされるメソゲン分子のいずれかひとつである)で表わされる
分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマーである。
また、本発明は、当該液晶性モノマーを重合させた重合度4以下の液晶性オリゴマー若しくは重合度5以上の液晶性ポリマーである。
さらに、本発明は、当該液晶性モノマーを、光化学反応で重合を行う液晶体の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0005】
本発明の液晶性モノマーは従来にない化学構造を有し、液晶性を失うことなく光によって重合できる。また、本発明の液晶性オリゴマー若しくは液晶性ポリマーは、モノマーが液晶状態のまま、光照射することにより合成されるので、重合溶液は不要で、本発明では電場や磁場で容易に配向させることができるモノマーの配向状態をそのまま液晶ポリマーに固定化することができるという、従来の主鎖型サーモトロピック液晶ポリマー(液晶ポリエステル、液晶ポリアミドなど)にない特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマーにおいて、スペーサ分子R、R‘としては、一定の長さを有するものであれば何でも良いが、メチレン基、エチルエーテル基、メチレンカルボニル基が好ましく用いられる。
また、メソゲン分子MGとしては、周知のメソゲンを用いることが出来るが、
代表的には、
1,4-Bis(4-yloxybenzoyloxy)benzene
Bis(4-yloxyphenyl) terephthalate
4,4’’-Diyloxy-p-terphenyl
4-Yloxyphenyl 4’-yloxybiphenyl-4-carboxylate
4-Yloxypheny 6-yloxy-2-naphthoate
4,4’-Bis(4-yloxybenzoyloxy)biphenyl
Bis(4-yloxyphenyl) 4,4’-biphenyldicarboxylate
4’-Yloxybiphenyl 4’-yloxybiphenyl-4-carboxylate
等の化学構造式を挙げることが出来る。
実施例として示したのは、1,4-Bis(4-(6-cinnamoyloxyhexyloxy)benzoyloxy)benzeneであるが、これ以外にも、4,4’-Bis(4-(6-cinnamoyloxyhexyloxy)benzoyloxy)biphenylなどを初め種々の液晶性モノマーを合成することができる。
【0007】
本発明の分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマーを重合させた重合度4以下の液晶性オリゴマー若しくは重合度5以上の液晶性ポリマーは、光照射することにより合成される。光としては、紫外線が好ましく用いられる。典型的には、高圧水銀ランプより紫外線(5mW/cm2)を1〜5時間程度照射する。
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲンを有する液晶モノマーの製造プロセスを図1に示した。
(1.4-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)安息香酸(1)の合成)
200 mL3つ口フラスコに4-ヒドロキシ安息香酸エチル10.0 g(60.2 mmol)、6-クロロヘキサノール9.9 g(72.2 mmol)、炭酸カリウム16.6 g、およびジメチルホルムアミド50 mL加え、窒素雰囲気下、120℃で4時間撹拌した。冷却後、ロータリーエバポレーターでジメチルホルムアミドを減圧留去した。残留物をクロロホルム200 mLに溶かし、0.4 M水酸化ナトリウム水溶液ついで蒸留水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、クロロホルムを減圧留去した。残留物を水酸化カリウム8.0 g含むエタノール/水(1/1)混合溶媒200 mLに溶かし、3時間還流を行った。冷却後、反応溶液をジエチルエーテルで洗浄して過剰の6-クロロヘキサノールを除き、残りの水層に5%塩酸を加えて酸性にした。生じた沈殿をろ過により回収し、エタノールで再結晶することにより化合物(1)5.40 g(22.7 mmol、収率38%)を得た。
(2.4-(6-シンナモイルオキシヘキシルオキシ)安息香酸(2)の合成)
200 mL3つ口フラスコに化合物(1)4.0 g(16.8 mmol)、N,N-ジメチルアニリン2.3 mL、およびジオキサン40 mLを加え、60℃で撹拌した。ついで、その混合溶液にシンナモイルクロリド3.1 g(18.5 mmol)含むジオキサン10 mLを10分かけて滴下した。その後、その反応溶液を60℃で4時間つづいて80℃で2時間撹拌した。冷却後、反応溶液をジエチルエーテル150 mLに加え、蒸留水、5%塩酸の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、エバポレーターを用いて溶媒を減圧留去した。残留物をエタノールで再結晶することにより化合物(2)3.15 g(8.55 mmol、収率51%)を得た。
(3.1,4-ビス(4-(6-シンナモイルオキシヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ)ベンゼン(a)の合成)
100 mL3つ口フラスコに化合物(2)3.15 g(8.55 mmol)、ヒドロキノン0.47 g(4.27 mmol)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)0.16 g、およびテトラヒドロフラン40 mL加え、室温で撹拌した。ついで、この溶液に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩(EDC)1.80 g(9.41 mmol)を室温で5分かけて少しずつスパチュラーで加えた。その反応混合液をさらに室温で20時間撹拌後、塩化アンモニウム水溶液150 mLに注いだ。ついでその混合物にクロロホルムを1回につき50 mLを加え、3回抽出した。あわせたクロロホルム層を5%塩酸、0.4M水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過し、溶媒をエバポレーターにより減圧留去した。残留物をエタノール/トルエン混合溶媒で再結晶することにより化合物(a)(0.80 g、収率23%)を得た。
1,4-Bis(4-(6-cinnamoyloxyhexyloxy)benzoyloxy)benzene(a)を合成した。
化合物(a)の構造は1H NMR、IR、MSにより確認した。
1H NMR (CDCl3),δ 1.55 (m, 8H), 1.75-1.89 (m, 8H), 4.07 (t, 4H), 4.24 (t, 4H), 6.45 (d, 2H), 6.98 (d, 4H), 7.26 (s, 4H), 7.39 (m, 6H), 7.52 (m, 4H), 7.70 (d, 2H), 8,14 (d, 4H).
IR (KBr) 1725, 1703, 1637 cm-1.
MS (MALDI-TOFMS) m/z =Found (Calcd): 833.5 [M+Na]+ (833.9).
1,4-Bis(4-(6-cinnamoyloxyhexyloxy)benzoyloxy)benzene(a)は降温時115℃から83℃でネマチック液晶相を示した。
【実施例2】
【0009】
(実施例2)
実施例1で得た1,4-Bis(4-(6-cinnamoyloxyhexyloxy)benzoyloxy)benzene(a)の温度を、ホットステージを用いてネマチック液晶相温度範囲である110℃に温度を保ち、高圧水銀ランプより紫外線(5mW/cm2)を2時間照射した。紫外線照射後もaはネマチック相を示していることが分かった。
図2に紫外線照射前と照射後の偏光顕微鏡写真を示した。ネマチック相に特有のシュリーレンテクスチャーが観察された。紫外線照射後のサンプルを回収し、IR測定およびNMR測定を行い、それぞれ紫外線照射前と比較した。
図3にIRスペクトルを示した。紫外線を照射することにより、ビニル基の伸縮振動によるピークが小さくなっている。また、ケイ皮酸部位のカルボニルの伸縮振動のピークが高波数側にシフトしている。これは、aのケイ皮酸部位で光化学反応が進行していることを示唆している。
さらに図4にNMRスペクトルを示した。紫外線照射前にはなかったシクロブタン環に由来するピークが3.5 ppmと3.8 ppm付近に現れているのがわかる。以上の結果からaの液晶状態において紫外線を照射することによりケイ皮酸部位の光付加環化反応が進行していることがわかった。次に2時間紫外線照射後のaの分子量を測定するためにMALDI-TOFMS測定を行った。
その結果を図5に示した。モノマーが残っているものの、オリゴマーがNa付加イオン[M+Na+]として観測され、2量体から6量体まで(図5中に構造を示した)の生成が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の液晶性モノマーは従来にない化学構造を有し、液晶性を失うことなく光によって重合できるので、重合が簡単で、得られる液晶性オリゴマー若しくはポリマーは、液晶高分子フィルム、液晶高分子繊維、光学フィルター杜等に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液晶性モノマーaの構造式
【図2】aの光照射前と照射後の偏光顕微鏡写真
【図3】aの光照射前と照射後のIRスペクトル
【図4】aの光照射前と照射後のNMRスペクトル
【図5】aの光照射後のMALDI-TOFMSスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中、R又はR’は式
【化2】

<nは1〜20>で表わされるスペーサ分子のいずれかひとつであり、MGは、
【化3】

で表わされるメソゲン分子のいずれかひとつである)で表わされる
分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマー。
【請求項2】
一般式
【化4】

(式中、R又はR’は式
【化5】

<nは1〜20>で表わされるスペーサ分子のいずれかひとつであり、MGは、
【化6】

で表わされるメソゲン分子のいずれかひとつである)で表わされる
分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマーを重合させた重合度4以下の液晶性オリゴマー若しくは重合度5以上の液晶性ポリマー。
【請求項3】
一般式
【化7】

(式中、R又はR’は式
【化8】

<nは1〜20>で表わされるスペーサ分子のいずれかひとつであり、MGは、
【化9】

で表わされるメソゲン分子のいずれかひとつである)で表わされる
分子の両末端にケイ皮酸部位を有し、かつ中央にメソゲン分子を有する液晶性モノマーを、光化学反応で重合を行う液晶体の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−299100(P2006−299100A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123171(P2005−123171)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】