液晶温度センサー
【課題】液晶表示素子の近傍に配置して温度測定の精度を高め、新たに付加する部品を最小限に抑えて製造効率を高め、液晶表示素子と一体化した液晶温度センサーを提供する。
【解決手段】4個の画素を有し、これらの画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成し、2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されており、センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、2組の直列セットが配置され、それぞれの直列セットにおいて、2つの画素が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられた液晶温度センサー。
【解決手段】4個の画素を有し、これらの画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成し、2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されており、センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、2組の直列セットが配置され、それぞれの直列セットにおいて、2つの画素が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられた液晶温度センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子に組み込まれ、信号を電気的に読み取り可能な液晶温度センサーおよびこれを備えた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶材料は、表示素子の構成部材として多用される一方、温度を感知する目的にも用いられている。液晶材料により温度を感知する方法としては、例えば、コレステリック相のピッチ変化や液晶材料の光散乱を測温手段として用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1では、液晶材料を独立した測温手段として用いる構成が開示されているに過ぎなかった。
【0003】
一方、液晶表示素子のシステムの熱安定化を図るために、液晶の温度制御を行うヒーターおよび温度センサーが用いられることがある。このような構成の場合、液晶表示素子のシステムを理想的に動作させるためには、温度制御用の温度センサーを、液晶に可能な限り近付けて配置する必要がある。
このようにヒーターおよび温度センサーを備えた液晶表示素子のシステムとしては、例えば、液晶表示素子にヒーターおよび温度センサーを統合することにより、液晶の近傍に温度センサーを配置することを可能にした構成が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、スペーサー層を介して対向した二枚のガラス基板の縁部に、湿気の侵入を防止するための金属ガスケットを配置することにより、セルギャップ(液晶層の厚み)を正確に制御した液晶セルの製造方法において、対向した二枚のガラス基板の間に、ヒーターおよび温度センサーが配置された構成が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
これらの特許文献1〜3に開示されている発明は、液晶の近傍に温度センサーを配置することにより、精度の高い温度測定を可能にしているものの、温度センサーとして、液晶表示素子とは別体の素子を組み込まなければならないため、製造が煩雑になるという問題があった。
また、液晶材料の誘電率異方性の温度依存性に関する理論が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。この理論によれば、ネマチック相−等方性液体相転移において、誘電率異方性値が鋭い変化を示すことが開示されているが、この特性を具体的にどのような用途に応用することが有効であるかについては明らかではなかった。
【特許文献1】特表昭61−502212号公報
【特許文献2】米国特許第7324176号明細書
【特許文献3】米国特許第7355671号明細書
【非特許文献1】マイヤー(W.Maier)、メイヤー(G.Meier)、Z.Naturforsch、1961年、A16、p262.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、液晶表示素子の近傍に配置することにより温度測定の精度を高めるとともに、新たに付加する部品を最小限に抑えることにより製造効率を高め、かつ、液晶表示素子と一体化した液晶温度センサーおよびこれを備えた液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために、液晶の温度測定を、液晶表示素子に使用される液晶自体の物性値の測定よって行うことを検討した。
【0008】
液晶材料の誘電率異方性値は、温度によって変化することが知られており、マイヤーおよびメイヤーによって、下記の理論式(1)が開示されている。
【0009】
【数1】
【0010】
但し、上記の理論式(1)中、ε0は真空中の誘電率の値を表し、kBはボルツマン定数を表し、Tは絶対温度を表し、μは双極子モーメントを表し、βは全分子の双極子モーメントと分極率テンソルの長軸との間の角度を表し、Sは分子配列の秩序パラメータ(オーダーパラメータ)を表す。この分子配列の秩序パラメータSは、温度に依存し、温度の上昇に伴って0.43以上、0.8以下の範囲内で変化する。
また、Δαは、分極率異方性を表し、下記の式(2)より算出される。
【0011】
【数2】
【0012】
但し、上記の式(2)中、α‖は分子長軸の分極率を表し、α⊥は分子短軸の分極率を表す。
また、上記の理論式(1)中、Nは単位体積当たりの分子数を表し、下記の式(3)より算出される。
【0013】
【数3】
【0014】
但し、上記の式(3)中、NAはアボガドロ数を表し、Vmはモル体積を表し、下記の式(4)より算出される。
【0015】
【数4】
【0016】
但し、上記の式(4)中、ρはdensity assumed as a value of 1 g/cm3を表し、Mは分子量を表す。
また、上記の理論式(1)中、hは分極性球体における内部空洞場係数(the internal cavity field factor)を表し、下記の式(5)より算出される。
【0017】
【数5】
【0018】
但し、上記の式(5)中、εは誘電率を表す。
また、上記の理論式(1)中、Fは反応場係数(reaction field factor)を表し、下記の式(6)より算出される。
【0019】
【数6】
【0020】
但し、上記の式(6)中、αavは平均分極率を表し、下記の式(7)より算出される。
【0021】
【数7】
【0022】
但し、上記の式(7)中、α‖は分子長軸の分極率を表し、α⊥は分子短軸の分極率を表す。
また、上記の式(6)中、fは下記の式(8)より算出される。
【0023】
【数8】
【0024】
但し、上記の式(8)中、εは誘電率を表し、ε0は真空中の誘電率を表し、aは下記の式(9)を満たす。
【0025】
【数9】
【0026】
但し、上記の式(9)中、Nは単位体積当たりの分子数を表す。
【0027】
転移温度付近における液晶の挙動は、液晶の化学構造および組成物中の液晶分子の数に大きく依存する。すなわち、転移温度付近では、個々の液晶化合物のオーダーパラメータの変化によって、ネマチック相−等方性液体相転移における誘電率異方性値の変化が急峻であり、この転移温度は一定の値を示す。
一方、複数の液晶化合物を含む液晶組成物の場合、ネマチック相−等方性液体相転移は緩やかとなる。このような特性は、液晶自体の温度変化を誘電率異方性値の変化として取り出せる理論を示唆するものであるが、その具体的な方法は明らかではない。
【0028】
本発明者等は、前記の理論を液晶温度センサーとして実現するための具体的構成について検討を行い、温度センサーを別途設けることなく、液晶表示素子に用いられる液晶自体の物性値を測定することにより、液晶の温度測定を行う構成について検討し、本発明を完成するに至った。
【0029】
本発明は、少なくとも4個の画素を有する液晶温度センサーであって、前記画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、この2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成し、前記2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されており、前記センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、前記2組の直列セットが配置され、前記センサユニットを構成する2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられたことを特徴とする液晶温度センサーを提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の液晶温度センサーは、液晶表示素子に用いられる液晶自体の物性値を測定する温度センサーを構成することにより、液晶表示素子自体の温度測定を可能とし、表示用の液晶自体を用いるので、新たに付加する部品を最小限に抑えることができる。
また、本発明の液晶温度センサーは、液晶表示素子の液晶内部の温度を直接測定できるので、液晶表示素子の温度変化による表示の変化を制御する用途、外気温の変化を測定する用途などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の液晶温度センサーの最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0032】
(電気的構成)
本発明は、従来の液晶表示素子では、別途設けられていた温度センサーとは異なって、液晶表示素子と一体化された液晶を用いた液晶温度センサーを提供するものである。
この液晶温度センサーは、例えば、表面に電極が設けられた対向した一対の基板と、この一対の基板に挟持された液晶および4個の画素と、を備えたものである。
また、4個の画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、この2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成している。
また、2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されている。
また、センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、2組の直列セットが配置されている。
さらに、センサユニットを構成する2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素(水平配向された画素、垂直配向された画素)が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられている。
【0033】
図1は、本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す等価回路図である。
本発明の液晶温度センサーでは、入力信号としては、交流電圧または短パルスが用いられ、短パルスとしては単発のパルスが好適に用いられる。
そして、この液晶温度センサーは、上記の直列セットの両端に交流電圧または短パルスを印加するように構成されている。
【0034】
ここで、入力信号として短パルスを用いる場合について説明する。
入力信号の振幅が閾値電圧よりも小さい場合、パルスの持続時間は任意でよいが、入力信号の振幅が閾値電圧よりも大きい場合には、パルスの持続時間は入力パルス波スイッチング時間より短い必要がある。また、入力信号のパルス幅が短い(t<100秒)場合、応答パルス(出力信号)の振幅は、印加パルス(インプット信号)の振幅に比例する。
【0035】
本発明の液晶温度センサーは、温度がネマチック液晶の透明点より高い場合、出力電圧が0Vとなり、一方、温度がネマチック液晶の透明点より低い場合、出力電圧は単純に温度に比例する。
【0036】
次に、本発明の液晶温度センサーの電気的挙動について説明する。
本発明の液晶温度センサーでは、各画素の大きさが均しい場合、4つの画素の静電容量が均しい。
ここで、図1に示す等価回路において、例えば、水平配向された画素をC1およびC4とし、垂直配向された画素をC2およびC3とした場合、液晶温度センサーの電気的な応答は下記の式(10)により容易に算出できる。また、下記の式(10)から分かるように、出力電圧VOUTは、入力電圧VINに比例するとともに、画素の誘電率に依存する。
【0037】
【数10】
【0038】
但し、上記の式(10)中、ε‖は分子長軸の誘電率を表し、ε⊥は分子短軸の誘電率を表し、Δεは誘電率異方性値を表し、下記の式(11)より算出される。
【0039】
【数11】
【0040】
但し、上記の式(11)中、ε‖は分子長軸の誘電率を表し、ε⊥は分子短軸の誘電率を表す。
また、各画素の静電容量は、下記の式(12)、(13)により表され、水平配向された画素では、液晶分子の短軸方向の誘電率を示すため、下記の式(12)のような関係が成り立つ。
【0041】
【数12】
【0042】
また、垂直配向された画素では、液晶分子の長軸方向の誘電率を示すため、下記の式(13)のような関係が成り立つ。
【0043】
【数13】
【0044】
但し、上記の式(12)、(13)中、ε‖は分子長軸の誘電率を表し、ε⊥は分子短軸の誘電率を表し、dはセルギャップを表し、sは画素の電極面積を表す。
このように、各画素の静電容量は、温度に依存し、水平配向された画素と垂直配向された画素とは、温度変化による挙動が異なるので、温度変化を出力電圧の変化として取り出すことが可能となる。
【0045】
図1に示す構成の等価回路において、出力電圧は、ネマチック液晶の透明点より低い温度にて誘電率異方性値に比例し、一方、ネマチック液晶の透明点より高い温度にて理論的に0となる。この特性を利用することにより、本発明の液晶温度センサーは、温度測定用の素子として、以下の2つの構成例が挙げられる。
【0046】
(第一の例)
本発明の液晶温度センサーの第一の例は、2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に設けられた出力部から取り出した温度変化の差信号を、液晶の透明点以下の温度にて、前記液晶の誘電率異方性の温度変化に比例する出力信号の変化として取り出すようにした構成である。
【0047】
液晶温度センサーの第一の例では、連続的に温度を測定することが可能であり、出力電圧に比例した温度変化を、公知の表示方法を用いて温度変化として表示することができる。
この場合、温度変化の表示方法としては、電圧変化を直接表示する方法、電圧変化をA/Dコンバータ(アナログ−デジタル変換回路)によりデジタル変換した後、表示する方法などが用いられる。このデジタル変換された温度のデータは、液晶表示素子の温度制御を行うための数値として用いてもよい。
また、連続的に温度変化を測定する場合、使用する液晶組成物の透明点は高い方が好ましい。このようにすれば、より広い範囲において温度の測定が可能となり、特に、ネマチック相の下限温度は低い方が、より広い範囲において温度の測定が可能となる。
【0048】
(第二の例)
本発明の液晶温度センサーの第二の例は、2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に設けられた出力部から取り出した温度変化の差信号を信号処理することにより、液晶の透明点を閾値として、液晶の透明点以下の温度にて1をデジタル出力し、液晶の透明点を超える温度にて0をデジタル出力するようにした構成である。
【0049】
液晶温度センサーの第二の例では、連続的に温度を測定することはできないが、使用する液晶の透明点近傍の温度にて、鋭敏な温度変化を感知することが可能となる。この構成では、液晶の透明点を感度よく測定することが可能であり、液晶表示素子の温度制御を行う構成として有用である。
液晶の透明点は一定であるため、液晶温度センサーの第二の例は、論理回路における基準温度を提供できる。また、入力パルスのレベルに応じた選択を行うことにより、C−MOS、TTLなどの様々な種類の論理素子を用いることが可能である。また、液晶温度センサーの第二の例は、一般的なデジタル回路に用いる場合と同様に、高速またはテストパルスの継続時間が非常に短い場合においても動作する。
【0050】
ネマチック相−等方性液体相転移温度は、各液晶材料によって決まる。したがって、このような種々の液晶組成物を組み合わせた液晶温度センサーは、数種の組成物の温度転移によって決定される跳躍温度(leaper points)に関連する情報を与えることができる。
【0051】
(素子の構成)
図2は、本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す概略平面図である。
この実施形態の液晶温度センサー10は、2×2のマトリクス液晶素子であり、対向した一対の第一の基板11および第二の基板12と、これら第一の基板11と第二の基板12に挟持された液晶(図示略)および4個の画素21,22,23,24とから概略構成されている。
第一の基板11の一方の面11aには、2つの電極13,13が並列して設けられている。また、第二の基板12の一方の面には、2つの電極14,14が並列して設けられている。
【0052】
また、電極13,13と電極14,14が対向するように、第一の基板11と第二の基板12が対向して配置され、電極13,13と電極14,14が重なる位置において、4個の画素21,22,23,24が形成されている。
また、画素21の電極と画素22の電極が直列に接続されて第一の直列セット25を形成し、画素23の電極と画素24の電極が直列に接続されて第二の直列セット26を形成している。
さらに、第一の直列セット25と第二の直列セット26が並列に接続されて、第一の直列セット25と第二の直列セット26が、液晶温度センサーの基本構造である1個のセンサユニットを構成している。
【0053】
なお、画素21は上記の画素C1に相当し、画素22は上記の画素C2に相当し、画素23は上記の画素C3に相当し、画素24は上記の画素C4に相当する。
例えば、画素21が水平配向されている場合、画素22は垂直配向され、画素23は垂直配向され、画素24は水平配向されている。
すなわち、水平配向された画素21と水平配向された画素24とを結ぶ線と、垂直配向された画素22と垂直配向された画素23とを結ぶ線とが公差するように、第一の直列セット25と第二の直列セット26が配置されている。
【0054】
また、電極13,13の一端(電極14,14と重ならない側の端)は入力端13a,13aをなし、電極14,14の一端(電極13,13と重ならない側の端)は出力端14a,14aをなしている。
【0055】
画素21,22,23,24毎に異なる配向性を付与する方法としては、印刷法、光配向を用いる方法が好ましい。
印刷法としては、水平配向用配向膜上に、垂直配向膜を画素に合わせて印刷することが好ましく、具体的には、連続的に配置された水平配向用ポリイミド膜上に、垂直配向用ポリイミド膜を印刷する技術を用いることが好ましい。
光配向を用いる方法としては、マスクによりパターン化した光を照射する方法が好ましい。
【0056】
液晶材料としては、液晶表示素子に使用するものが用いられる。
また、液晶温度センサーを構成する画素としては、液晶表示素子用の画素を用いることもできるが、液晶表示素子用の画素とは別に画素を設けてもよい。
なお、大型の液晶表示素子は、数百万個の画素を有することが多いため、液晶温度センサーを構成する4つの画素を増加しても製造コストはほとんど増加しない。
【0057】
本発明の液晶温度センサーを内蔵した液晶表示素子は、液晶の温度を簡便に計測できるため、液晶表示素子の内部温度を制御して表示素子の表示品位を制御する用途などに有用であり、屋外で使用する液晶表示素子の表面または内部温度の測定などにも使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
図2に示した2×2のマトリクスからなる液晶温度センサーを作製した。
水平配向された画素としては、ポリイミドPIA3744(LIXON(登録商標)、チッソ社製)を用い、垂直配向された画素としては、垂直配向用ポリイミドJALS−2021(JSR社製)を用いた。
以下のような工程を経て、配向膜が設けられたガラス基板を作製した。
長手方向に沿ってラビング処理が施されたガラス基板の一方の面の全面に、ポリイミドPIA3744をスピンコートし、このガラス基板を100℃にて5分間乾燥した。
その後、ガラス基板の一方の面における所定の領域にのみ、選択的に垂直配向用ポリイミドJALS−2021を印刷し、このガラス基板を180℃にて1時間焼成して配向膜を形成し、その一方の面に配向膜が設けられたガラス基板を作製した。
このようにして作製された配向膜付きのガラス基板を二枚用い、この二枚のガラス基板を、厚みが5μmのスペーサーを介して対向させた。
次いで、対向させた二枚のガラス基板の間に液晶組成物を充填し、充填した液晶組成物が異なる三種類の液晶温度センサーを作製した。
液晶組成物としては、5CB、E7およびMLC5700−000(全てMerck社製)を用いた。これらの液晶組成物は、それぞれ異なったネマチック相−等方性液体相転移温度を有する。
【0060】
(実施例1、2および3)
作製した液晶温度センサーについて、図1に示すような等価回路にて、一定振幅を有する入力信号を印加した場合の出力電圧の温度依存性を測定した。
液晶組成物として5CBを用いた場合を実施例1、液晶組成物としてE7を用いた場合を実施例2、液晶組成物としてMLC5700−000を用いた場合を実施例3とした。
三種類の液晶温度センサーの出力電圧(応答信号)の温度依存性を測定した結果を図3に示す。
図3の結果から明らかなように、液晶組成物として5CBを用いた実施例1の場合、20〜30℃の範囲にて温度変化に比例した出力信号を得ることができた。
また、液晶組成物としてE7を用いた実施例2の場合、20〜50℃の範囲にて温度変化に比例した出力信号を得ることができた。
また、液晶組成物としてMLC5700−000を用いた実施例3の場合、20〜80℃の広い範囲にて温度変化に比例した出力信号を得ることができた。
【0061】
(実施例4、5および6)
作製した液晶温度センサーに対して、論理回路を付加した。
晶組成物として5CBを用いた場合を実施例4、液晶組成物としてE7を用いた場合を実施例5、液晶組成物としてMLC5700−000を用いた場合を実施例6とした。
これらの液晶温度センサーについて、応答信号の変化を論理回路で処理した。その結果を表1に示す。
なお、この場合の論理回路の閾値は、図3に示す通りである。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から、ネマチック相−等方性液体相転移温度は、実施例4〜6のいずれの液晶温度センサーを用いた場合においても明確に決定することができることが分かった。また、実施例4〜6の液晶温度センサーは、温度に対して非常に敏感な反応を示すことから、論理回路に対しての基準温度として使用が可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す等価回路図である。
【図2】本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す概略平面図である。
【図3】本発明の実施例1〜3において、液晶温度センサーの出力電圧の温度依存性を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10 液晶温度センサー
11 第一の基板
12 第二の基板
13 電極
14 電極
21 画素
22 画素
23 画素
24 画素
25 第一の直列セット
26 第二の直列セット
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子に組み込まれ、信号を電気的に読み取り可能な液晶温度センサーおよびこれを備えた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶材料は、表示素子の構成部材として多用される一方、温度を感知する目的にも用いられている。液晶材料により温度を感知する方法としては、例えば、コレステリック相のピッチ変化や液晶材料の光散乱を測温手段として用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、特許文献1では、液晶材料を独立した測温手段として用いる構成が開示されているに過ぎなかった。
【0003】
一方、液晶表示素子のシステムの熱安定化を図るために、液晶の温度制御を行うヒーターおよび温度センサーが用いられることがある。このような構成の場合、液晶表示素子のシステムを理想的に動作させるためには、温度制御用の温度センサーを、液晶に可能な限り近付けて配置する必要がある。
このようにヒーターおよび温度センサーを備えた液晶表示素子のシステムとしては、例えば、液晶表示素子にヒーターおよび温度センサーを統合することにより、液晶の近傍に温度センサーを配置することを可能にした構成が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、スペーサー層を介して対向した二枚のガラス基板の縁部に、湿気の侵入を防止するための金属ガスケットを配置することにより、セルギャップ(液晶層の厚み)を正確に制御した液晶セルの製造方法において、対向した二枚のガラス基板の間に、ヒーターおよび温度センサーが配置された構成が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
これらの特許文献1〜3に開示されている発明は、液晶の近傍に温度センサーを配置することにより、精度の高い温度測定を可能にしているものの、温度センサーとして、液晶表示素子とは別体の素子を組み込まなければならないため、製造が煩雑になるという問題があった。
また、液晶材料の誘電率異方性の温度依存性に関する理論が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。この理論によれば、ネマチック相−等方性液体相転移において、誘電率異方性値が鋭い変化を示すことが開示されているが、この特性を具体的にどのような用途に応用することが有効であるかについては明らかではなかった。
【特許文献1】特表昭61−502212号公報
【特許文献2】米国特許第7324176号明細書
【特許文献3】米国特許第7355671号明細書
【非特許文献1】マイヤー(W.Maier)、メイヤー(G.Meier)、Z.Naturforsch、1961年、A16、p262.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、液晶表示素子の近傍に配置することにより温度測定の精度を高めるとともに、新たに付加する部品を最小限に抑えることにより製造効率を高め、かつ、液晶表示素子と一体化した液晶温度センサーおよびこれを備えた液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために、液晶の温度測定を、液晶表示素子に使用される液晶自体の物性値の測定よって行うことを検討した。
【0008】
液晶材料の誘電率異方性値は、温度によって変化することが知られており、マイヤーおよびメイヤーによって、下記の理論式(1)が開示されている。
【0009】
【数1】
【0010】
但し、上記の理論式(1)中、ε0は真空中の誘電率の値を表し、kBはボルツマン定数を表し、Tは絶対温度を表し、μは双極子モーメントを表し、βは全分子の双極子モーメントと分極率テンソルの長軸との間の角度を表し、Sは分子配列の秩序パラメータ(オーダーパラメータ)を表す。この分子配列の秩序パラメータSは、温度に依存し、温度の上昇に伴って0.43以上、0.8以下の範囲内で変化する。
また、Δαは、分極率異方性を表し、下記の式(2)より算出される。
【0011】
【数2】
【0012】
但し、上記の式(2)中、α‖は分子長軸の分極率を表し、α⊥は分子短軸の分極率を表す。
また、上記の理論式(1)中、Nは単位体積当たりの分子数を表し、下記の式(3)より算出される。
【0013】
【数3】
【0014】
但し、上記の式(3)中、NAはアボガドロ数を表し、Vmはモル体積を表し、下記の式(4)より算出される。
【0015】
【数4】
【0016】
但し、上記の式(4)中、ρはdensity assumed as a value of 1 g/cm3を表し、Mは分子量を表す。
また、上記の理論式(1)中、hは分極性球体における内部空洞場係数(the internal cavity field factor)を表し、下記の式(5)より算出される。
【0017】
【数5】
【0018】
但し、上記の式(5)中、εは誘電率を表す。
また、上記の理論式(1)中、Fは反応場係数(reaction field factor)を表し、下記の式(6)より算出される。
【0019】
【数6】
【0020】
但し、上記の式(6)中、αavは平均分極率を表し、下記の式(7)より算出される。
【0021】
【数7】
【0022】
但し、上記の式(7)中、α‖は分子長軸の分極率を表し、α⊥は分子短軸の分極率を表す。
また、上記の式(6)中、fは下記の式(8)より算出される。
【0023】
【数8】
【0024】
但し、上記の式(8)中、εは誘電率を表し、ε0は真空中の誘電率を表し、aは下記の式(9)を満たす。
【0025】
【数9】
【0026】
但し、上記の式(9)中、Nは単位体積当たりの分子数を表す。
【0027】
転移温度付近における液晶の挙動は、液晶の化学構造および組成物中の液晶分子の数に大きく依存する。すなわち、転移温度付近では、個々の液晶化合物のオーダーパラメータの変化によって、ネマチック相−等方性液体相転移における誘電率異方性値の変化が急峻であり、この転移温度は一定の値を示す。
一方、複数の液晶化合物を含む液晶組成物の場合、ネマチック相−等方性液体相転移は緩やかとなる。このような特性は、液晶自体の温度変化を誘電率異方性値の変化として取り出せる理論を示唆するものであるが、その具体的な方法は明らかではない。
【0028】
本発明者等は、前記の理論を液晶温度センサーとして実現するための具体的構成について検討を行い、温度センサーを別途設けることなく、液晶表示素子に用いられる液晶自体の物性値を測定することにより、液晶の温度測定を行う構成について検討し、本発明を完成するに至った。
【0029】
本発明は、少なくとも4個の画素を有する液晶温度センサーであって、前記画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、この2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成し、前記2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されており、前記センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、前記2組の直列セットが配置され、前記センサユニットを構成する2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられたことを特徴とする液晶温度センサーを提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の液晶温度センサーは、液晶表示素子に用いられる液晶自体の物性値を測定する温度センサーを構成することにより、液晶表示素子自体の温度測定を可能とし、表示用の液晶自体を用いるので、新たに付加する部品を最小限に抑えることができる。
また、本発明の液晶温度センサーは、液晶表示素子の液晶内部の温度を直接測定できるので、液晶表示素子の温度変化による表示の変化を制御する用途、外気温の変化を測定する用途などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の液晶温度センサーの最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0032】
(電気的構成)
本発明は、従来の液晶表示素子では、別途設けられていた温度センサーとは異なって、液晶表示素子と一体化された液晶を用いた液晶温度センサーを提供するものである。
この液晶温度センサーは、例えば、表面に電極が設けられた対向した一対の基板と、この一対の基板に挟持された液晶および4個の画素と、を備えたものである。
また、4個の画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、この2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成している。
また、2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されている。
また、センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、2組の直列セットが配置されている。
さらに、センサユニットを構成する2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素(水平配向された画素、垂直配向された画素)が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられている。
【0033】
図1は、本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す等価回路図である。
本発明の液晶温度センサーでは、入力信号としては、交流電圧または短パルスが用いられ、短パルスとしては単発のパルスが好適に用いられる。
そして、この液晶温度センサーは、上記の直列セットの両端に交流電圧または短パルスを印加するように構成されている。
【0034】
ここで、入力信号として短パルスを用いる場合について説明する。
入力信号の振幅が閾値電圧よりも小さい場合、パルスの持続時間は任意でよいが、入力信号の振幅が閾値電圧よりも大きい場合には、パルスの持続時間は入力パルス波スイッチング時間より短い必要がある。また、入力信号のパルス幅が短い(t<100秒)場合、応答パルス(出力信号)の振幅は、印加パルス(インプット信号)の振幅に比例する。
【0035】
本発明の液晶温度センサーは、温度がネマチック液晶の透明点より高い場合、出力電圧が0Vとなり、一方、温度がネマチック液晶の透明点より低い場合、出力電圧は単純に温度に比例する。
【0036】
次に、本発明の液晶温度センサーの電気的挙動について説明する。
本発明の液晶温度センサーでは、各画素の大きさが均しい場合、4つの画素の静電容量が均しい。
ここで、図1に示す等価回路において、例えば、水平配向された画素をC1およびC4とし、垂直配向された画素をC2およびC3とした場合、液晶温度センサーの電気的な応答は下記の式(10)により容易に算出できる。また、下記の式(10)から分かるように、出力電圧VOUTは、入力電圧VINに比例するとともに、画素の誘電率に依存する。
【0037】
【数10】
【0038】
但し、上記の式(10)中、ε‖は分子長軸の誘電率を表し、ε⊥は分子短軸の誘電率を表し、Δεは誘電率異方性値を表し、下記の式(11)より算出される。
【0039】
【数11】
【0040】
但し、上記の式(11)中、ε‖は分子長軸の誘電率を表し、ε⊥は分子短軸の誘電率を表す。
また、各画素の静電容量は、下記の式(12)、(13)により表され、水平配向された画素では、液晶分子の短軸方向の誘電率を示すため、下記の式(12)のような関係が成り立つ。
【0041】
【数12】
【0042】
また、垂直配向された画素では、液晶分子の長軸方向の誘電率を示すため、下記の式(13)のような関係が成り立つ。
【0043】
【数13】
【0044】
但し、上記の式(12)、(13)中、ε‖は分子長軸の誘電率を表し、ε⊥は分子短軸の誘電率を表し、dはセルギャップを表し、sは画素の電極面積を表す。
このように、各画素の静電容量は、温度に依存し、水平配向された画素と垂直配向された画素とは、温度変化による挙動が異なるので、温度変化を出力電圧の変化として取り出すことが可能となる。
【0045】
図1に示す構成の等価回路において、出力電圧は、ネマチック液晶の透明点より低い温度にて誘電率異方性値に比例し、一方、ネマチック液晶の透明点より高い温度にて理論的に0となる。この特性を利用することにより、本発明の液晶温度センサーは、温度測定用の素子として、以下の2つの構成例が挙げられる。
【0046】
(第一の例)
本発明の液晶温度センサーの第一の例は、2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に設けられた出力部から取り出した温度変化の差信号を、液晶の透明点以下の温度にて、前記液晶の誘電率異方性の温度変化に比例する出力信号の変化として取り出すようにした構成である。
【0047】
液晶温度センサーの第一の例では、連続的に温度を測定することが可能であり、出力電圧に比例した温度変化を、公知の表示方法を用いて温度変化として表示することができる。
この場合、温度変化の表示方法としては、電圧変化を直接表示する方法、電圧変化をA/Dコンバータ(アナログ−デジタル変換回路)によりデジタル変換した後、表示する方法などが用いられる。このデジタル変換された温度のデータは、液晶表示素子の温度制御を行うための数値として用いてもよい。
また、連続的に温度変化を測定する場合、使用する液晶組成物の透明点は高い方が好ましい。このようにすれば、より広い範囲において温度の測定が可能となり、特に、ネマチック相の下限温度は低い方が、より広い範囲において温度の測定が可能となる。
【0048】
(第二の例)
本発明の液晶温度センサーの第二の例は、2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に設けられた出力部から取り出した温度変化の差信号を信号処理することにより、液晶の透明点を閾値として、液晶の透明点以下の温度にて1をデジタル出力し、液晶の透明点を超える温度にて0をデジタル出力するようにした構成である。
【0049】
液晶温度センサーの第二の例では、連続的に温度を測定することはできないが、使用する液晶の透明点近傍の温度にて、鋭敏な温度変化を感知することが可能となる。この構成では、液晶の透明点を感度よく測定することが可能であり、液晶表示素子の温度制御を行う構成として有用である。
液晶の透明点は一定であるため、液晶温度センサーの第二の例は、論理回路における基準温度を提供できる。また、入力パルスのレベルに応じた選択を行うことにより、C−MOS、TTLなどの様々な種類の論理素子を用いることが可能である。また、液晶温度センサーの第二の例は、一般的なデジタル回路に用いる場合と同様に、高速またはテストパルスの継続時間が非常に短い場合においても動作する。
【0050】
ネマチック相−等方性液体相転移温度は、各液晶材料によって決まる。したがって、このような種々の液晶組成物を組み合わせた液晶温度センサーは、数種の組成物の温度転移によって決定される跳躍温度(leaper points)に関連する情報を与えることができる。
【0051】
(素子の構成)
図2は、本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す概略平面図である。
この実施形態の液晶温度センサー10は、2×2のマトリクス液晶素子であり、対向した一対の第一の基板11および第二の基板12と、これら第一の基板11と第二の基板12に挟持された液晶(図示略)および4個の画素21,22,23,24とから概略構成されている。
第一の基板11の一方の面11aには、2つの電極13,13が並列して設けられている。また、第二の基板12の一方の面には、2つの電極14,14が並列して設けられている。
【0052】
また、電極13,13と電極14,14が対向するように、第一の基板11と第二の基板12が対向して配置され、電極13,13と電極14,14が重なる位置において、4個の画素21,22,23,24が形成されている。
また、画素21の電極と画素22の電極が直列に接続されて第一の直列セット25を形成し、画素23の電極と画素24の電極が直列に接続されて第二の直列セット26を形成している。
さらに、第一の直列セット25と第二の直列セット26が並列に接続されて、第一の直列セット25と第二の直列セット26が、液晶温度センサーの基本構造である1個のセンサユニットを構成している。
【0053】
なお、画素21は上記の画素C1に相当し、画素22は上記の画素C2に相当し、画素23は上記の画素C3に相当し、画素24は上記の画素C4に相当する。
例えば、画素21が水平配向されている場合、画素22は垂直配向され、画素23は垂直配向され、画素24は水平配向されている。
すなわち、水平配向された画素21と水平配向された画素24とを結ぶ線と、垂直配向された画素22と垂直配向された画素23とを結ぶ線とが公差するように、第一の直列セット25と第二の直列セット26が配置されている。
【0054】
また、電極13,13の一端(電極14,14と重ならない側の端)は入力端13a,13aをなし、電極14,14の一端(電極13,13と重ならない側の端)は出力端14a,14aをなしている。
【0055】
画素21,22,23,24毎に異なる配向性を付与する方法としては、印刷法、光配向を用いる方法が好ましい。
印刷法としては、水平配向用配向膜上に、垂直配向膜を画素に合わせて印刷することが好ましく、具体的には、連続的に配置された水平配向用ポリイミド膜上に、垂直配向用ポリイミド膜を印刷する技術を用いることが好ましい。
光配向を用いる方法としては、マスクによりパターン化した光を照射する方法が好ましい。
【0056】
液晶材料としては、液晶表示素子に使用するものが用いられる。
また、液晶温度センサーを構成する画素としては、液晶表示素子用の画素を用いることもできるが、液晶表示素子用の画素とは別に画素を設けてもよい。
なお、大型の液晶表示素子は、数百万個の画素を有することが多いため、液晶温度センサーを構成する4つの画素を増加しても製造コストはほとんど増加しない。
【0057】
本発明の液晶温度センサーを内蔵した液晶表示素子は、液晶の温度を簡便に計測できるため、液晶表示素子の内部温度を制御して表示素子の表示品位を制御する用途などに有用であり、屋外で使用する液晶表示素子の表面または内部温度の測定などにも使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
図2に示した2×2のマトリクスからなる液晶温度センサーを作製した。
水平配向された画素としては、ポリイミドPIA3744(LIXON(登録商標)、チッソ社製)を用い、垂直配向された画素としては、垂直配向用ポリイミドJALS−2021(JSR社製)を用いた。
以下のような工程を経て、配向膜が設けられたガラス基板を作製した。
長手方向に沿ってラビング処理が施されたガラス基板の一方の面の全面に、ポリイミドPIA3744をスピンコートし、このガラス基板を100℃にて5分間乾燥した。
その後、ガラス基板の一方の面における所定の領域にのみ、選択的に垂直配向用ポリイミドJALS−2021を印刷し、このガラス基板を180℃にて1時間焼成して配向膜を形成し、その一方の面に配向膜が設けられたガラス基板を作製した。
このようにして作製された配向膜付きのガラス基板を二枚用い、この二枚のガラス基板を、厚みが5μmのスペーサーを介して対向させた。
次いで、対向させた二枚のガラス基板の間に液晶組成物を充填し、充填した液晶組成物が異なる三種類の液晶温度センサーを作製した。
液晶組成物としては、5CB、E7およびMLC5700−000(全てMerck社製)を用いた。これらの液晶組成物は、それぞれ異なったネマチック相−等方性液体相転移温度を有する。
【0060】
(実施例1、2および3)
作製した液晶温度センサーについて、図1に示すような等価回路にて、一定振幅を有する入力信号を印加した場合の出力電圧の温度依存性を測定した。
液晶組成物として5CBを用いた場合を実施例1、液晶組成物としてE7を用いた場合を実施例2、液晶組成物としてMLC5700−000を用いた場合を実施例3とした。
三種類の液晶温度センサーの出力電圧(応答信号)の温度依存性を測定した結果を図3に示す。
図3の結果から明らかなように、液晶組成物として5CBを用いた実施例1の場合、20〜30℃の範囲にて温度変化に比例した出力信号を得ることができた。
また、液晶組成物としてE7を用いた実施例2の場合、20〜50℃の範囲にて温度変化に比例した出力信号を得ることができた。
また、液晶組成物としてMLC5700−000を用いた実施例3の場合、20〜80℃の広い範囲にて温度変化に比例した出力信号を得ることができた。
【0061】
(実施例4、5および6)
作製した液晶温度センサーに対して、論理回路を付加した。
晶組成物として5CBを用いた場合を実施例4、液晶組成物としてE7を用いた場合を実施例5、液晶組成物としてMLC5700−000を用いた場合を実施例6とした。
これらの液晶温度センサーについて、応答信号の変化を論理回路で処理した。その結果を表1に示す。
なお、この場合の論理回路の閾値は、図3に示す通りである。
【0062】
【表1】
【0063】
表1の結果から、ネマチック相−等方性液体相転移温度は、実施例4〜6のいずれの液晶温度センサーを用いた場合においても明確に決定することができることが分かった。また、実施例4〜6の液晶温度センサーは、温度に対して非常に敏感な反応を示すことから、論理回路に対しての基準温度として使用が可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す等価回路図である。
【図2】本発明の液晶温度センサーの一実施形態を示す概略平面図である。
【図3】本発明の実施例1〜3において、液晶温度センサーの出力電圧の温度依存性を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
10 液晶温度センサー
11 第一の基板
12 第二の基板
13 電極
14 電極
21 画素
22 画素
23 画素
24 画素
25 第一の直列セット
26 第二の直列セット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4個の画素を有する液晶温度センサーであって、
前記画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、この2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成し、
前記2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されており、
前記センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、前記2組の直列セットが配置され、
前記センサユニットを構成する2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられたことを特徴とする液晶温度センサー。
【請求項2】
前記水平配向された画素および前記垂直配向された画素は光配向膜からなる請求項1に記載の液晶温度センサー。
【請求項3】
前記直列セットの両端に交流電圧を印加するようにした請求項1に記載の液晶温度センサー。
【請求項4】
前記直列セットの両端に短パルスを印加するようにした請求項1に記載の液晶温度センサー。
【請求項5】
前記2組の直列セットのそれぞれにおける2つの画素が直列接続された中点から取り出した温度変化の差信号が、前記液晶の透明点以下の温度にて、前記液晶の誘電率異方性の温度変化に比例する出力信号である請求項3または4に記載の液晶温度センサー。
【請求項6】
前記2組の直列セットのそれぞれにおける2つの画素が直列接続された中点から取り出した温度変化の差信号を信号処理することにより、前記液晶の透明点以下の温度にて1をデジタル出力し、前記液晶の透明点を超える温度にて0をデジタル出力するようにした請求項3または4に記載の液晶温度センサー。
【請求項7】
液晶ディスプレイ内部の温度測定に用いられる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液晶温度センサー。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の液晶温度センサーを内蔵した液晶表示素子。
【請求項1】
少なくとも4個の画素を有する液晶温度センサーであって、
前記画素のうち2個の画素の電極が直列に接続されて2組の直列セットが形成され、この2組の直列セットが並列に接続されて1個のセンサユニットを構成し、
前記2組の直列セットのそれぞれにおいて、一方の画素が水平配向され、他方の画素が垂直配向されており、
前記センサユニットにおいて、一方の直列セットの水平配向された画素と他方の直列セットの水平配向された画素を結ぶ線と、一方の直列セットの垂直配向された画素と他方の直列セットの垂直配向された画素を結ぶ線とが交差するように、前記2組の直列セットが配置され、
前記センサユニットを構成する2組の直列セットのそれぞれにおいて、2つの画素が直列接続された中点に温度変化の差信号を取り出す出力部が設けられたことを特徴とする液晶温度センサー。
【請求項2】
前記水平配向された画素および前記垂直配向された画素は光配向膜からなる請求項1に記載の液晶温度センサー。
【請求項3】
前記直列セットの両端に交流電圧を印加するようにした請求項1に記載の液晶温度センサー。
【請求項4】
前記直列セットの両端に短パルスを印加するようにした請求項1に記載の液晶温度センサー。
【請求項5】
前記2組の直列セットのそれぞれにおける2つの画素が直列接続された中点から取り出した温度変化の差信号が、前記液晶の透明点以下の温度にて、前記液晶の誘電率異方性の温度変化に比例する出力信号である請求項3または4に記載の液晶温度センサー。
【請求項6】
前記2組の直列セットのそれぞれにおける2つの画素が直列接続された中点から取り出した温度変化の差信号を信号処理することにより、前記液晶の透明点以下の温度にて1をデジタル出力し、前記液晶の透明点を超える温度にて0をデジタル出力するようにした請求項3または4に記載の液晶温度センサー。
【請求項7】
液晶ディスプレイ内部の温度測定に用いられる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液晶温度センサー。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の液晶温度センサーを内蔵した液晶表示素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−91940(P2010−91940A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263988(P2008−263988)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(500540958)香港科技大学 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(500540958)香港科技大学 (8)
【Fターム(参考)】
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