説明

液晶素子

【課題】簡単な構成で温度上昇による液晶層の厚さ変動を抑えた液晶素子を実現する。
【解決手段】第1の透明基板11Aと、第1の透明電極12Aと、液晶層13と、第2の透明電極12Bと、第2の透明基板11Bとをこの順序に配設された液晶素子であって、液晶層13は、線膨張係数が1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下に構成した。ここで、液晶層13としては、側鎖型高分子液晶で形成してもよい。また、表面を含む第1の透明基板11Aと液晶層13との間の平面、および表面を含む第2の透明基板11Aと液晶層13との間の平面に、反射ミラーを設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印加電圧の大きさに応じて入射光に対する液晶の実質的屈折率またはリタデーション値を変化させることにより、出射光を制御できる液晶素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、液晶素子には低分子液晶が用いられており、この低分子液晶は、その熱膨張率が概ね7×10−4/℃から8×10−4/℃と、固体材料に比べ10倍以上大きい。その結果、従来の液晶素子では温度の変化に対して液晶層の厚みが変動することがわかっている。例えば、入射光の大半を反射し一部を透過する一対の反射ミラー間に液晶層が狭持された液晶エタロン構造とし、液晶層に電圧を印加することにより液晶層の実質的屈折率を変化させて反射ミラー間の光路長(共振器長)を変えることにより、透過光の波長を可変とする波長可変フィルタが提案されている。
【0003】
このような波長可変フィルタは、種々の外部環境下で使用され、周囲温度が上昇すると液晶が熱膨張により変形し、一対の反射ミラー間の共振器長が長くなる。その結果、透過波長である共振波長が周囲温度に応じて変化し、印加電圧に応じた所望波長の光信号をピックアップできなくなる問題があった。
【0004】
そこで、前記した問題を解決するために、液晶エタロン構造の波長可変フィルタを含む装置を気密室内に封入し、この内部雰囲気に対して温度制御および圧力制御を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、液晶素子の両端にクランプ部材を連結させ、このクランプ部材で液晶層の厚さ変動を抑制することにより、反射ミラー間の距離の変動を抑制する対策が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−287427号公報
【特許文献2】特開2000−10080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前者の技術では、気密室内の温度および圧力を一定に維持するための制御装置を設置する必要があって装置が大掛かりかつ複雑になり、また後者の技術においても液晶素子以外のクランプ材が必要であることから、装置の複雑化を招くこととなり、いずれにしてもコスト高となる。
【0007】
そこで、本発明は、前記した問題点を解決するためになされたものであり、簡単な構成で温度上昇による光透過方向の熱膨張を抑えることができる液晶素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の透明基板と、第1の透明電極と、液晶層と、第2の透明電極と、第2の透明基板とをこの順序に配設させて構成された液晶素子であって、前記液晶層は、液晶性モノマーの初期配向が、前記第1の透明基板および前記第2の透明基板に対する液晶分子の配向とのなす角度であるチルト角の変化に対して、異常光偏光の屈折率変化の割合が最大となるチルト角に揃うようにした状態で重合固化された高分子液晶からなり、前記高分子液晶は、線膨張係数が1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下であり、印加電圧の大きさに応じて実質的な屈折率またはリタデーション値が変化することを特徴とする液晶素子を提供する。ここで、前記液晶層は、前記液晶性モノマーの初期配向が45°のチルト角に揃うようにした状態で重合固化された高分子液晶から構成することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、線膨張率が1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下の液晶を用いることにより、液晶層の厚さ変動を抑えた液晶素子を得ることができる。
【0010】
また、本発明の液晶素子は、液晶層が側鎖型高分子液晶からなる上記液晶素子を提供する。
【0011】
この構成によれば、側鎖型高分子液晶を用いることにより、液晶層の厚さ変動を抑えた液晶素子を得ることができる。
【0012】
また、本発明の液晶素子は、その表面を含む第1の透明基板と液晶層との間の平面およびその表面を含む第2の透明基板と液晶層との間の平面に、反射ミラーが形成されている上記の液晶素子を提供する。
【0013】
この構成によれば、液晶エタロン構造の波長可変フィルタにおいて線膨張率が1×10−5/℃以上かつ7×10−4/℃以下の液晶を用いることで、反射ミラー間の距離の変動を抑制し透過ピーク波長の温度変化に対する変動を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、線膨張率が1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下の液晶を用いることにより、液晶層の厚さ変動を抑えた液晶素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る液晶素子の第1実施形態の構成例を示す側面図。
【図2】本発明に係る液晶素子における液晶の屈折率と線膨張率の相対的な大小関係を示す説明図。
【図3】本発明に係る液晶素子の第2実施形態の構成例を示す側面図。
【図4】本発明に係る液晶素子の第3実施形態および第1実施例の構成例を示す側面図。
【図5】本発明の液晶を用いた予察実験用の評価素子を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液晶素子の構成例を示す側面図である。本実施形態の液晶素子10は、第1の透明基板11Aと、第1の透明電極12Aと、液晶層13と、第2の透明電極12Bと、第2の透明基板11Bとをこの順序に配設させた構成であって、液晶層13の線膨張係数は、1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下を満たすものが使用されている。
【0017】
第1の透明基板11Aおよび第2の透明基板11Bは、液晶層13と対向する表面とは反対側の表面(外部に臨む面)に、必要に応じて反射防止膜(図示せず)を形成している。なお、この透明基板11Aおよび11Bとしては、例えばガラス基板、アクリルやポリカーボネートなどの有機材料基板、水晶やLiNbOなどの無機結晶からなる無機材料基板などが使用できる。
【0018】
透明電極12Aおよび12Bとしては、InにSnOが添加されたITOなどの酸化物膜や、Au、Alなどの金属膜を用いることができる。ITO膜を用いる方が金属膜に比べ、透過性が高く、機械的耐久性が優れているため好ましい。
【0019】
ところで、本発明者による各種実験や研究などにより、液晶層での光路長またはリタデーション値の変動は、液晶層の厚さと液晶の屈折率との(2つの要素の)温度変動に起因するとの知見が得られている。
このうち、液晶の屈折率については、その温度変動が−5×10−4/℃程度であるため、適度な液晶層の膨張による厚さの変化により屈折率の温度変動を打ち消すことができるとの知見も得られている。
一方、液晶層の厚さについては、従来の液晶素子で用いられる低分子液晶での線膨張係数が概ね7×10−4/℃から8×10−4/℃であるため、線膨張係数が7×10−4/℃以上の液晶では、前述した液晶の屈折率との関係から(図2参照)、液晶層での光路長またはリタデーション値の変動を抑えることができない。
また、線膨張係数が1×10−5/℃以下の高分子液晶でも、前述した液晶の屈折率との関係から(図2参照)、液晶層での光路長またはリタデーション値の変動を抑えることができない。しかも、この線膨張係数が1×10−5/℃以下の液晶は、主鎖型高分子液晶であることが多く、印加電圧に対する実質的屈折率変化が極めて小さいため、印加電圧により光路長またはリタデーション値を制御するという機能を有する液晶素子としての使用には適さない。
【0020】
このような事情から、大部分の低分子液晶や高分子液晶を使用すると、温度の変動により、液晶素子としての適正な使用ができなくなるおそれがあった。
そこで、特に本発明の液晶層13には、図2に示すように、線膨張係数が1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下を満たす液晶が使用されている。
【0021】
なお、本発明では、線膨張係数が7×10−4/℃以下で、印加電圧に対する実質的屈折率変化が大きな液晶として、側鎖型高分子液晶を用いることが好ましいが、特にこれには限定されず、電圧印加に伴い実質的な屈折率またはリタデーション値を変化させる液晶であればよい。
【0022】
また、液晶層13を所定の厚さに保持するために、公知のスペーサ(図示せず)がシール材14A、14Bに混入して用いられている。
【0023】
従って、液晶層13の厚さと液晶の屈折率とに温度変動が発生しても、本実施形態の液晶素子10によれば、交流電源15を用いて液晶層13に電圧を印加することにより、液晶素子10での透過波長を確実に可変制御できる。
【0024】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図3を参照しながら説明する。なお、図3において、図1に示す第1の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
【0025】
図3は、本発明の第2実施形態の液晶素子である液晶エタロン型の波長可変フィルタの構成例を示す側面図である。本実施形態の液晶素子20では、第1の透明基板11Aおよび第2の透明基板11Bにおいてそれぞれ液晶層13側の表面に、反射ミラー21Aおよび21Bが形成されていること以外は、図1に示す第1の実施形態のものと同じ構成である。
【0026】
ここで、反射ミラー21Aおよび21Bとは、使用波長帯域である例えば1470〜1630nm(1.470〜1.630μm)からなる入射光に対して80%以上の反射率を有し、一部の光が透過するようゼロでない透過率を有するものである。この反射ミラー21Aおよび21Bとしては、例えば金属の薄膜や、高屈折率誘電体膜と低屈折率誘電体膜を交互に波長オーダの光学膜厚程度で積層した誘電体多層膜などが使用できる。特に、膜構成により分光反射率を制御でき、また光吸収が少ないため、誘電体多層膜が好ましく用いられる。誘電体多層膜を構成する高屈折率誘電体としてはTa、TiO、Nb、Siなどが用いられ、低屈折率誘電体多層膜としてはSiO、MgF、Alなどが用いられる。
【0027】
なお、反射ミラー21Aおよび21Bとして、例えばSiとSiOを交互に積層した誘電体多層膜の場合、不純物元素をドープしてSi膜層に導電性を付与することにより透明電極としても機能する。また、AuやAgなどの金属を薄膜化して用いることにより、光吸収は大きいが反射ミラーと電極の両方に機能を発現できる。この場合、第1の透明電極12Aおよび第2の透明電極12Bを形成しなくてもよい。
【0028】
従って、このように構成することにより、図1の構成例と同様の効果により、反射ミラー21Aおよび21B間の距離の変動は抑制され、環境温度が変動しても、液晶の熱膨張に起因する透過波長の変動は抑制されるので、信頼度の高い波長可変フィルタが実現できる。
【0029】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、図4を参照しながら説明する。なお、図4において、図1に示す第1の実施形態および図3に示す第2の実施形態と同一部分には、同一符号を付して重複説明を避ける。
【0030】
図4は、本発明の第3実施形態の液晶素子である液晶エタロン型の波長可変フィルタの構成例を示す側面図である。本実施形態の液晶素子30では、反射ミラー21Bの透明基板11Bを設置している面と反対の外面(図4では上面)に固体透明層31が形成されていること以外は、図3に示す第2の実施形態のものと同じ構成である。
【0031】
従って、本実施形態によれば、固体透明層31が形成されているので、透過光ピークの半値幅を小さくできるといった効果が得られる。
【0032】
なお、本発明における液晶素子は、以下の製造方法によって作製できる。
例えば、この液晶素子は、配向手段を有する透明基板上に光重合可能な液晶性モノマーを塗布するか、あるいは少なくとも一方が配向手段を有する2枚の透明基板間に光重合可能な液晶性モノマーを介在させ、配向した状態のまま光照射により重合させて得ることができる。
【0033】
また、配向手段としては、透明基板表面またはその上に形成されたポリイミド膜を布等でラビングしたものや、あるいは透明基板表面へのSiOを斜方蒸着したものを用いれば達成できる。また、このような配向処理を施した基板を用いる代わりに、液晶素子外部から電場又は磁場を印加して液晶分子の有する誘電率異方性または磁化率異方性を利用して液晶の配向をそろえることができる。これらの配向手段は単独で用いても、また組み合わせて用いてもよい。その中でも、基板表面を布等でラビング処理をした基板を用いる方法は、その簡便性から好ましい。
【0034】
また、液晶基板面と液晶分子の配向とのなす角度であるチルト角の変化に対して、異常光偏光の屈折率変化の割合が最大となるのはチルト角45°である。したがって、電場または磁場を印加して、液晶性モノマーの初期配向がチルト角45°に揃うようにした状態で光照射して重合固化し、高分子液晶の配向を固定することにより、比較的低電圧で大きな実質的な屈折率変化が得られる。その結果、低駆動電圧で透過波長可変範囲の広い波長可変フィルタが得られる。
【0035】
なお、前述したように、液晶層の液晶としては、線膨張係数が7×10−4/℃以下で、印加電圧に対する実質的屈折率変化が大きな側鎖型高分子液晶を用いることが好ましいが、特にこれには限定されず、電圧印加に伴い実質的な屈折率またはリタデーション値を変化させる液晶であればよい。
このように構成することにより、液晶の熱膨張による液晶層13の光路長およびリタデーション値の変動は抑制される。
【実施例1】
【0036】
次に、第1実施例である液晶エタロン型の波長可変フィルタ(第3の実施形態)について、構造を模式的に示した図4の側面図を用いて説明する。
【0037】
初めに、この液晶エタロン型の波長可変フィルタの製造方法について説明する。
(i)第1および第2の透明基板である石英ガラス基板11Aおよび11B上に、第1の反射ミラー21Aおよび第2の反射ミラー21Bとして誘電体多層膜を形成する。
(ii)次に、反射ミラー21B面上に厚さ40μmの石英ガラス基板を固体透明層31として貼り合わせる。
(iii)次に、反射ミラー21A面上および固体透明層31面上に、ITOの第1の透明電極12Aおよび第2の透明電極12Bを形成し、第1の透明電極12Aおよび第2の透明電極12B上に、液晶用配向膜(図示せず)を形成し、それぞれ、対向する面内の液晶分子の配向方向が平行となるよう配向処理を施す。
(iv)次に、液晶用配向膜(図示せず)およびITO膜の第2の透明電極12Bが設けられた固体透明層31上に、スペーサ(図示せず)をシール材14Aおよび14Bと混ぜ合わせた接着剤で、シールパターン層を形成し、液晶用配向膜(図示せず)およびITO膜の第1の透明電極12Aが設けられた石英ガラス基板11Aを貼り合わせる。
(v)その後、配向膜(図示せず)間に液晶を充填し、光照射によって重合を行い高分子の液晶層13を形成する。
【0038】
本実施例においては、高分子の液晶層13の高分子液晶を構成する光重合可能な液晶性モノマーとして、例えば6−(4−(4−シアノフェニル)フェニルオキシ)ヘキシルアクリレート、3−(4−(4−シアノフェニル)フェニルオキシ)プロピルアクリレート、4−(4−(2−(4−シアノフェニル)エチニル)フェニルオキシ)ブチルアクリレートを0.6:0.2:0.2の割合で使用した。これらのモノマー組成物は光重合により側鎖型高分子液晶となるが、メソゲン基と高分子主鎖をつなぐアルキル鎖が長いため、側鎖型高分子液晶の中でも電気に対する応答性がよい。
【0039】
ここで、高分子液晶の線膨張係数については、以下の方法で図5に示す評価用素子40を作製し測定した。
即ち、厚さ50μmのシール材で接着された25×25mmの2枚のガラス基板11A、11Bに、上記液晶性モノマーを介在させた。このとき、ガラス基板11A、11B中心部に空気層41が存在するように、介在させる液晶性モノマーの量を調節した。光照射によって液晶性モノマーを重合させ、基板間に高分子の液晶層13を得た。次に、シール材部分を切断し、ガラス基板11A、11B間には高分子の液晶層13と空気層41のみが存在するようにした。このとき、ガラス基板11A、11B間の空気層41は、高分子の液晶層13で密閉せず外部空間と自由に接するようにした。
【0040】
次に、このようにして作成した(液晶層13に高分子の液晶を用いた)本発明の評価用素子40に対して、1550nm波長帯域で広い発光スペクトルを持つ広帯域光源からの光を空気層41に入射させ、その出射光を光スペクトルアナライザーで観測して線膨張係数を調べる予察実験を行った。このとき、評価用素子40の温度は、30℃から40℃まで変化させた。
【0041】
この評価用素子40において、出射光はガラス表面での多重反射と干渉によりエタロン効果として現れ、その透過波長は光路長に依存する。ここで、この評価用素子40においてガラス基板11A、11B間の距離を決めているのは液晶層13の厚さである。したがって、温度変化よって液晶層13の厚さが変化すると、ガラス基板11A、11B間の距離が変わるため光路長が変化し、これに伴って透過波長がシフトする。これにより、透過波長のシフト量から、液晶の線膨張係数を計算できる。
その結果、上記した本発明の評価用素子40Aの組成の側鎖型高分子液晶は、線膨張係数が4×10−4/℃であり、従来の低分子液晶に比べて半分であることが判明した。
【0042】
そこで、この実験結果に基づき、さらに、図4の構成において、従来の低分子液晶及び本発明の高分子液晶を用いて、透過波長の温度変化に対する変動量を調べる比較実験を行った。
すると、図4の構成において、従来の低分子液晶を用いた場合、透過波長の温度変化に対する変動量は250pm/℃程度であった。ここで、透過波長の温度変化に対する変動は、反射ミラー21Aと21Bとの間の光路長の変動、すなわち、液晶層13の厚さと液晶の屈折率の温度変動に起因する。このうち液晶層13の厚さの変動に起因する透過波長の変動量は350pm/℃であり、液晶の屈折率変化に起因する透過波長の変動量は−100pm/℃であった。
【0043】
一方、図4に示す構成において、本発明の高分子液晶を用いた場合、すなわち線膨張係数が4×10−4/℃の高分子液晶を用いると、液晶の熱膨張による液晶層13の厚さ変動の寄与は160pm/℃と考えられる。また、液晶の屈折率変化に起因する透過波長の変動量は−100pm/℃であるから、透過波長の温度変化に対する変動量は60pm/℃程度となる。
【0044】
従って、本発明の高分子液晶を用いた液晶素子は、液晶の熱膨張により反射ミラー21Aおよび21B間の距離の変動が、従来の低分子液晶を用いたときの変動量250pm/℃に比べて大幅に抑制されるため、温度の変動に左右されることがない良好な波長可変特性を得られることが確認された。
これにより、信頼度の高い波長可変フィルタが実現できる。
【0045】
しかも、このような液晶エタロンは、液晶層13として高分子液晶を用いるだけでよく、波長可変フィルタに使用した場合でも、装置の大型化および複雑化を回避でき、大きなコスト高を招くことはない。
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の液晶素子は、簡単な構成で温度上昇による光透過方向の熱膨張を小さくできる効果を有し、印加電圧の大きさに応じて入射光に対する液晶の実質的屈折率またはリタデーション値を変化させることにより、出射光を制御できる液晶素子等に有用である。
【符号の説明】
【0047】
10、20、30:液晶素子(液晶エタロン型の波長可変フィルタ)
11A、11B:透明基板
12A、12B:透明電極
13:液晶層
14A、14B:シール材
15:矩形波交流電源
21A、21B:反射ミラー
31:固体透明層
40:評価素子
41:空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透明基板と、第1の透明電極と、液晶層と、第2の透明電極と、第2の透明基板とをこの順序に配設させて構成された液晶素子であって、
前記液晶層は、液晶性モノマーの初期配向が、前記第1の透明基板および前記第2の透明基板に対する液晶分子の配向とのなす角度であるチルト角の変化に対して、異常光偏光の屈折率変化の割合が最大となるチルト角に揃うようにした状態で重合固化された高分子液晶からなり、
前記高分子液晶は、線膨張係数が1×10−5/℃以上、かつ7×10−4/℃以下であり、印加電圧の大きさに応じて実質的な屈折率またはリタデーション値が変化することを特徴とする液晶素子。
【請求項2】
前記液晶層は、前記液晶性モノマーの初期配向が45°のチルト角に揃うようにした状態で重合固化された高分子液晶からなる請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記液晶層は、側鎖型高分子液晶からなる請求項1または2記載の液晶素子。
【請求項4】
表面を含む前記第1の透明基板と前記液晶層との間の平面、および前記表面を含む前記第2の透明基板と前記液晶層との間の平面に、反射ミラーが形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−231247(P2010−231247A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164484(P2010−164484)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【分割の表示】特願2003−307131(P2003−307131)の分割
【原出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】