説明

液晶組成物および液晶表示素子

【課題】負の誘電率異方性を有する液晶組成物を提供する。
【解決手段】実質的に式(1)〜(4)の化合物のみからなる液晶組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてAM(active matrix)素子に適する液晶組成物およびこの組成物を含有するAM素子に関する。特に、誘電率異方性が負の液晶組成物に関し、この組成物を含有するIPS(in-plane switching)モードまたはVA(vertical alignment)モードの素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子において、液晶の動作モードに基づいた分類は、PC(phase change)、TN(twisted nematic)、STN(super twisted nematic)、ECB(electrically controlled birefringence)、OCB(optically compensated bend)、IPS(in-plane switching)、VA(vertical alignment)などである。素子の駆動方式に基づいた分類は、PM(passive matrix)とAM(active matrix)である。PMはスタティック(static)とマルチプレックス(multiplex)などに分類され、AMはTFT(thin film transistor)、MIM(metal insulator metal)などに分類される。TFTの分類は非晶質シリコン(amorphous silicon)、多結晶シリコン(polycrystal silicon)、および連続粒界結晶シリコン(continuous grain silicon)である。多結晶シリコンは製造工程によって高温型と低温型とに分類される。光源に基づいた分類は、自然光を利用する反射型、バックライトを利用する透過型、そして自然光とバックライトの両方を利用する半透過型である。
【0003】
これらの素子は適切な特性を有する液晶組成物を含有する。良好な一般的特性を有するAM素子を得るには組成物の一般的特性を向上させる。2つの一般的特性における関連を下記の表1にまとめる。組成物の一般的特性を市販されているAM素子に基づいてさらに説明する。ネマチック相の温度範囲は、素子の使用できる温度範囲に関連する。ネマチック相の好ましい上限温度は70℃以上であり、そしてネマチック相の好ましい下限温度は−20℃以下である。組成物の粘度は素子の応答時間に関連する。素子で動画を表示するためには短い応答時間が好ましい。したがって、組成物における小さな粘度が好ましい。低い温度における小さな粘度はより好ましい。
【0004】

【0005】
組成物の光学異方性は、素子のコントラスト比に関連する。VAモード、IPSモードなどを有する素子は電気的に制御された複屈折(electrically controlled birefringence)を利用する。そこで、VAモード、IPSモードなどを有する素子におけるコントラスト比を最大にするために、組成物の光学異方性(Δn)と素子のセルギャップ(d)との積(Δn・d)を一定の値に設計する。この値の例は0.30〜0.35μm(VAモード)または0.20〜0.30μm(IPSモード)である。セルギャップ(d)は通常3〜6μmであるので、組成物における光学異方性は主に0.05〜0.11の範囲である。組成物の大きな誘電率異方性は素子の小さな駆動電圧に寄与する。したがって、大きな誘電率異方性が好ましい。組成物における大きな比抵抗は、素子における大きな電圧保持率と大きなコントラスト比に寄与する。したがって、初期段階において室温だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。長時間使用したあと、室温だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。また、素子を製造する際に紫外線を使用するので、紫外線を照射した後でも、室温だけでなく高い温度でも大きな比抵抗を有する組成物が好ましい。
【0006】
TNモードを有するAM素子においては正の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。一方、VAモードを有するAM素子においては負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。IPSモードを有するAM素子においては正または負の誘電率異方性を有する組成物が用いられる。負の誘電率異方性を有する液晶組成物の例は次の特許文献に開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−176167号公報
【特許文献2】特開2000−96055号公報
【特許文献3】特開2001−354967号公報
【特許文献4】特開2003−13065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、例えば、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、誘電率異方性の小さな周波数依存性、しきい値電圧の小さな温度依存性、大きな比抵抗などの特性において、複数の特性を充足する液晶組成物を提供することにある。この目的は、例えば、複数の特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物を提供することでもある。この目的は、例えば、この組成物を含有し、大きな電圧保持率を有する液晶表示素子を提供することでもある。この目的は、例えば、−30℃以下のネマチック相下限温度、100℃以上のネマチック相上限温度、小さな粘度、0.05〜0.11の光学異方性および−6.5〜−2.0の誘電率異方性を有する組成物を含有し、そして、例えば、VAモード、IPSモードなどに適したAM素子を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、例えば、第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第四成分として式(4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、実質的に第一成分、第二成分、第三成分および第四成分のみからなる、負の誘電率異方性を有する液晶組成物である。さらに、この組成物を含有する液晶表示素子である。

ここで、Rはアルキルまたはアルケニルであり;Rはアルキルまたはアルコキシであり;Rはアルキルまたはアルコキシメチルであり;Rはアルキルであり;Aは1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;Aは1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは2−フルオロ−1,4−フェニレンであり;そしてZは単結合または−COO−である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、例えば、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、小さな粘度、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、誘電率異方性の小さな周波数依存性、しきい値電圧の小さな温度依存性、大きな比抵抗などの特性において、複数の特性を充足した。この組成物は、例えば、複数の特性に関して適切なバランスを有した。本発明の素子は、この組成物を含有する。例えば、−30℃以下のネマチック相下限温度、100℃以上のネマチック相上限温度、小さな粘度、0.05〜0.11の光学異方性および−6.5〜−2.0の誘電率異方性などの特性を有する組成物を含有する素子は、例えば、大きな電圧保持率を有し、そして、例えば、VAモード、IPSモードなどを有するAM素子に適した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。本発明の液晶組成物または本発明の液晶表示素子をそれぞれ「組成物」または「素子」と略すことがある。液晶表示素子は液晶表示パネルおよび液晶表示モジュールの総称である。液晶組成物の主成分は液晶性化合物である。この液晶性化合物は、25℃でネマチック相、25℃でスメクチック相などの液晶相を有する化合物および25℃で液晶相を有さないが組成物の成分として有用な化合物の総称である。式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1)」と略すことがある。その他の式についても同様である。
【0012】
「式(1)および式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」とは、式(1)で表される化合物の群のみから選択される場合、式(2)で表される化合物の群のみから選択される場合、式(1)と式(2)で表される化合物の群のそれぞれから選択される場合の3つの意味がある。その他の式についても同様である。
【0013】
「実質的に」とは、化合物(1)〜化合物(4)から選択された化合物のみから構成する組成物であり、この組成物には、添加物、不純物などをさらに含有してもよいことも意味する。この添加物は光学活性な化合物、色素などである。不純物は成分化合物の合成などの工程において混入した化合物などである。
【0014】
「第一成分の割合」とは、第一成分が1つの化合物である場合、その化合物の割合を意味する。第一成分が2つ以上の化合物である場合、第一成分を構成する化合物の合計の割合を意味する。その他の成分についても同様である。
【0015】
「第二成分が、式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物」とは、第二成分は式(2−2)だけから選択されることを意味し、そして、第二成分には、式(2−2)以外の化合物を成分としないことを意味する。その他の成分またはその他の式についても同様である。
【0016】
ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。「比抵抗が大きい」は、組成物が初期状態において室温から高温に至りに大きな比抵抗、長時間使用したあとでも室温から高温に至り大きな比抵抗、そして紫外線を照射した後でも室温から高温に至り大きな比抵抗を有することを意味する。「電圧保持率が大きい」は、素子が初期状態において室温から高温に至り大きな電圧保持率、長時間使用したあとでも室温から高温に至り大きな電圧保持率、そして紫外線を照射した後でも室温から高温に至り大きな電圧保持率を有することを意味する。
本発明に記載した内容において、組成物の光学異方性などの特性は、実施例に記載した方法で測定した値である。組成物における成分の割合(百分率)は、液晶性化合物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)である。
【0017】
本発明は下記の項のように記載される。
1. 第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第四成分として式(4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、実質的に第一成分、第二成分、第三成分および第四成分のみからなる、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、Rはアルキルまたはアルケニルであり;Rはアルキルまたはアルコキシであり;Rはアルキルまたはアルコキシメチルであり;Rはアルキルであり;Aは1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;Aは1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは2−フルオロ−1,4−フェニレンであり;そしてZは単結合または−COO−である。
【0018】
2. 液晶性化合物の全重量に基づいて、第一成分の割合が20〜50重量%の範囲であり、第二成分の割合が15〜40重量%の範囲であり、第三成分の割合が5〜35重量%の範囲であり、そして第四成分の割合が5〜30重量%の範囲である、項1に記載の液晶組成物。
【0019】
3. 第一成分として式(1−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2−1)および式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第三成分として式(3−1)〜式(3−3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第四成分として式(4−1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、実質的に第一成分、第二成分、第三成分および第四成分のみからなる、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、RおよびRは独立してアルキルであり;そしてRはアルケニルである。
【0020】
4. 第二成分が式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である、項3に記載の液晶組成物。
【0021】
5. 第二成分が式(2−1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である、項3に記載の液晶組成物。
【0022】
6. 液晶性化合物の全重量に基づいて、第一成分の割合が20〜50重量%の範囲であり、第二成分の割合が15〜40重量%の範囲であり、第三成分の割合が5〜35重量%の範囲であり、そして第四成分の割合が5〜30重量%の範囲である、項3〜5のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0023】
7. 酸化防止剤をさらに含有する、項1〜6のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0024】
8. 酸化防止剤が式(8)で表される化合物である、項7に記載の液晶組成物。

ここで、mは1〜9の整数である。
【0025】
9. 液晶組成物の全重量に基づいて、酸化防止剤の割合が50〜600ppmの範囲である、項7または8に記載の液晶組成物。
10. 項1〜9のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。
【0026】
本発明は下記の項でもよい。
11. 第一成分と第二成分のうち、どちらか一方のみを成分化合物とする1項記載の液晶組成物。
つまり、項11は、式(1)および式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および式(4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、実質的にこれらの化合物のみからなる、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、Rはアルキルまたはアルケニルであり;Rはアルキルまたはアルコキシであり;Rはアルキルまたはアルコキシメチルであり;Rはアルキルであり;Aは1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;Aは1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは2−フルオロ−1,4−フェニレンであり;そしてZは単結合または−COO−である。
【0027】
12. 液晶性化合物の全重量に基づいて、式(1)および式(2)で表される化合物の群の割合が35〜90重量%の範囲であり、式(3)で表される化合物の群の割合が5〜35重量%の範囲であり、そして式(4)で表される化合物の群の割合が5〜30重量%の範囲である、項1に記載の液晶組成物。
【0028】
13. 酸化防止剤をさらに含有する、項11〜12のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0029】
14.酸化防止剤が式(8)で表される化合物である、項13に記載の液晶組成物。

ここで、mは1〜9の整数である。
【0030】
15.液晶性化合物の全重量に基づいて、酸化防止剤の割合が50〜600ppmの範囲である、項13または14に記載の液晶組成物。
【0031】
16.項11〜15のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。
【0032】
本発明は、次の項も含む。1)光学異方性が0.05〜0.11の範囲である上記の組成物、2)ネマチック相の上限温度が100℃以上であり、そしてネマチック相の下限温度が−30℃以下である上記の組成物、3)光学活性な化合物をさらに含有する上記の組成物、4)上記の組成物を含有するAM素子、5)上記の組成物を含有し、そしてIPSまたはVAのモードを有する素子、6)上記の組成物を含有する透過型の素子、7)上記の組成物を含有する非結晶シリコンまたは多結晶シリコンTFT素子、8)上記の組成物をネマチック相を有する組成物としての使用、9)上記の組成物に光学活性な化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用。
【0033】
本発明の組成物を次の順で説明する。第一に、成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が組成物に及ぼす主要な効果を説明する。第二に、成分化合物の好ましい割合およびその根拠を説明する。第三に、成分化合物の好ましい形態を説明する。第四に、成分化合物の具体的な例を示す。第五に、成分化合物の合成法を説明する。最後に、組成物の用途を説明する。
【0034】
第一に、成分化合物の主要な特性、およびこの化合物が組成物に及ぼす主要な効果を説明する。成分化合物の主要な特性を本発明の目的に従って表2にまとめる。表2の記号において、Lは大きいまたは高い、Mは中程度の、Sは小さいまたは低いを意味する。0は誘電率異方性がほぼゼロである(または極めて小さい)ことを意味する。
【0035】

【0036】
この組成物の特徴は、化合物(1)〜化合物(4)を組み合わせた点にある。化合物(1)および化合物(2)は組成物の誘電率異方性を負に大きくする効果が大きい。化合物(3)は、組成物の粘度を小さくする効果が大きい。化合物(4)は、組成物の上限温度を上げる効果が大きい。表3に代表的な成分化合物の誘電率異方性をまとめる。表3から、素子を駆動させるための低いしきい値電圧は、主に化合物(1)および化合物(2)に依存していることが分かる。化合物の名称は表4の表記法に基づいて表した。
【0037】

【0038】
成分化合物が組成物に及ぼす主要な効果は次のとおりである。化合物(1)は、組成物のネマチック相の上限温度を下げ、誘電率異方性を負に大きくし、そして粘度を大きくする。化合物(2)は組成物のネマチック相の上限温度を上げ、誘電率異方性を負に大きくし、そして粘度を大きくする。化合物(3)は、組成物のネマチック相の上限温度を下げ、誘電率異方性を0に近づけ、そして粘度を小さくする。化合物(4)は、組成物のネマチック相の上限温度を特に上げ、そして誘電率異方性を0に近づける。
【0039】
化合物(1)は、化合物(1−1)〜化合物(1−4)を含む。化合物(1−2)および化合物(1−4)は、特に、組成物の誘電率異方性を負に大きくする。化合物(2)は、化合物(2−1)〜化合物(2−4)を含む。化合物(2−1)および化合物(2−3)は、組成物のネマチック相の下限温度を特に下げる。化合物(2−2)および化合物(2−4)は、組成物の誘電率異方性を負に特に大きくする。化合物(3)は化合物(3−1)〜化合物(3−5)を含む。化合物(3−1)は組成物の粘度を特に小さくする。化合物(3−2)は組成物のネマチック相の下限温度を特に下げる。化合物(3−3)は組成物のネマチック相の下限温度を下げると同時に粘度を小さくする。
化合物(4)は化合物(4−1)〜化合物(4−4)を含む。化合物(4−1)は、組成物の上限温度を上げると同時に、光学異方性を小さくする。
【0040】

【0041】

【0042】
第二に、成分である化合物の好ましい割合およびその理由を説明する。第一成分の好ましい割合は、誘電率異方性を負に大きくするために20重量%以上であり、上限温度を上げるために50重量%以下である。誘電率異方性をさらに負に大きくする、または上限温度をさらに上げるために、さらに好ましい割合は25〜40重量%である。
【0043】
第二成分の好ましい割合は、上限温度を上げるために15重量%以上であり、そして下限温度を低くするために40重量%以下である。上限温度をさらに上げる、下限温度をさらに下げるために、さらに好ましい割合は20〜35重量%である。
【0044】
第三成分の好ましい割合は、粘度を小さくするために5重量%以上であり、そして誘電率異方性を負に大きくするために35重量%以下である。粘度をさらに小さくする、または誘電率異方性をさらに負に大きくするために、さらに好ましい割合は15〜30重量%である。
【0045】
第四成分の好ましい割合は、上限温度を上げるために5重量%以上であり、そして下限温度を下げるために30重量%以下である。上限温度をさらに上げる、または下限温度をさらに下げるために、さらに好ましい割合は10〜25重量%である。
【0046】
第一成分と第二成分は、どちらか一方のみを成分化合物として使用することもできる。この場合の第一成分または第二成分の好ましい割合は、誘電率異方性を負に大きくするために35重量%以上であり、そして粘度を小さくするために90重量%以下である。誘電率異方性をさらに負に大きくする、または粘度をさらに小さくするために、さらに好ましい割合は45〜75重量%である。
【0047】
第三に、成分化合物の好ましい形態を説明する。成分化合物の化学式において、Rの記号を複数の化合物に用いた。これらの化合物において、Rの意味は同一であってもよいし、または異なってもよい。例えば、化合物(1)のRがエチルであり、化合物(2)のRがエチルであるケースがある。化合物(1)のRがエチルであり、化合物(2)のRがプロピルであるケースもある。このルールは、R、A、Z、X、Yなどの記号についても適用する。
【0048】
好ましいRは炭素数1〜10のアルキル、または炭素数2〜10のアルケニルである。好ましいRは炭素数1〜10のアルキル、または炭素数1〜10のアルコキシである。好ましいRは炭素数1〜10のアルキル、または炭素数2〜10のアルコキシメチルである。好ましいRおよびRは炭素数1〜10のアルキルである。好ましいRは炭素数2〜10のアルケニルである。
【0049】
好ましいアルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、またはオクチルである。粘度を小さくするためなどに、さらに好ましいアルキルは、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、またはヘプチルである。
【0050】
好ましいアルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、またはヘプチルオキシである。粘度を小さくするなどのために、さらに好ましいアルコキシは、メトキシまたはエトキシである。
【0051】
好ましいアルコキシメチルは、メトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、ブトキシメチル、またはペンチルオキシメチルである。粘度を小さくするためなどに、さらに好ましいアルコキシメチルはメトキシメチルである。
【0052】
好ましいアルケニルは、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、または5−ヘキセニルである。粘度を小さくするためなどに、さらに好ましいアルケニルは、ビニル、1−プロペニル、3−ブテニル、または3−ペンテニルである。これらのアルケニルにおける−CH=CH−の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。粘度などを小さくするためなどに、1−プロペニル、1−ブテニル、1−ペンテニル、1−キセニル、3−ペンテニル、3−ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはトランスが好ましい。粘度を小さくするためなどに、2−ブテニル、2−ペンテニル、2−ヘキセニルのようなアルケニルにおいてはシスが好ましい。
【0053】
これらのアルキル、アルコキシ、アルコキシメチルおよびアルケニルにおいては、化合物の粘度を考慮して、それぞれ直鎖状が好ましい。
【0054】
は、1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンである。Aは1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは2−フルオロ−1,4−フェニレンである。1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置は、化合物の液晶相を考慮すると、シスよりもトランスが好ましい。2−フルオロ−1,4−フェニレンのフルオロ基は、環の右側に位置してもよいし、または左側に位置してもよい。好ましい位置は、化合物(4−4)のように、右側である。
【0055】
は単結合または−COO−である。−COO−の結合基は、化合物(4−1)の向きに位置している。
【0056】
第四に、成分化合物の具体的な例を示す。下記の好ましい化合物において、RおよびRは独立して炭素数1〜10のアルキルであり、Rは炭素数2〜10のアルケニルである。さらに好ましいアルキルおよびアルケニルは、すでに記載したとおりである。これらの好ましい化合物において1,4−シクロヘキシレンに関する立体配置は、化合物の液晶相を考慮すると、シスよりもトランスが好ましい。
【0057】
好ましい化合物(1)は、化合物(1−1)〜化合物(1−4)である。さらに好ましい化合物(1)は、製造コストを安くするために、化合物(1−1)および化合物(1−2)である。特に好ましい化合物(1)は、組成物の誘電率異方性を負に特に大きくするために、化合物(1−2)である。
【0058】
好ましい化合物(2)は、化合物(2−1)〜化合物(2−4)である。さらに好ましい化合物(2)は、製造コストを安くするために、化合物(2−1)および化合物(2−2)である。化合物(2−1)は、組成物の粘度を下げるために、特に好ましい。化合物(2−2)は、組成物の誘電率異方性を負に大きくするために、特に好ましい。
【0059】
好ましい化合物(3)は、化合物(3−1)〜化合物(3−5)である。さらに好ましい化合物(3)は、組成物の下限温度を下げるために、化合物(3−1)〜化合物(3−3)および化合物(3−5)である。特に好ましい化合物(3)は、組成物の粘度をさらに小さくするために、化合物(3−1)〜化合物(3−3)である。
【0060】
好ましい化合物(4)は、化合物(4−1)〜化合物(4−4)である。さらに好ましい化合物(4)は、組成物の下限温度を下げるために、化合物(4−1)、化合物(4−3)および化合物(4−4)である。特に好ましい化合物(4)は、組成物の粘度をさらに小さくするために、化合物(4−1)である。
【0061】
本発明の組成物に光学活性な化合物を混合する場合、好ましい光学活性な化合物は、式(7−1)〜式(7−4)である。
【0062】

【0063】
本発明の組成物に酸化防止剤を混合する場合、好ましい酸化防止剤は、式(8)である。

ここで、mは1〜9の整数である。好ましいmは、1、3、5、7、9である。さらに好ましいmは1および7である。mが1であるときの化合物は、揮発性が大きいので、大気中での加熱による比抵抗の低下を防止するときに有効である。mが7であるときの化合物は、揮発性が小さいので、素子を長時間使用しあと、室温だけではなく高い温度でも電圧保持率を大きくするときに有効である。
【0064】
第五に、成分化合物の合成法を説明する。これらの化合物は既知の方法によって合成できる。合成法を例示する。化合物(1−2)、化合物(2−1)および化合物(2−2)は、特表平2−503441号公報に記載された方法によって合成する。化合物(3−1)は、特開昭59−70624号公報に記載された方法によって合成する。化合物(4−3)は、特開昭58−219137号公報に記載された方法によって合成する。化合物(8)のmが1である化合物は、市販されている。例えば、Aldrich社から販売されている。化合物(8)のmが7である化合物は、米国特許3660505号明細書に記載された方法によって合成できる。
【0065】
合成法を記載しなかった化合物は、オーガニック・シンセシス(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、オーガニック・リアクションズ(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、新実験化学講座(丸善)などの成書に記載された方法によって合成できる。組成物は、このようにして得た化合物から公知の方法によって調製される。例えば、成分である化合物を混合し、加熱によって互いに溶解させる。
【0066】
最後に、組成物の用途を説明する。大部分の組成物は、−30℃以下の下限温度、100℃以上の上限温度、−6.5〜−2.0の誘電率異方性、そして0.05〜0.11の光学異方性を有する。成分化合物の割合を制御することによって、0.05〜0.18の光学異方性を有する組成物、さらには0.05〜0.20の光学異方性を有する組成物を調製してもよい。この組成物は、ネマチック相を有する組成物としての使用、光学活性な化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用が可能である。
【0067】
この組成物はAM素子への使用が可能である。さらにPM素子への使用も可能である。この組成物は、PC、TN、STN、ECB、OCB、IPSなどのモードを有する素子への使用も可能である。VAまたはIPSのモードを有する素子への使用は特に好ましい。これらの素子が反射型、透過型または半透過型であってもよい。透過型の素子への使用は好ましい。非結晶シリコン−TFT素子または多結晶シリコン−TFT素子への使用も可能である。この組成物をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematic curvilinear aligned phase)素子や、組成物中に三次元の網目状高分子を形成させたPD(polymer dispersed)素子、例えばPN(polymer network)素子にも使用できる。
【実施例】
【0068】
実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は下記の実施例によって限定されない。比較例および実施例における化合物は、下記の表4の定義に基づいて記号により表した。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は好ましい化合物の番号に対応する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶性化合物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)である。最後に、組成物の特性値をまとめた。
【0069】

【0070】
組成物は、液晶性化合物などの成分の重量を測定してから混合することによって調製される。したがって、成分の重量%を算出するのは容易である。しかし、組成物をガスクロマト分析することによって成分の割合を正確に算出するのは容易でない。補正係数が液晶性化合物の種類に依存するからである。幸いなことに補正係数はほぼ1である。さらに、成分化合物における1重量%の差異が組成物の特性に与える影響は小さい。したがって、本発明においてはガスクロマトグラフにおける成分ピークの面積比を成分化合物の重量%と見なすことができる。つまり、ガスクロマト分析の結果(ピークの面積比)は、補正することなしに液晶性化合物の重量%と等価であると考えてよいのである。
【0071】
試料が組成物のときはそのまま測定し、得られた値を記載した。試料が化合物のときは、15重量%の化合物および85重量%の母液晶を混合することによって試料を調製した。測定によって得られた値から外挿法によって化合物の特性値を算出した。外挿値=(試料の測定値−0.85×母液晶の測定値)/0.15。この割合でスメクチック相(または結晶)が25℃で析出するときは、化合物と母液晶の割合を10重量%:90重量%、5重量%:95重量%、1重量%:99重量%の順に変更した。この外挿法によって化合物に関する上限温度、光学異方性、粘度、および誘電率異方性の値を求めた。
【0072】
母液晶の組成は下記のとおりである。

【0073】
特性値の測定は下記の方法にしたがった。それらの多くは、日本電子機械工業会規格(Standard of Electric Industries Association of Japan)EIAJ・ED−2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法である。測定に用いたTNおよびVA素子には、TFTを取り付けなかった。
【0074】
ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
【0075】
ネマチック相の下限温度(T;℃):2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるVA素子にネマチック相を有する試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。そして、この素子を0℃、−10℃、−20℃および−30℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が−20℃ではネマチック相のままであり、−30℃では結晶(またはスメクチック相)に変化したとき、Tを≦−20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0076】
光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行った。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n‖は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n‖−n⊥、の式から計算した。
【0077】
誘電率異方性(Δε;25℃で測定):2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるVA素子にネマチック相を有する試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε‖)を測定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε‖−ε⊥、の式から計算した。
【0078】
誘電率異方性の周波数依存性(Δε−f:−20℃で測定):−20℃における誘電率異方性を上記の誘電率異方性の測定方法により求めた。但し、サイン波の周波数は100Hzと100kHzとし、そして、電圧を印加し、6秒後にε‖またはε⊥を測定した。100Hzで測定した誘電率異方性から100kHzで測定した誘電率異方性を引いた値を、誘電率異方性の周波数依存性とした。この値が0に近いほど、誘電率異方性の周波数依存性は小さい、すなわち、誘電率異方性の周波数依存性が優れると判断した。誘電率異方性の周波数依存性を「周波数依存性」と略すことがある。
【0079】
しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(70Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧−透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧である。
【0080】
しきい値電圧の温度依存性(Vth−T;V):20℃および70℃におけるしきい値電圧を上記のしきい値電圧の測定方法により求めた。20℃で測定したしきい値電圧から70℃で測定したしきい値電圧を引いた値を、しきい値電圧の温度依存性とした。この値が0に近いほど、しきい値電圧の温度依存性は小さい、すなわち、しきい値電圧の温度依存性が優れると判断した。しきい値電圧の温度依存性を「温度依存性」と略すことがある。
【0081】
電圧保持率(VHR;25℃と100℃で測定;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は4.5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線によって重合する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒の間測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。25℃で測定して得られた電圧保持率をVHR−1で表した。100℃で測定して得られた電圧保持率をVHR−2で表した。次に、このTN素子を100℃、250時間加熱した。これとは別に、このTN素子に紫外線(UV)を照射した。照射条件は、UV光源が超高圧水銀灯(ウシオ社製、USH−500D、500W)で、光源と素子の距離は20cmで、照射時間が20分間である。VHR−3は、加熱後の素子を25℃で測定して得られた電圧保持率である。VHR−4は、加熱後の素子を100℃で測定して得られた電圧保持率である。VHR−5は、UV照射後の素子を25℃で測定して得られた電圧保持率である。VHR−6は、UV照射後の素子を100℃で測定して得られた電圧保持率である。VHR−1およびVHR−2は、初期段階における評価に相当する。VHR−3およびVHR−4は、素子を長時間使用した後の評価に相当する。VHR−5およびVHR−6は、素子の耐光性評価に相当する。
【0082】
応答時間(τ;25℃で測定;ミリ秒):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。この素子に矩形波(70Hz、しきい値電圧の測定において透過率が100%になったときの電圧、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である。立下がり時間(τf:fall time)は、透過率100%から0%に変化するのに要した時間である。応答時間は、この立ち下がり時間とした。
【0083】
回転粘度(γ1;25℃で測定;mPa・s):測定はM. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995)に記載された方法に従った。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。この素子に10ボルトから20ボルトの範囲で1ボルト毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM. Imaiらの論文、40頁の計算式(8)から回転粘度の値を得た。この計算に必要な誘電率異方性は、上記誘電率異方性で測定した値を用いた。
【0084】
ガスクロマト分析:測定には島津製作所製のGC−14B型ガスクロマトグラフを用いた。キャリアーガスはヘリウム(2ml/分)である。試料気化室を280℃に、検出器(FID)を300℃に設定した。成分化合物の分離には、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm;固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。このカラムは、200℃で2分間保持したあと、5℃/分の割合で280℃まで昇温した。試料はアセトン溶液(0.1重量%)に調製したあと、その1μlを試料気化室に注入した。記録計は島津製作所製のC−R5A型Chromatopac、またはその同等品である。得られたガスクロマトグラムは、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積を示した。
【0085】
試料を希釈するための溶媒は、クロロホルム、ヘキサンなどを用いてもよい。成分化合物を分離するために、次のキャピラリカラムを用いてもよい。Agilent Technologies Inc.製のHP−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Restek Corporation製のRtx−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、SGE International Pty. Ltd製のBP−1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)。化合物ピークの重なりを防ぐ目的で島津製作所製のキャピラリーカラムCBP1−M50−025(長さ50m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いてもよい。ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は成分化合物の割合に相当する。成分化合物の重量%は各ピークの面積比と完全には同一ではない。しかし、本発明においては、これらのキャピラリカラムを用いるときは、成分化合物の重量%は各ピークの面積比と同一であると見なしてよい。成分化合物における補正係数に大きな差異がないからである。
【0086】
比較例1
特開平10−176167号公報に開示されていた組成物の中から、実施例1を選んだ。理由は、この組成物が本発明の化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)を含有し、上限温度が最も高いからである。この組成物の成分および特性は下記のとおりである。この組成物において、上限温度は低く、そしてしきい値電圧の温度依存性は大きい。
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 12%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 11%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 15%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 15%
3−HH−4 (3−1) 5%
3−HH−5 (3−1) 5%
3−HH−O1 (3−2) 6%
3−HH−O3 (3−2) 6%
3−HB−2 (3−4) 4%
3−HB−O1 (3−5) 4%
3−HHEH−3 (−) 5%
3−HHEH−5 (−) 6%
4−HHEH−3 (−) 6%
NI=91.3℃;T≦−30℃;Δn=0.076;Δε=−3.2;Vth−T=0.16V;VHR−1=99.0%.
【0087】
比較例2
特開2000−96055号公報に開示されていた組成物の中から、実施例4を選んだ。理由は、この組成物が本発明の化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)および化合物(4)を含有しているからである。この組成物の成分および特性は下記のとおりである。この組成物において、上限温度は低く、誘電率異方性が負に小さく、そしてしきい値電圧の温度依存性は大きい。
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 14%
2−HHB(2F,3F)−1 (2−1) 6.5%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 14%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 14%
3−HHEB(2F,3F)−O2 (−) 6%
3−HH−4 (3−1) 5%
3−HH−5 (3−1) 5%
3−HH−O1 (3−2) 10%
5−HH−O1 (3−2) 9%
5−HH−V (3−3) 4.5%
5−HB−3 (3−4) 10%
3−HHEBH−5 (4−1) 2%
NI=85.1℃;T≦−30℃;Δn=0.072;Δε=−2.5;Vth−T=0.30V;VHR−1=99.1%.
【0088】
比較例3
特開2001−354967号公報に開示されていた組成物の中から、実施例7を選んだ。理由は、この組成物が本発明の化合物(1)、化合物(2)、化合物(3)および化合物(4)を含有し、上限温度が最も高いからである。この組成物の成分および特性は下記のとおりである。この組成物において、上限温度は低く、そしてしきい値電圧の温度依存性は大きい。
3−HB(2F,3F)−O4 (1−2) 14%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 7%
5−HB(2F,3F)−O4 (1−2) 18%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 13%
2−HBB(2F,3F)−O2 (−) 12%
3−HBB(2F,3F)−O2 (−) 12%
3−HH−5 (3−1) 5%
3−HH−V1 (3−3) 8%
5−HH−V (3−3) 8%
3−HHEBH−3 (4−1) 3%
NI=80.6℃;T≦−30℃;Δn=0.101;Δε=−4.4;Vth−T=0.27V;VHR−1=99.0%.
【0089】
比較例4
特開2003−13065号公報に開示されていた組成物の中から、実施例16を選んだ。理由は、この組成物が本発明の化合物(1)、化合物(2)および化合物(3)を含有し、上限温度が最も高いからである。この組成物の成分および特性は下記のとおりである。この組成物において、上限温度は低く、誘電率異方性が負に小さく、そしてしきい値電圧の温度依存性は大きい。
3−HB(2F,3F)−O4 (1−2) 4%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 12%
5−HB(2F,3F)−O4 (1−2) 9%
1−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 12%
2−HBB(2F,3F)−O2 (−) 13%
3−HBB(2F,3F)−O2 (−) 13%
3−HH−5 (3−1) 6%
3−HH−V1 (3−3) 11%
5−HH−V (3−3) 12%
3−HH1OH−3 (−) 3%
4−HH1OH−3 (−) 3%
3−HBB−2 (−) 2%
NI=86.0℃;T≦−30℃;Δn=0.097;Δε=−3.2;Vth−T=0.16V;VHR−1=98.9%.
【0090】
実施例1
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 18%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 18%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 12%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 12%
3−HH−4 (3−1) 5%
3−HH−O1 (3−2) 7%
5−HH−V (3−3) 5%
3−HB−O2 (3−5) 3%
3−HHEBH−3 (4−1) 10%
3−HHEBH−5 (4−1) 10%
NI=106.5℃;T≦−30℃;Δn=0.086;Δε=−3.4;γ1=64.3mPa・s;Vth−T=0.09V;Δε−f=−0.53;VHR−1=99.2%.
【0091】
実施例2
5−HB(2F,3F)−1 (1−1) 3%
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 16%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 17%
3−HHB(2F,3F)−1 (2−1) 3%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 11%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 11%
3−HH−O1 (3−2) 7%
5−HH−V (3−3) 10%
5−HB−3 (3−4) 3%
3−HHEBH−3 (4−1) 7%
3−HHEBH−5 (4−1) 7%
1O1−HBBH−5 (4−3) 5%
NI=100.5℃;T≦−30℃;Δn=0.087;Δε=−3.3;γ1=84.6mPa・s;Vth−T=0.06V;Δε−f=−0.23;VHR−1=99.2%.
【0092】
実施例3
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 16%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 16%
V2−HB(2F,3F)−O2 (1−4) 4%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 10%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 12%
V2−HHB(2F,3F)−O2 (2−4) 4%
3−HH−4 (3−1) 5%
3−HH−V1 (3−3) 5%
5−HH−V (3−3) 10%
3−HHEBH−3 (4−1) 9%
3−HHEBH−5 (4−1) 9%
NI=111.3℃;T≦−30℃;Δn=0.087;Δε=−3.6;γ1=89.5mPa・s;Vth−T=0.08V;Δε−f=−0.77;VHR−1=99.0%.
【0093】
実施例4
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 18%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 18%
3−HHB(2F,3F)−1 (2−1) 3%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 10%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 10%
3−HH−4 (3−1) 5%
3−HH−O1 (3−2) 11%
3−HB−O2 (3−5) 3%
3−HHEBH−3 (4−1) 9%
3−HHEBH−5 (4−1) 9%
3−HB(F)BH−3 (4−4) 4%
NI=107.2℃;T≦−30℃;Δn=0.088;Δε=−3.5;γ1=93.9mPa・s;Vth−T=0.07V;Δε−f=−0.57;VHR−1=99.0%.
【0094】
実施例5
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 18%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 18%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 12%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 12%
3−HH−4 (3−1) 5%
3−HH−O1 (3−2) 7%
5−HH−V (3−3) 5%
3−HB−O2 (3−5) 3%
3−HHEBH−3 (4−1) 10%
3−HHEBH−5 (4−1) 10%
上記組成物に、化合物(8)のmが1である酸化防止剤を200ppm添加した。このときの組成物の特性は、次のとおりであった。NI=106.5℃;T≦−30℃;Δn=0.086;Δε=−3.4;γ1=64.3mPa・s;Vth−T=0.09V;Δε−f=−0.53;VHR−1=99.2%.
【0095】
実施例6
5−HB(2F,3F)−1 (1−1) 3%
3−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 16%
5−HB(2F,3F)−O2 (1−2) 17%
3−HHB(2F,3F)−1 (2−1) 3%
3−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 11%
5−HHB(2F,3F)−O2 (2−2) 11%
3−HH−O1 (3−2) 7%
5−HH−V (3−3) 10%
5−HB−3 (3−4) 3%
3−HHEBH−3 (4−1) 7%
3−HHEBH−5 (4−1) 7%
1O1−HBBH−5 (4−3) 5%
上記組成物に、化合物(8)のmが7である酸化防止剤を300ppm添加した。このときの組成物の特性は、次のとおりであった。NI=100.5℃;T≦−30℃;Δn=0.087;Δε=−3.3;γ1=84.6mPa・s;Vth−T=0.06V;Δε−f=−0.23;VHR−1=99.2%.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一成分として式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第三成分として式(3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第四成分として式(4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、実質的に第一成分、第二成分、第三成分および第四成分のみからなる、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、Rはアルキルまたはアルケニルであり;Rはアルキルまたはアルコキシであり;Rはアルキルまたはアルコキシメチルであり;Rはアルキルであり;Aは1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンであり;Aは1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレンまたは2−フルオロ−1,4−フェニレンであり;そしてZは単結合または−COO−である。
【請求項2】
液晶性化合物の全重量に基づいて、第一成分の割合が20〜50重量%の範囲であり、第二成分の割合が15〜40重量%の範囲であり、第三成分の割合が5〜35重量%の範囲であり、そして第四成分の割合が5〜30重量%の範囲である、請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
第一成分として式(1−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第二成分として式(2−1)および式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、第三成分として式(3−1)〜式(3−3)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第四成分として式(4−1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、実質的に第一成分、第二成分、第三成分および第四成分のみからなる、負の誘電率異方性を有する液晶組成物。

ここで、RおよびRは独立してアルキルであり;そしてRはアルケニルである。
【請求項4】
第二成分が式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である、請求項3に記載の液晶組成物。
【請求項5】
第二成分が式(2−1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および式(2−2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物である、請求項3に記載の液晶組成物。
【請求項6】
液晶性化合物の全重量に基づいて、第一成分の割合が20〜50重量%の範囲であり、第二成分の割合が15〜40重量%の範囲であり、第三成分の割合が5〜35重量%の範囲であり、そして第四成分の割合が5〜30重量%の範囲である、請求項3〜5のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項7】
酸化防止剤をさらに含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項8】
酸化防止剤が式(8)で表される化合物である、請求項7に記載の液晶組成物。

ここで、mは1〜9の整数である。
【請求項9】
液晶組成物の全重量に基づいて、酸化防止剤の割合が50〜600ppmの範囲である、請求項7または8に記載の液晶組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する液晶表示素子。

【公開番号】特開2007−23095(P2007−23095A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204329(P2005−204329)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】